【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータの構成を、[全体構成]、[MR流体クラッチ構成]に分けて説明する。
【0011】
[全体構成]
図1は、電動車両(ハイブリッド車、電気自動車等)に適用される実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1を示す。以下、
図1に基づき、全体構成を説明する。
【0012】
前記ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1は、
図1に示すように、ポンプインペラー1と、タービンランナー2と、ステータ3と、磁気粘性流体4(以下、「MR流体4」という。)と、MR流体クラッチ5と、を備えている。
【0013】
前記ポンプインペラー1は、入力軸6にコンバータカバー7を介して連結されたものである。このポンプインペラー1は、アルミ合金等を素材として製造され、ポンプ外殻1aと、ポンプ外殻1aの内面からタービンランナー2側に突設させた複数のポンプ翼1bと、複数のポンプ翼1bの内端部を連結するポンプ内殻1cと、を有して構成される。
【0014】
前記ポンプインペラー1には、出力軸8を内包する位置に回転軸部9が連結され、この回転軸部9の外周面に、MR流体クラッチ5の電磁コイル54に電流を印加するスリップリング10,10が設けられている。このスリップリング10,10には、コイル電流印加端子11のリング接触子12,12がスプリング付勢により接触される。ここで、スリップリング10,10と電磁コイル54は、ポンプ外殻1aとコンバータカバー7を経由し、図外のリード線により接続される。なお、ポンプインペラー1の駆動源側の端面位置には、入力軸回転数を検出するための回転センサギヤ13が、図外のボルトにより固定される。
【0015】
前記タービンランナー2は、ポンプインペラー1に対向配置され、出力ハブ14を介して出力軸8に連結されたものである。このタービンランナー2は、アルミ合金等を素材として製造され、タービン外殻2aと、該タービン外殻2aの内面からポンプインペラー1側に突設させた複数のタービン翼2bと、該タービン翼2bの内端部を連結するタービン内殻2cと、を有して構成される。
【0016】
前記ステータ3は、ポンプインペラー1とタービンランナー2の間であって、両者1,2の対向領域のうち内側領域に配置され、静止固定部材であるケース15に対し、ワンウェイクラッチ16を介して設けられる。このステータ3は、ステータ内輪3aと、該ステータ内輪3aの外面から外径方向に突設させた複数のステータ翼3bと、該ステータ翼3bの外端部を連結するステータ外輪3cと、を有して構成される。
【0017】
前記MR流体4は、ポンプインペラー1とコンバータカバー7に覆われると共に、第1MR流体シール17と第2MR流体シール18と第3MR流体シール19により密閉されたコンバータ空間の内部に封入される。ここで、MR流体4とは、鉄ナノ粒子等の強磁性粒子をオイル中に分散させたものであり、外部磁場に応じて粘性が変化する機能性流体の一つである。このMR流体4は、トルクコンバータ作動時、ポンプインペラー1とタービンランナー2とステータ3が集合するトーラス部において循環流を形成すると共に、MR流体クラッチ5の磁気粘性流体層53に充填される。
【0018】
前記MR流体クラッチ5は、MR流体4を用いたロックアップクラッチであり、コンバータカバー7とタービンランナー2との間に介装され、ロックアップ締結とスリップロックアップ締結とロックアップ開放を行う。ロックアップ締結時には、入力軸6と出力軸8を直結する。スリップロックアップ締結時には、所定の差回転を許容しながら入力軸6と出力軸8を締結する。ロックアップ開放時には、入力軸6と出力軸8を、MR流体4を用いたトルクコンバータを介して連結する。
【0019】
[MR流体クラッチ構成]
以下、
図1に基づき、MR流体クラッチ構成を説明する。
前記MR流体クラッチ5は、
図1に示すように、第1ディスク51と、第2ディスク52と、磁気粘性流体層53(以下、「MR流体層53」という。)と、電磁コイル54と、ヨーク部55と、クラッチ制御回路56と、を備えている。
【0020】
