特許第6338412号(P6338412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338412
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】過酸化物の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20180528BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20180528BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
   C02F1/58 A
   B01J23/46 Z
   B01J23/46 301Z
   C02F1/58 H
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-58572(P2014-58572)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-181984(P2015-181984A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 進
(72)【発明者】
【氏名】品川 昭弘
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−269475(JP,A)
【文献】 特開2011−167633(JP,A)
【文献】 特表2009−521988(JP,A)
【文献】 特開2000−107773(JP,A)
【文献】 特開2008−207103(JP,A)
【文献】 特開2009−078253(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0196776(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58
B01J 21/00−38/74
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも白金族金属と白金族金属酸化物とを固体担体上に担持した触媒を過酸化物に接触させることで、過酸化物を分解する過酸化物の処理方法において、
前記白金族金属が白金であり、前記白金族金属酸化物が、酸化イリジウム及び酸化ルテニウムであり、
前記固体担体が、チタンである
ことを特徴とする過酸化物の処理方法。
【請求項2】
過酸化物が、過酢酸及び/又は過酸化水素であることを特徴とする請求項に記載の過酸化物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酢酸や過酸化水素等の過酸化物は強い酸化力を持つことが知られており、水溶液はペットボトルのような容器の殺菌、洗浄用途や、紙パルプや繊維の漂白、半導体洗浄用途として広く使用されている。このような工場からは、使用済の高濃度の過酢酸及び/又は過酸化水素等の過酸化物を含有する排水が排出される問題がある。これらのものは、(1)殺菌作用があるため、そのまま排水処理設備に流すと排水処理・活性汚泥の微生物を殺してしまう可能性がある、(2)過酸化水素は水質汚濁防止法の指定物質あるなどの理由から、河川・下水への放流や排水処理設備に流す前に、分解する必要がある。
【0003】
過酢酸や過酸化水素等の過酸化物を含有した排水を分解して処理方法としては、例えば、白金担持触媒を用いて過酸化物含有水溶液を処理する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、白金担持触媒を用いた上記処理方法では、過酸化物を分解する分解性能に優れるが、酸や過酸化物との接触で触媒が劣化し、長期間に渡り処理することができなかった。また、実用的な耐久性を得るためには、白金触媒層の膜厚を10μm〜250μmと非常に厚く担持させる必要があり、経済性が悪い問題点があった。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、白金以外にもパラジウム、イリジウム、ルテニウム等が担持された触媒を用いて過酸化水素を分解する方法が開示されている。
このような触媒は、過酢酸や過酸化水素等の過酸化物において、白金よりも劣化し難く耐久性に優れるが、十分な分解性能が得られない問題があった。
【0005】
以上より、長期間に渡り過酢酸や過酸化水素等の過酸化物を分解することのできる過酸化物の処理方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−337576号公報
【特許文献2】特開2013−13868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、長期間に渡り過酢酸や過酸化水素等の過酸化物を分解することのできる過酸化物の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、白金族金属と白金族金属酸化物とを固体担体上に担持した触媒と、過酸化物を接触させることで、過酸化物を分解させる過酸化物の処理方法が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0010】
第一の発明は、少なくとも白金族金属と白金族金属酸化物とを固体担体上に担持した触媒を過酸化物に接触させることで、過酸化物を分解することを特徴とする過酸化物の処理方法である。
【0011】
第二の発明は、白金族金属が、白金であることを特徴とする第一の発明に記載の過酸化物の処理方法である。
【0012】
第三の発明は、白金族金属酸化物が、酸化イリジウム及び/又は酸化ルテニウムであることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の過酸化物の処理方法である。
【0013】
第四の発明は、固体担体が、チタン、ジルコニウム、ニオブ、アルミニウム、タンタル、バナジウム、鉄、及び/又はその酸化物からなる群より選ばれる一種の金属、又はそれらの金属を主成分とする合金及び/又はその酸化物であることを特徴とする第一から第三の発明のいずれか一項に記載の過酸化物の処理方法である。
