(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
起振体と、前記起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と前記起振体との間に配置される第1軸受と、前記第2外歯歯車と前記起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1軸受は、複数の第1転動体と、前記第1転動体を保持する第1保持器と、を有し、
前記第2軸受は、複数の第2転動体と、前記第2転動体を保持する第2保持器と、を有し、
前記第1保持器と前記第2保持器とは別体に構成され、
前記第1転動体の数と前記第2転動体の数とが異なることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
起振体と、前記起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と前記起振体との間に配置される第1軸受と、前記第2外歯歯車と前記起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1軸受は、複数の第1転動体と、前記第1転動体を保持する第1保持器と、を有し、
前記第2軸受は、複数の第2転動体と、前記第2転動体を保持する第2保持器と、を有し、
前記第1保持器と前記第2保持器とは別体に構成され、
前記第1保持器は、前記第1転動体を保持する複数の第1ポケットを有し、複数の第1ポケットの少なくとも一部は他の第1ポケットと周方向幅が異なるか、または、第1ポケットと第1ポケットの間の柱部の少なくとも一部は他の柱部と周方向幅が異なることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
前記第1保持器は、すべての第1ポケットの周方向幅が同じで、少なくとも一部の柱部は他の柱部と周方向幅が異なることを特徴とする請求項2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
前記第2保持器は、前記第2転動体を保持する複数の第2ポケットを有し、すべての第2ポケットの周方向幅および全ての柱部の周方向幅が同じであることを特徴とする請求項2または3に記載の撓み噛合い式歯車装置。
起振体と、前記起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と前記起振体との間に配置される第1軸受と、前記第2外歯歯車と前記起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1軸受は、第1内輪と、複数の第1転動体と、前記第1転動体を保持する第1保持器と、第1外輪と、を有し、
前記第2軸受は、第2内輪と、複数の第2転動体と、前記第2転動体を保持する第2保持器と、第2外輪と、を有し、
前記第1保持器と前記第2保持器とは別体に構成され、
前記起振体に外嵌する前の状態において、
前記第1内輪と前記第1転動体との間の隙間と前記第1転動体と前記第1外輪との間の隙間の合計値と、前記第2内輪と前記第2転動体との間の隙間と前記第2転動体と前記第2外輪との間の隙間の合計値とが異なることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
起振体と、前記起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と前記起振体との間に配置される第1軸受と、前記第2外歯歯車と前記起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1軸受は、複数の第1転動体と、前記第1転動体を保持する第1保持器と、を有し、
前記第2軸受は、複数の第2転動体と、前記第2転動体を保持する第2保持器と、を有し、
前記第1保持器と前記第2保持器とは別体に構成され、
前記第1保持器は、前記第1転動体を保持する複数の第1ポケットを有し、
前記第2保持器は、前記第2転動体を保持する複数の第2ポケットを有し、
前記第1ポケットの周方向幅と前記第2ポケットの周方向幅とが異なることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される従来の撓み噛合い式歯車装置では、2列の転動体が千鳥状に配置されるため、回転軸方向から見ると、隣り合う転動体の周方向の距離は比較的短くなる。そのため、内歯歯車との噛み合いによる噛合い荷重が外歯歯車にかかったとき、隣り合う転動体の間において外歯歯車が径方向内側に凹むように撓むのが抑止される。これにより、起振体は比較的滑らかに回転し、トルクリップルが誘起されるのを抑止できる。
【0005】
