特許第6339710号(P6339710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6339710磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6339710
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20180528BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20180528BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20180528BHJP
   C23C 18/34 20060101ALI20180528BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20180528BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180528BHJP
【FI】
   C22C21/00 N
   G11B5/73
   C23C18/31 A
   C23C18/34
   !C22F1/04 A
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 661D
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 694Z
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-17783(P2017-17783)
(22)【出願日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泰史
(72)【発明者】
【氏名】小室 秀之
(72)【発明者】
【氏名】梅田 秀俊
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/068293(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
G11B 5/62− 5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.10質量%以下、
Fe:0.50質量%以上1.50質量%以下、
Mn:0.50質量%以上1.50質量%以下、
Ni:1.00質量%以上2.00質量%未満を含有し、
残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
前記Fe、前記Mnおよび前記Niの合計量が4.30質量%以下、
前記Feの含有量と前記Niの含有量との比が0.40〜1.00、
前記Mnの含有量と前記Niの含有量との比が0.30〜0.90である磁気ディスク用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Cr:0.05質量%以上0.23質量%以下を更に含有する請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板。
【請求項3】
表面における金属間化合物の絶対最大長が20μm以下である請求項1または請求項2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板からなる磁気ディスク用アルミニウム合金ブランク。
【請求項5】
ヤング率が75GPa以上、耐力が90MPa以上である請求項4に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ブランク。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクからなる磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどが備えるハードディスクドライブ(HDD)の記録媒体としては、アルミニウム合金製の磁気ディスクが多用されている。アルミニウム合金製の磁気ディスクの基板は、円環状に打ち抜いたアルミニウム合金板に矯正焼鈍を施してブランクを作製し、ブランクに切削加工や研削加工を施してサブストレートを作製し、サブストレートに表面処理を施すことによって製造されている。
【0003】
サブストレートは、多くの場合、脱脂処理、酸エッチング処理、デスマット処理、1stジンケート処理、硝酸剥離処理、2ndジンケート処理、無電解Ni−Pめっき処理を順に施される。そして、無電解Ni−Pめっき処理によって成膜されためっき膜の表面に、磁性層、保護膜などが形成されて、読み書き可能な状態の磁気ディスクが製造される。
【0004】
近年、記録データの転送速度の高速化が進んでおり、これに伴って、磁気ディスクの回転数も高速になっている。磁気ディスクは、作動時の回転数が高速であるほど、また、薄肉で軽量であるほど、共振による振動によって正確な読み書きが困難になる。そのため、磁気ディスクの基板には、振動に耐える高い剛性が求められる。振動に耐え得る剛性は、基板を厚肉化することによって確保することが可能である。しかし、基板を厚肉化する手法では、磁気ディスクを軽量にすることができず、また、記録装置への搭載枚数も制約される。そのため、磁気ディスクの基板に関しては、材料自体に高い剛性が要求されるようになっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、アルミニウム合金マトリックス中にセラミックス粒子またはセラミックス繊維のうち少なくとも一方を体積比で5〜50%分散させる磁気ディスク基板用軽量高剛性アルミニウム合金板が記載されている。