特許第6338420号(P6338420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338420
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】抵抗溶接機の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   B23K11/24 392
   B23K11/24 335
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-71693(P2014-71693)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193020(P2015-193020A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082223
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094282
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 洋資
(72)【発明者】
【氏名】高崎 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 賢一
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−190594(JP,A)
【文献】 特開2000−084678(JP,A)
【文献】 特開2002−160071(JP,A)
【文献】 特開平04−333380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流出力をインバータによって交流に変換して溶接トランスの一次側に導き、この溶接トランスで降圧された二次側交流出力を全波整流器を介し溶接電極に導いて溶接を行う抵抗溶接機の制御方法において、
前記溶接電極の電流設定パターンを含む溶接条件を設定する一方、前記溶接電極の印加電圧および溶接電流を前記インバータに負帰還させ前記溶接条件に適合するように前記インバータをPWM制御し、この溶接電流と電流設定パターンとの偏差がゼロクロスする回数Nを積算して設定値Nと比較することによって制御の安定性を判別するとともに、前記ゼロクロスする回数Nを積算する監視範囲と前記設定値Nとを設定可能にしたことを特徴とする抵抗溶接機の制御方法。
【請求項2】
溶接の良否は、N>Nの時に前記溶接条件の変更を促すための警告を出力することを特徴とする請求項1の抵抗溶接機の制御方法。
【請求項3】
ゼロクロスする回数Nの積算値と共に、溶接電流の電流設定パターンからの偏差Dを求め、この偏差Dが設定値±Dの範囲内にあることから制御の安定性を判別することを特徴とする請求項1の抵抗溶接機の制御方法。
【請求項4】
前記インバータは、溶接電圧および溶接電流の負帰還量をPID制御すると共に、前記溶接条件の変更はこれらPID制御の重み係数を変化させることにより行う請求項1の抵抗溶接機の制御方法。
【請求項5】
直流出力をインバータによって交流に変換して溶接トランスの一次側に導き、この溶接トランスで降圧された二次側交流出力を全波整流器を介し溶接電極に導いて溶接を行う抵抗溶接機の制御装置において、
前記インバータの出力を制御するPWM制御部と、
溶接電極の印加電圧および電流を検出して前記PWM制御部に負帰還する増幅乗算部と、
制御モードに対応する制御プログラムを選択するためのプログラム選択入力部と、
選択された前記制御プログラムに基づいて溶接電流の電流設定パターンを求め前記PWM制御部に送出する溶接条件設定部と、
この溶接電流と電流設定パターンとの偏差がゼロクロスする回数Nを積算する監視範囲とゼロクロスする回数Nの設定値Nとを入力するモニタリング条件入力部と、
前記増幅乗算部で検出した溶接電流を前記電流設定パターンと比較して前記監視範囲におけるゼロクロスする回数Nを積算するゼロクロス検出部と、
ゼロクロスする回数Nの積算値を前記ゼロクロスする回数Nの設定値Nと比較して制御の安定性を判定する比較判定部と、
