特許第6339725号(P6339725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6339725
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】ノロウイルス不活性化剤及び衛生資材
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/02 20060101AFI20180528BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20180528BHJP
   A01N 37/04 20060101ALI20180528BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20180528BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20180528BHJP
   A01N 59/08 20060101ALI20180528BHJP
   A01N 59/24 20060101ALI20180528BHJP
   A01N 59/26 20060101ALI20180528BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   A01N31/02
   A01N25/00 101
   A01N37/04
   A01N37/36
   A01N59/00 C
   A01N59/00 D
   A01N59/08 Z
   A01N59/24
   A01N59/26
   A01P1/00
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-101834(P2017-101834)
(22)【出願日】2017年5月23日
【審査請求日】2017年5月26日
【審判番号】不服2017-16216(P2017-16216/J1)
【審判請求日】2017年11月1日
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190736
【氏名又は名称】株式会社ニイタカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 恵太
(72)【発明者】
【氏名】守屋 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓
【合議体】
【審判長】 瀬良 聡機
【審判官】 瀬下 浩一
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−75886(JP,A)
【文献】 特開2015−71589(JP,A)
【文献】 特開2014−129372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A61K31/00-31/327
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含む水溶液状のノロウイルス不活性化剤であって、
前記酸剤は、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、アジピン酸及びコハク酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、
記陽イオン及び前記陰イオンの種類は、Na及びClの組み合わせ、K及びClの組み合わせ、Mg2+及びClの組み合わせ、Ca2+及びClの組み合わせ、NH及びClの組み合わせ、Na及びBrの組み合わせ、K及びBrの組み合わせ、Ca2+及びBrの組み合わせ、Na及びSO2−の組み合わせ、Mg2+及びSO2−の組み合わせ、NH及びSO2−の組み合わせ、K及びNOの組み合わせ、K及びSCNの組み合わせ、又は、NH及びSCNの組み合わせであり、
但し、前記酸剤が、リンゴ酸又はリン酸のみからなる場合、前記陽イオン及び前記陰イオンの種類は、K及びClの組み合わせ、Mg2+及びClの組み合わせ、Ca2+及びClの組み合わせ、NH及びClの組み合わせ、Na及びBrの組み合わせ、K及びBrの組み合わせ、Ca2+及びBrの組み合わせ、Na及びSO2−の組み合わせ、Mg2+及びSO2−の組み合わせ、NH及びSO2−の組み合わせ、K及びNOの組み合わせ、K及びSCNの組み合わせ、又は、NH及びSCNの組み合わせであり、
前記ノロウイルス不活性化剤は、アルカノールアミンを含まないことを特徴とするノロウイルス不活性化剤。
【請求項2】
前記酸剤として、少なくともクエン酸及び酒石酸を含む請求項1に記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項3】
前記ノロウイルス不活性化剤中の前記エタノールの質量濃度は、8.05〜85.70重量%である請求項1又は2に記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項4】
前記ノロウイルス不活性化剤中の前記陽イオン及び前記陰イオンの合計質量濃度は、0.001〜5.0重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項5】
前記ノロウイルス不活性化剤中の前記陽イオンのイオン当量は、0.05〜1500mEq/Lである請求項1〜4のいずれかに記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項6】
前記ノロウイルス不活性化剤中の前記陰イオンのイオン当量は、0.05〜1500mEq/Lである請求項1〜5のいずれかに記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項7】
前記ノロウイルス不活性化剤中の前記酸剤の質量濃度は、0.01〜5.0重量%である請求項1〜6のいずれかに記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項8】
