(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339094
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールと3−アミノプロパノールまたは2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールと4−アミノブタノールとを含む水性CO2吸収剤
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20180528BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20180528BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20180528BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20180528BHJP
C07C 215/08 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/62ZAB
B01D53/78
C01B32/50
!C07C215/08
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-546036(P2015-546036)
(86)(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公表番号】特表2016-507355(P2016-507355A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】EP2013075837
(87)【国際公開番号】WO2014086988
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年11月16日
(31)【優先権主張番号】20121474
(32)【優先日】2012年12月7日
(33)【優先権主張国】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】513323243
【氏名又は名称】エイカー エンジニアリング アンド テクノロジー エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ホッフ,カール アンダース
(72)【発明者】
【氏名】メジデル,ソー
(72)【発明者】
【氏名】キム,インナ
(72)【発明者】
【氏名】グリムストヴェドット,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ダ シルヴァ,エイリック ファルック
【審査官】
佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0279393(US,A1)
【文献】
特開平11−114353(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101279181(CN,A)
【文献】
国際公開第2010/134926(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14−53/18
B01D 53/34−53/85
C01B 32/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)と3−アミノプロパノール(AP)との組合せまたはAMPと4−アミノブタノール(AB)との組合せを含み、AMPの濃度が10〜35重量%であり、APまたはABの濃度が10〜40重量%である、水性CO2吸収剤。
【請求項2】
AMPの濃度が少なくとも20重量%である、請求項1に記載のCO2吸収剤。
【請求項3】
APまたはABの濃度が少なくとも20重量%である、請求項1または2に記載の吸収剤。
【請求項4】
任意の従来の添加剤をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の吸収剤。
【請求項5】
AMPとAPとの組合せを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の吸収剤。
【請求項6】
火力発電所または工業施設から出る排ガスなどのCO2含有ガスからCO2を回収する方法であって、吸収塔で前記CO2含有ガスをCO2吸収剤と向流させてCO2が除去されたガスにして環境中に放出し、CO2リッチ吸収剤を前記吸収塔の底部で収集して再生し、吸収塔内を再循環させ、前記CO2吸収剤が、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)と3−アミノプロパノール(AP)との組合せまたはAMPと4−アミノブタノール(AB)との組合せを含む水性CO2吸収剤であり、AMPの濃度が10〜35重量%であり、APまたはABの濃度が10〜40重量%である、方法。
