特許第6338840号(P6338840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6338840リチウムイオン電池用負極材料、リチウムイオン電池用負極、およびリチウムイオン電池
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  • 特許6338840-リチウムイオン電池用負極材料、リチウムイオン電池用負極、およびリチウムイオン電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338840
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極材料、リチウムイオン電池用負極、およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20180528BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180528BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20180528BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180528BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 B
   H01M4/36 E
   H01M10/0562
   H01M10/052
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-210260(P2013-210260)
(22)【出願日】2013年10月7日
(65)【公開番号】特開2015-76181(P2015-76181A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】出戸 和久
(72)【発明者】
【氏名】松山 敏也
(72)【発明者】
【氏名】田村 素志
(72)【発明者】
【氏名】山本 一富
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−243408(JP,A)
【文献】 特開2006−164960(JP,A)
【文献】 特開2008−123814(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/025707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物固体電解質材料と、
構成元素としてLiおよびSiを含む合金材料と、
炭素材料と、
の粉砕混合物を含むリチウムイオン電池用負極材料であって、
前記粉砕混合物は、線源としてCuKα線を用いたX線回折では検出できない程度の結晶子サイズを有するSi微粒子と、硫化リチウムと、を含み、
前記粉砕混合物は、線源としてCuKα線を用いたX線回折測定において、前記硫化物固体電解質材料由来の回折ピークおよび前記合金材料由来の回折ピークが共に検出されず、かつ、前記硫化リチウムの回折ピークが検出されるものであリチウムイオン電池用負極材料。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記硫化物固体電解質材料は、Li(ただし、4≦X≦15、1≦Y≦3、6≦Z≦14である。X、YおよびZは整数である。)により示される化合物である、リチウムイオン電池用負極材料。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記合金材料は、LiSi(ただし、7≦A≦25、3≦B≦7である。AおよびBは整数である。)により示される化合物である、リチウムイオン電池用負極材料。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記硫化物固体電解質材料に対する前記合金材料の混合モル比が1.5以上7.7以下である、リチウムイオン電池用負極材料。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記炭素材料は黒鉛質材料である、リチウムイオン電池用負極材料。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記硫化物固体電解質材料および前記合金材料の合計重量に対する前記炭素材料の混合重量の比が0.01以上1.5以下である、リチウムイオン電池用負極材料。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
以下のScherrerの式から算出される、前記Si微粒子の結晶子サイズが0.4nm以上2.0nm以下の範囲内であるリチウムイオン電池用負極材料。
D=0.94λ/βcosθ
(ただし、Dは結晶子径(Å)、βはX線回折ピークの半値幅、θはブラッグ角、λはX線(CuKα)の波長(1.54Å)である)
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載のリチウムイオン電池用負極材料からなる負極活物質層を集電体の表面に形成してなる、リチウムイオン電池用負極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン電池用負極と、電解質層と、正極とを備えた、リチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン電池において、
