特許第6338964号(P6338964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6338964-腐食防止方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338964
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】腐食防止方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20180528BHJP
   C25F 3/24 20060101ALI20180528BHJP
   C25F 3/20 20060101ALI20180528BHJP
   C25F 3/16 20060101ALI20180528BHJP
   C23F 1/00 20060101ALI20180528BHJP
   C23C 22/82 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C23C22/34
   C25F3/24
   C25F3/20
   C25F3/16 D
   C23F1/00 101
   C23C22/82
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-160959(P2014-160959)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-37629(P2016-37629A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501138046
【氏名又は名称】有限会社コンタミネーション・コントロール・サービス
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 豊彦
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221512(JP,A)
【文献】 特開昭51−057644(JP,A)
【文献】 特開平01−123082(JP,A)
【文献】 特開平05−033156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
C25F 1/00−7/02
C23F 1/00−4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼金属製品もしくはアルミ金属製品を化学的研磨処理する化学的研磨処理工程と、
前記化学的研磨処理工程によって化学的研磨処理が施された金属製品を、3%のフッ酸水溶液に常温(25℃)で5分間浸漬することでフッ酸処理するフッ酸処理工程と、
前記フッ酸処理工程によってフッ酸処理された金属製品を150℃〜450℃の加熱雰囲気中に30分〜2時間晒すことで、前記金属製品に加熱処理を施す加熱処理工程とを具備することを特徴とする腐食防止方法。
【請求項2】
前記化学的研磨処理工程が電解研磨である請求項1記載の腐食防止方法
【請求項3】
前記化学的研磨処理工程が化学研磨である請求項1記載に腐食防止方法
【請求項4】
前記化学的研磨処理が電解複合研磨である請求項1記載の腐食防止方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばステンレス鋼、鉄、アルミニウム、銅、Ni、モリブデン、ハステロイ、チタン等の金属の腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平5−263278号公報)は、ステンレス鋼板を機械研磨したときに低下する耐食性を母材の選択及び研磨後の酸洗によって回復し、表面外観及び耐食性の双方に優れたステンレス鋼板を得ることを目的としたもので、低O含有量及び低S含有量でCrよりも酸素親和力の大きなV、Ti、Zr、Ca、希土類元素糖の易酸化性元素を1種以上含有させたステンレス鋼板を、100番以上の番手の研磨ベルトを使用して機械研磨した後、硝酸系の酸洗液又は硝酸−フッ酸系の混合酸洗液を使用した酸洗によって前記機械研磨の際に生じた酸化皮膜を除去すると共に不導態皮膜を前記ステンレス鋼板の表面に形成するCr含有ステンレス鋼板の表面仕上げ方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−263278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ステンレス鋼の耐食性はステンレス鋼表面に形成されている不動態被膜によって維持されるものであるが、機械研磨によって不動態被膜が破壊されると耐食性が低下することが開示されている。このため、機械研磨後のステンレス鋼の表面を酸洗することによって不動態被膜を形成するようにしたものであるが、これによって形成されたステンレス鋼においても、過酷な腐食条件、たとえばF、HF、ClF、塩水等に晒された場合には、腐食する可能性が大きいという不具合が生じる。
【0005】
したがって、本発明は、過酷な腐食条件にも耐える腐食防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る腐食防止方法は、金属製品を化学的研磨処理する化学的研磨処理工程と、前記化学的研磨処理が施された金属製品をフッ酸処理するフッ酸処理工程とを具備するものである。尚、金属としては、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、銅、Ni、モリブデン、ハステロイ、チタン等であること、特にステンレス鋼であることが望ましい。これによって、過酷な腐食条件にも耐えうる金属表面をえることができるものである。
【0007】
