特許第6338214号(P6338214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338214
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】インプラント体
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/02 20060101AFI20180528BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20180528BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   A61K6/02
   A61C8/00 Z
   A61L27/22
   A61L27/38
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-68212(P2014-68212)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189710(P2015-189710A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】510108858
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 美砂子
(72)【発明者】
【氏名】林 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】河村 玲
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/117793(WO,A1)
【文献】 特開2010−194118(JP,A)
【文献】 特表2005−533599(JP,A)
【文献】 特表2008−513094(JP,A)
【文献】 特表2012−509750(JP,A)
【文献】 特表2002−527139(JP,A)
【文献】 特表2009−509512(JP,A)
【文献】 Clinical Oral Implants Research,2013年,Vol.24,pp.468-474
【文献】 Japanese Dental Science Review,2013年,Vol.49,pp.14-26
【文献】 Journal of Prosthodontic Research,2012年,Vol.56,pp.229-248
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K6/00−6/10
A61C8/00−8/02
A61L27/00−27/60
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯槽骨の穿孔に挿入されて固定されるインプラント体であって、
前記インプラント体には、アバットメントが挿入固定される固定孔が貫通開口して形成されており、
前記インプラント体の外周部には、歯髄幹細胞、歯根膜幹細胞、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞、羊膜幹細胞及び臍帯血幹細胞の少なくとも何れか一つからなる幹細胞の培養上清、又は、歯のセメント質から抽出したタンパク質が付着され、
前記固定孔の内周部には、幹細胞を含む細胞が付着されている、
ことを特徴とするインプラント体。
【請求項2】
前記幹細胞を含む細胞は、膜遊走分取法により分取した幹細胞、SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD29陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、CD105陽性細胞、CD150陽性細胞、CXCR4陽性細胞、及びGCSF−R陽性細胞、のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載のインプラント体。
【請求項3】
前記膜遊走分取法により分取した幹細胞が、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性細胞、CD29陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、CD105陽性細胞、CD150陽性細胞、CXCR4陽性細胞、及びGCSF−R陽性細胞の何れかであることを特徴とする請求項2に記載のインプラント体。
【請求項4】
前記幹細胞を含む細胞は、細胞外基質とともに前記固定孔の内周部に付着されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のインプラント体。
【請求項5】
前記細胞外基質は、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項4に記載のインプラント体。
【請求項6】
前記幹細胞を含む細胞は、細胞遊走因子、細胞増殖因子及び神経栄養因子の少なくとも何れか一つを含む因子とともに前記固定孔の内周部に付着されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のインプラント体。
【請求項7】
前記細胞遊走因子が、SDF1、VEGF、GCSF、MMP3、Slit、SCF、及びGMCSFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項6に記載のインプラント体。
【請求項8】
前記細胞増殖因子が、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項6に記載のインプラント体。
【請求項9】
前記神経栄養因子が、GDNF、BDNF及びNGFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項6に記載のインプラント体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、永久歯の歯根欠損等の際に顎の骨に埋め込まれる歯科用のインプラント体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、歯の欠損部位に対しての補綴処置は主に義歯、ブリッジ、インプラントの3種類の治療方法がある。その中でもインプラント治療は、義歯およびブリッジに比べ、咬合力の回復が優れ、隣在歯の切削なしで行えるといった利点があり、上顎で95.5%、下顎で95.2%の高い5年成功率が報告されている(非特許文献1)
しかしながら、インプラント体は骨と直接的に結合し、歯根膜がないため、天然歯に比べ易感染性であり歯周病(インプラント周囲炎)に罹患しやすく、治療後のメンテナンスにより成功率が大きく作用される。また、従来歯根膜が有する緩圧作用がないため、インプラントと天然歯では咬合時における被圧変位量に差が生じ、インプラントと天然歯を補綴装置で連結することは推奨されていない。よって、補綴治療方針の選択の幅が狭められてしまうという欠点がある。さらに、インプラントの対合歯(咬み合う歯)が天然歯の場合、天然歯の歯根膜の受ける咬合力の負担が大きく、対合歯が咬合性外傷による歯周炎になりやすくなる。歯の平均寿命は現在57歳と言われ、超高齢社会である現在において、歯の欠損部を補うインプラント治療の予後の向上や補綴処置の選択肢の拡大に関与するインプラント体の開発は非常に重要である。よって、歯根膜を有するインプラント体の開発が急務である。
