特許第6338375号(P6338375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6338375腸球菌病原体の新規の抗原、並びに治療法及び/又は予防法のためのワクチン成分としてのその使用
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  • 特許6338375-腸球菌病原体の新規の抗原、並びに治療法及び/又は予防法のためのワクチン成分としてのその使用 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338375
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】腸球菌病原体の新規の抗原、並びに治療法及び/又は予防法のためのワクチン成分としてのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20180528BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180528BHJP
   C07K 14/315 20060101ALN20180528BHJP
   C07K 14/195 20060101ALN20180528BHJP
   C07K 14/31 20060101ALN20180528BHJP
   C07K 14/33 20060101ALN20180528BHJP
   C07K 16/12 20060101ALN20180528BHJP
   G01N 33/15 20060101ALN20180528BHJP
   G01N 33/50 20060101ALN20180528BHJP
   G01N 33/53 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
   A61K39/395 R
   A61K39/02
   A61P31/04
   A61P1/00
   A61P13/02
   A61P7/00
   A61P9/00
   A61P17/00 101
   A61P11/00
   A61P43/00 121
   !C07K14/315ZNA
   !C07K14/195
   !C07K14/31
   !C07K14/33
   !C07K16/12
   !G01N33/15 Z
   !G01N33/50 Z
   !G01N33/53 D
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-537136(P2013-537136)
(86)(22)【出願日】2011年11月3日
(65)【公表番号】特表2014-505016(P2014-505016A)
(43)【公表日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】EP2011069363
(87)【国際公開番号】WO2012059556
(87)【国際公開日】20120510
【審査請求日】2014年10月20日
(31)【優先権主張番号】10190167.6
(32)【優先日】2010年11月5日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511268085
【氏名又は名称】ウニベルシタットスクリニクム フライベルク
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】ヒューブナー,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】グローマン,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】クロペク−ヒューブナー,アンドレア
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−089421(JP,A)
【文献】 特表2001−505534(JP,A)
【文献】 特表平09−509569(JP,A)
【文献】 特開平07−238024(JP,A)
【文献】 GenBank, 14-NOV-2006, ACCESSION AJ505823.1, [retrieved on 1.Dec.2015],URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/aj505823
【文献】 谷本弘一他、2007、モダンメディア、53(6)、140−147
【文献】 河村好章他、2005、モダンメディア、51(12)、313−327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−C12N 15/90
C07K 1/00−C07K 19/00
A61K 38/00−A61K 38/58
A61K 39/00−A61K 39/44
A61K 41/00−A61K 45/08
A61K 48/00
