(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記冷却ガス供給手段による前記ガス冷却室への前記冷却ガスの供給開始時における前記送風機の駆動電圧が、前記冷却ガス供給手段による前記冷却ガスの供給完了時における前記送風機の駆動電圧よりも低くなるよう制御を行う請求項1または2記載の熱処理装置。
一端が前記ガス冷却室内において前記被処理物に向けて延びるガス吹込口とされ、他端が前記被処理物を挟んで前記ガス吹込口に対向するように前記被処理物に向けて延びるガス排気口とされたガス循環路を備える請求項1〜4いずれか一項に記載の熱処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示に係る熱処理装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0012】
本実施形態に係る多室型熱処理装置(熱処理装置)は、
図1に示すように、中間搬送装置Hを介してガス冷却装置RG、ミスト冷却装置RM及び3つの加熱装置Kを合体させた装置である。なお、実際の多室型熱処理装置は中間搬送装置Hに接続された3つの加熱装置Kを備えているが、
図1では多室型熱処理装置の正面視においてガス冷却装置RGの中心と中間搬送装置Hの中心とにおける縦断面を示している関係で1つの加熱装置Kのみが示されている。また、この多室型熱処理装置は、
図1〜4に図示されていない構成要素として、真空ポンプ、各種配管、各種弁(バルブ)、各種昇降機構、操作盤及び制御装置等を備えている。
【0013】
中間搬送装置Hは、
図1及び
図2に示すように、搬送チャンバー1、ミスト冷却室昇降台2、複数の搬送レール3、三対のプッシャー機構4a,4b、5a,5b、6a,6b、3つの加熱室昇降台7a〜7c、拡張チャンバー8、区画扉9等を備えている。
【0014】
搬送チャンバー1は、ミスト冷却装置RMと3つの加熱装置Kとの間に設けられた容器である。この搬送チャンバー1の床部には、
図2に示すように、ミスト冷却室昇降台2を取り囲むように3つの加熱室昇降台7a〜7cが配置されている。このような搬送チャンバー1の内部空間及び後述する拡張チャンバー8の内部空間は、金属部品などの被処理物Xが移動する中間搬送室である。
【0015】
ミスト冷却室昇降台2は、ミスト冷却装置RMで被処理物Xを冷却する際に被処理物Xを載せる支持台であり、図示しない昇降機構により昇降する。すなわち、被処理物Xは、ミスト冷却室昇降台2上に載置された状態で上記昇降機構が作動することにより、中間搬送装置Hとミスト冷却室昇降台2との間を移動する。
【0016】
複数の搬送レール3は、図示するように、搬送チャンバー1の床部、ミスト冷却室昇降台2上、加熱室昇降台7a〜7c上及び拡張チャンバー8の床部に敷設されている。このような搬送レール3は、搬送チャンバー1及び拡張チャンバー8内で被処理物Xを移動させる際のガイド部材(案内部材)である。三対のプッシャー機構4a,4b、5a,5b、6a,6bは、搬送チャンバー1及び拡張チャンバー8内で被処理物Xを押圧する搬送アクチュエータである。
【0017】
すなわち、三対のプッシャー機構4a,4b、5a,5b、6a,6bのうち、同一直線状に配置された一対のプッシャー機構4a,4bは、ミスト冷却室昇降台2と加熱室昇降台7aとの間で被処理物Xを移動させる。一対のプッシャー機構4a,4bのうち、一方のプッシャー機構4aは、加熱室昇降台7aからミスト冷却室昇降台2に向けて被処理物Xを押圧し、他方のプッシャー機構4bは、ミスト冷却室昇降台2から加熱室昇降台7aに向けて被処理物Xを押圧する。
【0018】
同じく同一直線状に配置された一対のプッシャー機構5a,5bは、ミスト冷却室昇降台2と加熱室昇降台7bとの間で被処理物Xを移動させる。一対のプッシャー機構5a,5bのうち、一方のプッシャー機構5aは、加熱室昇降台7bからミスト冷却室昇降台2に向けて被処理物Xを押圧し、他方のプッシャー機構5bは、ミスト冷却室昇降台2から加熱室昇降台7bに向けて被処理物Xを押圧する。
【0019】
また、同じく同一直線状に配置された一対のプッシャー機構6a,6bは、ミスト冷却室昇降台2と加熱室昇降台7cとの間で被処理物Xを移動させる。すなわち、一対のプッシャー機構6a,6bのうち、一方のプッシャー機構6aは、加熱室昇降台7cからミスト冷却室昇降台2に向けて被処理物Xを押圧し、他方のプッシャー機構6bは、ミスト冷却室昇降台2から加熱室昇降台7cに向けて被処理物Xを押圧する。
