特許第6339788号(P6339788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339788
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】採便容器
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   G01N33/48 G
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-212993(P2013-212993)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-75433(P2015-75433A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信悟
(72)【発明者】
【氏名】市川 芳晴
(72)【発明者】
【氏名】林 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】外山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】石川 将
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−012808(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0005705(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0215548(US,A1)
【文献】 特開昭51−005600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器を密封すると共に採便棒を有する蓋体と、
注出孔が穿設された隔壁を先端側に有し、基端側が開口する筒状の容器本体と、
前記注出孔を封止する封止体を有し、前記容器本体の先端側に螺締により装着される滴下キャップと、
を備え、
前記容器本体の先端側の外周面の所定位置に周方向に沿って第一環状凸部を形成し、前記滴下キャップの内周面の所定位置に周方向に沿って第二環状凸部を形成し、
前記滴下キャップの螺締を緩めて前記封止体を離間させて前記注出孔を開放する際に、前記第一環状凸部と前記第二環状凸部とが当接して前記滴下キャップの脱落を防止しつつ、
開放された前記注出孔から流出させた液を前記滴下キャップに取り付けられたフィルタで濾過して滴下することを特徴とする採便容器。
【請求項2】
前記第一環状凸部と前記第二環状凸部とが当接した状態で、前記滴下キャップを螺締する前記容器本体の先端側の外周面に形成された本体側螺条と、前記滴下キャップの内周面に形成されたキャップ側螺条とが螺合する範囲において、
前記本体側螺条と前記キャップ側螺条の一方又は両方の高さを低く、或いは除去して、前記本体側螺条と前記キャップ側螺条とが相互に乗り越え可能とした請求項1に記載の採便容器。
【請求項3】
周方向に沿ってミシン目が形成されたテープ状部材を、前記ミシン目が前記容器本体と前記滴下キャップとの境界に位置するように巻きつけた請求項1又は2に記載の採便容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糞便検査に際して糞便を採取する採便容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糞便検査(検便)に際して糞便を採取する採便容器として、種々の形態の採便容器が提案されているが、その多くのものは、先端に螺旋状溝を設けた採便棒を有する蓋体と、保存溶液が収容された容器本体とを備えている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
この種の採便容器にあっては、糞便を採取するにあたり、蓋体を取り外して、採便棒を糞便に突き刺す等して先端に設けた螺旋状溝に糞便を掻き取った後に、採便棒を容器内に戻して蓋をすることによって、容器本体に収容された保存溶液に採取した糞便を縣濁させるようになっている。そして、このようにして採取された糞便は、その縣濁液を濾過して検査に供されるが、良好な検査がなされるには、保存溶液に縣濁させた糞便の量が多過ぎたり、少な過ぎたりしないようにして、一定の量の糞便を保存溶液に縣濁させることが求められる。
【0004】