【0003】
現在、歯周組織再生の臨床では、機械的に上皮由来の細胞の侵入を防ぎ、結合組織由来の細胞の付着・再生を促すGTR法、幼若ブタ歯胚からの抽出物であり、アメロジェニンを主成分としたエナメルマトリックス蛋白によるセメント質誘導をおこすエムドゲイン法がとられている。GTR法は手技的に困難であり、術者による成否率の散らばりが大きい(非特許文献2)。エムドゲイン法は手技的には簡便であるものの、適応症の狭さ・術後の再生のコントロールの難しさ、さらに安全性は確立されているものの、ブタ由来であることへの抵抗感がある(非特許文献3)。また両手法ともに、以前よりも回復は確実にするものの、正常な状態とは遠いところまでしか再生しない。
【0004】
臨床研究段階あるいは全臨床の段階では細胞シートを骨欠損部に塗布し、補填剤と共に移植する方法が着目されている(非特許文献4)。
【0005】
これまで、歯周疾患においては、歯根膜幹細胞あるいはその培養上清あるいはbFGFを歯槽骨欠損部に添加することにより歯周組織が再生されることが報告されている(非特許文献5,6)。この細胞源としては歯根膜細胞、歯髄細胞の他に脂肪細胞も使われており、いずれも再生が確認されている(非特許文献7、8)。またコラーゲンシートにb-FGFやPTFβあるいは上清を使用し、再生にいたったとの報告もある (非特許文献6、9)。これらは細胞あるいはこれらの因子のもつ遊走能や増殖能、血管新生能などのTrophic効果に着目したものであり、宿主の歯根や歯周組織のもつ因子に注目した報告はない。さらに、臨床においては、重度の歯周疾患の場合、歯周外科手術を行う際には、根管内への炎症の波及を防止するため、抜髄し根管充填することが多く、根管内に幹細胞を移植することは全く前臨床、臨床とも行われていない。
【0006】
また、これまで、インプラント体と骨とのオッセオインテグレーションの向上やインプラント体周囲への歯周組織再生のためにインプラント体の表面処理や幹細胞の付着といった方法がとられている。表面処理として、炭素の除去や酸処理により骨芽細胞などの付着性の向上および機械的な性質の向上が報告されている(非特許文献10,11)。幹細胞を付着させる方法としては、前述した細胞シートや骨補填剤を足場とした歯周組織再生や付着の報告がされているが、正常な歯と同様なセメント質様組織と歯根膜様組織が再生する確率は10%と低く(非特許文献12)、歯根周囲の骨等の石灰化物形成量は不十分である(非特許文献13)。
【0007】
そして、内部に歯および歯周組織の恒常性維持に必要である歯髄を伴ったインプラント体の報告はなく、表面への付着因子として歯からの抽出因子や精製タンパクを添加した報告もない。
【0008】
そこで内部に歯髄を伴うことで、持続的なTrophic効果を獲得し、インプラント体表面に歯からの抽出因子をコーティングし、歯周組織の微小環境を再現し、歯周組織の再生・付着を伴ったインプラント体を作製するという着想に至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nevis M, et al. The successful application of osseointegrated implants to the posterior jaw: a long-term retrospective study. Int J Oral Maxillofac Implants. 8: 428-432, 1993.
【非特許文献2】Needleman I.G, et al. Guided tissue regeneration for periodontal infra-bony defects. Cochrane Database Syst Rev, CD001724, 2006.
【非特許文献3】Esposito M, Enamel matrix derivative (Emdogain(R)) for periodontal tissue regeneration in intrabonydefects. Cochrane Database Syst Rev, CD003875, 2009.
【非特許文献4】Tumanuma Y, et al. Comparison of different tissue-derived stem cell sheets for periodontal regeneration in a canine 1-wall defect model. Biomaterials, 32: 5819-5825, 2011.
【非特許文献5】Murakami S. Periodontal tissue regeneration by signaling molecule(s): what role does basic fibroblast growth factor (FGF-2) have in periodontal therapy Periodontology 2000, 56: 188-208, 2011.
【非特許文献6】Inukai T, et al. Novel application of stem cell-derived factors for periodontal regeneration. Biochem Biophys Res Commun, 430: 763-768, 2013.
【非特許文献7】Ishikawa I, et al. Cell sheet engineering and other novel cell-based approaches to periodontal regeneration. Periodontology2000, 51: 220-238, 2009.
【非特許文献8】Broccaioli E, et al.Mesenchymal stem cell from Bichat’s fat pad: in vitro comparison with adipose-derived stem cells from subcutaneous tissue. BioReseach Open Access, 2(2): 107-117, 2013.
【非特許文献9】Taba M, et al. Current concepts in periodontal bioengineering. OrthodCraniofac Res, 8(4):292-302,2005
【非特許文献10】Aita H, et al. The effect of ultraviolet functionalization of titanium on integration with bone. Biomaterials, 30:1015-1025, 2009
【非特許文献11】Le Gu´ehennecL, et al. Surface treatment of titanium dental implants for rapid osseointegration. Dental Materials, 23(7), 844-854, 2007.
【非特許文献12】Lin Y, et al. Bioengineered periodontal tissue formed on titanium dental implants. J Dent Res, 90(2): 251-256, 2011.
