(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338654
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】棒状基材の表面処理用汎用ホルダ
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20180528BHJP
B08B 11/02 20060101ALI20180528BHJP
B23P 15/28 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
C23C14/50 D
B08B11/02
!B23P15/28 A
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-510960(P2016-510960)
(86)(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公表番号】特表2016-524650(P2016-524650A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】EP2014001091
(87)【国際公開番号】WO2014177254
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2017年3月2日
(31)【優先権主張番号】102013007454.1
(32)【優先日】2013年5月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507269681
【氏名又は名称】エーリコン・サーフェス・ソリューションズ・アーゲー・プフェフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マックス・シーベルト
(72)【発明者】
【氏名】レモ・フォーゲル
(72)【発明者】
【氏名】カール・ヴォルフガング・ヨツ
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−504219(JP,A)
【文献】
特開平02−017552(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/089306(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B08B 11/02
B23P 15/28
B23B 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材本体に沿って異なる断面積を持ち、また、処理すべき表面を有している少なくとも一つの棒状基材本体(10)であって、該表面は前記基材本体(10)の領域BQ1にあり、該領域BQ1には前記基材本体(10)の端部があって該領域BQ1の断面は前記基材本体(10)の残りの部分より小さい、棒状基材本体(10)を固定するためのホルダであって、該ホルダは前壁(3)として少なくとも一つの孔あき壁を有しており、該壁には少なくとも一つの孔(5)が設けられているホルダにおいて、前記ホルダが、孔(5)に配置された少なくとも一つの支持要素(9)及び止め要素(11)を有しており、
−前記基材本体が水平線に対して傾斜角度αで斜めに、縦方向において少なくとも部分的に前記支持要素(9)内に配置可能となるように、前記支持要素(9)が構成されており、及び/又は、前記孔(5)に固定されており、
−前記領域BQ1が前記孔(5)を通って前記ホルダから突き出すように、前記止め要素(11)が前記領域BQ1と前記基材本体の残りの部分との間で前記基材本体をとどめられるように、前記止め要素(11)が構成されており、及び/又は、接続要素を用いて前記孔(5)に固定されている、
ことを特徴とするホルダ。
【請求項2】
水平線に対する前記傾斜角度αが2°より大きいことを特徴とする、請求項1に記載のホルダ。
【請求項3】
前記支持要素(9)が縦長であって2つの端部を有しており、前記支持要素(9)の一方の端部は前壁(3)の近くに又は前壁(3)に接して位置しており、また、もう一方の端部は前壁(3)から離れて位置していることを特徴とする、請求項1から2のいずれか一項に記載のホルダ。
【請求項4】
前記ホルダが、鉛直面において平行に、及び/又は、水平面において交差するように配置された少なくとも2つの基材本体(10)を固定するための少なくとも2つの支持要素(9)を有しており、水平面内における前記支持要素(9)間の距離は、前記前壁(3)に近い領域については前記前壁(3)から離れた領域におけるより大きく、そのため、水平面内における前記基材本体(10)間の距離も、前記前壁(3)に近い領域については、前記前壁(3)から離れた領域におけるより大きいことを特徴とする、請求項3に記載のホルダ。
