(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融アルカリ金属に溶解する物質からなる支持基板、およびこの支持基板の外表面上に形成されている13族元素窒化物からなる種結晶膜を備える種基板を用い、前記支持基板の前記外表面のうち前記種結晶膜によって被覆されていない領域を前記溶融アルカリ金属に不溶な材料によって被覆し、次いでフラックス法によって前記種結晶膜上に窒化ガリウム結晶を成長させることを特徴とする、窒化ガリウム結晶の育成方法。
前記支持基板の前記外表面のうち前記種結晶膜によって被覆されていない領域を、前記溶融アルカリ金属に不溶な材料からなる保護膜によって被覆することを特徴とする、請求項1記載の方法。
前記支持基板の前記外表面のうち前記種結晶膜によって被覆されていない領域を、前記溶融アルカリ金属に不溶な材料からなる治具によって被覆することを特徴とする、請求項1記載の方法。
前記治具が、前記フラックス法を実施するときに、前記溶融アルカリ金属およびガリウム原料を含む融液を保持し、この融液を前記種結晶膜に接触させるためのルツボであることを特徴とする、請求項3または4記載の方法。
前記溶解防止治具が、前記フラックス法を実施するときに、前記溶融アルカリ金属およびガリウム原料を含む融液を保持し、この融液を前記種結晶膜に接触させるための坩堝であることを特徴とする、請求項13または14記載の結晶育成装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を更に説明する。
図1(a)に示すように、溶融アルカリ金属に溶解する物質からなる支持基板1を準備する。本例では、支持基板1の外表面は、第一の主面1a、主面1aの反対側にある第二の主面1b、および主面1aと1bとの間に形成される側面1cを含む。基板1の平面形態は図示していないが、特に限定されず、ウェハー形状や多角形、円形など任意の形態を有していて良い。
【0023】
次いで、
図1(b)に示すように、第一の主面1a上に、13族元素窒化物からなる種結晶膜2を形成する。種結晶膜2は、主面1aの全面にわたって形成されていることが好ましいが、主面1aの外縁部に種結晶膜2が形成されず、支持基板の主面が露出していてもよい。
【0024】
次いで、
図1(c)に示すように、支持基板1のうち、種結晶膜2によって被覆されていない第二の主面1bおよび側面1cには、溶融アルカリ金属に不溶な材料からなる保護膜3A、3Bを被覆する。これによって、支持基板1の外表面が直接露出しないようにし、種基板4を得る。
【0025】
次いで、種基板4を融液に浸漬し、フラックス法によって、
図1(d)に示すように窒化ガリウム結晶5を育成する。この際、支持基板1は融液に接触しないので、その溶解が防止されることから、窒化ガリウム結晶の成長が阻害されず、またコンタミネーションも生じない。また、本例では、支持基板を溶解防止治具にセットする必要はない。
【0026】
こうして得られた複合基板を使用して、その上に発光層を形成することができる。しかし、好適な実施形態においては、窒化ガリウム結晶の表面を研磨加工することによって、
図2(a)に示すように、研磨された窒化ガリウム結晶5Aを形成することができる。このようにして複合基板6の反りを調整すると共に窒化ガリウム結晶の表面の平坦性を改善することができる。この場合には、研磨された窒化ガリウム結晶5A上に、
図2(b)に示すように発光層7を形成することによって、発光素子を得る。
【0027】
また、他の実施形態においては、支持基板の外表面のうち種結晶膜によって被覆されていない領域を、溶融アルカリ金属に不溶な材料からなる溶解防止治具によって被覆し、支持基板の融液への接触を防止する。この場合には、支持基板の外表面のうち種結晶膜によって被覆されていない領域を、溶融アルカリ金属に不溶な材料からなる保護膜によって被覆する必要はなく、支持基板の外表面が露出していても本発明の効果が得られる。
【0028】
たとえば、
図3(a)に示すように、溶融アルカリ金属に溶解する物質からなる支持基板1を準備する。次いで、
図3(b)に示すように、第一の主面1a上に、13族元素窒化物からなる種結晶膜2を形成する。この種基板の場合には、支持基板の第二の主面1bおよび側面1cが露出している。
【0029】
次いで、
図3(b)の種基板を融液に浸漬し、フラックス法によって、
図3(c)に示すように窒化ガリウム結晶5を育成する。この際、