特許文献1では、アトマイズ法によって得られた純Al粒子と、Al粒子とを混合し、その混合物を溶融温度付近でHIP処理した後、熱間圧延を行ってアルミニウム合金板を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−183146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された磁気ディスク基板用軽量高剛性アルミニウム合金板は、マトリックス粒子として用いる純Al粒子と、Al粒子のようなセラミックス粒子またはセラミックス繊維との混合物をHIP処理するものであるので、粒子や繊維の密着性を高くすることが難しい。そのため、表面に無電解Ni−Pめっき膜を形成したとき、粒子などが脱落して表面に凹凸が生じ、平滑性が高い無電解Ni−Pめっき膜が成膜されない可能性が高い。また、特許文献1に記載された磁気ディスク基板用軽量高剛性アルミニウム合金板は、板毎にHIP処理することを要するため、生産コストがかかるという問題がある。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、剛性が高く、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究した結果、高いヤング率を呈する金属間化合物の体積率を適度に高くすることにより磁気ディスクの基板自体の剛性を高くし、金属間化合物の増加に伴って顕著となるめっき膜の平滑性の低下も抑制して、高い剛性と良好なめっき性とを両立する手法を見出した。すなわち、Si、Fe、MnおよびNiを含有するアルミニウム合金において、高いヤング率を呈する金属間化合物の体積率が高くなるような化学組成に調整すると、Al−Fe−Ni系金属間化合物が粗大に粒成長し易くなったり、Al−Mn−Fe系金属間化合物が鋳造時に集中して晶出し、その部分が圧延で疎らな分布となって、圧延板に筋状欠陥を生じ易くなったり、無電解Ni−Pめっき膜が表面に成膜されない単体SiやMgSiなどが増えたりする。その結果、粒子の脱落や表面処理の均一性の低下により、表面に成膜される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が大きく損なわれる。本発明者は、このようにして引き起こされる無電解Ni−Pめっき膜の平滑性の低下を、Fe、MnおよびNiの比率を制限することによって防止する手法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板は、Si:0.10質量%以下、Fe:0.50質量%以上1.50質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.50質量%以下、Ni:1.00質量%以上2.00質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、前記Fe、前記Mnおよび前記Niの合計量が4.30質量%以下、前記Feの含有量と前記Niの含有量との比が0.40〜1.00、前記Mnの含有量と前記Niの含有量との比が0.30〜0.90であることとした。
【0011】
このような磁気ディスク用アルミニウム合金板によると、Si、Fe、MnおよびNiが所定の含有量の範囲で含まれているため、高いヤング率を呈する金属間化合物が適度に晶出して粒成長し、磁気ディスクの基板自体に高い剛性が備わる。このとき、Feの含有量に対するNiの含有量が所定比の範囲に制限されているため、粗大化し易いAl−Fe−Ni系金属間化合物については形成され難くなる。また、Mnの含有量に対するNiの含有量が所定比の範囲に制限されているため、圧延板に筋状欠陥を生じるAl−Mn−Fe系金属間化合物についても形成され難くなる。その結果、これらの金属間化合物が脱落するなどしてめっき膜の下地の平滑性を大きく損ねることがなくなり、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が高くなる。そのため、これを素材として、剛性が高く、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供することが可能になる。
【0012】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板は、Cr:0.05質量%以上0.23質量%以下を更に含有することとしてもよい。
【0013】
このような磁気ディスク用アルミニウム合金板によると、Crが所定の含有量の範囲で更に含まれているため、晶出物がより微細化されて、析出強化によって強度や耐力が向上する。そのため、これを素材として、剛性が高く、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能でありながら、高い耐力も備える磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供することが可能になる。
【0014】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板は、表面における金属間化合物の絶対最大長が20μm以下であることが好ましい。
【0015】
このような磁気ディスク用アルミニウム合金板によると、粗大な金属間化合物が排除されており、表面に露出している金属間化合物が脱落してめっき膜の下地の平滑性を大きく損ねることがなくなる。そのため、これを素材として、剛性が高く、表面に更に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供することができる。
【0016】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクは、前記の磁気ディスク用アルミニウム合金板からなることとした。