前記電解質が固体電解質である、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極材料、リチウムイオン電池用負極、およびリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、一般的に、携帯電話やノートパソコンなどの小型携帯機器の電源として使用されている。また、最近では小型携帯機器以外に、電気自動車や電力貯蔵などの電源としてもリチウムイオン電池は使用され始めている。
【0003】
リチウムイオン電池用負極活物質として、金属シリコンを主体とした活物質が知られている。シリコン系の負極活物質は、高容量のリチウムイオン電池が得られることから、黒鉛などの炭素材料系の負極活物質に代わるものとして研究が進められている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−33440号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、シリコン系の負極活物質は、充放電に伴う体積変化が大きく、炭素材料系の負極活物質に比べてサイクル特性が劣っていた。そのため、シリコン系の負極活物質は、リチウムイオン電池用負極活物質としてはまだまだ満足するものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、サイクル特性および放電容量に優れる、シリコン系の負極活物質を提供するため鋭意検討した。その結果、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物固体電解質材料および構成元素としてLiおよびSiを含む合金材料を粉砕混合することにより得られるものがサイクル特性および放電容量に優れることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明によれば、
構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物固体電解質材料と、
構成元素としてLiおよびSiを含む合金材料と、
炭素材料と、
の粉砕混合物を含むリチウムイオン電池用負極材料であって、
前記粉砕混合物は、線源としてCuKα線を用いたX線回折では検出できない程度の結晶子サイズを有するSi微粒子と、硫化リチウムと、を含み、
前記粉砕混合物は、線源としてCuKα線を用いたX線回折測定において、前記硫化物固体電解質材料由来の回折ピークおよび前記合金材料由来の回折ピークが共に検出されず、かつ、前記硫化リチウムの回折ピークが検出されるものであリチウムイオン電池用負極材料が提供される。
【0009】
さらに、本発明によれば、
上記本発明のリチウムイオン電池用負極材料からなる負極活物質層を集電体の表面に形成してなる、リチウムイオン電池用負極が提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、
上記リチウムイオン電池用負極と、電解質層と、正極とを備えた、リチウムイオン電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サイクル特性および放電容量に優れるリチウムイオン電池を得ることができるシリコン系のリチウムイオン電池用負極材料、およびこれを用いた負極、並びにサイクル特性および放電容量に優れるリチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池の構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図は概略図であり、実際の寸法比率とは必ずしも一致していない。なお、本実施形態では特に断りがなければ、正極材料により形成された層を正極活物質層と呼び、集電体上に正極活物質層を形成させたものを正極と呼ぶ。また、負極材料により形成された層を負極活物質層と呼び、集電体上に負極活物質層を形成させたものを負極と呼ぶ。
【0014】
[リチウムイオン電池用負極材料]
はじめに、本実施形態のリチウムイオン電池用負極材料について説明する。
本実施形態のリチウムイオン電池用負極材料(以下、負極材料とも呼ぶ。)は、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物固体電解質材料(以下、Li-P-S系固体電解質材料とも呼ぶ。)と、構成元素としてLiおよびSiを含む合金材料(以下、Li-Si系合金材料とも呼ぶ。)と、を粉砕混合することにより得られるものである。
【0015】
Li-P-S系固体電解質材料としては、例えば、Liにより示される化合物である。ここで、Xは好ましくは4以上15以下であり、より好ましくは5以上12以下であり、さらに好ましくは7以上11以下である。Yは好ましくは1以上3以下であり、より好ましくは2以上3以下である。Zは好ましくは6以上14以下であり、より好ましくは7以上13以下であり、さらに好ましくは9以上12以下である。具体的な化合物としては、例えば、Li1012、Li1112、Li1212、Li12、Li11、Li6、Li7、Li9、Li等が挙げられる。
ここで、Li-P-S系固体電解質材料は、例えば、LiS、P、必要に応じてLiN等を所定の割合で混合し、メカノケミカル処理等の混合粉砕をおこなうことにより製造することができる。
【0016】
Li-Si系合金材料としては、例えば、LiSiにより示される化合物である。ここで、Aは好ましくは7以上25以下であり、より好ましくは13以上22以下である。Bは好ましくは3以上7以下であり、より好ましくは4以上5以下である。具体的な化合物としては、例えば、Li22Si5、Li13Si4、LiSi等が挙げられる。
Li-Si系合金材料は、例えば、LiとSiを所定の割合で溶融混合し、その後、粉砕することにより製造することができる。