【請求項5】
前記ホルダが少なくとも一つの、前記前壁(3)から離間した第2の孔あき壁を有しており、その壁には少なくとも一つの孔(5')が設けられており、また、前記支持要素(9)のための支持壁(13)として前記ホルダ内に配置されていて、その際、前記支持要素(9)のうちの一つの支持要素の少なくとも一部分が孔(5')に支えられていることを特徴とする、請求項3から4のいずれか一項に記載のホルダ。
【請求項6】
前記支持壁(13)の孔(5')の配列内の孔の数が、前記前壁(3)の孔(5)の配列内の孔の数に対応しており、前記支持壁(13)は、各支持要素(9)が同時に、孔(5)及び孔(5')に支えられるように前記ホルダ内に配置されることを特徴とする、請求項5に記載のホルダ。
【請求項7】
請求項6に記載のホルダにおいて、前記支持壁(13)が前記ホルダ内において前記前壁(3)に関して平行に配置され、及び/又は、孔(5')の配列は、
−鉛直面内において、孔(5')の配列の各孔が、孔(5)の配列の、対応する孔より上に位置し、及び/又は、
−水平面内において前記支持壁(13)内の孔(5')の配列の孔間の距離が、前記前壁(3)内の孔(5)の配列の孔間の距離より小さくなるように、
設計されていることを特徴とするホルダ。
【請求項8】
前記止め要素(11)が前カバーマスク(17)の形で作られており、該前カバーマスク(17)には、孔(5"')の配列が設けられており、また、前記前カバーマスク(17)は、接続要素(18)を用いて前記前壁(3)に固定されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のホルダ。
【請求項9】
前記ホルダが接合要素(15)を有しており、これを用いて前記前壁(3)の位置が、前記支持壁(13)の位置に関して固定されることを特徴とする、請求項5から7、及び請求項5から7のいずれか一項を引用する請求項8のいずれか一項に記載のホルダ。
【請求項10】
前記接合要素(15)が壁であり、前記ホルダの残りの部分と共に仕切り付きカセット(20)を形成していることを特徴とする、請求項9に記載のホルダ。
【請求項11】
前記基材本体(10)の領域BQ1が、それにより前記基材本体の処理すべき表面も、前記前壁(3)の前記孔(5)の一つを通って前記ホルダから突き出すように、前記ホルダ内に少なくとも一つの基材本体(10)がおさめられることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のホルダ。
【請求項12】
前記ホルダがコーティング保護カバー(40)としてのカバーを備えており、このカバーにより、前記基材本体(10)の、前記前壁(3)の前記孔(5)を通って突き出さない領域が遮蔽されることを特徴とする、請求項11に記載のホルダ。
【請求項13】
前記ホルダが、輸送保護カバー(50)としてのカバーを備えており、このカバーにより、前記基材本体(10)の、前記前壁(3)の孔(5)から突き出す領域が覆われることを特徴とする、請求項11から12のいずれか一項に記載のホルダ。
【請求項14】
少なくとも一つの基材本体(10)の表面処理を行う方法において、該方法には少なくとも一つの表面処理プロセスの実行が含まれており、その表面処理プロセスにおいて前記基材本体(10)は請求項11から13のいずれか一項に記載のホルダ内にあることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、前記方法が以下のプロセスステップaからdの少なくとも一つ:
a.洗浄槽内において基材本体を洗浄するステップ、
b.基材本体の処理すべき表面を前処理するステップ、
c.コーティングプロセスにおいて基材本体の処理すべき表面をコーティングするステップ、
d.基材本体の処理すべき表面を後処理するステップ、
を備え、前記基材本体はまず分類され、請求項1から11のいずれか一項に記載のホルダ内に装入され、
−基材本体は、プロセスステップとプロセスステップとの間にホルダから取り出して再び装入する必要がないよう、常に同じホルダ内にあり、
−基材本体は同じホルダ内で、一つのプロセスステップから他のプロセスステップへと輸送され、
−コーティングプロセスの実行のために、前記前壁(3)を通って前記ホルダから突き出していない、基材本体の処理すべきではない表面を、該処理すべきではない表面がコーティングされることを回避するように、請求項12に記載のコーティング保護カバー(40)で遮蔽する、
ことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は棒状基材を表面処理するためのホルダに関する。本発明のホルダはとりわけ、スティックブレードの類の切削工具の表面処理に非常によく適している。