【0017】
このような磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクによると、Si、Fe、MnおよびNiが所定の含有量の範囲で含まれているため、磁気ディスクの基板自体に高い剛性が備わる。このとき、Feの含有量に対するNiの含有量が所定比の範囲に制限されており、また、Mnの含有量に対するNiの含有量が所定比の範囲に制限されているため、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が高くなる。そのため、これを素材として、剛性が高く、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供することが可能になる。
【0018】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクは、ヤング率が75GPa以上、耐力が90MPa以上であることが好ましい。
【0019】
このような磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクによると、磁気ディスクの用途に望まれる剛性、耐衝撃性などを備えた磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供することが可能になる。
【0020】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートは、前記の磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクからなることとした。
【0021】
このような磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートによると、Si、Fe、MnおよびNiが所定の含有量の範囲で含まれているため、磁気ディスクの基板自体に高い剛性が備わる。このとき、Feの含有量に対するNiの含有量が所定比の範囲に制限されており、また、Mnの含有量に対するNiの含有量が所定比の範囲に制限されているため、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が高くなる。そのため、高い剛性と、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な良好なめっき性とが備わる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板および磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクは、剛性が高く、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供することができる。また、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートは、高い剛性と、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な良好なめっき性とを備える。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートについて説明する。なお、以下の説明では、本実施形態に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランク、および、磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートのそれぞれを、単に「アルミニウム合金板」、「ブランク」、「サブストレート」ということがある。
【0024】
[アルミニウム合金板]
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、所定の含有量の範囲でSi、Fe、MnおよびNiを含有するアルミニウム合金からなる。また、アルミニウム合金板は、Fe、MnおよびNiの含有量の合計が所定の範囲に制限されており、Feの含有量とNiの含有量との比の値、および、Mnの含有量とNiの含有量との比の値が、それぞれ、所定値の範囲に限定された化学組成を有する。
【0025】
但し、アルミニウム合金板は、Si、Fe、MnおよびNiに加えて、Crを所定の含有量の範囲で更に含有し、その残部がAlおよび不可避的不純物からなる化学組成とされてもよい。以下、アルミニウム合金板に含まれる各成分の含有量と、含有量の限定の理由について説明する。
【0026】
(Si:0.10質量%以下)
Siは、通常、地金中の不可避的不純物としてアルミニウム合金中に混入し、単体Siや、Al−Fe−Si系金属間化合物などを形成する。Siの含有量が0.10質量%を超えると、単体Siが多くなり、ジンケート反応が進み難くなって、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる。そのため、Siの含有量は、0.10質量%以下とする。なお、Siの含有量は、単体Siなどの生成を抑制する観点からは、0.05質量%以下とすることがより好ましい。Siの含有量は、低いほど望ましく、0質量%でも本発明の特性を損なわないが、高純度の原料(Al地金および中間合金地金など)が必要になるのでコストが高くなる。そのため、Siの含有量は、0.004質量%以上とすることが工業的に好ましい。
【0027】
(Fe:0.50質量%以上1.50質量%以下)
