(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の熱可塑性樹脂、および前記第1の熱可塑性樹脂とは異なる第2の熱可塑性樹脂を、成形用ダイスから溶融共押出しした後に冷却して固化させることにより、前記第1の熱可塑性樹脂からなる中央部と、幅方向において前記中央部の両端に形成され、前記第2の熱可塑性樹脂からなる両端部とを備える複合フィルムを形成する複合フィルム形成工程と、
前記複合フィルムを、少なくとも長さ方向に加熱延伸することにより、延伸フィルムを形成する延伸工程と、を有する延伸フィルムの製造方法であって、
前記第1の熱可塑性樹脂および前記第2の熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度の差が10℃以下である熱可塑性樹脂を用い、
前記第1の熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂であり、
前記第2の熱可塑性樹脂が、ポリカーボネートと、ポリエチレンテレフタレートおよびアクリル樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂と、からなる混合樹脂であることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
加熱延伸する前の前記複合フィルムにおける、前記第2の熱可塑性樹脂からなる前記両端部の常温における破断伸び率が、前記第1の熱可塑性樹脂からなる前記中央部の常温における破断伸び率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
前記第2の熱可塑性樹脂からなる前記両端部における、加熱延伸する際の延伸応力値が、前記第1の熱可塑性樹脂からなる前記中央部における、加熱延伸する際の延伸応力値の4倍以内であることを特徴とする請求項1または2に記載の延伸フィルムの製造方法。
前記第2の熱可塑性樹脂の前記成形用ダイスから溶融共押出する際における粘度が、前記第1の熱可塑性樹脂の粘度の0.5〜2倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
前記延伸工程における前記複合フィルムの加熱延伸を、前記複合フィルムの長さ方向に加えて、幅方向にも延伸する同時二軸延伸により行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
前記延伸工程における前記複合フィルムの加熱延伸を、前記複合フィルムの加熱延伸後の前記中央部の厚みが15〜50μmの範囲となるように行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る延伸フィルムの製造方法は、第1の熱可塑性樹脂、および第1の熱可塑性樹脂とは異なる第2の熱可塑性樹脂を、成形用のTダイスによって溶融共押出しすることにより複合フィルムを形成する複合フィルム形成工程と、この複合フィルムを、長さ方向および幅方向に加熱延伸する延伸工程と、を備える。
【0015】
<複合フィルム形成工程>
複合フィルム形成工程は、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を、Tダイスから溶融共押出しすることで、複合フィルム100を得る工程である。ここで、
図1は、複合フィルム形成工程を説明するための図である。本実施形態においては、複合フィルム100として、
図1に示すように、中央部110と、中央部110の幅方向の両端に形成される両端部120とから構成され、中央部110が第1の熱可塑性樹脂からなり、両端部120が第2の熱可塑性樹脂からなるフィルムを得る。なお、複合フィルム100の中央部110は、後述する延伸工程により加熱延伸されることで延伸フィルムとなる部分である。また、複合フィルム100の両端部120は、複合フィルム100の加熱延伸を行う際に中央部110を補強するためのものであり、複合フィルム100を加熱延伸した後に必要に応じて切断して除去することができる。複合フィルム100を切断する際には中央部110の両端の一部を切断することで両端部120を完全に除去することが望ましい。この場合には、中央部110の両端の一部も除去することになるが、後述するクリップ310で把持された部分は全て除去することが好ましい。
【0016】
本実施形態においては、複合フィルム100の中央部110を構成する第1の熱可塑性樹脂、および両端部120を構成する第2の熱可塑性樹脂としては、第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
1と、第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
2との差(|Tg
1−Tg
2|)が10℃以下である熱可塑性樹脂をそれぞれ用いる。これにより、本実施形態においては、後述するように、延伸工程により複合フィルム100を加熱延伸する際において、複合フィルム100の破断などを防止し、延伸フィルムの生産性を向上させることができる。
【0017】
複合フィルム形成工程においては、まず、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を、加熱溶融させた状態で、フィードブロック210を通じてTダイス220に供給する。
【0018】
