(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339768
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】弱め界磁性に優れたIPMモータのロータ鉄心用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20180528BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20180528BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20180528BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20180528BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20180528BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C22C38/06
C22C38/58
C21D8/12 H
C21D9/46 E
H01F1/147 175
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-72759(P2013-72759)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196535(P2014-196535A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】岩津 智永
(72)【発明者】
【氏名】片桐 幸男
(72)【発明者】
【氏名】藤原 進
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−084761(JP,A)
【文献】
特開2009−046738(JP,A)
【文献】
特開2012−217318(JP,A)
【文献】
特開2012−092445(JP,A)
【文献】
特開2003−243214(JP,A)
【文献】
特開平10−018005(JP,A)
【文献】
特開平10−168551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12− 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.0005質量%超〜0.10質量%以下、Si:0質量%〜0.270質量%、Mn:0質量%〜2.48質量%未満、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0質量%〜3.0質量%かつSi+Al:3.0質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上でありかつその時の残留磁束密度Brが0.5T以上であることを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
【請求項2】
磁界の強さが8000A/mまで磁化した時の保磁力Hcが100A/m以上であることを特徴とする請求項1に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
【請求項3】
Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種以上の成分を合計して0.01質量%〜0.20質量%さらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
【請求項4】
Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
【請求項5】
Cu:0.05質量%〜1.5質量%及びNi:0.05質量%〜1.0質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
【請求項6】
鋼板の少なくとも片方の表面に、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜又は有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
【請求項7】
請求項1〜5に示した成分組成を有する熱間圧延鋼板を、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施した後、620〜850℃の温度まで加熱して再結晶焼鈍を行うことにより、金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上でその時の残留磁束密度が0.5T以上であるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
【請求項8】
再結晶焼鈍は、680〜850℃まで加熱する連続焼鈍とし、加熱後の冷却をガスジェット冷却とすることを特徴とする請求項7に記載した金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上で、その時の残留磁束密度が0.5T以上であるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
【請求項9】