Feは、強度やヤング率の向上に寄与する。Feの含有量が0.50質量%未満であると、金属間化合物が減ってヤング率が低くなり、高い剛性が得られなくなる虞がある。また、晶出物が微細化されず、高い耐力が得られなくなる虞がある。一方、Feの含有量が1.50質量%を超えると、金属間化合物が粗大化し易くなり、表面に形成される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。そのため、Feの含有量は、0.50質量%以上1.50質量%以下とする。なお、Feの含有量は、剛性を高くする観点からは、0.80質量%以上とすることがより好ましい。また、Feの含有量は、金属間化合物の粗大化を抑制する観点からは、1.30質量%以下とすることがより好ましい。
【0028】
(Mn:0.50質量%以上1.50質量%以下)
Mnは、強度やヤング率の向上に寄与する。Mnの含有量が0.50質量%未満であると、金属間化合物が減ってヤング率が低くなり、高い剛性が得られなくなる虞がある。また、晶出物が微細化されず、高い耐力が得られなくなる虞がある。一方、Mnの含有量が1.50質量%を超えると、金属間化合物が晶出し易くなり、圧延板に筋状欠陥を生じ易くなるので、表面に形成される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。そのため、Mnの含有量は、0.50質量%以上1.50質量%以下とする。なお、Mnの含有量は、剛性を高くする観点からは、0.80質量%以上とすることがより好ましい。また、Mnの含有量は、筋状欠陥の発生を抑制するなどの観点からは、1.30質量%以下とすることがより好ましい。
【0029】
(Ni:1.00質量%以上2.00質量%未満)
Niは、強度やヤング率の向上に寄与する。Niの含有量が1.00質量%未満であると、金属間化合物が減ってヤング率が低くなり、高い剛性が備わらなくなる。また、晶出物が微細化されず、高い耐力が得られなくなる虞がある。一方、Niの含有量が2.00質量%を超えると、金属間化合物が粗大化し易くなり、表面に形成される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。そのため、Niの含有量は、1.00質量%以上2.00質量%未満とする。なお、Niの含有量は、剛性を高くする観点からは、1.50質量%以上とすることがより好ましい。また、Niの含有量は、金属間化合物の粗大化を抑制する観点からは、1.90質量%以下とすることがより好ましい。
【0030】
(Cr:0.05質量%以上0.23質量%以下)
Crは、初晶を微細化して金属間化合物を均一に分布させる効果があり、強度や耐力の向上に寄与する。Crの含有量が0.05質量%未満であると、初晶が十分に微細化されず、Crの添加による強度や耐力を向上する効果が十分に得られない。一方、Crの含有量が0.23質量%を超えると、粗大な金属間化合物が形成され易くなり、表面に形成される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。そのため、Crの含有量は、Crを添加する場合、0.05質量%以上0.23質量%以下とする。なお、Crの含有量は、強度や耐力を向上する観点からは、0.10質量%以上とすることがより好ましく、積極的に添加しなくてもよい。
【0031】
(Fe+Mn+Ni:4.30質量%以下)
Fe、MnおよびNiの合計量は、4.30質量%以下とする。Fe、MnおよびNiの合計量が4.30質量%を超えると、金属間化合物が粗大化し易くなったり、金属間化合物が圧延板に筋状欠陥を生じ易くなったりするので、表面に形成される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞が高い。Fe、MnおよびNiの合計量は、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性を高くする観点などからは、4.0質量%以下とすることがより好ましい。また、Fe、MnおよびNiの合計量は、強度やヤング率を向上させる観点などからは、2.8質量%以上とすることがより好ましい。
【0032】
(Fe/Ni:0.40〜1.00)
Feの含有量とNiの含有量との比(Feの含有量/Niの含有量)、すなわち、Niの含有量に対するFeの含有量の割合は、0.40〜1.00とする。Feの含有量とNiの含有量との比が0.40未満であると、Feの割合が低すぎて、Al−Mn−Fe系金属間化合物が形成され難くなり、ヤング率を高くするのが難しくなる。また、Niが多すぎて、Al−Fe−Ni系金属間化合物が粗大化し易くなり、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。一方、Feの含有量とNiの含有量との比が1.00を超えると、Feの割合が高すぎて、金属間化合物が鋳造時に集中して晶出し、その部分が圧延で疎らな分布となって、筋状欠陥を生じ易くなり、表面に形成される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。また、Niが少なすぎて、Al−Fe−Ni系金属間化合物が形成し難くなり、ヤング率を高くするのが難しくなる。Niの含有量に対するFeの含有量の割合が前記の範囲であれば、Al−Mn−Fe系金属間化合物が適度に晶出し、Al−Fe−Ni系金属間化合物も適度に成長するため、高い剛性とめっき性とを両立することができる。
【0033】
(Mn/Ni:0.30〜0.90)