【非特許文献13】Wei F, et al. Functional tooth restoration by allogeneic mesenchymal stem cell-based bio-root regeneration in swine. Stem Cells Develop. 22: 1752-1762, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、インプラント治療における問題点であるインプラント周囲炎を軽減させ、緩圧作用付与による咬合負担の軽減により、予後を大幅に向上させるインプラント体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるインプラント体は、歯槽骨の穿孔に挿入されて固定されるインプラント体であって、前記インプラント体には、アバットメントが挿入固定される固定孔が貫通開口して形成されており、前記インプラント体の外周部には、歯髄幹細胞、歯根膜幹細胞、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞、羊膜幹細胞及び臍帯血幹細胞の少なくとも何れか一つからなる幹細胞の培養上清又は歯のセメント質から抽出したタンパク質が付着され、前記固定孔の内周部には、幹細胞を含む細胞が付着されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インプラント治療の予後を大幅に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】NIH3T3に対し、歯髄、骨髄、脂肪CD31-SP細胞培養上清5μg/mlを添加した時の増殖活性能の差を説明する図である。
図1B】NIH3T3に対し、歯髄、骨髄、脂肪CD31-SP細胞培養上清5μg/mlを添加した時の遊走能の差を説明する図である。
図1C】NIH3T3に対し、歯髄、骨髄、脂肪CD31-SP細胞培養上清5μg/mlを添加した時の血管分化促進能を説明する図である。(a)は無添加であり、(b)は歯髄、(c)は骨髄、(d)は脂肪CD31-SP細胞培養上清を添加している。
図1D】TGW cellsに対し、歯髄、骨髄、脂肪CD31-SP細胞培養上清5μg/mlを添加した時の神経突起伸長能を説明する図である。(a)は無添加であり、(b)は歯髄、(c)は骨髄、(d)は脂肪CD31-SP細胞培養上清を添加している。
図2】歯髄CD31-SP細胞をコラーゲンとともに、湿潤下でオートクレーブをかけたブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の根管内を示す図である。
図3】コラーゲンのみをブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の根管内を示す図である。
図4】(a)歯髄、(b)骨髄、(c)脂肪CD31-SP細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の根管内を示す図である。
図5】歯髄CD31-SP細胞培養上清をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の根管内を示す図である。
図6】歯髄CD31-SP細胞をコラーゲンとともに、湿潤下でオートクレーブをかけたブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の歯根周囲を示す図である。
図7】コラーゲンのみを、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の歯根周囲を示す図である。
図8】歯髄CD31-SP細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の歯根周囲を示す図である。(a)を拡大したものが(b)である。
図9】歯髄CD31-SP細胞培養上清をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の歯根周囲を示す図である。(a)を拡大したものが(b)である。
図10】歯髄幹細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の根管内を示す図である。(a)は膜分取した細胞を、(b)は未分取の細胞を移植した図である。
図11】骨髄幹細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の根管内を示す図である。(a)は膜分取した細胞を、(b)は未分取の細胞を移植した図である。
図12】脂肪幹細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の根管内を示す図である。(a)は膜分取した細胞を、(b)は未分取の細胞を移植した図である。
図13】歯髄幹細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の歯根周囲を示す図である。(a)は膜分取した細胞を、(b)は未分取の細胞を移植した図である。
図14】骨髄幹細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の歯根周囲を示す図である。(a)は膜分取した細胞を、(b)は未分取の細胞を移植した図である。
図15】脂肪幹細胞をコラーゲンとともに、ブタ歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の歯根周囲を示す図である。(a)は膜分取した細胞を、(b)は未分取の細胞を移植した図である。
図16】(a)iPS、(b)膜分取歯髄細胞、(c)未分取歯髄細胞をコラーゲンとともに、ヒト歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して21日後の根管内を示す図である。