図3(b)の種基板においては、支持基板の外表面が露出している。この種基板をそのままで融液に浸漬すると、支持基板の第二の主面1bおよび側面1cが融液中の溶融アルカリ金属に溶解し、窒化ガリウム結晶の成長を阻害し、また窒化ガリウム結晶のコンタミネーションが発生するため、この種基板を用いる場合は溶解防止治具を使用する。
【0030】
こうして得られた複合基板を使用して、その上に発光層を形成することができる。しかし、好適な実施形態においては、窒化ガリウム結晶の表面を研磨加工することによって、
図4(a)に示すように、研磨された窒化ガリウム結晶5Aを形成し、複合基板9を得ることができる。そして、
図4(b)に示すように、研磨された窒化ガリウム結晶5A上に発光層7を形成することによって、発光素子を得る。
【0031】
ここで、溶解防止治具の一例について述べる。
たとえば、
図5の例では、種基板を溶解防止治具11にセットしている。溶解防止治具11は、第二の主面を被覆する主面被覆部12と、側面を被覆する側面被覆部13aと、種結晶膜2の外縁を被覆する外縁被覆部13bを有している。本例では、主面被覆部12が側面被覆部13aと分離された別部材となっており、側面被覆部13aと外縁被覆部13bとは一体の部材を構成している。
【0032】
次いで、
図6に示すように、
図5の溶解防止治具および種基板を、ルツボ15内の融液16に浸漬する。融液16は空隙14に進入する。この際、溶解防止治具11および種結晶膜2によって支持基板1の外表面の全体を被覆しているので、支持基板の融液への接触を防止できる。
【0033】
なお、治具に外縁被覆部13bを設けることによって、融液が支持基板1の側面1cまで到達するまでの沿面距離を長くし、融液の支持基板への接触を更に抑制できる。ただし、外縁被覆部13bは必ずしも必要ない。
【0034】
また、
図7に示す溶解防止治具11Aは、第二の主面を被覆する主面被覆部17aと、側面を被覆する側面被覆部17bと、種結晶膜2の外縁を被覆する外縁被覆部18を有している。本例では、主面被覆部17aと側面被覆部17bとが一体の部材を構成しており、外縁被覆部18は別部材となっている。
【0035】
また、好適な実施形態においては、融液を収容するためのルツボが溶解防止治具として機能している。これによって、ルツボと別体の治具を設けることが不要になる。
【0036】
たとえば、
図8の例では、ルツボ20内に融液16が収容されている。ルツボ20の底部20c上に支持基板1の第二の主面1bが載置されており、第二の主面1bが底面20aに接触している。また、ルツボ20の基板収容部20dの内側に種基板が収容されており、基板収容部20dの内壁面20bが種基板の側面に接触している。
【0037】
そして、基板収容部20d上に融液収容部20fが設けられており、融液収容部20f内に融液16を収容するようになっている。この結果、種結晶膜2上に融液16が存在し、種結晶膜上に窒化ガリウム結晶が育成される。これと共に、支持基板1の第二の主面1bがルツボの底面20aと接触すると共に、支持基板1の側面1bが基板収容部の内壁面20bと接触しているので、支持基板の融液への接触が防止される。
【0038】
なお、本例では、基板収容部20dと融液収容部20fとの間に段差面20eが形成されており、段差面20e上に外縁被覆部21が設けられている。外縁被覆部21は種結晶膜2の外縁を被覆しており、これによって融液の支持基板側面への沿面距離を大きくし、融液の支持基板への接触をいっそう確実に防止する。
【0039】
以下、本発明の各要素について更に詳細に説明する。
溶融アルカリ金属に溶解する材質とは、フラックス法で用いる融液を構成する溶融アルカリ金属に溶解する材質である。アルカリ金属は周期表に規定するアルカリ金属であるが、ナトリウムが特に好ましい。また、溶融アルカリ金属に溶解するとは、以下のことを意味する。
【0040】
本明細書においては、ある物質を、フラックス法で窒化ガリウム結晶を育成する際の育成温度まで加熱した溶融アルカリ金属(窒化ガリウム結晶の育成時に用いる溶融アルカリ金属)に接触させたとき、前記物質の表面が12μm/時間以上の速度で溶融アルカリ金属に侵食される場合、前記物質はフラックスとして用いる溶融アルカリ金属に溶解する、と定める。
【0041】
溶融アルカリ金属に溶解する物質は、酸化亜鉛、あるいはSiであることが特に好ましい。
【0042】
酸化亜鉛からなる支持基板の好適形態について更に述べる。
好適な実施形態においては、支持基板は、配向多結晶酸化亜鉛焼結体から構成される。酸化亜鉛結晶は、六方晶ウルツ鉱型構造を有しており、配向多結晶酸化亜鉛焼結体は無数の酸化亜鉛結晶粒子が配向された状態で焼結により互いに結合されてなる固体である。
【0043】
