(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338835
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】放射性物質の除染用酸性ゲルおよび除染方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
G21F9/28 525B
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-175461(P2013-175461)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-45516(P2015-45516A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 一太朗
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−500608(JP,A)
【文献】
特表2012−533649(JP,A)
【文献】
特表2005−537462(JP,A)
【文献】
特公昭46−037401(JP,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0185002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
C23G 1/00−5/06
C11D 1/00−19/00
B01J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)無機酸及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸(ii)有機高分子系増粘剤及び(iii)水溶性の非プロトン性溶媒を含有する放射性物質の除染用酸性ゲルであって、(i)酸の割合が、5〜80重量%であり、(i)酸が、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸及びギ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、(ii)有機高分子系増粘剤が粘度平均分子量170万以上のポリエチレングリコール、若しくはキサンタンガムを含む放射性物質の除染用酸性ゲル。
【請求項2】
(ii)有機高分子系増粘剤が粘度平均分子量170万以上のポリエチレングリコールである請求項1に記載の放射性物質の除染用酸性ゲル。
【請求項3】
(ii)有機高分子系増粘剤がキサンタンガムである請求項1に記載の放射性物質の除染用酸性ゲル。
【請求項4】
(iii)水溶性の非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びN−メチルピロリドンから選ばれる1種もしくは2種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射性物質の除染用酸性ゲル。
【請求項5】
放射性物質の除染用酸性ゲルに対し、(ii)有機高分子系増粘剤を3〜20重量%含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射性物質の除染用酸性ゲル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射性物質の除染用酸性ゲルを表面に放射性物質を有する除染対象の固体の表面に接触させることを特徴とする、固体の除染方法。
【請求項7】
除染対象の固体表面が金属表面である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
除染対象の固体表面がステンレス表面である請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に放射性物質を有する固体の表面を除染するために使用することができる酸性ゲル、及びその酸性ゲルを用いた除染方法に関する。除染は、例えば放射能除染であってよい。
【0002】
酸性ゲルは、金属、プラスチック、セラミック、多孔質(例えばコンクリート)などの処理すべき全ての種類の固体の表面に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
放射能除染をはじめとした除染は、一般に、高い除去率で、除染に使用する薬液量が少なく、かつ、作業負担が少ない、すなわち、除染作業にかかる時間が短い、大型の処理設備の必要がない、等の事項が重要視される。
【0004】
除染の一例として、特許文献1にはマロン酸とヒドラジンを有効成分として含有する、高い洗浄性を有する組成物が提案されている。しかし、薬液中に除染対象物を浸漬しなければならないため新たな設備や機材が必要である。また80℃〜100℃の溶液の中に除染対象物を浸漬しなければならないため、作業中の薬液の管理や長時間の連続作業等の人的負担が大きい。
【0005】
特許文献2には、硝フッ酸、硝フッ酸及びシュウ酸、硝フッ酸及び過マンガン酸、硝フッ酸及び過マンガン酸カリウム、硝フッ酸及びクエン酸のいずれか1つ以上を含み、かつゲル化剤、および溶媒を含有する、除染対象表面に塗布し表面に保持される組成物が提案されている。しかし、除染工程後の線量が除染前の1/2以下と除去率が低い。特許文献3および4には、除染対象表面に塗布後、ブラッシング・吸引等により容易に除去可能な無機酸、酸化剤、ゲル化剤、等を含有するコロイド溶液が提案されている。しかし、塗布後の薬品は最終的には乾燥するが時間を要するため、周辺環境によっては乾燥した薬品が除染工程中に除染対象表面から剥離する可能性が潜在的に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−127483号公報
【特許文献2】特開2012−185097
【特許文献3】特表2004−535510
【特許文献4】特表2009−511653
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の化学除染法は、除染対象物が大型の場合、除染処理設備の新設や大型化、多量の薬品が必要となることや作業後の廃液処理費用が増大するという問題があった。また、薬液の使用量が少なくても、除染や安全といった面で十分でなかった。
【0008】
本発明は、新たな設備や施設を必要としない、薬液の使用量が少なく安定に除染可能な除洗材料及び除染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の酸性ゲルおよび除染方法を提供するものである。
項1.