A61K 49/00−A61K 49/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の治療に使用される単離ペプチドと、薬学的に許容可能な担体、アジュバント及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物であって、
ここで、前記単離ペプチドが、
a)配列番号1に表されるアミノ酸配列からなるOrf13タンパク質に結合する抗体又はその断片
から選択される、医薬組成物。
【請求項2】
前記単離ペプチドが、チャネル形成成分である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗体又はその断片がscFV断片又はFab断片から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ワクチンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
少なくとも1つのサイトカインを更に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ワクチンが筋肉内経路、皮下経路又は吸入経路による投与のために配合される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
細菌感染症、腸球菌感染症、尿路感染症、菌血症、細菌性心内膜炎、腹膜炎、創傷感染症及び軟部組織感染症、髄膜炎、並びに肺炎から選択される細菌性疾患又は細菌性病態の予防的治療又は治療的治療のための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記細菌が腸球菌、ブドウ球菌又は連鎖球菌、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・フェカリス、スタフィロコッカス・アウレウス、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌若しくはストレプトコッカス・ピオゲネス、又はそれらの抗生物質耐性株から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗原、より具体的には治療法及び/又は予防法のためのワクチン成分として有用な腸球菌病原体のタンパク質抗原に関する。
【背景技術】
【0002】
腸球菌は入院患者の感染症に関連する最も重要な病原体の一つである。とりわけ、最も臨床的に関連する分離株における多抗生物質耐性決定因子(multiple antibiotic resistance determinants)の存在は、場合によっては治療不可能なこれらの感染症に対抗する代替的な治療戦略及び予防戦略の開発を促している。腸球菌はDNAを獲得し、水平に伝達する特異的機構を発現しており、これらの特性は病院内での多数の集団発生(outbreaks)の原因となる。
【0003】
細菌接合は、抗生物質耐性遺伝子の伝播を含む、細菌の環境条件の変化への適応を可能にする最も重要な遺伝子送達手段であり、それにより多抗生物質耐性病原体が発生する。エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)及びスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)等の多剤耐性病原体は、入院患者及び免疫抑制患者の抗生物質治療に対して深刻な脅威となっている(非特許文献1)。
【0004】
細菌接合系は、細菌性病原体から哺乳動物宿主へのタンパク質(例えば毒性因子、毒素)の輸送を専門とする特殊化したタイプのIV型分泌系(T4SS)である。接合性T4SSは、タンパク質に加えてDNA基質を細胞内輸送するよう進化している(非特許文献2、非特許文献1)。
【0005】
pIP501は、敗血症及び髄膜炎の原因物質である、ヒト病原体ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)から初めて単離された広宿主域接合性プラスミドである(非特許文献3)。pIP501は、糸状多細胞ストレプトミセス及びグラム陰性エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)にまで及ぶ、研究されているほぼ全てのグラム陽性菌を含むグラム陽性菌に由来する任意の既知の可動遺伝要素の接合性プラスミド導入について最も広い宿主域を示す(非特許文献4)。プラスミド導入には、15個の輸送タンパク質をコードする完全なT4SSを含む、プラスミドにコードされる15kbの導入領域が必要とされる。これらのタンパク質の幾つかは、酵素について幾らか詳しく特性化されており、例えばT4SS ATPアーゼOrf5及びOrf10はATPの加水分解によるDNA輸送過程のエネルギーを供給する。
【0006】
Orf7タンパク質は、グラム陽性エンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)及びグラム陰性エシェリヒア・コリ(E. coli)から単離された、ペプチドグリカンに対する切断活性を有する溶菌性トランスグリコシラーゼであることが実証されている。