【0020】
上述した複数の搬送レール3は、このような三対のプッシャー機構4a,4b、5a,5b,6a,6bを動力源とした被処理物Xの移動(搬送)に際して、被処理物Xが円滑に移動するように案内することに加え、三対のプッシャー機構4a,4b、5a,5b,6a,6bの先端に取り付けられた押圧部の移動をも案内する。
【0021】
3つの加熱室昇降台7a〜7cは、各加熱装置Kで被処理物Xを加熱処理する際に被処理物Xを載せる支持台であり、各加熱装置Kの直下に設けられている。このような加熱室昇降台7a〜7cは、図示しない昇降機構により昇降することにより、被処理物Xを中間搬送装置Hと各加熱装置Kとの間で移動させる。
【0022】
拡張チャンバー8は、搬送チャンバー1の側部に接続され、中間搬送装置Hとガス冷却装置RGとを接続するために便宜的に設けられた略箱型の拡張容器である。拡張チャンバー8の一端(一平面)は、搬送チャンバー1の側部に連通し、拡張チャンバー8の他端(一平面)には区画扉9が設けられている。このような拡張チャンバー8の床部には、被処理物Xの移動自在なように搬送レール3が敷設されている。
【0023】
区画扉9は、搬送チャンバー1及び拡張チャンバー8の内部空間である中間搬送室とガス冷却装置RGの内部空間であるガス冷却室とを区画する開閉扉であり、拡張チャンバー8の他端(一平面)に垂直姿勢で設けられている。すなわち、この区画扉9は、図示しない駆動機構によって上下動することによって、拡張チャンバー8の他端を開放あるいは遮蔽する。
【0024】
続いて、ガス冷却装置RGについて説明する。ガス冷却装置RGは、酸化剤を含む気体である冷却ガスYを用いて被処理物Xを冷却処理する冷却装置である。この冷却ガスYとしては、多室型熱処理装置の外部の空気(すなわち外気)を用いることができる。また、温度や湿度が調整された空気を用いることもできる。なお、本実施形態の多室型熱処理装置では、被処理物Xに対して酸化剤として働く酸素を含む混合ガス、つまり酸化剤を含む気体である空気の他、二酸化炭素等、を冷却ガスとして用いることも可能である。また、上記冷却ガスに混合される酸素の割合を適宜変更してもよい。
ただし、外気を冷却ガスYとして用いることによって、容易かつ安価に冷却ガスYを調達することができる。このようなガス冷却装置RGは、
図1に示すように、冷却チャンバー10(ガス冷却室)、循環チャンバー11、ガス冷却機12、送風機13、冷却ガス導入管14、第1制御弁15、排気ポンプ16、第2制御弁17及び給電装置18等を備えている。
【0025】
なお、これら複数の構成要素のうち、冷却チャンバー10(ガス冷却室)を除く循環チャンバー11、ガス冷却機12、送風機13、冷却ガス導入管14、第1制御弁15、排気ポンプ16、第2制御弁17及び給電装置18は、冷却チャンバー10内の被処理物Xに上方から冷却ガスを吹き付け、かつ、被処理物Xの冷却に寄与した冷却ガスを被処理物Xの下方から排気する冷却ガス流通機構を構成している。
【0026】
冷却チャンバー10は、丸みを帯びた略縦型円筒状つまり水平断面形状が略円形(円環形状)の容器であり、中間搬送室を構成する拡張チャンバー8に隣接して設けられている。この冷却チャンバー10の内部空間は、所定の冷却ガスを被処理物Xに吹付けることにより、被処理物Xに冷却処理を施すガス冷却室である。なお、冷却チャンバー10の形状は、500kPa以上の正圧の内圧に耐えられるように、圧力耐性の高い形状つまり丸みを帯びた略円筒形状に形成されている。
【0027】
また、この冷却チャンバー10は、拡張チャンバー8の一部を内部に取り込む状態、つまり区画扉9がガス冷却室内に側方から内部に突出する状態で拡張チャンバー8に接続されている。さらに、冷却チャンバー10において区画扉9に対向する位置には、ワーク出入口10aが設けられている。このワーク出入口10aは、外部とガス冷却室との間で被処理物Xを出し入れするための開口である。
【0028】
被処理物Xは、
図3に示すように、搬送台車10bに搭載された状態でワーク出入口10aから冷却チャンバー10内に収容される。搬送台車10bは、被処理物Xを所定高さに保持する載置台10cを備え、ワーク出入口10aに対して自在に進退可能である。すなわち、この搬送台車10bは、多室型熱処理装置が設置される建屋の床面上に敷設された台車用レールに沿って移動することにより、冷却チャンバー10に対する近接あるいは離間が自在になる。
【0029】
