【実施例1】
【0009】
図1は、本実施例における画像形成装置の概略断面図である。
図1において、画像形成装置としてのプリンタ1は、上位装置から受信した印刷動作信号を画像情報信号に変換する図示しない制御手段と、媒体2を積載して収容する給紙トレイ21と、給紙トレイ21から媒体2を1枚ずつ繰り出す搬送ローラ22と、搬送ローラ22が繰り出した媒体2を搬送する搬送ローラ対23と、画像情報信号に基づいて形成した静電潜像をトナー像に現像し、そのトナー像を媒体2に転写する画像形成ユニット10と、そのトナー像を媒体2に定着させる定着装置24とにより構成されており、媒体2に印刷するものである。
【0010】
なお、プリンタ1は、複数の画像形成ユニット10を配置してカラー画像を形成するものであってもよいが、説明の便宜上、本実施例においては単一の画像形成ユニット10を用いて単色の画像を形成するものとする。
画像形成手段としての画像形成ユニット10は、現像したトナー像を媒体2に転写するものであり、感光ドラム11と、帯電装置12と、露光装置13と、現像装置14と、転写装置15と、クリーニング装置16とにより構成されている。
【0011】
像担持体としての感光ドラム11は、帯電装置12により表面を帯電され、その表面に露光装置13により静電潜像が形成されるものである。
この感光ドラム11は、アルミニウムやステンレス鋼などからなる導電性支持体の外周に、電荷発生層と、電荷輸送層とを順次積層して形成されている。
電荷発生層は、電荷発生物質の微粒子をバインダ樹脂で結着させた分散層である。
電荷発生層の電荷発生物質には、各種有機顔料や染料などを用いることができ、例えば、無金属フタロシアニン、銅塩化インジウム、塩化ガリウム、錫、オキシチタニウム、亜鉛、バナジウムなどの金属、またはその酸化物および塩化物が配位したフタロシアニン類、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ、ポリアゾ類などのアゾ顔料等を用いることができる。
【0012】
電荷発生層のバインダ樹脂には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテルなどの各種バインダ樹脂を用いることができる。
【0013】
電荷輸送層は、電荷輸送物質およびバインダ樹脂を主成分として形成されている。
電荷輸送層の電荷輸送物質には、例えば、カルバゾール、インドール、イミダゾール、オキサゾール、ピラゾール、オキサジアゾール、ピラゾリン、チアジアゾールなどの複素環化合物、アニリン誘電体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘電体、スチルベン誘電体、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖若しくは側鎖に有する重合体などの電子供与性物質を用いることができる。
【0014】
電荷輸送層のバインダ樹脂には、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂、およびこれらの共重合体または部分的架橋降下物などを単独あるいは組み合わせて用いることができ、特にポリカーボネートが適している。なお、このバインダ樹脂には必要に応じて酸化防止剤、増感剤等の各種添加剤を含めるようにしてもよい。
【0015】
本実施例の画像形成ユニット10に備える感光ドラム11は、導電性支持体にはアルミニウム管の表面にアルマイト処理を行ったものを用いており、その導電性支持体の外周に電荷発生層および電荷輸送層を順次積層し、外径を30.0mmとして形成されている。電荷発生層は、電荷発生物質にはフタロシアニンを、バインダ樹脂にはポリビニルアセタール系樹脂を用いて形成されている。また、電荷輸送層は、電荷輸送物質にはヒドラゾン系化合物を、バインダ樹脂にはポリカーボネート系樹脂に酸化防止剤を添加したものを用いて形成されている。なお、電荷輸送層の膜厚は15μmとした。
【0016】
帯電装置12は、帯電ローラ19と、クリーニングローラ20とにより構成されている。