この撓み噛合い式歯車装置では、転動体は千鳥状に配置されているため、ある瞬間において噛合領域に存在する転動体の数は、各列で異なる。したがって、自転しながら自ら公転する転動体の数が各列で異なる。逆に言うと、保持器に押されて公転する転動体の数が各列で異なる。そのため、各列で、転動体および保持器の公転速度に速度差が生じうる。各列の転動体を保持する保持器は結合(一体的に形成)されているため、この公転速度の速度差によって、保持器と保持器の結合部分には無理な負荷がかかる。これは、保持器の損傷や変形につながる。
【0006】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、保持器の損傷や変形を抑止しつつトルクリップルを抑止できる撓み噛合い式歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、第1外歯歯車と起振体との間に配置される第1軸受と、第2外歯歯車と起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、第1軸受は、複数の第1転動体と、第1転動体を保持する第1保持器と、を有する。第2軸受は、複数の第2転動体と、第2転動体を保持する第2保持器と、を有する。第1保持器と第2保持器とは別体に構成され、第1転動体の数と第2転動体の数とが異なる。
【0008】
本発明の別の態様もまた、撓み噛合い式歯車装置である。この装置は、起振体と、起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、第1外歯歯車と起振体との間に配置される第1軸受と、第2外歯歯車と起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、第1軸受は、複数の第1転動体と、第1転動体を保持する第1保持器と、を有する。第2軸受は、複数の第2転動体と、第2転動体を保持する第2保持器と、を有する。第1保持器と第2保持器とは別体に構成され、第1保持器は、第1転動体を保持する複数の第1ポケットを有し、複数の第1ポケットの少なくとも一部は他の第1ポケットと周方向幅が異なるか、または、第1ポケットと第1ポケットの間の柱部の少なくとも一部は他の柱部と周方向幅が異なる。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、撓み噛合い式歯車装置である。この装置は、起振体と、起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、第1外歯歯車と起振体との間に配置される第1軸受と、第2外歯歯車と起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、第1軸受は、第1内輪と、複数の第1転動体と、第1転動体を保持する第1保持器と、第1外輪と、を有する。第2軸受は、第2内輪と、複数の第2転動体と、第2転動体を保持する第2保持器と、第2外輪と、を有する。第1保持器と第2保持器とは別体に構成され、起振体に外嵌する前の状態において、第1内輪と第1転動体との間の隙間と第1転動体と第1外輪との間の隙間の合計値と、第2内輪と第2転動体との間の隙間と第2転動体と第2外輪との間の隙間の合計値とが異なる。
【0010】
本発明のさらに別の態様もまた、撓み噛合い式歯車装置である。この装置は、起振体と、起振体により撓み変形される第1外歯歯車および第2外歯歯車と、第1外歯歯車と起振体との間に配置される第1軸受と、第2外歯歯車と起振体との間に配置される第2軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、第1軸受は、複数の第1転動体と、第1転動体を保持する第1保持器と、を有する。第2軸受は、複数の第2転動体と、第2転動体を保持する第2保持器と、を有する。第1保持器と第2保持器とは別体に構成され、第1保持器は、第1転動体を保持する複数の第1ポケットを有する。第2保持器は、第2転動体を保持する複数の第2ポケットを有する。第1ポケットの周方向幅と第2ポケットの周方向幅とが異なる。
【0011】
これらの態様によると、第1保持器と第2保持器とは別体に構成され、かつ、第1転動体と第2転動体とが周方向で同じ位置になりにくくなる。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保持器の損傷や変形を抑止しつつトルクリップルを抑止できる撓み噛合い式歯車装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0016】
実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置は、モータの高速回転出力を低速回転出力として取り出す減速機構として好適に用いられる。例えばロボットの関節部分に用いられるアクチュエータの減速機として好適に用いられる。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100を示す断面図である。