また、この搬送台車10bには、閉鎖板10dと出入用シリンダー機構10eが備えられている。閉鎖板10dは、被処理物Xを冷却チャンバー10内に収容した際にワーク出入口10aに当接して密閉する板状部材である。この閉鎖板10dは、ワーク出入口10aに当接した状態で例えばワーク出入口10aにボルト止めされることによりワーク出入口10aを密閉する。
【0030】
出入用シリンダー機構10eは、被処理物Xを冷却室(冷却チャンバー10)内と搬送チャンバー1(中間搬送室)内とに移動させる搬送機構である。すなわち、この出入用シリンダー機構10eは、載置台10c上の被処理物Xを押圧することにより中間搬送室内のミスト冷却室昇降台2上に移動させると共に、ミスト冷却室昇降台2上の被処理物Xに係合して引っ張ることにより中間搬送室内から載置台10c上に移動させるプッシャー兼プラー搬送機構である。
【0031】
ここで、
図2に示すように、搬送チャンバー1は、拡張チャンバー8の反対側に被処理物Xの出し入れを行うための開口を設けることが可能である。したがって、冷却チャンバー10に代えて、拡張チャンバー8の反対側にワーク出入口を設けても良い。なお、この場合には、冷却チャンバー10には出入用シリンダー機構10eと同様の機能を備えるプッシャー兼プラー搬送機構を固定配置し、搬送チャンバー1に設けたワーク出入口には専用の開閉扉を設け、また別途用意した搬送台車を用いて被処理物Xをワーク出入口から搬送チャンバー1(中間搬送室)に搬入してミスト冷却室昇降台2上に載置する。
【0032】
このように搬送チャンバー1にワーク出入口を設ける構成では、出入用シリンダー機構10eに相当する搬送機構を多室型熱処理装置に固定設置することが可能なので、多室型熱処理装置の使い勝手や耐久性を確保することが可能である。
【0033】
循環チャンバー11は、円形の一端(ガス吹込口11a)が略縦型円筒状の冷却チャンバー10の上部(上側)に開口し、また同じく円形の他端(ガス排気口11b)が被処理物Xを挟んでガス吹込口11aに対向するように冷却チャンバー10の下部(下側)に開口する。このような循環チャンバー11は、冷却チャンバー10、ガス冷却機12及び送風機13を全体として環状に接続する容器である。すなわち、冷却チャンバー10、循環チャンバー11、ガス冷却機12及び送風機13は、冷却ガスYがガス吹込口11aから下方に向かって流れるように、つまりガス排気口11bに向かって流れるように循環させるガス循環路Rを形成する。
【0034】
このようなガス循環路Rには、送風機13が作動することによって
図1に矢印で示すような冷却ガスYの時計回りの流動が発生する。また、上述したガス吹込口11aとガス排気口11bとの間には被処理物Xが配置される。ガス吹込口11aから下方に吹出された冷却ガスYは、被処理物Xに上方から吹付けられて、被処理物Xが冷却される。そして、被処理物Xの冷却に寄与した冷却ガスYは、被処理物Xの下方に流れ出てガス排気口11bに流れ込むことにより循環チャンバー11に回収される。
【0035】
ここで、ガス吹込口11aは、
図1に示すように、ガス冷却室内において被処理物Xの直上まで延びており、またガス排気口11bはガス冷却室内において被処理物Xの直下まで延びている。したがって、ガス吹込口11aから吹出した冷却ガスYは、ガス冷却室内に分散することなく、殆どが被処理物Xに吹付けられ、被処理物Xの冷却に寄与した冷却ガスYは、同様にガス冷却室内に分散することなく、殆どが循環チャンバー11に回収される。
【0036】
また、円形のガス吹込口11a及びガス排気口11bの略円形の冷却チャンバー10に対する水平方向の位置は、
図1及び
図2に示すように、同心ではなく互いの中心が変位している。すなわち、水平方向におけるガス吹込口11aの中心及びガス排気口11bの中心は同心であるが、ガス吹込口11aの中心及びガス排気口11bの中心は、冷却チャンバー10の中心よりもワーク出入口10a、つまり区画扉9の反対側に変位している。
【0037】
ここで、上述したように拡張チャンバー8は、区画扉9がガス冷却室内に側方から内部に突出する状態で冷却チャンバー10に接続されているが、冷却チャンバー10の圧力耐性を確保する。すなわち、拡張チャンバー8と冷却チャンバー10とは溶接接合によって接続されるが、区画扉9が冷却チャンバー10の側壁に近づけると溶接線が複雑になり、十分な溶接品質を確保することが困難となる。このような事情から、拡張チャンバー8は、区画扉9がガス冷却室内に側方から内部に突出する状態、つまり拡張チャンバー8の一部を取り込むような状態で冷却チャンバー10に接続されている。
【0038】
