(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料消費および二酸化炭素放出物を減少することによって、その中へ燃料組成物が導入されるか又は導入するように意図されるエンジン、或いはかかるエンジンによって駆動される乗物の燃料経済性を向上させるための、ディーゼル燃料組成物中における粘度増加成分の使用であって、
前記粘度増加成分が、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、及びスチレンモノマーから選択される1種類以上のモノマーブロックを含むブロックコポリマーを含む粘度指数(VI)向上添加剤であり、
VI向上添加剤を、燃料組成物の全重量を基準として、
(i)0.01%w/w〜1.0%w/w;
(ii)0.05%w/w〜0.5%w/w;或いは
(iii)0.1%w/w〜0.3%w/w;の間の濃度で用いる、前記使用。
【背景技術】
【0002】
例えば米国及びヨーロッパにおける現在の排ガス法は、圧縮点火エンジンの排ガス放出物中において容認される汚染性ガスの許容しうるレベルに対して厳しい制限を定めている。
【0003】
エンジン及び燃料の製造者によって行われている燃焼プロセスを向上させて望ましくない排ガス放出物の生成を減少させる通常のアプローチは、幾つかの形態の「改良型燃焼(advanced combustion)」を用いるものである。改良型燃焼は、通常は以下の特徴:上死点(TDC)より遙かに前の時点での燃料噴射;複数の燃料噴射;多量の排ガス再循環(EGR);及び高い噴射圧力;の1以上を含む、多数の異なる燃焼モードを含む包括的用語である。これらのモードは全て、一般に、向上した燃料−空気混合及び低下した燃焼温度によって非常に低いレベルのNO
X及び煤(粒子状物質)の放出を達成しようと試みている。
【0004】
また、多くのエンジンは排ガス放出物を放出規制によって求められているレベルに減少させるために幾つかの形態の後処理も含んでいる。通常の後処理は、(例えばNO
x放出物を除去するための)触媒コンバーター、及び/又は(例えば排ガス流から煤を除去するための)粒子フィルターのような装置を含む。
【0005】
エンジン中における改良型燃焼プロセスを制御する現在の手段は、NO
x生成のような種々のエンジン/燃焼パラメーターをモニターして、エンジン制御ユニットを用いてエンジンパラメーターに対する調節を行って、燃焼プロセス中のNO
x生成が最小になると認められる条件の組に向けてエンジンを推進することに基づいている。しかしながら、特に最小のNO
x生成レベル(その条件下では燃焼は不安定になる可能性がある)の方向に推進する場合に、改良型燃焼のような高感度のプロセスを調節することに伴う問題は、不完全燃焼が起こって、煤/粒子状物質(PM)の生成が増加する可能性があることである。したがって、ディーゼルエンジンからの排ガス放出物は、NO
X放出とPM放出との間の妥協点と考えることができる。
【0006】
而して、現在のディーゼル乗物においては、一般に、低い全放出物基準を満足するために、低いNO
x放出物、したがって高いPM放出物を生成するようにエンジンを調整し;その後に放出物からPMを除去するためにPMトラップを用いている。この調整によってエンジン効率が低下し、燃料消費が大きく増加することが文献において公知である。しかしながら、別の放出物減少法は、遙かにより複雑で高コストであり、重量級の乗物において大規模でしか実施されていない。実際には、たとえNO
xの後処理が広く、例えば乗用車に使用可能であっても、当面は、エンジンの調整を同程度に維持することは、PMフィルターの信頼性により確保されるであろう。
【0007】
一方、改良型燃焼及び排ガス放出物の制御は、単に給気及びエンジン制御の問題ではなく、セタン価、密度、及び特定の添加剤の存在等のような燃料特性の問題でもあることを認識すべきである。したがって、開発中は、エンジンの放出物は、厳密に規定された標準燃料を参照して測定され、したがってエンジンの調整はその標準燃料の特性に最適化される。このシステムの欠点は、エンジン中において用いる燃料のタイプが変化すると、エンジン性能(例えば減少した効率)及び放出物の両方に対して大きな影響を与える可能性があることである。
【0008】
例えば、現在の乗物の後処理技術を容易にし、且つ乗物の放出物を更に減少させるために、燃料精製業者は硫黄減少技術のような補助的なシステムに投資している。これによって、一般により低い密度のディーゼル燃料の利用可能性がもたらされる。また、これらの技術によって与えられる増加した柔軟性によって、精製業者は、燃料密度を関連するフルスペックの下限により近く更に低下させることによって「エネルギーの損失」を最適化することが可能になった。したがって、市場における燃料の密度は、エンジンキャリブレーションのために用いる標準燃料から徐々に離れている。幾つかの燃料の特性におけるこのシフトは、特定のエンジンにおいて実際に用いられる燃料のタイプが大きい影響を与える可能性があることを意味する。
【0009】
更に、乗物のエンジン中に噴射される燃料の量は主として体積によって制御されるので、燃料の密度が低下するとエンジンシリンダー内の燃焼性燃料の量が減少し、それによって変換することができるエネルギーの有効量が減少する。これにより、エンジンの放出物は低NO
x及び高PMの方向に更に変化するが、エンジン効率の損失及び燃料消費の増加に至る。NO
x放出についての小さな利益が存在するかもしれないが、この調整では乗物の製造者によって意図される燃料経済性と排気放出物との間の最適なバランスは得られないことが認識された。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の理解を助けるために、ここで幾つかの用語を定義する。
「粘度指数」(又はVI)は、温度に伴う動粘度の変化を測定するために用いる任意の単位である。これは、一般に自動車産業において潤滑油を特徴付けるために用いられる。而して、粘度指数は、液体(又は潤滑剤)の粘度が温度の変動に伴ってどのように変化するかを強調する。一般に、液体の粘度はその温度が上昇するにつれて減少する。多くの潤滑剤又は燃料の用途においては、液体は、広範囲のエンジン条件にわたって、例えば液体が周囲の優勢な温度にある場合の始動時、並びに運転中(200℃/392°Fまで)である場合において機能することが求められる。VIがより高いと、温度に伴う粘度の相対変化はより小さい。望ましくは、燃料組成物は、その通常の運転温度範囲にわたって粘度が大きくは変化しない(即ち、比較的高いVIを有する)。
【0031】
VIスケールにしたがって粘度を測定する基準温度は、適宜37.8℃及び98.9℃(即ち100°F及び210°F)に選択した。しかしながら、通常は、動粘度の測定値は、他に示さない限りにおいて約40℃及び/又は約100℃においてとる。好都合には、動粘度はASTM−D−445又はEN−ISO−3104のような当業者に公知の標準化試験手順を用いて測定する。