図2(a)、(b)はそれぞれ、
図1のA−A線断面図、B−B線断面図である。
図3は、保持器23および転動体22を径方向から見た側面図である。撓み噛合い式歯車装置100は、固定壁4(例えば、ロボットの第1部材)に固定される。撓み噛合い式歯車装置100は、入力された回転を減速し、それを出力装置6(例えば、ロボットの第2部材)に出力する。撓み噛合い式歯車装置100は、起振体10と、起振体軸受20と、外歯歯車30と、内歯歯車40と、入力軸50と、を備える。
【0018】
起振体10は、回転軸Rに沿って延在する部材であり、回転軸Rに直交する断面は略楕円形状を有する。起振体10には、回転軸Rを中心とする入力軸孔11が形成されている。入力軸50は、軸受8を介して、固定壁4に回転自在に支持される。入力軸50の一端は入力軸孔11に挿入され、例えば接着または圧入もしくはキー連結等により起振体10と回転方向に連結される。入力軸50の他端は、例えばモータ等の回転駆動源に接続される。入力軸50の回転に伴って起振体10が回転する。
【0019】
外歯歯車30は、可撓性を有する環状の部材であり、その内側には起振体10および起振体軸受20が嵌まる。外歯歯車30は、起振体10が嵌まることによって楕円状に撓められる。外歯歯車30は、起振体10が回転すると、起振体10の形状に合わせて連続的に変形する。外歯歯車30は、第1外歯歯車30aと、第2外歯歯車30bと、を含む。第1外歯歯車30aは、第2外歯歯車30bよりも固定壁4側(
図1では右側)に位置する。第1外歯歯車30aと第2外歯歯車30bとは単一の基材に形成されており、同歯数である。
【0020】
内歯歯車40は、第1内歯歯車40aと、第2内歯歯車40bと、を含む。第1内歯歯車40aと第2内歯歯車40bは別体として形成される。第1内歯歯車40aは、剛性を有する環状の部材である。第1内歯歯車40aは楕円状に撓められた第1外歯歯車30aを環囲し、起振体10の長軸方向の2領域で第1外歯歯車30aと噛み合う。第1内歯歯車40aは、第1外歯歯車30aよりも多くの歯を有する。第1内歯歯車40aには、回転軸R方向に貫通する複数のボルト挿通孔41aが形成される。このボルト挿通孔41aにボルト42aを挿入して固定壁4に形成されたねじ穴4aに螺合することにより、撓み噛合い式歯車装置100が固定壁4に固定される。
【0021】
第2内歯歯車40bは、剛性を有する環状の部材である。第2内歯歯車40bは楕円状に撓められた第2外歯歯車30bを環囲し、起振体10の長軸方向の2領域で第2外歯歯車30bと噛み合う。第2内歯歯車40bは、第2外歯歯車30bと同数の歯を有する。第2内歯歯車40bには、回転軸R方向に貫通する複数のボルト挿通孔41bが形成される。このボルト挿通孔41bにボルト42bを挿入して出力装置6に形成されたねじ穴6aに螺合することにより、撓み噛合い式歯車装置100と出力装置6とが接続される。これにより、撓み噛合い式歯車装置100の出力が出力装置6に伝達される。
【0022】
起振体軸受20は、外歯歯車30を支持する軸受であり、第1外歯歯車30aと起振体10との間に配置される第1起振体軸受20aと、第2外歯歯車30bと起振体10との間に位置する第2起振体軸受20bと、を含む。第1起振体軸受20aは、内輪部材21の第1部分21aと、複数の第1転動体22aと、複数の第1転動体22aを保持する第1保持器23aと、第1外輪部材24aと、を含む。第2起振体軸受20bは、内輪部材21の第2部分21bと、複数の第2転動体22bと、複数の第2転動体22bを保持する第2保持器23bと、第2外輪部材24bと、を含む。
【0023】
内輪部材21は、環状の部材であり、起振体10に外嵌する。内輪部材21は、可撓性を有し、起振体10が嵌ると楕円状に撓められる。内輪部材21は、接着または圧入により起振体10に固定され、起振体10と一体に回転する。内輪部材21は、第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bの両方の内輪部材として一体的に形成されている。なお、内輪部材21は、起振体10と一体に形成されてもよい。
【0024】
第1外輪部材24aは、複数の第1転動体22aを環囲する。第1外輪部材24aは、可撓性を有し、起振体10が内輪部材21に嵌ると第1転動体22aを介して楕円状に撓められる。第1外輪部材24aは、起振体10が回転すると、起振体10の形状に合わせて連続的に変形する。第2外輪部材24bは、第1外輪部材24aと同様に構成される。第2外輪部材24bは、第1外輪部材24aとは別体として形成される。なお、第2外輪部材24bは、第1外輪部材24aと一体に形成されてもよい。以降では、第1外輪部材24aと第2外輪部材24bとをまとめて「外輪部材24」とも呼ぶ。
【0025】