【背景技術】
【0002】
今日では、表面に特定の特性を持たせるために多くのものに表面処理が施されている。
【0003】
構成部品及びツールの表面は、今日、しばしばコーティングにより、特別な用途のために非常に改良されている。
【0004】
その際、それぞれの表面処理プロセスにおいて、基材ホルダを正しく選択することが非常に重要である。そのため、個々の表面処理プロセスのために目的に合わせた基材ホルダが開発されており、それらは処理すべき基材表面の種類、及びさらなる基材特性(例えば基材形状、基材寸法、基材の組成など)が考慮されている。
【0005】
今日、基材の表面処理としてはコーティングがよく行われる。その場合、特別な特性を持つ層が特定の基材表面に施される。コーティングにより、基材表面の特性が改善され、改善された特性により、特定の用途におけるその基材の使用、又は、特定の用途におけるその基材の性能向上が可能になる。
【0006】
たとえば切削工具においては通常、工具の切削性能を高めるために、通常、すくい面は(少なくとも部分的に)摩耗保護層がコーティングされている。
【0007】
そのために特別な基材ホルダが開発されている。
【0008】
たとえば、特許文献1には中空の基材ホルダが開示されており、これは、ドリルの先端から延在するドリルの領域にセラミックコーティングを施すためにドリルビットを支持するために使われる。この基材ホルダは以下のものを有している:
−孔の配列が設けられた、少なくとも一つの孔あき外壁であって、その孔には、前述の領域がホルダから突き出すようにドリルがセットされている外壁、
−セットされたシャフト付ドリルをほぼ平行に配置するために、ホルダの中空の内側空間内に、外壁に対して平行に、また外壁から離間して設けられ、また、対応する孔の配列を有している、特定の又はそれぞれの外壁のための孔あき支持壁、
−ホルダの中空の内側空間内にある止め手段であって、特定の又はそれぞれの支持壁から内側に向かって離間しており、それにより、同じ直径を持つドリルの先端が位置決めされ、それらの先端はほぼ同じ程度に外壁から突き出しており、その際、ホルダの中空の内側空間及びドリルの位置決めにより、それぞれのドリルの、外壁の内側にある部分が、外側の周囲からは遮蔽されるが、ホルダの内側空間の大気にはさらされるようになっている。
【0009】
しかしながら上記のホルダには、汎用性に欠けるという短所があり、そのため、さまざまな種類の棒状基材のコーティングのために同時に適用することができず、ほぼ同じ長さ、同じ直径を持つ基材(この場合はドリル)のコーティングのみに適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国の欧州特許翻訳公開60002579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、断面積が異なる少なくとも2つの領域を持ち、そのうちの一つの領域の端部の断面積は少なくとももう一方の領域の断面積よりも小さくなっている、棒状基材を表面処理するための汎用ホルダを提供することである。このホルダにより、基材の全長とは無関係に、少なくとも小さい方の断面積を持つ端部が、同じようにコーティングできるようにする必要がある。
【0012】
また、本発明のホルダにより、ホルダ内に固定された棒状基材を複数の表面処理プロセスで処理することが可能であり、また、その際、基材をホルダから取り外してから再び同じホルダ又は別のホルダに取り付ける必要もない。それにより、操作の手間及び基材損傷の危険が低減される。
【0013】
とりわけ本発明のホルダは、スティックブレードの洗浄、前処理、コーティング、後処理を、用途における要求条件に応じて行うことが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題は、請求項1に記載の、開放的な形態のホルダが提供されることにより解決される。
【0015】
図1から
図9は、本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】基材本体領域B
Q1の表面は処理対象であるが、基材本体領域B
Q2の表面は処理対象ではない基材本体10の図である。
【
図2】棒状基材本体を受け入れるための支持要素9の配列を備える本発明のホルダの図である(支持要素9は、孔(5)の配列を備える前壁3に固定されており、その際各孔5に一つの支持要素9が固定されており、また、各孔5には、基材本体をとどめるための止め要素11が設けられている。
図2に図示された支持要素は例えば長方形断面を持つ成形物であって切り抜き部30を有しており、切り抜き部があるために洗浄プロセスにおいて基材本体10(
図2には図示されず)の洗浄が容易になる)。