前記第1ディスク51は、ドーナツ盤形状による多層ディスク構造とし、コンバータカバー7を介してポンプインペラー1に連結される。この第1ディスク51は、その内周端部を、コンバータカバー7からタービンランナー2に向かって軸方向に延在する第1フランジ部57の外周面に埋設している。第1ディスク51としては、第1フランジ部57の外周面に埋設した2枚と、その両側に設けたヨーク部55を兼用する2枚との合計4枚にて等間隔の3つの空間を形成した多層ディスク構造としている。なお、ヨーク部55を兼用する両側の2枚のディスク厚みは、その内側に配置された2枚のディスク厚みより厚くしている。そして、第1ディスク51及びヨーク部55は、鉄等の強磁性材を素材とし、第1フランジ部57は、アルミ合金等を素材としている。
【0021】
前記第2ディスク52は、ドーナツ盤形状による多層ディスク構造とし、タービンランナー2に連結される。この第2ディスク52は、その外周端部を、タービンランナー2の外周端部からコンバータカバー7に向かって軸方向に延在する第2フランジ部58の内周面に埋設している。第2ディスク52としては、第2フランジ部58の内周面に埋設した3枚による多層ディスク構造とし、第1ディスク51により形成された等間隔の3つの空間の中間位置に配置している。なお、3枚のディスク厚みは、第1フランジ部57の外周面に埋設した2枚の第1ディスク51の厚みと同じ厚みに設定している。そして、第2ディスク52は、鉄等の強磁性材を素材とし、第2フランジ部58は、アルミ合金等を素材としている。
【0022】
前記MR流体層53は、第1ディスク51と第2ディスク52のディスク対向面間に、コンバータ回転軸CLに直交する面に沿って延在するように複数層形成している。実施例1では、
図1に示すように、MR流体4が充填されるMR流体層53を、等間隔により6層形成している。このMR流体層53が設定される径方向範囲は、径方向サイズの大型化を抑えるため、トーラス部にて循環流が形成されるときMR流体4が滞留するコア領域の位置から、トーラス部の外径端領域の位置までの範囲に設定されている。
【0023】
前記電磁コイル54は、MR流体層53に対する通電により磁場を生成するもので、磁場による粘性変化に応じて伝達トルクを発生する6層のMR流体層53の径方向内側位置に配置している。この電磁コイル54は、第1フランジ部57の内周側位置であって、第1フランジ部57を除く外周部分がV字状のヨーク部55により囲まれる断面直角三角形状領域に配置している。ここで、電磁コイル54を断面直角三角形状としている理由は、周辺のレイアウト設計を変えることなく、
図1の仮想線で示す油圧クラッチを用いたロックアップクラッチ付きトルクコンバータT/Cに代え、MR流体クラッチ5を用いたロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1を適用するという設計コンセプトにしたがったことによる。
【0024】
前記ヨーク部55は、電磁コイル54への通電時、磁力線経路による磁気回路を構成するもので、コンバータカバー7のうち磁気粘性流体層53が形成される領域に設定している。すなわち、ポンプインペラー1に連結されたコンバータカバー7の一部に、第1ディスク51を兼用しつつ、コンバータカバー7と一体に設けている。
【0025】
前記クラッチ制御回路56は、入力情報に応じて電磁コイル54に印加する電流を制御する回路である。例えば、MR流体クラッチ5のロックアップ開放時には、電磁コイル54に印加する電流がゼロとされ、MR流体クラッチ5のロックアップ締結時には、入力トルクに対して滑りを許容しない伝達トルク(>入力トルク)を得る電流値を電磁コイル54に印加する。また、MR流体クラッチ5のスリップロックアップ締結時には、目標スリップ量が得られるように決められた電流値を電磁コイル54に印加する。
【0026】
次に、作用を説明する。
実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1における作用を、[コイル内側配置による比較作用]、[他の特徴作用]に分けて説明する。
【0027】
[コイル内側配置による比較作用]
まず、電磁コイルをMR流体クラッチの外周位置に配置したコイル外周配置によるロックアップクラッチ付きトルクコンバータを比較例(
