(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の方向から入射する光、及び前記第2の方向から入射する光に基づいて、前記生体情報の二枚の画像を作成し、前記二枚の画像を用いて前記生体情報の立体像を形成することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の個人認証装置。
前記第1の波長の光赤外光であり、前記認証対象から静脈に関する生体情報光を取得し、前記第2の波長の光は可視光であり、前記認証対象から静脈に関する生体情報光とは異なる生体情報光を取得することを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の個人認証装置。
前記照明用ホログラフィック光学素子、前記撮像用ホログラフィック光学素子、前記導光用ホログラフィック光学素子の少なくとも一つは、前記ステージの裏側に配置されたホログラムシートにおいて形成されることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の個人認証装置。
前記照明用ホログラフィック光学素子は、前記光源からの光を、前記ステージの法線に対して45°以上の角度で前記認証対象に照射することを特徴とする請求項1乃至13の何れか1項に記載の個人認証装置。
前記認証対象における生体情報は、指の静脈、指の指紋、手のひらの静脈、手の甲の静脈、目の網膜、又は目の虹彩であることを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の個人認証装置。
前記照明用ホログラフィック光学素子、前記撮像用ホログラフィック光学素子又は前記導光用ホログラフィック光学素子は、前記光源の光とは異なった波長を有する参照光及び物体光を照射して作製され、前記光源と同じ波長の光を照射すると所定の角度の光を生じることを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項に記載の個人認証装置。
前記照明用ホログラフィック光学素子、前記撮像用ホログラフィック光学素子又は前記導光用ホログラフィック光学素子は、緑色レーザーによる参照光及び物体光を緑色系感光材料に照射して作製され、近赤外光を照射すると所定の角度の光を生じることを特徴とする請求項16に記載の個人認証装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[本発明の概要]
本発明は、認証対象における生体情報に基づいて本人確認をする個人認証装置であって、ホログラフィック光学素子(Holographic Optical Element:以下、単に「HOE」と記載することもある)を利用することによって、認証対象を配置するステージの表面に光源などの突起物を設けることなく、薄型化を実現したものである。なお、本明細書は、以下指の静脈を一例として説明するが、指の静脈だけでなく、例えば、手のひらの静脈、手の甲の静脈にも使用でき、指紋、虹彩、網膜、顔、手、耳などの形状、パターン、各種の特徴などの様々な生体情報にも適用することができる。
【0023】
ホログラフィック光学素子は、所定の光学特性を具備したホログラムが記録された光学部材であり、硬質、軟質又はフレキシブルの基板上に感光材料が塗布され、感光材料に所定の光学特性のホログラムが記録されている。ホログラムは、二つの光(一般的には物体光と参照光と呼ばれる)の干渉パターンを記録したものであり、一方の光をホログラムに照射することによって他方の光を回折によって再生することができる。また、記録する際の二つの光の向きによって、反射型(二つの光がホログラムに対して反対の面から入射)とすることも透過型(二つの光がホログラムに対して同一面側から入射)とすることもできる。このため、一方の光として特定の角度範囲の光を選択し、他方の光として必要な所定方向の光を選択することにより、特定の角度範囲の光が照射された際に、所定方向の反射光又は透過光を再生させることができ、角度選択性を持たせることができる。また、一方の光の入射角と他方の光の入射角を異ならせることで、屈折性を持たせることもできる。さらに、一方の光の進行方向と他方の光の進行方向とを異ならせること、例えば方位角において異ならせれば、偏向性を持たせることもできる。さらに、ホログラムは、同一の位置に異なる性質のホログラムを多重記録することもでき、例えば、同一の位置において、角度選択性の角度範囲が異なる複数のホログラムを多重記録させたり、透過型のホログラムと反射型のホログラムとを多重記録させたりすることもできるのである。なお、ホログラムは、その回折効率に応じて回折する光の強度が異なる。
【0024】
本発明の個人認証装置(以下、
図1又は
図2参照)は、少なくとも、認証対象を配置するステージ2と、認証対象10の生体情報12を撮像する撮像手段4と、光を供給する光源5と、光源5からの光を認証対象に照射する照明用ホログラフィック光学素子(照明用HOE)31と、認証対象からの光(以下、「生体情報光」という)53を撮像手段4に集光させる撮像用ホログラフィック光学素子(撮像用HOE)32と、を備える。なお、本発明の個人認証装置は、撮像用HOE32の代わりに生体情報光53を導光体(例えばステージ)によって所定の位置まで導光させる導光用ホログラフィック光学素子(導光用HOE)を設けてもよく、これに加えて、導光用HOEによって伝搬された光を撮像手段4に集光させる撮像用HOEを設けてもよい(
図7参照)。
【0025】
照明用HOE31は、光源からの光を受け、ステージ2の表側に配置される認証対象に照明用の光を照射可能な位置に設けられる。照明用HOE31は、ステージ2の裏側又は表側において、認証対象の対向する位置の左右(離間していてもよい)に配置されることが好ましい。
【0026】
撮像用HOE32は、生体情報光の少なくとも一部を受け、撮像手段4に集光可能な位置に設けられる。撮像用HOE32は、ステージ2の裏側又は表側において、認証対象の対向する位置に配置されることが好ましい。
【0027】