を備えることを特徴とする抵抗溶接機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交流電源出力を整流し、さらにインバータを介して溶接トランスに導くようにしたインバータ式の抵抗溶接機の制御方法および制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、直流をインバータを用いて高周波の交流にした後、溶接トランスの一次側に導き、この時に溶接トランスの二次側に誘起される交流低電圧を整流して溶接電極に導き溶接を行うインバータ方式の抵抗溶接機が公知である。この方式によれば、商用交流電源の周波数に比べて高い周波数の電流を溶接トランスに導くから、商用電源周波数の交流を溶接トランスに導く単相交流式抵抗溶接機に比べて溶接トランスを小型化できるという特徴がある。
【0003】
このようなインバータ式のものにおいて、溶接電極に流れる電流を検出し、この電流(実効値)が一定になるようにインバータをPWM(Pulse Width Modulation)方式などで電力制御(以下PWM制御ともいう。)する定電流制御方式がある。この方式では、溶接電極に電流を流す時間が予めタイマーで設定した時間になるのを待って溶接を停止させる。また溶接電極に加わる電圧を検出して、この電圧が一定になるようにインバータをPWM制御する定電圧制御方式もある。この方式も溶接時間はタイマーで設定する。 さらに溶接電極の電流および電圧を同時に検出して、これらの積により電力を求め、この電力が一定になるようにインバータを制御する定電力制御方式も知られている(特許文献1)。
【0004】
このように溶接電流、電圧、電力などをインバータに負帰還させる場合に、溶接電流などが予定した設定パターンとなるようにインバータをPWM制御するものも公知である。この場合には負帰還回路では、溶接電流、溶接電圧、溶接電力などの変動に対する比例値、積分値、微分値を求め、これらに所定の重み係数を積算した総和を負帰還量とすることも公知である(PID制御;特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−30084号公報
【特許文献2】特開2002−160071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしPID制御においては、次のような問題が有る。溶接電流などは所定設定パターンからの変動量すなわち偏差(絶対値を含む)が小さい時には、制御がスムーズで目標とする設定パターンに良く追従した制御が行われていると考えられるが、溶接部の異常などの外乱が発生するとこの偏差の変動量が大きくなることがあり、この時には制御が激しく暴れるような状態(例えば発振・共振しかかっている状態)が生じることがある。
【0007】
このような状態は、実際の制御パターンを目標値(設定パターン)に早く近づかせるために比例値(P値)、積分値(I値)、微分値(D値)などを大きく設定した(負帰還量を大きくした)場合や、設定パターンに無理があるような場合(電源の追従能力を超える制御パターンの波形設定をしたような場合など)に生じ得る。
【0008】
ここに外乱としては、溶接箇所でのワークの溶け易さのバラツキが大きく溶接部の抵抗値が想定外の変化を見せた時、ワークの酸化膜や汚れや表面状態(荒れ)などの変化で接触抵抗が不安定な時などに発生することが考えられる。このような溶接異常の発生は、従来は例えばスプラッシュ(スパーク、溶接飛沫)の発生を見てスプラッシュの発生頻度が高いことなどから気付くことができるが、これではスプラッシュ発生後の事後判断となり、溶接異常の発生を予測して予防することが困難であり、高精度な溶接に対応ができないという問題が有る。
【0009】
この発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、PID制御の負帰還量の設定が不適切であったり、溶接条件の外乱などにより発生する溶接不良を予測して、負帰還回路におけるPID制御要素(比例、積分、微分)の重み付けなどを的確に設定するなどの対応策をとれるようにした抵抗溶接機の制御方法を提供することを第1の目的とする。またこの抵抗溶接機の制御装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によれば第1の目的は、直流出力をインバータによって交流に変換して溶接トランスの一次側に導き、この溶接トランスで降圧された二次側交流出力を全波整流器を介し溶接電極に導いて溶接を行う抵抗溶接機の制御方法において、