本実施形態においては、フィードブロック210には、第1の熱可塑性樹脂を溶融押出するための第1の溶融押出機(不図示)と、第2の熱可塑性樹脂を溶融押出するための第2の溶融押出機(不図示)がそれぞれ連結されている。これらの溶融押出機としては、特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機のいずれも用いることができる。そして、本実施形態においては、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を、各溶融押出機により、それぞれ、融点(溶融)温度以上の温度で溶融押出することで、フィードブロック210に供給する。
【0019】
なお、フィードブロック210から、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂をTダイス220に供給する際においては、Tダイス220により得られる複合フィルム100が、
図1に示すように、第1の熱可塑性樹脂からなる中央部110の両端に、第2の熱可塑性樹脂からなる両端部120が形成された構成となるように、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂の供給を行う。
【0020】
具体的には、フィードブロック210には、第1の熱可塑性樹脂を供給するための入口と、第1の熱可塑性樹脂を供給するための入口に対して、Tダイス220の拡幅方向における両脇に、第2の熱可塑性樹脂を供給するための入口とが別々に設けられている。そして、本実施形態では、フィードブロック210の入口からそれぞれ流入させた第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂は、フィードブロック210内で合流し、フィードブロック210の出口において、Tダイス220の拡幅方向に対して、中央部分に第1の熱可塑性樹脂が流れ、この第1の熱可塑性樹脂の両端部分に第2の熱可塑性樹脂が流れるような態様で流出させ、Tダイス220に供給するようになっている。
【0021】
そして、Tダイス220において、フィードブロック210から供給された第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂が、Tダイス220内に設けられたマニホールド221により、幅方向(第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂が並んでいる方向)に拡幅し、これにより、ダイスリップ222からシート形状に共押出しする。
【0022】
次いで、共押出ししたシート状の第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を、
図1に示すように、連続的にタッチロール230および冷却ロール240によって引取り、挟圧して冷却および固化させることにより、第1の熱可塑性樹脂からなる中央部110と、中央部110の両端に形成され、第2の熱可塑性樹脂からなる両端部120とを備えた複合フィルム100を作製する。そして、作製された複合フィルム100は、複合フィルム巻取りロール(不図示)によって巻き取られるようになっており、これにより複合フィルム100を連続的に得ることができる。
【0023】
<延伸工程>
延伸工程は、複合フィルム形成工程により得られた複合フィルム100を、長さ方向および幅方向に加熱延伸する工程である。ここで、
図2は、延伸工程を説明するための図である。本実施形態においては、延伸工程では、上述した複合フィルム巻取りロールから複合フィルム100を送り出し、
図2に示すように、複合フィルム100の両端部120をクリップ310で把持しながら長さ方向および幅方向に同時に延伸する同時二軸延伸法により、複合フィルム100の加熱延伸を行う。
【0024】
具体的には、延伸工程では、複合フィルム巻取りロールから複合フィルム100を連続的に送り出し、複数のクリップを用いて複合フィルム100の両端部120を一定間隔ごとに把持し、各クリップ310により複合フィルム100を延伸炉320内に搬送し、延伸炉320内において、各クリップ310により複合フィルム100を長さ方向および幅方向に引っ張って延伸する。この際においては、複合フィルム100は、クリップ310により把持された状態のまま搬送されることで、延伸炉320内を通過するようになっており、延伸炉320内の予熱帯にて、複合フィルム100は、これを構成する両端部120における第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも10〜30℃程度高い温度まで予備加熱された後、延伸炉320内の延伸帯にて、保熱されたままクリップ310により長さ方向および幅方向に引っ張られて、長さ方向および幅方向に延伸される。そして、これに続く、冷却熱固定帯において冷却および固化されることにより、延伸フィルムを得ることができる。そして、クリップ310を開放し、ロールにて巻き取られることで、連続的に延伸フィルムを得ることができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、延伸炉320内を通過するようにして、クリップ310が移動するための一対のガイドレールが設置されている。一対のガイドレールは、
図2に示す複合フィルム100の上側の両端部120を把持するクリップ310の位置と、下側の両端部120を把持するクリップ310の位置にそれぞれ設置されており、延伸炉320内の予熱帯では互いに平行であり、延伸帯では互いに複合フィルム100の幅方向に離れていき、冷却熱固定帯ではまた互いに平行となっている。あるいは、冷却熱固定帯においては、延伸帯にて加熱延伸された延伸フィルムの固化時の収縮分を考慮して、冷却熱固定帯内で、一対のガイドレール同士の距離を、延伸帯の出側における延伸フィルムの幅を基準として、幅方向に数%程度近づけるようにしてもよい。本実施形態においては、複合フィルム100の両端部120を把持したクリップ310が、このようなガイドレールに沿って移動することで、複合フィルム100を搬送および延伸できるようになっている。