【0007】
完全なタンパク質間相互作用図が、酵母ツーハイブリッドアッセイ及びプルダウンによって、15個のT4SSタンパク質について確立されている。これらのデータに基づいて、グラム陽性病原体に由来するT4SSの最初の分子モデルが開発された(非特許文献5)。
【0008】
T4SSタンパク質は、導入過程におけるそれらの機能に関してエネルギー供給ファミリー、チャネル成分ファミリー、及び推定表面タンパク質又は付着因子という3つのファミリーに分けることができる(非特許文献6)。Orf5及びOrf10はエネルギー成分ファミリーのメンバーであり、Orf15は表面タンパク質ファミリーの推定メンバーであり、溶菌性トランスグリコシラーゼOrf7及びOrf13はチャネル成分ファミリーに属する。
【0009】
Orf13については、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のT−DNA導入系のT4SSサブユニットVirB8及びVirB10について示されているように、膜から遠位に伸びるT4SSチャネルの一部に対する足場機能が提唱されている(非特許文献6)。Orf13は1つの予測膜貫通ヘリックスを有する(非特許文献7)。エンテロコッカス・フェカリスのJH2−2細胞画分中では、Orf13は抗Orf13抗体による免疫ブロット法を用いて細胞エンベロープに位置付けられた。他のT4SSタンパク質とのタンパク質間相互作用は同定することができなかった。
【0010】
特許文献1は、T4SSと相互作用するポリペプチド、特にリケッチア・シビリカ(Rickettsia sibirica)rsib_orf.1266ポリペプチドをコードする単離核酸を記載している。
【0011】
腸球菌によって引き起こされる感染症が世界的にますます重大な問題となっているため、これらの病原体に対する新たな治療戦略の開発に多大な労力が費やされている。腸球菌に対するヒト免疫系の主要な保護防御機構は貪食であり、これは或る特定の腸球菌の表面構造の直接認識、又は抗体及び補体によるオプソニン化によって起こり得る。
【0012】
in vitroで免疫応答をシミュレートし、腸球菌の毒性因子を同定するためにオプソニン化貪食アッセイが用いられている。しかしながら、防御免疫応答を誘導する可能性をもたらすことができ、したがって有望なワクチン標的であり得る抗原は、これまでに数個しか同定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005−026218号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Grohmann 2006
【非特許文献2】Grohmann et al., 2003
【非特許文献3】Schaberg et al., 1982
【非特許文献4】Kurenbach et al., 2003
【非特許文献5】Abajy et al., 2007
【非特許文献6】Alvarez-Martinez and Christie, 2009
【非特許文献7】Abajy 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は細菌、特に腸球菌の能動免疫療法又は受動免疫療法のための新たな有望なワクチン標的を提供することである。本発明の別の目的は、上記標的をベースとする新規の有効なワクチンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
その第1の態様によると、これらの目的は、疾患の治療に使用される単離ペプチドであって、a)配列番号1によるOrf13配列を含むタンパク質、b)上記タンパク質とアミノ酸レベルで少なくとも80%同一なOrf13の相同体、c)a)又はb)に記載の上記タンパク質に由来する免疫原性ペプチド、及び、d)a)〜c)のいずれかに特異的に結合する抗体又はその抗原断片から選択される、単離ペプチドを提供することによって本発明により解決される。
【0017】
エンテロコッカス・フェカリスプラスミドpIP501から単離されるOrf13は、GenBankアクセッション番号AJ505823.1による以下のアミノ酸配列を有する:
MSYYFEIRIILPEEENQFLNRKLSKSELSEVTHYLQQKTSRGIPVKFRVGIFRVEDQTKIMSVTLNTKNTKETDVINLLLNRVTDQHVLVYLNEPTEPTLNTQELNRQELKTSNERQEIPQTEIPTETVNEPSVIKKISKKNQAKQTNSRKESLSESITKKNVPKIHLFISILTLFIVLLIGISVIQQVQLQSVKKESELLEEQIERVKETDISQSKIDTFGRYFLTYYFSQEKNQENYQSSLRTYVSEKVDISDWKALGKTLKSVNYYGSEQTKKGYSVEYLLNVSVDNRSKMQKITFEVEPTKNGFLVTTQPKLTDFSFN(配列番号1)
【0018】