【請求項7】
CO2含有ガスからCO2を回収する方法における、AMPとAPとの組合せまたはAMPとABとの組合せの水溶液のCO2吸収剤としての使用であって、AMPを10〜35重量%の濃度で使用し、APまたはABを10〜40重量%の濃度で使用する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼ガスのCO
2を回収するための改善された方法および改善されたアミン系CO
2吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスの混合物からCO
2を工業規模で回収すること、すなわち、地下のガス井から出る天然ガスとCO
2とを分離して、輸出用の天然ガスと地下構造物に戻すCO
2とを得るためにCO
2を回収することについては数十年前から知られている。
【0003】
環境および化石燃料の燃焼から生じたCO
2による温室効果に対する懸念の増大に伴い、火力発電所などの主要なCO
2排出地点からのCO
2回収、いわゆる燃焼後CO
2回収への関心が高まっている。
【0004】
発電所が最大のCO
2排出源であるが、製鉄所およびセメント工場のような他の産業でもCO
2回収に同様の技術を用い得る。
【0005】
ともに関西電力株式会社および三菱重工株式会社に対して発行された米国特許第5,618,506号および欧州特許第0558019号ならびにそこに示される引用には、CO
2を回収する工程および吸収剤に関する一般的背景が記載されている。
【0006】
工業用CO
2回収プラントには、中の液状吸収剤を処理対象のガスと向流接触させる吸収塔が含まれる。「精製された」ガス、すなわち低CO
2のガスが吸収塔上部で取り出されて大気中に放出されるのに対して、CO
2リッチ吸収剤は吸収塔底部から取り出される。リッチ吸収剤は再生塔で再生されるが、この再生塔の中では、再生された吸収剤が再生塔底部で加熱されて発生した蒸気との向流によってリッチ吸収剤がストリッピングされる。再生された吸収剤は再生塔底部から取り出され、吸収塔を再循環する。CO
2リッチガスは主として蒸気とCO
2とを含み、再生塔上部から取り出される。CO
2リッチガスがさらに処理を受けて水が除去され圧縮された後、CO
2は保管またはその他の用途に送られる。
【0007】
しかし、CO
2と吸収剤との結合が発熱反応であり、再生が吸熱反応であるため、CO
2の回収は大量のエネルギーを必要とする工程となる。したがって、吸収塔で熱が失われ、吸収剤の再生とCO
2の解離のために再生塔に熱を加えなければならない。このとき必要とされる熱がCO
2回収プラントの主要な操業コストとなっている。そこで、CO
2回収にかかるエネルギーコストを削減するため、吸収剤の再生に必要な熱量の低減が求められている。
【0008】
これまでCO
2吸収能のある様々なアミンおよび組合せがCO
2の吸収剤として数多く提案されおり、例えば、上記特許を参照されたい。吸収剤として使用する水溶液用に提案されているアミンの例には、アルカノールアミン、例えばモノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、ジグリコールアミン(DGA)、メチルモノエタノールアミン(MMEA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)などがある。MEAはほかにも、可能性のある新たな吸収剤の試験の標準収剤としてよく用いられる。
【0009】
工業規模のCO
2回収に使用できる可能性のある吸収剤を選択する際には、様々なアミンの反応速度、必要熱量、反応熱、アミン平衡負荷、分解、安定性、水溶性および吸収能が関心の対象となる。
【0010】
このほかアミンは、使用される環境中で分解しやすく腐食性である。アミンは、異なる機序を介して熱分解および酸化分解の両方によって分解される。分解は望ましいものではなく、それは分解によって吸収剤が不活性化し、プラント内にアミンを補給充填する必要が生じるため、大量の廃棄物が生じる可能性があること、および長期間操業することにより、分解生成物(いわゆる熱安定性アミン塩)と結合した使用可能なアミンを回収するのに回収ユニットに依存する割合が高くなることの2つの理由による.
【0011】
燃焼排ガスから回収する場合、天然ガス処理のようにこれより前の段階でアミンに基づく吸収技術を適用する場合とは異なり、処理済みのガスが大気中に放出される。これは揮発性のアミン成分または分解生成物が環境に排出される危険性があることを意味する。