【0032】
本明細書において用いる「粘度増加成分」という用語は、燃料組成物に好適な濃度で加えると、燃料の運転温度範囲内の1以上の温度において燃料組成物の粘度をその従前の粘度に対して増加させる効果を有する任意の成分を包含する。この用語は、高粘度燃料又はオイル成分、並びに天然又は合成燃料又はオイル添加剤を包含する。
【0033】
VI向上剤(粘度調整剤としても知られる)は、VI向上剤の有用温度範囲全体にわたって流体の粘度を増加させる添加剤である。有用運転温度は、好ましくはエンジン内における燃料組成物の運転温度範囲の少なくとも一部と重複する。
【0034】
VI向上剤は、温度に対して感受性のポリマー分子である。低温においては、分子鎖は収縮し、したがって流体粘度に対して大きくは影響を与えない。しかしながら、高温においては、鎖が緩んで粘度の相対的な増加が起こる。しかしながら、実際の粘度は温度が上昇するにつれてなお減少する。したがって、VI向上剤を加えることは、粘度が減少する速度を停止させるのではなく、遅延させるように働く。
【0035】
多くのタイプ及び構造のVI向上剤が存在する。より高分子量のポリマーはより良好な増粘剤を形成するが、機械的剪断に対してより低い抵抗性を有する傾向がある。他方において、より低分子量のポリマーはより剪断抵抗性であるが、より高い温度において有効に粘度を向上せず、したがって所望の温度において同等の効果を達成するためにはより多い量で用いられ得る。
【0036】
本明細書において用いる燃料粘度に関する「増加」とは、同じか又は同等の条件下において従前に測定された粘度と比べて任意の程度の増加を包含する。而して、増加は、好適には粘度増加(又は向上)成分又は添加剤を含ませる前の燃料組成物の粘度と比較したものである。或いは、粘度増加は、それに粘度増加成分を加える前の、例えば内燃エンジン、特にディーゼルエンジンにおいて用いるように意図されている(例えば市販されている)他の類似の燃料組成物(又はバッチ若しくは同じ燃料組成物)と比較して測ることができる。
【0037】
本発明には、例えば、所望の目標粘度を達成するために粘度増加成分を用いて、燃料組成物の粘度を調節(即ち増加)させることを含ませることができる。
上述したように、粘度増加成分は、同じ条件下で測定して、それを加える燃料組成物の粘度を増加させるのに十分な量で用いる。動粘度の増加は、任意の好適な温度、例えば40℃又は100℃において測定することができる。好都合には、粘度は40℃において測定する。好適には、粘度増加成分は、粘度を少なくとも0.05mm
2/秒、少なくとも0.1mm
2/秒、又は少なくとも0.2mm
2/秒増加させる量で用いる。より好適には、粘度の増加は、0.25mm
2/秒〜2.0mm
2/秒の間;又は0.25mm
2/秒〜1.0mm
2/秒の間であってよい。好ましい態様においては、粘度の増加は、0.3mm
2/秒〜0.8mm
2/秒の間、例えば0.32mm
2/秒〜0.67mm
2/秒の間である。幾つかの場合においては、粘度を約0.4mm
2/秒、約0.5mm
2/秒、約0.6mm
2/秒、又は約0.7mm
2/秒増加させることが望ましい可能性がある。
【0038】
同様に、燃料経済性に関する「増加」は、同じか又は同等のエンジンにおいて測定された、粘度増加成分を加える前の同じ燃料組成物の燃料経済性と比較した任意の量の増加を包含する。或いは、燃料経済性の増加は、同じか又は同等のエンジンにおいて同じか又は同等の条件下で、類似の燃料組成物に対比して測ることができる。而して、この増加は、好適には粘度増加(又は向上)成分又は添加剤を含ませる前のエンジン又は乗物の燃料経済性と比較したものである。
【0039】
燃料経済性の増加は、増加パーセント、燃料の指定体積(例えばL)に関する走行距離(例えばkm)の増加、或いは同じ条件(例えば速度、作業負荷)下で特定の距離走行するための燃料体積又は質量の減少などとして、任意の好適な方法で測定及び/又は報告することができる。一例として、増加パーセントは、少なくとも0.1%、例えば少なくとも0.2%であってよい。好適には、燃料経済性の増加パーセントは、少なくとも0.25%、又は少なくとも0.5%である。より好適には、燃料経済性の増加は、少なくとも1.0%、少なくとも2.0%、又は少なくとも3.0%である。幾つかの特に好ましい態様においては、燃料経済性の増加は、少なくとも5.0%、又は更には少なくとも10%である。しかしながら、特に世界中で日々如何に多くの燃料が乗物によって用いられているかを考えると、燃料経済性のいかなる測定できる向上も価値のある有利性を提供する可能性があることを認識すべきである。
【0040】
その中で本発明の燃料組成物を用いるエンジンは、任意の適当なエンジンであってよい。而して、燃料がディーゼル又はバイオディーゼル燃料組成物である場合には、エンジンはディーゼル又は圧縮点火エンジンである。同様に、粘度増加成分を用いる場合及び用いない場合の燃料経済性を測定するために同じか又は同等のエンジンを用いるならば、ターボ過給ディーゼルエンジンのような任意のタイプのディーゼルエンジンを用いることができる。同様に、本発明は任意の乗物におけるエンジンに適用することができる。一般に、本発明は、都市部、市外、及び/又は自動車道路/高速道路/試験用走行路の運転条件のような任意の運転条件にも適用することができるが、本発明は、幾つかのエンジンタイプ及び/又は特定の運転条件下で特に有益である可能性がある。
【0041】
本発明との関連においては、燃料組成物中における粘度増加成分の「使用」とは、この成分を、通常は1種類以上の燃料成分(通常はディーゼル基燃料)及び場合によっては1種類以上の燃料添加剤とのブレンド(即ち物理的混合物)として組成物中に含ませることを意味する。
【0042】
粘度増加成分は、好ましくは、組成物によって運転するエンジン中に組成物を導入する前に燃料組成物中に含ませる。
したがって、粘度増加成分は、精油所において燃料組成物又は基燃料の1以上の成分中に直接投与する(又はこれとブレンドする)ことができる。例えば、これは、その後に自動車燃料組成物全体の一部を形成する好適な燃料成分中に予め希釈することができる。
【0043】
或いは、これは精油所の下流において自動車燃料組成物に加えることができる。例えば、これは1種類以上の他の燃料添加剤を含む添加剤パッケージの一部として加えることができる。幾つかの状況においては精油所において燃料組成物を変性することは不都合であるか又は望ましくない可能性があるので、これは特に有利である可能性がある。例えば、基燃料成分のブレンドは全ての場所で実現可能でない可能性があるのに対して、比較的低濃度の燃料添加剤の導入は、燃料貯蔵所、或いはタンクローリー、船舶又は列車充填箇所、給油器、顧客のタンク、及び乗物のような他の充填箇所においてより容易に行うことができる。