第1保持器23aは、内輪部材21の第1部分21aと第1外輪部材24aとの間に配置される環状の部材であり、リング部26a、27aと、リング部26aとリング部27aとの間に掛け渡される複数の柱部28aと、隣接する柱部28aによって形成される複数の第1ポケット25aと、を含む。複数の第1ポケット25aにはそれぞれ、第1転動体22aが配置される。複数の第1転動体22aはそれぞれ、略円柱形状を有し、その軸方向が回転軸R方向と略平行な方向を向いた状態で、周方向に並ぶ。第1転動体22aは、外歯歯車30と内歯歯車40とが噛み合う領域(以下、「噛合領域」と呼ぶ)に入ると、自ら自転と公転とを行う。噛合領域にある第1転動体22aの一部は、その公転により第1保持器23aを押して第1保持器23aを公転させる。第1転動体22aは、非噛合領域に入ると、第1保持器23aに押されて公転する。
【0026】
第2保持器23bは、第1保持器23aとは別体として形成される。つまり、第1保持器23aと第2保持器23bは、周方向に相対移動可能である。内輪部材21の第2部分21bと第2外輪部材24bとの間に配置される環状の部材であり、リング部26b、27bと、リング部26bとリング部27bとの間に掛け渡される複数の柱部28bと、隣接する柱部28bによって形成される複数の第2ポケット25bと、を含む。複数の第2ポケット25bにはそれぞれ、第2転動体22bが配置される。複数の第2転動体22bはそれぞれ、略円柱形状を有し、その軸方向が回転軸R方向と略平行な方向を向いた状態で、周方向に並ぶ。第2転動体22bは、第1転動体22aと同様に、噛合領域に入ると自ら自転と公転とを行う。噛合領域にある第2転動体22bの一部は、その公転により第2保持器23bを押して第2保持器23bを公転させる。第2転動体22bは、非噛合領域に入ると、第2保持器23bに押されて公転する。
【0027】
以降では、第1保持器23aと第2保持器23bとをまとめて「保持器23」、柱部28aと柱部28bとをまとめて「柱部28」、第1ポケット25aと第2ポケット25bとをまとめて「ポケット25」、とも呼ぶ。また、第1転動体22aと第2転動体22bとをまとめて「転動体22」とも呼ぶ。
【0028】
ここで、起振体軸受20の負荷容量を向上させるひとつの手法として、転動体22の径を大きくすることがある。転動体22を大きくすると、それに伴ってポケット25の周方向幅を大きくする必要があるため、転動体22の数をそのままに転動体22の径を大きくすると、柱部28の周方向幅が細くなってしまい、保持器23の強度が弱くなる。そのため、通常、転動体22の径が大きくする場合、転動体22の数を少なくする。
【0029】
転動体22の数が少なくなると、転動体22と外輪部材24との接触点P同士の距離が長くなる。すると、
図4(a)に示すごとく第1転動体22aと第2転動体22bとが周方向で同じ位置にある場合、すなわち第1転動体22aと第2転動体22bとが回転軸R方向で重なる位置にある場合、内歯歯車40との噛み合いによる噛合い荷重が外歯歯車30にかかったときに、隣り合う接触点Pの間において外歯歯車30および外輪部材24が径方向内側に凹むように撓みうる。したがって、起振体10は、その長軸方向がこの撓んだ部分を通り越すとき、撓みを径方向外側に押し出しながら回転することになる。その結果、トルクリップルが誘起される。
【0030】
図4(b)に示すごとく、第1転動体22aと第2転動体22bが周方向で異なる位置にある場合、すなわち第1転動体22aと第2転動体22bとが回転軸R方向で重ならない位置にある場合、転動体22と外輪部材24との接触点Pの周方向の距離が短くなる。そのため、内歯歯車40との噛み合いによる噛合い荷重が外歯歯車30にかかったときに、周方向に隣り合う接触点Pの間において外歯歯車30が撓みにくくなる。そのため、トルクリップルが誘起されにくくなる。
【0031】
第1転動体22aと第2転動体22bとが周方向で同じ位置にある状態のまま(すなわり
図4(a)の状態のまま)とならないようにするために、例えば特許文献1に記載の撓み噛合い式歯車装置のように、第1ポケット25aと第2ポケット25bとの位置を周方向にずらした状態で、第1保持器23aと第2保持器23bとを結合(一体化)することが考えられる。この場合、第1ポケット25aと第2ポケット25bの位置が周方向にずれているため、ある瞬間において、噛合領域にある第1転動体22aの数と噛合領域にある第2転動体22bの数とが異なる。したがって、自転しながら自ら公転する第1転動体22aの数と自転しながら自ら公転する第2転動体22bの数が異なる。逆に言うと、第1保持器23aに押されて公転する第1転動体22aの数と第2保持器23bに押されて公転する第2転動体22bの数が異なる。そのため、第1転動体22aおよび第1保持器23aの公転速度と第2転動体22bおよび第2保持器23bの公転速度に速度差が生じうる。このとき、第1保持器23aと第2保持器23bとが結合されていると、その結合部分に無理な負荷がかかることになり、保持器23が破損したり、保持器23が変形する原因となる。
