特許第6339511号(P6339511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社アドマテックスの特許一覧

<>
  • 特許6339511-熱電変換材料の製造方法 図000002
  • 特許6339511-熱電変換材料の製造方法 図000003
  • 特許6339511-熱電変換材料の製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339511
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/34 20060101AFI20180528BHJP
   H01L 35/16 20060101ALI20180528BHJP
   C22C 12/00 20060101ALI20180528BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20180528BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
   H01L35/34
   H01L35/16
   C22C12/00
   B22F9/00 A
   !B22F9/24 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-44968(P2015-44968)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-164935(P2016-164935A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(74)【代理人】
【識別番号】100160668
【弁理士】
【氏名又は名称】美馬 保彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 洋平
(72)【発明者】
【氏名】片岡 朋治
(72)【発明者】
【氏名】大川内 義徳
【審査官】 鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−219105(JP,A)
【文献】 特開2013−149651(JP,A)
【文献】 特開2013−219308(JP,A)
【文献】 特開2013−138166(JP,A)
【文献】 特開2003−060245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/16
H01L 35/00−37/04
B22F 9/00− 9/30
C22C 5/00−25/00
C22C 27/00−28/00
C22C 30/00−30/06
C22C 35/00−45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi、Te、およびSeの3元合金を含む、Bi−Te−Se系の熱電変換材料の製造方法であって、
BiとTeとを合成し、BiとTeを合金化させて、BiとTeの2元合金を含む2元合金粉末を生成する工程と、
前記2元合金粉末に対して、Se粉末を混合し、300〜470℃の熱処理温度で熱処理することにより、Bi、TeおよびSeが合金化したBi、Te、およびSeの3元合金であるBi(Te,Se)からなる3元合金粉末を生成する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi、Te、およびSeの3元合金を含む熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料は、2つの基本的な熱電効果であるゼーベック効果及びペルチェ効果に基づき、熱エネルギと電気エネルギとの直接変換を行なうエネルギ材料であり、たとえば、熱電変換材料として、Bi−Te−Se系の3元合金材料が挙げられる。
【0003】
このような熱電変換材料の製造方法として、たとえば、Bi、Te、Seを所定量秤量後、これらを混合し、加熱溶解後冷却し、これらの元素を合金化することにより製造する加熱溶融法が提案されている。
【0004】