図17】(a)iPS、(b)膜分取歯髄細胞、(c)未分取歯髄細胞をコラーゲンとともに、ヒト歯根に注入し、SCIDマウス皮下に異所性に移植して21日後の歯根周囲を示す図である。
図18】(a)コラーゲンのみ、(c)膜分取歯髄細胞をコラーゲンとともに、イヌ抜去歯に注入し、イヌ顎堤に再植し28日後の根管内を示す図である。また、(b)は正常歯髄を示す。
図19】(c)コラーゲンのみ、(a)膜分取歯髄細胞をコラーゲンとともに、イヌ抜去歯に注入し、イヌ顎堤に再植し28日後の根管内を示す図である。また、(b)は正常歯髄を示す。
図20】(a)は、歯根を抜髄し、歯根膜を除去後、0.6Nの塩酸にて処理し、SCIDマウス異所性に移植して再生した歯根周囲の組織を示すものである。(b)は、0.6Nの塩酸処理後、4.0Mのグアニジン塩酸にて処理し、SCIDマウス異所性に移植して再生した歯根周囲の組織を示すものである。(c)は、4.0Mグアニジン塩酸処理後、0.5MのEDTAにて処理し、SCIDマウス異所性に移植して再生した歯根周囲の組織を示すものである。
図21】インプラント体内部および外表面に歯からのEDTA抽出蛋白質画分あるいは/および幹細胞上清蛋白質を付着させ、内部に幹細胞を注入し、移植した場合の歯周組織再生を示す模式図である。Aはインプラント体表面をPBSのみで処理したものである。Bはインプラント体表面に歯からのEDTA抽出蛋白質画分を凍結乾燥させたものである。Cはインプラント体表面に幹細胞上清蛋白質を凍結乾燥させたものである。Dはインプラント体表面にEDTA抽出蛋白質画分と幹細胞上清蛋白質を凍結乾燥させたものである。
図22】(a)ブタ不活化歯根(インプラント体)をネガティブコントロールとしてPBSのみで処理した後、歯髄幹細胞とコラーゲンを注入しSCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の状態を示す図である。(a)は根管内を、(b)は歯根周囲、(C)は(b)の拡大した図である。
図23】(a)ブタ不活化歯根(インプラント体)にEDTA抽出蛋白質画分を凍結乾燥させた後、歯髄幹細胞とコラーゲンを注入しSCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の状態を示す図である。(a)は根管内を、(b)は歯根周囲、(C)は(b)の拡大した図である。
図24】(a)ブタ不活化歯根(インプラント体)に歯髄幹細胞上清蛋白質を凍結乾燥させた後、歯髄幹細胞とコラーゲンを注入しSCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の状態を示す図である。(a)は根管内を、(b)は歯根周囲、(C)は(b)の拡大した図である。
図25】(a)ブタ不活化歯根(インプラント体)にEDTA抽出蛋白質画分と歯髄幹細胞上清蛋白質を凍結乾燥させた後、歯髄幹細胞とコラーゲンを注入しSCIDマウス皮下に異所性に移植して28日後の状態を示す図である。(a)は根管内を、(b)は歯根周囲、(C)は(b)の拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本実施形態にかかるインプラント体は、歯槽骨の穿孔に挿入されて固定されるインプラント体であり、このインプラント体には、インプラント体(人工歯根)と上部構造(被せ物)を連結させる土台の役割を果たす部分であるアバットメントが挿入固定される固定孔が貫通開口して形成されている。アバットメントには、固定孔と同軸のアバットメント貫通孔が形成されている。
【0016】
インプラント体は、下部(先端側)ほど外径が漸次小さくなるやや先細の略円柱形状にて形成されている。インプラント体は、外周に雄ねじ部が形成され、この雄ねじ部がインプラント体の軸方向に漸次形状を変化させて形成されている。雄ねじ部の先端側は、ねじ山に切削溝を設けたセルフタップねじ部であり、これによりインプラント体は歯槽骨の穿孔に直接ねじ込み固定が可能となる。
【0017】
なお、本実施形態では、インプラント体とアバットメントとが別体であるツーピースインプラント(two-piece implant)であるが、このような実施形態に限定されるものではなく、インプラント体とアバットメントとが一体となっているワンピースインプラント(one-piece implant)として構成することも可能である。
【0018】
インプラント体の外周部には、歯髄幹細胞、歯根膜幹細胞、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞、羊膜幹細胞及び臍帯血幹細胞の少なくとも何れか一つからなる幹細胞の培養上清又は歯のセメント質から抽出したタンパク質が付着される。歯根膜幹細胞上清は、特に限定されるものではないがヒト歯根膜幹細胞上清であることが好ましい。
【0019】
ヒト歯根膜は、例えば矯正治療患者等から治療を目的として抜去した健全で完全に萌出した小臼歯等より採取する。歯根膜を採取するときは、可及的に歯根膜以外の組織の混入を避けるために、歯肉が含まれる歯頚部と他の結合組織が含まれる根尖部を避けることが好ましい。剥離した組織片を組織培養プレートの各wellに5%ウシ胎児血清、アスコルビン酸および抗生物質を含む培地中に浮遊させて培養し、組織片から細胞が遊走して遊走細胞がコンフルエントに達するまで培養を続ける。その後、培養上清を集めて遠心分離操作を行い、上清を濃縮して使用することが好ましい。
【0020】
歯のセメント質から抽出したタンパク質は、特に限定されるものではないが、例えば歯胚より抽出されたエナメルマトリックスタンパクを主成分とするタンパク質等である。歯のセメント質から抽出したタンパク質とは、例えば、アメロジェニン、エナメリン、シースリン、エナメリシン、カリクレイン-4等である。アメロジェニンは、エナメルマトリックスタンパク質の約90%を占めるプロリンに富むタンパク質であり、細胞接着能を有し骨芽細胞やセメント芽細胞の分化に関与する性質を有する。エナメリンは、歯のエナメル質に見られるタンパク質の一種であり、ameloproteases-Iとして知られている。シースリン(アメロブラスチン)は、歯のエナメル質に存在する遺伝子特異的なタンパク質であり、エナメル芽細胞によって歯の発生時期に形成される。エナメリシン(Matrix Metalloproteinase 20)は、Zinc メタロプロテアーゼファミリーに属し、細胞から分泌される細胞外マトリックスの代謝を司る。カリクレイン-4(kallikrein-4)は、は血圧降下に関するタンパク質分解酵素の一種である。
