【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕
本実施例では、Kluyveromyces属酵母としてKluyveromyces marxianusを使用し、アルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(ALD2遺伝子、ALD2-2(ALD3)遺伝子、ALD5遺伝子及びALD6遺伝子)並びにピルビン酸デヒドロゲナーゼE1αサブユニット遺伝子(PDA1遺伝子)の各遺伝子の破壊株を作製し、キシロースからのエタノール収率を比較検討した。
【0032】
<株の作製>
接合、胞子形成によるura3- leu2-変異株の作製
Kluyveromyces marxianus DMKU3-1042株のura3-株であるRAK3605株(Nonklang, S. et al., Appl. Environ. Microbiol. 74: 7514-7521, 2008)を基準株として使用した。K. marxianus DMKU3-1042株由来の栄養要求性変異株は、低頻度で2倍体になることを明らかにしている。紫外線変異により、多重栄養要求性変異株を取得することは可能であるが、その結果、染色体DNAに変異が入る確率が上昇する。より安定な株を作製するために、接合と胞子形成により、2倍体から簡単に多重栄養要求性株を作製する(Yarimizu, T. et al., Yeast 30: 485-500, 2013)ために以下の株を作製した。
【0033】
先ず、RAK3605株に紫外線照射し、lys-株(RAK3896株:ura3- lys2-)、ade-株(RAK3919株:ura3- ade2-)及びleu-株(RAK3966株:ura3- leu2-)を取得した。これらの株にSaccharomyces cerevisiaeのURA3をランダムに染色体へ形質転換した株、RAK4088株(ura3- leu2- ScURA3)、RAK4152株(ura3- ade2- ScURA3)、RAK4153株(ura3- lys2- ScURA3)を作製した。RAK4152とRAK4153株をYPD培地(1% w/v Yeast extract, 2% w/v peptone, 2% glucose, 2% w/v agar)上で混ざるようにストリークし、MM培地(0.17% w/v yeast nitrogen base w/o amino acids and ammonium sulfate, 0.5% w/v ammonium sulfate, 2% w/v glucose, 2% w/v agar)へレプリカした。MM培地で生えた株、RAK4154株(ura3-/ura3- ade2-/ADE2, lys2-/LYS2 ScURA3/ScURA3)をS. cerevisiaeで使用されるSPO培地(1% w/v potassium acetate, 0.1% w/v yeast extract, 0.05% w/v glucose)に植菌し、胞子形成させた。
【0034】
作製した胞子を分離し、ura- lys- ade-の3重栄養要求性株を取得するために、-A培地(MM+uracil, tryptophan, histidine HCl, methionine, leucine, lysine HCl), -K培地(MM+ uracil, tryptophan, histidine HCl, methionine, leucine, adenine hemisulfate), -U培地(MM+ tryptophan, histidine HCl, methionine, leucine, lysine HCl, adenine hemisulfate)へレプリカし、3つの培地で増殖できない株をRAK4154株の胞子から3株取得することに成功した。その株をRAK4155株(ura3- lys2- ade2-)と命名した。同様の方法でRAK4088株とRAK4155株を接合させ、RAK4156株(ura3-/ura3- lys2-/LYS2 ade2-/ADE2 leu2-/LEU2 ScURA3/ScURA3)を作製した。この株を胞子形成させ、RAK4174株(leu2- ura3-)株を作製した。
【0035】
Ku70破壊株の作製
K. marxianusは非相同末端結合修復が高頻度で起こることから、S. cerevisiaeのように相同組換え修復を利用して遺伝子破壊を容易に行うことができない(Nonklang, S. et al., Appl. Environ. Microbiol. 74: 7514-7521, 2008)。そこで、非相同末端結合修復に必須のKU70遺伝子を破壊することで相同組換えを高頻度に起こさせる株の作製を行った。RAK4174株からKU70を破壊したRAK4736株(ura3-1 leu2-2 ku70Δ::ScLEU2)を作製した(Abdel-Banat, B. M. et al., Yeast 27: 29-39, 2010)。
【0036】
Ku70破壊株をホスト株とした遺伝子破壊株の取得
使用したプライマーを以下の表1に示す。
【表1】
【0037】
Ku70破壊株をホスト株として形質転換を行う方法で遺伝子を破壊した。fragmentとして、URA3マーカーの両端に目的遺伝子(破壊遺伝子)のORF内の相同配列を持たせたDNA断片を作製し、形質転換に用いた。