しかしながら、区画扉9がガス冷却室内に側方から突出している関係で、ガス吹込口11a及びガス排気口11bを冷却チャンバー10と同心に位置設定することができない。ここで、冷却チャンバー10をより大径つまり大型化することによってガス吹込口11a及びガス排気口11bを冷却チャンバー10と同心に位置設定することが可能であるが、この場合にはガス冷却室(冷却空間)の容積が増大して冷却効率が低下する。したがって、ガス吹込口11a及びガス排気口11bを冷却チャンバー10に対して変位させることにより、冷却チャンバー10を極力小径化している。
【0039】
ガス冷却機12は、上述したガス循環路Rにおいてガス排気口11bの下流側かつ送風機13の上流側に設けられ、ガス冷チャンバー12aと伝熱管12bとからなる熱交換器である。ガス冷チャンバー12aは、一端が循環チャンバー11に連通すると共に他端が送風機13に連通する筒状体である。伝熱管12bは、このようなガス冷チャンバー12a内に蛇行状態に設けられた金属管であり、内部に所定の液体冷媒が挿通される。このようなガス冷却機12は、循環チャンバー11の一端から他端に流通する冷却ガスYを伝熱管12b内の液体冷媒と熱交換させることにより冷却する。このガス冷却機12の下部には、ガス冷チャンバー12aの下部に溜ったドレン水を排出するための不図示のドレン排出機構が設置されている。
【0040】
ここで、冷却チャンバー10つまりガス冷却室から排気された冷却チャンバー10(ガス冷却室)において被処理物Xの冷却に寄与した冷却ガスYは、被処理物Xが保持する熱によって加熱される。ガス冷却機12は、このように加熱された冷却ガスYを例えば被処理物Xの冷却に供される前の温度(ガス吹込口11aから吹き出される冷却ガスYの温度)に冷却する。
【0041】
送風機13は、上述したガス循環路Rの途中部位つまりガス冷却機12の下流側に設けられ、ファンケーシング13a、ターボファン13b(ファン)及び水冷モータ13c(モータ)を備える。ファンケーシング13aは、一端がガス冷チャンバー12aの他端に連通し、他端が循環チャンバー11に連通する筒状体である。ターボファン13bは、このようなファンケーシング13a内に収容されている遠心ファンである。水冷モータ13cは、このようなターボファン13bを回転駆動する駆動部である。この水冷モータ13cは、
図1に示すように、水冷モータ13cに接続されるモータ軸13c1を有している。このような水冷モータ13cに給電装置18から給電されることによって回転動力が生成され、モータ軸13c1を介して回転動力がターボファン13bに伝達され、これによってターボファン13bが回転駆動される。
【0042】
図1及び
図4に示すように、ガス冷チャンバー12aは、横置きの略円筒形容器であり、ターボファン13bの回転軸は、ガス冷チャンバー12aの中心軸と同様に水平方向に設定されている。また、ターボファン13bの回転軸は、
図4に示すように、ガス冷チャンバー12aの中心軸から水平方向に所定寸法だけ変位した位置に設けられている。さらに、
図4に示すように、ガス冷チャンバー12a内には、ターボファン13bの上方の流路を絞ると共に流路を反時計方向に向かって滑らかに拡大させる案内板13dが設けられている。
【0043】
このような送風機13では、
図4に示すように、水冷モータ13cが作動してターボファン13bが反時計回りに回転することによって冷却ガスYが矢印で示すように流れる。すなわち、この送風機13では、ターボファン13bの回転軸の前方に位置するファンケーシング13aの一端から冷却ガスYが吸い込まれて反時計回りの方向に送り出され、さらに冷却ガスYが案内板13dで案内されることによってターボファン13bの回転軸に直交する方向に位置するファンケーシング13aの他端から送り出される。この結果、ガス循環路Rには、送風機13が作動することによって、
図1に矢印で示すような冷却ガスYの時計回りの流動が発生する。
【0044】
このように、ガス循環路Rは、循環チャンバー11の途中部位にガス冷チャンバー12aとファンケーシング13aとが介装されることによって形成されている。より詳細には、ガス循環路Rは、冷却ガスYの流れ方向においてガス冷チャンバー12aがファンケーシング13aよりも上流側に位置するように介装されることによって形成されている。また、このようなガス循環路Rを形成する循環チャンバー11には、ファンケーシング13aの下流側に送排気ポート11cが設けられている。
【0045】