このため、多くの採便容器にあっては、糞便が付着した採便棒を容器本体内に戻す際に、容器本体の内部に隔壁を設ける等して形成された擦り切り部に採便棒を挿通して余分な糞便を取り除くようにしてあり、これによって、一定量の糞便が採取できるようにしてある。
例えば、特許文献1に記載された採便容器にあっては、採便棒に付着した余分な糞便を取り除くための擦り切り部を中栓に設け、かかる中栓を容器本体に挿入することによって容器本体の内部に擦り切り部が形成されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−12808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された採便容器にあっては、滴下部の薄肉部を穿刺具等により貫通させて開封し、採取した糞便を縣濁させた縣濁液を、フィルタを通して外部に滴下することによって検査に供しているため、一度開封すると、再検査のために容器を再封止することができず液漏れを生じるという問題がある。
また、栓付のキャップを外して開封することも考えられるが、キャップを外す際に糞便を縣濁させた懸濁液をこぼしてしまったり、キャップを紛失してしまったりすることが危惧される。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、糞便を縣濁させた懸濁液を滴下して検査に供する採便容器において、螺締(螺子締め)により装着される滴下キャップを備えることにより開封後の再封止を可能とすると共に、螺締を緩め過ぎてしまうことによる滴下キャップの脱落を防止することができる採便容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る採便容器は、容器を密封すると共に採便棒を有する蓋体と、注出孔が穿設された隔壁を先端側に有し、基端側が開口する筒状の容器本体と、前記注出孔を封止する封止体を有し、前記容器本体の先端側に螺締により装着される滴下キャップと、を備え、前記容器本体の先端側の外周面の所定位置に周方向に沿って第一環状凸部を形成し、前記滴下キャップの内周面の所定位置に周方向に沿って第二環状凸部を形成し、前記滴下キャップの螺締を緩めて前記封止体を離間させて前記注出孔を開放する際に、前記第一環状凸部と前記第二環状凸部とが当接して前記滴下キャップの脱落を防止しつつ、開放された前記注出孔から流出させた液を前記滴下キャップに取り付けられたフィルタで濾過して滴下する構成としてある。




【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、螺締により装着される滴下キャップを備えることにより開封後の再封止を可能とすると共に、螺締を緩め過ぎてしまうことによる滴下キャップの脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る採便容器を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
図2図1(b)のA−A断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る採便容器が備える蓋体の一例を示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は図3(a)のB−B断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る採便容器が備える滴下キャップの螺締状態の一例を示す参考断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る採便容器の他の一例を示す正面図である。
図6】本発明の実施形態に係る採便容器が備える中栓の一例を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
図7図6(b)のC−C断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る採便容器が備える容器本体の一例を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図である。
図9】本発明の実施形態に係る採便容器が備える中栓の他の一例を示す説明図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