【0012】
したがって、分解しにくいアミンであれば、プラントから排出される清浄後の排ガスに含まれる分解生成物の排出量が抑えられる。
【0013】
近年アミン技術の開発が進み、燃焼排ガス中のNO
xと溶媒中の第二級アミンが反応してニトロソアミンと呼ばれる1群の発癌性化合物が生成する可能性があることが明らかにされている。第二級アミンは溶媒の一部として存在するか、分解生成物として生成し得る。第二級アミンの使用を避け、溶媒の分解を抑えることによってニトロソアミンの生成が抑えられる。
【0014】
腐食に関しては、それがプラントの重要な部品に対して有害であり、その耐用年数を短くし、より高価な構成要素の必要性を生じさせ得ること、またFeイオンなどの腐食生成物が高度の分解を生じさせることによって吸収剤に悪影響を及ぼし得ることが懸念されている。
【0015】
国際公開第2010134926A1号は、熱に安定なアミンと水とを含む低揮発性の水性組成物に関するものである。最大130〜170℃まで熱に安定であると考えられる熱に安定なアミンが多数挙げられている。ここに挙げられているアミンには、ピペラジン(PZ)、置換ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)および様々なアミノアルキルアルコール、例えば3−アミノ−1−プロパノール(AP)、4−アミノ−1−ブタノール(AB)などがある。ここでは低温での酸化分解も腐食に対するアミンの影響も示されていない。
【0016】
Chemical Engineering & Technology、第33巻、第3号、p.461〜467、「CO
2 Absorption into Aqueous Solutions of a Polyamine(PZEA),a Sterically Hindered Amine(AMP),and their Blends」(2010年3月)には、アミン水溶液およびアミン混合物の試験ならびに被験アミン溶液のCO
2回収における性能が記載されている。MEA、PMEAおよびMEA溶液の活性化剤としてPZEAの使用について記載されている。
【0017】
International Journal of Greenhouse Gas Control 1(2007)、p.5〜10、「Structure and activity relationships for Amine based CO
2 absorbents−I」は、アミンアルキルアルコールのようなアミンのCO
2吸収特性、例えば鎖長の機能などの試験に関するものである。この刊行物では吸収剤の安定性については論じられていない。
【0018】
本発明の目的は、CO
2含有ガスからCO
2を回収するための改善された吸収剤および改善された方法を提供することであり、この改善された吸収剤は、標準的な吸収剤に比して酸化分解に対する耐性が向上しており、よく用いられる構成材料に対する腐食性が低い。さらなる目的は、ニトロソアミン生成の危険性が低い吸収剤を提供することである。さらなる目的は、改善された吸収剤ならびに許容される反応速度および吸収能が得られると同時に吸収剤の再生に必要なエネルギー量が少ないCO
2回収方法を提供することである。このほか、新規な吸収剤の使用方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【0019】
第一の態様によれば、本発明は、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)と3−アミノ−1−プロパノール(AP)の組合せまたはAMPと4−アミノ−1−ブタノール(AB)の組合せを含む水性CO
2吸収剤に関する。
【0020】
驚くべきことに、AMPとAPまたはAMPとABとを含むCO
2吸収剤は、MEA単独またはAMPと組み合わせたMEAなどの他のよく知られた「標準的な」吸収剤よりもはるかに酸化分解しにくいことがわかった。さらに本発明の吸収剤は、実験室での試験でもパイロットプラントでもはるかに低い腐食性を示す。腐食によって引き起こされる吸収剤中へのイオンの遊離がアミンの酸化分解を増大させることがわかっている。したがって、本発明の吸収剤はプラントの部品に対して腐食性が低いため、吸収剤中へのイオンの遊離が少なく、本発明のアミン系吸収剤に本来備わっている酸化分解に対する耐性を増大させる。
【0021】
本発明の吸収剤は第一級アミンであるため、本発明の吸収剤をCO
2回収に使用するとニトロソアミンの生成が実質的に低減されると考えられる。このほか、本発明の吸収剤は分解しにくいため本発明の吸収剤をCO
2回収に使用するとニトロソアミンの生成が実質的に低減されると考えられる。さらに本発明の吸収剤は、CO
