(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338417
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】車両の車線逸脱防止制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20180528BHJP
B60R 21/00 20060101ALI20180528BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20180528BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20180528BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20180528BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20180528BHJP
B62D 133/00 20060101ALN20180528BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60R21/00 624F
B62D6/00ZYW
B60R21/00 624C
B60R21/00 626E
B60R21/00 626B
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D133:00
B62D137:00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-66640(P2014-66640)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-191316(P2015-191316A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 武
【審査官】
高田 元樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−006879(JP,A)
【文献】
特開2013−173520(JP,A)
【文献】
特開2006−327497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
B60R 21/00
B62D 5/04
B62D 6/00
B60W 30/00−50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行している車線を検出する車線検出手段と、
上記車線に対する上記車両の位置情報と走行状態に基づき該車両が上記車線から逸脱するまでの車線逸脱予想時間を求める逸脱予想手段と、
車線逸脱防止制御の作動時間である目標制御時間を設定する目標制御時間設定手段と、
上記車線逸脱予想時間に基づいて上記車線からの上記車両の逸脱を防止するのに必要な第1の目標旋回量を算出する第1の目標旋回量算出手段と、
上記車線からの逸脱を防止した後の上記車両の再度の車線逸脱を防止するために、上記目標制御時間を考慮した第2の目標旋回量を算出する第2の目標旋回量算出手段と、
上記第1の目標旋回量と上記第2の目標旋回量とを比較して上記車両に付加する目標旋回量を設定する目標旋回量設定手段と、
を備えたことを特徴とする車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項2】
上記目標旋回量設定手段は、上記第1の目標旋回量が上記第2の目標旋回量以上の場合は上記第1の目標旋回量を上記車両に付加する目標旋回量に設定する一方、上記第2の目標旋回量が上記第1の目標旋回量を超えた場合は上記第2の目標旋回量を上記車両に付加する目標旋回量に設定することを特徴とする請求項1記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項3】
上記第2の目標旋回量算出手段は、少なくとも上記第2の目標旋回量を車速に応じて可変設定するものであって、上記車速が高いほど上記第2の目標旋回量を大きな値に設定することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項4】
上記第2の目標旋回量算出手段は、少なくとも上記第2の目標旋回量を上記車線のカーブでの逸脱方向と車線曲率とに応じて可変設定するものであって、上記車線のカーブ外側に逸脱する場合は、車線曲率が大きくなるほど上記第2の目標旋回量を大きな値に設定する一方、上記車線のカーブ内側に逸脱する場合は、車線曲率が大きくなるほど上記第2の目標旋回量を小さな値に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項5】