【0032】
そこで、本実施の形態では、第1保持器23aと第2保持器23bとを結合せず、第1転動体22a(および第1ポケット25a)の数と、第2転動体22b(および第2ポケット25b)の数と、を異ならせる。この場合、第1転動体22aと第2転動体22bとの周方向の位置は、基本的には異なる。なお、第1転動体22aが第2転動体22bより多くてもよく、第2転動体22bが第1転動体22aより多くてもよい。本実施の形態では、第1転動体22aの数が第2転動体22bの数より少なく、したがって
図3では、第1転動体22aの周方向の間隔が、第2転動体22bの周方向の間隔より長くなっている。なお、軸受の負荷容量の観点からは、転動体22の数はできるだけ多い方が望ましい。したがって、第1転動体22aの数と第2転動体22bの数との差は「1」であることが望ましい。
【0033】
以上のように構成された撓み噛合い式歯車装置100の動作を説明する。ここでは、第1外歯歯車30aの歯数が100、第2外歯歯車30bが100、第1内歯歯車40aの歯数が102、第2内歯歯車40bの歯数が100の場合を例に説明する。
【0034】
第1外歯歯車30aが楕円形状の長軸方向の2箇所で第1内歯歯車40aと噛み合っている状態で、入力軸50の回転により起振体10が回転すると、これに伴って第1外歯歯車30aと第1内歯歯車40aとの噛み合い位置も周方向に移動する。第1外歯歯車30aと第1内歯歯車40aとは歯数が異なるため、この際、第1内歯歯車40aに対して第1外歯歯車30aが相対的に回転する。本実施の形態では、第1内歯歯車40aが固定状態にあるため、第1外歯歯車30aは、歯数差に相当する分だけ自転することになる。つまり、起振体10の回転が大幅に減速されて第1外歯歯車30aに出力される。その減速比は以下のようになる。
減速比=(第1外歯歯車30aの歯数−第1内歯歯車40aの歯数)/第1外歯歯車30aの歯数
=(100−102)/100
=−1/50
【0035】
第2外歯歯車30bは、第1外歯歯車30aと一体的に形成されているため、第1外歯歯車30aと一体に回転する。第2外歯歯車30bと第2内歯歯車40bは歯数が同一であるため、相対回転は発生せず、第2外歯歯車30bと第2内歯歯車40bとは一体に回転する。このため、第1外歯歯車30aの自転と同一の回転が第2内歯歯車40bに出力される。結果として、第2内歯歯車40bからは起振体10(入力軸50)の回転を−1/50に減速した出力を取り出すことができる。
【0036】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、第1起振体軸受20aの第1転動体22aの数と第2起振体軸受20bの第2転動体22bの数とが異なる。そのため、第1転動体22aと第2転動体22bとの周方向の位置は、基本的には異なる。これにより、軸受の負荷容量を向上させるべく、転動体22の径を大きくし、かつ、転動体22の数を少なくした場合でも、転動体22と外輪部材24との接触点P同士の距離は比較的短くなる。その結果、隣り合う接触点Pの間において外歯歯車30が撓むのが抑止され、トルクリップルの大きさを実用上問題のないレベルに抑えられる。また、第1保持器23aと第2保持器23bとは結合されていないため、これらに無理な荷重がかかるのが抑止される。
【0037】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置との主な違いは、起振体軸受の構成である。
図5(a)、(b)は、第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置の起振体軸受20の周辺を示す断面図である。
図5(a)、(b)はそれぞれ、
図2(a)、(b)に対応する。
図6は、保持器23および転動体22を径方向から見た側面図である。
図6は
図3に対応する。
【0038】
第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1転動体22aの数と第2転動体22bの数が同じになるよう形成される。言い換えると、第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1保持器23aの第1ポケット25aの数と第2保持器23bの第2ポケット25bの数とが同じになるよう形成される。
【0039】
本実施の形態では、第1保持器23aは、少なくとも一部の第1ポケット25aの周方向幅が他の第1ポケット25aの周方向幅と異なり、すべての柱部28aの周方向幅が同じとなるよう形成される。第2保持器23bは、すべての第2ポケット25bの周方向幅が互いに同じで、かつ、すべての柱部28bの周方向幅が互いに同じになるよう形成される。なお、第1保持器23aの構成と、第2保持器23bの構成とは、逆であってもよい。