2濃度に対する吸収速度および脱着速度をそれぞれ試験で測定したところ、工業規模のプラントに有望な候補であることがわかった。
【0022】
第一の実施形態によれば、AMPの濃度は10〜35重量%であり、APまたはABの濃度は10〜40重量%である。AMPの濃度の上限値は、水溶液中、AMPの濃度を高くした状態でCO
2と反応して形成される沈殿によって設定される。水性吸収剤中の溶質の総濃度は従来、溶液の粘度が高くなりすぎないように、また一定量の水が必要とされることから、約50重量%に制限される。しかし、AMPとABまたはAPの総濃度、50重量%という値は絶対的な限界値ではない。しかし、プラント稼働時の総濃度は現時点で50重量%以下など60重量%未満になると推定される。
【0023】
一実施形態によれば、AMPの濃度は少なくとも10重量%、例えば少なくとも20重量%、例えば少なくとも25重量%または少なくとも30重量%などである。APまたはABの濃度は少なくとも10重量%、例えば少なくとも20重量%、例えば少なくとも25重量%または少なくとも40重量%などである。
【0024】
一実施形態によれば、吸収剤はAMPとAPの組合せを含む。
【0025】
第二の態様によれば、本発明は、火力発電所または工業施設から出る排ガスなどのCO
2含有ガスからCO
2を回収する方法に関し、この方法では、吸収塔でCO
2含有ガスをCO
2吸収剤と向流させCO
2が除去されたガスにして環境中に放出し、CO
2リッチ吸収剤を吸収塔底部で収集して再生し、吸収塔内を再循環させ、ここではCO
2吸収剤は上に記載される吸収剤である。
【0026】
第三の態様によれば、本発明は、CO
2含有ガスからCO
2を回収する方法における、AMPとAPの組合せまたはAMPとABの組合せの水溶液のCO
2吸収剤としての使用に関する。
【0027】
一実施形態によれば、AMPを10〜35重量%の濃度で使用し、APまたはABを10〜40重量%の濃度で使用する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】CO
2濃度に対する比較用吸収剤および2種類の本発明による吸収剤の吸収速度のプロットを示す図である。
【
図2】CO
2濃度に対する比較用吸収剤および2種類の本発明による吸収剤の脱着速度のプロットを示す図である。
【
図3】Feイオンの存在下および非存在下での2種類の比較用吸収剤および1種類の本発明による吸収剤の酸化分解の試験の結果を可視化した図である。
【
図4】2種類の比較用吸収剤および1種類の本発明による吸収剤の腐食作用の試験の結果を可視化した図である。
【
図5】試験に用いるパイロットプラントの基本的な略図である。
【
図6】腐食の結果をパイロットプラントの吸収剤中のFeイオン濃度と稼働時間数の関数として可視化した図である。
【
図7】腐食の結果をパイロットプラントの吸収剤中のCrイオン濃度と稼働時間数の関数として可視化した図である。
【
図8】腐食の結果をパイロットプラントの吸収剤中のNiイオン濃度と稼働時間数の関数として可視化した図である。
【
図9】パイロットプラントで1000時間使用した後の様々なアミンの相対的分解の結果を可視化した図である。
【
図10】パイロットプラントで1000時間使用した後のニトロソアミン生成の結果を可視化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、CO
2回収のための改善されたアミン系吸収剤および改善されたアミン系吸収剤を用いてCO
2を回収する方法に関する。
【0030】
本発明は反応速度の異なる2種類の異なる第一級アミンを混合することに基づくものであり、一方の第一級アミンが立体障害アミン、すなわち2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)であり、他方の第一級アミンがモノアルカノールアミン、すなわち3−アミノプロパノール(AP)または4−アミノブタノール(AB)である。
【0031】
立体障害アミンのAMPは吸収剤の再生に必要なエネルギー量が少ないことがわかっているが、反応速度が遅いことにより、吸収塔でCO
2含有ガスと吸収剤をより長い時間接触させる必要があるため、吸収塔に悪影響を及ぼす。モル濃度5mol/lに相当する30重量%で使用されることが多い標準アミンのMEAとは異なり、AMPはCO
2との反応時に形成される沈殿のため、単独では約35重量%に相当する約4mol/lを上回る濃度で使用することはできない。このことが、第二の成分を組み合わせて使用しない限りAMPの吸収能を制限する。
【0032】
これに対して、APおよびABはエネルギー必要量が多いが、反応速度がAMPよりも速いことがわかっている。
図1および2から、AMP+APの方が工業標準MEAよりも循環能が高く、ストリッピングの点で優れていることがわかるが、このことは、A+Bの方が燃焼後のCO