上記第2の目標旋回量算出手段は、少なくとも上記第2の目標旋回量を上記車線のカント角に応じて可変設定するものであって、上記車両がカントの下り方向に逸脱する場合は、上記カントが大きくなるほど大きな値に設定する一方、上記カントの登り方向に逸脱する場合は、上記カントが大きくなるほど小さな値に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項6】
上記第2の目標旋回量算出手段は、少なくとも上記第2の目標旋回量を車線幅に応じて可変設定するものであって、上記車線幅が広いほど上記第2の目標旋回量を大きな値に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【請求項7】
上記第2の目標旋回量算出手段は、制御開始からの制御の継続時間を計測し、上記目標制御時間設定手段で設定する上記目標制御時間と上記制御の継続時間の差分を用いて上記第2の目標旋回量を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の車両の車線逸脱防止制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が走行車線から逸脱しそうな場合に、アクチュエータを作動させることにより、車両にヨーモーメントを付与させることで車線からの逸脱を防止する制御を行う車両の車線逸脱防止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、運転を支援する様々な装置が開発、実用化されており、車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御装置もそのような装置の一つである。例えば、特開平7−105498号公報(以下、特許文献1)では、自車両の推定進行路と車線の側縁との交点までの距離と、交点における推定進行路と側縁とのなす角度とに基づき、車線からの逸脱状態を予測し、該予測に基づいて逸脱を防止すべく自動的な修正操舵を行う自動車の走行状態判定装置の技術が開示されている。
【0003】
また、特開2013−173520号公報(以下、特許文献2)では、車線平行後の目標ヨーモーメントの生成方法について、乗り心地良く車両の進行方向を適切な方向に制御できるようにする車線逸脱防止装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−105498号公報
【特許文献2】特開2013−173520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1に開示されるような車線逸脱防止制御では、車線逸脱予想時間に基づいて車線に対して逸脱を防止する車両挙動を発生することはできるが、車線に対する車両のヨー角が零となった時点で車線逸脱時間は無限大となり、その後の車両の運動が規定されない。その際に、路面のカント等の外乱が車両に作用した際に、車線端付近で、再度、逸脱防止制御が介入し、これにより制御の応答遅れ等によって逸脱防止ができなくなってしまう状況がある。また特許文献2に開示されるような車線逸脱防止制御では、車線に対して車両を戻した後、さらに平行になるまで制御を継続することにより、制御の作動する時間のばらつきを感じたり、運転者の走行したい車線内の横位置との乖離が発生し、違和感を与えてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、確実に車線逸脱防止を図り、車線逸脱防止を達成した後においても不要な制御が介入することなく、ドライバに違和感を与えることがない車両の車線逸脱防止制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両の車線逸脱防止制御装置の一態様は、車両が走行している車線を検出する車線検出手段と、上記車線に対する
上記車両の位置情報と走行状態に基づき
該車両が上記車線から逸脱するまでの車線逸脱予想時間を求める逸脱予想手段と、
車線逸脱防止制御の作動時間
である目標制御時間を設定する目標制御時間設定手段と、
上記車線逸脱予想
時間に基づいて上記車線からの
上記車両の逸脱を防止するのに必要な第1の目標旋回量を算出する第1の目標旋回量算出手段と、上記車線からの逸脱を防止した
後の上記車両
の再度の車線逸脱を防止するために
、上記目標制御時間を考慮し
た第2の目標旋回量を算出する第2の目標旋回量算出手段と、上記第1の目標旋回量と上記第2の目標旋回量とを比較して上記車両に付加する目標旋回量を設定する目標旋回量設定手段とを備えた。
【発明の効果】
【0008】