前記溶接電極の電流設定パターンを含む溶接条件を設定する一方、前記溶接電極の印加電圧および溶接電流を前記インバータに負帰還させ前記溶接条件に適合するように前記インバータをPWM制御し、この溶接電流と電流設定パターンとの偏差がゼロクロスする回数Nを積算して設定値Nと比較することによって制御の安定性を判別するとともに、前記ゼロクロスする回数Nを積算する監視範囲と前記設定値Nとを設定可能にしたことを特徴とする抵抗溶接機の制御方法、により達成される。
【0011】
また第2の目的は、直流出力をインバータによって交流に変換して溶接トランスの一次側に導き、この溶接トランスで降圧された二次側交流出力を全波整流器を介し溶接電極に導いて溶接を行う抵抗溶接機の制御装置において、
前記インバータの出力を制御するPWM制御部と、溶接電極の印加電圧および電流を検出して前記PWM制御部に負帰還する増幅乗算部と、制御モードに対応する制御プログラムを選択するためのプログラム選択入力部と、選択された前記制御プログラムに基づいて溶接電流の電流設定パターンを求め前記PWM制御部に送出する溶接条件設定部と、この溶接電流と電流設定パターンとの偏差がゼロクロスする回数Nを積算する監視範囲とゼロクロスする回数Nの設定値Nとを入力するモニタリング条件入力部と、前記増幅乗算部で検出した溶接電流を前記電流設定パターンと比較して前記監視範囲におけるゼロクロスする回数Nを積算するゼロクロス検出部と、ゼロクロスする回数Nの積算値を前記ゼロクロスする回数Nの設定値Nと比較して制御の安定性を判定する比較判定部と、を備えることを特徴とする抵抗溶接機の制御装置、により達成される。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、溶接電極の電流設定パターンを含む溶接条件を設定する一方、溶接電極の印加電圧および溶接電流をインバータに負帰還させ前記溶接条件に適合するように前記インバータをPWM制御し、この溶接電流と電流設定パターンとの偏差がゼロクロスする回数Nを積算して設定値Nと比較することによって制御の安定性を判別するから、例えばN>Nの時に制御系が不安定であると判定し、PWM制御の負帰還量を変更することなどにより制御系を安定させることができる。また電流などの設定パターンに制御が無理なパターンを含んでいる時にはこのパターンを変更することにより制御系を安定させることもできる。さらに溶接初期や溶接末期の電流不安定時などを監視範囲から除外することにより、制御精度をさらに向上させることができる。
第2の発明によれば、この制御方法の実施に直接使用する抵抗溶接機の制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例である抵抗溶接機の外観図
図2】その回路構成ブロック図
図3】同じくその動作を示す流れ図
図4】溶接電流の変動と電流設定パターンとを示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
溶接の良否は、N>Nの時に前記溶接条件の変更を促すための警告を出力するように構成することができる(請求項2)。溶接機の操作者は、この警告(アラーム)により溶接条件変更の必要性を知ることができるので、その後の溶接不良の発生を事前に防ぐことが可能になる。
【0015】
ゼロクロスする回数Nの積算値と共に、溶接電流の電流設定パターからの偏差Dを求め、この偏差Dの絶対値を設定値Dと比較することにより制御の安定性を判別してもよい(請求項3)。この場合には、ゼロクロスする回数Nが設定値N以上になった時だけだけでなく、偏差Dの変動幅が過大(設定値±Dの範囲外)になった時にも警告を出して溶接条件変更の必要性を知らせることができるので、制御不安定性の検出精度が一層向上する。前記インバータは、溶接電圧および溶接電流の負帰還量をPID制御すると共に、前記溶接条件の変更はこれらPID制御の重み係数を変化させることにより行うことができる(請求項4)。
【実施例】
【0016】
図1において符号10はコントローラ、12は溶接トランスケース、14は溶接ヘッドである。コントローラ10は電源スイッチ16、プログラム選択入力部18、表示パネル20を持つ。プログラム選択入力部18では、例えば定電流制御、低電圧制御、定電力制御、固定パルス幅制御などのいずれかの制御モードを選択する。
【0017】