冷却ガス導入管14は、送排気ポート11cに接続される配管であり、多室型熱処理装置の外部からガス循環路Rに、本実施形態では外気(すなわち冷却ガスY)を導入するための配管である。例えば、この冷却ガス導入管14の入口には、外気に含まれる異物を除去するための不図示のフィルタが設置されている。なお、上述のように、冷却ガスYとして外気ではなく温度や湿度が管理された空気や他の気体を用いる場合には、この気体を保持するリザーブタンクが冷却ガス導入管14に接続される。なお、リザーブタンクを設置する場合には、冷却ガスYをガス循環路Rに供給するときの本実施形態での供給圧力(本実施形態では大気圧)よりも十分に高い圧力で気体をリザーブタンクに充填しておくことが好ましい。これによって、短時間で気体をガス循環路Rに供給することが可能となる。このようにリザーブタンクに、高い圧力で気体を保持させる場合には、コンプレッサによって大気やドライヤー等で蒸気を除去した大気を充填させれば良い。なお、ここでの大気圧とは、本実施形態の多室型熱処理装置が設置される箇所における外気の圧力を意味している。
【0046】
第1制御弁15は、冷却ガスYの通過を許容/遮断する開閉弁である。すなわち、第1制御弁15が閉状態の場合、冷却ガス導入管14から送排気ポート11cへの冷却ガスYの供給は遮断され、第1制御弁15が開状態の場合には、冷却ガス導入管14から送排気ポート11cに冷却ガスYが供給される。これらの冷却ガス導入管14及び第1制御弁15は、循環チャンバー11を通じて冷却チャンバー10に冷却ガスYを供給する、本開示の冷却ガス供給手段に相当する。
【0047】
排気ポンプ16は、第2制御弁17を介して送排気ポート11cに接続されており、送排気ポート11cを介してガス循環路R内の冷却ガスYを外部に排気する。第2制御弁17は、送排気ポート11cから排気ポンプ16への冷却ガスYの流れを決定する開閉弁である。すなわち、第2制御弁17が閉状態の場合、送排気ポート11cから排気ポンプ16への冷却ガスYの流れ(排気)は遮断され、第2制御弁17が開状態の場合には、送排気ポート11cから排気ポンプ16への冷却ガスYの流れが許容される。これらの排気ポンプ16及び第2制御弁17は、循環チャンバー11を通じて冷却チャンバー10を真空引きする、本開示の排気装置に相当する。
【0048】
給電装置18は、制御装置Cの制御の下、送風機13の水冷モータ13cに対して電力を供給すし、水冷モータ13cと電気的に接続されている。この給電装置18は、水冷モータ13cへ印加される駆動電圧を調整可能とし、制御装置Cの制御の下、ガス循環路Rへの冷却ガスYの供給開始時に水冷モータ13cに印加される駆動電圧を、ガス循環路Rへの冷却ガスYの供給が完了した後に水冷モータ13cに印加される駆動電圧よりも低くする。
【0049】
続いて、ミスト冷却装置RMは、所定の冷却媒体のミストを用いて被処理物Xを冷却処理する装置であり、搬送チャンバー1の下方に設けられている。このミスト冷却装置RMは、上述したミスト冷却室昇降台2上に載置された状態でチャンバー内に収容された被処理物Xに対して、被処理物Xの周囲に設けられた複数のノズルから冷却媒体のミストを噴射することにより冷却(ミスト冷却)する。なお、このようなミスト冷却装置RMの内部空間はミスト冷却室であり、また冷却媒体は例えば水である。
【0050】
3つの加熱装置Kは、被処理物Xに加熱処理を施す装置であり、搬送チャンバー1の上方に設けられている。各加熱装置Kは、各々にチャンバー、複数の電気ヒータ及び真空ポンプ等を備えており、真空ポンプを用いることにより加熱室昇降台7a〜7c上に載置された状態でチャンバー内に収容された被処理物Xを所定の減圧雰囲気下に置き、減圧雰囲気下において被処理物Xの周囲に設けられた複数のヒータで被処理物Xを均一に加熱する。なお、各加熱装置Kの内部空間は各々に個別の加熱室である。
【0051】
また、本実施形態の多室型熱処理装置には、作業者が熱処理条件等の設定情報を入力する操作盤(図示略)と、上記設定情報及び予め記憶した制御プログラムに基づいて各プッシャー機構4a,4b、5a,5b,6a,6b、区画扉9、第1制御弁15、排気ポンプ16、第2制御弁17及び給電装置18等を制御する制御装置Cを電気的な構成要素として備えている。
【0052】