【0017】
Li-P-S系固体電解質材料に対するLi-Si系合金材料の反応モル比は、Si微粒子の生成量が増えることによるSi凝集体の形成または結晶化、およびSi微粒子がLiSおよびLi、P、Sを主成分とするガラス固体電解質中で均一に分散した状態を作り出す観点から、好ましくは1.5以上7.7以下であり、より好ましくは1.9以上3.7以下である。
【0018】
本実施形態の負極材料を用いると、リチウムイオン電池のサイクル特性を向上させることができる。この理由については必ずしも明らかではないが、以下の理由が推察される。
まず、Li1112とLi22Siとを粉砕混合することにより得られたものについて、線源としてCuKα線を用いたX線回折測定をおこなうと、Li1112由来の回折ピークとLi22Si由来の回折ピークは消失し、硫化リチウム(LiS)の回折ピークが検出される。
Li1112とLi22Siのピークが消失していることから、Li1112とLi22Siとは粉砕混合により反応し、ガラス化していることが確認できる。また、LiSのピークが検出されることから、Li1112とLi22Siとが反応してLiSが生成していることが確認できる。
ここで、Li1112とLi22Siとの反応によりLiSが生成していることから、Siも同時に生成していると考えられるが、Siの(111)面のピーク(2θ=28.4±0.3°)は検出されない。
そこで、Li1112とLi22Siとを粉砕混合することにより得られたものを350MPaでプレス成形して得られたφ9.5mm×1mmのペレット表面の任意部分φ100μm領域をX線光電子分光分析(XPS)(PHI社製QuanteraSXM)で分析するとLiの1s軌道スペクトル、Sの2p軌道スペクトルおよびSiの2p軌道スペクトルのように金属SiおよびLiSの結合エネルギーが検出される。その他にSiOx(x<2)、LiOH、LiO等の結合エネルギーが検出されるが、これらはペレット表面がわずかながら酸化されるためである。
このことから、本実施形態の負極材料は、線源としてCuKα線を用いたX線回折では検出できない程度の結晶子サイズを有するSi微粒子を含んでいることが理解できる。
以上から、本実施形態の負極材料は、このようなSi微粒子がLiSおよびLi、P、Sを主成分とする化合物からなる固体電解質中に適度な比率で均一に分散し、Siが極めて小さな微粒子であることから、充放電によって起こるSi微粒子の体積変化が固体電解質との接触不良を引き起こし難いため、これまでに無い良好なサイクル特性を実現できていると推察される。
ここで、線源としてCuKα線を用いたX線回折では検出できない程度の結晶子サイズは、以下のScherrerの式から算出すると、0.4nm以上2.0nm以下の範囲内である。
D=0.94λ/βcosθ
ただし、Dは結晶子径(Å)、βはX線回折ピークの半値幅、θはブラッグ角、λはX線(CuKα)の波長(1.54Å)である。
【0019】
本実施形態の負極材料は、炭素材料をさらに含むのが好ましい。このような炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛質材料;アセチレンブラック、ケチェンブラックなどのカーボンブラック;樹脂炭;炭素繊維;活性炭;ハードカーボン;ソフトカーボン;多孔質炭素(例えばCNovel、東洋炭素製)等が挙げられる。これらの中でも黒鉛質材料が特に好ましい。
このような炭素材料は負極活物質として機能するとともに導電助剤としても機能する。そのため、本実施形態の負極材料は、上記炭素材料をさらに含むことにより、得られるリチウムイオン電池の充放電容量をより一層向上させることができる。
【0020】
Li-P-S系固体電解質材料およびLi-Si系合金材料の合計重量に対する上記炭素材料の混合重量の比は、好ましくは0.01以上1.5以下であり、より好ましくは0.05以上0.70以下であり、さらに好ましくは0.12以上0.40以下である。
【0021】
また、本実施形態の炭素材料は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは0.02μm以上30μm以下である。
炭素材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、より一層高密度の負極を作製することができる。
【0022】
そして、本実施形態の負極材料は特に限定されないが、その他の成分として、例えば、バインダー、増粘剤、および固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。
【0023】
本実施形態のバインダーはリチウムイオン電池に通常使用されるバインダーの中で有機溶剤系バインダーであれば特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドなどが挙げられる。これらのバインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本実施形態の負極材料は、有機溶媒系バインダーを使用すると比較的粘性が得られ易いため通常は不要であるが、塗布に適したスラリーの流動性を調整する点から、増粘剤を含んでもよい。本実施形態の増粘剤としては膨潤性粘度鉱物のスクメタイト、ポリビニルカルボン酸アミドなどが挙げられる。これらの増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本実施形態の負極材料を全固体リチウムイオン電池用の負極に用いる場合は、本実施形態の負極材料は固体電解質材料を含んでいるのが好ましい。本実施形態の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的に全固体リチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料などを挙げることができる。これらの中でも、硫化物固体電解質材料が好ましい。これにより、出力特性に優れた全固体リチウムイオン電池とすることができる。