再結晶焼鈍後に伸び率で0.1〜0.5%までのSKP圧延またはテンションレベラーを施すことを特徴とする請求項7または8に記載した金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.68T以上で、その時の残留磁束密度が0.5T以上であるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車或いは工作機械などに主に使用される永久磁石埋め込み型モータ(IPMモータ)のロータ鉄心用鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、IPMモータは、高価な永久磁石を使用するためコストは高くなるものの、誘導電動機と比べて効率が高い。このため、IPMモータは、例えば、ハイブリッド自動車及び電気自動車の駆動用モータ及び発電用モータ、家電製品、並びに各種の工作機械や産業機械用のモータ等に広く使用されている。
【0003】
IPMモータの鉄心は、固定子(ステータ)と回転子(ロータ)とに分けられる。ステータ側の鉄心には巻線を通じて交流磁界が直接付与されるので、効率を高くするためにステータ側の鉄心には、高透磁率であると同時に体積抵抗率を高めて、鉄損を低減できることが要求される。このため、ステータ側の鉄心には、極低炭素鋼にSiを添加して軟磁気特性を改善した電磁鋼板が用いられる(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0004】
一方、ロータ側の鉄心には永久磁石が埋め込まれるため、主にヨークとして磁束密度を高める役割を担う。ロータ側の鉄心はステータ側から発生する交流磁界の影響を僅かに受けるが、その影響は限定的である。従って、特性の観点から見ると、鉄損特性に有利な電磁鋼板をロータ側の鉄心に使用する必要はない。しかし、ステータのみに電磁鋼板を使用すると電磁鋼板の製品歩留りが低下して、モータの製造コストが高くなるので、通常は、ロータ側の鉄心にもステータ側と同じ電磁鋼板が用いられる。
【0005】
IPMモータが自動車に搭載される場合、自動車の小型軽量化のニーズからIPMモータにも小型化が求められる。その場合、小型化しても従来と同等以上のモータ出力(トルク)を得るために、ロータの回転速度が高められる。一般に、モータの効率はロータの回転速度を高くするほど良好となる。しかし、IPMモータでは、埋め込まれた永久磁石の回転により、ステータ巻線に誘導起電圧が発生する。この誘導起電圧は、回転速度の上昇に伴い増加する。そして、誘導起電圧が入力電圧を超えたところで、モータは回転できなくなる。このためIPMモータでは、例えば特許文献3に示されるように、高速回転域で運転する際に、永久磁石の磁束を打ち消す方向の磁束をステータ側から発生させ、誘導起電圧を抑制する弱め界磁制御が行われている。この弱め界磁制御により、高速回転域での運転が可能となる反面、永久磁石の磁束を打ち消すことに電力を使用するため、モータトルクは減少する。なお、特許文献3では、磁石の形状に工夫を施すことにより、弱め界磁制御に使用する電力量を少なくすることが図られている。
【0006】
一方、IPMモータを小型化しても従来と同等以上のトルクを得るためロータの回転速度を高めると、ロータに埋め込まれた永久磁石に作用する遠心力が増大してロータの破損にいたる問題がある。破損を起こさないためには、ロータの素材として降伏強度が高い材料が好適である。例えば3%程度のSiを含有する無方向性電磁鋼板(35A300)の場合、磁性焼鈍後の降伏強度は約400N/mm
2程度である。このため、ロータの直径が80mm以上の比較的大型のIPMモータの場合、ロータの構造によって異なるものの20000rpm程度が破損を起こさない回転速度の限界と考えられている。これまでも、電磁鋼板をベースに鉄心の降伏強度を高くする検討が種々行われてきたが、それでも高々780N/mm
2程度である。そこで、高速回転化によるロータ鉄心の破損を抑制する方法として、例えば特許文献4では、ロータ鉄心用素材として、電磁鋼板ではなく、高強度かつ高飽和磁束密度である鋼板を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005―133175号公報
【特許文献2】特開2005―60811号公報
【特許文献3】特開2000―278900号公報
【特許文献4】特開2009―46738号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】平成23年度電気学会産業応用部門大会講演論文集、3−24(2011)、PIII−179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3では、磁石の形状に工夫を施すことにより、弱め界磁制御に使用する電力量を少なくすることが図られているが、素材鋼板の残留磁束密度及び保磁力を調節する点については考慮されていない。また、特許文献4は、高強度化によって高速回転が可能となるが、残留磁束密度及び保磁力に関する知見は得られず、弱め界磁制御時の高トルク化の可能性に関しては不明であった。