【0044】
したがって、本発明の「使用」は、本発明の利益の1つ(例えば、特定の内燃エンジン又は特定の乗物における燃料経済性の増加)を達成するために、自動車燃料組成物中でそれを用いるための指示書と一緒に粘度増加成分を供することを包含することもできる。したがって、粘度増加成分は、燃料添加剤、特にディーゼル燃料添加剤のために好適であるか及び/又はそれとして用いるように意図される配合物の一成分として供給することができる。一例として、粘度増加成分又は添加剤は、1種類以上の他の燃料添加剤と一緒に添加剤配合物又はパッケージ中に含ませることができる。1種類以上の燃料添加剤は、当業者に公知なように、洗浄剤、腐食防止添加剤、エステル、ポリα−オレフィン、長鎖有機酸、アミン又はアミド活性中心を含む成分、並びにこれらの混合物のような任意の有用な添加剤から選択することができる。
【0045】
その代わりに、或いは更に、本発明の「使用」は、通常は燃料組成物をエンジンの燃焼室中に導入することによって、粘度増加成分を含む燃料組成物によってエンジンを運転することを包含することができる。
【0046】
本発明の一態様によれば、2種類以上の粘度増加成分を自動車燃料組成物中で用いて、本明細書に記載する本発明の効果の1以上を与えることができる。
粘度増加成分:
粘度増加成分は、高粘度燃料又はオイル誘導体或いはVI向上添加剤であってよい。
【0047】
用いる場合には、高粘度燃料又はオイル誘導体としては、その中にそれらを導入する燃料よりも高い粘度のグループ3潤滑剤基油を挙げることができる。これらの組成物は、所望の効果に応じて任意の好適な濃度で用いることができる。
【0048】
VI向上添加剤は合成的に製造される傾向があり、したがって通常は、例えば鉱物由来の粘度増加燃料成分(石油精製流)(その構成はバッチ間で変化する可能性がある)とは対照的に、明確な構成及び品質で入手することができる。VI向上添加剤はまた潤滑剤中で用いるために広く利用することができ、この事によっても、これらは本発明によって提案される新しい使用のために興味深い添加剤である。これらはまた、特に必要なより低い濃度を考慮すると、鉱物系基油のような他の粘度増加成分よりもしばしばより安価である。
【0049】
本発明の燃料組成物において用いるVI向上添加剤は、性質上ポリマーである。これは、例えば、(a)スチレンベースのコポリマー、特にブロックコポリマー、例えばKraton(登録商標)D、又はKraton(登録商標)G添加剤(Kratonから)、或いはSV(登録商標)添加剤(Infineum、Multisol、又は他から)として入手できるものから選択することができる。特定の例としては、スチレン及びエチレン/ブチレンモノマーのコポリマー、例えばポリスチレン−ポリイソプレンコポリマー、及びポリスチレン−ポリブタジエンコポリマーが挙げられる。かかるコポリマーは、SV(登録商標)150(ポリスチレン−ポリイソプレンジブロックコポリマー)、又はKraton(登録商標)添加剤(スチレン−ブタジエン−スチレントリブロックコポリマー、又はスチレン−エチレン−ブチレンブロックコポリマー)のようなブロックコポリマーであってよい。これらは、テーパードコポリマー、例えばスチレン−ブタジエンコポリマーであってよい。これらは、例えばSV(登録商標)200及びSV(登録商標)260(スチレン−ポリイソプレン星形コポリマー)のような星形(星状)コポリマー;(b)エチレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、又は他のオレフィンモノマーをベースとする他のブロックコポリマー、例えばエチレン−プロピレンコポリマー;(c)ポリイソブチレン(PIB);(d)ポリメタクリレート(PMA);(e)ポリα−オレフィン(PAO);及び(f)これらの混合物;であってよい。
【0050】
VI向上添加剤としては、無機起源の1種類以上の化合物、例えばゼオライトを挙げることができる。
好適なVI向上剤の他の例は、日本特許954077、1031507、1468752、1764494、及び1751082において開示されている。更なる例としては、窒素及び酸素原子を含む共重合極性モノマーを含む分散タイプのVI向上剤;アルキル芳香族タイプのVI向上剤;及びVI向上剤として用いることが公知の幾つかの流動点降下剤;が挙げられる。
【0051】
上記の中で、タイプ(a)及び(b)の添加剤、或いはこれらの混合物、特にタイプ(a)の添加剤が好ましい。
ブロックコポリマーを含むか、又は理想的にはそれから実質的に構成されるVI向上添加剤は、一般に堆積物及び/又は泡の形成の増加のような副作用をより少なくすることができるので好ましい可能性がある。VI向上添加剤には、例えば、通常はエチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、及びスチレンモノマーから選択される1種類以上のオレフィンモノマーブロックを含むブロックコポリマーを含ませることができる。特に好ましいタイプのVI向上剤は、スチレン及びイソプレンをベースとする星形コポリマーであり、具体的に好ましいVI向上剤は、ポリスチレン−ポリイソプレン星形コポリマーであるSV(登録商標)200である。
【0052】
VI向上添加剤の40℃における動粘度(VK40、ASTM−D−445又はEN−ISO−3104によって測定)は、好適には40mm
2/秒以上、好ましくは100mm
2/秒以上、より好ましくは1000mm
2/秒以上である。15℃におけるその密度(ASTM−D−4052又はEN−ISO−3675)は、好適には600kg/m
3以上、好ましくは800kg/m
3以上である。その硫黄含量(ASTM−D−2622又はEN−ISO−20846)は、好適には1000mg/kg以下、好ましくは350mg/kg以下、より好ましくは10mg/kg以下である。
【0053】
VI向上添加剤は、好適な溶媒、例えば鉱油又はフィッシャー・トロプシュ誘導炭化水素混合物;その中で添加剤を用いる燃料組成物と相溶性の燃料成分(これも鉱物系又はフィッシャー・トロプシュ誘導のいずれかであってよい)(例えば、ディーゼル燃料組成物中で用いることが意図されている場合には、軽油又は灯油のような中間留分燃料成分);ポリα−オレフィン;脂肪酸アルキルエステル(FAAB)、フィッシャー・トロプシュ誘導バイオマス・トゥー・リキッド合成生成物、水素化植物油、廃油又は藻油、或いはエタノールのようなアルコールなどの所謂バイオ燃料;芳香族溶媒;任意の他の炭化水素又は有機溶媒;或いはこれらの混合物;の中に予め溶解することができる。これに関連して用いるのに好ましい溶媒は、鉱油ベースのディーゼル燃料成分及び溶媒、並びに下記に示す「XtL」成分のようなフィッシャー・トロプシュ誘導成分である。バイオ燃料溶媒も幾つかの場合において好適である可能性がある。
【0054】