【
図3】水平線に対して傾斜角度aで、また、垂直平面内では平行に配置されている支持要素9の配列の図である。
【
図4】支持壁13として一つの孔あき壁が追加的に設けられている本発明の一つの実施形態のホルダの図である。
【
図5】支持壁13に関して前壁3の位置を固定するための接合要素15が設けられている本発明の一つの実施形態のホルダの図であると同時に、支持要素9の配列が図示されている図である(そこでは支持要素9は水平面内で交差するように配置されており、そのため水平面内での支持要素間の距離は、前カバー3に近い支持要素9の領域においては、前カバー3から遠い支持要素9の領域におけるより大きい)。
【
図6】そのa)は前カバーマスク17の図であって、孔5"'の配列を備えており、各孔5"'には止め要素11が設けられている図であり、そのb)は前カバーマスク17を備えるホルダの図である(
図6bのホルダにおいては、前カバーマスク17は、例えばボルトなどの接続要素18により前壁3に固定されているため、基材本体10は前カバーマスク17の止め要素11によりとどめられ、その際、基材本体の、処理すべき表面を持つ領域が、孔5を通って、場合によっては孔5'"を通ってホルダから突き出すようにされる。前カバーマスク17と前壁13との間の距離は、例えば処理すべき表面にグリットブラスト表面処理が施される場合に、ブラスト粒子が前壁3と前カバーマスク17との間につまることがないように選択される)。
【
図7】壁状の接合要素15を有する、本発明の一つの実施形態におけるホルダの図である(ホルダは仕切り付きカセット20の形で形成される。さらに、例えばコーティングプロセスにおいて、基材本体の、処理すべきではない領域が一緒にコーティングされることを防ぐためのカバー40も追加的に図示されている。したがって、そのようなカバー40は本発明の枠内においてとりわけコーティング保護カバー40と表現される)。
【
図8】2つのホルダを備えるホルダ配列の図である(各ホルダは本発明の実施形態によるものであり、一方が他方の上に配置されている。そのa)では、例えばコーティングプロセスを実行するためのコーティング保護カバー40が備わっており、そのb)では、例えば洗浄プロセス又はグリットブラストプロセスを実行するため、コーティング保護カバー40は備わっていない)。
【
図9】輸送保護カバー(50)が備わっている本発明の一つの実施形態によるホルダの図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、棒状基材10(たとえば
図1に図示された基材)を固定するためのホルダ(たとえば
図2に図示されたホルダ)に関するものであり、これらホルダは、異なる断面積Q1、Q2を持つ少なくとも2つの領域B
Q1及びB
Q2を有しており、一方の領域の端部の断面積は、少なくとも一つの他の領域の断面積より小さく、例えば、Q1<Q2であり、ホルダは少なくとも一つの孔あき壁を有しており、その壁には孔の配列が設けられていて前壁3として使用され、その前壁3に棒状基材をセットすることができ、その際、
−前壁3のそれぞれの孔5には、孔平面から上に向かって斜めに立てられた支持要素9(例えばU字形又は長方形の断面を持つ成形物)が、望ましくは水平線に対して2°より大きい傾斜角度α(
図3参照)で配置されており、基材は少なくとも部分的にその支持要素9内に配置することができ、また、
−前壁3のそれぞれの孔5には、少なくとも一つの止め要素11が設けられており、それにより、断面積の小さいほうの領域B
Q1と、少なくとも一つのその他の領域B
Q2との間において、基材を少なくとも一か所でとどめることができる。
【0018】
このとき基材は、小さいほうの断面積B
Q1を持つ領域の基材端部が、基材のもう一方の端部の下に位置するようにホルダ内にセットされる。ホルダのこの構造のおかげで、基材は支持要素を通って前壁の方向にホルダ内にセットすることができ、それにより基材は重力により止め要素に押し付けられて止め要素によりとどめられ、その際、断面積が小さいほうの領域における基材の端部が、前壁3の孔5を通ってホルダから突き出すようにされる。
【0019】
本発明の一つの実施形態によると支持要素9は2つの端部を有しており、少なくとも一つの支持要素は、その支持要素の一方の端部が前壁3の孔5に支えられるように配置される(
図2参照)。望ましくは支持要素9は孔5に溶接される。
【0020】
本発明によるホルダのさらなる望ましい変形例は、支持要素9のための支持壁13として機能する、少なくとも一つの第2の孔あき壁を有している。この支持壁13にも孔5'の配列が設けられており、これを通して基材をホルダ内にセットすることができる。支持壁13における孔5'の配列は、望ましくは前壁3内の孔5の配列と同じである。このようにして例えば前壁3から遠い支持要素9の端部を支持壁13の孔5'で支えることができる(