溶接ヘッド14は、上下動可能な上のクランプ部22aと、所定高さに固定された下のクランプ部22bを持ち、これらのクランプ部22a,22bにそれぞれ溶接電極24a,24bが固定されている。各電極24a,24bはウェルドケーブル26によって溶接トランスケース12に収容された溶接トランス28(図2)の二次側に整流器であるダイオード30、30(図2)を介して接続されている。この溶接トランス28の一次側はパワーケーブル32(図1)によってコントローラ10に接続されている。
【0018】
溶接ヘッド14の可動クランプ部22aは、ばね(図示せず)を介してエアシリンダ(共に図示せず)により上下に駆動される。また両電極24a,24bの間にはワークの溶接部(図示せず)が置かれる。
【0019】
足踏みスイッチ(図示せず)から送られるオン信号はアクチュエータケーブル34を介してコントローラ10に送られ、この信号(押圧信号)によってエアシリンダは作動する。そして電極24a,24bの溶接部に対する押圧力が一定値になるとリミットスイッチ(図示せず)がオンとなり、このオン信号がアクチュエータケーブル34を介してコントローラ10に送られる(図3のステップS100)。コントローラ10はこのオン信号に基づいて溶接動作を開始させる。すなわちこのオン信号がスタート信号となる。
【0020】
図1で36はウェルドセンスケーブルであり、溶接トランス28の二次側電流を示す信号をコントローラ10に導く。この信号は溶接電流値を示す信号である。38は電圧検出用ケーブルであり、クランプ部22a,22bに接続されている。このケーブル38は電極24a,24b間の電圧を検出してコントローラ10に導く。
【0021】
次にコントローラ10の主回路を図2に基づいて説明する。この図で40は3相交流電源などの電源である。この電源40から3つの相がそれぞれ電源スイッチ16(図1)を介してインバータ42に導かれる。
【0022】
インバータ42は、4個のNPNトランジスタからなるブリッジで構成される。このインバータ42は電源40の三相交流をダイオード(図示せず)にて整流し、ダイオード(図示せず)で平滑した直流電源をPWM制御して高周波数の電流に変換し、溶接トランス28の一次側に供給する。この溶接トランス28の二次側出力は整流器のダイオード30、30で全波整流され、溶接電極24a,24bに導かれる。
【0023】
44はPWM制御部であり、インバータ42をPWM(Pulse Width Modulation)方式によって電力制御する。なおこのPWM制御部44は、例えば定電流、定電圧、定電力、固定パルス幅などの4種の異なる制御方式を選択可能である。この選択は前記したプログラム選択入力部18(図1、2)で行う。これらの制御方式については、特許文献1に詳細に説明されているのでここでは説明しない。
【0024】
PWM制御部44は、選択された方式に対応するプログラムで設定される溶接条件に基づいてインバータ42のトランジスタをオン/オフ制御する。この溶接条件は、電流設定パターンA(図4に点線で示す)を含み、溶接条件設定部46で設定される。図2で48は増幅乗算部であり、前記溶接電極24a、24bに流れる溶接電流Iと両電極間の溶接電圧Vを示す信号i、vを増幅し、またこれらの乗算により電力Wを算出する。これら電流I、電圧V、電力WはPWM制御部44に導かれ、ここで前記したように選択されたプログラムに従ってPID制御の比例成分P、積分成分I、微分成分Dの各成分を重み付けし、負帰還量が算出される。
【0025】
50はゼロクロス検出部であり、前記溶接条件設定部46で求めた電流設定パターンAと、増幅乗算部48で求めた実際の溶接電流波形I(図4の実線)とを比較して、両者の偏差を取り、この偏差のゼロクロスを検出し、予め設定した監視範囲a(図4)内での交差回数(ゼロクロス回数)を積算する。この積算値Nは、比較判定部52で基準値N0と比較され、N>N0であれば制御が不適切であるとしてその結果を比較判定結果出力部54に出力すると共に警告表示部56により警告音などで警告する。
【0026】
この警告を受けて操作者はPWM制御部44に負帰還する前記PID制御の各成分の重み付けを修正し、ゼロクロス回数の積算値Nが設定値N0を超えないように設定する。なおこの設定値N0は、モニタリング条件入力部58で入力され、設定値メモリ60に記憶しておく。
【0027】
