特許第6339074号(P6339074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6339074海象検出装置、レーダ装置、海象検出方法、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339074
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】海象検出装置、レーダ装置、海象検出方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/95 20060101AFI20180528BHJP
   G01S 13/50 20060101ALI20180528BHJP
   G01S 13/89 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   G01S13/95
   G01S13/50
   G01S13/89
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-525104(P2015-525104)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2014064685
(87)【国際公開番号】WO2015001892
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2016年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-141010(P2013-141010)
(32)【優先日】2013年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】特許業務法人ワンディーIPパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】井芹 健介
(72)【発明者】
【氏名】川浪 敏志
(72)【発明者】
【氏名】森垣 亮祐
【審査官】 山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−237477(JP,A)
【文献】 特開2012−154887(JP,A)
【文献】 特開平11−083992(JP,A)
【文献】 特開2009−075017(JP,A)
【文献】 特開2007−248293(JP,A)
【文献】 特開平03−231156(JP,A)
【文献】 特開2003−021680(JP,A)
【文献】 米国特許第04802237(US,A)
【文献】 改訂レーダ技術,社団法人電子情報通信学会,1996年10月 1日,p.63-64
【文献】 金子新,沿岸音響トモグラフィーによる海洋環境計測,非破壊検査7月号,社団法人日本非破壊検査協会,2011年 7月 1日,第60巻第7号,p.363-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − G01S 7/42
G01S 13/00 − G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の送信信号を用いて得られた、振幅情報および位相情報を含む受信信号に基づいて、所定の海象についてのドップラ速度の分布を画像データとして生成する、画像データ生成部と、
前記画像データに基づいて前記海象を特定する海象データを生成する、海象データ生成部と、
を備え、
前記海象データ生成部は、観測された時間が異なる複数の前記画像データで特定される前記ドップラ速度の変化を画像解析することで、前記海象データを生成し、
前記送信信号は、一箇所に設置されたアンテナから送信されるマイクロ波信号であり、
前記マイクロ波信号の波長は超短波の波長よりも短いことを特徴とする、海象検出装置。
【請求項2】
請求項に記載の海象検出装置であって、
前記受信信号は、固体化レーダ装置によって生成された前記送信信号を用いて得られることを特徴とする、海象検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の海象検出装置であって、
前記海象データ生成部は、前記海象データとして、海の表層潮流および波浪データの少なくとも一方を特定するデータを生成することを特徴とする、海象検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の海象検出装置と、
上下に延びる軸線回りを自転可能に構成され、前記送信信号および前記受信信号を送受信するためのアンテナ部と、
を備えていることを特徴とする、レーダ装置。
【請求項5】
所定の送信信号を用いて得られた、振幅情報および位相情報を含む受信信号に基づいて、所定の海象についてのドップラ速度の分布を画像データとして生成する、画像データ生成ステップと、
前記画像データに基づいて前記海象を特定する海象データを生成する、海象データ生成ステップと、
を含み、