本発明による車両の車線逸脱防止制御装置によれば、確実に車線逸脱防止を図り、車線逸脱防止を達成した後においても不要な制御が介入することなく、制御の継続時間を均一にすることでドライバに違和感を与えることがないという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る車両の操舵系の構成説明図である。
【
図2】本発明の実施の一形態に係る車線逸脱防止制御プログラムのフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の一形態に係るX−Z座標上における自車両及び車線と各パラメータの説明図である。
【
図4】本発明の実施の一形態に係る車速感応ゲインの特性の一例を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施の一形態に係る曲率感応ゲインの特性の一例を示し、
図5(a)はカーブ外側に逸脱する場合の特性の一例を示し、
図5(b)はカーブ内側に逸脱する場合の特性の一例を示す。
【
図6】本発明の実施の一形態に係るカント感応ゲインの特性の一例を示し、
図6(a)は車両がカントの下り方向に逸脱する場合の特性の一例を示し、
図6(b)は車両がカントの登り方向に逸脱する場合の特性の一例を示す。
【
図7】本発明の実施の一形態に係る車線幅感応ゲインの特性の一例を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施の一形態に係る
図5の説明図である。
【
図9】本発明の実施の一形態に係る
図6の説明図である。
【
図10】本発明の実施の一形態に係る設定される目標ヨーレートと車両挙動の説明図で、
図10(a)は設定される目標ヨーレートを示し、
図10(b)は車線逸脱防止制御による車両挙動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は操舵角をドライバ入力と独立して設定自在な電動パワーステアリング装置を示し、この電動パワーステアリング装置1は、ステアリング軸2が、図示しない車体フレームにステアリングコラム3を介して回動自在に支持されており、その一端が運転席側へ延出され、他端がエンジンルーム側へ延出されている。ステアリング軸2の運転席側端部には、ステアリングホイール4が固設され、また、エンジンルーム側へ延出する端部には、ピニオン軸5が連設されている。
【0011】
エンジンルームには、車幅方向へ延出するステアリングギヤボックス6が配設されており、このステアリングギヤボックス6にラック軸7が往復移動自在に挿通支持されている。このラック軸7に形成されたラック(図示せず)に、ピニオン軸5に形成されたピニオンが噛合されて、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が形成されている。
【0012】
また、ラック軸7の左右両端はステアリングギヤボックス6の端部から各々突出されており、その端部に、タイロッド8を介してフロントナックル9が連設されている。このフロントナックル9は、操舵輪としての左右輪10L,10Rを回動自在に支持すると共に、車体フレームに転舵自在に支持されている。従って、ステアリングホイール4を操作し、ステアリング軸2、ピニオン軸5を回転させると、このピニオン軸5の回転によりラック軸7が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル9がキングピン軸(図示せず)を中心に回動して、左右輪10L,10Rが左右方向へ転舵される。
【0013】
また、ピニオン軸5にアシスト伝達機構11を介して、電動パワーステアリングモータ(電動モータ)12が連設されており、この電動モータ12にてステアリングホイール4に加える操舵トルクのアシスト、及び、設定された目標旋回量(例えば、目標ヨーレート)となるような操舵トルクの付加が行われる。電動モータ12は、後述する操舵制御部20から制御出力値としての目標トルクTpがモータ駆動部21に出力されてモータ駆動部21により駆動される。
【0014】
操舵制御部20は、ドライバの操舵力を補助する電動パワーステアリング制御機能、車両を目標進行路に沿って走行させるレーンキープ制御機能、車線の車線区画線(左右白線)からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御機能等を有して構成され、本実施の形態では、車線逸脱防止制御機能の構成について説明する。
【0015】
操舵制御部20には、車線区画線(左右白線)を検出し、車線区画線から車線情報と、車線に対する車両の姿勢角・位置情報を取得する車線検出手段としての前方認識装置31が接続され、車速Vを検出する車速センサ32、操舵角(実舵角)θpを検出する操舵角センサ33、ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ34、車線のカント角θcaを検出するカント角検出センサ35が接続されている。
