(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ハロゲン含有潮解性モノマーは、2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド及び/又は2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリドである請求項1〜5のいずれかに記載の表面改質方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、管内の移動時に剥がれやめくれ等により潤滑性が低下する等の問題点がある樹脂コーティングではなく、化学的に固定化された潤滑表面を有する加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーの表面改質方法を提供することを目的とする。また、該表面改質方法により得られる改質された表面を少なくとも一部に有するカテーテル等の医療用具などの表面改質弾性体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含む表面改質方法に関する。
【0007】
本発明は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、光重合開始剤の存在下で300〜400nmのUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含む表面改質方法に関する。
【0008】
前記工程1は、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させ、又は更に300〜400nmのUV光を照射し、前記表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させるものであることが好ましい。
【0009】
前記光重合開始剤は、ベンゾフェノン系化合物及び/又はチオキサントン系化合物であることが好ましい。
【0010】
前記光照射時又は光照射前に反応容器、反応筒及び反応液に不活性ガスを導入し、不活性ガス雰囲気に置換して重合させることが好ましい。
【0011】
前記ハロゲン含有潮解性モノマーは、窒素含有モノマーであることが好ましい。ここで、前記窒素含有モノマーは、2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド及び/又は2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリドであることが好ましい。
【0012】
前記ハロゲン含有潮解性モノマー(液体)又はその溶液が重合禁止剤を含むもので、該重合禁止剤の存在下で重合させることが好ましい。ここで、前記重合禁止剤は、4−メチルフェノールであることが好ましい。
前記ポリマー鎖の長さは、10〜5000nmであることが好ましい。
【0013】
本発明は、前記表面改質方法により得られる表面改質弾性体に関する。
本発明は、前記表面改質方法により得られる水存在下での潤滑性が要求される表面改質弾性体に関する。
【0014】
本発明は、前記表面改質方法により三次元形状の固体表面の少なくとも一部が改質された表面改質弾性体に関する。
本発明はまた、前記表面改質方法により改質された表面を少なくとも一部に有するカテーテルに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含む表面改質方法、又は、光重合開始剤の存在下で300〜400nmのUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含む表面改質方法、であるので、改質対象物表面に潤滑性を有する高分子が固定されて、優れた潤滑性、及び潤滑性の繰り返し移動に対する耐久性、すなわち潤滑性の低下がほとんどみられない耐久性を付与できる。従って、該方法を用いて対象物表面にポリマー鎖を形成することで、以上の性能に優れたカテーテルなどの表面改質弾性体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、前記改質対象物の表面に重合開始点を形成する工程1と、前記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程2とを含む表面改質方法である。
【0018】
工程1では、加硫成形後のゴム又は成形後の熱可塑性エラストマー(改質対象物)の表面に重合開始点が形成される。例えば、前記工程1は、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させて重合開始点を形成すること、前記改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させて更に300〜400nmのUV光を照射し、該表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させること、等により実施できる。
【0019】
改質対象物としての熱可塑性エラストマーとしては、ナイロン、ポリエステル、ウレタン、ポリプロピレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、及びそれらの動的架橋熱可塑性エラストマーが挙げられる。ナイロンでは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などが挙げられる。また動的架橋熱可塑性エラストマーの場合、ハロゲン化ブチルゴムを熱可塑性エラストマー中で動的架橋したものが好ましい。この場合の熱可塑性エラストマーは、ナイロン、ウレタン、ポリプロピレン、SIBS(スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体)などが好ましい。