【0014】
第五の発明は、過酸化物が、過酢酸及び/又は過酸化水素であることを特徴とする第一から第四の発明のいずれか一項に記載の過酸化物の処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
長期に渡り過酢酸や過酸化水素等の過酸化物を分解することのできる過酸化物の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の過酸化物の処理方法について説明する。
【0017】
本発明の過酸化物の処理方法は、白金族金属と白金族金属酸化物とを固体担体上に担持した触媒を過酸化物に接触させることで、過酸化物を分解させることを特徴とする過酸化物の処理方法である。
【0018】
<触媒>
本発明に用いる有機過酸化物を分解する触媒は、固体担持体に白金族金属と白金族金属酸化物とを少なくとも担持している触媒である。
【0019】
白金族金属としては、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムが挙げられる。これらの中でも特に、過酸化物の分解性能に優れる点より白金が好ましく挙げられる。
【0020】
白金族金属酸化物としては、酸化ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化オスミウム、酸化イリジウムが挙げられる。これらの中でも特に、耐久性に優れる点より、酸化ルテニウムと酸化イリジウムが好ましく挙げられる。
【0021】
白金族金属と白金族金属酸化物とを固体担体上に担持させた触媒の中でも、白金と酸化イリジウム、白金と酸化ルテニウム、白金と酸化イリジウムと酸化ルテニウムからなる群より選ばれる1つが好ましく挙げられ、特に長期間に渡り過酸化物を分解できる点より、白金と酸化イリジウムと酸化ルテニウムとを固体担体上に担持させた触媒を用いることが好ましく挙げられる。
【0022】
白金族金属と白金族酸化物からなる触媒層の厚みは、0.001〜10μmが好ましく、0.01〜5.0μmがより好ましく、0.01〜1.0μmが特に好ましく挙げられる。
【0023】
白金族金属と白金族金属酸化物とを担持させる固体担体としては、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、鉄、アルミニウム及び/又はその酸化物からなる群より選ばれる一種の金属、又はそれらの金属を主成分とする合金及び/又はその酸化物からなる金属や、活性炭、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、炭化珪素、ゼオライト、ボーキサイト、ケイソウ土等の代表的な担体を用いることができる。それらの金属を主成分とする合金としては、アルミ合金、チタン合金、ステンレス等が挙げられる。これらの中でも、酸条件下における耐久性に優れる点より、チタン、ジルコニウム、ニオブ、鉄、タンタル、バナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属又はそれらの金属を主成分とする合金からなる金属を用いることが好ましく挙げられ、特に、耐久性・加工性・経済性を考慮した場合、チタンを用いることが好ましく挙げられる。
【0024】
また、この分解反応は触媒との接触反応であり、反応促進の点から表面積が大きい方が望ましく、固体担体の形状は、エキスパンドメタル、網、パンチングメタル、ハニカム構造、繊維、不織布等が好ましく挙げられる。また、担体表面の粗面化処理も好ましく挙げられる。
【0025】
固体担体に白金族金属と白金族金属酸化物とを担持させる方法としては、周知の方法を用いることができ、例えば、塗布後の焼成による熱分解法、含浸法、共沈法、沈着法、混練法、イオン交換法、溶融法等により担持させて触媒を製造することができる。これらの中でも、熱分解法が簡単に製造でき、且つ、触媒を担体に密着性よく強固に担持できる点で好ましく挙げられる。
【0026】
塗布法を用いた熱分解法を詳細に説明する。アルコール溶媒中に白金族金属塩と白金族金属の塩化物とを溶解させて塗布液を作製し、担体に該塗布液を塗布した後、電気炉にて200〜600℃にて熱処理することで白金族金属の塩化物を白金族金属酸化物に分解し、触媒を製造することができる。
上記アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
上記塗布の方法としては、スプレー塗布、刷毛塗り、ディップ、噴霧、カーテンフローコート、ドクターブレード等が挙げられる。
【0027】
<過酸化物>
過酸化物としては、過酢酸等の過カルボン酸、過酸化水素、過酸化エステル、ケトンパーオキサイド、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル等が挙げられる。
【0028】
本発明の過酸化物の処理方法では、過酸化物の中でも特に過酢酸と過酸化水素とを分解するのに優れる特徴を有している。
【0029】
過酸化物は、溶媒に溶解している状態でもよく、水に溶解させた状態で用いることが好ましく挙げられる。
【0030】
通常、工場等から排出される過酸化物を含有した排水は、過酢酸や過酸化水素等の過酸化物の他に、酢酸等の酸性物質を含有しており、pHは3以下である。本発明の処理方法では、pH調整を全くせずとも処理することができ、触媒が劣化し難いため長期に渡り処理することが可能である。
【0031】
本発明の過酸化物の処理方法は、過酸化物を触媒に接触させればよく、固定床方式、流動方式、懸濁触媒方式等の任意の方法で実施することができる。
【0032】
処理温度は、低温から高温の幅広い範囲で十分な分解速度が得られるが、望ましくは10〜80℃、より好ましくは40〜80℃で処理することで分解速度をさらに向上させることができる。
【0033】
過酸化物の処理によって、例えば、過酢酸や過酸化水素はそれぞれ次の反応式で酸素を発生して分解する。
2CHCOOOH→2CHCOOH+O
2H→2HO+O