酸化亜鉛結晶粒子は酸化亜鉛を含んで構成される粒子であり、他の元素として、ドーパント及び不可避不純物を含んでいてもよいし、酸化亜鉛及び不可避不純物からなるものであってもよい。そのような他の元素は六方晶ウルツ鉱型構造のZnサイトやOサイトに置換されていてもよいし、結晶構造を構成しない添加元素として含まれていてもよいし、あるいは粒界に存在するものであってもよい。また、酸化亜鉛焼結体も、酸化亜鉛結晶粒子以外に他の相又は上述したような他の元素を含んでいてもよいが、好ましくは酸化亜鉛結晶粒子及び不可避不純物からなる。
【0044】
もっとも、配向多結晶酸化亜鉛焼結体は、MgO、CdO、ZnS、ZnSe及びZnTeからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化されたZnOからなるものであってもよい。
【0045】
配向酸化亜鉛焼結体を得るため熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)を用いることができる。
【0046】
配向多結晶酸化亜鉛焼結体を構成する酸化亜鉛単結晶粒子の平均粒径は、1〜100μmであるのが好ましく、より好ましくは10〜80μmであり、さらに好ましくは20〜50μmである。これらの範囲内であると発光効率、機械強度、光散乱性、反射性等に優れる。なお、本発明における焼結体粒子の平均粒径は以下の方法により測定されるものである。すなわち、板状焼結体より、適切なサイズの試料を切り出し、板面と垂直な面を研磨し、濃度0.3Mの硝酸にて10秒間エッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影する。視野範囲は、板面に平行及び垂直な直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とする。板面に平行に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa1とし、同様に、板面に垂直に引いた3本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値をa2とし、(a1+a2)/2を平均粒径とする。
【0047】
配向多結晶酸化亜鉛焼結体の配向面方位は特に限定されるものではなく、(002)面であってもよいし、(100)面であってもよいし、(110)面であってもよいし、(101)面であってもよいし、他の面であってもよい。
配向度については、例えば、基板表面における配向度が50%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上である。この配向度は、XRD装置(例えば、株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、板状酸化亜鉛の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、例えば、(110)面以外に配向させた焼結体を評価する場合には以下の式により算出することにより得られるものである。
【0049】
なお、上記式は(110)面を考慮しなくてよい場合を想定した式であるが、(110)面を考慮する必要がある場合、即ち(110)面に配向させた焼結体を評価する場合には、上記2番目及び3番目の式の分母に、(110)面の回折強度に相当するI0(110)とIs(110)をそれぞれ加えればよい。すなわち、I0(110)はICDDNo.361451における(110)面の回折強度(積分値)であり、Is(110)は試料における(110)面の回折強度(積分値)である。
【0050】
結晶配向技術を適用することにより、大口径かつ高配向のZnO(酸化亜鉛)多結晶基板を作製することに成功した。この結果、6インチ以上の大口径酸化亜鉛基板を低コストで作製することが可能となった。
【0051】
さらに、高配向酸化亜鉛基板上に、フラックス法で窒化ガリウム(GaN)結晶を作製することにより、大口径窒化ガリウム基板を実現した。
【0052】
サファイアと比較して、酸化亜鉛の格子定数・熱膨張係数は窒化ガリウムに近いため、窒化ガリウムの結晶性が向上し、欠陥密度は低減する。フラックス法による窒化ガリウム結晶成長温度(たとえば約850℃)はMOCVD法の窒化ガリウム成膜温度(1000℃以上)と比較して低いため、酸化亜鉛の分解による窒化ガリウムへの不純物混入は抑制される。
この大口径窒化ガリウム基板を下地として、MOCVD法で発光層を形成することで、高輝度・高効率なLEDの作製が可能となる。
【0053】