【0021】
インプラント体に貫通開口して設けられている固定孔の内周部には、幹細胞を含む細胞が付着されている。固定孔の内周部に付着される幹細胞を含む細胞の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば2×10セル/μl以上1×10セル/μl以下とすることできる。
【0022】
幹細胞を含む細胞は、膜遊走分取法により分取した幹細胞、SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD29陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、CD105陽性細胞、CD150陽性細胞、CXCR4陽性細胞、及びGCSF−R陽性細胞、のうち少なくとも何れか一つが含まれる。
【0023】
膜遊走分取法により分取した幹細胞は、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性細胞、CD29陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、CD105陽性細胞、CD150陽性細胞、CXCR4陽性細胞、及びGCSF−R陽性細胞の何れかである。
【0024】
幹細胞を含む細胞は、細胞外基質とともに固定孔の内周部に付着されていることが好ましい。細胞外基質は、特に限定されるものではないが、コラーゲン、人工プロテオグリカン、ゼラチン、ハイドロゲル、フィブリン、フォスフォホリン、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、PLA、PLGA、PEG、PGA、PDLLA、PCL、ハイドロキシアパタイト、β−TCP、炭酸カルシウム、チタン及び金のうち少なくとも何れか一つを含む。
【0025】
また、幹細胞を含む細胞は、細胞遊走因子、細胞増殖因子及び神経栄養因子の少なくとも何れか一つを含む因子とともに前記固定孔の内周部に付着されていることが好ましい。細胞遊走因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の遊走に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。また、細胞増殖因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の増殖に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。そして、神経栄養因子とは、それが受容体に結合することによって細胞の生存に関わる信号伝達系が活性化する分子を意味する。
【0026】
細胞遊走因子は、SDF1、VEGF、GCSF、MMP3、Slit、SCF、及びGMCSFのうち少なくとも何れか一つである。細胞増殖因子は、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つである。神経栄養因子は、GDNF、BDNF及びNGFのうち少なくとも何れか一つである。
【0027】
本発明においては、インプラント体の外周部に歯根膜が再生され、これによりインプラント治療の予後を大幅に向上する。この理由としては必ずしも下記に示す理論に拘泥されるものではないが、例えば以下のように考えられる。即ち、インプラント体の外周部に付着された幹細胞上清又は歯のセメント質から抽出したタンパク質が、インプラント体の外周部に歯根膜再生を働きかける。例えば幹細胞上清がインプラント体の外周部に付着されている場合は、幹細胞上清に含まれるサイトカインのうち、G-CSF、SDF1、CXCL14、IL-8、MCP1、bFGF、VEGF、IGF等により、インプラント体周囲の間葉系幹細胞の遊走を起こす。更に、インプラント体の固定孔の内周部に幹細胞を含む細胞が付着されており、この幹細胞を含む細胞が産生・供給するサイトカインが、固定孔の下部からインプラント体の外周部付近に働きかける。これらの相乗作用により、インプラント体の外周部に歯根膜が再生される。その後、フィブロネクチン、ラミニン及び、歯のセメント質から抽出したタンパク質(例えばアメロジェニン)、I型、III型コラーゲン等の細胞接着タンパク質によるインプラント体表面への細胞の付着が起こる。なお、インプラント体の固定孔の内周部に付着された幹細胞を含む細胞により、インプラント体内部にて歯髄組織が再生するので、これによりインプラント治療の予後が良好となる。
【実施例】
【0028】
(実施例1〜歯根異所性移植モデルにおけるブタCD31-SP細胞移植による歯周組織再生)
(1−1.CD31-SP細胞分取、評価)
ブタの下顎より、歯髄細胞を酵素消化法により分離し、さらにCD31-SP細胞をフローサイトメトリーにより分取した。歯髄細胞中の歯髄CD31- SP細胞の含有率は0.8%であり、同一個体由来の骨髄および脂肪細胞中のCD31-SP細胞の含有率に比べ高かった(骨髄 0.3%, 脂肪 0.1%)。
【0029】
ブタ歯髄、骨髄および脂肪CD31- SP細胞の幹細胞マーカー発現率を継代3代目においてフローサイトメトリーにて分析した。表1に示すように、CD29, CD44, CD73, CD90, CD105, CXCR4, GCSF-Rの発現は陽性で、CD14, CD31, CD133の発現が0.2%以下で陰性であった。CD146, CD150, CD271はそれぞれ0.5%, 2.8%および1.4%で低い発現率を示した。
【0030】
【表1】
【0031】
