特許第6339310号(P6339310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339310
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】ろう付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20180528BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20180528BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20180528BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20180528BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   B23K1/19 F
   B23K1/19 G
   B23K31/02 310B
   B23K31/02 310F
   B23K35/28 310A
   C22C21/00 D
   C22C21/06
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-232583(P2011-232583)
(22)【出願日】2011年10月24日
(65)【公開番号】特開2013-91066(P2013-91066A)
(43)【公開日】2013年5月16日
【審査請求日】2014年8月7日
【審判番号】不服2016-15461(P2016-15461/J1)
【審判請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 明夏里
(72)【発明者】
【氏名】野村 祐司
(72)【発明者】
【氏名】太田 英俊
【合議体】
【審判長】 西村 泰英
【審判官】 平岩 正一
【審判官】 中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−35232(JP,A)
【文献】 特開2005−264259(JP,A)
【文献】 特開2007−190574(JP,A)
【文献】 特開2013−31862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/19
B23K 31/02
B23K 35/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる芯材と、前記芯材の皮材として設けられたろう材とを備えたブレージングシートをろう付けする方法において、前記ろう材のマグネシウム含有量が1.0〜5.0重量%であり、窒素濃度が1%以下であるアルゴン雰囲気又はヘリウム雰囲気中で加熱するろう付け方法。
【請求項2】
前記アルゴン雰囲気又は前記ヘリウム雰囲気中で加熱する際の昇温速度が毎分30〜200℃の範囲である請求項1記載のろう付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムのろう付け方法に関し、詳しくは、ろう材によってアルミニウムを接合するアルミニウムのろう付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器などをアルミニウム(以下、アルミニウム合金を含む)で製作する場合、アルミニウム製の各部材間にAl−Si系合金からなるろう材を配置し、このろう材の溶融温度よりも高温の約600℃に加熱してろう材を溶融させることにより、各部材を接合するろう付け方法が一般的に採用されている。
【0003】
アルミニウムをろう付けする際には、アルミニウムの表面に形成される酸化皮膜がろう付けの障害となるため、酸化皮膜を除去するフラックスを使用してろう付けを行ったり、酸素の影響を受けない高真空中でろう付けを行ったりしている。しかし、フラックスを使用する方法では、加熱前にフラックスを塗布する作業が必要であり、ろう付け後のフラックスの残渣が悪影響を及ぼすことがある。また、真空中でろう付けする方法では、加熱中の真空度を厳密に管理する必要があることから、高価な真空炉が必要になり、また、バッチ式であるために生産性が悪いという問題がある。
【0004】