図2)とする。この比較例の場合は、コイル外周配置であるため、下記に列挙する課題を有する。
【0028】
(a’) 伝達トルクが小さくなる
コイル外周配置により、
図2に示すように、電磁コイル54’の径方向内側位置に配置されるMR流体クラッチ5’の外径L1’が、電磁コイル54’の断面積を大きくするほど短くなる。このため、トルクコンバータの外径寸法がLに規定されているとき、MR流体クラッチ5’によるトルク伝達面積が小さくなる。
【0029】
(b’) 消費電力が増大する
コイル外周配置により、
図2に示すように、所望のコイル断面積(起磁力=電流×巻き数)を保つとき、コイル巻き線の全長が長くなる。このため、電磁コイル54’の電気抵抗が増し、消費電力が増大する。
【0030】
(c’) MR流体の粒子分離が発生する
コイル外周配置により、遠心力と同じ外径方向の力がMR流体の強磁性粒子に働く。このため、MR流体の強磁性粒子が分離する。
【0031】
これに対し、実施例1では、電磁コイル54を、磁場による粘性変化に応じて伝達トルクを発生するMR流体層53の径方向内側位置に配置(コイル内周配置)する構成を採用した(
図3)。このため、下記に述べるように、伝達トルクの向上と、消費電力の抑制と、MR流体4の粒子分離抑制と、を併せて達成することができる。
【0032】
(a) 伝達トルクの向上
コイル内周配置により、
図3に示すように、電磁コイル54の径方向外側位置に配置されるMR流体層53の外径L1が電磁コイル54の断面積を大きくしても変わることなく、かつ、比較例の外径L1’に比べ長く確保できる。このため、トルクコンバータの外径寸法がLに規定されているとき、MR流体層53によるトルク伝達面積が拡大され、伝達トルクが向上する。
更に、MR流体層53は、径方向外側に配置されるので、MR流体層53の径方向幅が同じであっても、トルク伝達面積を拡大することができるし、コンバータ回転軸CLからも遠ざかることからMR流体4のせん断力が同じであっても、伝達するトルクを大きくすることができる。
【0033】
(b) 消費電力の抑制
コイル内周配置により、
図3に示すように、所望のコイル断面積(起磁力=電流×巻き数)を保つとき、コイル巻き線の全長が短くなる。このため、電磁コイル54の電気抵抗が減り、消費電力が抑制される。
そして、電磁コイル54が発生する磁界は、コイル電流とその断面によって決まるが、断面が同じであった場合、径方向内側に配置する方が、電磁コイル54の周長を短くして、コイルの容積を小さくすることができる。また、電磁コイル54の材料は、銅等の比重が重い金属である場合が多いが、そのような場合でも径方向内側に配置することで、イナーシャを小さくして制御性を向上することができる。
【0034】
(c) MR流体4の粒子分離抑制
コイル内周配置により、遠心力に対抗する力(内径方向の力)がMR流体4の強磁性粒子に働く。このため、MR流体4の粒子分離が抑制される。
すなわち、比較例のように、MR流体の粒子分離が発生すると、MR流体層によるトルク伝達面積での径方向伝達トルク分布が内径側ほど低トルクになるというように不均一分布になり、トータル伝達トルクが低下したりばらついたりする。
これに対し、MR流体4の粒子分離が抑制されると、MR流体層53によるトルク伝達面積での径方向伝達トルク分布が内径側から外径側までのトルク変化が抑えられた均一分布になり、トータル伝達トルクが安定して確保される。
【0035】
[他の特徴作用]
実施例1では、第1ディスク51及び第2ディスク52を、それぞれドーナツ盤形状による多層ディスク構造とし、MR流体層53を、コンバータ回転軸CLに直交する面に沿って延在するように複数層形成する構成を採用した。
例えば、円筒状のMR流体層を持つMR流体クラッチとした場合、MR流体層を複数層形成しようとすると、複数の均等隙間を均等にする隙間管理を要し、製造上、多層化が難しくなる。
これに対し、トルク伝達面となるMR流体層53を径方向に延在させたので、MR流体層53を多層化する際、多層ディスク構造による第1ディスク51と第2ディスク52の軸方向隙間を管理するだけで、製造容易性を向上することができる。そして、MR流体層53の多層化によりトルク伝達面が増加し、MR流体クラッチ5の伝達トルク容量の増大要求に応えることができる。