前記海象データ生成ステップは、観測された時間が異なる複数の前記画像データで特定される前記ドップラ速度の変化を画像解析することで、前記海象データを生成し、
前記送信信号は、一箇所に設置されたアンテナから送信されるマイクロ波信号であり、
前記マイクロ波信号の波長は超短波の波長よりも短いことを特徴とする、海象検出方法。
【請求項6】
コンピュータに、
所定の送信信号を用いて得られた、振幅情報および位相情報を含む受信信号に基づいて、所定の海象についてのドップラ速度の分布を画像データとして生成する、画像データ生成ステップと、
前記画像データに基づいて前記海象を特定する海象データを生成する、海象データ生成ステップと、
を実行させ、
前記海象データ生成ステップは、観測された時間が異なる複数の前記画像データで特定される前記ドップラ速度の変化を画像解析することで、前記海象データを生成し、
前記送信信号は、一箇所に設置されたアンテナから送信されるマイクロ波信号であり、
前記マイクロ波信号の波長は超短波の波長よりも短いことを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海象検出装置、レーダ装置、海象検出方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、船舶は、海上を航行する。船舶は、航海に必要な情報として、当該船舶の周囲の海象情報を、種々のセンサを用いて取得する。このようなセンサとして、波浪を計測するためのセンサ、潮流を計測するためのセンサなどが挙げられる。これらの海象を検出するために、レーダ装置が用いられることがある(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の装置は、マイクロ波を用いたレーダ探知により、海面のシークラッタ信号を取得する。マイクロ波は、たとえば、マグネトロンを用いて生成され、船舶のアンテナから海域へ送信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−21680号公報([0001])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マグネトロンによるマイクロ波は、たとえば、海面などで反射してシークラッタ信号としてレーダ装置で受信される。この場合、シークラッタ信号は、振幅情報を有している。レーダ装置は、この振幅の大きさに応じたエコーレベル(振幅値)のデータを有する画像データを生成する。この振幅値は、レーダ装置を備える船舶の周囲の海域において設定される。
【0005】
そして、画像データで特定される画像での輝度の分布などに基づいて、波浪が検出される。
【0006】
ここで、マイクロ波が反射してシークラッタ信号となった位置が船舶の位置から遠いほど、すなわち、シークラッタ信号の飛来する距離が長くなるほど、当該シークラッタ信号の振幅値の減衰率が大きくなる。すなわち、上記の振幅値が上記の距離の影響を受ける。よって、このような振幅値の減衰を抑制する必要がある。換言すれば、距離減衰によるトレンド成分を補正する必要がある。
【0007】
このトレンド成分の補正は、上記の距離減衰に対応する近似曲線を用いて、シークラッタ信号の振幅値を補正することで行われる。しかしながら、この近似曲線の設定は、シークラッタ信号の減衰特性などを考慮して高い精度で行わなければならない。このため、レーダ装置において、距離減衰についての補正を正確に行うことが難しく、場合によっては、必要なデータの振幅値が過度に低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、船舶などの周囲における海象の正確な情報を、より簡易に検出することのできる、海象検出装置、レーダ装置、海象検出方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面にかかわる海象検出装置は、画像データ生成部と、海象データ生成部とを備えている。前記画像データ生成部は、所定の送信信号を用いて得られた、振幅情報および位相情報を含む受信信号に基づいて、所定の海象についてのドップラ速度の分布を画像データとして生成するように構成されている。前記海象データ生成部は、前記画像データに基づいて前記海象を特定する海象データを生成するように構成されている。また、前記海象データ生成部は、観測された時間が異なる複数の前記画像データで特定される前記ドップラ速度の変化を画像解析することで、前記海象データを生成するように構成されている。また、前記送信信号は、一箇所に設置されたアンテナから送信されるマイクロ波信号であり、前記マイクロ波信号の波長は超短波の波長よりも短い。
【0010】
(2)好ましくは、前記受信信号は、固体化レーダ装置によって生成された前記送信信号を用いて得られる。
【0011】
)好ましくは、前記海象データ生成部は、前記海象データとして、海の表層潮流および波浪の少なくとも一方を特定するデータを生成する。
【0012】
)上記課題を解決するために、この発明のある局面にかかわるレーダ装置は、前記の海象検出装置と、アンテナ部とを備えている。前記アンテナ部は、上下に延びる軸線回りを自転可能に構成され、前記受信信号および前記受信信号を送受信する。