Mnの含有量とNiの含有量との比(Mnの含有量/Niの含有量)、すなわち、Niの含有量に対するMnの含有量の割合は、0.30〜0.90とする。Mnの含有量とNiの含有量との比が0.30未満であると、Mnの割合が低すぎて、Al−Mn−Fe系金属間化合物が形成され難くなる。また、Niが多すぎて、Al−Fe−Ni系金属間化合物が粗大化し易くなり、耐力や無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。一方、Mnの含有量とNiの含有量との比が0.90を超えると、Mnの割合が高すぎて、金属間化合物が鋳造時に集中して晶出し、その部分が圧延で疎らな分布となって、筋状欠陥を生じ易くなり、表面に形成される無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなる虞がある。また、Niが少なすぎて、Al−Fe−Ni系金属間化合物が形成し難くなる。Niの含有量に対するMnの含有量の割合が前記の範囲であれば、Al−Mn−Fe系金属間化合物が適度に晶出し、Al−Fe−Ni系金属間化合物も適度に成長するため、高い剛性とめっき性とを両立することができる。
【0034】
(不可避的不純物)
不可避的不純物は、製造過程で不可避的に混入する不純物であり、諸特性を損なわない範囲で含有することが許容される。不可避的不純物としては、例えば、Mg、Ti、Zr、V、B、Na、K、Ca、Srなどが挙げられる。不可避的不純物は、元素毎の含有量が0.005質量%以下、且つ、合計が0.015質量%以下であれば、本発明の効果を大きく阻害しない。また、含有量が前記の範囲であれば、積極的に添加される前記元素も本発明の効果を大きく阻害しない。よって、本発明においては、本発明の効果を阻害しない含有量の範囲で、積極的に添加される前記元素および不可避的不純物の元素を除く他の元素を積極的に含有させてもよい。なお、Crを添加しない化学組成とする場合、Crの含有量は0.005質量%以下であれば含有することが許容される。不可避的不純物の含有量は、例えば、三層電解法により精錬した地金を使用したり、偏析法を利用して排除したりすることによって低減することが可能である。
【0035】
(表面における金属間化合物の絶対最大長)
アルミニウム合金の母相中には、絶対最大長が長い粗大な金属間化合物が生じる虞がある。粗大な金属間化合物を母相中から排除し、観察容易な表面における金属間化合物の絶対最大長を小さくすると、良好なめっき性や高い耐力が得られる。なお、「絶対最大長」は、粒子の輪郭線上に位置する任意の2点の間の距離の最大値を意味する。表面における金属間化合物の絶対最大長が20μmを超えていると、母相中の結晶粒が十分に微細化されていないため、高い耐力が得られない虞がある。また、表面に露出している金属間化合物が粗大であるため、粒子の脱落や酸エッチング処理やジンケート処理の均一性の低下により、平滑性が高い無電解Ni−Pめっき膜を形成することが困難になる虞がある。したがって、表面における金属間化合物の絶対最大長は、20μm以下であることが好ましい。表面における金属間化合物の絶対最大長は、耐力や無電解Ni−Pめっき膜の平滑性を高くする観点からは、15μm以下とすることがより好ましい。また、表面における金属間化合物の絶対最大長は、めっき性の観点から理想的には5μm程度と考えられることから、絶対最大長の下限を設ける場合は、5μm以上とすることが好ましい。
【0036】
表面における金属間化合物の絶対最大長は、化学組成を調節するなどして調整することが可能である。なお、前記の金属間化合物の種類としては、例えば、Al−Fe−Si系、Al−Fe−Ni系、Al−Mn−Fe系、その他、Al−Fe系、Al−Mn系、Al−Ni系、Al−Cr系、Al−Fe−Mn−Ni系などの金属間化合物が挙げられる。表面における金属間化合物の絶対最大長を求めるにあたっては、表面を200倍の倍率の顕微鏡で少なくとも20視野観察し、表面に占める単体Siについても金属間化合物と同様に扱って計算を行うものとする。
【0037】
表面における金属間化合物の絶対最大長は、次のようにして求めることができる。例えば、日本電子株式会社製FE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope、型式JSM−7001F)を用い、加速電圧を15kVとして組成像を得る。そして、付属の分析システム“Analysis Station 3, 8, 0, 31”と、粒子解析ソフト“EX−35110 粒子解析ソフトウェア Ver. 3.84”とを用い、FE−SEMで得られた組成像上で認識できる金属間化合物の絶対最大長を測定する。
【0038】
[アルミニウム合金板の製造方法]
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、磁気ディスク用の基板を製造する一般的な条件の製造方法および設備によって製造することができる。例えば、材料を溶解して、所定の化学組成に調整された鋳塊を鋳造する鋳造工程と、鋳造された鋳塊に均質加熱処理を施す均質化熱処理工程と、均質化熱処理を施された鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板を得る熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延して冷間圧延板を得る冷間圧延工程とを、この順に含む製造方法によって、アルミニウム合金板を製造することができる。なお、必要に応じて、冷間圧延工程の前または冷間圧延工程の途中に中間焼鈍を行ってもよい。
【0039】
鋳造工程は、700〜800℃で材料を溶解し、700〜800℃で鋳造して行うことが好ましい。また、鋳造された鋳塊は、面削を施すことが好ましく、その面削量は、例えば、2〜40mm/片面で行うことができる。
【0040】
均質化熱処理工程は、例えば、400〜600℃、4〜48時間にて行うことができる。
【0041】
熱間圧延工程は、例えば、熱間圧延の開始温度を510℃以上とすることができる。また、熱間圧延の終了温度を300〜350℃とすることができる。520℃から400℃までの温度域については、3時間以内に熱間圧延を終えることが好ましい。また、熱間圧延して得る熱間圧延板の板厚を、例えば、3mmとすることができる。