照明用HOE31及び撮像用HOE32は、ステージ2よりも裏側に配置されると環境的に安定となり好ましいが、ステージによる光の屈折等の影響を避けるため、ステージ2の表側に配置してもよい。また、照明用HOE31及び撮像用HOE32は、一つのホログラフィック光学素子として形成することが好ましいが、個々に独立して設けてもよい。また、照明用HOE31をステージ2の一方の側、撮像用HOE32をステージ2の他方の側に配置してもよいし、必要であれば照明用HOE31及び撮像用HOE32はステージ2の両側に設けてもよい。
【0028】
撮像手段4及び光源5は、ステージ2よりも裏側に配置されることが好ましいが、例えば
図6に示すように、光源5をステージ2の端部又は内部に配置してもよいし、導光体によって生体情報光を伝搬させる場合には、撮像手段4及び光源5は、必ずしもステージ2の裏側に限定されない。
【0029】
このように、本発明の個人認証装置は、ステージ2の上に装置の厚みを増すような突起物を設けずに、略平坦な面でステージ2を構成することができるので好ましい。これによって、ステージ上に突起物のない平坦な構造を実現し、装置をコンパクトにすることができる。ただし、これに限定されず、ステージ2の一部に、認証対象を載置するための緩やかな窪みを設けてもよいし、補助的な光源として、微細なLEDをステージ上に設けたり、指を載置する位置を示す点字などを設けたりしてもよい。
【0030】
本発明の個人認証装置は、認証機能を必要とする各種装置(現金自動預け払い機、自動取引装置、自動窓口機など)に適用することができ、入退室管理システムの一部としてドア近傍の壁面に垂直に配置することもできる。また、パーソナルコンピュータ、各種携帯情報端末装置(多機能携帯電話装置、PDA(Personal Digital Assistant)、タブレット端末などを含む)、自動車などに取付け又は組み込んでもよい。
【0031】
本発明では、光源5、照明用HOE31及び撮像用HOE32の数量、配置を任意に設定することができる。照明用HOE31は、ホログラムの光学特性(角度選択性、回折効率、波長選択性など)を利用して、照明光52の角度及び方位を適宜設定することができる。撮像用HOE32も、同様に、認証対象からの生体情報光53を受け入れる角度及び方位、並びに撮像手段4への集束光55の角度及び方位を適宜設定することができる。
【0032】
撮像用HOE32によって、生体情報光のうち、少なくとも二方向からの光(例えば、
図2の符号53R、53L)をそれぞれ撮像手段4の異なる領域に集光させるように構成すれば、認証対象について観察方向の異なる複数の画像を取得することができ、例えば、視差を有するいわゆるステレオ画像を取得することもできる。また、適当な画像処理手段を用い、必要に応じて、これらのステレオ画像から認証対象における生体情報の立体画像を構成してもよい。登録画像を立体像とし、認証時に撮像した画像も同様に立体像に構成すれば、より精度の高い認証を実施することができる。
【0033】
なお、本発明の個人認証装置において、X軸方向の寸法を長さ、Y軸方向の寸法を幅、Z軸方向の寸法を厚さという。長さ(X)×幅(Y)で規定される平面に垂直な線を法線Nという。また、+Zの向きを表側、−Zの向きを裏側という。そして、+Yの向きを右側、−Yの向き方向を左側、−Xの向きを上側、+Xの向きを下側という。本明細書では、光の角度とは、特に断らない限り、光の進行方向と法線N(Z軸)とのなす角をいう。方位とは、XY平面に投射した際のX軸とのなす角をいう。
【0034】
認証対象は、ステージ2の表側の照明用HOE31によって照明が照射される所定の空間(以下、「認証可能空間」とも呼ぶ)に配置されれば足り、認証対象がステージに接触した状態でも、ステージから離間し、非接触の状態でもよい。ステージに非接触な状態で認証可能なことは、指や手が直接ステージに触れないので、認証を求める利用者にとって、心理的な抵抗が少なく、また衛生的でもある。上記のとおり、光源及びHOEの数量及び配置、並びにHOEによる光の回折を適宜設定することによって、ステージの表側に比較的広い認証可能空間を実現することができる。このため、指だけでなく、手のひらなどの比較的大きなものも認証対象とすることができる。
【0035】
また、HOEは比較的自由に形状や大きさを設計することができるので、ステージは曲面を有する形状に構成することもできる。装置の使用態様に応じて、ステージを含む外観は自由に設計してよい。また、本発明の個人認証装置は、外気、湿気、紫外線、水分、化学薬品などを遮断できるように、ステージを構成する部材と一体となった密閉の筺体(図示省略)を有することが好ましい。
【0036】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下は、認証対象として指の腹を装置のステージ2中央に装置の長さ方向に沿って指を配置して指の静脈のパターンを撮像する場合の例である。ただし、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0037】
[装置構成]
図1は、本実施形態の個人認証装置の概略構成図である。
図2及び
図3は、各々、
図1に示した本個人認証装置をX軸方向から観た断面図及びY軸方向から観た断面図である。本個人認証装置は、認証対象が配置される表側から順に、ステージ2、ホログラムシート3、電子基板部8を備える。ステージ2とホログラムシート3は、密着していてもよいし、適当な間隔をもって設けられてもよい。ステージ2とホログラムシート3とが一体に構成される場合は、これらをまとめてホログラムプレート30ということもある。
図1では、説明のため、ホログラムシート3と電子基板8とは離隔した状態で図示されているが、実際の装置ではその間隔はおおよそ10mm以下に設定してもよく、
図2又は
図3に示すように薄型化を実現している。
【0038】
ステージ2は、筺体の少なくとも表面の一部を覆う部材であり、ガラス又は樹脂から構成されることが好ましい。ステージ2には、照明光を照射するための照明用窓21L、21R、及び、認証時において認証対象からの光(生体情報光)を通過させるための撮像用窓22が設けられてもよい。ステージ2の各窓以外の部分には外光を遮断する遮光層24が設けられるのが好ましい。ただし、上記は一例であって、これに限定されない。ステージ2は、少なくとも一部又は全部が照明光及び生体情報光の波長(例えば、830〜890nm)において透光性を有していればよい。