【0020】
改質対象物としてのゴムとしては、天然ゴム、脱タンパク天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、及びイソプレンユニットを不飽和度として数パーセント含むブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムなどが挙げられる。
【0021】
なお、ゴムの加硫条件は適宜設定すれば良く、ゴムの加硫温度は、好ましくは140℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは175℃以上である。
【0022】
光重合開始剤としては、例えば、カルボニル化合物、テトラエチルチウラムジスルフィドなどの有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、なかでも、カルボニル化合物が好ましい。
【0023】
光重合開始剤としてのカルボニル化合物としては、ベンゾフェノン及びその誘導体(ベンゾフェノン系化合物)が好ましく、例えば、下記式で表されるベンゾフェノン系化合物を好適に使用できる。
【化1】
【0024】
式において、R
1〜R
5及びR
1′〜R
5′は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、1〜3級アミノ基、メルカプト基、又は酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでもよい炭化水素基を表し、隣り合う任意の2つが互いに連結し、それらが結合している炭素原子と共に環構造を形成してもよい。
【0025】
ベンゾフェノン系化合物の具体例としては、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4′−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4′−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。なかでも、良好にポリマーブラシが得られるという点から、ベンゾフェノン、キサントン、9−フルオレノンが特に好ましい。
【0026】
光重合開始剤としては、重合速度が速い点、及びゴムなどに吸着及び/又は反応し易い点から、チオキサントン系化合物も好適に使用可能である。例えば、下記式で表される化合物を好適に使用できる。
【化2】
(式中、において、R
6〜R
9及びR
6′〜R
9′は、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基を表す。)
【0027】
上記式で示されるチオキサントン系化合物としては、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,3−ジエチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−シクロヘキシルチオキサントン、4−シクロヘキシルチオキサントン、2−ビニルチオキサントン、2,4−ジビニルチオキサントン2,4−ジフェニルチオキサントン、2−ブテニル−4−フェニルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−p−オクチルオキシフェニル−4−エチルチオキサントンなどが挙げられる。なかでも、R
11〜R
14及びR
11′〜R
14′のうちの1〜2個、特に2個がアルキル基により置換されているものが好ましく、2,4−Diethylthioxanthone(2,4−ジエチルチオキサントン)がより好ましい。
【0028】
ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤の改質対象物表面への吸着方法としては、例えば、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物については、対象物の改質する表面部位を、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物を有機溶媒に溶解させて得られた溶液で処理することで表面に吸着させ、必要に応じて有機溶媒を乾燥により蒸発させることにより、重合開始点が形成される。表面処理方法としては、該ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物溶液を改質対象物の表面に接触させることが可能であれば特に限定されず、例えば、該ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物溶液の塗布、吹き付け、該溶液中への浸漬などが好適である。更に、一部の表面にのみ表面改質が必要なときには、必要な一部の表面にのみ光重合開始剤を吸着させればよく、この場合には、例えば、該溶液の塗布、該溶液の吹き付けなどが好適である。前記溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、THFなどを使用できるが、改質対象物を膨潤させない点、乾燥・蒸発が早い点でアセトンが好ましい。
【0029】
また、前記のとおり、改質対象物の表面に光重合開始剤を吸着させた後、更に300〜400nmのUV光を照射し、該表面上の光重合開始剤から重合開始点を形成させることも可能であるが、この場合のUV光照射については公知の方法を採用でき、例えば、後述の工程2のUV光照射と同様の方法で実施できる。