【0026】
本実施形態においては、このようなガイドレールに沿って移動するクリップ310を用いて、延伸炉320内の延伸帯にて、複合フィルム100を延伸する。すなわち、延伸炉320内の延伸帯にて、複合フィルム100の両端部120を把持したクリップ310を、ガイドレールに沿って幅方向に広がるようにして移動させ、併せてクリップ310同士の間隔を広げる制御を行うことで、複合フィルム100の両端部120を、
図2に示す矢印のように長さ方向および幅方向に引っ張る。これにより、複合フィルム100の中央部110および両端部120が、それぞれ長さ方向および幅方向に、必要な延伸倍率となるまで加熱延伸される。そして、加熱延伸された複合フィルム100は、延伸炉320内の冷却熱固定帯において冷却および固化され、延伸炉320の外に設置されたロールによって巻き取られるようになっており、これにより連続的に延伸フィルムを得ることができる。
【0027】
以上のようにして、本実施形態においては、複合フィルム形成工程により、第1の熱可塑性樹脂からなる中央部110と、第2の熱可塑性樹脂からなる両端部120とを備える複合フィルム100を形成し、延伸工程により複合フィルム100の中央部110および両端部120を加熱延伸することにより、延伸フィルムを得ることができる。
【0028】
なお、本実施形態においては、延伸工程と、複合フィルム形成工程とを一貫した連続ラインとし、延伸フィルムを得ることも可能である。
【0029】
また、本実施形態においては、このようにして得られた延伸フィルムについて、必要に応じて両端部120の部分を切断してもよい。これにより、延伸フィルムを、中央部110のみからなるフィルムとすることができる。
【0030】
また、本実施形態においては、加熱延伸後の複合フィルム100の中央部110の厚みは、好ましくは15〜50μm、より好ましくは20〜40μmである。加熱延伸後の複合フィルム100の中央部110の厚みを上記範囲に制御することにより、加熱延伸中における複合フィルム100の破断を防止し、複合フィルム100の加熱延伸を適切に行うことができる。
【0031】
ここで、本実施形態においては、複合フィルム100の中央部110を構成する第1の熱可塑性樹脂、および両端部120を構成する第2の熱可塑性樹脂としては、第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
1と、第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
2との差(|Tg
1−Tg
2|)が10℃以下である熱可塑性樹脂を用いる。これにより、本実施形態によれば、複合フィルム100を加熱延伸する際において、複合フィルム100を把持しているクリップ310の外れ、および複合フィルム100の破断を防止し、延伸フィルムの生産性を向上させることができる。
【0032】
すなわち、複合フィルム100において、両端部120のガラス転移温度Tg
2が、中央部110のガラス転移温度Tg
1と比較して高すぎる場合には、加熱延伸時に、延伸炉320内の加熱温度が両端部120のガラス転移温度Tg
2まで到達せずに、両端部120の軟化が不十分である(両端部120の延伸に必要な延伸応力値が高い状態である)ため、
図2に示すようにクリップ310を用いて両端部120を把持して引っ張る際に、クリップ310が外れてしまうという問題がある。さらに、この際においては、両端部120の延伸に必要な延伸応力値が高い状態であるため、
図2に示すようにクリップ310によって両端部120を引っ張る際に、両端部120が延伸されずに裂けてしまうか、中央部110と両端部120との境界部分に裂け目が発生してしまい、これにより複合フィルム100が破断してしまうという問題もある。これに対し、延伸炉320内で複合フィルム100を加熱する際において、複合フィルム100全体を加熱しながら、さらに両端部120のみを局所的により高温に加熱して軟化させることで、両端部120を延伸させ易くする手法も考えられるが、
図2に示すように、延伸炉320内では、両端部120の位置は複合フィルム100の搬送および延伸に伴い逐次変化していくため、両端部120のみを高温に加熱するためには、延伸炉320内の温度の制御が煩雑なものとなってしまうという問題がある。
【0033】
一方、複合フィルム100において、両端部120のガラス転移温度Tg
2が、中央部110のガラス転移温度Tg
1と比較して低すぎる場合には、加熱延伸時に、延伸炉320内の加熱温度が両端部120のガラス転移温度Tg
2を超え、両端部120が過度に軟化してしまうため、
図2に示すようにクリップ310を用いて複合フィルム100の両端部120を幅方向に引っ張る際に、両端部120の方が優先的に延伸され、クリップ310による引っ張る力が中央部110まで伝わらず、中央部110の延伸が不十分となってしまうという問題がある。さらに、加熱延伸時に両端部120が過度に軟化してしまうことで、両端部120のクリップ310への融着や、加熱延伸後における両端部120の収縮が発生してしまい、これにより、延伸フィルムの生産性および歩留まりが低下してしまうという問題もある。
【0034】