【0026】
上記硫化物固体電解質材料としては、例えば、LiS−P材料、LiS−SiS材料、LiS−GeS材料、LiS−Al材料などが挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性が優れており、かつ製造工工程が簡便である点から、LiS−P材料が好ましい。
【0027】
本実施形態の負極材料中のバインダー、増粘剤、および固体電解質材料の配合量は、電池の使用用途などに応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0028】
[リチウムイオン電池用負極材料の製造方法]
つづいて、本実施形態の負極材料の製造方法について説明する。
本実施形態の負極材料は、Li-P-S系固体電解質材料とLi-Si系合金材料とを粉砕混合することにより得ることができる。Li-P-S系固体電解質材料およびLi-Si系合金材料としては前述したものが挙げられる。
【0029】
はじめに、Li-P-S系固体電解質材料に対するLi-Si系合金材料の混合モル比が好ましくは1.5以上7.7以下、より好ましくは1.9以上3.7以下となるように、Li-P-S系固体電解質材料とLi-Si系合金材料とを混合する。ここで、Li-P-S系固体電解質材料に対するLi-Si系合金材料の混合モル比が、通常は上記反応モル比となる。ここで、本実施形態の混合モル比は、例えば、ICP発光分光分析により求めることができるが、通常は仕込みの重量比から算出できる。
【0030】
つづいて、Li-P-S系固体電解質材料とLi-Si系合金材料とを粉砕混合する。
Li-P-S系固体電解質材料とLi-Si系合金材料とを粉砕混合する方法としてはLi-P-S系固体電解質材料とLi-Si系合金材料とを均一に粉砕混合できる方法であれば特に限定されないが、例えば、非活性雰囲気下でメカノケミカル処理によりおこなう方法が挙げられる。メカノケミカル処理を用いると、Li-P-S系固体電解質材料とLi-Si系合金材料とを微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、Li-P-S系固体電解質材料と、Li-Si系合金材料との接触面積を大きくすることができる。これにより、Li-P-S系固体電解質材料と、Li-Si系合金材料との反応を促進することができる。
【0031】
ここで、メカノケミカル処理とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する方法である。メカノケミカル処理による粉砕混合をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミルなどの粉砕・分散機が挙げられる。
【0032】
また、上記非活性雰囲気下とは、1〜10−5Paの真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法などが挙げられる。
【0033】
Li-P-S系固体電解質材料と、Li-Si系合金材料とを粉砕混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度などの条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。線源としてCuKα線を用いたX線回折測定において、LiSの回折ピーク(例えば、2θ=27.0°)が生成し、かつ、Li-P-S系固体電解質材料由来の回折ピーク(例えば、Li1112の場合、2θ=17.7°)およびLi-Si系合金材料由来の回折ピーク(例えば、Li22Siの場合、2θ=40.8°)が検出されない状態になるまで粉砕混合するのが好ましい。
【0034】
次いで、必要に応じて、得られた負極材料に炭素材料を混合する。なお、炭素材料は、Li-P-S系固体電解質材料とLi-Si系合金材料とを粉砕混合する際に添加して、Li-P-S系固体電解質材料およびLi-Si系合金材料と一緒に粉砕混合することもできる。
Li-P-S系固体電解質材料およびLi-Si系合金材料の合計重量に対する上記炭素材料の混合重量の比は、好ましくは0.01以上1.5以下であり、より好ましくは0.05以上0.70以下であり、さらに好ましくは0.12以上0.40以下である。炭素材料の混合量が上記範囲内であると、得られるリチウムイオン電池の充放電容量をより一層向上させることができる。
【0035】
Li-P-S系固体電解質材料およびLi-Si系合金材料を混合粉砕することにより得られた負極材料に炭素材料を混合する方法としては、前述したメカノケミカル処理による混合が挙げられる。
【0036】
次いで、必要に応じて、バインダー、増粘剤、および固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を混合する。これらの混合機としては、ボールミル、プラネタリーミキサーなど公知のものが使用でき、特に限定されない。混合方法も特に限定されず、公知の方法に準じておこなうことができる。
【0037】
以上の手順により、本実施形態に係る負極材料を得ることができる。
【0038】
[リチウムイオン電池用負極]
つぎに、本実施形態の負極材料を含むリチウムイオン電池用負極について説明する。
本実施形態のリチウムイオン電池用負極は特に限定されないが、例えば、本実施形態の負極材料からなる負極活物質層をステンレス箔などの集電体の表面に形成することにより得られる。
【0039】