図1では、左右の2個の照明用窓21L、21R及び1個の撮像用窓が図示されているが、各窓(透光性を有する領域)の数量及び配置は、装置の形態に応じて適宜設定することができる。また、各窓及び遮光層24の代わりにホログラムシートに遮光マスクを形成してもよい。なお、指10は、撮像用窓22に対向するようにステージ2の表側に配置される。
【0039】
ホログラムシート3は、ホログラム記録用の感光材料を含むフィルム状のシートであり、照明用窓21及び撮像用窓22に対応する領域には、各々、透過型の照明用HOE31及び撮像用HOE32が形成される。各HOEは、所定の光学特性(角度選択性、回折効率、波長選択性など)を有するホログラムであり、設定された角度及び方位に光を出射する機能を有する。照明用HOE31及び撮像用HOE32が形成される領域以外は、外光を透過させない遮光マスクを形成することが好ましい。また、外光にも撮像に使用する近赤外の波長に近い光が含まれていることがあり、この光がノイズとなって認証率を低下させる虞がある。このため、撮像用HOE32は、所定の波長以外の成分を遮断するフィルタリング機能を有することが好ましい。これによって、撮像手段に狭帯域フィルタを設けるのに比べて低コストで装置を製造することができる。また、ホログラムシート3は、ステージ2の裏面等に貼付されていてもよい。なお、
図2には、ホログラムシート3の一部にHOE31、32を形成する例を示したが、これに限定されない。例えば、所定の大きさの各HOEを個々に作製し、適宜の位置に配置してもよいし、ステージ2裏面に感光材料を塗布してホログラムを記録することで各HOEを作製してもよい。
【0040】
電子基板8には、照明用HOE31及び撮像用HOE32に対応する位置に、撮像手段4及び光源5が配置される。
図1〜
図3では、左右に照明用HOE31L、31R及び光源5L、5Rを、中央に撮像用HOE32及び撮像手段4を配置した例を示したが、これに限定されない。各構成要素の数量及び配置は、装置の形態に応じて適宜設定することができる。
【0041】
撮像手段4は、入射した光を電気信号に変換するセンサであり、生体情報光を取得して認証対象10における生体情報12の画像を撮像する。撮像手段4は所定の大きさの撮像面40を有する。撮像手段4には、CMOS(Complementary Metal−oxide Semiconductor)センサ、CCD(CCD:Charge Coupled Device)センサ等を使用することができる。撮像面40は、生体情報光のうち第1の方向に生じた光(例えば、53R)、及び第1の方向とは異なる第2の方向に生じた光(例えば、53L)を受光するために、二つの領域(40L、40R)に分割されてもよい。ただし、第1の方向の光と第2の方向の光を受光するため、撮像手段を二つ配置してもよい。撮像面の表側には、入射した光を平行な光に変換するためのコリメート用HOE42を設けてもよい。これによって、コリメート用の光学レンズを設けなくてもよいので、装置の構造が簡単となり、薄型化を実現できる。
【0042】
光源5は、認証対象における生体情報の画像を撮像するための照明を供給する。例えば、LED(Light Emitting Diode)、レーザーなどを使用することができる。生体情報として静脈の撮像する場合は、血液中のヘモグロビン成分に対する吸収率が高い近赤外領域(700〜2500nm、特に好ましくは830〜890nm)の波長を有する光を照射可能な光源であることが好ましい。近赤外の光源を使用すると、静脈部分は周囲の組織よりも光を吸収するため、指静脈が暗い影のパターンとして撮像される。
【0043】
また、本個人認証装置は、各種構成要素に電力を供給する電源、各種構成要素を制御する制御手段(画像処理手段、認証処理手段などを含む)、撮像した画像を格納する記憶手段、表示部(例えば、液晶ディスプレイなど)、入力部(例えば、キーボードなど)、外部装置(ストレージシステム)などと接続するためのインターフェース、音声入出部(スピーカ、マイクなど)を備えてもよい(図示省略)。
【0044】
以下、
図2(及び
図3)を用いて、本実施形態の個人認証装置の動作について説明する。電子基板8の左側に配置された光源(左)5Lを例にとると、光源(左)5Lから発せられた光束51Lは、照明用HOE(左)31Lに入射する。照明用HOE(左)31Lは、ホログラムの回折作用によって、入射した光束51Lの進行方向を変え、光束52Lを照射角度θ
1で照明光として認証対象に照射する。光束52Lは、平行光であってもよいし、拡散又は集束する光であってもよい(以下、簡単のため、光束について単に光と記載する)。
【0045】
ここで、照明光の照射角度θ
1とは、ステージ2の法線Nと光の方向とのなす角であり、HOEの作製時に設定されるものである。
図2では、簡単のため、照明用HOE31が光源5からの光を照射角度θ
1で回折透過するように示されているが、実際は、照明用HOE31を出射した光は、ステージ2の屈折率によってステージ2の表面でさらに屈折する。照明用HOE31は、ステージ2の表面における屈折角を含めて、認証対象に対し所望の照射角度θ
1を得られるように設定すればよい。以下、特に断わらない限り、単に、照明用HOE31が照射角度θ
1で光を照射すると記載するが、照射角度θ
1はステージ表面などで屈折する角度も含むものとする。
【0046】
本発明者らは、照射角度θ
1について、先の実験により、45°以上が好ましく、60°以上がさらに好ましく、75°が最も好ましいことを見出した。照射角度θ
1がおおむね75°程度までであれば、照明用HOE31からの光が平行光の場合であっても、認証対象10のステージ近傍だけではなく、側面にもある程度光を照射することができ好ましい。なお、簡単のため、
図2では、照明用HOE31は、YZ平面内で光を照射しているが、光源5からの光をYZ平面とは異なる方向(異なる方位)に偏向させてもよい。
【0047】
本発明者らの実験では、仮想的な点光源として近赤外LED(890nm)を用い、かかる近赤外LEDを認証対象である指の側面から70mm離して配置し、CCDカメラを指の下面から70mm離して配置し、照射角度θ
1と認証率の関係について検討した。具体的には、照射角度θ