【0013】
)上記課題を解決するために、この発明のある局面にかかわる海象検出方法は、画像データ生成ステップと、海象データ生成ステップとを含んでいる。前記画像データ生成ステップは、所定の送信信号を用いて得られた、振幅情報および位相情報を含む受信信号に基づいて、所定の海象についてのドップラ速度の分布を画像データとして生成する。前記海象データ生成ステップは、前記画像データに基づいて前記海象を特定する海象データを生成する。また、前記海象データ生成ステップは、観測された時間が異なる複数の前記画像データで特定される前記ドップラ速度の変化を画像解析することで、前記海象データを生成する。また、前記送信信号は、一箇所に設置されたアンテナから送信されるマイクロ波信号であり、前記マイクロ波信号の波長は超短波の波長よりも短い。
【0014】
)上記課題を解決するために、この発明のある局面にかかわるプログラムは、コンピュータに、画像データ生成ステップと、海象データ生成ステップとを実行させる。前記画像データ生成ステップは、所定の送信信号を用いて得られた、振幅情報および位相情報を含む受信信号に基づいて、所定の海象についてのドップラ速度の分布を画像データとして生成する。前記海象データ生成ステップは、前記画像データに基づいて前記海象を特定する海象データを生成する。また、前記海象データ生成ステップは、観測された時間が異なる複数の前記画像データで特定される前記ドップラ速度の変化を画像解析することで、前記海象データを生成する。また、前記送信信号は、一箇所に設置されたアンテナから送信されるマイクロ波信号であり、前記マイクロ波信号の波長は超短波の波長よりも短い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、船舶などの周囲における海象の正確な情報を、より簡易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態にかかるレーダ装置を備える船舶が海上を航行している状態を示す模式図である。
図2】レーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】スキャンデータで特定される画像の一例を示す模式図である。
図4】ドップラ速度マップ生成部の処理結果を説明するための模式図である。
図5】レーダ装置の海象検出装置における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明は、海象検出装置、レーダ装置、海象検出方法、および、プログラムとして広く適用することができる。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態にかかるレーダ装置1を備える船舶が海上を航行している状態を示す模式図である。図1では、円形の領域内が、船舶およびこの船舶の周囲を示している。図2は、レーダ装置1の概略構成を示すブロック図である。
【0019】
図1を参照して、本実施形態では、レーダ装置1を備える船舶を自船50という。図1は、自船50が陸51の目的地52に向かって海上を航行している状態を示しており、かつ、自船50の周囲に波浪53および表層潮流54が生じた状態を示している。
【0020】
波浪53の波頂線531は、細長く延びる筋状に略連続的に存在する波頭やそれによって生じる水泡である。波浪53の波頂線531は、たとえば、自船50の船首側から船尾側(南)に向かって進んでいる。表層潮流54は、たとえば、自船50の右舷側から左舷側(西)に向かっている。自船50は、たとえば、タンカーなどの大型船であり、陸51の目的地52へ向けて航行する。
【0021】
レーダ装置1は、マイクロ波(電磁波)を送受信することで、自船50の航行に必要な情報を取得するために設けられている。レーダ装置1は、自船50に備えられている。
【0022】
図1および図2を参照して、レーダ装置1は、固体化レーダ装置であり、アンテナ装置2と、海象検出装置3と、表示装置4と、を有している。
【0023】
アンテナ装置2は、送信部5と、アンテナ部6と、受信部7と、A/D変換部8と、を含んでいる。
【0024】
送信部5は、固体素子(半導体素子)を用いて送信信号(探知信号)S1を生成するように構成されている。送信部5は、所定の周期毎に、送信信号S1をアンテナ部6へ出力する。
【0025】
アンテナ部6は、送信信号S1を、指向性の強いパルス状電波として送信可能なレーダアンテナである。また、アンテナ部6は、物標などからのエコー信号(反射波)を含む受信信号S2を受信するように構成されている。アンテナ部6は、たとえばスロットアレイアンテナであり、自船50を通り上下に延びる軸線回り(方位方向C1)に回転する。アンテナ部6の回転速度は、一定である。
【0026】
なお、レーダ装置1は、送信信号S1を送信することで生じる受信信号S2を受信するまでの時間を測定する。これにより、レーダ装置1は、自船50から物標までの距離rを検出することができる。
【0027】