【0040】
第1保持器23aが周方向幅が狭い第1ポケット25aと広い第1ポケット25aとを含むため、ある瞬間において、噛合領域にある第1転動体22aの数と噛合領域にある第2転動体22bの数とは異なりうる。例えば噛合領域にある第1転動体22aの数が噛合領域にある第2転動体22bの数より多くなりうる。この場合、自ら公転する第1転動体22aの数は自ら公転する第2転動体22bの数より多くなる。逆に言うと、第1保持器23aに押されて公転する第1転動体22aの数は第2保持器23bに押されて公転する第2転動体22bの数より少なくなる。これにより、第1転動体22aおよび第1保持器23aの公転速度は、第2転動体22bおよび第2保持器23bの公転速度より速くなる。そのため、仮にあるタイミングにおいて第1転動体22aと第2転動体22bとが周方向で同じ位置にあっても、この公転の速度差によって第1転動体22aと第2転動体22bの周方向の位置はすぐにずれることになる。したがって、第1転動体22aと第2転動体22bとの周方向の位置は、基本的に異なる。
【0041】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によると、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によって奏される作用効果と同様の作用効果が奏される。
【0042】
また、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によると、第2保持器23bは、従来の保持器と同様に、すべての第2ポケット25bの周方向幅が互いに同じで、かつ、すべての柱部28bの周方向幅が互いに同じになるよう形成される。つまり、少なくとも一方の保持器23には、転動体22を保持する保持器として実績のあるものを用いることができる。
【0043】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置との主な違いは、保持器の構成である。
図7(a)、(b)は、第3の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置の起振体軸受20の周辺を示す断面図である。
図7(a)、(b)はそれぞれ、
図2(a)、(b)に対応する。
図8は、保持器23および転動体22を径方向から見た側面図である。
図8は
図3に対応する。
【0044】
第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1転動体22aの数と第2転動体22bの数が同じになるよう形成される。言い換えると、第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1保持器23aの第1ポケット25aの数と第2保持器23bの第2ポケット25bの数とが同じになるよう形成される。
【0045】
本実施の形態では、第1保持器23aは、すべての第1ポケット25aの周方向幅が同じで、少なくとも一部の柱部28aの周方向幅が他の柱部28aの周方向幅と異なるよう形成される。第2保持器23bは、すべての第2ポケット25bの周方向幅が互いに同じで、かつ、すべての柱部28bの周方向幅が互いに同じになるよう形成される。なお、第1保持器23aの構成と、第2保持器23bの構成とは、逆であってもよい。
【0046】
第1保持器23aが周方向幅が狭い柱部28aと広い柱部28aとを含むため、ある瞬間において、噛合領域にある第1転動体22aの数と噛合領域にある第2転動体22bの数とは異なりうる。したがって、第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と同様に、第1転動体22aおよび第1保持器23aの公転速度と第2転動体22bおよび第2保持器23bの公転速度とに速度差が生じる場合がある。そのため、仮にあるタイミングにおいて第1転動体22aと第2転動体22bとが周方向で同じ位置にあっても、この公転の速度差によって第1転動体22aと第2転動体22bの周方向の位置はすぐにずれることになる。したがって、第1転動体22aと第2転動体22bとの周方向の位置は、基本的に異なる。
【0047】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によると、第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によって奏される作用効果と同様の作用効果が奏される。
【0048】