燃料組成物中のVI向上添加剤の濃度は、2%w/w以下、好適には1.0%w/w以下、より好適には0.5%w/wであってよい。これは、0.001%w/w以上、好適には0.01%w/w以上、より好適には0.05%w/w以上、更により好適には0.1%w/w以上であってよい。好適な濃度範囲は、例えば、およそ0.001〜2.0%w/w、0.01〜2.0%w/w、0.01〜1.0%w/w、0.01〜0.5%w/w、0.05〜1.0%w/w、0.05〜0.5%w/w、0.1〜0.5%w/w、又は0.1〜0.3%w/wであってよい。幾つかの場合においては、VI向上添加剤の量は、およそ0.15〜0.25%w/wであってよい。VI向上剤の特に有用な濃度は、燃料組成物の全重量を基準としておよそ0.1%w/w及び0.2%w/wである。幾つかの有利な態様においては、VI向上剤はSV(登録商標)シリーズのVI向上剤(上記に記載)から選択され、これらは有益には0.05〜0.5%w/wの範囲で用いられる。例えば、SV(登録商標)200又はSV(登録商標)260VI向上剤を約0.1%w/w、0.2%w/w、又は0.3%w/wの量で用いることが有利である可能性がある。これらの濃度はVI向上添加剤それ自体に関するものであり、それを用いてその活性成分を予め希釈することができる任意の1種類又は複数の溶媒は考慮しておらず、全燃料組成物の質量を基準とするものである。2種類以上のVI向上添加剤の組合せを組成物中で用いる場合には、VI向上添加剤の組み合わせ全体に対して同じ濃度範囲を適用することができる。量/濃度はまたppmとして表すこともでき、この場合には1%w/wは10,000ppm−w/wに相当する。
【0055】
組成物の残りは、通常は、場合によっては1種類以上の燃料添加剤と一緒に、例えば下記により詳細に記載する1種類以上の自動車基燃料から構成される。用いるVI向上添加剤の濃度は、燃料組成物全体の所望の粘度;添加剤を含ませる前の組成物の粘度;添加剤それ自体の粘度;及び/又はその中で添加剤を用いる任意の溶媒の粘度;のような所望の燃料の特徴/特性によって定めることができる。また、本発明にしたがって製造されるディーゼル燃料組成物中に存在させるVI向上添加剤、1種類又は複数の燃料成分、及び任意の他の成分又は添加剤の相対割合も、密度、排出性能、及びセタン価のような他の所望の特性によって定めることができる。幾つかの場合においては、燃料組成物全体の密度は特に関係するパラメーターである可能性がある。
【0056】
放出レベルは、ヨーロッパR49、ESC、OICA、又はETC(大型エンジン用)、或いはECE+EUDC、又はMVEG(小型エンジン用)試験サイクルのような標準的な試験手順を用いて測定することができる。理想的には、排出性能は、ユーロII標準放出限界(1996)、又はユーロIII(2000)、VI(2005)、或いは更にはV(2008)標準限界に適合して組み立てられたディーゼルエンジンを用いて測定する。
【0057】
使用及び方法:
粘度指数向上添加剤(VI向上剤とも呼ぶ)は潤滑剤配合物中で用いることが周知であり、ここではそれらを用いてより高い温度における粘度を比較的増加させる(即ち粘度の減少を遅延させる)ことによって、粘度を所望の温度範囲にわたって可能な限り一定に維持する。これらは、通常は凝集体及び/又はミセルを形成することができる比較的高分子量の長鎖ポリマー分子をベースとするものである。これらの分子系はより高い温度においては膨張し、このために互いに対するそれらの移動が更に制限され、これにより系の粘度が増加する。公知のVI向上剤は、通常は1〜20%w/wの間の濃度で潤滑油配合物中に含ませる。しかしながら、WO 01/48120においては、幾つかのこれらのタイプの添加剤を、昇温温度においてエンジンを始動させる能力を向上させる目的のために、燃料組成物、特にディーゼル燃料組成物中で用いることが提案されている。US 2009/0241882においては、任意の所定の速度におけるエンジン出力、及び/又はトルク、及び/又は車両牽引力の増加によって明示することができる加速性能を向上させる目的のために、幾つかのVI向上添加剤を燃料組成物中において用いることが記載されている。しかしながら、これらは、我々の知る限りでは、エンジン及び/又はその中にエンジンが取り付けられる乗物の燃料経済性を向上させる際に用いることは提案されていない。
【0058】
ここで、VI向上添加剤は、比較的低い濃度で用いる場合であっても、自動車燃料組成物、特にディーゼル燃料組成物の粘度を大きく増加させることができ、これによってその中に組成物を導入するエンジンの燃料経済性を向上させることができることが見出された。これらの燃料経済性の利益は、都市部、市外、及び高速道路のような任意のタイプの運転条件下で、低速及び/又は高速において観察することができる。したがって、本発明は特定の運転条件に限定されないが、燃料経済性の利益は、幾つかの特定の条件下において他のものよりも明らかである可能性がある。
【0059】
同様に、燃料経済性の利益はエンジンの特定のタイプには限定されないが、ディーゼル圧縮点火エンジンが好ましい。更に、本発明の有利性は、ターボ過給エンジン及び非ターボエンジンにおいて適用することができる。
【0060】
而して、本発明は、その中に導入する燃料によって、内燃エンジンの燃料経済性を向上させる有効な方法を提供することができる。
本発明にしたがって用いる粘度増加成分の量は、燃料のタイプ及び/又はエンジンのタイプによって変動する可能性があるが、本発明の更なる利益は、幾つかの条件下においては、本発明の利益を観察するために必要なVI向上剤の量が、通常の燃料添加剤のレベルのように驚くほど低くてよいことである。これによって、燃料製造プロセスのコスト及び複雑さを減少させることができる。例えば、燃料経済性を向上させるために、その最初の製造箇所において基燃料の内容物を変性することによるのではなく、精油所の下流において添加剤を含ませることによって燃料組成物を変性することを可能にすることができる。基燃料成分のブレンドは全ての場所で実現可能ではない可能性があるのに対して、比較的低濃度の燃料添加剤の導入は、燃料貯蔵所、或いはタンクローリー、船舶又は列車充填箇所、給油器、顧客のタンク、及び乗物のような他の充填箇所においてより容易に行うことができる。
【0061】
更に,比較的低濃度で用いる添加剤は、数十重量%のオーダーの濃度で用いる必要がある燃料成分によって可能なものよりもよりコスト的に有効に、自然に輸送、貯蔵、及び燃料組成物中に導入することができる。
【0062】
また、比較的低濃度のVI向上添加剤を用いることによって、任意の望ましくない副作用、例えば燃料組成物中へそれらを含ませることによって引き起こされる蒸留又は低温流動特性に対する影響を減少させることを促進することもできる。
【0063】