前記化学的研磨処理工程は、前記金属製品を、電解研磨処理あるいは化学研磨処理あるいは電解複合研磨処理を行う。
【0008】
前記フッ酸処理工程は、化学的研磨処理された金属製品を、所定の濃度(たとえば0.5〜5%の濃度、特に1〜3%の濃度)のフッ酸(HF)水溶液に、常温(15℃〜30℃)で、所定の時間(たとえば3分〜10分)浸漬することによって実施されることが望ましい。フッ酸処理はフッ素イオンが含有されればHFに限らない。例えばフッ化アンモニウム水溶液などでも構わない。
【0009】
さらに本発明では、前記フッ酸処理工程によってフッ酸処理された金属製品に加熱処理を施す加熱処理工程をさらに具備することが望ましい。これによって、さらに耐腐食性を向上させることができるものである。
【0010】
前記加熱処理工程は、フッ酸処理された金属製品を、所定の温度(たとえば、150℃〜450℃)の加熱雰囲気中に、所定時間(たとえば30分〜2時間)晒すことによって実施されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属製品に、化学的研磨処理及びフッ酸処理を施すことによって、耐食性のある金属表面が得られるものである。この金属表面は過酷な腐食条件(F、HF、ClF、塩水等)にも耐えるものである。さらに、加熱処理を行うことによって、耐食性をさらに向上させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係る腐食防止方法を示したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の腐食防止方法は、たとえば図1に示すように、金属製品を化学的研磨処理する化学的研磨処理工程100と、前記化学的研磨処理工程100によって化学的研磨処理が施された金属製品をフッ酸処理するフッ酸処理工程200とを具備するものである。
【0014】
さらに本発明の腐食防止方法では、前記フッ酸処理工程200によってフッ酸処理された金属製品に加熱処理を施す加熱処理工程300をさらに具備するものである。尚、金属としては、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、銅、Ni、モリブデン、ハステロイ、チタン等があり、特にステンレス鋼であることが望ましい。これによって、過酷な腐食条件にも耐えうる金属表面をえることができるものである。
【実施例1】
【0015】
下記する表1において、発明試料1,2,3では、金属製品SUS316Lφ30×3t(ステンレス鋼))を使用した。
【0016】
前記処理工程100は、前記金属製品を、化学的研磨処理として電解研磨、化学研磨、あるいは電解複合研磨のいずれかを施すものである。
【0017】
前記フッ酸処理工程200は、化学的研磨処理された金属製品を、3%のフッ酸(HF)水溶液に、常温(25℃)で、5分間浸漬することによって実施される。
【0018】
前記加熱処理工程300は、化学的研磨処理及びフッ酸処理された金属製品を、300℃加熱雰囲気中に、1時間晒すことによって実施されるものである。
【0019】
表1で示されるように、発明試料1−1は、前記金属製品に化学的研磨処理工程100として電解研磨が実施され、その後フッ酸処理工程200が実施されて得られたものである。この発明試料1−1は、前述した加熱処理工程300は実施されなかった。この発明試料1−1は、その耐腐食性を実証するために、濃度25%のフッ酸水溶液に3時間暴露される検査(以下、実証実験)が行われた。この結果は目視によって確認され、良好な結果(〇)が得られた。
【0020】
発明試料1−2は、化学的研磨処理工程100として電解研磨が実施され、その後フッ酸処理工程200が実施され、その後に加熱処理工程300が施されて得られたものである。この発明試料1−2は、上述した実証実験において、さらに最高の結果(◎)が得られた。
【0021】
発明試料2−1は、前記金属製品に化学的研磨処理工程100として化学研磨が施され、その後フッ酸処理工程200が実施されて得られたものである。この発明試料2−1には、前述した加熱処理工程300は実施されなかった。この発明試料2−1は、上述した実証実験において、良好な結果(〇)が得られた。
【0022】
発明試料2−2は、前記金属製品に化学的研磨処理工程100として化学研磨が施され、フッ酸処理工程200が実施された後、さらに加熱処理工程300が実施されて得られたものである。この発明試料2−2は、上述した実証実験において、さらに最高の結果(◎)が得られた。
【0023】
発明試料3−1は、前記金属製品に化学的研磨処理工程100として電解複合研磨が実施され、その後フッ酸処理工程200が実施されて得られたものである。この発明試料3−1には、前述した加熱処理工程300は実施されなかった。この発明試料3−1は、上述した実証実験において、良好な結果(〇)が得られた。
【0024】
発明試料3−2は、前記金属製品に化学的研磨処理工程100として電解複合研磨が実施され、フッ酸処理工程200が実施された後、加熱処理工程300が実施されて得られたものである。この発明試料3−2は、上述した実証実験において、さらに最高の結果(◎)が得られた。
【0025】
【表1】
【0026】
表2で示される比較試料1−1は、発明試料1において用いられた金属製品に、フッ酸処理工程200のみを実施して得られたものである。これについて実証実験を行った結果、その効果は認められなかった(×)。このことから、化学的研磨処理工程100及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0027】
比較試料1−2は、発明試料1において用いられた金属製品について、フッ酸処理工程200及び加熱処理300が施されて得られたものである。これについて実証実験を行った結果、その効果は認められなかった(×)。このことから、化学的研磨処理工程100がない場合には効果がないことがわかった。