2回収のための吸収剤としてMEAよりもエネルギー必要量が少ないことを示している。
【0033】
本発明によれば、10〜35重量%のAMPと10〜40重量%のAPまたはABとを含む水性CO
2吸収剤の方が、工業標準吸収剤のMEAよりも実質的に熱分解および酸化分解されにくいことがわかる。さらに、新規な吸収剤は優れた反応速度、吸収能および低エネルギー必要量を示す。
【0034】
少なくとも15重量%、例えば少なくとも20重量%または少なくとも25重量%、例えば約30重量%などのAMPが吸収剤中に存在するのが好ましい。このほか、少なくとも15重量%、例えば少なくとも20重量%または少なくとも25重量%、例えば約30重量%などのAPまたはABが吸収剤中に存在するのが好ましい。
【0035】
上に挙げたアミンの濃度は、水溶液中の総アミン濃度では50%に相当し、AMPとAPまたはABの重量比では10:40〜35:15、例えば10:40〜35:15、20:30〜30:20、25:25などに相当するものである。以下では、本発明による吸収剤の例とMEAを単独で使用した比較用の例に関して様々な試験を実施した。実験に関する部分は、様々な被験吸収剤の吸収速度、吸収能、循環能、粘度および吸収平衡などの重要な特性の予備的な相対比較のためのスクリーニング実験に関する初めの導入部と、パイロットプラントで実施した試験に関する第二部とに分ける。
【0036】
スクリーニング実験
最初に候補アミン混合物の吸収速度およびだ脱着速度について工業標準の30重量%のMEA(5M)と比較して見当をつけるため、スクリーニング実験を実施した。吸収速度は、吸収塔に必要な高さと直接関係のある吸収剤の物質移動促進特性の尺度である。反応速度の速い吸収剤を用いればその分、回収塔の高さを低くすることができる。溶媒の循環能とは、吸収条件下で達成可能なCO
2負荷量と、脱着条件下で達成される最小CO
2負荷量との差のことである。燃焼排ガスからの吸収/脱着は、最も重要な機序の温度スイングに基づくものである。吸収能の温度感受性が著しく高い溶媒では循環能が高くなるため、CO
21モルを回収するのに必要な液体の循環量が少なくなり、必要なエネルギーも少なくなる。実際の工程では、脱着を通常110〜130℃で実施する。40℃(吸収スクリーニング条件)から80℃までの昇温に基づく脱着スクリーニング曲線により、様々な溶媒について重要な温度感受性および循環能の相対比較ができる。
【0037】
試験は、工業的吸収工程に使用できる可能性のある溶媒の吸収速度および吸収能を迅速に相対比較できるよう設計された装置で実施した。この比較方法は、1993年から比較研究に用いられてきたものである(例えば、Ergaら,1995を参照されたい)。相対比較用の装置であるため、結果の解釈は特定濃度のベースケースのアミンの仕様に依存する。
【0038】
吸収速度は、吸収塔に必要な高さと直接関係のある吸収剤の物質移動促進特性の尺度である。反応速度の速い吸収剤を用いれば、通常その分、塔の高さを低くすることができる。溶媒の吸収能は、循環能の高い工程の前提条件として重要な特性である。スクリーニング実験ではほかにも、溶媒劣化の指標となり得るCO
2負荷時の発泡度、沈殿形成および変色について観察することができる。スクリーニング試験を実施して、しかるべきAMPとAPの濃度を選択するための指標を得る。
【0039】
様々なAP/AMP濃度を試験し、5M(30重量%)MEAと比較した。30%MEAの試験を再現することによって再現性を管理した。
【0040】
溶媒の吸収能は、工程の循環能を最大限にするための重要な前提条件である。MEAおよびAPでは、反応化学量論によって吸収能が周囲圧力下でアミン1モル当たりCO
2約0.5モルに制限される。AMPは立体障害アミンであり、炭酸水素塩を形成するため、CO
2分圧によってはアミン1モル当たりCO
20.5モルよりも多く負荷することが可能であり、理論上の最大負荷量は1.0である。しかし、AMPを用いて循環能を高くするには、ほかにも吸収条件下でのCO
2平衡圧を高くする必要があることに留意しなければならない。
【0041】
物質移動スクリーニング装置を用いて、40℃でのCO
2吸収速度を測定し、次いで80℃で窒素により脱着速度を測定する。液体の中を浮上するガス気泡を発生する焼結ガラス製の拡散器でガスを分散させる。最初にCO
2を、排ガス中のCO
29.5%に相当する95%の平衡状態に達するまで、40℃でこの気泡の表面から液体中に吸収させる。次いで、リッチ溶液を80℃まで加熱し、排ガス中のCO
2濃度が1体積%に低下するまで純窒素による脱着を開始する。ガス供給および水浴の冷却または加熱のための電磁弁システムをコンピュータにより制御する。
【0042】
排ガスのCO
2含有量をIR CO