加えて、Orf13相同体が以下のように、2つのエンテロコッカス・フェシウム(E. faecium)株:E1679(カテーテル先端分離株)及びエンテロコッカス・フェシウム(正:E. faecium)プラスミドpVEF3(タンパク質p51)、5つのエンテロコッカス・フェカリス株:HIP11704(無名のプラスミド)、エンテロコッカス・フェカリスDS5(無名のプラスミド)、エンテロコッカス・フェカリスRE25(プラスミドpRE25、pIP501とほぼ同一のT4SS)、エンテロコッカス・フェカリスDS5(プラスミドpAMβ1)、及びエンテロコッカス・フェカリスADM24818、並びに1つのストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)株(プラスミドpSM19035)で同定されている。
【0019】
【表1】
【0020】
したがって、ORF13は例えばエンテロコッカス・フェカリス株及びエンテロコッカス・フェシウム株等の幾つかの病原性細菌に存在すると考えられるため、例えば腸球菌の能動免疫療法又は受動免疫療法のための有望なワクチン標的である。
【0021】
細菌の毒性因子に対する免疫原性及び防御効率の有効な分析に適切な動物モデルは存在しないため、代わりにオプソニン化貪食アッセイが、哺乳動物のin vivo免疫応答をin vitroでシミュレートし、例えば有効な抗細菌ワクチンとすることのできる腸球菌の毒性因子を同定するために用いられる(Markus Hufnagel, Steffi Koch, Andrea Kropec, Johannes Huebner: Opsonophagocytic assay as a potentially useful tool for assessing safety of enterococcal preparations. International Journal of Food Microbiology 88 (2003) 263-267)。
【0022】
Orf13については、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのT−DNA導入系のT4SSサブユニットVirB8及びVirB10について示されているように、膜から遠位に伸びるT4SSチャネルの一部に対する足場機能が提唱されている(非特許文献6)。Orf13は1つの予測膜貫通ヘリックスを有する(非特許文献7)。エンテロコッカス・フェカリスのJH2−2細胞画分中では、Orf13は抗Orf13抗体による免疫ブロット解析を用いて細胞エンベロープに位置付けられた。したがって、本発明によるペプチドは好ましくはチャネル形成成分であり、T4SSチャネルの一部を構築する活性を有するのが好ましい。
【0023】
また、本発明の別の態様は、本発明との関連で疾患の治療に使用されるOrf13ペプチドのいずれかに特異的に結合する抗体又はその抗原断片に関する。上記抗体又はその抗原断片がモノクローナル抗体、scFV断片及びFab断片から選択される、本発明によるペプチドが好ましい。抗体は更にヒトの又はヒト化した抗体又は断片であってもよい。抗体を産生する方法は当業者に既知であり、それぞれの文献中に記載されている。
【0024】
本発明は、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、シュードモナス・エルジノーサ、ストレプトコッカス・ニューモニエ、スタフィロコッカス・アウレウス及びコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、及びクロストリジウム、リステリア又はストレプトコッカス・ピオゲネスの株によって引き起こされる感染症等の細菌感染症、特に複数の抗生物質に対して耐性を示す株、例えば多剤耐性のエンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、シュードモナス・エルジノーサ、ストレプトコッカス・ニューモニエ、スタフィロコッカス・アウレウス及びコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、及びクロストリジウム又はリステリアの株によって引き起こされる細菌感染症を治療するために新たな治療的アプローチを提供する。それぞれの多剤耐性株は文献中にも記載されている。したがって、本発明の更なる態様は、特に(正:particularly)かかる株の治療を提供することである。これに関連して、上記Orf13の相同体がエンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・フェカリス又はストレプトコッカス・ニューモニエ(正:S. pneumoniae)のかかる抗生物質耐性株から単離されたプラスミドによってコードされるのが特に好ましい。
【0025】