本発明の他の形態は、本発明にしたがって製造される燃料組成物をエンジンの燃焼室中に導入することを含む、内燃エンジン及び/又はかかるエンジンによって駆動される乗物を運転する方法を提供する。燃料組成物は、好ましくは本発明に関連して記載する1以上の目的のために導入する。而して、エンジンは、好ましくはその燃料経済性を向上させる目的のための燃料組成物を用いて運転する。エンジンは特にディーゼルエンジンであり、ターボ過給ディーゼルエンジンであってよい。ディーゼルエンジンは、直噴タイプ、例えばロータリーポンプ、インラインポンプ、ユニットポンプ、電子ユニット噴射装置、又はコモンレールタイプ、或いは間接噴射タイプのものであってよい。これは、大型又は小型ディーゼルエンジンであってよい。例えば、これは電子ユニット直噴(EUDI)エンジンであってよい。
【0064】
ディーゼル燃料組成物:
本発明の更なる有利性は、VI向上添加剤がより高い温度において粘度を増加させるように具体的に設計されていることである。エンジン出力の増加は一般に、燃料噴射システム(一般に高温で運転される)における条件、及び燃料消費と関係しているので、VI向上添加剤は、燃料経済性を向上させる点で他のより通常的な粘度増加成分よりも大きい利益を与えることができると考えられる。
【0065】
而して、驚くべきことに、少なくとも本発明において用いるように提案される比較的低い濃度においては、VI向上添加剤は、燃料組成物、特にディーゼル燃料組成物の粘度を、個々の成分の粘度に基づいて予測される理論値よりも大きな量だけ増加させることができることが見出された。異なる粘度を有する2種類以上の液体のブレンドの予測される粘度は、三段階手順を用いて計算することができる(Hirshfelderら, "Molecular Theory of Gases and Liquids", 1版, Wiley (ISBN 0-471-40065-3);及びMaples(2000), "Petroleum Refinery Process Economics", 2版, Pennwell Books (ISBN 0-87814-779-9)を参照)。一例として、2.15mm
2/秒のVK40(40℃における動粘度)を有する硫黄フリーのディーゼル燃料99%w/wと、1%w/wのVI向上添加剤SV(登録商標)261(16,300mm
2/秒のVK40を有する)とのブレンドは、3.19mm
2/秒の全体として測定されるVK40を有することが分かっている(例えばWO 2009/118302を参照)。言い換えれば、このVI向上剤を含ませるとディーゼル燃料のVK40が0.44mm
2/秒増加したのに対して、例えばHirshfelderらに記載されている式によれば2.84mm
2/秒の理論VK40が予測される(即ち、ディーゼル燃料単独のVK40から0.09mm
2/秒しか増加しない)。而して、完全に理論に基づくと、VI向上添加剤は添加剤レベルの濃度においては燃料組成物の粘度を大きく増加させるとは予測されない。SV(登録商標)261は、15%w/wのブロックコポリマー(例えばSV(登録商標)260、Infineumから)と85%w/wの鉱油との混合物である。
【0066】
VI向上添加剤を含ませることによって、本発明にしたがって製造される燃料組成物(特にディーゼル燃料組成物)は、好適には2.0mm
2/秒以上、2.5mm
2/秒以上、2.7mm
2/秒以上、2.8mm
2/秒以上、又は好ましくは2.9mm
2/秒以上のVK40を有する。幾つかの場合においては、VK40は、4.5mm
2/秒以下、4.2mm
2/秒以下、又は4.0mm
2/秒以下であってよい。有利には、粘度増加成分(VI向上剤又は他のもの)を含む燃料組成物のVK40は、3.0mm
2/秒〜4.0mm
2/秒、例えば3.0mm
2/秒〜3.8mm
2/秒、3.1mm
2/秒〜3.7mm
2/秒、又は3.2mm
2/秒〜3.6mm
2/秒の範囲である。しかしながら例外的な場合、例えば極地用のディーゼル燃料においては、組成物のVK40は1.5mm
2/秒程度の低さであってよいが、これは好ましくは約1.7又は2.0mm
2/秒或いはそれ以上である。本明細書における粘度に関する言及は、他に特定していない限りにおいて動粘度を意味すると意図されることを認識すべきである。
【0067】
組成物は、好ましくは、15℃において830kg/m
3以上(ASTM−D−4052又はEN−ISO−3675)、好ましくは832kg/m
3以上、例えば15℃において832〜845kg/m
3(これは現在のEN−590ディーゼル燃料仕様の上限である)のようなディーゼル燃料組成物に関する比較的高い密度を有する。
【0068】
本発明にしたがって製造されるディーゼル燃料組成物は、一般に圧縮点火(ディーゼル)エンジンにおいて用いるのに好適な任意のタイプのディーゼル燃料組成物であってよい。これには、VI向上添加剤に加えて他の標準的なディーゼル燃料成分を含ませることができる。これには、例えば大きな割合の例えば下記に記載するタイプのディーゼル基燃料を含ませることができる。この点に関し、「大きな割合」とは、全組成物を基準として少なくとも50%w/w、通常は少なくとも85%w/wを意味する。より好適には、燃料組成物の少なくとも90%w/w又は少なくとも95%w/w、幾つかの場合においては少なくとも98%w/w又は少なくとも99%w/wは、ディーゼル基燃料から構成される。
【0069】
而して、VI向上添加剤に加えて、本発明にしたがって製造されるディーゼル燃料組成物には、通常のタイプの1種類以上のディーゼル燃料成分を含ませることができる。かかる成分は、通常は、1種類又は複数の液体炭化水素中間留分燃料オイル、例えば石油誘導軽油を含む。一般に、かかる燃料成分は有機的誘導又は合成誘導されたものであってよく、好適には原油から所望範囲のフラクションを蒸留することによって得られる。かかる軽油は、水素化脱硫(HDS)ユニット内で処理して、それらの硫黄含量をディーゼル燃料組成物中に含ませるのに好適なレベルに減少させるようにすることができる。これらは、通常はグレード及び用途に応じて、150〜410℃又は170〜370℃の通常のディーゼル範囲内の沸点を有する。幾つかの場合においては、燃料組成物は、重質炭化水素を分解することによって得られる1種類以上の分解生成物を含む。
【0070】
ディーゼル基燃料は、フィッシャー・トロプシュ誘導ディーゼル燃料成分、通常はフィッシャー・トロプシュ誘導軽油から構成するか、又はこれを含ませることができる。本明細書において用いる「フィッシャー・トロプシュ誘導」という用語は、材料が、フィッシャー・トロプシュ縮合プロセスの合成生成物であるか又はそれから得られることを意味する。したがって、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料又は燃料成分は、加えられた水素を除く相当部分がフィッシャー・トロプシュ縮合プロセスから直接的又は間接的に誘導される炭化水素流である。フィッシャー・トロプシュプロセスは、一酸化炭素及び水素を、通常はパラフィン系炭化水素であるより長い鎖に転化させる。一酸化炭素及び水素自体は、有機、無機、天然、又は合成源から、例えば天然ガスから、又は有機的に誘導されたメタンから誘導することができる。
