【実施例】
【0013】
図1に示すように、実施例に係る丸鋸10は、略円盤状に形成された台金12と、該台金12の外周部に複数形成された歯体14の夫々に配設されたチップ30とを備えている。丸鋸10は、台金12の中心を該台金12の厚み方向に通る仮想的な軸線を回転中心Oとして所定方向に回転されたもとで、チップ30に設けた切れ刃32をワーク(被削材)に押し当てて該ワークを切削する。
【0014】
前記台金12は、炭素工具鋼や合金工具鋼などの鋼で構成され、該台金12の本体部分から半径方向外側に突出するように各歯体14が形成される。丸鋸10には、複数の歯体14が、台金12の外周部に均一な間隔または不均一な間隔で回転方向(周方向)に互いに離間して形成される。また、回転方向に隣り合う歯体14,14の間には、チップ30で切削した際に生じるワークの切削くず等を収容可能な歯袋16が、各チップ30の回転方向前側に形成される。
図2に示すように、台金12には、各歯体14の回転方向前側に設置部18が形成され、この設置部18にチップ30を収容して、チップ30と台金12とがろう付けにより接合される。実施例の設置部18は、チップ30における回転方向後側に面する背面34に対応して半径方向に延在するように形成された縦壁面18aと、チップ30の基部31に対応して歯底17よりも半径方向内側に凹むように形成された凹面18bとから画成される。ここで、実施例の丸鋸10は、複数の歯体14が互いに同一の形状で形成されると共に、複数のチップ30が互いに同一の形状で形成されて、全ての歯袋16の形状も同じになっている。
【0015】
前記チップ30は、超硬合金、サーメット、CBN(立方晶窒化ホウ素)または多結晶ダイヤモンド等から単体で構成したり、あるいはこれらを複合した複合材で構成されたブロック状物である。また、チップ30は、外面に被膜を形成してもよい。被膜は、単層構造であっても、同じものまたは異なるものを重ねた複層構造の何れであってもよく、クロム、チタン、アルミニウム等の元素を1種類以上含む金属、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物、酸窒化物などの層を挙げることができる。
【0016】
図2に示すように、チップ30は、背面34が縦壁面18aに接合されると共に、基部31の周面が凹面18bに接合される。そして、チップ30は、幅方向(丸鋸10の回転軸に沿う方向)に向いた両側面36,36および半径方向外側に向いた外周面に形成された逃げ面38が台金12から露出すると共に、凹部18bに嵌った基部31の周面を除く回転方向前側に向く面が歯袋16に臨んでいる。
図3に示すように、チップ30は、幅方向の寸法が台金12の厚みよりも僅かに大きく形成される。また、チップ30は、各側面36が平面で構成されると共に、両側面36,36が半径方向内側から外側に向かうにつれて互いに離間するように形成される。すなわち、実施例のチップ30は、基部31側の幅より切れ刃32側の幅が広くなっている。
【0017】
前記チップ30は、逃げ面38における回転方向前側の縁が切れ刃32となっており、この切れ刃32に接して、回転方向前側に向いた第1すくい面40が形成される。逃げ面38は、回転中心Oおよび切れ刃32を直線で結んだ仮想的な第1基準線L1と直交する面に対して、切れ刃32から回転方向後側へ向かうにつれて半径方向内側へ傾くように形成される。なお、切れ刃32は、
図2に示すように直線的な稜であっても、幅方向中央部から幅方向外側に向かうにつれて半径方向内側に傾斜する山形であっても、その他の形状であってもよい。また、逃げ面38には、切削くずを分断するためにニック38aを設けてもよく(
図3参照)、実施例では半径方向内側に向けて凹んだニック38aが、該逃げ面38における回転方向全長に亘って形成されると共に、幅方向中央から外れた位置に配置される。なお、実施例のチップ30は、逃げ面38における幅方向の両角部が面取りされてテーパ形状になっている。第1すくい面40は、半径方向および幅方向の全体に亘って平坦な平面で形成され、前記第1基準線L1に対する第1すくい角θ1が、負の角度になるように設定されている。すなわち、第1すくい面40は、半径方向外側から内側へ向かうにつれて回転方向前側に傾くよう形成される。
【0018】
図2に示すように、チップ30には、前記第1すくい面40よりも半径方向内側に、該チップ30の回転方向前側に設けられた歯袋16に面する第2すくい面42が形成される。第2すくい面42は、その半径方向内側の内縁が歯袋16を画成する台金12の外周縁に接し、実施例では該内縁が回転方向に略沿って延在する歯底17に接している。すなわち、歯袋16に現れるチップ30と台金12の外周縁との境界Pが、第2すくい面42と歯底17との交差部で形成される。チップ30には、