前記ノロウイルス不活性化剤のpHは、2〜8である請求項1〜7のいずれかに記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のノロウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする衛生資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活性化剤、ノロウイルス不活性化剤及び衛生資材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルス(ヒトノロウイルス)による感染性胃腸炎あるいは食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11〜3月が発生のピークとなっている。ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベロープを持たないRNAウイルス(以下、「ノロウイルス等」と記載する)であり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、熱、酸性(胃酸等)、又は、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。潜伏期間は1〜2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ノロウイルス等の感染経路の一つとして経口感染が知られており、ノロウイルス等に汚染された食物や水等を経口摂取することにより感染が成立する。
そのため、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場においては、食物や水等がノロウイルス等に汚染されないようにすることが求められている。
【0004】
ノロウイルス等による汚染を防ぐ手段として、食物、食器、調理台、調理器具等のノロウイルスを不活性化する方法がある。
ノロウイルス等を完全に不活性化させる方法としては、加熱処理が知られている。
しかし、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において、常に、食器、調理台、調理器具等を加熱処理することは現実的でなく、食物の種類によっては加熱処理により風味が損なわれてしまう場合がある。つまり、加熱処理は、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において、ノロウイルス等を不活性化する方法として適していなかった。
【0005】
また、ノロウイルス等を不活性化させる方法として、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム等)を用いる方法も知られている。しかし、塩素系漂白剤は、金属に対する腐食作用、皮膚等に対する刺激作用、衣類に対する漂白作用等がある。そのため、その使用が制限されるという欠点があり、特に、人体に対する安全性への配慮から作業者の手指、食器、調理台、調理器具等にこれらの薬剤類を用いることは適当とはいえず、まして食物に直接触れさせることも適当とはいえなかった。
そのため、人体に対し安全であり、ノロウイルス等を不活性化できる方法が望まれていた。
【0006】
ヒトノロウイルスは、培養細胞を用いても増殖させることができない。
そのため、ヒトノロウイルスの不活性化に対する各種消毒剤等の消毒効果の検証には、代替ウイルスとしてネコカリシウイルス(FCV)やマウスノロウイルス(MNV)が広く用いられている。FCV及びMNVは、形態的特徴やゲノムの構造から、ヒトノロウイルスに近縁なウイルスであることが明らかにされている。
【0007】
例えば、非特許文献1には、エタノールを主成分とした中性または酸性のウイルス不活性化剤を用いたFCV及びMNVの不活性化試験が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献1】GEUN WOO Park他, J Food Protection 2010 No; Vol.73 :2232−2238 “Comparative efficacy of seven hand sanitizers against murine norovirus, feline calicivirus, and GII.4 norovirus”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に記載されたウイルス不活性化剤は、実験室レベルでの試験において、FCV及びMNVにある程度効果を示す。
しかし、このようなウイルス不活性化剤を、実際に飲食店、給食施設、工場などで使用する場合、充分なウイルス不活性化効果を示せなかった。
【0010】
このようにウイルス不活性化剤の効果が充分に発揮されない原因は、環境中の汚れ、特にタンパク質汚れであると考えられた。
環境中のタンパク質汚れは、ウイルスの周囲に付着することになる。ウイルスの周囲のタンパク質汚れは、ウイルスの保護膜のように働き、エタノール及びその他の不活性化成分がウイルスと接触することを阻害すると考えられる。
そのため、非特許文献1に記載されたようなウイルス不活性化剤は、その効果を充分に発揮できなくなると考えられる。
【0011】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされた発明であり、本発明の目的は、タンパク質汚れ存在下でも充分なウイルス不活性化作用を示すウイルス不活性化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明のウイルス不活性化剤は、エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含み、上記陽イオンは、NH、K、Na、Li、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンであり、上記陰イオンは、CO2−、NO、SO、HPO、F、Cl、Br、I、SCN及びNOからなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンであることを特徴とする。
【0013】
本発明のウイルス不活性化剤はエタノールを含む。
ウイルスにエタノールを接触させることにより、ウイルスを不活性化することができる。
【0014】
本発明のウイルス不活性化剤は、陽イオン及び陰イオンを含む。
また、上記陽イオンは、NH、K、Na、Li、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンであり、上記陰イオンは、CO2−、NO、SO、HPO、F、Cl、Br、I、SCN及びNOからなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンである。
これらのイオンには、環境中のタンパク質汚れを塩析又は塩溶させることにより、タンパク質汚れをウイルスの周囲から分離させる作用があると考えられる。
ウイルスの周囲からタンパク質汚れが分離されると、エタノール及びその他の不活性化成分とウイルスとが直接接触する。そのため、ウイルスが不活性化されることになる。また、環境中にタンパク質汚れがない状態でも、陽イオン及び陰イオンがウイルスとエタノールやその他不活性化成分とが接触するのを促進し、ウイルス不活性化作用を増強させる。