図4参照)。望ましくは支持壁13は前壁3に対してほぼ平行に配置されていて、支持壁13の孔5'の配列は前壁3の孔の配列より少なくとも少し上に位置しているため、それにより上述のように支持要素9が水平線に対して傾斜角度αで位置することができ、その際、前壁3に配置された支持要素9の端部は、支持壁13に配置された支持要素9の領域より下に位置する。望ましくは、支持壁13の孔5'に配置された支持要素9の領域は孔5'に溶接される。
【0021】
本発明のホルダのさらなる望ましい変形例において止め要素11は、孔5'"の配列を有する前カバーマスク17の一部として作られており(例えば
図6a参照)、そのため前カバーマスクは例えば接続要素18により前壁に固定することができる。接続要素18は例えば、取り外し可能な接続として機能するボルトとすることができる(
図6b参照)。
【0022】
本発明のホルダが開放的な形態であることにより、ホルダ内に保持されている基材を洗浄槽内で洗浄することができる。
【0023】
ホルダ内において望ましくは前壁3の位置は、接合要素15により支持壁13の位置に対して固定されている(
図5参照)。
【0024】
また、開放的な形態を持つ本発明のそのようなホルダは、基材の、前壁3及び前カバーマスク17の孔5、5"'を通ってホルダから突き出している部分を機械的に表面処理するために使うことができる(少なくとも領域B
Q1の端部又は先端)。本発明において機械的な表面処理とは、とりわけ、グリットブラストプロセスの実行を意味する。
【0025】
スティックブレードの類の切削工具に、とりわけ洗浄、コーティング、及び、例えばグリッドブラスト(例えばコーティングすべき表面の前処理及び/又は後処理として)などさらなる表面処理を行うためによく適している、本発明のホルダの望ましい変形例において、接合要素15は壁とすることができ(
図7参照)、それにより、基材の本体の部分が、側方から不所望に一緒にコーティングされてしまうことが回避される。本発明においてこの変形例は仕切り付きカセット20と呼ばれる。
【0026】
基材の所望の表面のみ、もしくはスティックブレードの例においては基材の先端領域(少なくとも領域B
Q1の端部)を効率的に物理的な蒸着によりコーティングできるようにするために、本発明のホルダはコーティング保護カバー40を備えており、これは、前壁3の孔5から突き出していない基材領域を遮蔽するものである。それにより、基材の本体のコーティングすべきでない部分が不所望にコーティングされることが回避される(そうしなければその部分は上から、下から、及び/又は、後ろから一緒にコーティングされる可能性がある)。
【0027】
仕切り付きカセット20内においてスティックブレード10(
図7には図示されず)は、
図7のようにマトリックス状配列のスティックブレードセットとして(例えば1セットあたりのブレードは16〜22個)配置される。ホルダは対称的に構成されているため前カバーマスク17は4つの位置において取り付けることができ、また、垂直方向に移動可能であるため、前カバーマスク17のそれぞれの取付位置においてスティックブレードを異なる位置で保持することができる。そのため一つの前カバーマスク17をより多様にセットすることができ、同じ前カバーマスク17を、単純に他の位置に取り付けることにより、寸法や形状の異なるスティックブレードの表面処理のために使用できる。
【0028】
水平線に対する成形物の前述の傾き角度αは、ホルダの何らかの振動によりスティックブレードがホルダの後部領域の方向に後ろに向かって移動しないよう、十分に大きな角度を選択する必要がある。しかしながらその角度は、基材のコーティングすべき表面のコーティングに悪影響を与えるほど、その表面が遮蔽されてしまうような大きな角度であってはならない。例えば、本発明のホルダ10のさまざまなバージョンにおいて、水平線から5°から20°という角度(
図3参照)が特に良好であることが示された。
【0029】
最適な洗浄結果を得るために、例えば
図6bに示されたように長方形断面の成形物9には切り抜き部30が「最大限」に設けられている。
【0030】
ここで「切り抜き部30が最大限に設けられている」という表現は、図示された例においては、長方形断面の成形物内に保持されるスティックブレードの最大の面積が露出されるように、切り抜き部30"が長方形断面の成形物9内で配分されることを意味している。少なくともこの成形物には、少なくとも洗浄プロセス中にスティックブレードの50%以上の面が洗浄剤に直接接触できるように、切り抜き部を設ける必要がある。この成形物に切り抜き部を設ける際には、ホルダの通常の使用によりこの成形物が変形するほど物理的安定性が失わなれることがないようにすることが望ましい。
【0031】