このようなことから、ろう付けを行うアルミニウム部材(被ろう付け物)に覆いをし、覆い内部の雰囲気気体の流れを抑え、かつ、覆い内部にMg供給源を配置することにより、フラックスを使用したときの問題点や真空中でろう付けする際の問題点を回避したろう付け方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−85433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された方法では、加熱炉の内部に覆いを設けるため、覆いの内部の温度制御が困難となり、ろう付け不良が発生しやすいという問題があった。また、同様の提案が種々成されているが、いずれのものも、生産性やコストの面で実用的なものとはいえなかった。
【0007】
そこで本発明は、フラックスを使用せず、高価な真空炉も必要とせずに、効率よく確実にアルミニウムのろう付けを行うことができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のろう付け方法は、アルミニウム合金からなる芯材と、前記芯材の皮材として設けられたろう材とを備えたブレージングシートをろう付けする方法において、前記ろう材のマグネシウム含有量が1.0〜5.0重量%であり、窒素濃度が1%以下であるアルゴン雰囲気又はヘリウム雰囲気中で加熱することを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明のろう付け方法では、前記アルゴン雰囲気又は前記ヘリウム雰囲気中で加熱する際の昇温速度は、毎分30〜200℃の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウムのろう付け方法によれば、0.05〜5.0重量%の、好ましくは1.0〜5.0重量%のマグネシウムを含有したろう材を用いることによってマグネシウムの酸化還元作用で酸化皮膜を破壊することができるとともに、アルゴン雰囲気又はヘリウム雰囲気中で加熱することにより、低真空、微加圧雰囲気でろう付けが可能となり、高性能の真空ポンプを備えた高価な真空炉を必要とせずにアルミニウムのろう付けを行うことができる。また、アルゴン雰囲気又はヘリウム雰囲気とすることにより、溶融したろう材の濡れ性が向上し、アルミニウム製の各部材間に生じた隙間にろう材が隙間なく流れるので、良好なろう付け性を得ることができる。
【0011】
さらに、雰囲気中の窒素濃度を1%以下にすることにより、アルミニウムやマグネシウムが窒化することを防止してろう材の濡れ性を更に向上させることができる。昇温速度を毎分30〜200℃、好ましくは毎分40〜180℃といった比較的早い昇温速度とすることにより、雰囲気中に存在する酸素の影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】隙間充填試験の実施状態を示す説明図である。
図2】隙間充填試験を行った実験装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるアルミニウムのろう付け方法は、まず、ろう材として0.05〜5.0重量%の、好ましくは1.0〜5.0重量%のマグネシウムを含有したろう材を用いる。ろう材のマグネシウムの含有量が0.05重量%未満では、マグネシウムの酸化還元作用が十分ではなく、アルミニウム表面の酸化皮膜を完全に除去することができず、マグネシウムの含有量が1.0重量%以上であれば、アルミニウム表面の酸化皮膜の除去をより確実に行うことができる。一方、ろう材のマグネシウムの含有量が5.0重量%を超えると、マグネシウムがろう材中に残存して溶融したろう材の流れが悪くなり、濡れ性が低下してロウ付け部に隙間が発生してしまうことがある。
【0014】
また、ろう材を加熱炉内で加熱して溶融させる際の加熱炉内は、アルゴン雰囲気又はヘリウム雰囲気とする。雰囲気中の他のガス成分は、できるだけ少ないことが望ましく、酸素のような反応性を有するガス成分はできるだけ除去しておくべきである。不活性ガスとして扱われる窒素の場合も、例えば、雰囲気中の窒素濃度が1%を超えると、マグネシウムが窒化してマグネシウムによる酸化皮膜の除去を十分に行えなくなることがあり、溶融したろう材の流れも悪くなる。また、アルミニウムが窒化すると、溶融したろう材の流れが悪くなって良好なろう付けを行えなくなることがある。
【0015】