【0015】
本発明のウイルス不活性化剤は、酸剤を含む。酸剤には、陽イオン、陰イオン及びエタノールを含むウイスル不活性化剤のウイルス不活性化作用を増強する効果を示す。
【0016】
本発明のウイルス不活性化剤は、上記酸剤として、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、アジピン酸、コハク酸及びフィチン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。
これら酸剤は、陽イオン、陰イオン及びエタノールを含むウイスル不活性化剤のウイルス不活性化作用を増強させる効果が特に高い。
【0017】
本発明のウイルス不活性化剤は、上記酸剤として少なくともクエン酸及び酒石酸を含むことが望ましい。
【0018】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記エタノールの質量濃度は、8.05〜85.70重量%であることが望ましい。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの質量濃度が8.05重量%未満であると、エタノールの濃度が低いので、エタノールが含まれることによるウイルス不活性化作用が発揮されにくくなる。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの質量濃度が85.70重量%を超えると、ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が高すぎ、引火しやすくなる。
【0019】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記陽イオン及び上記陰イオンの合計質量濃度は、0.001〜5.0重量%であることが望ましい。
ウイルス不活性化剤中の陽イオン及び陰イオンの合計質量濃度が、0.001重量%未満であると、ウイルス不活性化剤中のイオンの濃度が低すぎ、環境中のタンパク質汚れを充分に塩析又は塩溶させにくくなる。
ウイルス不活性化剤中の陽イオン及び陰イオンの合計質量濃度が、5.0重量%を超えると、イオンの濃度が高すぎ、これらのイオンが無機塩として析出しやすくなる。
【0020】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記陽イオンのイオン当量は、0.05〜1500mEq/Lであることが望ましい。
また、本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記陰イオンのイオン当量は、0.05〜1500mEq/Lであることが望ましい。
陽イオン及び陰イオンのイオン当量が上記範囲内であると、環境中のタンパク質汚れを塩析又は塩溶させる効果が充分に発揮される。
【0021】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記酸剤の質量濃度は、0.01〜5.0重量%であることが望ましい。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の質量濃度が、0.01重量%未満であると、酸剤の濃度が低すぎ、エタノールのウイルス不活性化作用を充分に増強させにくくなる。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の質量濃度が、5.0重量%を超えると、酸剤の濃度が高すぎ、ウイルス不活性化剤を噴霧等した際に、べとつきやすくなり、また、酸剤の析出が生じやすくなる。また、pHが低くなりやすく身体に使用した際、又は、身体に付着した際に刺激性が現れる。
【0022】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤のpHは、2〜8であることが望ましい。
ウイルス不活性化剤のpHが上記範囲である、すなわち、酸性から中性であると、安全にウイルス不活性化剤を使用することができる。
【0023】
本発明のノロウイルス不活性化剤は、上記本発明のウイルス不活性化剤からなることを特徴とする。
上記本発明のウイルス不活性化剤は、ノロウイルスに対して高いウイルス不活性化効果を示す。
【0024】
本発明の衛生資材は、上記本発明のウイルス不活性化剤、又は、上記本発明のノロウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする。
本発明のウイルス不活性化剤又はノロウイルス不活性化剤は、ウイルス不活性化作用を示すので、このようなウイルス不活性化剤を含む本発明の衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のウイルス不活性化剤は、タンパク質汚れ存在下でも、タンパク質を塩析又は塩溶させて、エタノールをウイルスに接触させることができるので、充分なウイルス不活性化作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のウイルス不活性化剤について具体的な実施形態を示しながら説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0027】
本発明のウイルス不活性化剤は、エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含み、上記陽イオンは、NH、K、Na、Li、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンであり、上記陰イオンは、CO2−、NO、SO、HPO、F、Cl、Br、I、SCN及びNOからなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンであることを特徴とする。
【0028】
本発明のウイルス不活性化剤は、エタノールを含む。
ウイルスにエタノールを接触させることにより、ウイルスを不活性化することができる。
【0029】
本発明のウイルス不活性化剤では、ウイルス不活性化剤中のエタノールの質量濃度は、8.05〜85.70重量%であることが望ましく、24.69〜74.70重量%であることがより望ましく、33.38〜60.00重量%であることがさらに望ましい。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの質量濃度が8.05重量%未満であると、エタノールの濃度が低いので、エタノールが含まれることによるウイルス不活性化作用が発揮されにくくなる。
ウイルス不活性化剤中のエタノールの質量濃度が85.70重量%を超えると、ウイルス不活性化剤中のエタノールの濃度が高すぎ、引火しやすくなる。