アンテナ部6は、水平面上で360°回転可能に構成されており、上下に延びる鉛直軸線回りの方位方向C1に回転(自転)する。アンテナ部6は、送信信号S1の送信方向を変えながら(アンテナ部6の回転角度を変えながら)、信号S1,S2の送受信を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、レーダ装置1は、自船50の周囲の数海里の範囲を360°にわたり探知することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、送信信号S1(パルス状電波)を送信してから次の送信信号S1を送信するまでの動作を「スイープ」という。また、電波の送受信を行いながらアンテナ部6を360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。
【0029】
受信部7は、アンテナ部6で受信した受信信号S2を検波して増幅する。受信信号S2は、エコー信号と、ノイズ信号と、を含んでいる。エコー信号は、アンテナ部6で受信された信号のうち、送信信号S1に対する物標および海面などでの反射波である。受信部7は、受信信号S2を、A/D変換部8へ出力する。
【0030】
A/D変換部8は、アナログ形式の受信信号S2をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(エコーデータD1)に変換する。ここで、上記エコーデータD1は、IQ信号データである。本実施形態では、エコーデータD1は、アンテナ部6が受信したエコー信号のエコーレベル(振幅値)を特定するデータを含んでいる。また、エコーデータD1は、エコー信号の位相を特定するデータを含んでいる。A/D変換部8は、エコーデータD1を、海象検出装置3へ出力する。
【0031】
海象検出装置3は、自船50の周囲における海象を検出するように構成されている。本実施形態では、海象検出装置3は、海象として、自船50の周囲の波浪53、および、自船50の周囲の表層潮流54を検出する。海象検出装置3は、CPU,RAMおよびROMなどを用いて形成されている。
【0032】
海象検出装置3は、スキャンデータ蓄積部11と、ドップラ速度マップ生成部12と、海象データ生成部13と、を有している。
【0033】
スキャンデータ蓄積部11は、A/D変換部8から出力されたエコーデータD1を蓄積することでスキャンデータD2を生成するように構成されている。スキャンデータ蓄積部11は、自船50を中心とするr−θ座標系を設定する。rは、自船50からの直線距離を示す変数である。θは、たとえば、自船50の船首を向く方向をθ=ゼロとする方位方向C1の角度である。
【0034】
スキャンデータ蓄積部11は、1スキャン分の複数のスイープによって得られたエコーデータD1を蓄積することで、振幅情報および位相情報を含むスキャンデータD2を生成する。スキャンデータD2は、r−θ座標系における各所での振幅値を示すデータを含んでいる。スキャンデータD2で特定される画像P1の一例は、図3に示されている。
【0035】
図3は、スキャンデータD2で特定される画像P1の一例を示す模式図である。図1図3を参照して、画像P1では、波頂線531に対応する領域に、振幅値が所定のしきい値(ノイズレベル)以上である筋状の領域R53が形成されている。また、画像P1では、海面反射(シークラッタ)に起因する波頭の領域R54が形成されている。領域R54の振幅値は、上記所定のしきい値(ノイズレベル)以上である。
【0036】
スキャンデータ蓄積部11は、1スキャンで得られたエコーデータD1毎に、スキャンデータD2を生成する。これにより、スキャンデータ蓄積部11は、1スキャン毎のスキャンデータD2を生成する。
【0037】
図3では、あるnスキャン時点(nは自然数)におけるスキャンデータD2に基づく画像P1を示している。また、図3では、(n+1)スキャン時点におけるスキャンデータD2に基づく画像P2も示している。画像P2が画像P1と異なっている点は、画像P2の領域R53',R54'の位置が画像P1の対応する領域R53,R54,の位置と異なっている点にある。
【0038】
以上の構成により、スキャンデータ蓄積部11は、送信信号S1(探知信号)を用いて自船50の周囲を探知することで得られた受信信号S2に基づくスキャンデータD2を生成する。スキャンデータ蓄積部11は、生成したスキャンデータD2を、ドップラ速度マップ生成部12へ出力する。
【0039】
図4は、ドップラ速度マップ生成部12の処理結果を説明するための模式図である。図1図4を参照して、ドップラ速度マップ生成部12は、本発明の「画像データ生成部」の一例である。ドップラ速度マップ生成部12は、スキャンデータD2(受信信号S2)に基づいて、自船50の周囲の海域における各海象のドップラ速度ベクトルDVの分布を算出するように構成されている。ドップラ速度マップ生成部12は、ドップラ速度ベクトルDVの分布を特定するドップラ速度マップデータD3を生成する。
【0040】