mRNA発現を比較すると、表2に示すように、幹細胞マーカーであるSox2、Tert、Bmi1、CXCR4、Stat3、Nanog、Oct4 mRNAは、歯髄CD31- SP細胞において、骨髄および脂肪CD31- SP細胞とほぼ同程度に発現していた。この結果により、これら3種の細胞集団が、同程度に幹細胞としての性質を有していることが示唆された。血管新生因子・神経栄養因子である、GM-CSF、MMP-3、VEGF、BDNF、GDNF、NGF、neuropeptide Yなどは、3種の細胞集団でいずれも発現していたが、歯髄において最も発現が高かった。
【0032】
【表2】
【0033】
in vitroにおいて、図1に示すように、歯髄CD31- SP細胞は、骨髄および脂肪CD31- SP細胞に比べ血管誘導能、神経誘導能および増殖能に差は見られなかったが、脂肪CD31- SP細胞に比べて高い遊走能を有していた。
【0034】
(1−2.各種幹細胞培養上清濃縮とその特徴化)
10%FBS含有DMEM下で、10cmディッシュに60〜70%にまで歯髄幹細胞を培養した。その後無血清培地に交換し、さらに24時間培養を行った。上清を回収し、3,000Kのフィルター(Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unit with an Ultracel-3 membrane (Millipore, Billerica, MA))にて遠心濃縮を行った。濃縮した培養上清をBradfordUltraTM(expedeon, Cambridge, UK)を用いて蛋白質濃度を測定し、5μg/mlの濃度に調整した。
【0035】
歯髄、骨髄、脂肪CD31- SP細胞の無血清状態での培養上清10mlを、CENTRIFUGAL filter unit (3,000 cut, Millipore)にて約100倍に濃縮した。タンパク量を最終濃度100ng/mlになるようにして、NIH3T3に対する増殖、遊走、抗アポトーシス効果を検討した。その結果、3種の細胞群の上清の増殖促進効果は有意差がみられなかったが、遊走および抗アポトーシスは、歯髄CD31- SP細胞は骨髄、脂肪に比べて、有意に促進効果がみられた。
【0036】
(1−3.歯根移植片作製と幹細胞あるいは幹細胞上清の移植)
ブタ前歯(下顎2番)を抜歯し、周囲に残存している歯根膜を手用器具にて除去した。歯根を幅6mmにカットして、それぞれの歯根内部から歯髄を抜き、根管の幅が2mmとなるまで拡大した。5%次亜塩素酸ナトリウムおよび3%過酸化水素水で交互洗浄後、生理食塩水にて洗浄し、3%EDTA水溶液に2分間浸漬し、化学的清掃を行った。また、この歯根移植片を湿潤下でオートクレーブ処理したものも作製した。この筒状の移植片の一端をリン酸亜鉛セメントで封鎖した。
【0037】
ブタ歯髄、骨髄、脂肪CD31- SP幹細胞を遠沈し、コラーゲンTE(新田ゼラチン)と混合して2×105cells/100μlとなるよう調整した。ピペットマンを用いて、各種幹細胞または幹細胞培養上清含有コラーゲン30〜40μlを内部に気泡が発生しないように注意しながらコラーゲンにて緊密に充填されるように移植片に注入した。その後、37℃保温器で15分間温めコラーゲンを硬化させた。その後、5週令のSCIDマウスをソムノペンチルにて麻酔し、腹部を切開、腹膜と剥離後、腹膜上に上記移植片を皮下に挿入し、セメント封鎖していない開放側が腹膜と接するように静置した。その後切開部を縫合し、28日後、移植片と周辺組織の評価を行った。
【0038】
異なるブタ4個体由来の歯髄、骨髄及び脂肪CD31-SP細胞を、各4本ずつの歯根に移植した。28日後、組織学的解析のために、計24本の歯根を採取した。5μmの厚さのパラフィン切片を作製し、HE染色後、形態学的観察を行った。150μmごとに計4枚の切片を撮影し、実体顕微鏡 (M205 FA, Leica)で画像を取り込み、根管内面積に対する再生組織の面積比を測定し、再生量の統計学的解析を行った。
【0039】
図4a〜cのように、根管内部に再生された組織を観察すると、いずれの細胞を移植した場合でも、28日後には、十分に組織化された血管系を有する歯髄様組織が再生されていた。しかしながら、図5a〜cのように、幹細胞上清のみでは歯髄再生量は有意に低く、図2のオートクレーブ後の歯根、図3のコラーゲン基質のみではほとんど歯髄は再生されなかった。
【0040】
図8a〜cのように、根管外部、歯根周囲に再生された組織を観察すると、いずれの細胞を移植した場合でも、28日後には、セメント質壁にはセメント芽細胞が付着し、歯根膜様の線維性組織および新生骨が観察された。28日における歯根膜再生量および骨再生量は歯髄CD31- SP細胞が最も高く、ついで脂肪、骨髄の順に有意差がみられた。しかしながら、図9a〜cのように、幹細胞上清のみでは歯根膜および骨再生量は有意に低く、図6のオートクレーブ後の歯根、図7の基質のみではほとんど再生されなかった。
【0041】
(実施例2〜歯根異所性移植モデルにおけるブタ膜分取幹細胞移植による歯周組織再生)
膜遊走分取法によりブタ歯髄、骨髄、脂肪から幹細胞を分取できるかを検討した。まず、1.5×104cells/100 μlのコロニー形成した歯髄幹細胞、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞を膜上部のセルカルチャー・インサート(Polycarbonate Membrane)(Costar Transwell(登録商標) Inserts、2×105ポア/cm2、ポアサイズ8 μm、Corning)に播種し、膜下部24 well plateに10%FBSを含むDMEM中にG-CSFを100ng/ml入れ、48時間後に培地交換してG-CSFを取り除いてさらに10%FBSを含むDMEM中で培養した。歯髄、骨髄、脂肪とも、星状で突起を有する細胞が付着し、分取効率はそれぞれ、17.5%、8.4%、22.5%であった。フローサイトメトリーでCD31- SP細胞を分取した場合と同様に、コロニーを形成し(コロニー形成率約80%)、増殖することが明らかとなった。膜分取幹細胞は未分取コロニー形成幹細胞に比べてコロニー形成率が高かった。