【0030】
工程2では、工程1で形成された記重合開始点を起点にして、300〜400nmのUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させることが行われる。
【0031】
ハロゲン含有潮解性モノマーは、分子内にハロゲン原子を有し、かつ潮解性を持つモノマー、すなわち、空気中の水分(水蒸気)を取り込んで自発的に水溶液になる性質を持つハロゲン原子含有モノマーである。ハロゲン含有潮解性モノマーは、このような性質を持つものであれば特に限定されず、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
潤滑性、その耐久性の点から、好適なハロゲン含有潮解性モノマーとしては、窒素含有モノマー(ハロゲン−窒素含有潮解性モノマー)が挙げられ、具体的には、下記式(I)で示される化合物等が好ましい。
【化3】
(式中、Aは、酸素原子又はNHを表す。Bは、炭素数1〜4のアルキレン基を表す。R
11は、水素原子又はメチル基を表す。R
12、R
13及びR
14は、同一若しくは異なって、炭素数1〜4のアルキル基を表す。X
−はハロゲンイオンを表す。)
【0033】
Aは酸素原子が好ましい。Bとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等の直鎖、分岐状アルキレン基が挙げられ、なかでも、メチレン基、エチレン基が好ましい。R
12〜14としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の直鎖、分岐状アルキル基が挙げられ、なかでも、メチル基、エチル基が好ましい。X(ハロゲン原子)としては、フッ素、塩素、臭素等が挙げられ、なかでも、塩素が好ましい。
【0034】
式(I)で示される窒素含有モノマーとしては、2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド(2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアミニウム・クロリド)、2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド(2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアミニウム・クロリド)、2−(メタクロイルオキシ)エチルジメチルエチルアンモニウム・クロリド(2−(メタクロイルオキシ)エチルジメチルエチルアミニウム・クロリド)、2−(アクリロイルオキシ)エチルジメチルエチルアンモニウム・クロリド(2−(アクリロイルオキシ)エチルジメチルエチルアミニウム・クロリド)等が例示される。
【0035】
なお、ハロゲン含有潮解性モノマーの他に、アクリル酸アルカリ金属塩(アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムなど)、メタクリル酸アルカリ金属塩(メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウムなど)等のアルカリ金属含有モノマー;カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン等の双性イオン性モノマーをモノマー成分として用い、ポリマー鎖を形成してもよい。
【0036】
工程2のハロゲン含有潮解性モノマーのラジカル重合の方法としては、ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物などが吸着した改質対象物の表面に、ハロゲン含有潮解性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液を塗工(噴霧)し、又は、該改質対象物をハロゲン含有潮解性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液に浸漬し、UV光を照射することでそれぞれのラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該改質対象物表面に対して、ポリマー鎖を成長させることができる。更に前記塗工後に、表面に透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射することでそれぞれのラジカル重合(光ラジカル重合)を進行させ、改質対象物表面に対して、ポリマーを成長させることもできる。
【0037】
塗工(噴霧)溶媒、浸漬方法、照射条件などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。なお、モノマーの溶液としては、水溶液又は使用する光重合開始剤(ベンゾフェノン系、チオキサントン系化合物など)を溶解しない有機溶媒に溶解させた溶液が使用される。また、モノマー(液体)、その溶液として、4−メチルフェノールなどの公知の重合禁止剤を含むものも使用できる。
【0038】