より具体的には、ドップラ速度マップ生成部12は、振幅情報および位相情報を含む受信信号S2に基づいて、海象(波浪53、および表層潮流54)についてのドップラ速度ベクトルDV(DV53,DV54)を算出する。そして、ドップラ速度マップ生成部12は、このドップラ速度ベクトルDV53,DV54の分布を特定するドップラ速度マップデータD3を生成する。ドップラ速度マップデータD3は、本発明の「画像データ」の一例である。
【0041】
なお、図4では、ドップラ速度ベクトルDV(DV53,DV54)を、○印および矢印で表示しているけれども、この通りでなくてもよい。たとえば、ドップラ速度ベクトルDV53,DV54は、向きを色で示され、速度値を輝度で示されてもよい。
【0042】
本実施形態では、ドップラ速度マップ生成部12は、スキャンデータD2を用いて、波浪53のドップラ速度ベクトルDV53、および表層潮流54のドップラ速度ベクトルDV54を算出する。
【0043】
前述したように、アンテナ装置2は、固体化レーダ装置であり、受信信号S2は、当該受信信号S2の振幅情報に加えて、位相情報を有している。このため、ドップラ速度マップ生成部12は、自船50からの距離方向B1(半径方向)に沿うドップラ速度ベクトルDV53,DV54を検出することができる。
【0044】
本実施形態では、ドップラ速度マップ生成部12は、FFT処理またはパルスペア処理を行うことで、ドップラ速度ベクトルDV(DV53,DV54)を算出する。
【0045】
ドップラ速度ベクトルDV53は、波浪53が生じている位置での当該波浪53のドップラ速度ベクトルである。同様に、ドップラ速度ベクトルDV54は、表層潮流54が生じている位置での当該表層潮流54のドップラ速度ベクトルである。
【0046】
ドップラ速度ベクトルDV53,DV54の向きは、送信信号S1に対する受信信号S2の周波数の変化を基に算出される。
【0047】
ドップラ速度マップ生成部12は、ドップラ速度ベクトルDV53,DV54を特定するデータを含むドップラ速度マップデータD3を生成する。ドップラ速度マップ生成部12は、このドップラ速度マップデータD3を、海象データ生成部13の後述する波浪データ生成部131および表層潮流データ生成部132へ出力する。
【0048】
海象データ生成部13は、ドップラ速度マップデータD3に基づいて、自船50の周囲における所定の海象(波浪53および表層潮流54)を特定する海象データを生成するように構成されている。なお、「自船50の周囲」とは、自船50の航行に直接的に関係する海域をいい、たとえば、自船50から8海里程度までの領域をいう。本実施形態では、海象データ生成部13は、波浪53の速度ベクトルなどを特定する波浪データD4と、表層潮流54の速度ベクトルなどを特定する表層潮流データD5とを生成するように構成されている。
【0049】
海象データ生成部13は、波浪データ生成部131と、表層潮流データ生成部132と、を有している。
【0050】
波浪データ生成部131は、自船50の周囲の波浪53を特定するデータとして、波浪データD4を生成するように構成されている。波浪データ生成部131は、ドップラ速度マップデータD3を読み込む。波浪データ生成部131は、ドップラ速度マップデータD3に、FFT処理などを施す波浪解析によって、波浪53の動き(波53の高さ、周期、および、向きなど)を検出する。波浪データ生成部131は、上記の処理により、波浪データD4を生成する。波浪データ生成部131は、波浪データD4を表示装置4へ出力する。
【0051】
表層潮流データ生成部132は、自船50の周囲の海における表層潮流54を検出するように構成されている。本実施形態において、表層潮流とは、たとえば、海面から10m程度までの深さの潮流をいう。
【0052】
表層潮流データ生成部132は、たとえば、スキャン時点の異なる複数ドップラ速度マップデータD3を参照する。次いで、表層潮流データ生成部132は、これらのドップラ速度マップデータD3で特定される速度の変化を画像解析する(オプティカルフロー処理を行う)ことで、表層潮流54を検出する。
【0053】
たとえば、表層潮流データ生成部132は、画像P1における領域R54と、画像P2の領域R54'との位置変化に相当する変化を、複数のスキャン時点のドップラ速度マップデータD3から検出する。これにより、表層潮流データ生成部132は、自船50の周囲の表層潮流54を検出する。
【0054】
表層潮流データ生成部132は、検出した表層潮流54を特定する表層潮流データD5を生成する。表層潮流データ生成部132は、表層潮流データD5を、表示装置4へ出力する。
【0055】
表示装置4は、たとえばプロッタであり、波浪データD4に基づく表示、および表層潮流データD5に基づく表示を行うように構成されている。より具体的には、表示装置4は、波浪データD4に基づいて、自船50の周囲の波浪53の情報を表示する。また、表示装置4は、表層潮流データD5に基づいて、自船50の周囲の表層潮流54の情報を表示する。これにより、レーダ装置1のオペレータは、自船50の周囲の波浪53の状態および表層潮流54の状態を知ることができる。
【0056】
図5は、レーダ装置1の海象検出装置3における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、海象検出装置3における処理の流れを説明する際には、図5以外の図も適宜参照する。