帯電部材としての帯電ローラ19は、感光ドラム11と当接するように配置され、感光ドラム11の表面を帯電させるものである。なお、帯電ローラ19は、感光ドラム11と近接させてもよい。
また、帯電ローラ19およびクリーニングローラ20の詳細については後述する。
【0017】
露光手段としての露光装置13は、図中矢印Aで示す感光ドラム11の回転方向における帯電装置12の下流側に配置され、例えば、LED(Light Emitting Diode)ヘッドなどの光源を備えており、画像情報信号に対応した光を感光ドラム11の表面に照射して露光し、露光した部分の帯電電位を小さくさせて静電潜像を形成する。
現像手段としての現像装置14は、図中矢印Aで示す感光ドラム11の回転方向における露光装置13の下流側に配置され、感光ドラム11の表面に形成された静電潜像をトナー像に現像するものであり、トナー17を収容するトナー収容部14aと、現像ローラ14bとにより構成されている。
【0018】
トナー収容部14aは、トナー17を収容しており、現像ローラ14bの表面にトナー17を均一に塗布してトナー層を形成させる。
現像ローラ14bは、感光ドラム11と当接または近接するように配置され、トナー収容部14aが表面に形成したトナー層により感光ドラム11の表面の静電潜像をトナー像に現像する。
この現像ローラ14bは、導電性支持体と、その外周に設けた導電層とにより構成されている。なお、導電層の表面は、必要に応じて表面処理やコーティングをしてもよい。
【0019】
また、現像ローラ14bの導電性支持体には、図示しない現像バイアス供給電源が接続されており、静電潜像をトナー像に現像する際に直流で−250Vが印加される。
本実施例の現像ローラ14bは、導電性支持体には快削鋼(SUM材)からなる金属製の軸体を、導電層には主成分としてのウレタンゴムに電子導電剤としてのカーボンブラック(ケッチェンブラック)を添加して抵抗調整を行ったものを用いている。また、導電層の表面にはイソシアネート化合物とカーボンブラック(アセチレンブラック)とを含む表面処理液を塗布した。
【0020】
現像剤としてのトナー17には、ベースとなるトナー粒子に外添剤を混合したものを用いることができる。
本実施例のトナー17は、非磁性一成分の負帯電重合トナーである。
このトナー17は、乳化重合法によって製造されたスチレンアクリル共重合樹脂と着色剤とワックスを混合して凝集させたトナー粒子に、外添剤としてシリカおよび酸化チタンの微粉末を加えて混合したものである。
【0021】
トナー粒子は、円形度が0.94〜0.98、粒径が5.5〜7.0μm程度のものである。
外添剤は、粒径が50〜200nm程度のものである。
転写装置15は、転写部材としての転写ローラを備え、感光ドラム11と当接するように配置され、感光ドラム11の表面に形成されたトナー像を媒体2に転写する。
本実施例の転写ローラは、快削鋼(SUM材)からなる金属製の軸体である導電性支持体と、ゴム発泡体である導電層とにより構成されている。
このゴム発泡体は、主成分としてエピクロルヒドリンゴムとアクリロニトリルブタジエンゴムとを混合し、エピクロルヒドリンゴムの配合比により抵抗調整を行ったものである。
【0022】
ゴム発泡体の発泡セル径は50〜300μmであり、ゴム発泡体の硬さはアスカーC硬度で35度程度である。
現像剤廃棄手段としてのクリーニング装置16は、図中矢印Aで示す感光ドラム11の回転方向における転写装置15の下流側に配置されており、転写装置15が転写しきれずに感光ドラム11の表面に残存するトナー17や感光ドラム11に付着した汚れを掻き落として廃棄する。
このクリーニング装置16は、クリーニングブレード16aと、廃棄トナー収容部16bとにより構成されている。
【0023】
クリーニングブレード16aは、支持体と、弾性体のブレード部材とにより構成されており、支持体にブレード部材の一端が固着され、ブレード部材の他端が感光ドラム11の表面に当接するように配置されており、感光ドラム11の表面に残存するトナー17や感光ドラム11に付着した汚れを掻き落とす。