各種半導体用途で8インチを超える大口径基板が流通しているSiを下地基板に用いることにより、窒化ガリウム基板のコストの大幅な低減が期待できる。
【0054】
Si単結晶基板上への窒化ガリウムの成膜にフラックス法を用いることで、低欠陥な窒化ガリウム膜を高速に形成が可能となる。
なお、Siは、フラックス法に用いる溶融Na等には容易に溶解するため、フラックス法に適用することができなかった。しかし、本発明によれば、Si単結晶基板上の窒化ガリウム膜形成にフラックス法を適用することが可能となり、低欠陥な窒化ガリウム膜を形成することが可能となる。
【0055】
支持基板の外表面上に、13族元素窒化物からなる種結晶膜を設けることで、種基板が得られる。種結晶膜は、一層であってよく、あるいは支持基板側にバッファ層を含んでいて良い。
【0056】
なお、13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。13族元素窒化物は、特に好ましくは、GaN、AlN、InN、GaAlNである。また、添加剤としては、炭素や、低融点金属(錫、ビスマス、銀、金)、高融点金属(鉄、マンガン、チタン、クロムなどの遷移金属)が挙げられる。
【0057】
種結晶膜の形成方法は気相成長法が好ましいが、MOCVD法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、分子線エピタキシー(MBE)法、昇華法を例示できる。有機金属化学気相成長法が特に好ましい。また、成長温度は、950〜1200℃が好ましい。
【0058】
本発明においては、支持基板の外表面のうち、種結晶膜によって被覆されていない領域を、溶融アルカリ金属に不溶な材料によって被覆する。溶融アルカリ金属に不溶とは、以下のように定義されるものである。
【0059】
ある物質を、フラックス法で窒化ガリウム結晶を育成する際の育成温度まで加熱した溶融アルカリ金属(窒化ガリウム結晶の育成時に用いる溶融アルカリ金属)に接触させたとき、前記物質の表面が侵食される速度が1時間あたり0.4μm以下の場合、前記物質はフラックスとして用いる溶融アルカリ金属に溶解しない、と定める。
【0060】
好適な実施形態においては、溶融アルカリ金属に不溶な材料は、13族元素窒化物である。13族元素窒化物としては、上記の種結晶膜用に列挙したものを例示できる。
【0061】
また、好適な実施形態においては、溶融アルカリ金属に不溶な材料が耐蝕セラミックスである。こうしたセラミックスとしては、緻密質のアルミナ、イットリアまたは炭化珪素が好ましい。
【0062】
また、好適な実施形態においては、溶融アルカリ金属に不溶な材料が高融点金属である。高融点金属とは、融点が2000℃以上の金属である。この高融点金属は、好ましくはタンタルまたはタングステンである。
【0063】
また、溶融アルカリ金属に不溶な材料からなる保護膜の形成方法は、気相成長法が好ましいが、MOCVD法、HVPE法、PXD法、MBE法、昇華法を例示できる。
【0064】
次いで、フラックス法によって、種結晶膜上に窒化ガリウム結晶を育成する。
融液には、溶融アルカリ金属に加えて、ガリウム原料を混合する。このガリウム原料物質としては、単体金属、合金、化合物を適用できるが、ガリウムの単体金属が取扱いの上からも好適である。
【0065】
フラックス法では、窒素原子を含む気体を含む雰囲気下で単結晶を育成する。このガスは窒素ガスが好ましいが、アンモニアでもよい。
雰囲気中の窒素原子を含む気体以外のガスは限定されないが、不活性ガスが好ましく、アルゴン、ヘリウム、ネオンが特に好ましい。
【0066】
育成時の温度や圧力は、適宜選択できる。好適な実施形態においては、育成時の圧力は、1MPa〜10MPaが好ましく、3MPa〜5MPaが更に好ましい。また,育成時の温度は、750〜950℃が好ましく、800〜900℃が更に好ましい。
【0067】
融液におけるガリウム/溶融アルカリ金属の比率(mol比率)は、本発明の観点からは、高くすることが好ましく、18mol%以上が好ましく、25mol%以上が更に好ましい。ただし、この割合が大きくなり過ぎると結晶品質が落ちる傾向があるので、40mol%以下が好ましい。
【0068】
得られた窒化ガリウム結晶上に機能層を設けることができる。機能としては、高輝度・高演色性の白色LEDや高速高密度光メモリ用青紫レーザディスク、ハイブリッド自動車用のインバータ用のパワーデバイスなどに用いることができる。
【0069】
機能層の材質は、13族元素窒化物が好ましい。13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。