また、本発明の別の態様は、本発明によるペプチド(すなわち、配列番号1によるOrf13配列を含むタンパク質、上記タンパク質とアミノ酸レベルで少なくとも80%同一なOrf13の相同体、配列番号1による上記タンパク質若しくは上記相同体に由来する免疫原性ペプチド、又は配列番号1若しくは上記相同体のいずれかに特異的に結合する抗体若しくはその抗原断片の少なくとも1つ)と、薬学的に許容可能な担体、アジュバント及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物に関する。好ましくは、上記医薬組成物は細菌感染症、特に腸球菌感染症の予防に効果的である。
【0026】
好ましくは、本発明による医薬組成物はワクチンである。このため、本発明の別の態様によると、本発明による1つ又は複数のペプチド(すなわち、配列番号1によるOrf13配列を含むタンパク質、上記タンパク質とアミノ酸レベルで少なくとも80%同一なOrf13の相同体、配列番号1による上記タンパク質若しくは上記相同体に由来する免疫原性ペプチド、又は配列番号1若しくは上記相同体のいずれかに特異的に結合する抗体若しくはその抗原断片の少なくとも1つ)を薬学的に許容可能な担体、希釈剤又はアジュバントと混合して含むワクチン組成物が提供される。薬学的に許容可能な担体には破傷風トキソイド又はジフテリアトキソイドも含まれる。本発明による医薬組成物は、少なくとも1つのサイトカインを更に含んでいてもよい。
【0027】
好適なアジュバントとしては油、すなわちフロイント完全アジュバント又はフロイント不完全アジュバント;塩、すなわちAlK(SO4)2、AlNa(SO4)2、AlNH4(SO4)2、シリカ、カオリン、炭素;ポリヌクレオチド、すなわちポリIC及びポリAUが挙げられる。好ましいアジュバントとしては、QuilA及びAlhydrogelが挙げられる。
【0028】
また、本発明の別の態様は、ペプチドが莢膜多糖類等の免疫担体(immunocarrier)に共有結合又はコンジュゲートした医薬組成物に関する。
【0029】
本発明のワクチンは、注射、急速注入、鼻咽頭吸収(nasopharyngeal absorption)、皮膚吸収(dermoabsorption)によって非経口投与するか、又は口腔(正:buccally)投与若しくは経口(正:orally)投与することができる。上記ワクチンは筋肉内経路、皮下経路又は吸入経路による投与のために配合することもできる。
【0030】
また、本発明の別の態様は、細菌によって引き起こされる疾患若しくは病態、及び/又は細菌感染症によって媒介される疾患及び症状、例えば腸球菌感染症、尿路感染症、菌血症、細菌性心内膜炎、腹膜炎、創傷感染症又は軟部組織感染症、肺炎及び髄膜炎等の予防的治療又は治療的治療のための本発明によるペプチド又は医薬組成物に関する。好ましくは、上記細菌は腸球菌、ブドウ球菌又は連鎖球菌、例えばエンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・フェカリス、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)又はストレプトコッカス・ピオゲネス等、特にそれらの抗生物質耐性株、更に好ましくは複数の抗生物質に対して耐性を示す株、例えば多剤耐性のエンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、シュードモナス・エルジノーサ、ストレプトコッカス・ニューモニエ及びスタフィロコッカス・アウレウスから選択される。また、本発明の別の態様は、本明細書に記載の疾患又は病態の予防的治療又は治療的治療のための本発明によるペプチド又は医薬組成物の使用に関する。
【0031】
特に好ましい実施の形態では、細菌感染症、特に腸球菌感染症の危険性がある個体、例えば乳児、高齢者及び免疫不全者にワクチンを投与する。
【0032】
本願で使用される場合、「個体」という用語は哺乳動物を含む。更なる実施の形態では、哺乳動物はヒトである。
【0033】
ワクチン組成物は、好ましくは約0.001Pg/kg〜100Pg/kg(ペプチド/体重)、より好ましくは0.01Pg/kg〜10Pg/kg、最も好ましくは0.1Pg/kg〜1Pg/kgの単位剤形で、免疫化間に約1週間〜6週間の間隔をおいて1回〜3回投与される。
【0034】
また、本発明の別の態様は本発明による医薬組成物、好ましくはワクチンを作製する方法であって、配列番号1によるOrf13配列を含むタンパク質、上記タンパク質とアミノ酸レベルで少なくとも80%同一なOrf13の相同体、配列番号1による上記タンパク質若しくは上記相同体に由来する免疫原性ペプチド、又は配列番号1若しくは上記相同体のいずれかに特異的に結合する抗体若しくはその抗原断片の少なくとも1つを、上記に記載の薬学的に許容可能な担体、希釈剤又はアジュバントと混合することを含む、方法に関する。
【0035】