このクリーニングブレード16aは、支持体がSECC(電気亜鉛メッキ鋼板)であり、ブレード部材がポリウレタン部材である。
廃棄トナー収容部16bは、クリーニングブレード16aが掻き落としたトナー17を収容する。
【0024】
なお、クリーニング装置16は、感光ドラム11の表面に付着したトナー17をほぼ回収することができる。一方、感光ドラム11の表面に付着した外添剤は、クリーニング装置16により回収されるものとすり抜けるものがある。クリーニング装置16をすり抜けた外添剤のうち、帯電装置12により正帯電したものや付着力の大きいものが帯電ローラ19に巻き上げられる。
給紙トレイ21は、画像形成ユニット10の下方に配置され、印刷前の媒体2を収納する。
搬送ローラ22は、給紙トレイ21に収納されている媒体2を1枚ずつ分離し、図中点線で示す媒体搬送路18に繰り出す。
【0025】
搬送ローラ対23は、媒体搬送路18の搬送ローラ22より下流側に配置され、搬送ローラ22から搬送された媒体2を画像形成ユニットに供給する。
定着装置24は、図中矢印Fで示す媒体搬送方向における画像形成ユニット10の下流側に配置され、媒体2に転写されたトナー像を加熱および加圧により媒体2に定着する。
制御手段は、CPU(Central Processing Unit)等の制御部およびメモリ等の記憶部により構成され、記憶部に格納された制御プログラム(ソフトウェア)に基づいて制御部により画像形成装置1全体の制御を行う。
【0026】
次に、帯電装置12について
図2に基づきながら説明する。
図2は、本実施例における帯電装置の概略断面図である。
図2において、帯電ローラ19は、導電性支持体19aと、その外周に設けた導電層19bとにより構成されている。
回転軸としての導電性支持体19aには、図示しない帯電バイアス供給電源が接続されており、直流電圧が印加される。
【0027】
導電層19bには、エピクロルヒドリンゴムとジエン系ゴムの混合物であるベースポリマーが用いられる。
ベースポリマーには、例えば、エピクロルヒドリンゴムを架橋させるためのチオウレア系の架橋剤および促進剤と、ジエン系ゴムを架橋させるための硫黄および含硫黄系架橋剤からなる少なくとも1種の架橋剤および含硫黄系促進剤とを併用し、含有させる。
さらにベースポリマーには、架橋助剤、導電剤、受酸剤、酸化防止剤、老化防止剤、加工助剤、充填剤、顔料、中和剤、気泡防止剤など、少なくとも1種の添加剤を含有させてもよい。
【0028】
エピクロルヒドリンゴムには、例えば、エピクロルヒドリン単独重合体(CO)、エピクロルヒドリンとエチレンオキサイドとの共重合体(ECO)、エピクロルヒドリンとアリルグリシジルエーテルとの共重合体(GCO)、エピクロルヒドリンとプロピレンオキサイドとの共重合体(GECO)、エピクロルヒドリンとプロピレンオキサイドとアリルグリシジルエーテルとの共重合体、エピクロルヒドリンとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとアリルグリシジルエーテルとの共重合体などの1種または2種以上を混合したものを用いる。なお、本実施例の導電層19bに用いるエピクロルヒドリンゴムは、ECOとした。
【0029】
ジエン系ゴムには、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴムなどの1種または2種以上を混合したものを用いる。なお、本実施例の導電層19bに用いるジエン系ゴムは、NBRを主成分とした。
【0030】
次に、帯電ローラ19の電気的特性について説明する。
導電層19bの抵抗値は、帯電電位のムラや帯電不良などの要因となる。一般に、導電層19bの抵抗値が大きすぎると、導電層19bの抵抗値のムラが導電層19bの表面における電荷の分布に影響しやすくなるため、感光ドラム11の表面における帯電電位のムラなどによる画像不良が発生する場合がある。一方、導電層19bの抵抗値が小さすぎると、感光ドラム11の表面の傷などにより電荷がリークしやすくなるため、帯電不良による画像不良が発生する場合がある。
【0031】
したがって、導電層19bの抵抗値には適正な範囲があり、10