【0038】
具体的には、S. cerevisiaeのBY4702株(MATa ade2Δ::hisG his3Δ200 leu2Δ0 lys2Δ0 met15Δ0 trp1Δ63, Brachmann, C. B. et al., Yeast 14: 115-132, 1998)の染色体DNAをテンプレートとして、9C-URA3-223及び3CG9-URA3+880cの2つのプライマーでKOD Plusを用いてPCRを行い、次いで、その産物をURA3テンプレート(50 ng/μl)とし、以下の表2のプライマーセットでURA3マーカーの両端に破壊遺伝子のORF内の相同配列を付けたDNA断片をPCRにより作製した。次いで、得られた各DNA断片を、RAK4736株へ形質転換し、相同組換えにより各破壊遺伝子を破壊した。
【0039】
【表2】
【0040】
当該形質転換に使用した培地は、YPD(1% yeast extract, 2% polypepton, 2% glucose)とウラシル欠損培地(0.17% yeast nitrogen base without amino acids and without ammonium sulfate, 0.5% ammonium sulfate, 2% glucose,及び必要なアミノ酸類)である。
【0041】
DNAの抽出は、細胞壁溶解酵素を用いた方法とコロニーPCRを行った。コロニーPCR法は、20 mM NaOHをPCRチューブに5μlいれ、そこに酵母コロニーの一部を混ぜ、100℃に10分間置いたのち15℃で冷却した。冷却後、水を15μl入れて調整した。
【0042】
PCRにはKOD Plus (TOYOBO)及びKOD FX Neo (TOYOBO)を使用した。KOD Plusは形質転換用のDNA Fragmentを作製するために、KOD FX NeoはコロニーPCRに利用した。PCR産物の濃度測定はInvitrogen Quant iT
TMdsDNA BRキットを用い,蛍光光度計(Invitrogen Quant iT
TM fluorometer)で測定した。
【0043】
酵母の形質転換は、以下のように行った。YPD液体培地3 mlに酵母を植えて28℃、150 rpmで18〜24時間振とう培養した。その酵母培養液1 mlとYPD液体培地9 mlを混合し、28℃、150 rpmで5時間振とう培養した。全量を15 mlチューブに移して8000 rpmで3分間遠心して上清を捨てた。その後、60 % ポリエチレングリコール3350 784μl、4 M 酢酸リチウム59μl、滅菌した脱イオン水157μlを混ぜた形質転換液200μlを、さきほど上清を捨てた15 mlチューブにいれてよく撹拌し、8000 rpmで3分間遠心して上清を捨てた。そして、形質転換液180μlを加えてよく撹拌した。この状態の細胞を81μl、キャリアDNA(salmon testes DNA, Sigma D-1626, 10 mg/ml) 10μl、PCRしたDNA断片3〜5μlを混ぜて42℃、30分間インキュベートした。その後、液体の選択培地を100μl加えて、選択培地プレート上にまいた。28℃のインキュベータで4〜5日培養した。
【0044】
このようにして、ALD2破壊株(RAK9791株:ura3-1 leu2-2 ku70Δ::ScLEU2 ald2Δ::ScURA3)、ALD2-2破壊株(RAK9793株:ura3-1 leu2-2 ku70Δ::ScLEU2 ald3Δ::ScURA3)、ALD5破壊株(RAK9795株:ura3-1 leu2-2 ku70Δ::ScLEU2 ald5Δ::ScURA3)、ALD6破壊株(RAK8838株:ura3-1 leu2-2 ku70Δ::ScLEU2 ald6Δ::ScURA3)、及びPDA1破壊株(RAK9912株:ura3-1 leu2-2 ku70Δ::ScLEU2 pda1Δ::ScURA3)を作製した。
【0045】
なお、各遺伝子破壊株における遺伝子破壊は、以下の表3に示すプライマーセットを使用して確認した。
【0046】
【表3】
【0047】
<エタノール発酵試験>
以上のように作製されたALD2破壊株、ALD2-2破壊株、ALD5破壊株、ALD6破壊株及びPDA1破壊株についてキシロースを利用したエタノール発酵試験を行った。
【0048】
前培養
YPX(キシロース20g/L)培地20mlを加えた50mlアシストチューブに上記破壊株を一白金耳植菌し、30℃、140rpmで6〜8時間振とう培養した。次に、その菌液2.5%を、YPX培地(キシロース:20g/L)200mlが入った500ml三角フラスコで、30℃、140rpm、一晩振とう培養した。培養後の酵母を遠心回収、滅菌水で3回洗浄し、OD600=30の酵母懸濁液を調製した。
【0049】
本培養
表4に示す条件で培養し、エタノール生産を確認した。初発の糖濃度は、キシロース20g/Lとした。
【表4】
【0050】
また、培地中のエタノール濃度は島津製作所社製のHPLC(検出器:RI)を用いて測定した。
【0051】
<結果>
糖成分としてキシロースを含有する培地にて上記破壊株を培養した際の「培地中のエタノール収率」を
図2に示す。
図2に示すように、各遺伝子破壊株では、野生株(DMKU3-1042株)と比較し、キシロースからのエタノール収率が1.8〜3.5倍に向上していた。