【0028】
比較試料1−3は、発明試料1において用いられた金属製品について、化学的研磨処理工程100として電解研磨のみが実施されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験の結果において効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0029】
比較試料1−4は、発明試料1において用いられた金属製品について、化学的研磨処理工程100として電解研磨及び加熱処理工程300が実行されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200がない場合には効果がないことがわかった。
【0030】
比較試料2−1は、発明試料2において用いられた金属製品について、化学的研磨処理工程100として化学研磨のみが実施されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0031】
比較試料2−2は、発明試料2において用いられた金属製品について、化学的研磨処理工程100として化学研磨及び加熱処理工程300が施されて得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200がない場合には効果がないことがわかった。
【0032】
比較試料3−1は、発明試料3において用いられた金属製品について、化学的研磨処理工程100として電解複合研磨のみが実施された得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0033】
比較試料3−2は、発明試料3において用いられた金属製品について、化学的研磨処理工程100として複合電解研磨及び加熱処理工程300が施された得られたものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200がない場合には効果がないことがわかった。
【0034】
【表2】
【0035】
以上のことから、金属製品に化学的研磨処理工程100及びフッ酸処理工程200を施した製品では、過酷な腐食条件においても良好な耐腐食性が得られるものであり、さらに加熱処理工程300が施されることによって最高の耐腐食性が得られるものである。
【実施例2】
【0036】
下記する表3において、発明試料4では、基材としてアルミ5052(以下、アルミ金属製品)を使用した。
【0037】
実施例2において、前記化学的研磨処理工程100は、前記アルミ金属製品を、化学研磨処理した。
【0038】
前記フッ酸処理工程200は、化学的研磨処理されたアルミ金属製品を、3%のフッ酸(HF)水溶液に、常温(25℃)で、5分浸漬することによって実施される。
【0039】
前記加熱処理工程300は、化学的研磨処理及びフッ酸処理されたアルミ金属製品を、300℃の加熱雰囲気中に、1時間晒すことによって実施されるものである。
【0040】
発明試料4−1は、アルミ金属製品に、化学的研磨処理工程100として化学研磨が施され、その後フッ酸処理工程200が実施されて得られたものである。この発明試料4−1には、前述した加熱処理工程300は実施されなかった。この発明試料4−1は、その耐腐食性を実証するために、濃度5%のフッ酸水溶液に1時間暴露される検査(以下、実証実験)が実施される。この結果は目視によって確認され、良好な結果(〇)が得られた。
【0041】
発明試料4−2は、化学的研磨処理工程100として化学研磨が実施され、その後フッ酸処理工程200が施され、その後に加熱処理工程300が施されて得られるものである。この発明試料4−2は、上述した実証実験において、さらに最高の結果(◎)が得られた。
【0042】
比較試料4−1は、発明試料4において用いられたアルミ金属製品について、フッ酸処理工程200のみを実施して得られるものである。この製品について上述した実証実験を行った結果、その効果は認められなかった(×)。このことから、化学的研磨処理工程100及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0043】
比較試料4−2は、発明試料4において用いられたアルミ金属製品について、フッ酸処理工程200及び加熱処理300が施されて得られたものであり、上述した実証実験を行った。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、化学的研磨処理工程100がない場合には効果がないことがわかった。
【0044】
比較試料4−3は、発明試料4において用いられたアルミ金属製品について、化学的研磨処理工程100として化学研磨のみが実施されて得られたものであり、これについて、上述した実証実験が行われた。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200及び加熱処理工程300がない場合には効果がないことがわかった。
【0045】
比較試料4−4は、発明試料4において用いられたアルミ金属製品について、化学的研磨処理工程100として化学研磨及び加熱処理工程300が実施されて得られるものであり、これについて、実証実験が行われた。この実証実験において、その効果は認められなかった(×)。このことから、フッ酸処理工程200がない場合には効果がないことがわかった。
【0046】
【表3】
【0047】
このように、アルミ金属製品においても、化学的研磨処理工程100及びフッ酸処理工程200を施した製品では、過酷な腐食条件においても良好な耐腐食性が得られるものであり、さらに加熱処理工程300が施されることによって最高の耐腐食性が得られるものである。
図1