【0070】
機能層としての発光素子の構造には、例えば、n型半導体層、このn型半導体層上に設けられた発光領域およびこの発光領域上に設けられたp型半導体層を設ける。また、発光素子には、更に、図示しないn型半導体層用の電極、p型半導体層用の電極、導電性接着層、バッファ層、導電性支持体などを設けることができる。
n型半導体層の成膜温度は、成膜速度の観点から、950℃以上が好ましく、1000℃以上が更に好ましい。また、欠陥を抑制するという観点からは、機能層の成膜温度は、1200℃以下が好ましく、1150℃以下が更に好ましい。
【0071】
発光素子では、半導体層から注入される正孔と電子の再結合によって発光領域で光が発生すると、その光をp型半導体層上の透光性電極又は窒化ガリウム結晶側から取り出す。なお、透光性電極とは、p型半導体層のほぼ全面に形成された金属薄膜又は透明導電膜からなる光透過性の電極のことである。
【0072】
n型半導体層、p型半導体層を構成する半導体の材質は、III −V 族系化合物半導体からなり、以下を例示できる。
Al
yIn
xGa
1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1)
n型導電性を付与するためのドープ材としては、珪素、ゲルマニウム、酸素を例示できる。また、p型導電性を付与するためのドープ材としては、マグネシウム、亜鉛を例示できる。
【0073】
発光構造を構成する各半導体層の成長方法は、種々の気相成長方法を挙げることができる。例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライト気相成長法(HVPE法)等を用いることができる。その中でもMOCVD法によると、各半導体層の結晶性や平坦度の良好なものを得ることができる。MOCVD法では、GaソースとしてTMG(トリメチルガリウム)、TEG(トリエチルガリウム)などのアルキル金属化合物が多く使用され、窒素源としては、アンモニア、ヒドラジンなどのガスが使用される。雰囲気ガスとしては、水素ガス、窒素ガスなどが使用される。
【0074】
発光領域は、障壁層と井戸層からなる量子井戸構造を含む。井戸層の材料は、n型半導体層およびp型半導体層の材料よりもバンドギャップが小さくなるように設計される。量子井戸構造は単一量子井戸(SQW)構造であっても多重量子井戸(MQW)構造であってもよい。量子井戸構造の材質は以下を例示できる。
【0075】
量子井戸構造の好適例として、In
xGa
1-xN/GaN多層膜(x=0.15)であって、膜厚がそれぞれ2.5nm/10nmであるものを3〜10対形成させたMQW構造が挙げられる。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
図1および
図2に示す手順に従い、複合基板を作製した。
すなわち、以下の手順で、酸化亜鉛多結晶基板を支持基板として使用し、一軸に配向した窒化ガリウム基板を作製した。
【0077】
まず、溶液法により、酸化亜鉛のc面板状結晶を作製した。具体的には、硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)173重量部とグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)0.45重量部をイオン交換水300重量部に溶解した。こうして得られた溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱して溶解させた。この溶液を90℃に保持し、攪拌しながら25%アンモニウム水49重量部をマイクロチューブポンプで滴下した。滴下終了後、90℃で攪拌しながら4時間保持した後、溶液を多量のイオン交換水に投入し、静置した。容器の底部に堆積した沈殿物をろ過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質をジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、酸化亜鉛板状多孔質粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。
【0078】