また、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によると、第1保持器23aは、すべての第1ポケット25aの周方向幅が同じになるよう形成される。第1ポケット25aの周方向幅を互いに異ならせると、周方向幅の大きい第1ポケット25aで第1転動体22aがスキューするおそれがあるところ、本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によれば、第1ポケット25aの周方向幅を、スキューするおそれがないあるいはスキューするおそれが極めて低い、実績のある広さにすることが可能となる。
【0049】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置との主な違いは、起振体軸受20の構成である。
図9(a)、(b)は、第4の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置の起振体軸受20の周辺を示す断面図である。
図9(a)、(b)はそれぞれ、
図2(a)、(b)に対応する。
【0050】
第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1転動体22aの数と第2転動体22bの数が同じになるよう形成される。言い換えると、第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1保持器23aの第1ポケット25aの数と第2保持器23bの第2ポケット25bの数とが同じになるよう形成される。
【0051】
第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは特に、起振体10に外嵌される前の状態すなわち内輪部材21、第1外輪部材24aおよび第2外輪部材24bが真円の状態において、内輪部材21の第1部分21aと第1転動体22aとの径方向の隙間と第1転動体22aと第1外輪部材24aとの径方向の隙間の合計(以下、第1内部隙間と呼ぶ)と、内輪部材21の第2部分21bと第2転動体22bとの径方向の隙間と第2転動体22bと第2外輪部材24bとの径方向の隙間の合計(以下、第2内部隙間と呼ぶ)とが異なるよう形成される。
【0052】
第1内部隙間を大きくする場合は、内輪部材21の第1部分21aの外径を小さくするか、第1転動体22aの径を小さくするか、または第1外輪部材24aの内径を大きくする。あるいはこれらを併用してもよい。第1内部隙間を小さくする場合は、内輪部材21の第1部分21aの外径を大きくするか、第1転動体22aの径を大きくするか、または第1外輪部材24aの内径を小さくする。あるいはこれらを併用してもよい。
【0053】
第2内部隙間を大きくする場合は、内輪部材21の第2部分21bの外径を小さくするか、第2転動体22bの径を小さくするか、または第2外輪部材24bの内径を大きくする。あるいはこれらを併用してもよい。第2内部隙間を小さくする場合は、内輪部材21の第2部分21bの外径を大きくするか、第2転動体22bの径を大きくするか、または第2外輪部材24bの内径を小さくする。あるいはこれらを併用してもよい。
【0054】
起振体10が内輪部材21に嵌ると、内輪部材21および外輪部材24は撓み、起振体10の長軸方向に対応する内部隙間はなくなる。この内部隙間がない部分では、内歯歯車40からの荷重が、外歯歯車30や外輪部材24を介して、転動体22にかかる。したがって転動体22は自転を始め、自ら公転し始める。起振体10が嵌る前の内部隙間が小さいほど、内輪部材21や外輪部材24が撓んで内部隙間がなくなる部分の範囲は大きくなり、内歯歯車40からの荷重を受ける転動体22の数が増える。つまり、ある瞬間において自転している転動体22(すなわち自ら公転している転動体22)の数は増える。逆に言うと、ある瞬間において保持器23に押されて公転している転動体22の数は減る。したがって、起振体10が嵌る前の内部隙間が小さいほど、転動体22および保持器23の公転速度は速くなる。
【0055】
本実施の形態では、第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1内部隙間が第2内部隙間より小さくなるよう形成される。そのため、ある瞬間において、荷重を受けて自転している第1転動体22a(すなわち自ら公転している第1転動体22a)の数は、荷重を受けて自転している第2転動体22b(すなわち自ら公転している第2転動体22b)の数より多くなる。逆に言うと、ある瞬間において、第1保持器23aに押されて公転している第1転動体22aの数は、第2保持器23bに押されて公転している第2転動体22bの数より少なくなる。すると、全体として、第1転動体22aおよび第1保持器23aの公転速度は、第2転動体22bおよび第2保持器23bの公転速度よりも速くなる。そのため、仮にあるタイミングにおいて第1転動体22aと第2転動体22bとが周方向で同じ位置にあっても、公転の速度差によって第1転動体22aと第2転動体22bの周方の位置はすぐにずれる。つまり、第1転動体22aと第2転動体22bとの周方向の位置は、基本的に異なる。なお、第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第2内部隙間が第1内部隙間よりも小さくなるよう形成されてもよい。