【0016】
前方認識装置31は、例えば、車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像する1組のCCDカメラと、このCCDカメラからの画像データを処理するステレオ画像処理装置とから構成されている。
【0017】
前方認識装置31のステレオ画像処理装置における、CCDカメラからの画像データの処理は、例えば以下のように行われる。まず、CCDカメラで撮像した自車両の進行方向の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から距離情報を求め、距離画像を生成する。
【0018】
白線データの認識では、白線は道路面と比較して高輝度であるという知得に基づき、道路の幅方向の輝度変化を評価して、画像平面における左右の白線の位置を画像平面上で特定する。この白線の実空間上の位置(x,y,z)は、画像平面上の位置(i,j)とこの位置に関して算出された視差とに基づいて、すなわち、距離情報に基づいて、周知の座標変換式より算出される。自車両の位置を基準に設定された実空間の座標系は、本実施の形態では、例えば、
図3に示すように、ステレオカメラの中央真下の道路面を原点として、車幅方向をX軸(左方向を「+」)、車高方向をY軸(上方向を「+」)、車長方向(距離方向)をZ軸(前方向を「+」)とする。このとき、X−Z平面(Y=0)は、道路が平坦な場合、道路面と一致する。道路モデルは、道路上の自車両の車線を距離方向に複数区間に分割し、各区間における左右の白線を所定に近似して連結することによって表現される。尚、本実施の形態では、車線の形状を1組のCCDカメラからの画像を基に認識する例で説明したが、他に、単眼カメラ、カラーカメラからの画像情報を基に求めるものであっても良い。
【0019】
また、カント角検出センサ35は、例えば、以下の(1)式により、カント角θcaを算出するようになっている。
θca=sin
−1((G’−G)/g) …(1)
ここで、Gは横加速度センサ(図示せず)で検出した横加速度値で、G’は、例えば、以下の(2)式により算出される計算横加速度値で、gは重力加速度である。
G’=(1/(1+As・V
2))・(V
2/Lw)・θp …(2)
ここで、Asは車両固有のスタビリティファクタで、Lwはホイールベースである。
【0020】
尚、カント角θcaは、他に、図示しないナビゲーションシステムの地図情報等から得られるものであっても良い。
【0021】
そして、操舵制御部20は、上述の車線区画線位置情報、各センサ信号を基に、車線の幅方向の車両位置(車線幅方向車両横位置)xvを算出し、車線に対する車両のヨー角θyawを算出し、車線幅方向車両横位置xvとヨー角θyawと車速Vに基づいて車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを算出し、ヨー角θyawと車線逸脱予想時間Tttlcとに基づいて車線からの逸脱を防止する第1の目標ヨーレートγt1を算出し、車線からの逸脱を防止した車両に付加する逸脱を防止する第2の目標ヨーレートγt2を算出し、第1の目標ヨーレートγt1が第2の目標ヨーレートγt2以上の場合は第1の目標ヨーレートγt1を車両に付加する目標ヨーレートγtに設定する一方、第2の目標ヨーレートγt2が第1の目標ヨーレートγt1を超えた場合は第2の目標ヨーレートγt2を車両に付加する目標ヨーレートγtに設定して、該目標ヨーレートγtと実際のヨーレートγを基に目標トルクTpを算出してモータ駆動部21に出力する。また、車線逸脱予想時間Tttlcは、警報制御装置40に対しても出力され、警報制御装置40で、車線逸脱予想時間Tttlcと予め設定しておいた閾値とが比較され、車線逸脱予想時間Tttlcが閾値より短くなった場合には、音声、チャイム音等の聴覚的な警報や、モニタ表示等の視覚的な警報により、ドライバに対して車線逸脱警報が発せられる。このように、操舵制御部20は、逸脱予想手段、目標制御時間設定手段、第1の目標旋回量算出手段、第2の目標旋回量算出手段、目標旋回量設定手段の機能を有して構成されている。
【0022】
以下、
図2のフローチャートを基に、操舵制御部20で実行される車線逸脱防止制御を説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、前方認識装置31で取得した左右白線の近似処理を実行する。
【0023】
自車両の左側の白線は最小自乗法により、以下の(3)式により近似される。
x=AL・z
2+BL・z+CL …(3)