本実施形態の多室型熱処理装置において制御装置Cは、冷却チャンバー10に被処理物Xが搬入されるよりも前に排気ポンプ16及び第2制御弁17により冷却チャンバー10を真空引きさせる。また、制御装置Cは、冷却チャンバー10に被処理物Xが搬入されてから冷却ガス導入管14及び第1制御弁15に冷却ガスYを冷却チャンバー10に供給させる。このとき、制御装置Cは、冷却ガスYが冷却チャンバー10に供給されるよりも前に送風機13を起動させる。これによって、冷却ガスYが循環チャンバー11に供給されるときには、先に送風機13のターボファン13bが回転駆動されており、冷却ガスYが循環チャンバー11に供給されると同時に、ガス循環路Rに冷却ガスYの流れが形成される。このため、被処理物Xの冷却速度を向上させることができる。
【0053】
また、制御装置Cは、冷却ガス導入管14及び第1制御弁15による冷却チャンバー10への冷却ガスYの供給開始時における送風機13の駆動電圧が、冷却ガス導入管14及び第1制御弁15による冷却ガスYの供給完了時における送風機13の駆動電圧よりも低くなるよう制御を行う。これによって、ガス循環路Rが真空状態のときに水冷モータ13cを駆動しても、水冷モータ13cにて放電が生じることを防止することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る多室型熱処理装置は、上面視で加熱装置Kが搬送チャンバー1を挟んで3つ(複数)配置され、被処理物Xが搬送チャンバー1を経由して各々の加熱装置Kに収容される。また、本実施形態に係る多室型熱処理装置は、上面視で搬送チャンバー1に隣接して設けられる冷却チャンバー10を備えており、冷却チャンバー10にて被処理物Xを冷却することが可能とされている。
【0055】
次に、このように構成された多室型熱処理装置の動作、特にガス冷却装置RG(ガス冷却室)における被処理物Xの冷却動作について詳しく説明する。なお以下では、多室型熱処理装置による被処理物Xに対する熱処理の一例として、1つの加熱装置K(加熱室)及びガス冷却装置RG(ガス冷却室)を用いて被処理物Xに焼入れ処理を施す場合の動作について説明する。
【0056】
最初に、作業者は搬送台車10bを手動操作することにより被処理物Xを冷却チャンバー10(ガス冷却室)内に搬入する。そして、作業者は、閉鎖板10dをワーク出入口10aにボルト止めすることによりワーク出入口10aを密閉することにより準備作業を終了する。そして、作業者は、上記操作盤を手動操作することにより熱処理条件を設定し、さらに熱処理の開始を制御装置Cに指示する。
【0057】
この結果、制御装置Cは、搬送チャンバー1等に接続された真空ポンプと、ガス循環路Rに接続された排気ポンプ16を作動させてガス冷却室及び中間搬送室つまり冷却チャンバー10、拡張チャンバー8及び搬送チャンバー1内を所定の真空雰囲気とし、さらに出入用シリンダー機構10eを作動させることによって、冷却チャンバー10内の被処理物Xを搬送チャンバー1内のミスト冷却室昇降台2上に移動させる。そして、制御装置Cは、例えばプッシャー機構6aを作動させることによって被処理物Xを加熱室昇降台7c上に移動させ、さらに加熱室昇降台7cの直上に位置する加熱装置K(加熱室)に移動させて上記熱処理条件に沿った加熱処理を行わせる。
【0058】
そして、制御装置Cは、プッシャー機構6bを作動させることによって加熱処理が完了した被処理物Xを加熱室昇降台7c上からミスト冷却室昇降台2上に移動させ、さらに出入用シリンダー機構10eを作動させることによって、ミスト冷却室昇降台2上の被処理物Xを冷却チャンバー10内に移動させる。なお、この移動の際、制御装置Cは、区画扉9を上昇させることによって拡張チャンバー8と冷却チャンバー10とを連通状態とし、被処理物Xの冷却チャンバー10への移動が完了すると、区画扉9を降下させて拡張チャンバー8と冷却チャンバー10との連通状態を遮断させる。この結果、冷却チャンバー10(ガス冷却室)は中間搬送室から完全に隔離される。
【0059】
このように区画扉9を降下させて冷却チャンバー10を隔離するのに合わせて、制御装置Cは、給電装置18に駆動電圧を印加し、送風機13を起動させる。つまり、制御装置Cは、ガス循環路Rが真空引きされた状態で、送風機13を起動させる。なお、冷却チャンバー10が真空引きされた状態では、送風機13の水冷モータ13cの内部が真空状態となる。このため、水冷モータ13cに対して給電をすることによって、放電が生じる可能性がある。放電の生じ易さは、駆動電圧の高さに依存する。よって、本実施形態の多室型熱処理装置において、制御装置Cは、冷却ガス導入管14及び第1制御弁15による冷却チャンバー10への冷却ガスYの供給開始時における送風機13の駆動電圧が、冷却ガス導入管14及び第1制御弁15による冷却ガスYの供給完了時における送風機13の駆動電圧よりも低くなるよう制御を行う。そして、制御装置Cは、冷却ガスYの供給開始前における送風機13の駆動電圧も、冷却チャンバー10への冷却ガスYの供給開始時における送風機13の駆動電圧と同様に、冷却ガスYの供給完了時における送風機13の駆動電圧よりも低くなるように制御を行う。これによって、水冷モータ13cでの放電を抑制しつつ、送風機13を冷却ガスYの供給前に起動させることができる。