(i) 無機酸及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸(ii)有機高分子系増粘剤及び(iii)水溶性の非プロトン性溶媒を含有する酸性ゲルであって、(i)酸の割合が、5〜80重量%である酸性ゲル。
項2.
(i)酸が、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、項1に記載の酸性ゲル。
項3.
(ii)有機高分子系増粘剤が粘度平均分子量170万以上のポリエチレングリコールである項1又は2のいずれか1項に記載の酸性ゲル。
項4.
(ii)有機高分子系増粘剤がキサンタンガムである項1〜3のいずれか1項に記載の酸性ゲル。
項5.
(iii)水溶性の非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシト゛から選ばれる1種もしくは2種である項1〜4のいずれか1項に記載の酸性ゲル。
項6.
酸性ゲル100重量部に対し、(ii)有機高分子系増粘剤を3〜20重量%含む項1〜5のいずれか1項に記載の酸性ゲル。
項7.
項1〜6のいずれか1項に記載の酸性ゲルを表面に放射性物質を有する除染対象の固体の表面に接触させることを特徴とする、固体の除染方法。
項8.
除染対象の固体表面が金属表面である項7に記載の方法。
項9.
除染対象の固体表面がステンレス表面である項7又は8に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酸性ゲルは、時間経過に伴う粘度低下が少ないため、粘度低下後の薬品が除染対象表面から除去されず保持され、安定した除染が可能となる。また、本発明の酸性ゲルは、有機高分子系の増粘剤を用いたゲルであり、放射性廃棄物の量を減量できる。加えて、塗布のみで施工できるため、新たな設備や機器は必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のゲルは、(i) 無機酸及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸(ii)有機高分子系増粘剤及び(iii)水溶性の非プロトン性溶媒を含有する酸性ゲルであって、(i)酸の割合が、15〜60重量%である酸性ゲルからなる。
【0012】
(i) 無機酸及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸
有機酸としては、ギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシアクリル酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、グルコン酸、クエン酸、ヒドロキシピバリン酸、グリセリン酸、タルトロン酸、マンデル酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、β−ヒドロキシブタン酸、β−ヒドロキシペンタン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ジグリコール酸、マレイン酸、フマル酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。無機酸としてはフッ酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、過塩素酸を挙げることができる。これらの酸は除去対象の材質に応じて選択することができるが、好ましくは無機酸であり、さらに好ましくは硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸である。これらの酸は1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0013】
酸は酸性ゲルの総量を基準として5〜80重量%、好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは15〜60重量%である。
【0014】
(ii)有機高分子系増粘剤
有機高分子系の増粘剤は、例えば、ポリアルキレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸およびその中和物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、等に代表される高分子化合物、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、ダイユータンガム、ジェランガム、タマリンドガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ペクチン等に代表される多糖類誘導体、デキストリン脂肪酸エステル、イヌリン脂肪酸エステル等に代表されるオイルゲル化剤、両末端リジン変性シリコーン、架橋型ジメチルシリコーン等に代表されるシリコーン系増粘ゲル化剤、ポリアミド樹脂、アミノ酸系ゲル化剤、ジステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、等を挙げることができ、好ましくはポリエチレングリコール、キサンタンガムである。無機増粘剤を含有しないことが好ましい。
【0015】