本実施形態のリチウムイオン電池用負極の厚みや密度は、電池の使用用途などに応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0040】
[リチウムイオン電池用負極の製造方法]
つぎに、本実施形態のリチウムイオン電池用負極の製造方法について説明する。
本実施形態のリチウムイオン電池用負極は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、本実施形態の負極材料を圧縮成形、ロール成形などによりシート状、ペレット状などに成形して負極活物質層を形成する。そして、このようにして得られた負極活物質層と集電体とを積層することにより、本実施形態の負極を得ることができる。
また、本実施形態の負極材料を用いて負極スラリーを作製し、それを集電体に塗布して乾燥することにより、負極を製造することもできる。
【0041】
負極活物質層は、集電体の片面のみに形成しても両面に形成してもよい。負極活物質層の厚さ、長さや幅は、電池の大きさや用途に応じて、適宜決定することができる。
【0042】
本実施形態の負極の製造に用いられる集電体としては特に限定されず、銅箔、ニッケル箔などリチウムイオン電池に使用可能な通常の集電体を使用することができる。
【0043】
本実施形態のリチウムイオン電池用負極は、必要に応じてプレスをおこない、負極の密度を調整してもよい。プレスの方法としては、一般的に公知の方法を用いることができる。
【0044】
[リチウムイオン電池]
つぎに、本実施形態のリチウムイオン電池100について説明する。図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池の構造の一例を示す断面図である。
【0045】
本実施形態のリチウムイオン電池100は、例えば、正極110と、電解質層120と、負極130とを備えている。そして、負極130が、本実施形態のリチウムイオン電池用負極である。
本実施形態のリチウムイオン電池100は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、正極110、固体電解質層またはセパレーター、および負極130を重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し、必要に応じて、非水電解液を封入することにより作製される。
【0046】
電解質層120は、正極110および負極130の間に形成される層である。電解質層120とは、セパレーターに非水電解液を含浸させたものや、固体電解質を含む固体電解質層が挙げられる。
【0047】
本実施形態のセパレーターとしては正極110と負極130を電気的に絶縁させ、リチウムイオンを透過する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多孔性膜を用いることができる。
多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステルなどが挙げられる。特に、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
【0048】
本実施形態の非水電解液とは、電解質を溶媒に溶解させたものである。
上記電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CH
SOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0049】
上記電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されず、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホランなどのスルホラン類;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトンなどのスルトン類;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
正極110は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。正極110は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、正極活物質を含む正極活物質層をアルミ箔などの集電体の表面に形成することにより得ることができる。
【0051】
正極活物質層101の厚みや密度は、電池の使用用途などに応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0052】
本実施形態の正極活物質としては特に限定されず一般的に公知のものを使用することができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)などの複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子;LiS、CuS、Li-Cu-S化合物、MoS、Li-Mo-S化合物などの硫化物を用いることができる。
【0053】
正極活物質層は特に限定されないが、本実施形態の正極活物質以外の成分として、例えば、バインダー、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料などから選択される1種以上の材料を含んでもよい。
【0054】
正極活物質層中の各種材料の種類、配合割合は、電池の使用用途などに応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
【0055】