なおこのモニタリング条件入力部58では偏差の変動幅の許容範囲を決める基準値±D0も設定しておき、この基準値D0は前記ゼロクロス検出部50に送られて、ここで溶接電流の偏差Dがこの基準値の幅すなわち±D0の幅内にあるか否かを検出する。この場合基準値D0は、偏差Dの変動幅が過大であるか否かを求めるためのしきい値である。この偏差Dの絶対値|D|が基準値±D0の幅より大なら偏差Dは過大で制御不安定であり、基準値±D0の幅内にあれば制御安定と判定する。
【0028】
次に動作を図2、3、4を用いて説明する。前記したように電極24a,24bの溶接部に対する押圧力が一定値になるとリミットスイッチ(図示せず)がオンとなり、このオン信号がアクチュエータケーブル34を介してコントローラ10に送られる(図3、ステップS100)。コントローラ10はこのオン信号に基づいて電源40に通電を開始し(ステップS102)、溶接動作を開始させる。
【0029】
コントローラ10は、予めプログラム選択入力部18で選択された制御モードに対応する制御プログラムなどに対応して、溶接条件設定部46で溶接条件を設定する。この溶接条件は制御モードにより異なり、例えば定電流制御の場合には制御の目標となる電流設定パターンAを含む(ステップS104)。
【0030】
PWM制御部44は、この溶接条件に従ってインバータ42の各トランジスタをオン・オフ制御し、高周波の所定電圧、電流を溶接トランス28の一次側に導く。溶接トランス28の二次側に誘起される交流は、ダイオード30、30によって全波整流され電極24a、24bに導かれ、溶接が始まる。
【0031】
溶接電流iと溶接電圧vとが検出されて、増幅乗算部48に入力される。ここでこれら電流iと電圧vの信号が増幅されて電流I、電圧Vが求められ、またこれらの積である電力Wが算出される。PWM制御部44ではこれら電流I、電圧V、電力Wを用いて、PID制御の負帰還量を演算し、インバータ42をPWM制御する(ステップS106)。
【0032】
増幅乗算部48で求めた電流Iと、溶接条件設定部46で設定した目標制御パターン(例えば定電流制御の場合には電流設定パターンA)とは、ゼロクロス検出部50に送られ、ここでこれらの偏差Dが検出される(ステップS108)。この偏差Dは、溶接時間に比べて十分に短い周期でサンプリングされる。この偏差Dは図4(A)に示すように、制御がスムーズ(安定)で適切である時には小さいが、同図(B)に示すように、制御が非スムーズ(不安定)であるときには正負に激しく変化する。
【0033】
ゼロクロス検出部50では所定の監視範囲aにおいてこの偏差Dが正負に変化するゼロクロスを検出し(ステップS110)、その正負変化回数N、すなわちゼロクロス回数Nを積算する(ステップS112)。比較判定部52ではこのゼロクロス回数Nをメモリ60に記憶した設定値N0と比較し(ステップS114)、N>N0なら比較判定結果出力部54にブザーなどの音を出力すると共に、警告表示部56にアラーム表示する(ステップS116)。
【0034】
またこの実施例では、このゼロクロス検出部50で検出した偏差Dを、メモリ60から入力される基準値D0と比較し、偏差Dの絶対値|D|がこの基準値D0の幅より大となったこと(偏差Dの変動幅が基準値D0の正負の幅よりも過大になったこと)を検出して(ステップS118)、警告を発する(ステップS116)ようにしている。このようにゼロクロス回数Nを監視するだけでなく、偏差Dの変動幅(振幅)も監視しているので、制御が不安定になったことを高精度に検出することができる。
【0035】
以上のようにして比較判定部52で制御不安定と判定しなければ、溶接箇所の溶接に必要な溶接電流の通電が終了したか否かを判定し(ステップS120)、終了していなければさらにステップ106に戻って以上の動作を繰り返す。その途中で比較判定部52が制御不安定と判定すれば、たとえばコントローラ10の警告表示部56に溶接不良であることを表示し、溶接途中で制御安定と判定すれば溶接良好と表示して(ステップS122)、溶接動作を終了する(ステップS124)。
【符号の説明】
【0036】
10 コントローラ
18 プログラム選択入力部
28 溶接トランス
24a、24b 溶接電極
40 3相交流電源
42 インバータ
44 PWM制御部
46 溶接条件設定部
48 増幅乗算部
50 ゼロクロス検出部
52 比較判定部
54 比較判定結果出力部
56 警告表示部
58 モニタリング条件入力部
A 電流設定パターン(目標値パターン)
I 溶接電流波形
D 偏差
a 監視範囲
図1
図2
図3
図4