本発明では、ハロゲン含有潮解性モノマー(液体)若しくはその溶液の塗布後又はハロゲン含有潮解性モノマー若しくはその溶液への浸漬後、光照射することでハロゲン含有潮解性モノマーのラジカル重合が進行するが、主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプなどのUV照射光源を好適に利用できる。照射光量は、重合時間や反応の進行の均一性を考慮して適宜設定すればよい。また、反応容器内や反応筒内における酸素などの活性ガスによる重合阻害を防ぐために、光照射時又は光照射前において、反応容器内、反応筒内や反応液中の酸素を除くことが好ましい。そのため、反応容器内、反応筒内や反応液中に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して酸素などの活性ガスを反応系外に排出し、反応系内を不活性ガス雰囲気に置換すること、などが適宜行われている。更に、酸素などの反応阻害を防ぐために、UV照射光源をガラスやプラスチックなどの反応容器と反応液や改質対象物の間に空気層(酸素含有量が15%以上)が入らない位置に設置する、などの工夫も適宜行われる。
【0039】
紫外線の波長は、300〜400nmである。これにより、改質対象物の表面に良好にポリマー鎖を形成できる。光源としては高圧水銀ランプや、365nmの中心波長を持つLED、375nmの中心波長を持つLEDなどを使用することが出来る。355〜380nmのLED光を照射することがより好ましい。特に、ベンゾフェノンの励起波長366nmに近い365nmの中心波長を持つLEDなどが効率の点から好ましい。波長が300nm未満では、改質対象物の分子を切断させて、ダメージを与える可能性があるため、300nm以上の光が好ましく、改質対象物のダメージが非常に少ないという観点から、355nm以上の光が更に好ましい。一方、400nmを超える光では、光重合開始剤が活性されにくく、重合反応が進みにくいため、400nm以下の光が好ましい。なお、LED光は波長が狭く、中心波長以外の波長が出ない点で好適であるが、水銀ランプ等でもフィルターを用いて、300nm未満の光をカットすれば、LED光と同様の効果を得ることも可能である。
【0040】
本発明はまた、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーを改質対象物とする表面改質方法であって、光重合開始剤の存在下で300〜400nmのUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させ、前記改質対象物の表面にポリマー鎖を成長させる工程Iを含む表面改質方法である。具体的には、光重合開始剤を開始剤としてUV光を照射してハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を作製することで、改質対象物の表面にポリマー層が形成された表面改質弾性体を製造できる。工程Iで使用される改質対象物、光重合開始剤、ハロゲン含有潮解性モノマーとしては、前記と同様のものを使用できる。
【0041】
例えば、工程Iは、改質対象物の表面に光重合開始剤及びハロゲン含有潮解性モノマーを接触させた後、300〜400nmのLED光を照射することで、該光重合開始剤から重合開始点を生じさせるとともに、該重合開始点を起点としてハロゲン含有潮解性モノマーをラジカル重合させてポリマー鎖を成長させることにより実施できる。
【0042】
工程Iのハロゲン含有潮解性モノマーのラジカル重合の方法としては、改質対象物の表面に、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などの光重合開始剤を含むハロゲン含有潮解性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液を塗工(噴霧)し、又は、改質対象物を光重合開始剤を含むハロゲン含有潮解性モノマー(液体)若しくはそれらの溶液に浸漬し、紫外線などの光を照射することでラジカル重合(光ラジカル重合)が進行し、該改質対象物表面に対して、ポリマー鎖を成長させることができる。更に、前述の透明なガラス・PET・ポリカーボネートなどで覆い、その上から紫外線などの光を照射する方法なども採用できる。なお、塗工(噴霧)溶媒、浸漬方法、照射条件などは、前述と同様の材料及び方法を適用できる。
【0043】
工程2、工程Iで形成されるポリマー鎖の長さは、好ましくは10〜5000nm、より好ましくは100〜5000nmである。10nm未満であると、良好な潤滑性が得られない傾向がある。5000nmを超えると、潤滑性の更なる向上が期待できず、高価なモノマーを使用するために原料コストが上昇する傾向があり、また、表面処理による表面模様が肉眼で見えるようになり、美観を損ねたり、シール性が低下する傾向がある。
【0044】
工程2、工程Iでは、2種以上のモノマーを同時にラジカル重合させてもよい。更に、改質対象物の表面に複数のポリマー鎖を成長させてもよい。本発明の表面改質方法は、ポリマー鎖間を架橋してもよい。この場合、ポリマー鎖間には、イオン架橋、酸素原子を有する親水性基による架橋、ヨウ素などのハロゲン基による架橋が形成されてもよい。
【0045】
加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーに前記表面改質方法を適用することで、表面改質弾性体が得られる。例えば、水存在下での潤滑性に優れた表面改質弾性体が得られる。また、三次元形状の固体(弾性体など)の少なくとも一部に前記方法を適用することで、改質された表面改質弾性体が得られる。更に、該表面改質弾性体の好ましい例としては、ポリマーブラシ(高分子ブラシ)が挙げられる。ここで、ポリマーブラシとは、表面開始リビングラジカル重合によるgrafting fromのグラフトポリマーを意味する。また、グラフト鎖は、改質対象物の表面から略垂直方向に配向しているものがエントロピーが小さくなり、グラフト鎖の分子運動が低くなることにより、潤滑性が得られて好ましい。更に、ブラシ密度として、0.01chains/nm