【0030】
本発明のウイルス不活性化剤は、陽イオンと陰イオンとを含む。
また、陽イオンは、NH、K、Na、Li、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンであり、陰イオンは、CO2−、NO、SO、HPO、F、Cl、Br、I、SCN及びNOからなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンである。
これらのイオンは、環境中のタンパク質汚れを塩析又は塩溶させることにより、タンパク質汚れをウイルスの周囲から分離させる作用があると考えられる。
ウイルスの周囲からタンパク質汚れが分離されると、エタノール及びその他の不活性化成分とウイルスとが直接接触する。そのため、エタノール及びその他の不活性化成分の作用によりウイルスが不活性化されることになる。また、環境中にタンパク質汚れがない状態でも、陽イオン及び陰イオンがウイルスとエタノール及びその他の不活性化成分とが接触するのを促進し、ウイルス不活性化作用を増強させる。
【0031】
本発明のウイルス不活性化剤に上記陽イオン及び上記陰イオンを含ませる方法としては、ウイルス不活性化剤に無機塩を加える方法が挙げられる。
無機塩としては、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸第一鉄、硫酸銅等が挙げられる。
なお、本発明のウイルス不活性化剤は、これら無機塩を1種類だけ含んでいてもよく、複数種類含んでいてもよい。
【0032】
本発明のウイルス不活性化剤では、ウイルス不活性化剤中の陽イオン及び陰イオンの合計質量濃度は、0.001〜5.0重量%であることが望ましく、0.01〜3.0重量%であることがより望ましい。
ウイルス不活性化剤中の陽イオン及び陰イオンの合計質量濃度が、0.001重量%未満であると、ウイルス不活性化剤中のイオンの濃度が低すぎ、タンパク質汚れを充分に塩析又は塩溶させにくくなる。
ウイルス不活性化剤中の陽イオン及び陰イオンの合計質量濃度が、5.0重量%を超えると、イオンの濃度が高すぎ、これらのイオンが無機塩として析出しやすくなる。
【0033】
本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記陽イオンのイオン当量は、0.05〜1500mEq/Lであることが望ましく、0.1〜1200mEq/Lであることがより望ましく、0.5〜240mEq/Lであることがさらに望ましい。
また、本発明のウイルス不活性化剤では、上記ウイルス不活性化剤中の上記陰イオンのイオン当量は、0.05〜1500mEq/Lであることが望ましく、0.1〜1200mEq/Lであることがより望ましく、0.5〜240mEq/Lであることがさらに望ましい。
陽イオン及び陰イオンのイオン当量が上記範囲内であると、環境中のタンパク質汚れを塩析又は塩溶させる効果が充分に発揮される。
【0034】
本発明のウイルス不活性化剤は、酸剤を含む。酸剤は、陽イオン、陰イオン及びエタノールを含むウイスル不活性化剤のウイルス不活性化作用を増強する効果を示す。
【0035】
本発明のウイルス不活性化剤は、酸剤として、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、アジピン酸、コハク酸及びフィチン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが望ましい。
これら酸剤は、陽イオン、陰イオン及びエタノールを含むウイスル不活性化剤のウイルス不活性化作用を増強させる効果が特に高い。
なお、本発明のウイルス不活性化剤は、これら酸剤を1種類だけ含んでいてもよく、複数種類含んでいてもよい。
また、本発明のウイルス不活性化剤は、酸剤として少なくともクエン酸及び酒石酸を含むことが望ましい。
【0036】
本発明のウイルス不活性化剤では、ウイルス不活性化剤中の酸剤の質量濃度は、0.01〜5.0重量%であることが望ましく、0.1〜3.0重量%であることがより望ましい。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の質量濃度が、0.01重量%未満であると、酸剤の濃度が低すぎ、エタノールのウイルス不活性化作用を充分に増強させにくくなる。
ウイルス不活性化剤中の酸剤の質量濃度が、5.0重量%を超えると、酸剤の濃度が高すぎ、ウイルス不活性化剤を噴霧等した際に、べとつきやすくなり、また、酸剤の析出が生じやすくなる。また、pHが低くなりやすく身体に使用した際、又は、身体に付着した際に刺激性が現れる。
【0037】
本発明のウイルス不活性化剤では、陽イオン及び陰イオンの合計と、酸剤との重量比が陽イオン及び陰イオンの合計:酸剤=1:1〜1:5000であることが望ましく、1:3〜1:500であることがより望ましい。
【0038】
本発明のウイルス不活性化剤では、pHが、2〜8であることが望ましく、2〜6であることがより望ましい。
ウイルス不活性化剤のpHが上記範囲である、すなわち、酸性から中性であると、安全にウイルス不活性化剤を使用することができる。特に、ウイルス不活性化剤が酸性であると、ウイルス不活性化効果が向上する。
なお、pHの調整は、本発明のウイルス不活性化剤に含まれる酸剤、陽イオン及び陰イオンの質量濃度を調整することにより行うことができる。
【0039】
本発明のノロウイルス不活性化剤は、上記本発明のウイルス不活性化剤からなることを特徴とする。
上記本発明のウイルス不活性化剤は、ノロウイルスに対して高いウイルス不活性化効果を示す。
なお、本明細書において、「ノロウイルス不活性化剤」とは、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びヒトノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して使用されるウイルス不活性化剤を意味する。
【0040】
本発明のウイルス不活性化剤は、ネコカリシウイルスを試験ウイルスとした下記タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定において、作用時間1分におけるウイルス感染力価(対数)の値が、作用時間0分におけるウイルス感染力価(対数)の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を防止することができる。
【0041】
(タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定)