1を30〜90°まで15°毎に変更して、被験者5名の4指をそれぞれ10枚ずつ、合計200枚撮像した。撮像した画像とあらかじめ登録された被験者本人の登録画像とを比較し、認証率を計測した。認証率とは、他人受け入れ率と本人拒否率から求められる平均誤り率を100%から減じたものである。
【0048】
かかる実験によれば、照射角度30°で97.13%、照射角度45°で98.10%、照射角度60°で98.18%、照射角度75°で98.82%、照射角度90°で98.02%の認証率が得られた。これらの結果により、照射角度θは、45°以上が好ましく、60°以上がさらに好ましく、75°が最も好ましいことが分かった
従来の光学部材では、反射式の認証装置において、大きな照射角度(例えば、60°以上)を実現するのは困難であった。本発明によれば、HOEの作用によって比較的大きな照射角度も適宜設定できる。これによって、本個人認証装置は、従来の反射式の装置とは異なって、指の皮膚の表面で直接反射した反射光を撮像してしまう虞が少ないため、静脈パターンを鮮明に撮像することができる。
【0049】
なお、装置の外部から到達する外光の大部分は、照明用HOE31及び撮像用HOE32に記録された干渉縞では回折しないため、外光は、照明用HOE31及び撮像用HOE32によって偏向されない。このため、例えば、照射光52Lと同じ光路を反対に進む外光は、進路を変えずに透過し、装置の外側に向かうので、撮像手段4に対するノイズとなりにくい。
【0050】
再び
図2の説明に戻ると、照明光52Lは、例えば、左斜め裏側から認証対象の左側面を照射し、その光は、指の内部の各種組織に到達して散乱する。撮像用HOE(左)32Lは、指の内部で散乱した光のうち、第1の方向から入射する光(例えば、生体情報光53R)を回折透過させて、撮像手段4の撮像面(右)40Rに集光させる。撮像用HOE(右)32Rは、指の内部で散乱した光のうち、第2の方向から入射する光(例えば、生体情報光53L)を回折透過させて、撮像手段4の撮像面(左)40Lに集光させる。光源(右)5Rから発せられた光束51Rが撮像手段4に到達する様子も同様である。
【0051】
これによって、撮像手段4は、異なる二方向から観た認証対象の生体情報の画像を取得することができる。説明のため、
図2では、第1の方向は、右斜め上から左斜め下に向かう方向、第2の方向は、左斜め上から右斜め下に向かう方向としているが、これは単なる例示である。異なる二つ以上の方向を適宜規定すればよく、これによって、異なる方向から観た二つ以上の画像を取得することができる。なお、本例では、左右の視差を有するステレオ画像を左右に分割された撮像面で同時に撮像しているが、これに限定されない。図示しない制御手段が左右の光源5の照射タイミング及び撮像タイミングを適宜制御して、別々に左右のステレオを取得してもよい。
【0052】
また、本例では、
図3に示すように、照明用HOE31を介して照射される照明光52、及び撮像用HOE32が受け入れる生体情報光53は、YZ平面に平行に設定されているが、これに限定されない。照明光52及び生体情報光53は、装置の使用態様に応じて、Z軸の周りに所定の方位角をもって設定されてもよい。
【0053】
[認証処理]
以下、本個人認証装置による認証の処理について簡単に説明する。登録時において、利用者は、あらかじめ所定の手順に従って、例えば、自己の指静脈パターンを登録しておく。個人認証装置は、登録画像を内蔵の又は接続された外部の記憶手段(データベースなどを含む)に格納してもよい。登録画像は、指静脈パターンを異なる方向から観た少なくとも2枚以上を含むことが好ましい。なお、登録時に使用する装置は、認証時に使用する個人認証装置とは別の装置であってもよい。
【0054】
認証時において、認証を要求する利用者は自己の指を装置の所定の領域(例えば、撮像用窓22)に配置する。認証対象である指は、ステージに接触するように配置されてもよいし、ステージから浮かせた状態で配置されてもよい。個人認証装置は、光源を作動させ、指に対して照明光を当てる。この照明光は、指の内部で様々な方向に散乱する。撮像手段は、所定の方向から到達した生体情報光を受けて指静脈パターンの画像を撮像する。個人認証装置は、取得した画像を記憶手段に格納してもよい。次いで、認証処理手段は、登録画像と撮像した画像とを比較し、各画像間の相関、類似度などを算出し、認証の成否を判定する(一定の類似度を有する場合は本人であると確認する)。認証処理に際しては、特に限定されるものではなく、例えば、テンプレートマッチング、Log-Polar変換を用いた手法(特開2007−233981号公報参照)、DPマッチング(特開2011−253365号公報参照)等のパターンマッチングに基づく照合により、指静脈の位置・回転ずれにより生じる位置ずれを補正し、高精度な認証を実現する技術を用いることができる。
【0055】
以上説明したように、本例によれば、認証対象を配置するステージがおおむね平坦であり、かつ薄型の個人認証装置を実現することができる。また、かかる個人認証装置では、照明用HOEを適宜設計することにより、認証対象の側面に対して照明光を比較的大きな照射角度で照射することができ、認証率を向上させることができる。また、撮像用HOEを適宜設計することにより、少なくとも異なる二方向から到達する認証対象からの生体情報光を撮像手段に集光することができるので、視差を有する画像を取得することができる。これにより、一方向から観た画像を用いる場合に比べて認証率を向上させることができ、必要に応じて立体像を構成することもできる。
【0056】
ところで、光源、撮像手段などの各構成要素の数量及び配置は、装置の形態に応じて適宜設定することができる。また、照明用HOE及び撮像用HOEの数量及び配置も、装置の形態に応じて適宜設定することができる。
【0057】
[変形例]
図4は、本実施形態の個人認証装置の光源及び撮像手段の配置の変形例である。
図4(A)は、光源5を4×2列に配置し、撮像手段4を撮像用HOE32の中央から+Xの向きにずらして配置した例である。撮像用HOE32は、認証対象からの生体情報光を撮像手段4に集光させる。このように撮像手段4を撮像用HOE32の位置からずらして配置(オフセット)することによって、撮像用HOE32と撮像手段4との間のZ方向の距離を増加させずに、光学的な距離を確保できる。さらに、HOEに対して大きな角度で光が入射された場合は波長に応じて回折角が大きく異なるため、波長選択性を効果的に発現させることができる。また、撮像手段4が遮光マスクの裏側に配置されるので、ステージ2の表側から入射する外光のノイズが低減され、信号対雑音比が向上し、鮮明な生体情報の画像を取得することができる。