6〜10
9Ωが好ましいとされている。
この適正な抵抗値の範囲を得るために、導電層19bは、イオン導電性の材料、イオン導電剤、カーボンブラックや金属性酸化物などを用いて形成されている。
導電層19bには、電子導電性の材料またはイオン導電性の材料のいずれも用いることが可能である。
【0032】
本実施例においては、導電層19bの抵抗値のムラが感光ドラム11の帯電電位のムラに影響しやすいこともあり、抵抗値のムラを抑制するために、抵抗値の安定性に欠く電子導電性の材料ではなくイオン導電性の材料を用いた。
よって、エピクロルヒドリンゴムには、イオン導電性を得るために、例えば、エチレンオキサイドを含むエピクロルヒドリンゴムにイオン導電剤、カーボンブラックや金属製酸化物などを添加し、導電層19bの抵抗値を調整可能とした。
また、ジエン系ゴムには、極性ゴムであるNBRを用いることにより導電層19bの抵抗値を調整可能とした。
【0033】
次に、帯電ローラ19の抵抗値の測定方法について説明する。
図3は、本実施例における帯電ローラの抵抗値測定の説明図である。
図3において、帯電ローラ19の抵抗値は、ハイレジスタンスメータ(アジレント・テクノロジー社製、4339B)である抵抗値測定器41と、幅が2.0mm、直径が6.0mmのSUS材からなるベアリング42を用いて測定する。
【0034】
測定方法としては、抵抗値測定器41の一方の端子を導電性支持体19aに接触させ、他方の端子であるベアリング42を導電層19bの表面に10gfの力で押し当てた状態で帯電ローラ19を回転させながら帯電ローラ19の抵抗値を測定する。
一般に、帯電ローラ19の抵抗値は、温度および湿度あるいは印加する電圧により変化する。そのため本実施例においては、温度20℃、湿度50%RHの環境下で、導電性支持体19a側に−500Vの直流電圧を印加して測定している。
【0035】
次に、帯電ローラ19の機械的特性について
図2に基づきながら説明する。
導電層19bの表面から放電し、導電層19bの表面と当接する感光ドラム11の表面を帯電させるためには、導電層19bの表面と感光ドラム11の表面との間に微小のギャップを形成し、パッシェンの法則に基づく放電に寄与する領域を確保する必要がある。
それゆえ、導電層19bの表面と感光ドラム11の表面との適切なニップ(当接状態)を得るために、導電層19bの硬さはアスカーC硬度で85度以下が好ましく、80度以下がより好ましい。
【0036】
図4は、本実施例における帯電ローラの導電層表面の説明図である。
図4に示すように、導電層19bの表面には、切削および研磨工程により
図2、3および4中の矢印Bで示す回転方向にテープ研磨により複数の溝(研磨目)が形成されており、所定の表面粗さとなっている。
導電層19bの表面粗さは、パッシェンの法則により、最大高さRy(JIS B 0601:1994に準拠)が1〜40μm程度の範囲であることが好ましく、特に3〜30μmの範囲がより好ましい。なお、この範囲は、印加する電圧や使用環境などにより異なる範囲となる。
【0037】
本実施例における表面粗さの測定は、表面粗さ測定機(小坂研究所社製、SE3500)および検出器(小坂研究所社製、PU−DJ2S)を使用し、JIS B 0601:1994に準拠して行った。
また、帯電ローラ19を回転させながら導電層19bの表面に紫外線(以下、UV)を照射し、導電層19bに含まれるジエン系ゴムの二重結合を酸化させ、保護膜としての酸化膜を形成させる。
このように、導電層19bの表面にUVを照射して酸化膜を形成させることにより、以下のような効果を得ることができる。
【0038】
第1に、導電層19bから低分子成分が析出する現象であるブルームまたはブリードをこの酸化膜により抑制することができるため、析出物による感光ドラム11の表面の汚染を防止することができる。
第2に、この酸化膜は感光ドラム11の表面に残留したトナー17やトナー17の外添剤が付着する量を軽減し、付着した場合であってもクリーニングローラ20により除去しやすくなる効果があるため、導電層19bの表面にトナー17などが広く薄く付着してしまうフィルミングを軽減することができる。