また、本発明の別の態様は、個体における細菌によって引き起こされる疾患若しくは病態、及び/又は細菌感染症によって媒介される疾患及び症状、例えば細菌感染症、腸球菌感染症、尿路感染症、菌血症、細菌性心内膜炎、腹膜炎、創傷感染症及び軟部組織感染症、及び髄膜炎又は肺炎等の治療的治療又は予防的治療のための方法であって、上記個体に治療的又は予防的な量の本発明による医薬組成物、好ましくはワクチンを投与することを含む、方法に関する。好ましくは、上記疾患又は症状は腸球菌、ブドウ球菌又は連鎖球菌、例えばエンテロコッカス・フェシウム、エンテロコッカス・フェカリス、スタフィロコッカス・アウレウス又はストレプトコッカス・ピオゲネス等、特にそれらの抗生物質耐性株、更に好ましくは複数の抗生物質に対して耐性を示す株、例えば多剤耐性のエンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、シュードモナス・エルジノーサ、ストレプトコッカス・ニューモニエ及びスタフィロコッカス・アウレウス、又はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌から選択される細菌によって引き起こされる。
【0036】
また、本発明の別の態様は細菌感染症、特に腸球菌感染症に対する免疫応答を脊椎動物において誘導する方法であって、上記脊椎動物に免疫学的に有効な量の本発明による医薬組成物、好ましくはワクチンを投与することを含む、方法に関する。
【0037】
筋肉内に、皮下に、又は吸入によって治療的に有効な量の本発明による医薬組成物、好ましくはワクチンを上記脊椎動物に投与することを含む、本明細書に記載の治療及び/又は予防法のための方法が好ましい。
【0038】
個体の免疫系の活性を改善する付加的な抗生物質及び/又は調製物から選択される活性物質の投与を更に含む、本明細書に記載の治療及び/又は予防法のための方法が更に好ましい。
【0039】
また、本発明の別の態様は、抗菌物質をスクリーニングする方法であって、a)本発明による単離ペプチド(すなわち、配列番号1によるOrf13配列を含むタンパク質、上記タンパク質とアミノ酸レベルで少なくとも80%同一なOrf13の相同体、配列番号1による上記タンパク質又は上記相同体に由来する免疫原性ペプチド)と、抗菌物質を含有すると推測されるサンプルとを混合する工程と、b)上記単離ペプチドと抗菌候補物質との結合について混合物をモニタリングする工程とを含む、方法に関する。
【0040】
抗菌物質を単離及び合成するための好ましい一戦略は、(例えば蛍光標識、酵素標識、質量標識(mass label)等を用いて)本発明による単離ペプチドを標識し、抗菌候補物質と上記ペプチドとの相互作用(例えば結合)による標識の変化を測定することである。別の代替形態は、例えばORF13のチャネル形成活性を阻害するために使用され得る、ORF13に結合するペプチドを同定することができるファージディスプレイアッセイである。
【0041】
したがって、上記に記載のOrf13又はその相同体によるチャネル形成に対する上記抗菌候補物質の効果を判定する工程を更に含む、本発明による抗菌物質をスクリーニングする方法が好ましい。
【0042】
また、本発明の更に別の態様は、サンプルにおける本発明によるOrf13ペプチド(抗原)又はその相同体(抗原)の存在を検出する診断アッセイであって、a)本発明による抗体又はその断片と、Orf13を含有すると推測されるサンプルとを混合する工程と、b)上記サンプルにおける上記Orf13抗原と上記抗体又はその断片との結合について混合物をモニタリングする工程とを含む、診断アッセイに関する。
【0043】
上記抗体又はその断片を固体マトリクスに固定化する、本発明による診断アッセイが好ましい。抗体若しくはその断片、又はOrf13ペプチド(抗原)若しくはその相同体(抗原)の両方又は一方を、(例えば蛍光標識、酵素標識、質量標識等を用いて)診断のために標識することができる。
【0044】
多耐性グラム陽性菌は、世界的に院内における継続的で高まりつつある脅威となっている。複雑な機構によってこれらの病原体が遺伝情報を交換することが可能となり、とりわけ耐性決定因子の分布が、それらの院内集団発生及び地方的な蔓延を引き起こす傾向につながる。本発明で提示したように、遺伝子交換に関与する非常に重要な要因の1つである、いわゆるIV型分泌系の特異的タンパク質は、多くの場合に治療不可能なこれらの感染症に対抗するために現在利用することのできる弱点である。
【0045】
原型的なグラム陽性IV型分泌系はプラスミドpIP501上に存在し、導入領域の幾つかのタンパク質がエシェリヒア・コリにおいて発現されている。ウサギ血清をATPアーゼ及び推定チャネル成分をコードする2つのタンパク質、すなわちORF10及びORF13に対して産生させた。このウサギ血清をオプソニン化貪食アッセイに使用したが、ORF13に対して産生させた血清は、10倍の希釈率で相同株に対して99.2%の致死を示した。漸増量の精製タンパク質による血清の吸着を用いると、この致死を最大44.5%まで阻害することができた。種々の種に由来する株のより大きなコレクションの試験から、1つのバンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス株及びUSA300 CA−MRSAを含む、2/2(100%)のエンテロコッカス・フェカリス、2/4(50%)のエンテロコッカス・フェシウム、及び5/5(100%)のスタフィロコッカス・アウレウスが、抗ORF13によって10倍の希釈率で効果的に死滅することが明らかとなった。