【0058】
図4(B)は、二つの撮像手段4を用いて、一方を撮像用HOE32の中央から+Xの向きにずらして配置し、他方を−Xの向きにずらして配置した例である。この場合、例えば、撮像用HOE32の+X側の半分に入射した生体情報光は、+X側にずらして配置された撮像手段4に集光し、撮像用HOE32の−X側の半分に入射した生体情報光は、−X側にずらして配置された撮像手段4に集光するように撮像用HOE32が構成されてもよい。このように構成すると、例えば、一方の撮像手段に不具合が生じても、他方の撮像手段により画像を撮像可能であるので、個人認証装置に冗長性を持たせることができる。
【0059】
図5は、
図4(A)に示した個人認証装置の一態様について、各ホログラフィック光学素子による光路の具体的な例を示したものである。
図5(A)は個人認証装置の正面図である。ホログラムプレート30のY軸方向の略中央には撮像用HOE32が配置され、その左右には照明用HOE31L、31Rが配置される。撮像用HOE32は、Y軸方向の略中央から左の領域32Lと右の領域32Rとで回折特性が異なっており、また、照明用HOE31L、31Rも左右で回折特性が異なっている。なお、
図5においては、各回折側性はY軸中央に対して線対称となっている。
【0060】
図5(B)(C)は、それぞれ個人認証装置の左側面図及び上面図であり、光源5から供給される光の光路を示す。照明用HOE(左)31Lは、光源(左)5Lからの光を回折し、照明光52Lを認証対象の左側面に照射する。照明用HOE(右)31Rは、光源(右)5Rからの光を回折し、照明光52Rを認証対象の右側面に照射する。
【0061】
図5(D)(E)は、それぞれ個人認証装置の下面図及び中央断面を右から見た図であり、撮像手段へ集光する光の光路を示す。
図5(D)に示すように、撮像用HOE(左)31Lは、斜め右から到達する生体情報光53Rを回折させて、撮像手段4の撮像面(左)40Lに集光するような平行光54Rに偏向させる。撮像用HOE(右)31Rは、斜め左から到達する生体情報光53Lを回折させて、撮像手段4の撮像面(右)40Rに集光する平行光54Lに偏向させる。
【0062】
なお、上記の光路は、単なる一例であって、各種構成要素の配置及び大きさ、又は装置の使用態様に応じて、種々変更が可能である。
【0063】
図6は、本実施形態の個人認証装置の変形例である。
図6(A)に示す例は、ステージ2の端部に光源5を設けた個人認証装置の断面上面図であり、
図2に示した個人認証装置とは光源の配置が異なる。本変形例では、照明用HOE31は、反射型ホログラムが記録されており、導光体として機能する透明なステージ2の裏面に密着して配置される。この導光体のエッジ部分に配置された光源(左)5Lからの光は導光体を介して照明用HOE(左)31Lに入射し、所定の照射角度θ
1をもって光52Lとして認証対象の左側面に照射される。光52Lは平行光であってもよいし、拡散又は集束する光であってもよい。光源(右)5Rからの光も同様に伝搬する。
【0064】
また、
図6(B)は、撮像手段及び撮像用HOEを複数配置した個人認証装置の断面側面図である。
図6(B)では、撮像手段及び撮像用HOEをX軸方向にアレイ状に複数配置した。光源も対応するように適宜複数設ければよい。HOEは、マスターを作製すれば、それを複製することで容易に量産することができるので、撮像用HOEをアレイ状に配置した装置も比較的低コストで実現できる。また、本例の個人認証装置によれば、
図1などに示した例よりも広い認証可能空間を確保することができる。本例は、例えば、入退室管理等に用いられる壁面設置型の認証装置に適している。この個人認証装置は、例えば、利用者の身長、目、肩の高さなどを検知するセンサを搭載してもよい。認証時において、このセンサが利用者の身長などを検知すると、この個人認証装置は、認証対象(手のひらなど)が置かれる位置を予測し、その予想位置に対応する光源及び撮像手段を作動させる。また、誘導灯を点灯させることによって、利用者に手が置かれるべき位置を示してもよい。また、ホログラムシートに誘導用HOEを形成し、誘導用HOEによって認証時に立体のガイドマーク(手の位置の示すフレーム、矢印など)をステージ又は空間中に投影してもよい。これによって、利用者は、自己の体格に応じて、無理な姿勢をとったり、手首を捻ったりすることなく、最適の位置で自己の手などを装置の認証可能空間に置くことができる。また、本例の装置は、ステージがフラットでかつ比較的広い認証可能空間を確保することができるので、人間からの指示を十分に解することが困難な動物(例えば、犬、猫など)の個体認証にも適用することができる。
【0065】
[他の実施形態]
図7は、本発明の個人認証装置の他の実施形態の一例である。本実施形態では、導光体6及び導光用ホログラフィック光学素子33を利用し、認証対象10からの生体情報光53を導光用ホログラフィック光学素子33によって導光体6中を伝搬させる構成を採用している。
図7の個人認証装置において、撮像手段4は、導光用HOE33の中心軸Cから離れた位置に配置されており、
図7には、生体情報光53を撮像手段4に入射させるまでの光路が示されている。
【0066】
導光体6は、ガラス又は樹脂の平板であり、所定の閾値角度θ
thよりも大きい角度の光をその表面で反射する。屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ光が進むとき、入射角が臨界角より大きい光は境界面で全反射されることから、屈折率の大きい媒質は、臨界角を閾値角度とする導光体として使用することができる。ただし、屈折率の小さい媒質から屈折率の大きい媒質へ光が進む場合には、全反射は生じない。境界面として、ガラスの表面それ自体を使用することもでき、ガラス内の屈折率とガラス外の空気等の屈折率との比によって定まるガラスの臨界角が閾値角度となり、ガラスは、ガラス内からの光の入射角が、臨界角よりも大きい場合は全反射してガラス外には透過せず導光体として使用することができるのである。個人認証装置のステージ2がガラスや空気よりも屈折率の高い媒質であれば、臨界角を閾値角度とする導光体として利用することができる。