第3に、酸化膜により導電層19bとクリーニングローラ20との摩擦係数が小さくなるため、当接による摩耗を軽減することができる。
【0039】
さらに、例えば、UV照射時間を長くした場合、導電層19bの表面には、
図5に示すように複数の研磨目の谷に沿って小さな割れ目が生じる。
本実施例は、この小さな割れ目を利用したものである。
また、後述する試作例の帯電ローラ19においては、比較のため、UV照射を行う代わりに表面処理液に浸漬して乾燥させることによりコーティング膜を形成させているものもある。
なお、酸化膜ができることにより、導電層19bの表面抵抗が上昇する。
【0040】
図2の説明に戻り、クリーニングローラ20は、導電層19bの表面に当接または摺接するように配置されている。
つまり、クリーニングローラ20は、導電層19bの表面に対して従動回転させてもよく、周速差を設けてクリーニングローラ20の表面が帯電ローラ19の表面を摺接するように駆動させてもよい。
クリーニングローラ20が導電層19bの表面に摺接するように配置されている場合、クリーニングローラ20の帯電ローラ19に対する周速差は、小さいと導電層19bの表面のクリーニング性が弱く、大きいと導電層19bの表面が摩耗するとともに当接により付着物が擦り付けられフィルミングを起こすため、感光ドラム11の表面に付着したトナー17や外添剤が導電層19bの表面に付着する量によって適正な値に調整が必要である。
【0041】
なお、クリーニングローラ20の帯電ローラ19の周速に対する適正な周速比は、0.8〜1.25倍が好ましい。
本実施例のクリーニングローラ20は導電層19bの表面に摺接するように配置されており、クリーニングローラ20の帯電ローラ19の周速に対する周速比は、0.9倍となるように駆動させた。
また、本実施例のクリーニングローラ20は、外径が6mmの軸体と、軸体の外周に設けられた厚さ1.5mmのウレタンフォームとにより構成されており、外径を9mmとした。
【0042】
次に、上述した帯電ローラ19を備えたプリンタ1で印刷すると帯電電位のムラが発生し、印字品質が低下するため、印字品質の低下を抑制する目的で導電層19bの材料および導電層19bの表面処理を変更して試作した8種類の帯電ローラについて表1に基づいて
図3〜
図5を参照しながら説明する。
表1は、帯電ローラ19の試作例の内容と評価結果を示しており、試作例の内容として導電層19bの材料(ベースポリマー)であるエピクロルヒドリンゴムとジエン系ゴムの重量部の配合比、導電層19bの表面の処理方法および状態、ならびに評価結果として初期印刷の評価および連続印刷後の評価を示している。
なお、初期印刷および連続印刷後の評価の方法については後述する。
【0043】
【表1】
【0044】
まず、各試作例で共通となる帯電ローラ19の構成について説明する。
導電性支持体19aは、快削鋼(SUM材)からなる金属製の軸体を用い、外径を6mmとした。
導電層19bの材料は、エピクロルヒドリンとエチレンオキサイドとの共重合体(ECO)としたエピクロルヒドリンゴムを60重量部、NBRを主成分とした混合物からなるジエン系ゴムを40重量部、その他に架橋剤、架橋促進剤および受酸剤などの必要な添加剤を適量加えて調整したもので構成されている。
【0045】
この材料は、よく混練され、押出し成形機により外径が13mm、内径が5.5mmとしたチューブ形状に押出し成形され、150℃で3時間かけて蒸気加硫される。
蒸気加硫されたチューブ形状のものは、導電性支持体19aに圧入されてオーブンにより150℃で1時間焼成され、室温まで冷却される。
冷却されたチューブ形状のものは、外周面である表面が砥石により研磨され、研磨屑が取り除かれて表面が清掃された後、さらに仕上げ研磨として湿式のテープ研磨が行われ、外径が12mmとなるように表面が研磨されて導電層19bとなる。
【0046】
次に、試作例毎の帯電ローラ19の構成について説明する。
試作例1の帯電ローラ19では、UV照射により導電層19bの表面に酸化膜を形成させ、