【0056】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によると、第1の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によって奏される作用効果と同様の作用効果が奏される。
【0057】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置との主な違いは、起振体軸受の構成である。
図10(a)、(b)は、第5の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置の起振体軸受20の周辺を示す断面図である。
図10(a)、(b)はそれぞれ、
図2(a)、(b)に対応する。
図11は、保持器23および転動体22を径方向から見た側面図である。
図11は
図3に対応する。
【0058】
第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1転動体22aおよび第1保持器23aの第1ポケット25aの数と第2転動体22bおよび第2保持器23bの第2ポケット25bの数とが同じになるよう形成される。第1保持器23aは、すべての第1ポケット25aの周方向幅が同じ(言い換えるとすべての柱部28aの周方向幅が同じ)となるよう形成される。同様に、第2保持器23bは、すべての第2ポケット25bの周方向幅が同じ(言い換えるとすべて柱部28bの周方向幅が同じ)となるよう形成される。ただし、第1ポケット25aの周方向幅と第2ポケット25bの周方向幅とは異なる。言い換えると柱部28aの周方向幅と柱部28bの周方向幅とは異なる。
【0059】
本実施の形態では、第1起振体軸受20aおよび第2起振体軸受20bは、第1保持器23aの第1ポケット25aの周方向幅が第2保持器23bの第2ポケット25bの周方向幅より短くなるよう形成される。言い換えると、第1保持器23aの柱部28aの周方向幅が第2保持器23bの柱部28bの周方向幅より長くなるよう形成される。この場合、ある瞬間において、噛合領域にある第1転動体22aの数は噛合領域にある第2転動体22bの数より多くなる。したがって、第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置と同様に、第1転動体22aおよび第1保持器23aの公転速度と第2転動体22bおよび第2保持器23bの公転速度とに速度差が生じる場合がある。そのため、仮にあるタイミングにおいて第1転動体22aと第2転動体22bとが周方向で同じ位置にあっても、この公転の速度差によって第1転動体22aと第2転動体22bの周方向の位置はすぐにずれることになる。したがって、第1転動体22aと第2転動体22bとの周方向の位置は、基本的に異なる。
【0060】
本実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によると、第2の実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置によって奏される作用効果と同様の作用効果が奏される。
【0061】
以上、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置の構成と動作ついて説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
(変形例1)
第1〜5の実施の形態では、転動体が略円柱形状を有する円筒ころである場合について説明したが、これに限られない。転動体は、例えば、玉や円すいころであってもよい。
【0063】
(変形例2)
第2の実施の形態では、保持器23は、少なくとも一部のポケット25の周方向幅が他のポケット25の周方向幅と異なり、すべての柱部28の周方向幅が同じとなる場合について説明した。また、第3の実施の形態では、保持器23は、すべてのポケット25の周方向幅が同じで、少なくとも一部の柱部28の周方向幅が他の柱部28の周方向幅と異なるよう形成される場合について説明した。しかしながら、これらに限られず、保持器23は、少なくとも一部のポケット25の周方向幅が他のポケット25の周方向幅と異なり、少なくとも一部の柱部28の周方向幅が他の柱部28の周方向幅と異なるよう形成されてもよい。つまり、第2の実施の形態と第3の実施の形態とを組合わせてもよい。
【0064】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。