2分析器により測定する。各実験の後、液体の累積重量を測定し正味のCO
2吸収量と比較する。これは、溶媒が蒸発によって失われないことを確認するためのものである。このほか一連の吸収/脱着後、CO
2分析用に溶媒の試料を採取する。
【0043】
AMPおよびAMP+APの結果
図1は、水性溶媒中のアルカノールアミン濃度を20重量%のAMP+30重量%のAPの溶液、26.7重量%のAMP+22.5重量%のAPおよび30重量%のMEAとして得られた、CO
2濃度に対する吸収速度の結果を示し、
図2は同じ吸収剤のCO
2濃度に対する脱着速度を示している。
【0044】
図1では、20重量%のAMP+30重量%のAPのアミン溶液の吸収速度はMEAと同程度であり、吸収能はMEAよりも高いことがわかる。26.7重量%のAMP+22.5重量%のAPは吸収速度および吸収能がともにMEAより低いが、依然として吸収剤として有望な候補である。
【0045】
図2は、AMP+APを含むアミン溶液が2種類とも、MEA単独より正味のCO
2吸収能が高いことを示している。したがって、AMP+AP溶液はともにCO
2吸収剤として有望である。
【0046】
酸化分解
ガラス製の反応槽内の予めCO
2を負荷したアミン溶液中に空気とCO
2とを含有する反応ガスを焼結ガラスにより拡散させて酸化分解実験を実施した。反応ガスのガス流速および組成をマスフローコントローラ(MFC)によって制御する。55℃の一定温度にするため、反応槽には水浴と接続した恒温ジャケットを取り付ける。反応槽上部に水道水で冷却される400mmの強力な冷却器を2つ接続する。ガスは冷却器を通った後、ガス洗浄瓶を経てから換気ドラフトに行くようにする。実験を約500時間実施し、一定間隔でアミン分析用に試料を採取する。開始時と終了時のアミン濃度の差がアミン分解の尺度となる。
【0047】
図3は、Feイオンの存在下および非存在下での3種類の異なるアミン系CO
2吸収剤の酸化分解を示している。この3種類の異なるアミン溶液は、20重量%のAMP+30重量%のAP(本発明による吸収剤)、25重量%のMEA+25重量%のAMPおよび30重量%のMEAであった。
【0048】
図で可視化された結果は、溶液中にFeイオンが存在する場合も存在しない場合も、本発明による吸収剤、すなわち20重量%のAMP+30重量%のAPの方がMEA+AMPまたはMEA単独を含む吸収剤よりも分解に対する耐性が大幅に向上していることを示している。
【0049】
Feイオンを用いた試験から、分解速度がプラントの第一鉄材料の腐食の結果生じるFeイオンによって受ける影響の大きさがわかる。Feイオンがあると、いずれの被験吸収剤も分解が増大することは明らかである。
【0050】
吸収剤の腐食作用
ステンレス鋼製セル(316SS、OD=1/2インチ(12.7mm)、厚さ=1.7mm)を用いてCO
2−アミン−水系の腐食作用に関する実験を実施した。各セルは体積が約27cm
3であり、Swagalokバルブを取り付けた。1組の実験にセルを5個用いた。各セルにN2(99.999%)を流してセル内の空気を追い出した。次いで、一定量のCO
2負荷アミン溶液(約15cm
3)をセルに注入し、セル内に空気が存在しないようにするため、バルブを閉じる前にセル上部にN2を流した。次いで、セルを強制対流式オーブン内に135℃で5週間置いた。週1回、セルを1個取り出して誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)による金属の分析に供した。
【0051】
図4は、上記の方法に従って測定した異なる水性アミン系CO
2吸収剤の腐食作用を示している。試験期間後のアミン溶液中のFeイオン濃度は、標準試験におけるアミン溶液に対する腐食作用の明確な指標である。
【0052】
図4に図示される結果は、本発明による吸収剤がMEA+AMPまたはMEA単独よりもはるかに腐食性が低いことを明確に示している。
【0053】
Feイオンの存在下および非存在下での酸化分解の結果と、被験アミン系吸収剤の腐食作用の結果とを考え合わせると、2つの異なる作用によって、CO
2回収プラントでは本発明による吸収剤の方がはるかに酸化分解されにくくなる可能性がきわめて高い。第一に、本発明の吸収剤は、標準的な条件下およびFeイオン濃度下で、Feイオンの存在下および非存在下のいずれにおいても酸化分解の分解速度が比較用吸収剤よりも低い値を示す。第二に、本発明の吸収剤の腐食作用は実質的に比較用吸収剤よりも低い。これは、本発明の吸収剤を使用することによって、プラント内を循環する吸収剤中のFeイオン濃度が長期間低く維持され、おそらくはプラントの耐用年数の間、Feイオンの濃度が低く維持されることを意味する。このことは、本発明の吸収剤の分解がCO