図5に示すような複数の研磨目の谷に沿って小さな割れ目を生じさせる。つまり、導電層19bはUVが照射されることにより、表面に回転方向へ延伸する複数の割れ目が設けられる。
UV照射の条件は、メタルハライドランプを用いて行い、UV光源の出力を120W/cm、UV光源から導電層19bの表面までのUV照射距離を50mm、UV照射時間を20分間とした。
【0047】
また、この条件における割れ目の深さを求めた。
割れ目の深さの求め方は、まず、導電層19bの表面の面積5mm
2での割れ目の深さを測定する。次に、測定した割れ目のうち深いものを5つ選択する。この選択した5つの割れ目のうち、深さが最も小さい値のものを単位面積(mm
2)当たりの割れ目の深さの最小値(以下、割れ目の深さの最小値という)として求める。
この条件において、割れ目の深さの最小値は、80μmであった。
さらに、割れ目の開口部の大きさは、
図4中の矢印Dで示す軸方向の幅が最も広いところで80μm以下になり、
図4中の矢印Bで示す回転方向の長さが数十〜数百μmであった。
【0048】
試作例2の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点は導電層19bの配合比であり、エピクロルヒドリンゴムを80重量部、ジエン系ゴムを20重量部とした。また、割れ目の深さの最小値は、40μmであった。
試作例3の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点は導電層19bの配合比であり、エピクロルヒドリンゴムを40重量部、ジエン系ゴムを60重量部とした。また、割れ目の深さの最小値は、100μmであった。
試作例4の帯電ローラ19の構成について、試作例2と異なる点はUV照射距離を100mm、UV照射時間を15分間とした。また、割れ目の深さの最小値は、20μmであった。
【0049】
試作例5の帯電ローラ19の構成について、試作例3と異なる点はUV照射距離を20mm、UV照射時間を30分間とした。また、割れ目の深さの最小値は、160μmであった。
試作例6の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点は導電層19bの配合比であり、エピクロルヒドリンゴムを85重量部、ジエン系ゴムを15重量部とした。また、割れ目の深さの最小値は、30μmであった。
試作例7の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点は導電層19bの配合比であり、エピクロルヒドリンゴムを35重量部、ジエン系ゴムを65重量部とした。また、割れ目の深さの最小値は、120μmであった。
【0050】
試作例8の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点はUV照射時間であり、UV照射時間を10分間として短くすることにより割れ目の深さを小さくするようにしている。そのため、割れ目の深さの最小値は、15μmであった。
試作例9の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点はUV照射時間であり、試作例8よりもUV照射時間をさらに短く、5分間とすることにより導電層19bの表面に割れ目が生じないようにした。
【0051】
試作例10の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点は導電層19bの表面処理方法であり、テープ研磨により導電層19bの表面を研磨し、研磨屑の清掃後、UV照射を行わず、表面処理液に浸漬して乾燥させることによりコーティング膜を形成させている。
この表面処理液には、有機溶剤として酢酸エチルを100重量部、イソシアネート化合物としてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を20重量部として混合したものを用いた。
【0052】