得られた酸化亜鉛板状粒子100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)10重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを直径2インチのシートに切断し、50枚の切断テープ片を積層し、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で20時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を窒素中、1400℃で5時間の条件で常圧焼成して、板状のZnO配向焼結体基板を作製した。
【0079】
得られた焼結体の(002)配向度F(002)をXRDにより測定した。この測定は、XRD装置(株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、板状酸化亜鉛の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、以下の式によって評価した。
こうして測定した支持基板の(002)配向度は80%であった。
また、支持基板の材質を850℃の溶融ナトリウムに接触させた場合には、支持基板の材質の表面が侵食される速度は、1時間あたり50μmであった。
【0080】
【数2】
【0081】
次に、MOCVD法により、支持基板1の主面1aに、窒素雰囲気にて800℃で厚さ3μmの窒化ガリウムからなる種結晶膜2を形成した。さらに、スパッタ法により、種結晶膜2によって被覆されていない側面および第二の主面を緻密質アルミナからなる保護膜3A、3Bで被覆し、種基板4を得た。この緻密質アルミナを850℃の溶融ナトリウムに接触させると、材質の表面が侵食される速度は、1時間あたり0.05μmであった。
【0082】
得られた種基板4を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
・四塩化ゲルマニウム:1.85g
【0083】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で850℃、4.0MPaまで昇温加圧後、24時間保持しつつ溶液を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶を成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。前記酸化亜鉛基板の上にMOCVD法で形成した窒化ガリウム膜上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。
【0084】
こうして得られた試料の窒化ガリウム結晶側の表面を#600及び#2000の砥石によって研削して平坦にし、次いでダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、平滑化した。平滑化加工においては、砥粒のサイズを3μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の窒化ガリウムの平均表面粗さRaは0.2nm、厚さは15μmであった。このようにして、窒化ガリウムと酸化亜鉛からなる複合基板を作製した。
【0085】
次いで、MOCVD法を用いて、前記複合基板上にn型層として1050℃でSi原子濃度が5×10
18/cm
3になるようにドーピングしたn−GaN層を1μm堆積した。次に発光層として800℃で多重量子井戸構造を堆積した。具体的にはInGaNによる井戸層を2.5nm、GaNによる障壁層を10nmの厚さとして5対積層した。次にp型層として950℃でMg原子濃度が1×10
19/cm
3になるようにドーピングしたp−GaN層を200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行った。
【0086】
LED素子構造形成のためにフォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いた。電極を形成した後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0087】
カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0088】
このように、本発明によって、高輝度LED作製用の、大口径かつ高品質な窒化ガリウム複合基板を実現した。
支持基板にサファイアに代えて結晶配向酸化亜鉛を用いることで、窒化ガリウム基板の低コスト化を実現した。
酸化亜鉛上の窒化ガリウム結晶作製にフラックス法を用いることで、窒化ガリウム結晶への不純物混入を抑制した。
【0089】
(実施例2)
図3〜
図6を参照しつつ説明した方法に従って、発光素子を作製した。