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決するため、IPMモータのロータ用鉄心として高速回転域での出力トルクをより大きくでき、最大回転速度をより高くできる鋼板の提供を目的として、素材鋼板の磁気特性について、磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値を1.65T以上に、その時の残留磁束密度を0.5T以上に制御することが有効であり、必要に応じて8000A/mまで磁化した時の保磁力が100A/m以上に制御することがさらに有効であることを見出し、特願2012−081369、特願2012−681370の発明を行った。しかし、特願2012−081369、特願2012−681370では、高残留磁束密度及び高保磁力を得る方法としては、加工強化や変態強化等による歪の付与を主体としたものであり、焼鈍ままで安定して残留磁束密度を0.5T以上にする方法については不明確であった。したがって、本発明では、IPMモータの高速回転域での弱め界磁性を改善するに際して、焼鈍ままでも安定して0.5T以上の残留磁束密度を有する鋼板を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、素材鋼板の金属組織をフェライト単相またはフェライト十セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物とし、さらにフェライトの結晶粒径を30μm以下に制御することで安定して0.5T以上の残留磁束密度を確保できることを見出した。
即ち、本発明は、金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下で、磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.65T以上であり、その時の残留磁束密度が0.5T以上であり、必要に応じて8000A/mまで磁化した時の保磁力が100A/m以上であることを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板である。
【0012】
また、本発明は、C:0.0005質量%超〜0.10質量%以下、Si:0質量%〜3.0質量%、Mn:0質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0質量%〜3.0質量%かつSi+Al:3.0質量%以下、必要に応じて、Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種以上の成分を合計して0.01質量%〜0.20質量%さらに含有し、さらに必要に応じてMo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分、および/またはCu:0.02質量%〜1.5質量%及びNi:0.02質量%〜1.0質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する熱間圧延鋼板を、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施した後、620〜850℃の温度まで加熱して再結晶焼鈍を行うことにより、金属組織がフェライト単相またはフェライト十セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライトの結晶粒径が30μm以下であることを特徴とする磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.65T以上で、その時の残留磁束密度が0.5T以上であり、必要に応じて8000A/mまで磁化した時の保磁力が100A/m以上であるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、IPMモータのロータ用鉄心として用いるときに、高速回転域での出力トルクをより大きくでき、最大回転速度をより高くできる鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例で作成したロータの形状を示す図である。
【
図2】実施例で作製したロータの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のIPMモータのロータ鉄心用鋼板は、金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなり、フェライト結晶粒径が30μm以下で、磁界の強さが8000A/mの時の磁束密度B8000の値が1.65T以上であり、その時の残留磁束密度が0.5T以上であり、必要に応じて8000A/mまで磁化した時の保磁力が100A/m以上であることを特徴とするものである。
【0016】
磁気特性を限定する理由は以下の通りである。
<磁界の強さが8000A/mのときの磁束密度B
8000:1.65T以上> 磁束密度B
8000の値が1.65T以上とされているのは、ロータとして高速回転する際に永久磁石12を挿入した位置(d軸)と挿入していない位置(q軸)でのインダクタンスの値の差に基づくリラクタンストルクを有効に活用し、とくに高速回転領域において従来の鋼板と同等以上のトルク性能を発揮するためである。
【0017】
<8000A/mまで磁化した時の残留磁束密度Br:0.5T以上>