【0042】
冷間圧延工程は、冷間圧延して得る冷間圧延板の板厚を、例えば、0.5〜1.3mmとすることが好ましい。
【0043】
[ブランク]
本実施形態に係るブランクは、前記のアルミニウム合金板からなり、穴開き円盤状の外形を有する。ブランクは、前記のアルミニウム合金板と同様に、所定の含有量の範囲でSi、Fe、MnおよびNiを含有し、Fe、MnおよびNiの含有量の合計が所定の範囲に制限されており、Feの含有量とNiの含有量との比の値、および、Mnの含有量とNiの含有量との比の値が、それぞれ、所定値の範囲に限定された化学組成である。
【0044】
ブランクについての、表面における金属間化合物の絶対最大長は、アルミニウム合金板についてと同等となる。一方、ブランクについての、ヤング率、耐力などの特性値は、後記する矯正焼鈍工程を経たブランク、または、後記する矯正焼鈍工程と同等の条件の熱処理を施されたアルミニウム合金板について測定される。
【0045】
(ヤング率)
ブランクのヤング率は、75GPa以上であることが好ましい。ヤング率が75GPa以上であると、材料自体に高い剛性が備わっているため、ブランクを過度に厚くしなくとも、磁気ディスクの作動時の振動を十分に低減することができる。ブランクのヤング率は、磁気ディスクの作動時の振動を抑制する観点などからは、80GPa以上とすることがより好ましい。
【0046】
ヤング率は、例えば、JIS Z 2280:1993(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準拠して、圧延方向を長手方向とする60mm×10mm×1mm厚の試験片を作製し、その試験片を用いて、大気雰囲気下、室温で自由共振法により測定することができる。試験装置としては、例えば、日本テクノプラス社製JE−RT型を用いることができる。
【0047】
(耐力)
ブランクの耐力は、90MPa以上であることが好ましい。ブランクの耐力は、磁気ディスクの機械的特性をより向上する観点からは、100MPa以上とすることが好ましく、120MPa以上とすることがより好ましい。
【0048】
耐力は、例えば、JIS Z 2241:2011(金属材料引張試験方法)に準拠して、圧延方向を長手方向とするJIS5号試験片を作製し、引張試験を行うことにより測定することができる。なお、JIS5号に相似し、寸法が縮尺された試験片で測定を行ってもよい。
【0049】
[ブランクの製造方法]
本実施形態に係るブランクは、磁気ディスク用の基板を製造する一般的な条件の製造方法および設備によって製造することができる。例えば、冷間圧延して得られたアルミニウム合金板を円環状に打ち抜く打ち抜き工程と、打ち抜かれた基板に矯正焼鈍を施す矯正焼鈍工程とを、この順に含む製造方法によって、ブランクを製造することができる。
【0050】
打ち抜き工程は、打ち抜き加工により得る基板を、例えば、内径24mm、外径96mmの3.5インチHDD用の基板、または、内径19mm、外径66mmの2.5インチHDD用の基板に適用することができる。
【0051】
矯正焼鈍工程は、基板を高い平坦度を有するスペーサで挟んで積み付け、基板に荷重をかけながら焼鈍することが好ましい。焼鈍温度は、300〜500℃とし、保持時間は、例えば、3時間とすることができる。焼鈍における昇温速度は、例えば、80℃/時間、降温速度は、例えば、80℃/時間とすることができる。
【0052】
[サブストレート]
本実施形態に係るサブストレートは、前記のブランクからなり、ブランクの端面が切削加工され、主面が研削加工された外形を有する。サブストレートは、前記のブランクと同様に、所定の含有量の範囲でSi、Fe、MnおよびNiを含有し、Fe、MnおよびNiの含有量の合計が所定の範囲に制限されており、Feの含有量とNiの含有量との比の値、および、Mnの含有量とNiの含有量との比の値が、それぞれ、所定値の範囲に限定された化学組成である。
【0053】
サブストレートについての、表面における金属間化合物の絶対最大長、ヤング率、耐力などの特性値は、ブランクについての特性値と同等となる。ブランクについて求めた特性値をサブストレートについての特性値と見做すことができるし、サブストレートについて求めた特性値をブランクについての特性値と見做すこともできる。
【0054】
[サブストレートの製造方法]
本実施形態に係るサブストレートは、磁気ディスク用の基板を製造する一般的な条件の製造方法および設備によって製造することができる。例えば、ブランクの端面を切削加工する端面加工工程と、ブランクの主面を研削加工する研削加工工程と、をこの順に含む製造方法によって、サブストレートを製造することができる。
【0055】
[磁気ディスクの製造方法]
磁気ディスクは、磁気ディスクを製造する一般的な条件の製造方法および設備によって製造することができる。例えば、サブストレートの表面を酸エッチング処理し、無電解Ni−Pめっき膜を形成した後、無電解Ni−Pめっき膜の表面を研磨する。次いで、サブストレートの表面に、下地層、磁性層、保護膜などを形成することにより、磁気ディスクを製造することができる。
【0056】
なお、ブランク、サブストレートなどの製造条件の詳細については、例えば、特許第3471557号公報や、特許第5199714号公報に記載されている。ブランク、サブストレートなどの製造は、これらの文献を参照して行うことが可能である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例を示して本発明について具体的に説明を行う。但し、本発明の技術的範囲は、これに限定されるものではない。
【0058】