このように、MR流体層53の多層化に際し、製造容易性の向上とコスト低減を達成しながら、MR流体クラッチ5の伝達トルク容量の増大を図ることができる。
【0036】
実施例1では、第1ディスク51の内周端部を、コンバータカバー7からタービンランナー2に向かって軸方向に延在する第1フランジ部57の外周面に設ける。第2ディスク52の外周端部を、ポンプインペラー2の外周端部からコンバータカバー7に向かって軸方向に延在する第2フランジ部58の内周面に設ける構成を採用した。
例えば、ポンプインペラーの外周端部にそのまま第2ディスクを連結しようとすると、第2ディスクは、径方向外側に向かって延在することになり、更に、その外側に第1ディスクの連結部が設けられることになり、装置全体として径方向のサイズが大きくなってしまい車両搭載性が悪化してしまう。
これに対し、第1ディスク51と第2ディスク52の取り付け範囲が、ポンプインペラー2の外周端部より径方向内側の第1フランジ部57と第2フランジ部58の範囲に規定される。すなわち、第2ディスク52の外周端部が、ポンプインペラー2の外周端部より径方向外側へ突出するのが抑制される。
したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1の装置全体としての径方向のサイズの大型化が回避され、良好な車両搭載性を確保することができる。
【0037】
実施例1では、コンバータカバー7のうちMR流体層が形成される領域を、磁力線経路による磁気回路を構成するヨーク部55とする。そして、電磁コイル54を、第1フランジ部57の内周側位置であって、第1フランジ部57を除く外周部分がヨーク部55により囲まれる位置に配置する構成を採用した。
例えば、ヨーク部により囲まれた電磁コイルを別体に形成し、これをコンバータカバーの内面に設ける場合、コンバータカバーが軸方向に突出する。
これに対し、コンバータカバー7の一部に対して一体にカバー兼用のヨーク部55を設けることにより、電磁コイル54をヨーク部55により囲みながらも、コンバータカバー7が軸方向に突出するのが抑制される。
したがって、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1の装置全体としての軸方向のサイズの大型化が回避され、良好な車両搭載性を確保することができる。
【0038】
実施例1では、電磁コイル54に電流を印加するスリップリング10,10を、出力軸8を内包するポンプインペラー1の回転軸部9に設け、電磁コイル54を、ポンプインペラー1に連結されたコンバータカバー7に設ける構成を採用した。
例えば、電磁コイルをタービンライナー側に設けると、タービンライナーはポンプインペラーと共に回転するトルクコンバータカバーに内包されているので、2組のスリップリングを設け、相対回転があっても電流を通電できるようにしなければならない。
これに対し、スリップリング10,10を、ポンプインペラー1の回転軸部9に設け、同じポンプインペラー1側に電磁コイル54を設けているので、1組のスリップリング10,10と電磁コイル54を直接、電気的に接続することができる。
したがって、1組のスリップリング10,10を設けるだけの簡単な構成で、スリップリング10,10と電磁コイル54を電気的に接続することができる。
【0039】
次に、効果を説明する。
実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0040】
(1) 入力軸6にコンバータカバー7を介して連結されるポンプインペラー1と、前記ポンプインペラー1に対向配置され、出力軸8に連結されるタービンランナー2と、内部に封入される磁気粘性流体(MR流体4)と、を有し、ロックアップクラッチを、磁気粘性流体(MR流体4)を用いたMR流体クラッチ5により構成したロックアップクラッチ付きトルクコンバータであって、
前記ポンプインペラー1に連結された第1ディスク51と、
前記タービンランナー2に連結された第2ディスク52と、
前記第1ディスク51と前記第2ディスク52のディスク対向面間に形成された磁気粘性流体層(MR流体層53)に対する通電により磁場を生成する電磁コイル54と、を備え、
前記電磁コイル54を、磁場による粘性変化に応じて伝達トルクを発生する前記磁気粘性流体層(MR流体層53)の径方向内側位置に配置した。