ポリエチレングリコールの分子量は、粘度平均分子量が100万以上であり、好ましくは130万以上、さらに好ましくは170万以上である。粘度平均分子量は、GPC装置の検出器として示差屈折率計を使い、分子量分布のピークトップのリテンションタイムから算出することができる。
【0016】
有機高分子系の増粘剤は酸性ゲルの総量を基準として1〜40重量%、好ましくは2〜30重量%、さらに好ましくは3〜20重量%である。本発明は増粘剤が少量であっても高粘度のゲルを得ることができるため、酸濃度を高めたい場合等、任意に増粘剤濃度を調整することが可能である。
【0017】
(iii)水溶性の非プロトン性溶媒は、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等に代表されるニトリル類、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド等に代表されるアミド類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等に代表されるエーテル類、N−メチルピロリドン等に代表される含窒素有機化合物、ジメチルスルホキシド等に代表される含硫黄有機化合物、等を挙げることができ、好ましくはジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドから選ばれる1種、もしくはその両者である。これらの溶媒は、キサンタンガム、ポリエチレングリコール等の有機高分子系増粘剤を分散し、ゲルの製造を容易とする。
【0018】
水溶性の非プロトン性溶媒は酸性ゲルの総量を基準として好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。
【0019】
本発明は、上記(i)(ii)(iii)の他、必要に応じて、水、酸化・還元剤、防錆・防食剤、乳化剤、分散剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、着色剤、香料、等の添加物を加えることができる。
【0020】
本発明では、各成分の添加の順番は特に限定しないが、望ましい添加の順番は、最初に(ii)有機高分子系増粘剤と(iii)非プロトン性溶媒を混合し、ここに(i)酸および任意で水を添加する。
【0021】
水は濃度調整のために添加することができるが、酸を高濃度で使用する場合は添加しなくてもよい。
【0022】
本発明の除染対象表面の材質は、金属、プラスチック、セラミックおよび/または多孔質(例えばコンクリート)などが挙げられ、これらの表面に使用することができる。金属としては、ステンレス、鋼、鋳鉄等が好ましく例示され、具体的にはステンレスとしては、オーステナイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、二相系ステンレス鋼が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼にはSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS317L、SUS321、SUS310S、SUS347、フェライト系ステンレス鋼にはSUS430、SUS444、SUS445J1、SUS443J1、二相系ステンレス鋼にはSUS329J4L、SUS329J3L、マルテンサイト系ステンレス鋼にはSUS420J2が各々包含される。また鋼としては、普通鋼、合金鋼、工具鋼が挙げられる。普通鋼にはSS(一般構造用圧延鋼材)、SPCC(冷間圧延鋼板及び鋼帯)、合金鋼にはSC(機械構造用炭素鋼鋼材)、SCM(クロムモリブデン鋼鋼材)、工具鋼にはSKH(高速度工具鋼鋼材)、SK(炭素工具鋼鋼材)、鋳鉄にはFC(ねずみ鋳鉄品)、FCD(球状黒鉛鋳鉄品)が各々包含される。
【0023】
除染は、例えば放射能除染であってよい。好ましい除染対象は、定期点検時または廃炉時における原子力発電所の部品などが挙げられる。
【0024】
本発明において酸性ゲルの塗布方法は、噴霧、刷毛、ローラー、または浸漬を用いることができる。酸性ゲルは微細なゲルにすることで、除染対象表面への塗布を容易にすることができる。
【0025】
本発明の酸性ゲルにおける表面処理の時間は処理基材、付着物に応じて適宜選択すればよいが通常1〜48時間、好ましくは2〜24時間である。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1〜12及び比較例1〜2
酸性ゲルを表1および表2に示す組成で調整し、SUS316もしくはSS400のテストピース(20×20mm)に浸漬して塗布した。25℃で24時間静置し、目視で酸性ゲルの流動性を評価した。また、酸性ゲルを水で洗浄後、テストピースを乾燥させ、初期質量から処理後の質量を差し引いた質量変化から膜厚減少量を求めた。放射性物質で汚染された配管等の酸化皮膜の厚さは1μmから2μmと言われており、除染を目的とする場合、2μmのエッチングで十分と考えられる。
【0028】
[流動性]
塗布24時間後、ゲルは高粘度で流動しない ○
塗布24時間後、ゲルは高粘度だが流動する △
塗布24時間後、ゲルは水と同程度の粘度に低下 ×
[エッチング評価]
塗布24時間後、基材表面のエッチングが2μm以上 ○
塗布24時間後、基材表面のエッチングが1〜2μm △
塗布24時間後、基材表面のエッチングが1μm以下 ×
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】