図7においてもステージを導光体として利用している。ただし、ステージ2とは別に、ガラス又は樹脂で構成された導光体6を設けてもよい。また、導光体として用いるステージ2又はステージ2とは別に設けられる導光体において、導光用HOE33と対向する面には、所定の閾値角度θ
thよりも大きい角度で入射する光を反射する角度選択性を有する反射膜を設けることが好ましい。なお、導光用HOE33と角度選択性を有する反射膜との間の導光体は、屈折率の高い媒質である必要はなく、導光用HOE33と角度選択性を有する反射膜とを離間させて配置し、その間の空間を導光させてもよい(この場合、導光体は空気である)。
【0067】
導光用HOE33は、
図7では反射型のホログラフィック光学素子であり、認証対象10からの生体情報光53を所定の閾値角度θ
thよりも大きい反射角度θ
2で反射させ、生体情報光54を導光体6の内部で反射を繰り返させ、導光用HOE33の中心軸Cから離れた位置に配置される撮像手段4の方向へ伝搬させる。生体情報光54は、撮像手段4の近傍に形成された撮像用HOE32(
図7では撮像手段4に対向するようにホログラムシート3に形成されている)によって、撮像手段4に結像される。ただし、本実施形態では、導光用HOE33及び導光体6によって生体情報光を伝搬させるので、撮像手段4の配置を比較的自由に設計することができ、特にスペース的に余裕がある場合は、薄型の撮像用HOE32ではなく、その他の手段によって撮像手段4に生体情報光を結像させてもよい。この点において、本実施形態では撮像用HOE32は必須の構成ではない。
【0068】
また、
図7の個人認証装置は接触検知手段9を有しており、接触検知手段9によって認証対象が所定の位置に接触したことを検知させてもよい。例えば、接触検知手段9は、認証対象が認証可能空間においてステージ2に接触したことを検知すると、図示しない制御装置に信号を送り、光源5から光を照射し、撮像手段で生体情報を撮像するよう動作させてもよい。なお、接触検知手段9としては、特に制限はなく、抵抗膜方式、静電容量方式などのタッチパネルセンサを適宜使用することが可能である。
【0069】
図7では、ステージ2を導光体6として利用し、ステージの裏側にホログラムシート3を配置したが、ホログラムシート3の裏側に導光体6を配置した場合は、導光用HOE33は、透過型のホログラフィック光学素子とすればよい。本実施形態の個人認証装置は、携帯情報端末、特に多機能携帯電話(スマートフォン、iPhone(登録商標))に適用することが好ましい。また、
図7では、撮像手段4は、平行な生体情報光を受光して、一枚の生体情報の画像を取得するように構成されているが、これに限定されない。
図7に示す個人認証装置において、導光用HOE33が生体情報光のうち第1の方向に生じた光と第2の方向に生じた光を撮像手段4の方向へ伝搬させ、撮像用HOE32が第1及び第2の方向の生体情報光を撮像手段4に集光し、撮像手段4が第1及び第2の方向の生体情報に基づいて、二枚の生体情報の画像を取得するように構成してもよい。すなわち、
図7に示す個人認証装置2も
図2に示した個人認証装置と同様に、異なる方向から観察した視差を有するステレオ画像を取得することができる。
【0070】
図8は、本発明の個人認証装置のさらに他の実施形態の一例である。本実施形態では、撮像手段4に可変焦点機構を内蔵し、可変焦点機構によって、物体側の前側焦点面45の位置をZ軸方向に変更することができ、第1の波長の光による第1の生体情報と第2の波長の光による第2の生体情報を取得することを可能とした個人認証装置について説明する。なお、第1の生体情報と第2の生体情報は、異なる生体情報(例えば、静脈と指紋、光彩と網膜等)であることが好ましいが、異なる波長の光で同じ生体情報について2重に情報を取得して精度を向上させてもよい。
図8では、第1の光源として赤外LED5L、5Rを採用し、赤外LED5L、5Rから赤外線を照射して、指の内部の静脈に関する情報を取得し、第2の光源として面光源50を採用し、面光源50から可視光を照射して、指の表面の凹凸から指紋に関する情報を取得する実施態様である。ただし、
図8では別々の光源を使用したが、一つの光源から複数の波長の光が照射される場合は、一つの光源で第1の生体情報と第2の生体情報の両方を取得することも可能である。一つの光源に含まれる複数の波長の光を利用する場合、撮像手段において所定の波長の信号強度をフィルタリングして検出すればよい。例えば、RGBのカラーフィルターが設けられた撮像手段を使用すれば、GB画素からの情報を用いて指紋の生体情報を取得し、赤外まで感度のあるR画素を用いて静脈の生体情報を取得することができる。
【0071】
図8(A)は、赤外LED5L、5Rによって静脈に関する生体情報を取得する状況を説明する図であり、基本的には既に説明した
図2と同様の動作である。つまり、光源である赤外LED5L、5Rから照射された赤外光51L、51Rは、前述したとおり、照射用HOE31L、31Rによって所定の角度に傾けられ、認証対象10に対し照明光52L、52Rが照射される。認証対象10から生成した生体情報光53は、撮像用HOE32に入射し、撮像用HOE32によって撮像手段4に結像する。ここで、撮像手段4は、指の内部の静脈を観察するため、指の内部に、前側焦点面(物体面)45が配置されるように内蔵された可変焦点機構が調整されている。
【0072】
次に、
図8(B)は、面光源50によって指紋に関する生体情報を得する状況を説明する図である。ホログラムシート3は、赤外光を回折し、可視光をあまり回折しないため、面光源50から照射された可視光は、ホログラムシート3の照射用HOE、撮像用HOEによって回折されず、認証対象10をそのまま照明する。認証対象10の表面で反射した可視光も、ホログラムシート3の影響を受けず、撮像手段4によって画像が得られる。ここで、撮像手段4は、認証対象10の表面を観察するため、指の表面に、前側焦点面(物体面)45が配置されるように内蔵された可変焦点機構が調整されている。さらに前側焦点面45の位置を適宜変更すれば、認証対象10である指の腹及び内部を撮像することができる。そして、指の表面に刻まれた指紋を取得できるのである。