切り抜き部が最大限に設けられた「ほとんど長方形断面の成形物」のさらなる可能性としては、断面が長方形ではなくU字形である成形物を使用することが考えられる。この場合、本発明のホルダ内においてU字形断面の成形物は、ホルダ内に位置するスティックブレードの上面が完全に露出するように配置される。
【0032】
また、前カバーマスク17と仕切り付きカセット20との間の距離は、投射材の粒子が前カバーマスク17と仕切り付きカセット20の残りとの間につまることが回避されるように設けられる。この距離は望ましくは≧0.5mmである。例えば、さまざまなブラストプロセスにおいて、距離0.8mmの際に非常に良好な結果が得られた。しかしながらこの距離は、基材の不所望な表面もが一緒にコーティングされてしまうほど大きくてはならないことも考慮する必要がある。
【0033】
これにより、本発明のホルダは、コーティング前後の表面処理のための例えばマイクロブラストなどのブラストプロセスの実行にも使用できる。それにより、コーティングサービス全体の品質が同じでありながら、複数のホルダを使用することに起因する手間が大きくなることもない(処理すべき基材の分類、第1のホルダへの装入、取出し、輸送、再分類、第2のホルダへの再装入など)。それにより操作中にスティックブレードが損傷する危険も低減される。
【0034】
また、仕切り付きカセット20は、スティックブレード10が空間的な配置において円錐状に配置されるように構成される。それによりスティックブレード10は互いにより遠く位置することになり、それにより(外側に位置するスティックブレードも、内側に位置するスティックブレードも)全てのスティックブレードのコーティングすべき表面にコーティングの層が均一に分布する(
図6b参照)。このように、スティックブレード10間の距離が後方領域B
Q2において小さくなるように長方形断面の成形物が空間的に配置されることにより、コーティングすべきスティックブレードの先端B
Q1の間の距離が大きくなり、これは、層厚分布にとって良い影響を及ぼす。
【0035】
本発明のホルダを真空コーティングプロセスにおいて使用する場合に、真空コーティグにおいて層を生成するための固体物質源として少なくとも一つのターゲットが使用され、そこで例えば、少なくとも一つのコーティングすべきすくい面を有する、長方形又は類似の形の断面を持つスティックブレードがコーティングされる場合、すくい面における成膜速度を高めるために、スティックブレード10は、望ましくは、すくい面がターゲットの方向を向くように成形物9内に立てられ、スティックブレードのコーティングすべきでない表面B
Q2はコーティング保護40カバーにより覆われる(
図7参照)。
【0036】
望ましくは本発明のホルダの構成のために選択される材料は、あらゆるプロセスステップにおいてホルダの使用に悪影響を与えないもの、例えば、スチール1.4301である。この材料は十分な機械的強度を有し、真空にも適しており、非磁性であり、また、洗浄プロセスで用いられる条件(化学物質及び温度)に対して耐性がある。
【0037】
洗浄及びマイクロブラストといった処理プロセスは例えば、
図8bに図示するように、少なくとも一つの2個組パッケージ(A+B)内で実施できる。それにより操作の手間が低減される。
【0038】
スティックブレードの不所望の表面領域、例えばB
Q2がコーティングされるのを防ぐため、仕切り付きカセット20は
図8aに示すようにコーティング保護カバー40により覆われる。コーティング用に、やはり
図8aに示すように、少なくとも一つの2個パッケージ(A+B)を有するツリーを構成することもできる。
【0039】
本発明によると、同じホルダをあらゆるプロセスステップ(例えば洗浄、マイクロブラスト又はグリットブラスト、コーティングなど。例えば化学的又は電気化学的なデコーティングプロセスである場合は、デコーティングも)のために使用することができ、その際、表面処理の品質が損なわれることはない。
【0040】
しかしながら、本発明のホルダに入った基材を一つのプロセスステップから他のプロセスステップに輸送する際、ホルダから突き出している基材の領域が損傷される可能性もある。そのためこの基材領域は、輸送中は覆われているのが望ましい。そのためには例えば、
図9に示すような輸送保護カバー50を用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
3 前壁、前カバー
5、5'、5'" 孔
9 支持要素
10 基材本体
11 止め要素
13 支持壁
15 接合要素
16 前カバーマスク
18 接続要素
20 仕切り付きカセット
30 切り抜き部
40 コーティング保護カバー
50 輸送保護カバー
a 傾斜角度
B
Q2 基材本体領域
B
Q1 基材本体領域
Q1 断面積
Q2 断面積