(1)ネコカリシウイルスを、ネコ腎由来株化細胞であるCRFK細胞(ATCC CCL−94)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、ネコカリシウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)牛肉エキス(ナカライテスク社製)0.1gをOPTI−MEM培地で溶解して10%肉エキス液を作製し、遠心分離後の培養細胞破砕液の上清と、10%肉エキスとを1:1の割合(容量)で混合し、ウイルス溶液とする。
(4)ウイルス不活性化剤と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で1分経過後、OPTI−MEM培地で100倍希釈することにより、ウイルス不活性化剤のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液をウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液とする。
(5)OPTI−MEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、OPTI−MEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液とする。
(6)ウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液、ウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液を、それぞれ、OPTI−MEM培地により10倍段階希釈する。CRFK細胞を培養した96wellマイクロプレートの培地を捨て、段階希釈液を100μLずつ加える。
(7)ウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたCRFK細胞を37℃、5%COの条件で、4日間培養する。
(8)培養したCRFK細胞のCPEを指標にTCID50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)〜(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0分におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値とする。
【0042】
本発明のウイルス不活性化剤は、マウスノロウイルスを試験ウイルスとした下記タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定において、作用時間1分におけるウイルス感染力価(対数)の値が、作用時間0分におけるウイルス感染力価(対数)の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明のウイルス不活性化剤が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を防止することができる。
【0043】
(タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定)
(1)マウスノロウイルスを、マウスのマクロファージ由来細胞株であるRAW 264.7細胞(ATCC TIB−71)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、マウスノロウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)牛肉エキス(ナカライテスク社製)0.1gをDMEM培地で溶解して10%肉エキス液を作製し、遠心分離後の培養細胞破砕液の上清と、10%肉エキスとを1:1の割合(容量)で混合し、ウイルス溶液とする。
(4)ウイルス不活性化剤と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で1分経過後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、ウイルス不活性化剤のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液をウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液とする。
(5)10%牛胎児血清含有DMEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液とする。
(6)ウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液を、それぞれ、10%牛胎児血清含有DMEM培地により、10倍段階希釈する。1ウェルにRAW 264.7細胞を50μLずつ分注した96wellマイクロプレートに、各段階希釈液を50μLずつ加える。
(7)ウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液及びウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたRAW 264.7細胞を37℃、5%COの条件で、4日間培養する。
(8)培養したRAW 264.7細胞のCPEを指標にTCID50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)〜(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活性化剤0分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0分におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活性化剤1分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値とする。
【0044】
本発明のウイルス不活性化剤は、さらに凝集剤を含んでいてもよい。
凝集剤としては、ポリグルタミン酸及びその塩等が挙げられる。
凝集剤は、環境中のタンパク質汚れを凝集させることができ、タンパク質汚れをウイルスの周囲から分離させることができる。
ウイルスの周囲からタンパク質汚れが分離されると、エタノールとウイルスとが直接接触する。そのため、エタノールの作用によりウイルスが不活性化されることになる。
【0045】
本発明のウイルス不活性化剤は、さらにグリセリン脂肪酸エステル等を含んでいてもよい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステルであってもよく、ポリグリセリン脂肪酸エステルであってもよい。例えば、モノグリセリンカプリル酸エステル、モノグリセリンカプリン酸エステル、モノグリセリンラウリン酸エステル、ジグリセリンカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンラウリン酸エステル等が挙げられる。