【0057】
海象検出装置3は、以下に示すフローチャートの各ステップを、図示しないメモリから読み出して実行する。このプログラムは、外部からインストールできる。このインストールされるプログラムは、たとえば記録媒体に格納された状態で流通する。
【0058】
海象検出装置3においては、まず、スキャンデータ蓄積部11が、A/D変換部8から与えられたエコーデータD1を用いて、スキャンデータD2を生成する(ステップS1)。次に、ドップラ速度マップ生成部12は、このスキャンデータD2を用いて、ドップラ速度マップデータD3を生成する(ステップS2)。
【0059】
次に、海象データ生成部13は、海象データを生成する(ステップS3)。具体的には、波浪データ生成部131が、ドップラ速度マップデータD3を用いて、波浪データD4を生成する。また、表層潮流データ生成部132が、ドップラ速度マップデータD3を用いて、表層潮流データD5を生成する。海象データ生成部13は、これらの波浪データD4および表層潮流データD5を、表示装置4へ出力する(ステップS4)。
【0060】
[プログラム] 本実施形態のレーダ装置1の海象検出装置3に係るプログラムは、コンピュータに、海象検出装置3の処理を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態における海象検出装置3と、海象検出方法と、を実現することができる。この場合、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、スキャンデータ蓄積部11、ドップラ速度マップ生成部12、および海象データ生成部13(波浪データ生成部131、表層潮流データ生成部132)として機能し、処理を行う。なお、海象検出装置3は、本実施形態のように、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよいし、ハードウェアによって実現されてもよい。
【0061】
以上説明したように、本実施形態にかかる海象検出装置3によると、ドップラ速度マップ生成部12は、振幅情報および位相情報を含む受信信号S2に基づいて、画像データとしてのドップラ速度マップデータD3を生成する。そして、海象データ生成部13は、このドップラ速度マップデータD3に基づいて、海象データ(波浪データD4および表層潮流データD5)を生成する。このような構成によると、海象データ生成部13は、スキャンデータD2で特定される振幅値ではなく、ドップラ速度ベクトルDVに基づいて、海象データ(波浪データD4および表層潮流データD5)を生成することができる。すなわち、海象データ生成部13は、自船50からの距離に応じて減衰する受信信号S2の振幅値ではなく、自船50からの距離に依存しない、受信信号S2の位相情報に基づいて、海象データ(波浪データD4および表層潮流データD5)を生成できる。このため、海象検出装置3は、自船50からの距離に応じた受信信号S2の振幅値の減衰特性を考慮した、スキャンデータD2の繊細な補正設定(トレンド減衰補正)を行うことなく、正確な海象データ(波浪データD4および表層潮流データD5)を生成できる。このため、海象検出装置3によると、自船50の周囲における海象の正確な情報を、より簡易に検出することができる。
【0062】
また、海象検出装置3によると、受信信号S2は、固体化レーダ装置としてのアンテナ装置2で生成された送信信号S1を用いて得られる。このような構成により、受信信号S2は、振幅情報に加えて、位相情報を有している。その結果、ドップラ速度ベクトルデータ生成部13は、ドップラ速度ベクトルDVを算出することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。たとえば、次のように変更して実施してもよい。
【0064】
(1)上述の実施形態では、自船の周囲における検出対象の海象として、波浪および表層潮流が検出される形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。自船の周囲における検出対象の海象として、風などの他の海象が検出されてもよい。また、波浪および表層潮流のいずれかのみが検出されてもよい。
【0065】
(2)また、本発明は、海象検出装置ではあるけれども、淡水での検出装置としても用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、海象検出装置、レーダ装置、海象検出方法、および、プログラムとして、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 レーダ装置
3 海象検出装置
6 アンテナ部
12 ドップラ速度マップ生成部(画像データ生成部)
13 海象データ生成部
D3 ドップラ速度マップデータ(画像データ)
D4 波浪データ(海象データ)
D5 表層潮流データ(海象データ)
DV ドップラ速度ベクトル(ドップラ速度)
S1 送信信号
S2 受信信号
図1
図2
図3
図4
図5