【0073】
このように、本実施形態においては、撮像手段4が可変焦点機構を具備していることによって、異なる生体情報を検出することが可能となっている。しかも、ホログラムの波長選択性により、波長の異なる光が、異なる光路を経て、異なる生体情報光を生成させるのである。こうして、本実施形態の個人認証装置は、光源から供給する光の波長及び前側焦点面45の位置を変更することによって、連続的に、静脈と指紋の二種の画像を取得することができ、より高精度の認証を行うことが可能なのである。
【0074】
また、本実施形態のように、可視光の光源を有する場合は、認証処理を開始する際、ステージ2の一部、すなわち認証対象が配置されるべき位置(ここでは、導光用HOE33の位置)に可視光を照射して、認証対象の配置を案内表示することも好ましい。これによって、ステージ2上に特に物理的な目印などを設けなくても、利用者は指を配置すべき位置を容易に知ることができる。なお、可視光を表示する手段として、表示装置を利用すれば、より明確に配置すべき位置を特定することができるので好ましい。
【0075】
図9は、本個人認証装置を多機能携帯電話100に適用した例である。多機能携帯電話100は、表示画面102、カメラ104及び操作ボタン110を有しており、表示画面はタッチパネル方式である。本実施形態の多機能携帯電話100は表示画面102の領域及びカメラ104の部分を含む表面を覆うガラス基板をステージ2及び導光体6として利用した。ガラス基板(ステージ)の裏面に、照明用HOE31、導光用HOE33、撮像用HOE32が配置されており、撮像用HOE32は、導光体6と略同一の屈折率を有することが好ましい。なお、ガラス基板(ステージ)の裏側に、照明用HOE31、導光用HOE33、撮像用HOE32が形成されたホログラムシートを貼付してもよい。各HOEの配置、数量は、多機能携帯電話の構成に応じて適宜設定することができる。
【0076】
生体情報光を取得する撮像手段としては、多機能携帯電話に搭載されたカメラ104(CMOS又はCCD)を利用することができる。カメラ104は、通常、焦点を変更する可変焦点機構を有しており、
図8で説明したように、前側焦点面(物体面)45を変更することができ、複数の生体情報を取得可能であるので好ましい。
【0077】
また、多機能携帯電話100の表示画面102には、認証対象が配置されるべき位置を表示することも好ましい。従来とは異なり本発明の個人認証装置では表面に突起物が必要なくなったので、認証対象を配置する目印が必要となるが、これを表示画面102に表示させることで解決できる。
【0078】
図9では、光源からの光が照明用HOE31によって認証対象(図示せず)に照射されることによって認証対象から生成された生体情報光は、導光用HOE33によって、
図9の中心軸Cから離れた右上の位置に設けられたカメラ104まで伝搬させる。その後、撮像手段であるカメラ104に対向して設けられた撮像用HOE32によって、導光体6を伝搬してきた生体情報光を撮像手段104に結像するのである。そして、図示しない制御装置は、結像した生体情報を登録されているものと比較して、利用者の認証を行うのである。
【0079】
[ホログラフィック光学素子作製方法]
ところで、本実施形態の個人認証装置に利用するHOEは、静脈を撮像するために、近赤外のLED光源を用いて再生されるものである。したがって、本来、再生時と同様の近赤外の波長を有するレーザーを用いて作製(記録)されることが好ましい。しかしながら、本出願人の知る限り、現時点では、HOEを作製するのに適した近赤外のレーザー装置が少なく、かかる近赤外のレーザーに適する感光材料もない。
【0080】
そこで、本発明では、緑色レーザーによって感光可能な材料であって、一般的で安価な感光材料(以下、「緑色系感光材料」という)を使用して、近赤外用の照明用HOE及び撮像用HOEを作製(記録)することとした。緑色系感光材料は、例えば、光重合開始剤として、チタノセン系化合物を含むもの、又はベンゾフェノン系化合物と増感色素とを組み合わせたものが好ましい。再生時の波長とは異なる波長でHOEを作製する方法については、例えば、「久保田敏弘著、「新版ホログラフィ入門−原理と実際−」、朝倉書店、1995年11月、26−31頁」に記載されている。
【0081】
図10は、ホログラフィック光学素子を作製する装置及び方法を示す説明図である。緑色系感光材料の記録対象部分を基準点Oに合わせて配置し、基準点Oを含み、緑色系感光材料3に対して垂直な軸Nを光軸として、緑色(波長λ
o=532nm)のレーザー光源70を配置する。
【0082】
ホログラム記録時において、レーザー光源70から照射された緑色レーザー光60は、ビームスプリッタ65を介して分離する。分離した一方のレーザー光61(記録用参照光)は、アパーチャ66を通過した後、集束レンズ67によって集束し、感光材料31に照射される。このときの焦点P
rは、記録用参照光61の点光源とみなすことができる。ここで、焦点P
rから基準点Oまでの距離をR
rとする。
【0083】
そして、分離した他方のレーザー光62(記録用物体光)は、アパーチャ68を通過した後、ミラー69によって反射され、感光材料の記録対象部分31に照射される。記録用物体光の中心軸Lは光軸Nに対して角度θ
oを有する。記録用物体光を平行光とみなした場合、その中心軸Lに沿って無限遠方に置かれた点P
oは記録用物体光62の点光源としてよい。本例の場合、基準点Oから点P
oまでの距離はR
o=∞となる。記録用参照光61と記録用物体光62との干渉により、感光材料の記録対象部分31にホログラムが記録される。
【0084】
ホログラム再生時において、近赤外(波長λ
c=890nm)の再生用参照光の点光源P
cを基準点OからR
cの距離に配置する。点光源P
cから照射された再生用参照光51がホログラム31を透過すると、回折により再生光52が生じる。記録用参照光の波長と再生用参照光の波長とが異なるため、再生光52は、物体光62とは異なり、その中心軸Lが光軸Nに対して角度θ
iを有するものとなる。再生光52の中心軸上の無限遠方には再生像点P
i(ホログラムの虚像の位置)が生じる。本例の場合、距離OP
iは、R