加熱炉内で加熱する際の昇温速度は、毎分30〜200℃の範囲、好ましくは毎分40〜180℃の範囲に設定する。昇温速度が低いと、溶融したろう材が酸化される温度帯に晒される時間が長くなり、雰囲気中に存在する酸素によってろう材が酸化されてしまうことがあり、ろう材の流れが悪くなって良好なろう付けを行えなくなることがある。一方、昇温速度を速くすることによって酸化される温度帯に晒される時間を短くでき、ろう材の酸化を抑えて良好なろう付けを行うことはできるが、毎分30〜200℃の範囲、特に、毎分40〜180℃の範囲の昇温速度であれば、溶融したろう材の酸化を十分に抑えることができ、これ以上の昇温速度に設定すると、大容量の熱源を必要とするために設備コストやエネルギーコストの上昇を招くことになる。
【0016】
加熱中の圧力は、特に限定されることはなく、大気圧付近での処理が可能であるから、雰囲気をアルゴン雰囲気又はヘリウム雰囲気に制御可能な構造を有する連続炉でろう付けを行うことが可能である。この場合、外部から加熱炉内への大気の侵入を防止するため、加熱炉内にヘリウムやアルゴンを供給して僅かな陽圧状態にして処理することができる。
【0017】
一方、バッチ式の加熱炉を使用する場合、真空状態にすることによって高価なヘリウムやアルゴンの使用量を抑えることができるとともに、酸素の影響をより確実に排除することが可能であることから、市販の廉価な真空ポンプ、例えば、ダイアフラム真空ポンプを使用して加熱炉内を低真空状態として処理することができる。
【0018】
実験例
軽金属溶接構造協会規格LWS T 8801に準じて隙間充填試験を行った。図1に示すように、水平板(A1050)11の上に、逆T字状になるように垂直板(芯材がA3003、皮材(厚さ0.1mm)がA4004のブレージングシート(20×40×0.89mm))12を配置し、垂直板12の一端から5mmの位置に直径1mmのステンレス製スペーサー13を挟んで試験片14を作成した。加熱には、図2に示す管状(内径50mm×長さ850mm)のバッチ式加熱炉21を使用した。
【0019】
このバッチ式加熱炉21には、一端に雰囲気ガス導入管22が、他端に排気管23が接続され、雰囲気ガス導入管22には圧力計24を設け、排気管23には酸素濃度計25及び露点計26を設けるとともに、逆止弁27を介して排気するように形成した。また、バッチ式加熱炉21の内部にK型熱電対28を挿入して試験片14の温度を測定し、温度記録計29にて温度変化を記録した。ろう付け温度は600℃に設定した。雰囲気ガス導入管22からバッチ式加熱炉21へのガス導入量は毎分5リットルに設定した。水平板11及び垂直板12は、あらかじめ脱脂処理、エッチング処理、中和処理を行って表面を清浄化してから使用した。
【0020】
評価については、溶融したろう材15が水平板11と垂直板12との間の隙間に充填可能な最大長さが35mmであることから、溶融したろう材15の充填長さLが最大長さ35mmに対し95%以上(生じた隙間の大きさが1.5mm以上)をA、最大長さ35mmに対して85%以上(生じた隙間の大きさが1.0mm以上)をB、最大長さ35mmに対して80%以上(生じた隙間の大きさが0.5mm以上)をC、最大長さ35mmに対して80%未満(生じた隙間の大きさが0.5mm以下)をDとした。
【0021】
実験例1
雰囲気ガスの組成を種々設定して前記隙間充填試験を行った。雰囲気ガス、ろう材、昇温速度、ガス流量、隙間充填長さ、充填性評価を纏めて表1に示す。この結果から、雰囲気ガスが窒素のみ、あるいは、窒素を多く含んでいると、マグネシウムの窒化により、ろう材の流れが悪くなって0.5mmの隙間がある部材同士のろう付けができないことがわかる。
【表1】
【0022】
実験例2
昇温速度を種々設定して前記隙間充填試験を行った。雰囲気ガス、ろう材、昇温速度、ガス流量、隙間充填長さ、充填性評価を纏めて表2に示す。この結果から、昇温速度が遅いと、ろう材の流れが悪いことがわかる。
【表2】
【0023】
実験例3
炉内圧力を種々設定して前記隙間充填試験を行った。雰囲気ガス、ろう材、昇温速度、炉内圧力、隙間充填長さ、充填性評価を纏めて表3に示す。この結果から、圧力を高くするとマグネシウムの蒸発が不十分で、アルミニウム表面の酸化皮膜を十分に除去できなくなるため、ろう材の流れが悪くなることがわかる。
【表3】
【0024】
実験例4
A4004を基本としたろう材中のマグネシウム含有量を種々設定して前記隙間充填試験を行った。雰囲気ガス、ろう材、昇温速度、ガス流量、隙間充填長さ、充填性評価を纏めて表3に示す。この結果から、マグネシウムの含有量が少なすぎると、酸化皮膜の除去が不十分となるため、また、マグネシウムの含有量が多すぎるとマグネシウムがろう材中に残存するため、いずれの場合もろう材の流れが悪くなることがわかる。
【表4】
【符号の説明】
【0025】
14…試験片、21…バッチ式加熱炉
図1
図2