【0060】
また、より水冷モータ13cでの放電を抑制するために、冷却ガスYの冷却チャンバー10への供給が開始されてから送風機13に駆動電圧を印加しても良い。例えば、ガス循環路Rの圧力が20kPa〜50kPaとなってから、送風機13を起動させても良い。これによって、水冷モータ13cの内部に冷却ガスYが流れ込んでから送風機13への給電が行われるため、水冷モータ13cでの放電をより抑制することができる。ただし、このような場合には、水冷モータ13cへの冷却ガスYの流入を待ってから送風機13を起動する。このため、冷却ガスYの循環流を形成するまでの時間が長くなり、被処理物Xの冷却速度が、冷却ガスYの流入前から水冷モータ13cを起動させる場合と比較して僅かに遅延化する。
【0061】
続いて、制御装置Cは、第1制御弁15を閉状態から開状態に状態変更させると共に第2制御弁17を閉状態に設定することによって、送排気ポート11cからガス循環路R内への冷却ガスYの供給を開始させる。そして、制御装置Cは、ガス循環路R内に所定量の冷却ガスYが供給されると、第1制御弁15を開状態から閉状態に状態を変更させ、水冷モータ13cに印加される駆動電圧を上げさせて冷却ガスYを循環させ、伝熱管12bへの液体冷媒の供給を開始させることによって、被処理物Xを冷却させる。
【0062】
このようなガス冷却装置RGにおける被処理物Xの冷却処理において、被処理物Xがガス吹込口11aの直下かつガス排気口11bの直上に位置しているので、被処理物Xには直上から冷却ガスYが吹き付けられ、また冷却に寄与した冷却ガスYが直下から流れ出てガス排気口11bに流れ込む。
【0063】
すなわち、ガス吹込口11aから被処理物Xの直上に流れ出た冷却ガスYは、冷却チャンバー10(ガス冷却室)内において被処理物X以外の領域に殆ど拡散することなく、専ら被処理物Xの冷却に寄与して被処理物Xの直下から循環チャンバー11に排気される。したがって、このガス冷却装置RGによれば、冷却ガスYが有する冷熱の殆どが被処理物Xの冷却に利用されるので、効率的なガス冷却を実現することができる。
【0064】
ここで、このガス冷却装置RGでは、冷却チャンバー10(ガス冷却室)内において、ガス吹込口11aを被処理物Xの直上まで延び、かつ、ガス排気口11bを被処理物Xの直下まで延びることによって冷却効率を極力向上させた。しかしながら、ガス吹込口11aと被処理物Xとの距離及びガス排気口11bと被処理物Xとの距離を多少大きくしてもよい。例えば、ガス冷却装置RGで様々な大きさの被処理物Xを熱処理する場合には、被処理物Xの大きさの大小に応じてガス吹込口11aと被処理物Xとの距離及びガス排気口11bと被処理物Xとの距離をある程度確保する必要がある。
【0065】
このような冷却ガスYを用いた被処理物Xの冷却が完了すると、制御装置Cは、第2制御弁17を閉状態から開状態に状態変更させると共に排気ポンプ16を作動させることによって、送排気ポート11cからガス循環路R内の冷却ガスYを外部に排気する。これによって、ガス循環路R内及びガス冷却室内から冷却ガスYが排除されるので、閉鎖板10dをワーク出入口10aから乖離させてワーク出入口10aから外部に被処理物Xを搬出することができる。
【0066】
また、このガス冷却装置RGによれば、ガス循環路Rを設けることにより、被処理物Xの冷却に供されることによって加熱された冷却ガスYを冷却して被処理物Xの冷却に再利用するので、被処理物Xの冷却に供された冷却ガスYを廃棄する場合と比較して、冷却ガスYの使用量を大幅に削減することができる。
【0067】
以上のような本実施形態の多室型熱処理装置によれば、酸化剤を含む冷却ガスYによって被処理物Xを冷却する冷却チャンバー10を備えている。蒸気を用いたミスト冷却による被処理物の冷却においては、蒸気に酸化剤(酸素)が含まれているにも関わらず、被処理物の表層において粒界酸化が生じておらず、被処理物の耐性が低下していないことが確認されている。このため、本実施形態の多室型熱処理装置のように酸化剤を含む冷却ガスを用いた場合であっても、被処理物Xの表層に所望の耐性を満たせなくなるような粒界酸化を生じさせることなく、被処理物Xの冷却を行うことができる。したがって、本実施形態の多室型熱処理装置によれば、酸化剤を含む冷却ガスを用いて被処理物Xの冷却を行うことができ、被処理物Xに対する所望の熱処理を実現しつつ冷却ガスの選択の自由度を高めることが可能となる。