【0034】
過酢酸等の過酸化物を分解すると酢酸等の有機成分が生成しBOD、COD源となるが、活性汚泥処理装置、接触酸化処理装置等の排水処理装置を利用してBOD、COD成分を除去することができる。酸成分を除去した後、排水として川に流すことも可能であるが、工場用水や生活用水に再利用することも可能である。
【0035】
以上より、本発明の過酸化物の処理方法を用いることで、長期間に渡り過酸化物を処理することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明は本実施例によりなんら限定されない。
【0037】
比較触媒1の製造)
ブタノール250mlにヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物28.2g、塩化イリジウム6.3gを溶解させた塗布液を作製した。
金属基体として20×50mm、厚さ0.8mmのエキスパンドチタン基体(JIS 2種)の表面を粗面化したものを用いた。該エキスパンドチタン基体の表面粗さを表面粗さ計((株)ミツトヨ製、サーフテスト、SJ−410)を用いて測定し、Ra(算術平均粗さ)が5.0μmであることを確認した。この基体に該塗布液を刷毛にて塗布後、580℃に保持した電気炉内で10分焼成を行い、過酸化物分解用の触媒(比較触媒1:白金と酸化イリジウム担持)を得た。
この触媒について、断面観察にて触媒層の厚さを調べたところ、0.342μmであった。
【0038】
比較触媒2の製造)
ブタノール250mlにヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物28.2g、塩化ルテニウム5.5gを溶解させた塗布液を作製した。
金属基体として20×50mm、厚さ0.8mmのエキスパンドチタン基体(JIS 2種)の表面を粗面化したものを用いた。該エキスパンドチタン基体の表面粗さを表面粗さ計((株)ミツトヨ製、サーフテスト、SJ−410)を用いて測定し、Ra(算術平均粗さ)が5.0μmであることを確認した。この基体に該塗布液を刷毛にて塗布後、580℃に保持した電気炉内で10分焼成を行い、過酸化物分解用の触媒(比較触媒2:白金と酸化ルテニウム担持)を得た。
この触媒について、断面観察にて触媒層の厚さを調べたところ、0.337μmであった。
【0039】
(触媒の製造)
ブタノール250mlにヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物28.2g、塩化イリジウム2.6g、塩化ルテニウム2.5gを溶解させた塗布液を作製した。
金属基体として20×50mm、厚さ0.8mmのエキスパンドチタン基体(JIS 2種)の表面を粗面化したものを用いた。該エキスパンドチタン基体の表面粗さを表面粗さ計((株)ミツトヨ製、サーフテスト、SJ−410)を用いて測定し、Ra(算術平均粗さ)が4.9μmであることを確認した。この基体に該塗布液を刷毛にて塗布後、580℃に保持した電気炉内で10分焼成を行い、過酸化物分解用の触媒(触媒:白金と酸化イリジウムと酸化ルテニウム担持)を得た。
この触媒について、断面観察にて触媒層の厚さを調べたところ、0.337μmであった。
【0040】
(比較触媒の製造)
ブタノール250mlにヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物33.2gを溶解させた塗布液を作製した。
金属基体として20×50mm、厚さ0.8mmのエキスパンドチタン基体(JIS 2種)の表面を粗面化したものを用いた。該エキスパンドチタン基体の表面粗さを表面粗さ計((株)ミツトヨ製、サーフテスト、SJ−410)を用いて測定し、Ra(算術平均粗さ)が5.0μmであることを確認した。この基体に該塗布液を刷毛にて塗布後、580℃に保持した電気炉内で10分焼成を行い、過酸化物分解用の触媒(比較触媒:白金担持)を得た。
この触媒について、断面観察にて触媒層の厚さを調べたところ、0.333μmであった。
【0041】
(比較触媒の製造)
ブタノール250mlに塩化イリジウム36.5gを溶解させた塗布液を作製した。
金属基体として20×50mm、厚さ0.8mmのエキスパンドチタン基体(JIS 2種)の表面を粗面化したものを用いた。該エキスパンドチタン基体の表面粗さを表面粗さ計((株)ミツトヨ製、サーフテスト、SJ−410)を用いて測定し、Ra(算術平均粗さ)が5.1μmであることを確認した。この基体に該塗布液を刷毛にて塗布後、580℃に保持した電気炉内で10分焼成を行い、過酸化物分解用の触媒(比較触媒:酸化イリジウム担持)を得た。
この触媒について、断面観察にて触媒層の厚さを調べたところ、0.342μmであった。
【0042】
(実施例、比較例1〜4
触媒、比較触媒1〜4をそれぞれ用い、下記過酸化物含有水溶液を用いて処理試験を行った。処理試験の方法は、上記で得られた触媒をそれぞれ下記過酸化物含有水溶液4000mLに浸漬し、撹拌しながら25℃の条件で、100時間処理した。該操作を繰り返し、過酢酸30ppm以下で、かつ、過酸化水素100ppm以下まで繰り返し処理できる回数を調べた。該操作を繰り返した回数が多いほど触媒の劣化が少なく、長期に渡り過酢酸や過酸化水素等の過酸化物を処理できると判断できる。該繰り返し操作の回数は10回以上が好ましく、50回以上であることが特に好ましく挙げられる。
[過酸化物含有水溶液の組成]
過酢酸 2000ppm
過酸化水素 10000ppm
酢酸 1.5%
初期のpH 2.9
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、比較例は回数が7回であり、すぐに触媒が劣化してしまうため、長期に渡り処理できないことがわかる。比較例にいたっては、触媒の触媒性能が劣るため1回も処理できないことがわかる。
実施例では、比較例1、2と比較し、繰り返し処理することができ、特に実施例は触媒が劣化しにくいため、長期に渡り過酢酸及び過酸化水素を処理できることがわかる。
【0045】
以上より、本発明の過酸化物の処理方法を用いることで、長期間に渡り過酸化物を処理できることがわかる。