具体的には、まず実施例1と同様にして、配向度80%の配向酸化亜鉛基板(支持基板1)を作製した。次に、MOCVD法により、支持基板1の第一の主面に、窒素雰囲気中にて800℃で厚さ3μmの窒化ガリウムからなる種結晶膜2を形成し、種基板を得た。次いで、
図5に示すように、種基板を溶解防止治具11に取り付けた。溶解防止治具11はアルミナ製で、底面被覆部12と側面被覆部(リング)13よりなる。
このアルミナを850℃の溶融ナトリウムに接触させると、材質の表面が侵食される速度は、1時間あたり0.2μmであった。
【0090】
溶解防止治具11に設置した種基板を、
図6に示すように、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝15の底部分に設置した。以後は、実施例1と同様にして、フラックス法による結晶成長、研磨加工、MOCVD法による発光機能層形成を行い、縦型発光素子を作製した。カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0091】
(実施例3)
実施例2と同様にして発光素子を作製した。
ただし、6インチのSi単結晶からなる支持基板1を用いた。支持基板1の基板の第一の主面1aに、MOCVD法により、窒素雰囲気中にて800℃で厚さ3μmの窒化ガリウムからなる種結晶膜2を形成し、種基板を作製した。この種基板を、実施例2で用いたものと同様なアルミナセラミックス製溶解防止治具11に取り付けた。
このSi単結晶を850℃の溶融ナトリウムに接触させると、材質の表面が侵食される速度は、1時間あたり1mm以上であった。
【0092】
溶解防止治具11に取り付けた種基板を内径200mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝15の底部分に設置し、実施例1と同様にフラックス法による結晶成長、研磨加工、MOCVD法による発光機能層形成を行い、縦型発光素子を作製した。カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0093】
このように、本発明によって、高輝度LED作製用の、大口径かつ高品質な窒化ガリウム基板を実現した。なお、Siはフラックス法に用いる溶融アルカリ金属には容易に溶解するため、通常はフラックス法に適用することができない。しかし、本発明によれば、Si単結晶基板上の窒化ガリウム膜形成にフラックス法を適用することが可能となり、低欠陥な窒化ガリウム膜を形成することが可能となる。
【0094】
本発明により、溶融アルカリ金属に可溶な材料であるSi単結晶をフラックス法の下地基板に適用することが可能となり、窒化ガリウム基板の大口径化と低コスト化を実現した。
【0095】
(実施例4)
実施例1と同様にして発光素子を作製した。
ただし、本例では、Si単結晶からなる支持基板を使用した。
MOCVD法により、Si単結晶からなる支持基板の主面1aに、水素および窒素雰囲気中にて約1000℃で窒化アルミニウム膜、窒化アルミニウムガリウム膜を形成した後、窒化ガリウムからなる種結晶膜2を厚さ3μm形成した。
【0096】
次いで、スパッタ法により、支持基板1の外表面のうち、種結晶膜2を形成した主面以外の面をアルミナからなる保護膜3A、3Bで被覆することによって、種基板4を作製した。次いで、この種基板を、Ga原料、Na原料と共に坩堝内に設置した。
【0097】
次いで、種基板上に、フラックス法による窒化ガリウム結晶成長を実施した。具体的には、4MPaの窒素雰囲気中で、850℃で24時間加熱した。成長した窒化ガリウム結晶を種基板ごと回収し、種基板とフラックス法による窒化ガリウム結晶層とを有する複合基板を得た。この窒化ガリウム結晶の表面を鏡面研磨加工した。
【0098】
複合基板上にMOCVD法で発光機能層を作製した。具体的には1050℃でn−GaN層を1μm堆積し、次に発光層として800℃で量子井戸構造を5対堆積し、950℃でp−GaN層を200nm堆積した。p型層の活性化処理後、フォトリソグラフィーによりLED素子構造を形成し、チップ化した後、通電試験を行ったところ、波長450nmの発光を確認した。
【0099】
このように、本発明によって、高輝度LED作製用の、大口径かつ高品質な窒化ガリウム基板を実現した。
下地基板にSi単結晶を用いることで、窒化ガリウム基板の低コスト化を実現した。
Si単結晶上の窒化ガリウム結晶作製にフラックス法を用いることで、窒化ガリウム層への不純物混入を抑制した。
フラックス法窒化ガリウム結晶上に13族元素窒化物発光層を作製することで、発光層への不純物混入を抑制した。