【0042】
ブタ歯髄、骨髄、脂肪膜分取細胞を5代継代後、フローサイトメトリーを用いて、幹細胞表面抗原マーカー陽性率を測定した。CD29、CD44、CD73、CD90は、ほぼ陽性で膜分取細胞と未分取細胞の間で差は認められなかった。表3で示すように、CD105、CXCR-4およびG-CSFRは未分取細胞と比較していずれの膜分取細胞も陽性率が高かった。よって、膜遊走分取法によって、骨髄、脂肪細胞から歯髄細胞と同様に幹細胞を分取できることが明らかとなった。
【0043】
【表3】
【0044】
ついで、Real time RT-PCRにて、5代継代した歯髄、骨髄、脂肪膜分取細胞とそれぞれの未分取細胞の幹細胞マーカーおよび血管新生・神経栄養因子のmRNA発現の解析を行った。膜分取細胞は、未分取細胞と比較して、Sox2及びCXCR4は未分取細胞に比べてそれぞれ、約2〜2.5倍、約3〜4倍高い発現がみられた。BDNFは約2.5〜6倍発現量が高く、VEGFは2〜2.5倍の発現を示した。血管誘導能及び神経誘導能とも、膜分取幹細胞でのみ検出された。
【0045】
ブタCD31-SP細胞の場合と同様に濃縮した培養上清を用いて、trophic効果を検討したところ、歯髄、骨髄、脂肪幹細胞とも未分取幹細胞に比べて増殖促進作用、遊走促進作用、血管内皮細胞分化促進作用、神経突起伸長促進作用及びアポトーシス抑制作用がみられた。
【0046】
ブタCD31-SP細胞の場合と同様にSCIDマウス皮下に異所性歯根移植を行ったところ、図10a、図11a、図12aのように、根管内部に再生された組織を観察すると、膜分取細胞を移植した場合でも、21日後には、図10b、図11b、図12bのように、未分取細胞に比べて歯髄が有意に再生されていた。
図13a、図14a、図15aのように、根管外部、歯根周囲に再生された組織を観察すると、いずれの膜分取細胞を移植した場合でも、21日後には、歯根膜および骨の再生が観察された。歯髄膜分取細胞が最も高く、ついで脂肪、骨髄の順であった。しかしながら、図13b、図14b、図15bのように、未分取幹細胞では歯根膜および骨再生量は低かった。
【0047】
(実施例3〜歯根異所性移植モデルにおけるヒト歯髄膜分取幹細胞移植による歯周組織再生)
ヒト歯髄から膜遊走分取法により幹細胞を分取した。まず、2.0×104cells/100 μlの未分取コロニー形成歯髄幹細胞をブタの場合と同様に膜上部のセルカルチャー・インサート(Polycarbonate Membrane)(Costar Transwell(登録商標) Inserts、2×105ポア/cm2、ポアサイズ8 μm、Corning)に播種し、膜下部24 well plateに10%FBSを含むDMEM中にG-CSFを100ng/ml入れた。48時間後に培地交換してG-CSFを取り除いてさらに10%FBSを含むDMEM中で培養した。ヒト歯髄膜分取細胞を6代継代後、フローサイトメトリーを用いて、幹細胞表面抗原マーカー陽性率を測定した。CD29、CD44、CD73、CD90、CD105は、ほぼ陽性で、CXCR-4およびG-CSFRは18%、59%であり、未分取歯髄幹細胞より有意に高かった。また、ヒト歯髄膜分取細胞は未分取と比べ、幹細胞マーカーおよび血管新生・神経栄養因子の発現が高く、血管誘導能、神経誘導能が高く、遊走、増殖、抗アポトーシス能が有意に高かった。さらに、歯髄膜分取細胞の培養上清のtrophic効果として、遊走促進作用、アポトーシス抑制作用が有意に高かった。
【0048】
ブタ膜分取細胞と同様に、SCIDマウス皮下に歯髄膜分取細胞を用いて異所性歯根移植を行ったところ、図16a及び図16cのようなiPS細胞や未分取歯髄細胞を移植した場合に比べて、図16bのように、歯髄が有意に再生され、また、図17bのように、歯根膜および骨の再生が図17a及び図17cに比べて有意にみられた。
【0049】
(実施例4〜歯根膜剥離、歯髄幹細胞根管内移植したイヌ再植歯モデルにおける歯周組織の再生)
イヌの抜去歯より上記のブタおよびヒトでの方法と同様に、膜遊走分離法にて歯髄幹細胞を分取し、DMEM中で培養した。
【0050】
イヌ前歯(上顎3番、下顎2番)を抜歯し、周囲に残存している歯根膜を手用器具にて除去した。それぞれの歯根内部より歯髄を抜き、ファイルにて#60まで拡大した。クロロホルム:メタノールを1:1で混和した混合液に抜去歯を6時間、室温で浸漬させ、70%エタノールに24時間浸漬し、生理食塩水にて4℃で保管した。上記処理歯を再植処置直前にスメアクリーンにて4分浸漬させた。
【0051】
イヌ被検体にソムノペンチル2.5mlにて静脈内注射後、処置部位に対してNo.15のメス刃で歯肉頂の1〜2mm外側より歯槽骨頂に向けて内斜切開を行った。処置部位を抜歯後、抜歯窩内を♯10ラウンドバーにて全周掻爬し歯根膜を除去した。移植歯を抜歯窩に戻せることを確認し、対側の歯と咬まないように歯冠部をタービンにて切削した。移植細胞2×105をコラーゲン(アテロコラーゲンインプラント、高研)40μlに溶かし、3μlのG-CSF(ノイトロジン)を混ぜ、生体外で、気泡が入らないように注意しながら、移植する歯の根管内にピペットにて注入した。歯冠部にスポンゼルを挿入し、グラスアイオノマーセメントおよびレジンで二重に封鎖した後、その移植する歯を37℃で20分温めて、コラーゲンを硬化させた。ついで、抜歯窩内を十分止血し、20μlのコラーゲンと1.5μlの G-CSFで満たした後、歯を抜歯窩に再植し、その再植歯と隣在歯をレジンにて固定した。移植1ヵ月後に、再植歯を周囲顎骨ごと摘出した。摘出試料をパラフィン切片にして薄切、HE染色した。
【0052】
図18cのように、歯根膜を剥離された歯根は、根管内に歯髄膜分取細胞を移植すると、1ヶ月後には根管内に歯髄再生がみられ、図19cのように歯根表面に歯根膜組織の再生がみられた。図19aのように、根管内にコラーゲンのみを移植しても、歯根表面に歯根膜再生はみられなかった。