図10】本発明の実施形態に係る採便容器が備える中栓の他の一例に適用される蓋体の説明図であり、(a)は蓋体の短径側の参考断面図、(b)は蓋体の長径側の参考断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1、2に示す採便容器1は、糞便検査に際して糞便を採取するためのものであり、容器を密封する蓋体2と、保存溶液が収容される筒状の容器本体3と、容器本体内に装着される中栓4と、容器本体3の先端側に螺締により装着される滴下キャップ5とを備えている。採便容器1を構成するこれらの部材は、例えば、ポリプロピレン,ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いて、射出成形等により製造することができるが、容器本体3は、スクイズ可能となるように、低密度ポリエチレン等の柔軟な材料を用いて円筒形、或いは断面が楕円形や長円形の筒状に成形するのが好ましい。
【0013】
図3に示すように、蓋体2は、容器内を密封する蓋部2aと共に、糞便を採取するための採便棒2bを有している。採便棒2bの先端側には螺旋状に刻設された螺旋状溝2cが形成されており、採便棒2bにより糞便を採取するには、蓋体2を容器から取り外して、採便棒2bを糞便に突き刺す等して螺旋状溝2cで掻き取るようにして糞便を採取する。そして、糞便を採取した後は、蓋体2を再び容器に装着して採便棒2bを容器内に戻し、容器本体3に収容されている保存溶液に採取された糞便を縣濁させる。
【0014】
尚、本実施形態では、採便棒2b先端側に螺旋状溝2cを形成しているが、糞便を確実に採取できるものであれば、これに限定されない。例えば、長手方向と直交し、採便棒2bの先端側を周回する溝を複数設けることも可能である。その他、各種形状の凹部や貫通孔を一つ以上設けてもよい。糞便の性状は固形便、軟便、液状便等様々なので、これらの糞便を採取するために各種の採便器具が考案されている。
【0015】
採便容器1において、蓋体2は、中栓4の外周面に周方向に沿って形成した環状凸部4gと、蓋部2aの内周面に周方向に沿って形成した環状凸部2fとの嵌合により装着されて、容器内を密封するようにしてあるが、蓋体2の装着手段はこれに限定されない。容器内を密封することができれば、例えば、特に図示しないが、蓋部の内周面に条設された螺条と、中栓4の外周面に条設された螺条とにより、螺着によって蓋体を装着するようにしてもよい。
【0016】
蓋体2を容器に装着したときの密封性をより良好なものとするには、特に図示しないが、中栓4の端縁に当接する突部を、蓋部2aの内面に環状に形成するのも有効である。
また、採便容器1にあっては、中栓4の内周面に蓋部2aを密着させることによって密封性を確保しているが、中栓4の外周面と蓋部2aとの間には隙間が形成されるようにしている。中栓4の外周面と蓋部2aとの間に隙間を形成しておくことで、糞便を採取した採便棒2bを容器内に戻すときに、誤って糞便が中栓4の端縁に付着してしまった場合等に、この隙間に糞便を流入させて採便容器1の外部にはみ出さないようにすることができる。
【0017】
このような蓋体2は、射出成形により蓋部2aと採便棒2bとを一体に成形するのが好ましいが、これらは別体に成形するようにしてもよい。蓋部2aによって容器内を密封することができると共に、糞便に突き刺すことができる程度の硬さを採便棒2bが有していれば、蓋体2の具体的な構成は特に限定されない。
【0018】
また、採便棒2bに付着した糞便の視認性を高めるために、採便棒2bを白色乃至淡色の明度の高い色で着色することが好ましい。特に、糞便の色(褐色乃至黄褐色)の補色に近い淡緑色に着色することがより好ましい。
【0019】
また、容器本体3は、注出孔3aが穿設された隔壁3bを先端側に有しており、容器本体3の先端側に螺締(螺子締め)により装着される滴下キャップ5は、かかる注出孔3aを封止する封止体5aを有している。これにより、本実施形態の採便容器1は、滴下キャップ5の螺締を緩めることによって開封され(図2参照)、滴下キャップ5を締め直すことによって再封止される。
【0020】
本実施形態では、滴下キャップ5が装着される容器本体3の先端側の外周面には、その所定の位置に周方向に沿って第一環状凸部3dが形成されている。これと共に、滴下キャップ5の内周面には、その所定の位置に周方向に沿って第二環状凸部5bが形成されている。
【0021】
容器本体3の先端側の外周面に第一環状凸部3dを形成する位置と、滴下キャップ5の内周面に第二環状凸部5bを形成する位置は、図2に示すように、滴下キャップ5の螺締を緩めることによって、封止体5aが離間して注出孔3aが開放されたときに、第一環状凸部3dと第二環状凸部5bとが当接するように適宜調整する。このようにすることで、第一環状凸部3dと第二環状凸部5bとが当接した感触によって、採便容器1が開封された状態にあることを感知することができ、螺締を緩め過ぎてしまうことによる滴下キャップ5の脱落を防止することができる。