また、自車両の右側の白線は最小自乗法により、以下の(4)式により近似される。
x=AR・z
2+BR・z+CR …(4)
ここで、上述の(3)式、(4)式における、「AL」と「AR」は、それぞれの曲線における曲率を示し、左側の白線の曲率κは、2・ALであり、右側の白線の曲率κは、2・ARである。また、(3)式、(4)式における、「BL」と「BR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における傾きを示し、「CL」と「CR」は、それぞれの曲線の自車両の幅方向における位置を示す(
図3参照)。
【0024】
次いで、S102に進み、自車両の対車線ヨー角θyawを、以下の(5)式により算出する。
θyaw=(BL+BR)/2 …(5)
【0025】
次に、S103に進み、車線の中央からの自車両位置である車線幅方向車両横位置xvを、以下の(6)式により算出する。
xv=(CL+CR)/2 …(6)
【0026】
次いで、S104に進み、車線車両間距離Lを、以下の(7)式により算出する。
L=((CL−CR)−TR)/2−xv …(7)
ここで、TRは車両のトレッドであり、本発明の実施の形態では、タイヤ位置を車線逸脱判定の基準に用いるものとする。
【0027】
次に、S105に進み、車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlc
(図10の点tpに達するまでの時間)を、例えば、以下の(8)式により算出する。
Tttlc=L/(V・sin(θyaw)) …(8)
【0028】
そして、S106に進み、上述の車線逸脱予想時間Tttlcが警報制御装置40に出力され、この警報制御装置40で、車線逸脱予想時間Tttlcと予め設定しておいた閾値とが比較され、車線逸脱予想時間Tttlcが閾値より短くなった場合には、音声、チャイム音等の聴覚的な警報や、モニタ表示等の視覚的な警報により、ドライバに対して車線逸脱警報が発せられる。
【0029】
次に、S107に進み、車線からの逸脱を防止する第1の目標旋回量としての第1の目標ヨーレートγt1を、以下の(9)式により算出する。
γt1=−θyaw/Tttlc …(9)
次いで、S108に進み、車線の逸脱
方向とは反対方向の車両のヨー角を目標ヨー角θyawtとして、例えば、以下の(10)式により算出する。
【0030】
θyawt=Gv・Gκ・Gca・Gw・θyaw0 …(10)
ここで、θyaw0は、実験、演算等により予め
車種毎の特性に応じて設定しておいたヨー角基準値で、逸脱方向とは反対方向の小さな値に設定されている。
【0031】
また、Gvは車速感応ゲイン、Gκは曲率感応ゲイン、Gcaはカント感応ゲイン、Gwは車線幅感応ゲインである。これら各ゲインGv,Gκ,Gca,Gwは、実験、演算等により予め設定しておいた特性マップから読み込んで設定されるもので、以下、各ゲインGv,Gκ,Gca,Gwの特性について説明する。
【0032】
車速感応ゲインGvの特性は、例えば、
図4に示すように、車速Vが高いほど高い値に設定されている。これは、逸脱が防止された車両が高い車速Vであっても、それ以後の車両姿勢で確実に逸脱防止が図られるようにするためである。
【0033】
また、曲率感応ゲインGκの特性は、例えば、
図5に示すように、カーブ外側に逸脱する場合(
図5(a)参照)と、カーブ内側に逸脱する場合(
図5(b)参照)に分けて設定されている。すなわち、
図8の走行軌跡Aに示すように、カーブ外側に逸脱する場合は、曲率κ(=(2・AL+2・AR)/2)の大きな車線では、この車線から引き続き逸脱しないように走行するには大きなヨー角が必要になる。このため、
図5(a)に示すように、曲率感応ゲインGκは、曲率κが大きな値になるほど大きな値に設定される。逆に、
図8の走行軌跡Bに示すように、カーブ内側に逸脱する場合、曲率κの大きな車線では、この車線から引き続き逸脱しないように走行するには緩やかな車両姿勢を維持した方が好ましい。従って、
図5(b)に示すように、曲率感応ゲインGκは、曲率κが大きな値になるほど小さな値に設定される。
【0034】
更に、カント感応ゲインGcaの特性は、例えば、
図6に示すように、車両がカントを下って走行していく場合(
図6(a)参照)と、カントを登って走行していく場合(
図6(b)参照)に分けて設定されている。すなわち、
図9の下り方向の軌跡に示すように、カントを下って走行していく場合は、逸脱が防止された車両が、その後、このカントによって逸脱をしないようにする必要がある。従って、
図6(a)に示すように、カント感応ゲインGcaは、カント角θcaが大きくなるほど大きな値になるように設定される。逆に、
図9の登り方向の軌跡に示すように、カントを登って走行していく場合は、逸脱が防止された車両が、その後、このカントから緩やかに車線内に戻す方が望ましい。従って、