これに対し、本実施形態によれば、複合フィルム100について、中央部110を形成する第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
1と、両端部120を形成する第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
2との差(|Tg
1−Tg
2|)を上記範囲とすることにより、複合フィルム100を加熱延伸する際における、クリップ310外れおよび複合フィルム100の破断などの不具合の発生を防止することができ、適切に複合フィルム100を加熱延伸することができるため、延伸フィルムの生産性および歩留まりを向上させることができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂としては、上述したようにガラス転移温度の差(|Tg
1−Tg
2|)が10℃以下である熱可塑性樹脂を用いればよいが、ガラス転移温度の差(|Tg
1−Tg
2|)は、好ましくは5℃以下、より好ましくは3℃以下である。
【0036】
また、従来より、複合フィルム100をクリップ310により加熱延伸する際におけるクリップ310外れ、および複合フィルム100の破断を防止するために、複合フィルム100の両端部120にゴム弾性粒子を添加し、両端部120を軟化させる(常温での破断伸び率を高くする)方法が知られている。しかしながら、この方法においては、両端部120中のゴム弾性粒子が熱により劣化し易いため、次のような問題がある。すなわち、複合フィルム100をTダイス220から溶融共押出する際において、熱により劣化したゴム弾性粒子が、Tダイス220のダイスリップ222上に析出して堆積物を形成してしまい、この堆積物によって複合フィルム100に押し跡がついてしまうおそれや、堆積物が延伸フィルムの製品巻に混入して延伸フィルムの品質を低下させてしまうおそれがある。さらに、このようなゴム弾性粒子の堆積物が形成されてしまうと、
図2に示すようにクリップ310を用いて複合フィルム100を加熱延伸する際に、複合フィルム100とクリップ310との間に堆積物が入り込んでしまい、これにより複合フィルム100が破断し易くなってしまうというおそれもある。
【0037】
これに対し、本実施形態によれば、複合フィルム100の両端部120にこのようなゴム弾性粒子を添加する必要がない、あるいは、両端部120に添加するゴム弾性粒子の量を少量とすることができるため、複合フィルム100を溶融共押出する際におけるゴム弾性粒子の析出を抑制することができ、得られる延伸フィルムを品質に優れたものとすることができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、中央部110を形成するための第1の熱可塑性樹脂としては、必要とする延伸フィルムの用途などに応じて選択すればよく、たとえば、アクリル樹脂(PMMA)、環状オレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。
【0039】
また、両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂としては、上述した第1の熱可塑性樹脂とのガラス転移温度の差(|Tg
1−Tg
2|)が上記範囲となるような熱可塑性樹脂を選択すればよい。
【0040】
また、両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂としては、第1の熱可塑性樹脂とのガラス転移温度の差(|Tg
1−Tg
2|)が上記範囲にあることに加えて、以下のような観点から選択することができる。
【0041】
たとえば、第2の熱可塑性樹脂としては、Tダイス220から溶融共押出する際における粘度が、第1の熱可塑性樹脂の粘度の0.5〜2倍である熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。ここで、粘度の測定は、たとえば、JIS K7199に準拠して、キャピログラフにより測定することで得ることができる。これにより、溶融共押出時における第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂との粘度の差を小さくすることができ、Tダイス220から溶融共押出しされる複合フィルム100について、中央部110および両端部120を構成する樹脂同士が混ざり合ってしまうことを防止することができる。
【0042】
すなわち、溶融共押出しを行う際において、第2の熱可塑性樹脂の粘度が、第1の熱可塑性樹脂の粘度に対して高すぎると、溶融共押出しされた複合フィルム100について、より粘度が高い第2の熱可塑性樹脂からなる両端部120が中央部110の表面に流れて、中央部110の一部を覆って、樹脂同士が混ざり合ってしまう。一方、第2の熱可塑性樹脂の粘度が、第1の熱可塑性樹脂の粘度に対して低すぎる場合には、溶融共押出しされた複合フィルム100において、より粘度が高い第1の熱可塑性樹脂からなる中央部110が、両端部120の一部を覆って、樹脂同士が混ざり合ってしまう。
【0043】
そのため、本実施形態においては、溶融共押出時における第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂との粘度の差を上記範囲まで小さくすることにより、加熱延伸された複合フィルム100について、中央部110および両端部120を構成する樹脂同士の混合を防止することができ、これにより、延伸フィルムを得る際において、上述したように両端部120を切断する場合に、切断する部分を減らすことができ、延伸フィルムの歩留まりを向上させることができる。