【0022】
また、本実施形態にあっては、滴下キャップ5を螺締するために、容器本体3の先端側の外周面に本体側螺条3eを形成すると共に、滴下キャップ5の内周面にキャップ側螺条5cを形成している。これらの螺条の形成に際しては、第一環状凸部3dと第二環状凸部5bとが当接した状態で、容器本体3の本体側螺条3eと滴下キャップ5のキャップ側螺条5cとが螺合する範囲において、本体側螺条3eとキャップ側螺条5cの一方又は両方の高さを低くするか、或いは除去して、両者が相互に乗り越え可能とするのが好ましい。
【0023】
ここで、図4は、容器本体3の本体側螺条3eと、滴下キャップ5のキャップ側螺条5cとの相互の乗り越えを可能とする構成の例を示している。
図4(a)は、滴下キャップ5のキャップ側螺条5cの第二環状凸部5b側に位置する螺条5cから5cに渡る範囲の螺条の高さを低くしたものである。図4(b)は、容器本体3の本体側螺条3eの第一環状凸部3dから離れた側に位置する螺条3eから3eに渡る範囲の螺条(図中その一部を鎖線で示す)を除去したものである。図4(c)は、容器本体3の本体側螺条3eの螺条3eの範囲の螺条(図中その一部を鎖線で示す)を除去し、滴下キャップ5のキャップ側螺条5cの螺条5cから5cに渡る範囲の螺条の高さを低くしたものである。
【0024】
従って、採便容器1が開封されて、第一環状凸部3dと第二環状凸部5bとが当接した状態になると、滴下キャップ5が容器本体3に対して空回りする。このように、滴下キャップ5を容器本体3に対して空回りさせることにより、滴下キャップ5を容器本体3から外すことなく検査が行われるため、汚染、或いは再封止に必要とされる滴下キャップの紛失が防止される。
【0025】
さらに、本実施形態では、図5に示すように、周方向に沿ってミシン目7aが形成されたテープ状部材7を、そのミシン目7aが容器本体3と滴下キャップ5との境界に位置するように巻きつけるのが好ましい。このようにすることで、採便容器1の開封前(検査前)の滴下キャップ5の緩みを防止すると共に、開封の有無の確認が容易になる。
【0026】
一方、容器本体3の基端側は、容器本体3内に中栓4を装着できるように開口しており、容器本体3内に中栓4を装着したときに、容器本体3の内周面と中栓4の外周面とが液密に密着して、容器本体3に収容された保存溶液が漏れ出さないようになっている。
【0027】
図6、7に示すように、容器本体3内に装着される中栓4の先端部には、長手方向に直交する底面4aを有すると共に、底面4aの中央に、蓋体2が有する採便棒2bが挿通可能な擦り切り部4bが形成されている。かかる擦り切り部4bは、糞便を採取した採便棒2bを容器内に戻す際に、採便棒2bに付着した余分な糞便を取り除くためのものであり、本実施形態では、底面4aの中央に開口する筒状の部位として形成されている。擦り切り部4bは、擦り切り部4bの内周面に採便棒2bが液密に密着して、採便棒2bが擦り切り部4bの内周面を摺動する際に余分な糞便が取り除かれるように形成され、これによって、螺旋状溝2cを埋める一定量の糞便を、容器本体3に収容された保存溶液に縣濁させることができる。
【0028】
擦り切り部4bを構成する中栓4の外形は、採便棒2bを擦り切り部4bに確実に案内するために、中栓4の途中から擦り切り部4bに向かって徐々に細くなるテーパー形状とすることもできる。
【0029】
しかしながら、このような形状は、当該テーパー部の側面と容器本体の内面との間に隙間ができ、保存溶液収容部の容積が大きくなってしまう。保存溶液収容部の容積が大き過ぎると、糞便を採取した後に採便容器1を横置きにして、或いは滴下キャップ5側を上向きにして保管した場合に、採便棒2bの先端が空気中に露出して、糞便中の測定対象成分の安定性を損なうことも考えられる。このため、中栓4の形状は、保存溶液収納部の容積ができるだけ少なくなるような形状が好ましい。
従って、中栓4の外形としては略円筒状として、底面4aの形状を、長手方向と直交する平面、或いは周辺から中央の擦り切り部4bに向かって窪んだ形状とすることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態では、糞便を採取した採便棒2bを容器内に戻す際に、採便棒2bを擦り切り部4bに挿通するのを容易にするために、擦り切り部4bの周りには、放射状に配置された複数の傾斜リブ4cからなる採便棒案内部が形成されている。
【0031】