8000A/mまで磁化した時の残留磁束密度Brが0.5T以上とされているのは、以下の通りである。即ち、IPMモータでは、永久磁石による磁石磁束(d軸磁束)に加え、リラクタンストルクを得るためにステータ側からロータ内を貫通する磁束(q軸磁束)を流し、高トルク化及び高効率化を達成している。しかし、例えば非特許文献1「平成23年度電気学会産業応用部門大会講演論文集、3−24(2011)、PIII−179」のように、モータへの入力電流を増加させ、q軸磁束を増加させると、d軸磁束との相互干渉によりd軸磁束の向きが回転方向とは逆方向にずれて偏り、d軸及びq軸インダクタンスの変化を通じて最大トルクを減少させることが知られている。この現象はdq軸相互干渉と呼ばれ、本来のd軸磁束よりも回転方向前方では磁束が強め合い、後方では弱め合うことに起因しているが、電磁鋼板のように保磁力が小さくかつ残留磁束密度も小さい高透磁率材料では、回転方向の後方における磁束の弱め合いがスムーズに進行するのに対して、保磁力が大きな低透磁率材料では残留磁束密度が大きいことに起因して、磁束の弱め合いが抑制されるため、前述のd軸磁束のずれによる偏りが小さくなる。その結果として、dq軸相互干渉に伴う最大トルクの減少を抑制することが可能となる。この効果を得るためには、8000A/mまで磁化した時の残留磁束密度Brが0.5T以上、好ましくは1.0T以上が必要である。本発明者らが種々の鋼板を素材としてIPMモータを試作し、モータの性能評価を行ったところ、0.5T以上、望ましくは1.0T以上の残留磁束密度を有する鋼板を用いてロータ鉄心を形成することで、高速回転時に行う弱め界磁制御の消費電力を低減でき、出力トルクを向上できることが分かった。
【0018】
<8000A/mまで磁化した時の保磁力:100A/m以上> 本発明の鋼板は、高速回転域においてより高いトルクが必要となる場合には、100A/m以上の保磁力を有することが好ましい。その理由は以下の通りである。即ち、保磁力の増大に伴い透磁率が小さくなることに起因して、ブリッジ部での永久磁石からの漏れ磁束が小さくなり、その結果として永久磁石からの磁束を有効に活用できるようになる。この効果を得るためには、8000A/mまで磁化した時の保磁力が好ましくは100A/m以上、さらに好ましくは300A/m以上、最も好ましくは1000A/m以上必要である。この効果は、ロータの構造によって変化するが、例えば高速回転時の遠心力に耐えるべく、永久磁石を2分割してセンターブリッジを設けるなどした場合など、永久磁石からの漏れ磁束が多くなる構造の場合、より効果的に作用する。
【0019】
金属組織の限定理由は以下の通りである。
<金属組織:フェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物>
金属組織は、高い磁束密度を得るため、強磁性体であるフェライト単相あるいはフェラ
イト+セメンタイトからなることがのぞましい。なお、Ti、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物は、磁束密度には大きな影響を及ぼさず、磁壁の移動を妨げ高残留磁束密度及び高保磁力を得るために有効であり、必要に応じて鋼中に分布させることが望ましい。
【0020】
<フェライト結晶粒径:30μm以下>
金属組織がフェライト単相またはフェライト+セメンタイトおよび/またはTi、Nb、V、Mo及びCrからなる群から選択される1種以上を含む炭・窒化物および不可避的な介在物からなるとともにフェライト結晶粒径が30μm以下である必要がある。フェライト結晶粒径が30μmを超えると、磁壁の移動が容易になることに起因して残留磁束密度が0.5Tよりも小さくなるため、良好な弱め界磁性が得られない。
【0021】
本発明の鋼板は、C:0.0005質量%超〜0.10質量%以下、Si:0質量%〜3.0質量%、Mn:0質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0質量%〜3.0質量%かつSi十Al:3.0質量%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有することが好ましい。鋼材の成分には、Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種以上の成分が合計で0.01質量%〜0.20質量%含まれてもよく、Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分が含まれてもよく、また、Cu:0.05質量%〜1.5質量%及びNi:0.05質量%〜1.0質量%からなる群から選択される1種以上の成分が含まれてもよい。
【0022】
鋼材の成分組成を限定する理由は以下の通りである。
<C:0.0005質量%超〜0.10質量%以下>
Cは、鋼中に固溶又はセメンタイト(Fe3C)として析出し、高強度化に有効な元素である。IPMモータのロータ鉄心として用いるのに適した降伏強度とするために、0.0005質量%を超えるCを含有させることが好ましい。しかし、0.10質量%を超えて含有させると、溶接性が劣化し連続焼鈍ライン等での通板性が大幅に劣化する。
【0023】
<Si:0質量%〜3.0質量%>
Siは、高強度化に有効である上に、体積抵抗率を高め、渦電流損を小さくするのに有効な元素であるが、本発明では添加しなくてもよい。渦電流損の抑制や高強度化の効果を得ようとするためには、0.01質量%以上含有させることが好ましい。しかし、3.0質量%を超えて含有させると、鋼板の靭性が劣化するとともに、磁束密度の低下を招く。また、より高い磁束密度を得るためには、できるだけその添加量を抑制し、例えば0.1%以下または0.01%以下さらには無添加であることが望ましい場合もある。