【0044】
また、第2の熱可塑性樹脂としては、得られる複合フィルム100について、加熱延伸する際における中央部110の延伸応力値と両端部120の延伸応力値との差が、所定の範囲となるような熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。具体的には、第2の熱可塑性樹脂としては、形成される両端部120における加熱延伸する際の延伸応力値が、中央部110における加熱延伸する際の延伸応力値の4倍以内である熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。なお、延伸応力値は、複合フィルム100を必要な延伸倍率まで延伸する際に、中央部110や両端部120を延伸するのに要する引張荷重を示す値である。これにより、複合フィルム100を加熱延伸する際において、中央部110と両端部120とにおける延伸応力に対する変形量を近いものとすることができ、加熱延伸時における延伸フィルムの破断およびクリップ外れをより有効に防止し、延伸フィルムの生産性をさらに向上させることができる。
【0045】
さらに、第2の熱可塑性樹脂としては、得られる加熱延伸前の複合フィルム100について、中央部110より両端部120の方が、常温における破断伸び率が高くなるような熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。なお、常温における破断伸び率は、10〜30℃程度の常温環境下で、中央部110や両端部120を破断するまで延伸した際における、延伸前の寸法に対する伸び率を示す値である。これにより、複合フィルム100を加熱延伸する際において、中央部110よりも両端部120の方が破断し難くなり、両端部120における裂け目の発生を防止し、複合フィルム100全体の破断を防止することができる。
【0046】
なお、第2の熱可塑性樹脂としては、上述した観点に基づいて、具体的には以下のような熱可塑性樹脂を用いることができる。たとえば、第2の熱可塑性樹脂としては、第1の熱可塑性樹脂にアクリル樹脂を用いた場合には、ポリエチレンナフタレート(PEN)、環状オレフィンポリマー(COP)などのうち1種を単独で使用、または2種以上を混合した混合樹脂を用いることができる。
【0047】
また、第2の熱可塑性樹脂としては、上述した第1の熱可塑性樹脂に、延伸フィルムの生産性を阻害しない範囲で少量のゴム弾性粒子を添加した樹脂を用いてもよい。
【0048】
あるいは、第2の熱可塑性樹脂としては、第1の熱可塑性樹脂よりもガラス転移温度が高く、その差が10℃超である熱可塑性樹脂(耐熱性の熱可塑性樹脂)に対し、第1の熱可塑性樹脂よりもガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂(低温溶融性の熱可塑性樹脂)を配合してなる混合樹脂を用いることができる。この際においては、上記の耐熱性の熱可塑性樹脂と、低温溶融性の熱可塑性樹脂との配合比率を調整することで、得られる混合樹脂のガラス転移温度を、第1の熱可塑性樹脂とのガラス転移温度の差(|Tg
1−Tg
2|)が上記範囲となるように調整する。
【0049】
ここで、第1の熱可塑性樹脂として、ガラス転移温度Tg
1が120℃程度のアクリル樹脂を用いた場合には、第2の熱可塑性樹脂としては、たとえば、ガラス転移温度が150℃程度と高いポリカーボネート(PC)に、ガラス転移温度が70℃程度と低いポリエチレンテレフタレート(PET)を配合して、ガラス転移温度を上記ガラス転移温度Tg
1と同程度の120℃付近に調整した混合樹脂を用いることができる。
【0050】
なお、第2の熱可塑性樹脂としてこのような混合樹脂を用いる場合には、耐熱性の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、環状オレフィンポリマー(COP)などを用いることができる。また、低温溶融性の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PEs)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などを用いることができる。本実施形態においては、これらのうち、得られる混合樹脂のガラス転移温度を調整し易いという観点より、耐熱性の熱可塑性樹脂としてとしてポリカーボネート(PC)を、低温溶融性の熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることが好ましい。
【0051】
ここで、
図3は、ポリカーボネート(PC)にポリエチレンテレフタレート(PET)を配合して得た混合樹脂のガラス転移温度を測定した結果を示すグラフである。なお、
図3においては、ポリカーボネート(PC)に対するポリエチレンテレフタレート(PET)の含有割合を0%、25%、50%、75%、100%とした樹脂について、ガラス転移温度を、示差走査熱量測定(DSC)により測定した結果を示している。ここで、示差走査熱量測定(DSC)による測定においては、ポリエチレンテレフタレート(PET)の含有割合がいずれの値であっても、混合樹脂のガラス転移温度は、ブロードとならずにほぼ一点に定まっている。
【0052】
図3に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)にポリカーボネート(PC)を配合した混合樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)の含有割合に応じて、ガラス転移温度を変化させることができる。これにより、本実施形態においては、第2の熱可塑性樹脂としてこのような混合樹脂を用いた場合に、第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