【0071】
本発明において用いるフィッシャー・トロプシュ誘導ディーゼル燃料成分は、精製又はフィッシャー・トロプシュ反応から直接、或いは、例えば精製又は合成生成物を分別又は水素処理して分別又は水素処理生成物を与えることによって間接的に得ることができる。1つ又は複数の所望のフラクション、通常は1つ又は複数の軽油フラクションは、その後に例えば蒸留によって単離することができる。また、当該技術において公知なように、重合、アルキル化、蒸留、熱分解−脱カルボキシル化、異性化、及び水素化改質のような他の合成後の処理を用いて、フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を変化させることもできる。
【0072】
フィッシャー・トロプシュ燃料は、具体的にはガストゥーリキッド転化(GtL)又はバイオマストゥーリキッド転化(BtL)によって、ガス、バイオマス、又は石炭を液体に(XtL)転化させることによって誘導することができる。任意の形態のフィッシャー・トロプシュ誘導燃料成分を、本発明による基燃料として用いることができる。
【0073】
本発明にしたがって製造される組成物中に含ませるディーゼル燃料成分は、通常は、15℃において750〜900kg/m
3、800〜860kg/m
3の密度(ASTM−D−4052又はEN−ISO−3675)、及び/又は1.5〜6.0mm
2/秒のVK40(ASTM−D−445又はBN−ISO−3104)を有する。
【0074】
本発明にしたがって製造されるディーゼル燃料組成物において、基燃料それ自体に上記に記載のタイプの2種類以上のディーゼル燃料成分の混合物を含ませることができる。
本発明の有益な態様においては、ディーゼル燃料は、植物油、水素化植物油、又は植物油誘導体(例えば脂肪酸エステル、特に脂肪酸メチルエステル:FAME)のような所謂「バイオディーゼル」燃料成分、或いは酸、ケトン、又はエステルのような他の酸素化物から構成することができ、或いはこれらを含ませることができる。かかる成分は必ずしもバイオ誘導されたものである必要はない。
【0075】
燃料組成物がバイオディーゼル成分を含む場合には、バイオディーゼル成分は、例えば1%w/w〜99%w/wの量で存在させることができる。一態様においては、燃料は少なくとも2%w/w、例えば2%w/w〜80%w/wの間のバイオディーゼルを含む。幾つかの場合においては、バイオディーゼルは、2%w/w〜50%w/wの間、例えば3%w/w〜40%w/wの間、4%w/w〜30%w/wの間、又は5%w/w〜20%w/wの間で存在させる。1つの有益な態様においては、バイオディーゼル成分はFAMEである。好ましい用途においては、FAMEは燃料組成物の全重量を基準として約5%w/wで存在させる。
【0076】
本発明によれば、VI向上剤のような粘度増加成分を用いて燃料組成物の粘度を増加させることができる。而して、1種類又は複数の基燃料は比較的低い粘度(例えば3.0mm
2/秒未満)を有していてよく、次に粘度増加成分を含ませることによって「向上」させることができる。而して、例えば精製プロセス又は添加剤を用いて燃料の他の重要な特性(例えば排ガス放出)を最適にしているので、本来はおそらくは良好なエンジン燃料経済性のために有益ではない基燃料成分を、変性して燃料経済性を向上させるようにすることができる。添加剤又は精製プロセスが燃料経済性に対して有していると考えられる任意の有害な効果は、燃料の粘度を増加させることによって少なくとも部分的に打ち消すことができる。同様に、比較的より低い期待される燃料経済性のレベルは、例えばエンジン管理システムによって制御することができるような関係するエンジン又は乗物の運転条件の結果である可能性がある。したがって、本発明の使用及び方法はまた、少なくとも部分的にエンジン運転条件/パラメーターから生起するより低い燃料経済性を妨げるのに幾らかの助けになる可能性もある。
【0077】
例えばディーゼル燃料組成物の場合においては、1種類又は複数の基燃料は、フィッシャー・トロプシュ誘導又は鉱物由来の灯油成分、フィッシャー・トロプシュ誘導又は鉱物由来のナフサ成分、所謂「冬用GtL」フィッシャー・トロプシュ誘導軽油、低粘度鉱油ディーゼル成分、又はバイオディーゼル成分のような比較的低粘度の成分から構成されるか、又はこれらを含む。かかる基燃料は、幾つかの場合においては、ヨーロッパディーゼル燃料仕様EN−590によって認められている最大値よりも低く、例えば4.5mm
2/秒より低く、或いは3.5、3.2、又は3.0mm
2/秒より低いVK40(ASTM−D−445又はEN−ISO−3104)を有していてよい。幾つかの場合には、これらは、EN−590によって認められている最小値よりも低く、例えば2.0mm
2/秒より低く、又は更には1.5mm
2/秒より低いVK40を有していてよい。VI向上添加剤は、最終的な自動車燃料組成物中にそれを含ませる前に、1以上のかかる燃料成分中に予め希釈することができる。
【0078】
本発明にしたがって製造される自動車ディーゼル燃料組成物は、好適には、例えばEN−590(ヨーロッパに関して)又はASTM−D−975(米国に関して)のような1つ又は複数の適用される現在の標準仕様に適合する。一例として、燃料組成物全体は、15℃において820〜845kg/m
3の密度(ASTM−D−4052又はEN−ISO−3675);360℃以下のT95沸点(ASTM−D−86又はEN−ISO−3405);51以上の測定セタン価(ASTM−D−613);2〜4.5mm
2/秒のVK40(ASTM−D−445又はEN−ISO−3104);50mg/kg以下の硫黄含量(ASTM−D−2622又はEN−ISO−20846);及び/又は11%w/w未満の多環式芳香族炭化水素(PAH)含量(IP−391(mod));を有していてよい。しかしながら、関連する仕様は、国毎に且つ年々異なる可能性があり、燃料組成物の所期の用途に依存する可能性がある。
【0079】
しかしながら、ブレンド全体の特性はその個々の構成成分のものとはしばしば大きく異なる可能性があるので、本発明にしたがって製造されるディーゼル燃料組成物には、これらの範囲の外側の特性を有する燃料成分を含ませることができることが認識されるであろう。
【0080】
本発明にしたがって製造されるディーゼル燃料組成物は、好適には、5000ppmw(重量ppm)以下、通常は2000〜5000ppmw、又は1000〜2000ppmw、或いは1000ppmw以下の硫黄を含む。組成物は、例えば、例えば最大で500ppmw、有益には350ppmw以下、好適には100又は50又は更には10ppmw以下の硫黄を含む、低又は超低硫黄燃料、又は硫黄フリーの燃料であってよい。