本実施形態のリチウムイオン電池は電解質として、上述した非水電解液の代わりに、固体電解質材料を用いることによって全固体リチウムイオン電池とすることができる。
本実施形態の全固体リチウムイオン電池は、例えば、正極110、負極130、および、正極110と負極130との間に固体電解質により形成された固体電解質層(電解質層120)を有するものである。
本実施形態の固体電解質材料としては特に限定されないが、一般的に公知のものを用いることができる。例えば、上述した負極130に含ませる固体電解質材料と同様のものを用いることができる。
全固体リチウムイオン電池の負極材料として、本実施形態の負極材料を用いると、充放電容量、サイクル特性などの電池特性が良好で、かつ、高い安全性を有するリチウムイオン電池とすることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
<付記>
(付記1)
構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物固体電解質材料と、
構成元素としてLiおよびSiを含む合金材料と、
を粉砕混合することにより得られる、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記2)
付記1に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記硫化物固体電解質材料は、Li(ただし、4≦X≦15、1≦Y≦3、6≦Z≦14である。)により示される化合物である、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記3)
付記1または2に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記合金材料は、LiSi(ただし、7≦A≦25、3≦B≦7である。)により示される化合物である、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記4)
付記1乃至3いずれか一つに記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記硫化物固体電解質材料に対する前記合金材料の反応モル比が1.5以上7.7以下である、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記5)
付記1乃至4いずれか一つに記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
さらに炭素材料を含む、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記6)
付記5に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記炭素材料は黒鉛質材料である、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記7)
付記1乃至6いずれか一つに記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記硫化物固体電解質材料および前記合金材料の合計重量に対する前記炭素材料の混合重量の比が0.01以上1.5以下である、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記8)
線源としてCuKα線を用いたX線回折では検出できない程度の結晶子サイズを有するSi微粒子を含む、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記9)
付記8に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
さらに炭素材料を含む、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記10)
付記9に記載のリチウムイオン電池用負極材料において、
前記炭素材料は黒鉛質材料である、リチウムイオン電池用負極材料。
(付記11)
付記1乃至10いずれか一つに記載のリチウムイオン電池用負極材料からなる負極活物質層を集電体の表面に形成してなる、リチウムイオン電池用負極。
(付記12)
付記11に記載のリチウムイオン電池用負極と、電解質層と、正極とを備えた、リチウムイオン電池。
(付記13)
付記12に記載のリチウムイオン電池において、
前記電解質が固体電解質である、リチウムイオン電池。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例・比較例では、「mAh/g」は負極材料1gあたりの容量密度を示す。
【0058】
[1]測定方法
はじめに、以下の実施例、比較例における測定方法を説明する。
【0059】
(1)X線回折分析
X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて、X線回折分析法により、実施例および比較例で得られた負極材料の回折スペクトルをそれぞれ求めた。なお、線源としてCuKα線を用いた。
【0060】
(2)充放電試験
実施例および比較例で得られた負極材料15mgについてプレス成型を行い、負極を得た(直径φ=14mm、厚みt=0.15mm)。
次いで、固体電解質層(Li1012、150mg、直径φ=14mm、厚みt=0.6mm)、正極(LiMoS:アセチレンブラック(AB):Li1012=1:1:1(重量%)、45mg、直径φ=14mm、厚みt=0.15mm)をこの順で積層させて全固体リチウムイオン電池を作製した。