【0068】
なお、本実施形態の多室型熱処理装置では、被処理物Xに対して粒界酸化が生じないよう、予め実験によって運転条件(冷却ガスYの温度、流量、冷却時間)が定められている。ここで、粒界酸化とは、高温環境下において、金属の表面層の結晶粒界が酸素によって酸化され、結晶粒界に酸化物が付着する現象を言う。また、粒界酸化が発生することにより、金属表面の耐性が低下することも知られている。そこで、本開示の場合、制御装置Cには、熱処理を行う被処理物Xの種類や数ごと等に粒界酸化が起こらない運転条件が記憶されており、作業者が操作パネル等で被処理物Xの種類や数を入力すると、粒界酸化が生じない条件において運転を制御する。このような場合であっても、被処理物Xのごく表層が酸化されて被処理物Xの表面が着色することが考えられる。上記ごく表層の着色とは、被処理物の表層から深部に向かってオングストロームオーダーの範囲における着色を指す。一方、粒界酸化は、被処理物の表面の結晶の粒界が酸化される現象であり、被処理物の表面から深部方向に数十μmの範囲において発生する。粒界酸化が発生した場合は、被処理物に対して耐性の低下等の影響を及ぼすが、着色の場合は、ごく表層部分でしか発生しない為、本願で想定している金属部品などの被処理物Xに対しては影響を及ぼさない。したがって、本開示で発生する着色によって、被処理物Xの耐性は低下しない。
【0069】
また、被処理物Xの冷却速度が速いと粒界酸化の発生がより抑制されることが分かった。これは冷却初期で被処理物Xの酸化が始まり、冷えにくい部分では酸化が深くまで進むためと考えられる。これに対して、本実施形態の多室型熱処理装置では、冷却ガスYが冷却チャンバー10に供給されるよりも前に送風機13が起動される。これによって、冷却ガスYが循環チャンバー11に供給されるときには、先に送風機13のターボファン13bが回転駆動されており、冷却ガスYが循環チャンバー11に供給されると同時に、ガス循環路Rに冷却ガスYの流れが形成され、被処理物Xの冷却速度を向上させている。したがって、本実施形態の多室型熱処理装置によれば、より確実に被処理物Xの粒界酸化を抑制することが可能となる。また、冷却ガスYとして空気を使用する場合、空気のガス圧を大気圧よりも高くした場合には、冷却ガスYである空気の圧力が大気圧であるときよりも短時間で冷却ガスYが循環チャンバー11に供給され、被処理物Xの冷却速度を向上させることができ、被処理物Xの粒界酸化をより確実に抑制することが可能となる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0071】
例えば、
図5に示すように、送風機13が、モータ軸13c1とファンケーシング13aとの隙間に配置されるシール部20を備えても良い。このシール部20としては、例えば非接触のラビリンスシールを用いることができる。このようなシール部20を備えることによって、水冷モータ13cの内部が真空になることを抑制することができ、冷却ガスYが冷却チャンバー10に供給される前に送風機13を起動しても、放電が生じることを抑制することができる。
【0072】
さらに、
図6に示すように、制御装置Cの制御の下、水冷モータ13cに冷却ガスを供給する冷却ガス供給部21を備えても良い。このような冷却ガス供給部21によって冷却ガスYとしての空気が冷却チャンバー10に供給される前に水冷モータ13cに空気を予め供給しておくことができ、より確実に放電が生じることを抑制することができる。
【0073】
また、上記実施形態ではガス循環路Rを設けたが、本開示はこれに限定されない。ガス循環路Rを削除し、被処理物Xの冷却に供された冷却ガスを廃棄してもよい。
さらに、上記実施形態では加熱装置K(加熱室)を3つ設けたが、本開示はこれに限定されない。加熱装置K(加熱室)の個数は、1個または2個あるいは4個以上でもよい。
【0074】
また、上記実施形態においては、中間搬送装置H(拡張チャンバー8)を備える多室型熱処理装置に本開示を適用した例について説明した。しかしながら、本開示はこれに限定されず、中間搬送装置Hを備えない熱処理装置に適用することが可能である。例えば、加熱室とガス冷却室の2室のみの熱処理装置に本開示を適用し、ガス冷却室で使用する冷却ガスに酸化剤を含む冷却ガスを用いることも可能である。