表1に示す化学組成のアルミニウム合金を用いて、No.1〜18に係るサブストレートを以下のようにして製造した。表1の各成分に関する「−」は、該当する成分が添加されてなく、その成分の含有量が検出限界値未満であることを示している。また、表1の「Fe+Mn+Ni」は、Fe、MnおよびNiの含有量の合計を示し、「Fe/Ni」は、Feの含有量とNiの含有量との比の値、「Mn/Ni」は、Mnの含有量とNiの含有量との比の値を示す。
【0059】
サブストレートは、鋳造工程、均質化熱処理工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、打ち抜き工程、矯正焼鈍工程、端面加工工程、研削加工工程をこの順で行って製造した。各工程の具体的な条件は次のとおりである。
【0060】
鋳造工程は、750℃で材料を溶解して行った。得られた鋳塊は、2mm/片面の面削を施した。
【0061】
均質化熱処理工程は、540℃で8時間行った。なお、均質化熱処理した鋳塊を炉から取り出した後に5分以内に熱間圧延を開始した。
【0062】
熱間圧延工程は、開始温度を520〜540℃とし、終了温度を300〜330℃とし、熱間圧延後の板厚が3mmとなるように行った。
【0063】
冷間圧延工程は、冷間圧延後の板厚が1mmとなるように行った。
【0064】
打ち抜き工程は、冷間圧延板を内径24mm、外径96mmの円環状に打ち抜いて行った。
【0065】
矯正焼鈍工程は、焼鈍温度を400℃とし、焼鈍時間を3時間として行った。また、昇温速度は、80℃/時間、降温速度は、80℃/時間とした。
【0066】
端面加工工程は、ブランクの内径と外径を各1mmずつ切削加工して行った。
【0067】
研削加工工程は、両面研削機に予めセットされたキャリアのポケット内に端面加工を施したブランクをセットし、PVA砥石(日本特殊研砥株式会社製 4000番)によって目標の板厚になるまで研削加工を施して行った。
【0068】
製造した各サブストレートについて、表面における金属間化合物の絶対最大長、筋状欠陥の有無、ヤング率、耐力、表面に形成した無電解Ni−Pめっき膜の平滑性を、以下のようにして評価した。
【0069】
(表面における金属間化合物の絶対最大長)
金属間化合物の絶対最大長は、次のようにして測定した。日本電子株式会社製FE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope、型式JSM−7001F)を用い、加速電圧を15kVとし、200倍で20視野の組成像を撮像した。そして、付属の分析システム “Analysis Station 3, 8, 0, 31”と、粒子解析ソフト“EX−35110 粒子解析ソフトウェア Ver. 3.84”とを用い、FE−SEMで得られた組成像上で認識できる金属間化合物の絶対最大長を測定した。絶対最大長が15μm以下のものを「◎」、15μmを超え20μm以下のものを「○」、20μmを超えるものを「×」と評価した。そして、◎および○を合格、×を不合格と判定した。
【0070】
(筋状欠陥)
筋状欠陥の発生の有無は、研削したサブストレートの表面を倍率が100倍の光学顕微鏡によって観察し、金属間化合物の脱落によるピットが筋を成して分布している領域が、複数視野において観察されるか否かを、目視で確認することによって評価した。なお、この領域は、倍率が1000倍以上のSEM−EDS(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersion Spectroscopy)による測定で、20〜30μmのAl−Mn−Fe系金属間化合物が筋状に集中していることが観察され、表面粗さの測定で、幅が数十μm、深さが数μmの筋状のピットを生じていることが観察される領域である。
【0071】
(ヤング率)
ヤング率は、JIS Z 2280:1993(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準拠して、圧延方向を長手方向とする60mm×10mm×1mm厚の試験片を作製し、その試験片を用いて、大気雰囲気下、室温で自由共振法により測定した。試験装置としては、日本テクノプラス社製JE−RT型を用いた。ヤング率が80GPa以上のものを「◎」、75GPa以上80GPa未満のものを「○」、75GPa未満のものを「×」と評価した。◎および○を合格、×を不合格と判定した。
【0072】
(耐力)
耐力は、冷間圧延工程で得た冷間圧延板の一部を切り出し、矯正焼鈍に相当する400℃、3時間の焼鈍を行った後、JIS Z 2241:2011(金属材料引張試験方法)に準拠して、圧延方向を長手方向とするJIS5号試験片を作製し、引張試験を行うことにより測定した。耐力が120MPa以上のものを「◎」、90MPa以上120MPa未満のものを「○」、90MPa未満のものを「×」と評価した。◎および○を合格、×を不合格と判定した。
【0073】
(表面に形成した無電解Ni−Pめっき膜の平滑性)