2を容易に調整可能であり、第1の熱可塑性樹脂とのガラス転移温度Tg
1との差(|Tg
1−Tg
2|)を上記範囲に制御することができる。
【0053】
なお、このような第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂により得られる複合フィルム100について、加熱延伸する方法としては、上述した例では、
図2に示すように、複合フィルム100を、長さ方向および幅方向の両方向に加熱延伸する同時二軸延伸法を用いる例を示したが、本実施形態においては、複合フィルム100を、長さ方向のみに一軸延伸する方法を用いてもよい。
【0054】
この際においては、複合フィルム100の長さ方向への加熱延伸は、
図2に示す同時二軸延伸法と同様にして行うことができる。すなわち、複合フィルム100の両端部120をクリップ310で把持しながら加熱炉320内に搬送し、その後、加熱炉320内にて、複合フィルム100の両端部120を把持している各クリップ310を、幅方向に移動させることなく、クリップ310同士の間隔を広げることで、長さ方向のみに加熱延伸を行う方法を用いることができる。
【0055】
本実施形態においては、長さ方向および幅方向に同時二軸延伸を行う場合や、長さ方向のみに一軸延伸を行う場合のいずれにおいても、
図2に示すように複合フィルム100の両端部120をクリップ310で把持しながら延伸を行うことにより、従来より用いられている逐次二軸延伸法と比較して、延伸フィルムの生産性を向上させることができ、さらに得られる延伸フィルムを品質に優れたものとすることができる。
【0056】
なお、従来の逐次二軸延伸法は、
図1に示す方法により作製された複合フィルム100を、まず長さ方向に加熱延伸し、その後、幅方向に加熱延伸を行う方法である。逐次二軸延伸法においては、複合フィルム100を複数のロールによって搬送することで長さ方向に加熱延伸した後、
図2に示すようにして、複合フィルム100の両端部120をクリップ310で把持しながら幅方向に加熱延伸する。
【0057】
ここで、逐次二軸延伸法における複合フィルム100の長さ方向への延伸は、具体的には次のようにして行われる。すなわち、逐次二軸延伸法によれば、複合フィルム100を予め加熱された複数の予熱ロールにより搬送しながら、両端部120のガラス転移温度程度まで予備加熱し、予備加熱した複合フィルム100を、赤外線ヒータなどにより両端部120のガラス転移温度よりも10〜30℃程度高い温度までさらに加熱しながら、連続的に冷却ロールにより搬送する。この際において、冷却ロールによる搬送速度を、予熱帯ロールによる搬送速度よりも速くすることで、予熱帯ロールと冷却ロールとの間で張力が発生し、この張力を利用して、複合フィルム100を長さ方向に必要な延伸倍率まで延伸させる。
【0058】
ここで、逐次二軸延伸法においては、複合フィルム100を長さ方向に延伸する際に、複合フィルム100の表面が、予熱ロールおよび冷却ロールに触れることとなるため、複合フィルム100の表面に擦り傷が発生してしまい、得られる延伸フィルムの外観品質が低下してしまうおそれがある。また、逐次二軸延伸法においては、複合フィルム100を長さ方向に加熱延伸する際に、複合フィルム100の両端部120は幅方向の位置が固定されていないため、複合フィルム100が熱により幅方向に収縮してしまい、延伸フィルムの生産性が低下してしまうおそれがある。
【0059】
これに対し、本実施形態によれば、複合フィルム100について、長さ方向への延伸を、上述した同時二軸延伸法、または上述した長さ方向のみに一軸延伸する方法を用いて行うことにより(すなわち、
図2に示すように、複合フィルム100の両端部120をクリップ310で把持しながら、長さ方向に延伸を行う方法を用いて行うことにより)、ロールとの接触を回避することができるため、加熱延伸後の複合フィルム100の表面の擦り傷を低減させることができる。これにより、加熱延伸された複合フィルム100の両端部120を切断して得られる延伸フィルムについて、外観品質を向上させることができ、特に、外観品質の要求が厳しい光学フィルムなどに好適に用いることができる。さらに、本実施形態によれば、複合フィルム100を長さ方向に延伸する際に、複合フィルム100の両端部120をクリップ310で把持しているため、複合フィルム100について、熱による幅方向の収縮を防止することができ、延伸フィルムの生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0061】
<実施例1>
複合フィルム100の中央部110を形成するための第1の熱可塑性樹脂として、アクリル樹脂(ガラス転移温度Tg
1:123℃、常温における破断伸び率:5%)を準備し、複合フィルム100の両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂として、少量のゴム弾性粒子を添加したアクリル樹脂(ガラス転移温度Tg
2:125℃、常温における破断伸び率:18%)を準備した。
【0062】
ここで、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂については、ガラス転移温度は示差走査熱量測定(DSC)により測定し、常温における破断伸び率は引張試験機(株式会社オリエンテック製、型番:RTC−1210A)により測定した。以下の実施例2〜5および比較例1についても同様とした。