ウエスタンブロット分析によって、試験した3つのうち2つのエンテロコッカス・フェカリス株、4つのうち3つのエンテロコッカス・フェシウム株、及び5つ全てのスタフィロコッカス・アウレウス株のそれぞれにおける交差反応性タンパク質バンドが実証され、これにより上記株における同様の状況が示される。相同株エンテロコッカス・フェカリスJH2−2pIP501(Orf13タンパク質を発現する)は、37.5kDaにバンドを示した。対照株とは異なり、全てのスタフィロコッカス・アウレウス株が50kDaにバンドを示し、他の腸球菌株は55kDaのバンドを示した。マウス菌血症モデルを用いた場合、ORF10に対する抗血清を与え、相同エンテロコッカス・フェカリス(正:E. faecalis)、並びにエンテロコッカス・フェシウム及びCA−MRSA株でチャレンジした動物と比較して、抗ORF13を与えた動物においてコロニー数の顕著な減少が見られた。これらのデータから、ORF13がオプソニン抗原及び防御抗原の標的であり、したがって多耐性グラム陽性病原体を標的とする広く交差防御性の有望なワクチン候補となることが実証される。
【0046】
他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参照文献は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。抵触の場合には、定義を含む本明細書が優先される。加えて、材料、方法及び実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】下記実施例によるオプソニン化貪食アッセイの結果を示す図である。白色のバー:ORF13に対して産生させた未吸着の血清;黒色のバー:精製ORF13タンパク質で吸着させた抗ORF13血清。図面訳% Killing 致死率(%)anti-Orf13 抗Orf13
【0048】
配列番号1は、GenBankアクセッション番号AJ505823.1による、エンテロコッカス・フェカリスプラスミドpIP501から単離されたOrf13のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0049】
材料及び方法:
Orf13は322個のアミノ酸からなり(分子量37479.76Da)、pIは8.86である。orf13を、アミノ末端7×Hisタグを有するエシェリヒア・コリ発現ベクターにクローニングし(非特許文献5)、過剰発現させ、アフィニティークロマトグラフィーによって精製した(Goessweiner-Mohr, N., Grohmann, E., and Keller, W.、未発表データ)。精製タンパク質を使用してウサギを免疫化した。ORF7及びORF10に対して同様に(正:similarly)調製した血清を対照として使用した。
【0050】
高度免疫ウサギ血清を、ヒトボランティアから調製した白血球、及び補体源として仔ウサギ血清を用いてオプソニン化貪食アッセイによって検査した(Theilacker et al. Mol Microbiol 2009)。未希釈の血清を使用する場合、抗ORF7血清を用いると37.7%の致死が見られ、抗ORF8血清及び抗ORF11血清を用いると致死は見られなかった。しかしながら、ORF13に対する血清は82.9%の致死をもたらした。エンテロコッカス・フェカリス9型を対照として使用する場合(この株はT4SSを含有しないことが既知であるため)、抗ORF13血清を用いても僅か14%の致死しか観察されなかった。
【0051】
特異性を確認するために、10倍の血清希釈率を用い、様々な量の精製抗原を特異的阻害剤として使用した。100ugの精製タンパク質による抗ORF13血清の前吸着(Preabsorption)は45%の阻害をもたらしたが、より少量の阻害タンパク質は、より低い致死の阻害をもたらした(図1を参照されたい)。これらのデータから、ORF13がオプソニン抗体の標的であり、この精製タンパク質による吸着によってORF13に対して産生させた高度免疫血清の致死能を排除可能であることが確認される。
【0052】
加えて、Orf13は、2つのエンテロコッカス・フェシウム株:E1679(カテーテル先端分離株)及びエンテロコッカス・フェシウムプラスミドpVEF3(タンパク質p51)、5つのエンテロコッカス・フェカリス株:HIP11704(無名のプラスミド)、エンテロコッカス・フェカリスDS5(無名のプラスミド)、エンテロコッカス・フェカリスRE25(プラスミドpRE25、pIP501とほぼ同一のT4SS)、エンテロコッカス・フェカリスDS5(プラスミドpAMβ1)、並びに1つのストレプトコッカス・ピオゲネス株(プラスミドpSM19035)に相同体を有する(上記も参照されたい)。したがって、ORF13は幾つかのエンテロコッカス・フェカリス株及びエンテロコッカス・フェシウム株に存在すると考えられるため、例えば腸球菌等の病原性細菌の能動免疫療法又は受動免疫療法のための有望なワクチン標的である。
【0053】
引用文献