採便容器1において、傾斜リブ4cは、擦り切り部4bの周縁から斜めに立ち上がる辺を有する三角形状に形成されているが、採便棒2bを擦り切り部4bに案内できるようになっていれば、その形状は特に限定されない。
採便棒2bを擦り切り部4bに案内するには、擦り切り部4bの周りをすり鉢状に形成するだけでもよいが、それでは中栓4の先端部の底面4a側が厚肉になって成形に要する樹脂量が増え、また、冷却に時間を要して生産速度が遅くなる。さらに、冷却時の樹脂の収縮量が大きくなり、寸法安定性の上でも不利となるが、複数の傾斜リブ4cを放射状に配置し、隣接する傾斜リブ4cの間を肉抜きして採便棒案内部を形成することで、このような不都合を有効に回避することができる。
【0032】
本実施形態の採便容器1は、採便棒2bにより採取された糞便を容器本体3に収容された保存溶液に縣濁させた後に、滴下キャップ5の螺締を緩めることによって開封される。そして、容器本体3をスクイズして、保存溶液に糞便を縣濁させた懸濁液を注出孔3aから流出させて滴下キャップ5に取り付けられたフィルタ6で濾過し、その濾液を滴下して検査に供するようにしてある。
【0033】
滴下キャップ5に取り付けるフィルタ6は、検査の妨げとなる未消化の固形分を濾過することができ、検査対象に対して不活性のものであれば、その素材は特に限定されない。例えば、モルトフィルタ、濾紙、樹脂焼結フィルタ等の多孔性物質、グラスウール,脱脂綿等の繊維性物質等が挙げられ、所定の細孔径を有するモルトフィルタ、樹脂焼結フィルタを用いるのが好ましい。このようなフィルタは、一種から成るものであってもよく、二種以上のフィルタを積層することによって形成されたものであってもよい。
【0034】
また、採取した糞便を懸濁させる保存溶液としては、糞便検査に適したものであれば任意のものを用いることができ、また、必要に応じて緩衝剤、安定剤、防腐剤、色素、消臭剤等の添加剤を加えておいてもよい。容器本体に収容する保存溶液の液量は、糞便検査に際して要求される糞便の懸濁濃度に応じて適宜調整する。例えば、5mgの糞便を採取する場合には液量を2mlとすることにより400倍の希釈率が得られる。
【0035】
さらに、採便容器1にあっては、図8に示すように、容器本体3の基端側の開口部の端縁に沿ってフランジ部3cが形成されている。一方、前述した図6に示す中栓4の外周面には、容器本体3内に中栓4を装着したときに容器本体3のフランジ部3cと重なる位置に、周方向に沿って張り出し部4dが形成されている。
【0036】
前述したように、容器本体3は、スクイズ可能とするために柔軟な材料を用いて円筒形に成形するのが好ましい。一方、中栓4の先端部には、採便棒2bが液密に密着して余分な糞便を取り除く擦り切り部4bが形成されることから、中栓4は硬質な材料を用いて成形するのが好ましい。そして、この場合、容器本体3と中栓4とは溶着し難い異種材料によって形成されることから、容器本体3内に装着された中栓4の固定に際しては、蓋体2を中栓4に着脱する際の容器本体3と中栓4の空回り、或いは蓋体2と中栓4の共回りを防止することが望まれる。このため、本実施形態では、図示するように、容器本体3側に形成されたフランジ部3cには、切り欠き部3fから成る係合部を形成すると共に、中栓4側に形成された張り出し部4dに、当該切り欠き部3fと嵌合する突部4eから成る係止部をそれぞれ形成することで、採便棒2bを有する蓋体2を中栓4に着脱する際の容器本体3と中栓4の空回り、或いは蓋体2と中栓4の共回りを防止している。
【0037】
尚、前述した容器本体3側のフランジ部3cに形成する係合部としては、切り欠き部3fの他に窪んだ溝部、貫通孔等が挙げられ、これらの形状に応じて中栓4側の張り出し部4dに形成される係止部の形状を適宜選択すればよい。また、前述した係合部は中栓4側の張り出し部4dに、係止部は容器本体3側のフランジ部3cに形成してもよい。
【0038】
さらに、容器本体3側に形成されるフランジ部3cと、中栓4側に形成される張り出し部4dとは、採便容器1の検査時における転がりを防止するために、図示するひし形形状、或いは楕円形状、トラック形状等とし、直交する二方向の一方が長くなるように形成するのが好ましい。
【0039】
また、図3図10に示すように、蓋体2の蓋部2aに、蓋体2の回動を容易にする一対の羽根部2dを対称的に形成すると共に、この羽根部2dの下端部側の蓋体2の蓋部2aの下端部側面を中空状に部分的に膨出させて、上部側の両辺部が末広がり状に下方に傾斜する一対の傾斜状溝部2eを対称的に形成する。一方、図6図9に示すように、中栓4の張り出し部4dの長径側内周上に、少なくとも上端部側の両辺部が末広がり状に下方に傾斜する一対の傾斜状突起部4fを対称的に形成する。このようにすることで、蓋体2の傾斜状溝部2eと中栓4の傾斜状突起部4fとによって構成される離脱機構により、蓋体2の羽根部2dに指を掛けて蓋体2を回動させて、容易に蓋体2を中栓4から離脱させることができる。