図2に示すように、第1すくい面40および第2すくい面42を連ねて形成しても、第1すくい面40および第2すくい面42との間に1または複数の補助すくい面を設けてもよい。また、第2すくい面42は、半径方向および幅方向の全体に亘って平坦な平面で形成してもよく、歯袋16側が凹または凸になるように半径方向に湾曲する曲面で形成することもできる。第2すくい面42は、前記第1基準線L1と、該第2すくい面42の内縁を該第2すくい面42に沿って直線的に通る仮想線である第2基準線L2とがなす第2すくい角θ2が、負の角度になるように形成される。すなわち、第2すくい面42は、第1基準線L1に対して、半径方向外側から内側に向かうにつれて回転方向前側に傾く関係になっており、第1基準線L1に平行しないように形成される。ここで、実施例のように第2すくい面42が平面で形成される場合は、第2基準線L2と第2すくい面42とが一致し、第2すくい面42が曲面の場合は、第2基準線L2が前記内縁を通る接線となる。なお、第2すくい面42は、丸鋸10の回転中心Oおよび第2すくい面42の内縁を直線で結んだ仮想的な第3基準線L3と前記第2基準線L2とがなす角θ3についても、負の角度になるよう形成される。
【0019】
図2に示すように、第2すくい面42は、第1すくい面40と傾斜の角度を変えてあり、第2すくい角θ2が第1すくい角θ1よりも正側に大きくなるよう形成するのがよい(|第1すくい角θ1|>|第2すくい角θ2|)。第2すくい面42(第2基準線L2)は、第1すくい面40に対して、回転方向後側(正側)に傾くように形成され、この場合に第2すくい面42が第1すくい面40に対して5°〜45°の範囲で正側に傾くように設定するのがよい。なお、実施例の第2すくい面42は、半径方向の寸法が第1すくい面40よりも大きく形成される。また、チップ30は、背面34が、
図2に示すように第1基準線L1と平行に形成したり、半径方向外側から内側へ向かうにつれて回転方向前側に傾けるように形成される。なお、チップ30は、第2すくい面42と背面34との間の回転方向前後の幅が、半径方向に亘って同一であってもよいが、
図2に示すように、半径方向外側から内側に向かうにつれて広くなるように形成するのが好ましい。
【0020】
図2に示すように、実施例のチップ30は、半径方向内側の基部31が第2すくい面42の内縁より半径方向内側に延出している。チップ30は、基部31の周面に、第2すくい面42の内縁の半径方向内側に連ねて、第2基準線L2に対して回転方向後側に傾くように形成された分散面44を備える。分散面44は、第2すくい面42の内縁から半径方向内側へ向かうにつれて回転方向後側(正側)に傾き、第1基準線L1に対して正の角度の傾斜角θ4になるよう形成される。なお、分散面44は、第2基準線L2に対しても正の角度になっている。また、基部31の周面には、分散面44の半径方向内側に第1基準線L1と直交するように延在する底面46が連なり、背面34と底面46との間に傾斜面48が形成される。傾斜面48は、背面34から半径方向内側へ向かうにつれて回転方向前側(負側)に傾き、第1基準線L1に対して負の角度になるよう形成される。このように、基部31の周面は、回転方向前後の角部を面取りした如き形状で形成されて、多面とされた該周面が設置部18の凹面18bに接合される。
【0021】
図2に示すように、実施例の丸鋸10は、歯体14の外周縁14aが、歯袋16の回転方向前側から該歯袋16の回転方向前側に配置されたチップ30の背面34に連なり、該外周縁14aがチップ30の切れ刃32より半径方向内側に延在している。歯体14の外周縁14aは、歯袋16側から回転方向前側に向かうにつれて半径方向外側に傾くように形成される。歯体14の外周縁14aには、該外周縁14aから半径方向外側に突出する突部20が形成され、この突部20における半径方向外側の頂部が、チップ30の切れ刃32よりも半径方向内側に位置するよう設定されている。突部20は、歯袋16の回転方向前側に設けられ、チップ30の切れ刃32の回転軌跡から半径方向内側に1.5mm以内の範囲に頂部が位置するように形成するのが望ましい。実施例の突部20は、歯体14の外周縁からコブ状に隆起しており、頂部が円弧状に形成される。また、突部20は、回転方向前側の縁辺が頂部から回転方向前側に向かうにつれて半径方向内側に傾くように形成される。
【0022】
〔実施例の作用〕