【0063】
また、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂については、それぞれ、厚さ100μmの単フィルムを作製した後、140℃まで加熱した状態で徐々に延伸した際における延伸応力を測定した。結果を
図4(A)に示す。ここで、
図4(A)においては、延伸倍率(延伸前の単フィルムの寸法を基準として、いずれか一方向に、延伸前の寸法の何%分延伸させたかを示す値)に対して、その延伸倍率まで延伸するのに必要な延伸応力値を示している。また、
図4(A)においては、第1の熱可塑性樹脂の測定結果を中央部110とし、第2の熱可塑性樹脂の測定結果を両端部120としている。
【0064】
次いで、準備した第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を用いて、
図1に示す方法により、以下の条件にて複合フィルム100を作製した。ここで、作製した複合フィルム100は、全体幅が約315mmであり、そのうち両端における端部から各約50mm幅の領域が両端部120であり、残りの中央の領域が中央部110であった。なお、本実施例においては、第2の熱可塑性樹脂としてゴム弾性粒子を添加したアクリル樹脂を用いたが、添加したゴム弾性粒子の量は少量であったため、複合フィルム100を溶融共押出する際におけるゴム弾性粒子の析出を抑制することができた。
Tダイス220出口幅:380mm
冷却ロール240の引取速度:6mpm
フィードブロック210への第1の熱可塑性樹脂の供給量:15kg/hr
フィードブロック210への第2の熱可塑性樹脂の供給量:5kg/hr
【0065】
ここで、得られた複合フィルム100については、中央部110と両端部120との境界を目視にて明瞭に確認することができ、複合フィルム100において樹脂同士の混合が発生していないことが確認された。
【0066】
次いで、得られた複合フィルム100について、両端部120をクリップ310により把持し、
図2に示すように、同時二軸延伸法により、以下の条件にて長さ方向および幅方向に加熱延伸した。なお、加熱延伸後の複合フィルム100について、加熱延伸された中央部110のうち中央部分の幅400mmの領域にて厚みおよび破断強度を測定したところ、厚みおよび破断強度(常温にて破断するまで引っ張った際の引張強度)の分布が±5%以内であった。
加熱延伸する前の入側速度:1mpm
加熱延伸した後の出側速度:2mpm
延伸倍率:長さ方向100%×幅方向100%(長さ方向2倍×幅方向2倍)
クリップ310把持位置:複合フィルム100の端部から15mmの位置
予熱帯温度、距離:140℃、350mm
延伸帯温度、距離:140℃、500mm
冷却熱固定温度、距離:90℃、700mm
【0067】
なお、本実施例では、複合フィルム100を加熱延伸している間において、クリップ310外れ、および複合フィルム100の破断は発生せず、品質に優れた延伸フィルムを連続的に製造することができた。
【0068】
<実施例2>
複合フィルム100の両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート(PC)75重量%に対して、ポリエチレンテレフタレート(PET)25重量%を配合してなる混合樹脂(ガラス転移温度Tg
2:125℃、常温における破断伸び率:20%)を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得て、同様に両端部120(第2の熱可塑性樹脂)の単フィルムの延伸応力を測定した。結果を
図4(A)に示す。
【0069】
なお、実施例2においても、実施例1と同様に、溶融共押出により得られた複合フィルム100について、中央部110と両端部120との境界を目視にて明瞭に確認することができ、複合フィルム100において樹脂同士の混合が発生していないことが確認された。さらに、複合フィルム100を加熱延伸している間において、クリップ310外れ、および複合フィルム100の破断が発生せず、品質に優れた延伸フィルムを連続的に製造することができた。
【0070】
<実施例3>
複合フィルム100の両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート(PC)にアクリル樹脂(PMMA)を配合してなる混合樹脂(ガラス転移温度Tg
2:122℃、常温における破断伸び率:25%)を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得て、同様に両端部120(第2の熱可塑性樹脂)の単フィルムの延伸応力を測定した。結果を
図4(A)に示す。
【0071】
なお、実施例3においても、実施例1と同様に、溶融共押出により得られた複合フィルム100について、中央部110と両端部120との境界を目視にて明瞭に確認することができ、複合フィルム100において樹脂同士の混合が発生していないことが確認された。さらに、複合フィルム100を加熱延伸している間において、クリップ310外れ、および複合フィルム100の破断が発生せず、品質に優れた延伸フィルムを連続的に製造することができた。
【0072】
<実施例4>
複合フィルム100の両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート(PC)とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)とを混合してなるPC/ABSアロイ(ガラス転移温度Tg