また、別の製造方法として、例えば、特許文献1では、Bi、Te、Se系の組成を有した熱電変換材料を製造する方法であって、Bi化合物、Te化合物およびSe化合物を液相中で還元することにより、Bi金属ナノ粒子、Te金属ナノ粒子およびSe金属ナノ粒子を合成した合成粒子を生成し、この合成粒子のBi、Te、およびSeを3元合金に合金化すべく合金化熱処理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−243729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Bi、Te、およびSeを液相中で合成し、合金化熱処理した熱電変換材料(具体的にはさらに焼結固化させたバルク体)の熱起電力を測定すると、100〜120μV/Kとなり、上述した加熱溶融法のもの(>200μV/K)に比べて、熱起電力が小さい。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、Bi、Te、およびSeを液相中で合成し、これらを3元合金に合金化熱処理した熱電変換材料に比べて、熱起電力が大きい熱電変換材料を得ることができる熱電変換材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題に鑑みて、発明者らが、鋭意検討を重ねた結果、特許文献1の如き製造方法で製造された熱電変換材料の熱起電力が小さい原因は、熱電変換材料中にアンチサイト欠陥および原子空孔が存在するからであると考えた。
【0009】
すなわち、特許文献1に示す製造方法では、Bi−Te合金のストイキ組成(Bi(Te、Se))近傍で、3元(Bi、Te、Se)同時に合成されるので、合金化熱処理時に、アンチサイト欠陥および原子空孔などが生成しやすい傾向にあると考えた。
【0010】
本発明は、このような考えに基づくものであり、本発明に係る熱電変換材料の製造方法は、Bi、Te、およびSeの3元合金を含む、Bi−Te−Se系の熱電変換材料の製造方法であって、BiとTeとを合成し、BiとTeを合金化させて、BiとTeの2元合金を含む2元合金粉末を生成する工程と、前記2元合金粉末に対して、Seを導入し、300〜470℃の熱処理温度で熱処理することにより、Bi、TeおよびSeが合金化したBi、Te、およびSeの3元合金を含む3元合金粉末を生成する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による熱電変換材料の製造方法によれば、Bi、Te、およびSeを液相中で合成し、これらを3元合金に合金化熱処理した熱電変換材料に比べて、熱起電力が大きい熱電変換材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る熱電変換材料の製造方法を説明するための模式的概念図であり、(a)〜(e)は、その一連の工程を説明するための図である。
図2】実施例1および比較例1に係る熱電変換材料の熱起電力の測定結果を示したグラフ。
図3】実施例2〜4および比較例2、3に係る熱電変換材料の熱処理温度と、熱起電力との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態では、Bi、Te、およびSeの3元合金を含む、Bi−Te−Se系の熱電変換材料を製造する。図1は、本発明の実施形態に係る熱電変換材料の製造方法を説明するための模式的概念図であり、(a)〜(e)は、その一連の工程を説明するための図である。
【0014】
1.BiとTeとの液相合成およびろ過洗浄
まず、図1(a)に示すように、塩化ビスマス(BiCl)および塩化テルル(TeCl)をエタノールに溶解した原料溶液Aを作製し、収容タンク11に収容する。次に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)をエタノールに溶解した還元剤溶液Bを作製し、収容タンク12に収容する。
【0015】
収容タンク11から原料溶液Aを搬送管13に流し、収容タンク12から還元剤溶液Bを搬送管14に流し、反応部16の合流管15で、原料溶液Aと還元剤溶液Bとを合流させる。これにより、塩化ビスマス(BiCl)および塩化テルル(TeCl)が、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)と反応し、受タンク17で、Bi系ナノ微粒子とTe系ナノ微粒子が合成されたスラリーを含むエタノールCが収容される。
【0016】
次に、図1(b)に示すように、得られたスラリーを含むエタノールCをろ過洗浄器21に流し、ろ過洗浄器21のフィルタにスラリーSを捕獲し、捕獲したスラリーSを水で洗浄する。ろ過時に排出されたエタノールおよび水は、排出タンク22に排出される。
【0017】
2.BiとTeとの合金化