【0040】
尚、前述した離脱機構を構成する蓋体2の傾斜状溝部2eの両辺部の形状と、中栓4の傾斜状突起部4fの両辺部の形状は、前記蓋体2の回動をスムーズに、且つ回動方向の制約をなくすことから、前記両辺部の辺部同士と、前記傾斜状溝部2eと傾斜状突起部4fの両辺部同士が同形状を呈するのが好ましく、直線状、凹曲線状とするのが好ましい。
【0041】
さらに、蓋体2の傾斜状溝部2eと中栓4の傾斜状突起4fは、何れも対称的に一対形成する必要はなく、何れか一方を一つ形成しても良い。また、蓋体2に形成する傾斜状溝部2eを羽根部2dと直交する蓋部2aの下端部側面に形成し、中栓4に形成する傾斜状突起部4fを張り出し部4dの短径側内周上に形成してもよいが、傾斜状溝部2eは蓋体2の蓋部2aの羽根部2dの下端部側に形成し、傾斜状突起部4fは中栓4の張り出し部4dの長径側内周上に形成するのが、それぞれの形成を容易にする点から好ましい。
【0042】
そして、この場合、蓋体2を中栓4に装着する際に、前述した離脱機構を構成する蓋体2の傾斜状溝部2eと中栓4の傾斜状突起部4fとの位置合わせと、蓋体2の蓋部2aの内周面に形成された環状凸部2fと中栓4の外周面に形成された環状凸部4gとの嵌合を行う。このため、図9に示すように、中栓4の環状凸部4gの上方に、頂部側から軸方向に対して両辺が逆V字状に下方に傾斜し、好ましくは下端部が軸方向と平行に垂下する一対の案内カム4hを対称的に形成する。一方、図10に示すように、蓋体2の蓋部2aの環状凸部2fの上方に、軸方向に沿って延在する一対の突条2hを対称的に形成する。この中栓4の案内カム4hと蓋体2の突条2hとによって構成されるカム機構により、採便棒2bを有する蓋体2の中栓4への装着時に回動して押し込む際に、中栓4の案内カム4hに蓋体2の突条2hが案内される。この結果、前述した離脱機構を構成する蓋体2の傾斜状溝部2eと中栓4の傾斜状突起部4fとが一致した状態で、蓋体2を容易に、かつ、確実に中栓4に嵌合させることができる。
【0043】
また、前述したように、容器本体3側に形成されるフランジ部3cと、中栓4側に形成される張り出し部4dが直交する二方向の一方が長くなるように形成し、蓋体2の蓋部2aに羽根部2dを形成した場合は、前述したカム機構の中栓4の案内カム4hを、中栓4の張り出し部4dの短径側に形成し、一方、蓋体2の突条2hを蓋部2aの羽根部2d及び傾斜状溝部2eと同位置に形成するのが好ましい。このような構成とすることにより、蓋体2の蓋部2aの成形時のひけが防止されると共に、蓋部2aに形成された羽根部2dが、容器本体3に形成されたフランジ部3cと中栓4に形成された張り出し部4dのそれぞれの長径側に位置決めされる。
【0044】
尚、蓋体2の突状2hと中栓4の案内カム4hは、何れも対称的に形成する必要はなく、何れか一方を一つ形成しても良いが、前述した蓋体2の中栓4に対する嵌合による装着、固定の容易さと安定性から、何れも一対として対称的に形成することが好ましい。また、中栓4の案内カム4hを張り出し部4dの長径側に形成し、蓋体2の突条2hを羽根部2d及び傾斜状溝部2eと直交して形成しても良い。
【0045】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0046】
例えば、前述した実施形態では、擦り切り部4bが形成された中栓4を容器本体3内に装着することで、容器本体3の内部に擦り切り部4bが形成されるが、本発明では、中栓4を省略して、直接、容器本体3の内部に擦り切り部4bを形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明は、糞便検査に際して糞便を採取する採便容器として利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 採便容器
2 蓋体
2a 蓋部
2b 採便棒
3 容器本体
3a 注出孔
3c フランジ部
3d 第一の環状凸部
3e 本体側螺条
4 中栓
4a 底面
4b 擦り切り部
4c 傾斜リブ
4d 張り出し部
5 滴下キャップ
5a 封止体
5b 第二の環状凸部
5c キャップ側螺条
7 テープ状部材
7a ミシン目
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10