表面処理方法は、表面処理液に帯電ローラ19を30秒浸漬させることにより導電層19bの表面にイソシアネート化合物と有機溶剤を付着させ、浸透させる。その後、帯電ローラ19を取り出して、オーブンにより120℃で1時間加熱乾燥させることにより有機溶剤を気化させ、イソシアネート化合物を導電層19bの表面に残留させて硬化する。これにより、導電層19bの表面にコーティング膜を形成させる。
この試作例10の帯電ローラ19は、導電層19bの表面にUV照射を行っていないため、割れ目が生じていない。
【0053】
試作例11の帯電ローラ19の構成について、試作例1と異なる点は試作例1における導電層19bのUV照射の処理に加えて、さらに試作例10の表面処理液に浸漬して乾燥させることでコーティング膜を形成させている。
これにより、試作例11は、導電層19bの表面に回転方向へ延伸する割れ目がある状態で、さらにコーティング膜を形成された状態となる。また、割れ目の深さの最小値は、60μmであった。
【0054】
上述した構成の作用について説明する。
プリンタ1を用いて各試作例の帯電ローラ19の効果を確認した。
試作例1〜11の帯電ローラ19をプリンタ1としてのカラーLEDプリンタ(沖データ社製、C711dn)に装着し、初期印刷の評価と連続印刷後の評価を行う。
まず、評価方法について説明する。
初期印刷の評価では、試作例1〜11のいずれかの帯電ローラ19を装着して最初の1枚目の印刷画像の不具合の有無を確認することで評価を行う。
連続印刷後の評価では、3000枚/日の印刷を10日間行い、合計30000枚を印刷した後の印刷画像の不具合の有無を確認して評価を行う。
【0055】
どちらの評価も、3つの環境で行い、温度を24±4℃、湿度を50±15%RHとした常温常湿、温度を28℃、湿度を85%RHとした高温高湿、温度を10℃、湿度を15%RHとした低温低湿の環境で行う。
評価する印刷パターンは、印刷濃度を5%Coverageとした画像、600dpi(dot per inch)の1by1画像(ハーフトーン画像)の2種類の印刷パターンとする。なお、Coverageとは、単位面積に対する印刷部分の面積の割合を示したものであり、例えば、ベタ画像では100%Coverageになる。また、ハーフトーン画像の場合、1by1画像では25%Coverageとなる。
【0056】
次に、印刷画像の評価結果について説明する。
表1に示すように、評価結果は、各環境、印刷パターンの印刷画像のうち、いずれかの印刷画像に不具合があったものを「×」、なかったものを「○」としている。
試作例1〜5の帯電ローラ19を用いた印刷画像においては、初期印刷の評価および連続印刷後の評価のうち、どの印刷画像も品質に問題がないことが確認できた。なお、この要因については後述する。
【0057】
試作例6の帯電ローラ19を用いた印刷画像においては、連続印刷後の印刷画像に縦スジおよび縦帯模様が発生した。
これは、エピクロルヒドリンゴムとジエン系ゴムの重量部の配合比において、ジエン系ゴムの比率を少なくしたことにより、帯電ローラ19の表面に形成されている保護膜としての酸化膜の機能が十分に得られず、クリーニングローラ20との当接により連続印刷時に導電層19bの表面が回転方向に削られてキズとなりやすいため、印刷画像に縦スジや縦帯模様が発生した。
【0058】
試作例7の帯電ローラ19を用いた印刷画像においては、低温低湿環境での初期印刷の印刷画像に濃度ムラが発生した。
これは、エピクロルヒドリンゴムとジエン系ゴムの重量部の配合比において、エピクロルヒドリンゴムの比率を少なくしたことにより、導電層19bの抵抗値を下げることが難しくなり、イオン導電性のため特に低温低湿環境で導電層19bの抵抗値が上昇し、初期印刷であっても感光ドラム11の表面を均一に帯電できずに帯電電位のムラが発生するため、印刷画像には濃度ムラが発生した。
なお、この試作例7においては初期画像の評価結果が不良であったため、連続印刷後の評価は行っていない。
【0059】
試作例8および9の帯電ローラ19を用いた印刷画像においては、連続印刷後の印刷画像に横スジ模様が発生した。
これは、クリーニングローラ20との摺接により導電層19bの表面の研磨目の山の先端が摩耗して表面粗度が低下すると同時に局所的に抵抗値の低い部分が発生し、導電層19bの抵抗値の均一性が失われることに起因する。