次に、スラリーSに含まれる、Biナノ微粒子のBiとTeナノ微粒子のTeとを合金化させて、BiとTeの2元合金を含む2元合金粉末を生成する。具体的には、洗浄後のスラリーSにエタノールWを供給し、図1(c)に示すように、これを加熱器30内に収容し、攪拌機32で撹拌しながら、例えば240℃、10時間の加熱条件でヒータ31により加熱しながら、ソルボサーマル処理を行う。
【0018】
これにより、BiとTeとを合金化させて、BiTe3−Xの組成にて、BiとTeの2元合金からなる2元合金粉末を得ることができる。なお、本実施形態では、ソルボサーマル処理により、BiとTeの2元合金からなる合金化を行ったが、BiとTeの合成時に、合金化可能な加熱条件を設定し、この加熱温度でBiとTeとを合成し、かつ、これらを2元合金に合金化すれば、ソルボサーマル処理を省略することができる。
【0019】
3.3元合金粉末の作製
次に、2元合金粉末に対して、Seを導入し、300〜470℃で熱処理することにより、Bi、TeおよびSeが合金化したBi、Te、およびSeの3元合金を含む3元合金粉末を生成する。
【0020】
具体的には、BiとTeの2元合金からなる2元合金粉末と、SeからなるSe粉末を混合し、図1(d)に示すように、熱処理装置40の炉42内に収容し、ヒータ41で300〜470℃の熱処理温度、2〜10時間の熱処理時間となるように、混合した粉末を加熱する。これにより、Bi、TeおよびSeが合金化したBi、Te、およびSeの3元合金からなる3元合金粉末(熱電変換材料の粉末)Pが得られる。このような熱処理温度の条件で熱処理を行うことにより、SeをBiとTeの2元合金に十分に拡散させることができる。
【0021】
なお、本実施形態では、2元合金粉末とSe粉末を混合することにより、2元合金粉末に対して、Seを導入し、上述した熱処理を行ったが、例えば、2元合金粉末に、Seを気化したSeガスを供給することにより、Seを導入し、熱処理を行ってもよい。
【0022】
4.3元合金粉末(熱電変換材料の粉末)の焼結
図1(e)に示すように、得られた熱処理により3元合金粉末Pを成形体に成形後、成形体を放電プラズマ焼結装置50内にセットし、放電プラズマ焼結を行い、熱電変換材料Dを得ることができる。
【0023】
このようにして、得られた熱電変換材料は、BiとTeの2元合金に合金化後、Seを導入して、Bi、Te、およびSeを3元合金に合金化したので、3元合金への合金化時に、アンチサイト欠陥および原子空孔の発生することを抑制することができる。この結果、Bi、Te、およびSeを液相中で合成し、Bi、Te、およびSeを同時に3元合金に合金化した熱電変換材料に比べて、熱電変換材料の熱起電力を高めることができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0025】
(実施例1)
以下に示す方法で、Bi、Te、およびSeの3元合金を含む、Bi−Te−Se系の熱電変換材料(試験体)を作製した。
【0026】
(1)BiとTeとの液相合成およびろ過洗浄
塩化ビスマス(BiCl)7.876g、および塩化テルル(TeCl)9.925gを800mlのエタノールに溶解した原料溶液Aを作製した。次に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)10.49gを800mlのエタノールに溶解した還元剤溶液Bを作製した。
【0027】
次に、図1(a)に示すように、原料溶液Aと還元剤溶液Bとを窒素ガス雰囲気下で混合し、塩化ビスマス(BiCl)および塩化テルル(TeCl)を、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)に反応させて、Bi系ナノ微粒子とTe系ナノ微粒子が合成されたスラリーを得た。得られたスラリーを、図1(b)に示すようにろ過洗浄した。
【0028】
(2)BiとTeとの合金化
ろ過洗浄後のスラリーをエタノールと混合し、240℃、24時間の条件でソルボサーマル処理を施して、BiとTeとを2元合金に合金化した。その後、これをエタノールでろ過洗浄し、窒素気流下で乾燥した。これによりBiとTeの2元合金からなる2元合金粉末(乾燥粉末)を得た。
【0029】
(3)3元合金粉末の作製
BiとTeの2元合金からなる2元合金粉末20gに対して、SeからなるSe粉末0.138gを混合(導入)し、400℃、10時間の条件で熱処理を行い、Bi、TeおよびSeが合金化したBi、Te、およびSeの3元合金からなる3元合金粉末を得た。
【0030】