2以上である準濃度及び濃度ブラシが好ましい。
【0046】
また、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーに前記表面改質方法を適用することで、改質された表面を少なくとも一部に有するカテーテルなどの医療用具を製造できる。改質は、少なくともカテーテルなどの医療用具の表面の潤滑性を必要とする箇所に施されていることが好ましく、表面全体に施されていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
ナイロン12からなるチューブ状熱可塑性エラストマー表面にベンゾフェノンの3wt%アセトン溶液を塗布して、ベンソフェノンを吸着させ、乾燥した。その後、365nmの波長を持つLED光(5mW/cm
2)を5分照射し、その際、チューブを回転させて、全面に光が照射されるようにした。
その後、2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド水溶液(1.25M)の入ったガラス反応容器に浸漬し、ゴムで蓋をし、アルゴンガスを導入して120分間バブリングをし、酸素を追い出した。ガラス反応容器を回転させながら、365nmの波長を持つLED光(5mW/cm
2)を210分照射してラジカル重合を行い、ナイロンチューブ表面にポリマー鎖を成長させ、表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を得た。
【0049】
(実施例2)
ナイロン12からなるチューブ状熱可塑性エラストマー表面にベンゾフェノンの3wt%アセトン溶液を塗布して、ベンソフェノンを吸着させ、乾燥した。
その後、2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド水溶液(1.25M)の入ったガラス反応容器に浸漬し、ゴムで蓋をし、アルゴンガスを導入して120分間バブリングをし、酸素を追い出した。ガラス反応容器を回転させながら、365nmの波長を持つLED光(5mW/cm
2)を210分照射してラジカル重合を行い、ナイロンチューブ表面にポリマー鎖を成長させ、表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を得た。
【0050】
(実施例3)
ナイロン12からなるチューブ状熱可塑性エラストマー表面に2,4−ジエチルチオキサントンの3wt%アセトン溶液を塗布して、2,4−ジエチルチオキサントンを吸着させ、乾燥した。
その後、2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド水溶液(1.25M)の入ったガラス反応容器に浸漬し、ゴムで蓋をし、アルゴンガスを導入して120分間バブリングをし、酸素を追い出した。ガラス反応容器を回転させながら、365nmの波長を持つLED光(5mW/cm
2)を100分照射してラジカル重合を行い、ナイロンチューブ表面にポリマー鎖を成長させ、表面改質弾性体(ポリマーブラシ)を得た。
【0051】
(実施例4)
実施例1において、ナイロンチューブに代えてウレタンチューブを用いた以外は、実施例1と同様にして、表面改質弾性体(ウレタンチューブ表面にポリマー鎖を成長させたポリマーブラシ)を得た。
【0052】
(比較例1)
ナイロン12からなるチューブそのものを使用した。
【0053】
(比較例2)
ナイロン12からなるチューブの表面に、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸(IPS社製GANTREZ−AN16)の5%メタノール溶液でコーティングしたものを使用した。なお、血管カテーテルによく使用される材料がナイロン12であり、表面の潤滑性を出すための標準的な潤滑剤がメチルビニルエーテル−無水マレイン酸である。
【0054】
実施例、比較例で作製した表面改質弾性体を以下の方法で評価した。
(ポリマー鎖の長さ)
チューブ表面に形成されたポリマー鎖の長さは、ポリマー鎖が形成されたチューブ断面を、SEMを使用し、加速電圧15kV、1000倍で測定した。撮影されたポリマー層の厚みをポリマー鎖の長さとした。
【0055】
(潤滑性)
チューブ表面に水を付け、表面の滑り性について、人の指による感応評価を行った。滑り性が良いものを5点、滑り性が悪く滑らないものを1点とする基準において、10人が感応評価を行い、その平均値を算出した。
【0056】
(潤滑性の耐久性)
チューブ表面に水を付けた後、チューブを指で挟んで移動させるというサイクルを100回繰り返した後、再度、前記潤滑性の評価に従って10人が感応評価を行い、その平均値及び初期潤滑性からの低下度を算出した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から、実施例のチューブ表面は、潤滑性が高く、耐久性も良好で、かつ潤滑性の低下が非常に少なかった。一方、チューブ自体の比較例1は、潤滑性が非常に悪く、汎用品の比較例2は、初期の潤滑性はある程度高いものの、耐久性が低く、潤滑性の低下が非常に大きかった。
【0059】
従って、2−(メタクロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド、2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム・クロリド等のハロゲン含有潮解性モノマーを用いて、血管カテーテル等の表面にポリマー鎖を形成することで、十分な潤滑性を付与できると同時に、その耐久性も付与することが可能であることが明らかとなった。