次いで、得られた全固体リチウムイオン電池について、電流値0.1mA、電流密度0.065mA/cm、測定電位0.9−3.5Vの条件で充放電を10回行った。得られた結果を表1に示す。ここで、1回目の放電容量を100%としたときの10回目の放電容量を放電容量変化率[%]とした。
【0061】
ここで、正極活物質であるLiMoSは以下の手順で作製した。
アルゴン雰囲気下で、MoS(和光純薬工業社製、970mg、6.1mmol)と、LiS(シグマアルドリッチジャパン社製、835mg、17.8mmol)と、S(シグマアルドリッチジャパン社製、194mg、6.1mmol)とをアルミナ製ボールミルポット(内容積400ml)に入れ、97rpmで、4日間処理を行うことにより得た。
【0062】
また、Li-P-S系固体電解質材料であるLi1012は以下の手順で作製した。
原料には、LiS(Alfa Aesar製、純度99.9%)、P(関東化学製試薬)を使用した。LiNは、以下の手順で作製した。
まず、窒素雰囲気のグローブボックス中で、Li箔(本城金属社製純度99.8%、厚さ0.5mm)にステンレス製の剣山を使用しφ1mm以下の穴を多数開けた。Li箔は穴の部分から黒紫色に変化し始め、そのまま、常温で24時間放置することでLi箔すべてが黒紫色のLiNに変化した。LiNは、メノウ乳鉢で粉砕後、ステンレス製篩で篩い分けし、75μm以下の粉末を回収し固体電解質材料の原料とした。
つづいて、アルゴングローブボックス中で各原料をLiS:P:LiN=71.1:23.7:5.3(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P−7)にて、100rpmで1時間混合粉砕した。次いで、400rpmで15時間混合粉砕した。混合粉砕後の粉末をプレス装置を用いて、270MPa、10分間プレスし、厚さ0.6mmの板状の混合物を得た。得られた混合物はカーボンボートに入れアルゴン気流中で300℃、2時間加熱処理し、粉末同士が融着し、固く焼結した、Li1012組成の固体電解質材料を得た。
【0063】
[2]負極材料の製造
<実施例1>
アルゴン雰囲気下、ジルコニウム坩堝中で、Li箔(本城金属社製、1.04g)とSi粉末(古河機械金属社製、0.96g)を300℃、1時間溶融混合した。次いで、その混合物をアルミナ製ボールミルポットに入れ、さらにZrOボールを入れ、アルミナ製ボールミルポットを密閉した。次いで、アルミナ製ボールミルポットを97rpmで、27時間処理を行い、Li22Si組成のLi-Si合金1を得た。
【0064】
また、Li-P-S系固体電解質材料であるLi1112を以下の手順で作製した。
原料には、Li1012組成の固体電解質材料の作製と同様のものを用いた。
まず、アルゴングローブボックス中で各原料をLiS:P:LiN=67.5:22.5:10.0(モル%)になるように精秤し、これら粉末を20分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを秤量し、φ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、遊星ボールミル(フリッチュ社製、P−7)にて100rpmで1時間混合粉砕した。次いで、400rpmで15時間混合粉砕した。混合粉砕後の粉末はカーボンボートに入れアルゴン気流中で300℃、2時間加熱処理し、Li1112組成のLi-P-S系固体電解質材料1を得た。
【0065】
次いで、アルゴングローブボックス中で各原料をLi-Si合金1:Li-P-S系固体電解質材料1:黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製、平均粒子径d50:21.7μm)=4:3:8(重量比)になるように精秤し、これらを10分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末1.0gを秤量し、これらをφ10mmのジルコニア製ボール500gとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、97rpmで24時間混合粉砕し、負極材料1を得た。
得られた負極材料1のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi-Si合金1であるLi22Siの回折ピークは消失し、LiSおよび黒鉛の回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、X線光電子分光分析(XPS)(PHI社製QuanteraSXM)により、Siが生成していることを確認した。
【0066】
<実施例2>
Li-Si合金1:Li-P-S系固体電解質材料1:黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製)=4:3:4(重量比)に変更した以外は実施例1と同様にし、負極材料2を得た。
得られた負極材料2のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi-Si合金1であるLi22Siの回折ピークは消失し、LiSおよび黒鉛の回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、XPSにより、Siが生成していることを確認した。
【0067】
<実施例3>
Li-Si合金1:Li-P-S系固体電解質材料1:黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製)=4:3:2(重量比)に変更した以外は実施例1と同様にし、負極材料3を得た。