i=∞としてよい。なお、再生用参照光51及び再生光52は、本発明の個人認証装置において、それぞれ、光源5からの光51及び認証対象への照明光52に相当する。
【0085】
ここで、上記文献「新版ホログラフィ入門−原理と実際−」によれば、ホログラム記録時の波長とホログラム再生時の波長が異なる場合、参照光、物体光及び再生光の関係は、一般に以下の式によって表わされると記載されている。
【0086】
1/R
i=1/R
c+μ(1/R
o−1/R
r) (式1)
sinθ
i=sinθ
c+μ(sinθ
o−sinθ
r) (式2)
μ=λ
c/λ
o (式3)
図10に示した例では、式1において、物体光源点P
o及び再生像点P
iは無限遠方にあるので、1/R
i=0、1/R
o=0である。また、式2において、θ
c=∠NP
cN=0°、θ
r=∠NP
rN=0°であるので、sinθ
c=0、sinθ
r=0である。また、式3において、λ
c=890nm、λ
o=532nmであるので、μ=1.673である。上記式に基づいて、所望の再生用参照光の点光源の位置、及び再生光の照射角度を設定することができる。
【0087】
例えば、基準点Oから再生用参照光の点光源P
cまでの距離R
cを10mmに設定する場合、式1及び式3から、基準点Oから記録用参照光の点光源P
rまでの距離R
rは、以下のとおりとなる。
【0088】
R
r=(λ
c/λ
o)・R
c=16.73mm
また、再生光の照射角度θ
iを−75°(時計回りを正の向きとする)に設定する場合、式2及び式3から、記録用物体光の照射角度θ
oは以下のとおりとなる。
【0089】
sinθ
o=1/μ(sinθ
i)=−0.577
θ
o=−35.3°
つまり、ホログラム記録時において、532nmのレーザー光を用い、光軸に対して−35.3°の角度を有する物体光と、基準点から16.73mm離れた位置に配置された点光源からの参照光によって緑色系感光材料を露光させると、それに記録されたホログラムについては、再生時において、基準点から10mm離れた位置に配置された点光源からの波長λ
c=890nmの参照光を照射した場合、光軸に対して−75°の角度を有する再生光が発生する。
【0090】
換言すると、本個人認証装置のHOE作製時において、装置の厚み(光源5からHOE31までの距離)を10mmに設定したい場合は、HOEから16.73mm離した点光源により記録用参照光を照射すればよい。また、照明光52の照射角度を75°に設定する場合は、記録用物体光の照射角度を35.3°となるようにミラーを配置すればよいのである。このように、本発明では、認証時に用いる光とは異なる光を用いて、所望の回折効率、角度選択性などを有するホログラフィック光学素子を作製することができる。
【0091】
[実施例]
図10に示したHOE作製装置を用いて本発明の個人認証装置で使用可能なホログラムシート3を作製した。まず、フィルム基板上に緑色系感光材料を塗布したホログラフィック記録媒体を個人認証装置のステージ2となるガラス基板に貼りつけて使用した。照明用HOE31のホログラム記録時において、532nmのレーザー光を用い、光軸に対して−35.3°の角度を有する物体光と、基準点から16.73mm離れた位置に配置された点光源からの参照光によって緑色系感光材料を露光させた。かかるホログラムは、再生時において、基準点から10mm離れた位置に配置された点光源からの890nmのレーザー光を照射すると、法線Nに対して75°の角度を有する再生光を発生することができ、厚さ10mmの装置において光源からの光を75°の照射角度で照射可能な照明用HOE31を実現できた。
【0092】
また、撮像用HOE32のホログラム記録の際は、上記と同様のホログラムの露光手法を用い、物体光と参照光を所望の角度に設定し、緑色系感光材料を露光させ、再生時において、静脈から所望の角度で入射する890nmの生体情報光を受けて再生光を生じ、かかる再生光をステージからZ方向へ10mm離れ、撮像用HOE32の中心軸からX方向に70mm離れた位置に配置された撮像手段(図示省略)に、静脈の画像を結像可能なホログラムを作製した。このように、認証対象からの生体情報光を撮像手段に集光可能な撮像用HOE32を実現できた。
【0093】
さらに、上記の方法で作製したHOEを用いて、薄型直方体の形状に形成され、ステージの略中央部分に載置される指の静脈のパターンに基づいて本人確認をする個人認証装置を作製した。本実施例の個人認証装置は、長さ(X軸方向の寸法)が50mm、幅(Y軸方向の寸法)が50mm、厚さ(Z軸方向の寸法)が約10mmであり、直方体である(
図1又は
図2参照)。ステージ2は、ガラスによって構成した。装置の側面、背面も同様にガラスで構成され、装置全体は密閉構造を有する。
【0094】
光源5L、5Rとして、近赤外のLED(波長890nm)を使用し、撮像手段4として、CCDカメラを使用した。以下、
図5を参照する。撮像用HOE32は、8mm角の正方形のHOEを4×2列に配置したものであり、その中心を撮像手段4の中心軸Cに合わせてステージの裏面に貼付した。照明用HOE31L、Rは、8mm角の正方形のHOEを4×1列に配置したものであり、光源5の位置に合わせてステージの裏面に配置した。照明光の照射角度θ
1は75°である。
【0095】
以上説明したとおり、本発明によれば、薄型(例えば、厚さが10mm以下)で簡単な構造の個人認証装置を提供することができる。認証対象を配置するステージをおおむね平坦に構成することができる。
【0096】
また、照明用HOEを適宜設計することにより、認証対象の側面に対して照明光を比較的大きな照射角度で照射することができ、生体情報のパターンを鮮明に撮像でき、認証率を向上させることができる。さらに、撮像用HOEを適宜設計することにより、少なくとも異なる二方向から到達する認証対象からの生体情報光を撮像手段に集光することができるので、視差を有するステレオ画像を取得することができる。これにより、一方向から観た画像を用いる場合に比べて認証率を向上させることができ、必要に応じて立体像を構成することもできる。
【0097】
加えて、ステージの表側に比較的大きな認証可能空間を確保することができるので、利用者は、認証時において、認証対象を接触又は非接触状態で、所望の位置に配置することができる。