2:120℃、常温における破断伸び率:180%)を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得て、同様に両端部120(第2の熱可塑性樹脂)の単フィルムの延伸応力を測定した。結果を
図4(B)に示す。なお、
図4(B)は、
図4(A)と同様に、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を用いて作製した単フィルムの延伸応力の測定結果を示すグラフであり、
図4(A)とは縦軸のスケールを異ならせている。
【0073】
ここで、実施例4においては、実施例1と同様に、溶融共押出により得られた複合フィルム100について、中央部110と両端部120との境界を目視にて明瞭に確認することができ、複合フィルム100において樹脂同士の混合が発生していないことが確認された。
【0074】
一方、実施例4においては、延伸倍率100%における両端部120の延伸応力が、中央部110の延伸応力に対して約7.7倍と高くなっているため、複合フィルム100の加熱延伸時に、両端部120が延伸し難くなり、まれにクリップ310外れが発生した。ただし、実施例4では、クリップ310外れの発生頻度は低かったため、品質に優れた延伸フィルムを連続的に製造することができた。
【0075】
<実施例5>
複合フィルム100の両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂として、ポリエチレンナフタレート(PEN)(ガラス転移温度Tg
2:120℃、常温における破断伸び率:300%)を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得て、同様に両端部120(第2の熱可塑性樹脂)の単フィルムの延伸応力を測定した。結果を
図4(A)に示す。
【0076】
ここで、実施例5においては、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂を溶融共押出した際に、得られた複合フィルム100について、中央部110と両端部120との境界がやや不明瞭になっていた。これは、第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂について、溶融共押出する際における粘度の差が大きいため、中央部110および両端部120がわずかに混ざり合ってしまったことに起因していると考えられる。ただし、実施例5では、得られる延伸フィルムについては品質には問題がなかった。
【0077】
また、実施例5においては、実施例1と同様に、複合フィルム100を加熱延伸している間において、クリップ310外れ、および複合フィルム100の破断が発生せず、品質に優れた延伸フィルムを連続的に製造することができた。
【0078】
<比較例1>
複合フィルム100の両端部120を形成するための第2の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート(PC)(ガラス転移温度Tg
2:143℃、常温における破断伸び率:170%)を用いた以外は、実施例1と同様にして延伸フィルムを得て、同様に両端部120(第2の熱可塑性樹脂)の単フィルムの延伸応力を測定した。結果を
図4(B)に示す。
【0079】
なお、比較例1においても、実施例1と同様に、溶融共押出により得られた複合フィルム100について、中央部110と両端部120との境界を目視にて明瞭に確認することができ、複合フィルム100において樹脂同士の混合が発生していないことが確認された。
【0080】
しかしながら、比較例1では、複合フィルム100を加熱延伸する際に、予熱帯および延伸帯の温度(140℃)が、両端部120を構成する第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
2(143℃)まで到達しなかったため、両端部120の軟化が不十分となってしまい、これにより、クリップ310外れが多発し、延伸フィルムを得ることができなかった。これに対し、比較例1においては、同時二軸延伸法により加熱延伸を行う際の予熱帯および延伸帯の温度を、140℃から160℃に変更することにより、両端部120を軟化させて加熱延伸を行うことができたが、得られた延伸フィルムは、高温にさらされたため分子配向が不均一化して強度が低下し、さらに膜厚もばらついてしまったため品質に劣るものであった。
【0081】
上述したように第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
1と第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
2との差(|Tg
1−Tg
2|)を10℃以下とした実施例1〜5は、複合フィルム100を加熱延伸した際において、複合フィルム100の破断、およびクリップ310外れが抑制されたため、品質に優れた延伸フィルムを得ることができ、また延伸フィルムの生産性を向上させることができた。
【0082】
一方、上述したように第1の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
1と第2の熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg
2との差(|Tg
1−Tg
2|)が10℃超であった比較例1は、複合フィルム100の加熱延伸時に、クリップ310外れが多発してしまい、延伸フィルムを得ることができず、延伸フィルムの生産性に劣るものであった。