次に、実施例に係る丸鋸10の作用について説明する。実施例の丸鋸10によれば、歯袋16に面する第2すくい面42が第1基準線L1に対して負の角度で傾斜しているので、歯袋16に巻き込んだ切削くず等を、第2すくい面42の傾斜によって歯袋16の外側へ出すことができる。すなわち、丸鋸10は、前述した第2すくい面42を備えたチップ30とすることで、歯袋16に現れるチップ30と台金12との境界Pに加わる衝撃を軽減することができる。また、第2すくい面42が第1基準線L1に対して負の角度で傾斜しているので、切削くず等がチップ30の回転方向前面にぶつかった際の衝撃が、チップ30と台金12との境界Pに集中することを抑制し得る。従って、丸鋸10において、比較的強度に劣るチップ30と台金12との境界Pへの負荷を抑えることができ、応力の集中によって境界Pの接合部分から壊れてチップ30が台金12から脱落したり、チップ30自体が破損することを抑えることができる。特に、筒状に丸めた鋼板の端縁を互いに溶接することで成形された鋼管など、切削に際して、切削くずだけでなく硬い溶接ビードが鋼管内に残留し易いワークであっても、実施例の丸鋸10によれば円滑に切削することができる。丸鋸10は、第2すくい面42を第1すくい面40よりも正側にした負の角度に設定しているので、チップ30と台金12との境界Pへの負荷をより抑えることができる。
【0023】
前記丸鋸10は、チップ30の第2すくい面42より半径方向内側の基部31が、該基部31に合わせて凹んだ台金12の設置部18に嵌め込まれて、背面34だけでなく基部31の周面も台金12に接合される。丸鋸10は、チップ30における基部31の周面と台金12における設置部18の凹面18bとの接合部分でチップ30に加わる切削力を受けるので、切削の際に当該接合部分にかかる応力が減小する。また、実施例によれば、チップ30の第2すくい面42と台金12との歯袋16に臨む境界Pに対して衝撃が加わった際に、チップ30の基部底面が第2すくい面42の内縁(台金12との境界P)から回転方向に沿って延在したり、基部底面が第2すくい面42の内縁から回転方向後側に向かうにつれて半径方向外側に傾く構成と比べて、該境界Pの接合部分の損傷を抑えることができ、チップ30の破損や剥離を防止することができる。更に、チップ30の基部には、第2すくい面42に連ねて該第2すくい面42に対して正側に傾斜した分散面44が形成されているので、チップ30の第2すくい面42と台金12との境界Pの応力が低減され、チップ30のろう付け部分が破壊され難くなり、チップ30の脱落を防止することができる。
【0024】
前記チップ30は、基部31の周面が多面で構成されると共に該周面に合わせて台金12の接合面が形成されているので、チップ30と台金12との接合面積を増やすことができ、台金12に対するチップ30の接合強度を向上させることができる。チップ30は、第2すくい面42と背面34との間の回転方向前後の幅を、半径方向外側から内側に向かうにつれて広くなるように形成することで、台金12に接合する基部31の周面を広くとることができるから、台金12に対するチップ30の接合強度を更に向上させることができる。
【0025】
前記丸鋸10には、歯袋16の回転方向前側に延在する歯体14の外周縁14aに半径方向外側に突出する突部20が設けられているので、突部20によって切削時に歯袋16に切削くずを巻き込み難くすることができる。従って、丸鋸10は、突部20によってチップ30への負荷の要因の1つである切削くずの歯袋16への巻き込み自体を抑えることができるから、チップ30の破損やチップ30近傍の台金12が折れて破損する所謂首折れの発生を防止し得る。
【0026】
図1〜3に示す実施例の丸鋸10と
図4に示す比較例の丸鋸50とについて、実際にワークを切削する試験を行い、両者を比較した。ワークとしては、鋼板を丸めて突き合わせた端縁を溶接することで筒状に成形された機械構造用炭素鋼管(STKM13A)を用いた。ワークは、外径が50.8mmであり、厚さが5mmである。実施例および比較例の丸鋸10,50は、厚さ1.7mmの台金12を用い、外径が285mmで、歯数が80個に設定され、切れ刃の幅が2mmのチップ30,52を台金12にろう付けしている。実施例および比較例のチップ30,52は、外面にTiAlN系の被膜が形成された超硬合金である。また、実施例および比較例のチップ30,52は、第1すくい面40の半径方向の幅が0.3mmであり、第2すくい面42,54の半径方向の幅が同一に設定されている。実施例のチップ30は、第1すくい面40の第1すくい角θ1が−25°で、第2すくい面42の第2すくい角θ2が−5°で、分散面44の傾斜角θ4が45°で、背面34が第1基準線L1と平行に形成されている。