【0024】
<Mn:0質量%〜2.5質量%>
Mnは、高強度化に有効な元素であるが、本発明では添加しなくてもよい。高強度化の効果を得るためには、0.05質量%以上の含有させることが好ましい。しかし、2.5質量%を超えて含有させると、強度の向上効果は飽和するとともに、かえって磁束密度の低下を招く場合がある。
【0025】
<P:0.05質量%以下>
Pは、磁束密度の低下を抑制しつつ高強度化を図るのに有効な元素であるが、一方で鋼の靭性を著しく低下させる。0.05質量%までは許容できるため、上限を0.05質量%とする。
【0026】
<S:0.02質量%以下>
Sは、高温脆化を引き起こす元素であり、大量に含有させると、熱間圧延時に表面欠陥を生じ、表面品質を劣化させる。したがって、できるだけ低減することが望まれる。0.02質量%までは許容できるため、上限を0.02質量%とする。
【0027】
<酸可溶Al:0質量%〜3.0質量%、Si+Al:3.0質量%以下>
Alは脱酸剤として添加されるほか、Siと同様に鋼の体積抵抗率を上昇させるのに有効な元素である。その効果を発揮するためには、0.005質量%以上の酸可溶Alを含有させることが好ましい。しかし、Siとの合計で3.0質量%を越えて含有させると磁束密度の低下が大きくなり、モータの性能が劣化する場合がある。また、より高い磁束密度を得るためには、できるだけその添加量を抑制し、例えば0.1%以下または0.01%以下さらには無添加であることが望ましい場合もある。
【0028】
<Ti、Nb及びVの1種以上:0.01質量%〜0.20質量%>
Ti、Nb及びVは、鋼中で炭窒化物を形成し、析出強化による高強度化に有効な元素である。また、フェライト結晶粒径の微細化にも有効に作用する。その効果を得るためには、1種又は2種以上を合計で、0.01質量%以上添加することが好ましい。しかし、0.20質量%を超えて添加しても、析出物の粗大化により強度上昇は飽和するとともに製造コストの増大を招く。
【0029】
<Mo:0.1質量%〜0.6質量%、Cr:0.1質量%〜1.0質量%及びB:0.0005質量%〜0.005質量%の1種以上>
Mo、Cr及びBも、高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、Mo、Cr及びBの1種以上を、それぞれ設定した下限値以上添加することが好ましい。しかしそれぞれ設定した上限値を超えて添加してもその効果は飽和するととともに製造コストの増大を招く。なお、1種だけの添加でも2種以上の添加でもその効果は認められるが、2種以上を添加する場合は、それぞれ設定した上限値の1/2を超える量を添加すると、その効果に比して製造コストの上昇が大きくなるので、1/2以下の量で添加することが望ましい。
【0030】
<Cu:0.05質量%〜1.5質量%及びNi:0.05質量%〜1.0質量%の1種以上>
Cu及びNiも高強度化に有効な他、保持力を上昇させるのに有効な元素である。その効果を得るためには、それぞれ設定した下限値以上添加することが好ましい。しかし、それぞれ設定した上限値を超えて添加しても、その効果は飽和するととともに製造コストの増大を招く。
【0031】
なお、本発明においては鋼の脱酸は必ずしも必要ではなく、とくにSi,Al,Ti等の脱酸に寄与する元素を添加しない場合には、鋼中の酸素量が高くても構わない。鋼中の酸素は、酸化物系の介在物として鋼中に析出するが、これらの介在物も磁壁の移動を妨げ残留磁束密度及び保磁力の増大に寄与するので、本発明においてはより好ましい。この場合、鋼中の酸素含有量は500ppm以下であることが好ましい。酸素量が500ppmを超えると連続鋳造での生産が困難となる。
【0032】
次に、本発明のIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法について説明する。本発明によるIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法は、前述の成分組成を有する熱間圧延鋼板を、1回の冷間圧延又は中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施した後、620〜850℃の温度まで加熱して再結晶焼鈍を行うことを特徴とするものである。また、再結晶焼鈍は、680〜850℃まで加熱する連続焼鈍とし、加熱後の冷却をガスジェット冷却とすることが好ましい。さらに、再結晶焼鈍後に伸び率で0.1〜0.5%までのSKP圧延またはテンションレベラーを施すことが好ましい。
【0033】
<熱間圧延条件>
製造条件の限定理由は以下の通りである。
熱間圧延条件は、特に規定する必要は無く、通常の方法に従い実施すればよいが、熱間圧延の仕上げ温度は、γ単相域で実施することが望ましい。また、巻取り温度は高温になり過ぎると酸化スケールが厚くなり、その後の酸洗性を阻害するため、700℃以下とすることが望ましい。
【0034】
<冷間圧延条件>
得られた熱間圧延鋼板は、焼鈍後に1回の冷間圧延を施してもよいし、中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施してもよいが、最終圧延率を60%以上とすることが望ましい。冷間圧延率が60%未満では、最終焼鈍後のフェライト結晶粒径が30μmよりも大きくなる場合がある。
【0035】
<焼鈍温度>