製造したサブストレートをアルカリ洗浄剤(上村工業株式会社製AD−68F)を用いて70℃、5分間の脱脂処理し、純水で洗浄した。次いで、ソフトエッチング剤(上村工業株式会社製AD−101F)を用いて68℃、2分間の酸エッチング処理を行い、純水で洗浄した。そして、30%硝酸でデスマット処理を行い、続けて、ジンケート処理液(上村工業株式会社製AD−301F−3X)を用いて20℃、30秒間のジンケート処理を行った。その後、一旦、30%硝酸で亜鉛を溶解させた後に、再度、ジンケート処理液(上村工業株式会社製AD−301F−3X)を用いて20℃、15秒間のジンケート処理を行った。そして、Ni−Pめっき液(上村工業株式会社製ニムデン(登録商標)HDX)を使用し、90℃、2時間の無電解Ni−Pめっき処理を行い、厚さが10μm程度の無電解Ni−Pめっき膜を形成した。無電解Ni−Pめっき膜を形成したサブストレートのめっき表面をブルカー社製ContourGT X3(非接触3次元光干渉型表面形状粗さ計)を用いて、対物レンズ×50、FOV×1、VSIモードで測定した。めっき膜表面において、幅3μm以上、深さ1μm以上のピットの密度が0〜4個/mmのものを「◎」、5〜10個/mmのものを「○」、11個/mm以上のものを「×」と評価した。◎および○を合格、×を不合格と判定した。なお、無電解Ni−Pめっき膜を形成したサブストレートのめっき表面を、コロイダルシリカ系のスラリー(株式会社フジミインコーポレーティッド製DISKLITE Z5601A)と、パッド(カネボウ株式会社(現アイオン株式会社)製のN0058 72D)とを使用して研磨し、その表面を測定しても、研磨していない場合と同等の評価が得られた。
【0074】
表1に、各サブストレートについて、表面における金属間化合物の絶対最大長、筋状欠陥の有無、ヤング率、耐力、表面に形成した無電解Ni−Pめっき膜の平滑性の評価の結果を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示すように、No.1〜5は、化学組成が適正に制御されているため、金属間化合物が分布しているものの、金属間化合物の絶対最大長が20μm以下になっており、また、筋状欠陥の発生もなくなっている。その結果、高いヤング率と、平滑な無電解Ni−Pめっき膜を形成可能なめっき性とを備えるサブストレートが得られている。特に、No.3〜5は、Crが適正な含有量で含まれているため、めっき膜表面のピットの密度が一層低減し、高い耐力と共に、より優れためっき性を備えるサブストレートが得られている。
【0077】
これに対して、No.6は、Feの含有量が0.50質量%未満であったため、高いヤング率が得られなかった。
【0078】
また、No.7は、Feの含有量が1.50質量%を超えていたため、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0079】
また、No.8は、Mnの含有量が0.50質量%未満であったため、高いヤング率や耐力が得られなかった。
【0080】
また、No.9は、Mnの含有量が1.50質量%を超えていたため、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、筋状欠陥も発生し、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0081】
また、No.10は、Niの含有量が1.00質量%未満であったため、高いヤング率や耐力が得られなかった。
【0082】
また、No.11は、Niの含有量が2.00質量%を超えていたため、粗大な金属間化合物が生じ、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0083】
また、No.12は、Siの含有量が0.10質量%を超えていたため、単体Siなどが生じ、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0084】
また、No.13は、Crの含有量が0.23質量%を超えていたため、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0085】
また、No.14は、Fe、MnおよびNiの合計量が4.30質量%を超えていたため、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、筋状欠陥も発生し、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0086】
また、No.15は、Feの含有量とNiの含有量との比が0.40未満であったため、高いヤング率が得られなかった。
【0087】
また、No.16は、Feの含有量とNiの含有量との比が1.00を超えていたため、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、筋状欠陥も発生し、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0088】
また、No.17は、Mnの含有量とNiの含有量との比が0.30未満であったため、粗大なAl−Fe−Ni系金属間化合物が生じ、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【0089】
また、No.18は、Mnの含有量とNiの含有量との比が0.90を超えていたため、金属間化合物の絶対最大長が20μmを超え、筋状欠陥も発生し、無電解Ni−Pめっき膜の平滑性が低くなった。
【要約】
【課題】剛性が高く、表面に平滑性が高いめっき膜を形成することも可能な磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートを提供する。
【解決手段】磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートは、Si:0.10質量%以下、Fe:0.50質量%以上1.50質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.50質量%以下、Ni:1.00質量%以上2.00質量%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、前記Fe、前記Mnおよび前記Niの合計量が4.30質量%以下、前記Feの含有量と前記Niの含有量との比が0.40〜1.00、前記Mnの含有量と前記Niの含有量との比が0.30〜0.90である。
【選択図】なし