また、実施例の丸鋸10には、歯袋16の回転方向前側に突部20が形成されているのに対し、比較例の丸鋸50は、歯袋16の回転方向前側に延在する歯体14の外周縁14aに前記突部20に対応する形状を備えていない。比較例のチップ52は、第1すくい面40の第1すくい角θ1が−25°で、第2すくい面52の第2すくい角θ2が10°で設定され、背面56が第2すくい面52と平行に延在している。比較例のチップ52は、底面58が第2すくい面42と台金12との境界Pから回転方向に沿って延在するよう形成され、実施例のように基部31が台金12に嵌め込まれていない。実施例および比較例の丸鋸10,50により、切削速度358m/min、1歯当たりの送り量0.07mmの条件で、ミストを供給しつつ前記ワークを切削した。試験は、実施例および比較例の丸鋸10,50を2個ずつ用意し、夫々2回行った
。
【0027】
比較例の丸鋸50は、首折れやチッピングやチップズレ等のチップ52の異常が発生して継続して切削することができなくなるまでの総カット数に達するまでに噛み込みが多く発生している。これに比べて実施例の丸鋸10は、表1に示す総カット数に達してもチップ30に異常が発生していないので、切削を継続することができ、また比較例よりも多く切削しても噛み込みが少ないことが分かる。このように、実施例の丸鋸10は、噛み込みが生じ難く、チップ30が破損し難いことが確認できる。
【0028】
図5に示すように、本発明に則した丸鋸の解析モデル1〜4と前記比較例に則した解析モデル5を有限要素法により作成し、解析モデル1〜5の夫々について、歯袋16に現れるチップ30,52と台金12の境界Pにかかる主応力を解析した。
図5(a)に示す解析モデル1は、3mmの切れ刃32の幅および傾斜面48がないことを除いて段落[0026]で説明した実施例と同じ条件に設定されている。
図5(b)に示す解析モデル2は、第2すくい面42をそのまま半径方向に延長して基部31を台金12に嵌め込んだものであり、分散面44を備えていない以外は解析モデル1と同じ条件に設定されている。
図5(c)に示す解析モデル3は、解析モデル2と同じ形状のチップ30であり、該チップ30の基部31を台金に嵌め込まない点が解析モデル2と異なっている。
図5(d)に示す解析モデル4は、解析モデル1の第2すくい面42から回転方向に沿って底面46を形成したものであり、基部が台金12に嵌め込まれていない。
図5(e)に示す解析モデル5は、3mmの切れ刃32の幅および傾斜面48がないことを除いて段落[0026]で説明した比較例と同じ条件に設定されている。
【0029】
各解析モデルのチップ30,52の刃先に対して30kgfの力を回転方向後側に向けて加えた場合に、第2すくい面42と台金12との歯袋16に臨む境界Pにかかる主応力を求めた。その結果、解析モデル1は15.3kgf/mm
2であり、解析モデル2は16.6kgf/mm
2であり、解析モデル3は17.3kgf/mm
2であり、解析モデル4は16.8kgf/mm
2であり、解析モデル5は22.5kgf/mm
2であった。すなわち、本発明のようにチップ30の第2すくい面42を設定することで、第2すくい面42と台金12との境界Pにかかる主応力が低減されることが分かる。また、チップ30の基部31を台金12に嵌め合わせることで、前記境界Pの主応力がより低くなり、台金12に嵌め合わせた基部31に分散面44を形成することで、更に前記境界Pの主応力を低くすることが分かる。
【0030】
(変更例)
前述した構成に限定されず、例えば以下のように変更することも可能である。
(1)チップは、第1すくい面と第2すくい面との間に補助すくい面を形成してもよい。補助すくい面は、第1基準線に対して、半径方向外側から内側へ向かうにつれて回転方向前側に傾くように形成し、該第1基準線との間でなす補助すくい角を負の角度としたり、第1基準線に対して、平行であってもよい。また、補助すくい面は、第1基準線に対して、半径方向外側から内側へ向かうにつれて回転方向後側に傾くように形成し、補助すくい角を正の角度とすることもできる。ここで、補助すくい面は、補助すくい角を負の角度にするのが好ましく、この場合には補助すくい角を、第1すくい角よりも正側に傾いた負の角度で設定すると共に、第2すくい角を、補助すくい面よりも正側に傾いた負の角度で設定するとよい(|第1すくい角|>|補助すくい角|>|第2すくい角|)。
(2)チップは、基部を台金に嵌め込む構成に限られず、第2すくい面と台金との歯袋に臨む境界を通って回転方向に沿って底面が延在する形状であってもよい。
(3)突部の形状は、側面視で円弧形状に限られず、三角形状や矩形状やその他の形状であってもよい。