2回収プラントにおいて実質的に比較用吸収剤よりも少なくなることを示すものである。
【0054】
パイロットプラントでの試験
図5に示される燃焼後CO
2吸収のための小規模のパイロットプラントで試験キャンペーンを実施した。天然ガスに適用され得るプロパンバーナによって発生した排ガスまたは空気との混合もしくはCO
2の再循環による石炭由来の燃焼排ガスがそれぞれ、排気管1から導入される。排気管の排ガスは直接接触冷却器2に導入され、そこで水との向流によって洗浄および加湿される。次いで冷却および加湿された排ガスは吸収塔に導入され、図示されていない充填部で、リーンアミンの管4から導入された水性吸収剤と向流する。CO
2を吸収したリッチ吸収剤は吸収塔底部で収集され、リッチ吸収剤の管5から取り出され、一方、CO
2リーン排ガスは、洗浄区間で洗浄水冷却回路19、19’を再循環する水により洗浄された後、リーン排気管6から環境中に放出される。
【0055】
管5のリッチ吸収剤は、熱交換器7によってライン4のリーン吸収剤から熱を受けた後、再生塔8に導入され、そこで蒸気との向流によってストリッピングされる。ストリッピング上記はリボイラ11で発生し、このリボイラ11には再生塔底部で収集されたリーン吸収剤がリーン吸収剤を取り出す管10から導入される。蒸気管13に導入された蒸気によってリボイラ内での蒸気生成のための熱が加えられ、管13の蒸気はリボイラ内で凝縮されて凝縮液管13’から取り出される。
【0056】
リボイラ11からリーン吸収剤がリーン吸収剤の管4に取り出され、吸収塔を再循環する。再生塔内の蒸気および吸収剤から遊離したCO
2は、図示されていない洗浄区間で洗浄水冷却回路20、201を循環する水との向流によって洗浄された後、CO
2収集管9から取り出される。CO
2および蒸気は冷却器14で冷却され、フラッシュドラム15で気液分離されて、再循環ライン17から再生塔に入って再循環する水および管16から取り出されてさらに処理される不完全乾燥のCO
2となる。
【0057】
このパイロットプラントは吸収塔充填部の高さが19.5m、脱着部の高さが13.6mであり、プラントのあらゆる部分にガスおよび液体のサンプリングポート、温度および圧力プローブならびにガス/液体流量の測定器を十分に備えている。
【0058】
図6、7、8に示される時点でパイロットプラントを循環する吸収剤から試験試料を取り出し、被験アミン系吸収剤の腐食作用の指標となるFeイオン、NiイオンおよびCrイオンの濃度を試験した。
【0059】
図6、7、8はそれぞれ、1000時間のパイロットプラント稼働時におけるアミン系吸収剤のFeイオン、NiイオンおよびCrイオンの濃度を示している。試験の結果は、本発明によるアミン系吸収剤、20重量%のAMP+30重量%のAPの方が、比較用吸収剤、25重量%のMEA+25重量%のAMPまたは30重量%のMEA単独よりもはるかに腐食性が低いことを明確に示している。
【0060】
図9は、30重量%のMEA、25重量%のMEA+25重量%のAMPおよび30重量%のAP+20重量%のAMPについて、パイロットプラントで1000時間稼働させた後のアミンの相対的分解量を示している。
【0061】
導入部分に記載した通り、ニトロソアミンの生成がアミン分解の指標となる。上のパイロットプラント試験で示したように稼働させたパイロットプラントの稼働時のニトロソアミンの生成を明らかにする試験を実施した。
図10に示される時点で試験試料を取り出し、総ニトロソアミンをヘッドスペースGC−MS−NCDにより、HClおよびCuClで70℃にて処理した後に放出されるNOとして分析した。この方法は、Wang J.らのJ.Agric.Food Chem,2005,53,4686−4691に記載されている方法を修正したものである。機器の主な修正点は、Sievers Nitric Oxide Analyserの代わりにGC−MS−NCDを用いたことである。
【0062】
図10は、約1000時間にわたるパイロットプラント稼働時のアミン系吸収剤中の総ニトロソアミン濃度の変化を示している。試験の結果は、本発明によるアミン系吸収剤、20重量%のAMP+30重量%のAPにおけるニトロソアミン生成が、25重量%のAMP+15重量%のPZなどの第二級アミンを含有するアミン系吸収剤に比して大幅に低減されていることを明確に示している。
【0063】
図6、7、8、9、10に可視化した試験の結果から、本発明の水性アミン系吸収剤にはステンレス鋼に対する腐食作用に有益な効果があり、試験した比較用吸収剤よりも分解、主として酸化分解を受けにくいことが確認される。
【0064】
パイロットプラント稼働で得られた結果はいずれも、本願で特許請求されるアミン系吸収剤の方が先行技術による比較用アミン系吸収剤よりも実質的に腐食性が低く、分解される程度が低いことを示すものである。