このため、伝達トルクの向上と、消費電力の抑制と、磁気粘性流体(MR流体4)の粒子分離抑制と、を併せて達成することができる。
【0041】
(2) 前記第1ディスク51及び前記第2ディスク52を、それぞれドーナツ盤形状による多層ディスク構造とし、
前記磁気粘性流体層(MR流体層53)を、コンバータ回転軸CLに直交する面に沿って延在するように複数層形成した。
このため、(1)の効果に加え、磁気粘性流体層(MR流体層53)の多層化に際し、製造容易性の向上とコスト低減を達成しながら、MR流体クラッチ5の伝達トルク容量の増大を図ることができる。
【0042】
(3) 前記第1ディスク51の内周端部を、前記コンバータカバー7から前記タービンランナー2に向かって軸方向に延在する第1フランジ部57の外周面に設け、
前記第2ディスク52の外周端部を、前記ポンプインペラー1の外周端部から前記コンバータカバー7に向かって軸方向に延在する第2フランジ部58の内周面に設けた。
このため、(2)の効果に加え、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1の装置全体としての径方向のサイズの大型化が回避され、良好な車両搭載性を確保することができる。
【0043】
(4) 前記コンバータカバー7のうち前記磁気粘性流体層(MR流体層53)が形成される領域を、磁力線経路による磁気回路を構成するヨーク部55とし、
前記電磁コイル54を、前記第1フランジ部57の内周側位置であって、前記第1フランジ部57を除く外周部分が前記ヨーク部55により囲まれる位置に配置した。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA1の装置全体としての軸方向のサイズの大型化が回避され、良好な車両搭載性を確保することができる。
【0044】
(5) 前記電磁コイル54に電流を印加するスリップリング10,10を、前記出力軸8を内包する前記ポンプインペラー1の回転軸部9に設け、
前記電磁コイル54を、前記ポンプインペラー1に連結された前記コンバータカバー7に設けた。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、1組のスリップリング10,10を設けるだけの簡単な構成で、スリップリング10,10と電磁コイル54を電気的に接続することができる。
【実施例2】
【0045】
実施例2は、電磁コイルへの通電遮断時、ロックアップ締結状態であるノーマルクローズのMR流体クラッチとした例である。
【0046】
まず、構成を説明する。
図4は、実施例2のロックアップクラッチ付きトルクコンバータA2を示す。以下、
図4に基づき、全体構成を説明する。
前記ロックアップクラッチ付きトルクコンバータA2は、
図4に示すように、ポンプインペラー1と、タービンランナー2と、ステータ3と、MR流体4と、MR流体クラッチ5と、永久磁石59と、クラッチ制御回路60と、を備えている。
【0047】
前記永久磁石59は、MR流体層53に対し、N極とS極の関係により決まる方向の磁力線により所定の磁場を生成するもので、
図4に示すように、MR流体層53の径方向内側位置に配置される。すなわち、永久磁石59は、MR流体層53の径方向内側位置であって、第1フランジ部57と電磁コイル54に挟まれた位置に配置される。
【0048】
前記クラッチ制御回路60は、電磁コイル54に接続され、入力情報に基づき、電磁コイル54に対しコイル電流の流れ方向とコイル電流の大きさを制御する回路である。ここで、コイル電流の流れ方向は、永久磁石59による磁力線方向と同じ方向の磁力線を形成する側を(+)とし、永久磁石59による磁力線方向と反対方向に磁力線を形成する側を(-)とする。
なお、他の構成は、実施例1の
図1と同様であるので、図面に同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
次に、実施例2のクラッチ制御回路60によるMR流体クラッチ5のトルク伝達容量制御作用を、
図5に基づき説明する。
まず、電磁コイル54への通電をゼロにすると、永久磁石59のN極とS極の関係により決まる方向の磁力線により所定の磁場が生成され、この永久磁石59により生成された磁場に応じてMR流体層53の粘性が変化することによりMR流体クラッチ5を介してトルクが伝達される(ノーマルクローズ)。