図6(b)に示すように、カント感応ゲインGcaは、カント角θcaが大きくなるほど小さな値になるように設定される。
【0035】
また、車線幅感応ゲインGwは、
図7に示すように、車線幅w(=CL−CR)が広いほど、大きな値になるように設定される。これは、車線幅wが広いほど大きなヨー角が設定されるようにして、逸脱が防止された車両が確実に車線内に復帰できるように設定されるものである。
【0036】
次に、S109に進み、例えば、以下の(11)式により、車線からの逸脱を防止した車両に付加する逸脱を防止する第2の目標旋回量としての第2の目標ヨーレートγt2を算出する。
γt2=(θyawt−θyaw)/Ttgc …(11)
ここで、Ttgcは、実験、演算等により予め
車種毎の特性に応じて設定しておいた目標制御時間である。目標制御時間Ttgc
の初期値は固定値
であり、制御開始
後は継続時間Tcを差分した値(Ttgc−Tc)
である。
【0037】
次いで、S110に進み、第1の目標ヨーレートγt1と第2の目標ヨーレートγt2とを比較し、第1の目標ヨーレートγt1が第2の目標ヨーレートγt2以上(γt1≧γt2)の場合、S111に進み、車両が車線を逸脱するのを防止するべく、第1の目標ヨーレートγt1を車両に付加する目標旋回量としての目標ヨーレートγtに設定する。
【0038】
逆に、第2の目標ヨーレートγt2が第1の目標ヨーレートγt1を超えている場合(γt2>γt1の場合)、S112に進み、車線からの逸脱を防止した車両の車線逸脱防止状態を安定して維持するべく、第2の目標ヨーレートγt2を車両に付加する目標旋回量としての目標ヨーレートγtに設定する。
【0039】
そして、S111、或いは、S112で目標ヨーレートγtを設定した後は、S113に進み、例えば、以下の(12)式により、目標トルクTpを算出してモータ駆動部21に出力し、電動モータ12が駆動される。
Tp=Kp・(γt−γ)+Ki・∫(γt−γ)
+Kd・d(γt−γ)/dt …(12)
ここで、Kpは比例ゲイン、Kiは積分ゲイン、Kdは微分ゲインである。
【0040】
このように、本実施の形態によれば、車線幅方向車両横位置xvを算出し、車線に対する車両のヨー角θyawを算出し、車線幅方向車両横位置xvとヨー角θyawと車速Vに基づいて車線から逸脱する車線逸脱予想時間Tttlcを算出し、ヨー角θyawと車線逸脱予想時間Tttlcとに基づいて車線からの逸脱を防止する第1の目標ヨーレートγt1を算出し、車線からの逸脱を防止した車両に付加する逸脱を防止する第2の目標ヨーレートγt2を算出し、第1の目標ヨーレートγt1が第2の目標ヨーレートγt2以上の場合は第1の目標ヨーレートγt1を車両に付加する目標ヨーレートγtに設定する一方、第2の目標ヨーレートγt2が第1の目標ヨーレートγt1を超えた場合は第2の目標ヨーレートγt2を車両に付加する目標ヨーレートγtに設定して、該目標ヨーレートγtと実際のヨーレートγを基に目標トルクTpを算出してモータ駆動部21に出力する。このため、
図10(a)、
図10(b)に示すように、車両が車線から逸脱するまでは、第1の目標ヨーレートγt1が目標ヨーレートγtとして設定されて車線からの逸脱が確実に防止され、車両の車線からの逸脱が防止された後は、目標制御時間Ttgcを考慮した第2の目標ヨーレートγt2が目標ヨーレートγtとして設定されるので、確実に車両の車線からの逸脱を防止して、車両の車線からの逸脱が防止された後に、たとえ、路面のカント等の外乱が車両に作用したとしても、車線端付近で、再度、逸脱防止制御が介入して過度の制御トルクが付加されることもなく、制御継続時間のばらつきによるドライバに違和感を与えることもない。
【0041】
尚、本実施の形態では、第2の目標ヨーレートγt2の基となる目標ヨー角θyawtを、車速V、曲率κ、カント角θca、車線幅wに基づいて設定するようになっているが、何れか一つのパラメータ、或いは、何れか2つ、或いは、何れか3つのパラメータにより算出するようにしても良い。また、本発明の実施の形態では、目標旋回量として目標ヨーレートを求めて制御するようになっているが、他の、目標ヨーモーメント等のパラメータで制御するようにしても良い。
【符号の説明】
【0042】
1 電動パワーステアリング装置
2 ステアリング軸
4 ステアリングホイール
5 ピニオン軸
10L、10R 車輪
12 電動モータ
20 操舵制御部(逸脱予想手段、目標制御時間設定手段、第1の目標旋回量算出手段、第2の目標旋回量算出手段、目標旋回量設定手段)
21 モータ駆動部
31 前方認識装置(車線検出手段)
32 車速センサ
33 操舵角センサ
34 ヨーレートセンサ
35 カント角検出センサ
40 警報制御装置