【0081】
本発明にしたがって製造される自動車燃料組成物、又はかかる組成物中で用いられる基燃料には1種類以上の燃料添加剤を含ませることができ、或いは添加剤フリーであってよい。添加剤を含ませる(例えば精油所において燃料に加える)場合には、これには少量の1種類以上の添加剤を含ませることができる。選択された例又は好適な添加剤としては、静電防止剤;パイプライン抵抗減少剤;流動性改良剤(例えば、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、又はアクリレート/無水マレイン酸コポリマー);潤滑性向上添加剤(例えばエステル及び酸ベースの添加剤);曇り除去剤(例えばアルコキシル化フェノールホルムアルデヒドポリマー);消泡剤(例えばポリエーテル変性ポリシロキサン);点火性改良剤/セタン改良剤(例えば、2−エチルヘキシルナイトレート(EHN)、シクロヘキシルナイトレート、ジ−tert−ブチルペルオキシド);防錆剤(例えば、テトラプロペニルコハク酸のプロパン−1,2−ジオール半エステル、又はコハク酸誘導体の多価アルコールエステル);腐食抑制剤;消臭剤;耐摩耗添加剤;酸化防止剤(例えば、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールのようなフェノール類);金属失活剤;燃焼性改良剤;静電放電剤;冷間流動性改良剤(例えば、グリセロールモノオレエート、ジイソデシルアジペート);酸化防止剤;及びワックス沈降防止剤;が挙げられる(しかしながらこれらに限定されない)。組成物には、例えば洗浄剤を含ませることができる。洗浄剤含有ディーゼル燃料添加剤は公知であり、商業的に入手できる。かかる添加剤は、エンジン堆積物の蓄積を減少、除去、又は遅延させるように意図されるレベルでディーゼル燃料に加えることができる。幾つかの態様においては、燃料組成物に、消泡剤を、より好ましくは防錆剤及び/又は腐食抑制剤及び/又は潤滑性向上添加剤と組み合わせて含ませることが有利である可能性がある。
【0082】
組成物が(本発明の粘度増加成分以外に)かかる添加剤を含む場合には、これは好適には、1種類又は複数の粘度増加成分に加えて小割合(例えば1%w/w以下、0.5%w/w以下、0.2%w/w以下)の1種類以上の燃料添加剤を含む。他に示さない限りにおいて、燃料組成物中におけるそれぞれのかかる添加剤成分の(活性物質)濃度は、10000ppmw以下、例えば0.1〜1000ppmw、有利には0.1〜300ppmw、例えば0.1〜150ppmwの範囲であってよい。
【0083】
所望の場合には、上記に列記したもののような1種類以上の添加剤成分を添加剤濃縮物中に(例えば好適な希釈剤と一緒に)共混合することができ、添加剤濃縮物を次に基燃料又は燃料組成物中に分散させることができる。本発明によれば、粘度増加成分、特にVI向上剤はかかる添加剤配合物中に含ませることができる。かかる燃料添加剤混合物は、通常は、洗浄剤を、場合によっては上記に記載した他の成分、並びに、鉱油、Shell companiesによって"SHELLSOL"の商標で販売されているもののような溶媒、エステル及び特にアルコール(例えば、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデカノール、及びC
7〜C
9第1級アルコールの混合物、又は商業的に入手できるC
12〜C
14アルコール混合物である、Shell companiesによって"LINEVOL"、特にLINEVOL 79アルコールの商標で販売されているもののようなアルコール混合物)のような極性溶媒であってよいディーゼル燃料相溶性希釈剤と一緒に含む。
【0084】
燃料組成物中における添加剤の全含量は、好適には0〜10000ppmwの間、より好適には5000ppmwより低くてよい。
本明細書において用いる成分の量(例えば、濃度、ppmw、及び%w/w)は、活性物質のもの、即ち揮発性溶媒/希釈剤材料を除いたものである。
【0085】
一態様においては、本発明は、所望の目標粘度を達成するために、粘度増加成分(例えばVI向上添加剤)を用いて燃料組成物の粘度を調節することを含む。
好適には、上述したように、粘度増加成分又はVI向上剤によって燃料組成物の粘度が少なくとも0.05mm
2/秒で2.0mm
2/秒未満増加する。より好適には、粘度の増加は0.25mm
2/秒〜1.0mm
2/秒の間、例えば0.3mm
2/秒〜0.8mm
2/秒の間である。幾つかの特定の態様においては、粘度の増加は、約0.32mm
2/秒、約0.67mm
2/秒、或いはこれらの範囲の間の任意の値である。
【0086】
自動車燃料組成物の最大粘度は、しばしば、ヨーロッパディーゼル燃料仕様EN−590(4.5mm
2/秒の最大VK40を規定する)のような関連する法的及び/又は商業的仕様によって制限される可能性があり、一方、スウェーデンクラス1ディーゼル燃料は4.0mm
2/秒以下のVK40を有していなければならない。しかしながら、通常の商業的自動車ディーゼル燃料は、現在はこれらよりも遙かに低い粘度、例えばおよそ2〜3mm
2/秒に製造されている。而して、本発明には、VI向上添加剤を用いて他の点では標準仕様の自動車燃料組成物を処理して、所望か又は法的な粘度範囲内に維持しながら、その粘度を増加させて、それがその中に導入されるか又は導入することを意図されるエンジンの燃料経済性を向上させるようにすることを含ませることができる。
【0087】
幾つかの好ましい態様においては、燃料組成物の密度は、粘度増加成分を加えることによって、例えば標準試験法ASTM−D−4052又はEN−ISO−3675を用いて測定して1%未満、例えば0.1%未満変化する。
【0088】
本発明の他の形態によれば、自動車基燃料を粘度増加成分とブレンドすることを含む、自動車燃料組成物を製造する方法が提供される。ブレンドは、本明細書に記載する1以上の目的のために行うことができる。
【0089】
本明細書の記載及び特許請求の範囲の全体にわたって、単数形は記載が他に必要としていない限りにおいて複数形を包含する。特に、不定冠詞を用いる場合には、明細書は、記載が他に必要としていない限りにおいて複数形及び単数形を意図すると理解すべきである。
【0090】
而して、本発明の特定の形態、態様、又は例に関して記載されている特徴、整数値、特性、化合物、化学部分又は基は、それと非適合性でない限りにおいて、本明細書に記載する任意の他の形態、態様、又は例に適合させることができると理解すべきである。而して、本発明の「使用」の特徴は、本発明の「方法」に直接適用することができる。更に、他に示していない限りにおいて、本明細書に開示する任意の特徴は、同じか又は同様の目的を果たす別の特徴によって置き換えることができる。
【実施例】
【0091】
ここで、以下の非限定的な実施例を用いて本発明を更に示す。
実施例:
序論:
これらの実施例においては、ディーゼル燃料の経済性に対する燃料の粘度の影響を評価するためのベンチエンジン試験プログラムの結果を報告する。標準的なディーゼルを、異なる濃度の粘度増加成分を含む同じディーゼル燃料に対して比較した。粘度増加成分としては、VI向上剤、特にShellVis 200(「SV200」)を用いた。
【0092】
1.試験プラットフォーム及び試験サイクル:
ディーゼル燃料の経済性に対する燃料の粘度の潜在的な影響を評価するために、Mercedes Benz 2.21ディーゼルベンチエンジン(OM646.963L−「OM646エンジン」)を用いて研究を行った。OM646エンジンは、PAE試験スタンド007上に取り付けられたコモンレールディーゼルエンジンである。用いたOM646試験エンジンに関する関連する技術情報/年代を、下表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
OM646エンジンは「オープン」EMSを有しており、したがって全ての関連するEMSデータを記録する能力を有する。試験を開始する前に、個々の試験の良好な再現性を達成する目的で、エンジン試験台を作成して予めコンディショニングした。このために、エンジンは繰り返しサイクルの間は停止させないが、28℃に強制冷却させる。効果をもたらす燃料消費の差及びエンジンパラメーターの確認を助けるために、試験プログラム中においては次のパラメーターを記録した。(i)オイル温度;(ii)クーラント温度;(iii)空気温度;(iv)燃料温度;及び(v)電池温度。
【0095】
1.1.運転サイクル:
試験サイクルとして、非過渡新ヨーロッパ運転サイクル(NEDC)を選択した(
図1)。NEDC運転サイクルは、4回の繰り返し都市部運転サイクル(ECE)、及びより高速の運転モードである市外運転サイクル(EUDC)から構成されている。NEDCは広く認められている業界標準の試験サイクルである。
【0096】
最初の「コールドスタート」及びそれに続く都市部サイクル並びに陸路サイクルの詳細な別々の燃料消費分析を行った。
このプログラムに関しては、単一の燃料経済性試験運転は20回の連続するNEDCから構成し、それぞれのサイクルの間に28℃への強制冷却を行った。したがって、NEDCサイクルは、標準的なコールドスタートNEDC試験(これは、試験の間に最小で6時間のソーク時間を有し、約23℃に冷却している)の正確な反復ではない。
【0097】
2.試験燃料及び試験デザイン:
研究において用いた全ての試験燃料の概要を表2に与える。示されているように、燃料組成物A1は、基燃料組成物A0から、FAMEを5%w/wまで加えることによって得た。次に、燃料A1から、VI向上剤SV200をそれぞれ1000mg/kg又は2000mg/kgの濃度で加えることによって、試験燃料B1及びB2を得た。表4に示すように、得られた試験燃料は、それぞれB1及びB2に関して0.32及び0.67mm
2/秒の40℃における燃料粘度の絶対的な増加を有していた。これらのより高い粘度の燃料(B1及びB2)は、ゼロ硫黄のディーゼル(ZSD)基燃料A1に対して参照した。
【0098】
【表2】
【0099】
セクション1.1において記載したように、試験結果は20サイクルにわたる平均燃料経済性の結果である。複合NEDCサイクル結果に加えて、4回の1kmECEサイクル(フェーズ1〜4)及びEUDCサイクル(フェーズ5)に関する別々の燃料消費データを求めた。表3に、評価のために用いた試験シーケンスを示す。
【0100】
【表3】
【0101】
選択された燃料の更なる分析の詳細を表4に与える。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
2.1.試験結果:
複合NEDC試験に関する測定値を
図2にプロットする。データ品質に関する問題はなく、全ての試験結果を統計分析において用いた。これらのデータは、粘度増加成分を含む本発明のいずれの試験燃料を用いるエンジンも、粘度増加成分を欠く他は同一の対照燃料によって運転した場合のその性能と比べて改良された燃料経済性を示したことを示す。
【0105】
試験サイクルの個々のフェーズのそれぞれからの燃料経済性の利益も分析し、表5に報告し、同じ結果を
図3においてグラフで示す。
示されるように、SV200添加剤の1000mg/kgの濃度においては0.15%の燃料経済性の利益が観察され、一方、SV200添加剤の2000mg/kgの濃度においては0.59%の燃料経済性の利益を確認することができた(99%の統計的有意性を有していた)。
【0106】
【表6】
【0107】
複合試験サイクル及び個々の下位サイクルに関するプログラムのより詳細な試験データを表6に与える。試験プロトコルのそれぞれのフェーズ、及びそれぞれの燃料に関して、用いた燃料の重量(g)を示す。これらの結果の詳細な図解を
図4にグラフで示し、ここで、グラフAはNEDC試験プロトコル全体における燃料使用量を示し;グラフBは試験プロトコルのフェーズ1全体における燃料使用量を示し;グラフCは試験プロトコルのフェーズ2全体における燃料使用量を示し;グラフDは試験プロトコルのフェーズ3全体における燃料使用量を示し;グラフEは試験プロトコルのフェーズ4全体における燃料使用量を示し;グラフFは試験プロトコルのEUDCフェーズ全体における燃料使用量を示す。
【0108】
【表7】
【0109】
3.結論:
この研究の目的は、OM646ベンチエンジンにおけるディーゼル燃料の経済性に対する燃料の粘度の影響を評価することであった。表5において示されるように、商業的に入手できる粘度向上剤であるShellVis 200を2000mg/kgで用いると、99%の有意レベルで、NEDCサイクルにわたって約0.6%の対照燃料と比較した燃料経済性の利益が得られた。また、示されるように、幾つかのサイクルにおいては、試験における燃料経済性の利益は、粘度増加成分を含まない対照燃料と比較して1%超であった。これらの試験においては、都市部運転サイクル中に観察された燃料経済性の利益は、より高い濃度(即ち約0.75%)のVI向上剤を用いると、市外運転サイクル中よりも平均して高かった。しかしながら、この効果は、より低い濃度のVI向上剤を用いる燃料に関しては逆であった。特に、燃料経済性の利益は、全てのフェーズにおいて、且つ粘度増加成分の全ての試験した濃度を用いた場合に一貫してプラスであった。一般に、燃料経済性の利益は、VI向上剤のより高い濃度を用いると、VI向上剤のより低い濃度(即ち1000mg/kg)を用いる場合よりも大きい。
【0110】
この研究は、ディーゼル燃料組成物の粘度と燃料経済性との間の最初の相関関係を示す。この関係は、望ましい燃料組成物をブレンドする際において、且つ、放出性能、エンジン洗浄効果、出力、及び/又は加速のような所望の特性に基づくだけでなく、全てか又は特定の運転条件下での燃料経済性にも基づいてブレンドするための燃料を選択するために用いることができる。