図6は、本実施例における導電層表面からの放電の説明図であり、
図6(a)は導電層19bの表面に割れ目が生じていない状態での放電の様子を示しており、
図6(b)は導電層19bの表面に割れ目が生じた状態での放電の様子を示している。
【0060】
図6(a)において、導電層19bの表面に存在する電荷を放電させて感光ドラム11の表面を帯電させるとき、導電層19bの表面と感光ドラム11の表面との距離が短いところから放電しやすいため、導電層19bの表面で図中点線矢印に示すように電荷が移動し、感光ドラム11の表面には局所的に放電されない部分または放電が弱い部分が生じる。
これにより、感光ドラム11の表面に帯電電位のムラが発生し、印刷画像に横スジ模様が発生した。
【0061】
一方、
図6(b)において、試作例1〜5の導電層19bの表面は、試作例8および9と同様にクリーニングローラ20との摺接により導電層19bの表面の研磨目の山の先端が摩耗して表面粗度が低下すると同時に局所的に抵抗値の低い部分が発生し、導電層19bの抵抗値の均一性が失われるが、導電層19bの表面に割れ目が生じていることにより、導電層19bの表面の図中矢印Dで示す軸方向に電荷が移動しにくいため、帯電電位のムラがなくなり、感光ドラム11の表面を均一に帯電できる。
【0062】
また、試作例8および9の帯電ローラ19を用いた印刷画像を比較すると、試作例8の方が試作例9よりも帯電ローラ19による印刷画像が良好であった。
これは、連続印刷後の評価では満足できる結果ではなかったが、試作例8の導電層19bの表面には割れ目が生じていることにより、印刷品質の低下を抑制する効果が確認できた。
【0063】
試作例10の帯電ローラ19を用いた印刷画像においては、連続印刷後の印刷画像に横スジ模様が発生した。
これは、導電層19bの表面に形成されたコーティング膜が、試作例1〜5のようにゴムがUV照射により酸化した表面と比較して硬いことにより、導電層19bの表面の摩耗が少ないため、クリーニングローラ20との当接により帯電ローラ19の表面にフィルミングを起こしてしまう。
これにより、導電層19bの表面に局所的に抵抗値が大きい部分ができてしまい、導電層19bの表面の抵抗値の均一性が失われ、試作例8および9と同様に印刷画像に横スジが発生した。
【0064】
試作例11の帯電ローラ19を用いた印刷画像においては、低温低湿環境における初期印刷の印刷画像に濃度ムラが発生した。
これは、UV照射により生じた導電層19bの表面の割れ目の部分にコーティング膜が形成され、表面処理を施した部分がより厚くなることにより、導電層19bの表面の抵抗値が上昇し、さらにイオン導電性であることから低温低湿環境で抵抗値が大きくなるため、印刷画像に濃度ムラが発生した。
なお、この試作例11においては、初期印刷の評価結果が不良であったため、連続印刷後の評価は行っていない。
【0065】
このように、導電層19bの表面からの深さが20μm以上の割れ目を単位面積当たり1個/mm
2以上設けることにより、感光ドラム11の表面を均一に帯電させるようにしたため、印刷品質の低下を抑制することができる。
なお、割れ目の深さの最小値は、20〜200μmが好ましい。
また、エピクロルヒドリンゴムとジエン系ゴムの配合比を80重量部:20重量部〜40重量部:60重量部、つまり、エピクロルヒドリンゴム100重量部に対してジエン系ゴムを25重量部以上、かつ、150重量部以下とした混合物から導電層19bを形成することにより、UV照射による導電層19bの表面の保護膜の機能低下および抵抗値の上昇による印刷品質の低下を抑制することができる。
【0066】
以上説明したように、本実施例では、帯電ローラの表面に割れ目を設けたことにより、感光ドラムの表面の帯電電位が均一になるようにしたため、印刷品質の低下を抑制することができるという効果が得られる。
なお、本実施例では、画像形成装置をプリンタとして説明したが、それに限られることなく、電子写真プロセスを用いたファクシミリ装置、複合装置などに適用することも可能である。