したがって、電磁コイル54への電気系統が断線フェールになっても、MR流体クラッチ5を介したトルク伝達が確保される。
【0050】
そして、電磁コイル54への(+)側通電を徐々に高くしてゆくと、電磁コイル54による磁力線が永久磁石59による磁力線に加わり、加算された磁力線により生成された磁場に応じてMR流体層53の粘性が高くなってゆくことにより、MR流体クラッチ5を介して伝達されるトルクも上昇する。
したがって、電磁コイル54への(+)側通電を徐々に高くしてゆくと、MR流体クラッチ5を介したトルク伝達容量を上乗せすることができる(
図5のトルク上乗せ区間)。
【0051】
更に、電磁コイル54への(-)側通電を徐々に高くしてゆくと、電磁コイル54による磁力線が永久磁石59による磁力線とは反対方向に発生し、減算された磁力線により生成された磁場に応じてMR流体層53の粘性が低くなってゆくことによりMR流体クラッチ5を介して伝達されるトルクも低下してゆく。そして、電磁コイル54による磁力線の絶対値を、永久磁石59による磁力線と一致させる(-)側通電を行うと、2つの磁力線が互いに相殺され、MR流体クラッチ5はロックアップ開放状態となる。
したがって、電磁コイル54への(-)側通電を徐々に高くしてゆくと、MR流体クラッチ5を介したトルク伝達容量を減少することができると共に(
図5のトルク減少区間)、MR流体クラッチ5をロックアップ開放とすることができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
次に、効果を説明する。
実施例2のロックアップクラッチ付きトルクコンバータA2にあっては、実施例1の(1)〜(5)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0053】
(6) 前記磁気粘性流体層(MR流体層53)の径方向内側位置に、前記磁気粘性流体層(MR流体層53)に対し所定の磁場を生成する永久磁石59を、前記電磁コイル54とともに配置した。
このため、電磁コイル54への通電をゼロにしても、MR流体クラッチ5を介したトルク伝達を確保するノーマルクローズのMR流体クラッチ5とすることができる。
【0054】
(7) 前記電磁コイル54に、コイル電流の流れ方向とコイル電流の大きさを制御するクラッチ制御回路60を接続した。
このため、(6)の効果に加え、MR流体クラッチ5によるロックアップ開放機能を得ることができると共に、MR流体クラッチ5を介したトルク伝達容量の上乗せ機能と減少機能を達成することができる。
【0055】
以上、本発明のロックアップクラッチ付きトルクコンバータを実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0056】
実施例1,2では、MR流体クラッチ5として、MR流体層53がコンバータ回転軸CLに直交する面に沿って6層延在する例を示した。しかし、MR流体クラッチとしては、MR流体層がコンバータ回転軸に直交する面に沿って6層以外の層(1層〜5層、7層以上)延在する例であっても良い。また、MR流体層がコンバータ回転軸を中心とする円筒形の面に沿って単一層或いは多層延在する例であっても良い。
【0057】
実施例1,2では、MR流体クラッチ5の第1ディスク51を第1フランジ部57に設け、MR流体クラッチ5の第2ディスク52を第2フランジ部58に設け、径方向のサイズの大型化を回避する例を示した。しかし、径方向サイズの大型化が問われない場合、MR流体クラッチを、ポンプインペラーやタービンランナーの外径位置にする例であっても良い。
【0058】
実施例1,2では、コンバータカバー7の一部にヨーク部55を一体に設ける例を示した。しかし、コンバータカバーとヨーク部を、それぞれ別体に設ける例であっても良い。
【0059】
実施例1では、本発明のロックアップクラッチ付きトルクコンバータを、油圧システムを持たない電動車両(ハイブリッド車、電気自動車等)に適用する例を示した。しかし、本発明のロックアップクラッチ付きトルクコンバータは、電動車両に限らず、エンジン車等の他の車両に対しても適用することもできる。