1. Abajy, M. Y. Molekularbiologische und biochemische Untersuchungen zum Typ IV Sekretion-aehnlichen System (T4SLS) des konjugativen Antibiotikaresistenzplasmids pIP501 in Enterococcus faecalis. (2007). PhD Thesis, TU Berlin, Berlin.
2. Abajy, M. Y., Kopec, J., Schiwon, K., Burzynski, M., Doering, M., Bohn, C., and Grohmann, E. (2007). A type IV-secretion-like system (T4SLS) is required for conjugative DNA transport of plasmid pIP501 with broad host range in Gram-positive bacteria J. Bacteriol. 189: 2487-2496.
3. Alvarez-Martinez, C. E., and Christie, P. J. (2009). Biological diversity of prokaryotic type IV secretion systems. Microbiol. Mol. Biol. Rev. 73: 775-808.
4. Grohmann, E., Muth, G., and Espinosa, M. (2003). Conjugative plasmid transfer in Gram-positive bacteria. Microbiol. Mol. Biol. Rev. 67: 277-301.
5. Grohmann, E. (2006). Mating cell-cell channels in conjugating bacteria. In Cell-Cell Channels (eds. Baluska, F., Volkmann, D., and Barlow, P.W.), Landes Biosciences, Georgetown, Texas, pp. 21-38. ISBN: 1-58706-065-5.
6. Kurenbach, B., Bohn, C., Prabhu, J., Abudukerim, M., Szewzyk, U., and Grohmann, E. (2003). Intergeneric transfer of the Enterococcus faecalis plasmid pIP501 to Escherichia coli and Streptomyces lividans and sequence analysis of its tra region. Plasmid 50: 86-93.
7. Schaberg, D.R., Clewell, D. B., and Glatzer, L. 1982. Conjugative transfer of R-plasmids from Streptococcus faecalis to Staphylococcus aureus. Antimicrob. Agents Chemother. 22:204-207.
8. Zhu, W., Murray, P.R., Huskins, W.C., Jernigan, J.A., McDonald, L.C., Clark, N.C., Anderson, K.F., McDougal, L.K., Hageman, J.C., Olsen-Rasmussen, M., Frace, M., Alangaden, G.J., Chenoweth, C., Zervos, M.J., Robinson-Dunn, B., Schreckenberger, P.C., Reller, L.B., Rudrik, J.T. and Patel, J.B. Dissemination of an Enterococcus Inc18-Like vanA Plasmid Associated with Vancomycin-Resistant Staphylococcus aureus, Antimicrob. Agents Chemother. 54 (10), 4314-4320 (2010).
9. Theilacker C, Sanchez-Carballo P, Toma I, Fabretti F, Sava I, Kropec A, Holst O, Huebner J. Glycolipids are involved in biofilm accumulation and prolonged bacteraemia in Enterococcus faecalis. Mol Microbiol. 2009 Feb;71(4):1055-69.
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]