冷間圧延ままの鋼板に、620〜850℃にて再結晶焼鈍を施すことにより、30μm以下のフェライト結晶粒径を有する再結晶組織を得ることができる。焼鈍温度が620°C未満では、未再結晶組織が残留する場合がある。また、850℃を超えると、フェライト結晶粒径が30μmを超える場合があるとともに過大な熱エネルギーが必要になり製造コストの増大を招く。焼鈍はバッチ焼鈍、連続焼鈍のいずれでも構わないが、連続焼鈍の場合には、焼鈍温度の下限値を680℃とすることが好ましく、また冷却はガスジェット冷却とすることが板形状確保の観点から好ましく、バッチ焼鈍の場合は、焼鈍温度の上限値を680℃とすることが好ましい。
【0036】
<SKP圧延、テンションレベラー>
良好な板形状の観点から、再結晶焼鈍後にインラインまたはオフラインで伸び率で0.1〜0.5%までのSKP圧延またはテンションレベラーを施すことが好ましい。
【0037】
<絶縁皮膜の形成>
本発明では、ロータに発生する渦電流損の低減を目的として、鋼板の少なくとも片方の表面に、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜及び有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜を形成することが好ましい。無機材料からなる絶縁皮膜の例としては、六価クロムのような有害物質を含まず、リン酸二水素アルミニウムを含有する無機質系水溶液が挙げられるが、良好な絶縁が得られれば、有機材料からなる絶縁皮膜又は有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜を用いてもよい。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
表1及び2に示す成分組成を有する鋼を溶解し、これらの連鋳片を1250℃に加熱し950℃で仕上げ圧延して560℃で巻取り、板厚1.8mmの熱間圧延鋼板を得た。これらの熱間圧延鋼板を酸洗した後、一回の冷間圧延にて板厚0.35mmの冷間圧延鋼帯を得た(最終圧延率:約81%)。これらの冷間圧延鋼帯を800℃に60秒均熱処理する連続焼鈍を施した。冷却はガスジェット冷却とし、伸び率0.5%のインラインSKPを施した。その後、Cr系酸化物及びMg系酸化物を含有する半有機組成の約1μmの厚さの絶縁皮膜を鋼板の両面に形成した。
なお、No.12、13及び19鋼は、参考例とする。
【0039】
【表1】
【0040】
得られた鋼帯から内径33mm及び外径45mmのリング状の試験片を打抜きにより作製し、磁化測定に供した。また、得られた鋼帯からJIS5号試験片を切り出し、引張試験に供した。金属組織は、冷間圧延前の鋼板の圧延方向の板厚断面を2%ナイタール試薬
(2%硝酸・エチルアルコール溶液)にてエッチングを施し、走査型電子顕微鏡を用いた観察により、その組織形態から、フェライト、フェライト+セメンタイト等の組織に分類した。各サンプルの磁界の強さが8000A/mのときの磁束密度(B8000)、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hc)、降伏強さ、引張強さ、全伸び、フェライトの結晶粒径及び焼鈍後の金属組織を表3及び4に示した。表2の結果から明らかなように、本願発明範囲の成分組成を有し、本願発明で規定した製造条件で製造したサンプルでは、フェライトの結晶粒径が30μm以下となり、同時に0.5T以上の残留磁束密度がえられることがわかる。
【0041】
【表2】
【0042】
<実施例2>
実施例1のN0.3、8、21鋼について、
図1及び2に示す8極(4極対)構造のロータを打抜き加工により作製し、負荷トルクを付与したモータ性能評価試験に供した。また、ステータは1ヶのみ製造し、製造したロータを組替えてモータとしての性能評価に供した。モータの最大出力はいずれも4.5kWである。この性能評価では、10000rpm以上で弱め界磁制御を行った。なお、市販の電磁鋼板(35A300、板厚:0.35mm)について、本発明の素材鋼板と同様の方法による機械的特性及び磁気的特性を評価したところ、降伏強さが381N/mm
2であり、引張強さが511N/mm
2であり、飽和磁束密度B8000が1.76Tであり、残留磁束密度が0.45T、保磁力が75A/mであった。
【0043】
作製したロータ及びステータの仕様は以下の通りである。
◎ロータの仕様
・外径:80.1mm、軸長50mm
・積層枚数:0.35mm/140枚
・センターブリッヂ、アウターブリッヂの幅:1.00mm
・永久磁石:ネオジム磁石(NEOMAX−38VH)、9.0mm幅×3.0mm厚×50mm長さ、合計16ヶ埋め込み
◎ステータの仕様
・ギャップ長:0.5mm
・外径:138.0mm、ヨーク厚:10mm、長さ:50mm
・鉄心素材:電磁鋼板(35A300)、板厚0.35mm
・積層枚数:140枚
・巻線方式:分布巻き.
【0044】
それぞれのロータを組み込んだIPMモータの7500rpm及び15000rpmにおける最大トルク及び効率を表3に示した。
【0045】
【表3】
【0046】
表4の結果から明らかなように、結晶粒径が30μm以下で残留磁束密度Brが0.5T以上であったNo.3、8鋼は、残留磁束密度Brが0.5T以下であったNo.21鋼と比較して、7500rpmのトルクは同等であったが、弱め界磁制御を行つた15000rpmでは約1.4倍のトルクが得られた。