【0053】
(実施例5〜表面蛋白質を抽出し、内部に歯髄膜分取幹細胞を移植した歯根の異所性移植モデルにおける歯周組織再生)
(5−1.移植歯根の作製)
ブタ抜去歯の歯冠部をタービンで落として歯根のみにし、歯根膜、歯髄を除去して、直径2mmまで拡大し、長さ6mmに分断した(処理歯根)。
【0054】
(5−2.歯根からの抽出蛋白質の作製)
処理歯根の歯根表面に付着している歯根膜を完全除去した。クロロホルム:メタノールを1:1で混和した液に抜去歯を6時間、室温で浸漬させた。処理歯を0.6N HClに4℃で一週間浸漬させた(処理歯根A)。処理歯根を4.0M グアニジン塩酸に4℃で一週間浸漬させた(処理歯根B)。その後、0.5M EDTAに4℃で一週間浸漬させ(処理歯根C)、セメント質から蛋白質を抽出した。
【0055】
(5−3.膜分取歯髄幹細胞の各処理歯根内部への注入)
ブタ歯髄幹細胞の遠沈後にコラーゲンを混ぜて2×105cells/100μlとなるように調整した後、30〜40μlをピペットマンにて、内部に気泡が発生しないように注意しながら、上記処理歯根に注入した。37℃保温器で15分間温めコラーゲンを硬化させた。コントロールとして、コラーゲンのみを注入した処理歯根を用いた。
【0056】
(5−4.SCIDマウス皮下への歯根異所性移植)
ソムノペンチルにて深麻酔下のSCIDマウス腹部を切開、腹膜と剥離し、腹膜上に3で作成した移植歯根を皮下に入れ、セメントで封鎖していない方が腹膜と接するように静置し、切開部を縫合した。28日後組織の評価を行った。
【0057】
移植28日後、図20a、bでは未処理の歯根を移植したものと再生した組織は変わらなかった。図20cのEDTA抽出後の歯根ではほとんど組織の再生が見られず、再生しても形態的に歯周組織とは言えなかった。
【0058】
(実施例6〜表面にEDTA抽出画分を付着させ、内部に歯髄膜分取幹細胞を注入した不活性化歯根移植による歯周組織再生)
(6−1.移植歯根の作製)
ブタ抜去歯の歯冠部をタービンで落として歯根のみにし、歯根膜、歯髄を除去して、直径2mmまで拡大し、長さ6mmに分断した(処理歯根)。オートクレーブにて湿潤下にて1時間処理して蛋白質を変性、不活性化させた。その後、クリーンベンチ内にて2mlコラーゲンに5分浸漬させ、処理歯根を取り出し1時間放置し乾燥させ、歯根表面にコラーゲンをコーティングさせた(移植歯根)。
【0059】
(6−2.歯根からの抽出蛋白質の作製)
処理歯根を粉砕し、0.6N HClに4℃で48時間浸漬させた。さらに4.0M グアニジン塩酸にて4℃で48時間浸漬させた。その後、0.5M EDTAにて4℃で48時間浸漬させ、そのEDTA抽出液を濃縮した(EDTA処理液)。
【0060】
(6−3.歯髄幹細胞上清ならびに歯根膜幹細胞上清の抽出)
ブタの歯よりの歯髄幹細胞、歯根膜幹細胞を、10%FBS含有DMEM下で、10cmディッシュに60〜70%にまで歯髄幹細胞を培養した。その後無血清培地に交換し、さらに24時間培養を行った。上清を回収し、3,000Kのフィルター(Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unit with an Ultracel-3 membrane (Millipore, Billerica, MA))にて遠心濃縮を行った。
【0061】
(6−4.移植歯根へのEDTA抽出蛋白質、歯髄幹細胞上清、歯根膜幹細胞上清付着)
移植歯根を1ml EDTA処理液に浸漬させ、凍結乾燥させた(図21B)。その後、根管をストッピングとレジンにて封鎖し、歯髄幹細胞上清に浸漬させ凍結乾燥したものを作製した(図21D)。また、歯根膜上清のみで凍結乾燥したものも作製した(図21C)。ネガティブコントロールとして、この移植歯根にPBSのみで凍結乾燥を行ったものも作製した(図21A)。ポジティブコントロールとして、不活性化していない正常歯根を用いた(図6参照)。
【0062】
(6−5.膜分取歯髄幹細胞の各移植歯根内部への注入)
歯髄幹細胞の遠沈後にコラーゲンを混ぜて2×105cells/100μlとなるように調整した後、30〜40μlをピペットマンにて、内部に気泡が発生しないように注意しながら、上記歯根に注入した。37℃保温器で15分間温めコラーゲンを硬化させた。コントロールとして、培養上清含有コラーゲンあるいはコラーゲンのみを注入した移植歯根を用いた。
【0063】
(6−6.SCIDマウス皮下への歯根異所性移植)
ソムノペンチルにて深麻酔下のSCIDマウス腹部を切開、腹膜と剥離し、腹膜上に4.で作成した移植歯根を皮下に入れ、セメントで封鎖していない方が腹膜と接するように静置し、切開部を縫合した。14、28日後組織の評価を行った。
【0064】
歯根を不活性化後PBSのみを吸着させて移植したものは、移植28日後には、図22aに示すように歯髄は再生せず、図22b, cに示すように歯根表面(C)に歯根膜(PDL)は再生しなかった。図23のEDTA抽出蛋白質のみ吸着させた不活性化歯根表面には、ほとんど組織の再生が見られず、再生しても形態的に歯髄あるいは歯周組織とは言えなかった(変更の可能性あり)。図24の歯髄幹細胞上清蛋白質のみを吸着させた不活性化歯根では、図22に比べ、図24aに示すように歯根内部の歯髄再生および図24b, cに示すように歯根表面の歯根膜再生に有意な増加が見られたが、歯根膜組織は疎であった。図25の不活性化した歯根にEDTA抽出蛋白質と歯髄幹細胞上清を吸着させたものでは、図24と比べ図25aに示すように歯髄再生量の増加と、図25bに示すように密な歯根膜、歯周組織の再生がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
インプラント治療に有益に利用される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図19
図20
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図25