得られた負極材料3のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi-Si合金1であるLi22Siの回折ピークは消失し、LiSおよび黒鉛の回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、XPSにより、Siが生成していることを確認した。
【0068】
<実施例4>
Li-Si合金1:Li-P-S系固体電解質材料1:黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製)=4:3:0(重量比)に変更した以外は実施例1と同様にし、負極材料4を得た。
得られた負極材料4のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi-Si合金1であるLi22Siの回折ピークは消失し、LiSの回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、XPSにより、Siが生成していることを確認した。
【0069】
<実施例5>
黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製)の代わりに、活性炭(クラレコールYP−17、クラレケミカル社製、平均粒子径d50:21.7μm)を用いた以外は実施例1と同様にし、負極材料5を得た。
得られた負極材料5のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi-Si合金1であるLi22Siの回折ピークは消失し、LiSの回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、XPSにより、Siが生成していることを確認した。
【0070】
<実施例6>
黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製)の代わりに、アセチレンブラック(電気化学工業製、平均粒子径d50:0.04μm)を用いた以外は実施例3と同様にし、負極材料6を得た。
得られた負極材料6のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi-Si合金1であるLi22Siの回折ピークは消失し、LiSの回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、XPSにより、Siが生成していることを確認した。
【0071】
<実施例7>
黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製)の代わりに、多孔質炭素(CNovel2200、東洋炭素社製、平均粒子径d50:9.5μm)を用いた以外は実施例3と同様にし、負極材料7を得た。
得られた負極材料7のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi-Si合金1であるLi22Siの回折ピークは消失し、LiSの回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、XPSにより、Siが生成していることを確認した。
【0072】
<実施例8>
Li-Si合金1の代わりに、LiSiを用いた以外は実施例3と同様にし、負極材料8を得た。
得られた負極材料8のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLiSiの回折ピークは消失し、LiSの回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークは検出されなかった。一方、XPSにより、Siが生成していることを確認した。
【0073】
<比較例1>
Li-Si合金1:Li-P-S系固体電解質材料1:黒鉛(CGC−20、日本黒鉛工業社製)=0:3:8(重量比)に変更した以外は実施例1と同様にし、負極材料9を得た。
【0074】
<比較例2>
アルゴングローブボックス中で各原料をLi-Si合金1:硫黄(S、シグマアルドリッチジャパン社製)=1:1.2(重量比)になるように精秤し、これらを10分間メノウ乳鉢で混合した。次いで、混合粉末2gを精秤し、これらをφ10mmのジルコニア製ボールとともに、アルミナ製ボールミルポット(内容積400mL)に入れ、97rpmで24時間混合粉砕し、混合粉砕後の粉末はX線回折でLiSおよびSiの回折ピークが検出され、LiSとSiの混合物に変化していることを確認した。このLiSとSiの混合物をLi−Si合金1の代わりに用いた以外は実施例1と同様にし、負極材料10を得た。ただし負極材料に含まれるSiの重量は、実施例1の46%である。
得られた負極材料10のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112およびLi22Siの回折ピークは消失し、LiSおよび黒鉛の回折ピークが検出された。また、Siの回折ピークが検出された。Siの回折ピークからScherrerの式を用いて算出した結晶子サイズは370nmであった。
【0075】
<比較例3>
Li-Si合金1の代わりに、Si粉末(古河機械金属製、平均粒子径D50:2.0μm)を用いた以外は実施例1と同様にし、負極材料11を得た。
得られた負極材料11のX線回折スペクトルを測定したところ、Li-P-S系固体電解質材料1であるLi1112の回折ピークは消失し、Siおよび黒鉛の回折ピークが検出された。
【0076】
(充放電試験結果)
以上の負極材料1〜11の充放電試験結果を表1に示す。
実施例で得られた負極材料1〜8は、比較例で得られた負極材料9〜11に比べて、放電容量変化率および放電容量に優れていた。
【0077】
【表1】
【符号の説明】
【0078】
100 リチウムイオン電池
110 正極
120 電解質層
130 負極
図1