(4)3元合金粉末(熱電変換材料の粉末)の焼結
3元合金粉末を成形型で成形後、460℃、10分の条件で放電プラズマ焼結を行い、Bi、Te、およびSeの3元合金Bi(Te,Se)である熱電変換材料の試験体を得た。なお、実施例1では、上述した(1)〜(4)の工程を6回実施、6つの試験体を作製した。
【0031】
(比較例1)
Bi、Te、およびSeの3元合金を含む、Bi−Te−Se系の熱電変換材料(試験体)を作製した。実施例1と相違する点は、上述した(1)に示す工程で、塩化ビスマス(BiCl)7.876g、塩化テルル(TeCl)9.925g、および塩化セレン(SeCl)7.876gを800mlのエタノールに溶解した原料溶液を作製した点である。実施例1と同様の還元剤溶液を用いて、Bi,Te,およびSeを還元し、Bi系ナノ微粒子、Te系ナノ微粒子、およびSeナノ微粒子が合成されたスラリーを得た。
【0032】
そして、スラリーをろ過洗浄後、上述した(2)で示したソルボサーマル処理を行って、Bi、TeおよびSeが合金化したBi、Te、およびSeの3元合金からなる3元合金粉末を作製後、上述した(3)に示す工程は行わず、上述した(4)に示す焼結を行い、熱電変換材料の試験体を得た。なお、比較例1も、同じ工程を6回実施し、6つの試験体を作製した。
【0033】
<熱起電力の測定>
実施例1に係る6つの試験体、および、比較例1に係る6つの試験体の熱起電力を、熱電特性評価装置(ZEM−3:アルバック理工株式会社製)測定した。この結果を図2に示す。図2は、実施例1および比較例1に係る熱電変換材料(試験体)の熱起電力の測定結果を示したグラフである。なお、図2は、測定した熱起電力の値(測定値)を正値に変換して示した。
【0034】
<結果1>
実施例1に係る試験体(熱電変換材料)の熱起電力は、比較例1のものよりも大きかった。これは、実施例1に係る試験体(熱電変換材料)は、アンチサイト欠陥および原子空孔が、比較例1のものよりも少ないことが起因していると考えられる。すなわち、実施例1に係る試験体(熱電変換材料)は、BiとTeとを2元合金に合金化した後、この2元合金に、Seを導入し、Bi、Te、およびSeの3元合金に合金化したので、比較例1の如くBi、Te、およびSeを同時に3元合金に合金化するのに比べて、アンチサイト欠陥および原子空孔が、生成され難かったと考えられる。
【0035】
(実施例2〜4)
実施例1と同じように、試験体(熱電変換材料)を作製した。実施例1と相違する点は、(3)に示す熱処理条件を、実施例2では300℃、48時間とし、実施例3では370℃、48時間とし、実施例4では470℃、48時間とした点である。
【0036】
(比較例2、3)
実施例1と同じように、試験体(熱電変換材料)を作製した。実施例1と相違する点は、(3)に示す熱処理条件を、比較例2では270℃、48時間、比較例3では、570℃、48時間とした点である。
【0037】
実施例2〜4および比較例2、3に係る試験体(熱電変換材料)に対して、実施例1と同様の方法で熱起電力を測定した。この結果を図3に示す。なお、図3では、図2とは異なり、熱起電力の値を負の値(測定値そのもの)で示した。なお、比較例1(従来)に相当する熱起電力の範囲も、図3に合わせて示した。
【0038】
<結果2>
比較例2および3の熱起電力(大きさ)は、実施例2〜4の如く、上昇しなかった。比較例2の如く熱処理温度が270℃ではその温度が低すぎるため、Seが、BiとTeの2元合金に十分拡散しないので、Bi、TeおよびSeの3元合金への合金化が不十分であり、熱起電力が上昇しなかったと考えられる。
【0039】
一方、比較例3の如く、熱処理温度が570℃ではその温度が高いため、合金化時にBiTe合金の融点(588℃)付近まで過熱されてしまったため、熱起電力が上昇しなかったと考えられる。
【0040】
従って、2元合金粉末に対してSeを導入し、熱処理を行う際には、実施例2〜4の熱処理条件から、300℃〜470℃の熱処理温度で、熱電変換材料の熱起電力が上昇すると考えられる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0042】
11、12:収容タンク、13、14:搬送管、15:合流管、16:反応部、17:受タンク、21:ろ過洗浄器、22:排出タンク、30:加熱器、31:ヒータ、32:攪拌機、40:熱処理装置、41:ヒータ、42:炉、50:放電プラズマ焼結装置、A:原料溶液、B:還元剤溶液、D:熱電変換材料、P:3元合金粉末、S:スラリー
図1
図2
図3