【0046】
本発明のウイルス不活性化剤は、さらにウイルス不活性化作用を有する化合物を含んでいてもよい。
このような化合物としては、例えば、緑茶抽出物、紫茶抽出物、マキベリー抽出物、ブドウ抽出物、カンカニクジュヨウ抽出物、月見草種子抽出物、ウーロン茶抽出物、ピーナツ種皮抽出物、ビルベリー抽出物、ヒバマタ科の海藻から抽出された海藻抽出物等の天然物抽出物が挙げられる。
【0047】
また、本発明のウイルス不活性化剤には、上記の成分以外に保湿剤、エモリエント剤、香料、色素、陽イオン界面活性剤、増粘剤、消炎剤等を含んでいてもよい。
【0048】
次に、本発明のウイルス不活性化剤、及び、本発明のノロウイルス不活性化剤の用途を説明する。
本発明のウイルス不活性化剤、又は、本発明のノロウイルス不活性化剤は、手洗い液、中性洗剤、消臭剤に加えてもよい。
本発明のウイルス不活性化剤、又は、本発明のノロウイルス不活性化剤を含む手洗い液、中性洗剤、消臭剤等は、ポンプボトルやスプレーガンに詰められていてもよい。
【0049】
また衛生資材に用いてもよい。このような衛生資材は、本発明の衛生資材でもある。
【0050】
本発明の衛生資材は、上記本発明のウイルス不活性化剤、又は、上記本発明のノロウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする。
本発明のウイルス不活性化剤は、ウイルス不活性化作用を奏するので、このようなウイルス不活性化剤を含む衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。
【0051】
本発明の衛生資材は、特に限定されるものではないが、例えば、マスク、使い捨て手袋、使い捨て布巾、ティッシュペーパー、ウエットティッシュ等があげられる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
エタノールが67.89重量%、クエン酸が0.60重量%、塩化ナトリウムが1.00重量%となるようにこれら化合物と、水とを混合して実施例1に係るウイルス不活性化剤を作製した。
【0054】
(実施例2〜17)及び(比較例1〜5)
ウイルス不活性化剤の材料の種類及び割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施例2〜17及び比較例1〜5に係るウイルス不活性化剤を作製した。
なお、表1中「%」は重量%を意味する。
【0055】
【表1】
【0056】
(タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルスの感染力価測定)
ウイルス不活性化剤として、各実施例及び各比較例に係るウイルス不活性化剤を用い、上記(タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0057】
(タンパク質汚れなし時ネコカリシウイルスの感染力価測定)
ウイルス不活性化剤として、各実施例及び各比較例に係るウイルス不活性化剤を用い、上記(タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定)の(3)工程において、10%肉エキスを混合せず、遠心分離後の培養細胞破砕液の上清をウイルス溶液とした以外は、上記(タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルス感染力価測定)と同様にタンパク質汚れなし時ネコカリシウイルス感染力価測定を行った。
作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は上記(タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルスの感染力価測定)の評価基準と同様である。結果を表1に示す。
【0058】
(タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルスの感染力価測定)
ウイルス不活性化剤として、各実施例及び各比較例に係る消毒液を用い、上記(タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルスの感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0059】
(タンパク質汚れなし時マウスノロウイルスの感染力価測定)
ウイルス不活性化剤として、各実施例及び各比較例に係るウイルス不活性化剤を用い、上記(タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定)の(3)工程において、10%肉エキスを混合せず、遠心分離後の培養細胞破砕液の上清をウイルス溶液とした以外は、上記(タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルス感染力価測定)と同様にタンパク質汚れなし時マウスノロウイルス感染力価測定を行った。
作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は上記(タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルスの感染力価測定)の評価基準と同様である。結果を表1に示す。
【0060】
表1に示すように、エタノール、所定の陽イオン及び陰イオン、並びに、酸剤を含む実施例1〜17に係るウイルス不活性化剤は、タンパク質汚れ存在時ネコカリシウイルスの感染力価測定の評価、及び、タンパク質汚れ存在時マウスノロウイルスの感染力価測定の評価が共に優れていた。
【要約】
【課題】タンパク質汚れ存在下でも充分なウイルス不活性化作用を示すウイルス不活性化剤を提供する。
【解決手段】エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含み、上記陽イオンは、NH、K、Na、Li、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+及びCu2+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンであり、上記陰イオンは、CO2−、NO、SO、HPO、F、Cl、Br、I、SCN及びNOからなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンであることを特徴とするウイルス不活性化剤。
【選択図】 なし