(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339791
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】麦飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20180528BHJP
【FI】
A23L7/10 H
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-228678(P2013-228678)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-84759(P2015-84759A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子
(72)【発明者】
【氏名】中西 夕
(72)【発明者】
【氏名】窪田 史朗
【審査官】
鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−005674(JP,A)
【文献】
特開平11−313626(JP,A)
【文献】
特開2004−113037(JP,A)
【文献】
特開2008−220314(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0058243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/152
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
もち種大麦の精麦を原料麦とし、該原料麦を水に浸漬して吸水させる浸漬工程と、浸漬後、水切りした原料麦に炊飯用水を加水して炊飯する工程を含む麦飯の製造方法であって、浸漬前の原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%になるように炊飯用水の加水量を調整することを特徴とする、麦飯の製造方法。
【請求項2】
炊飯された麦飯を冷凍する工程をさらに含む、請求項1に記載の麦飯の製造方法。
【請求項3】
炊飯された麦飯を冷凍する前に、別途炊飯された米飯を混ぜてから冷凍する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
もち種大麦の精麦を原料麦とし、該原料麦を水に浸漬して吸水させ、水切りした原料麦に、浸漬前の原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%になるように炊飯用水を加水して炊飯されてなることを特徴とする、もち種大麦の麦飯または麦飯食品。
【請求項5】
もち種大麦の精麦を原料麦とし、該原料麦を水に浸漬して吸水させ、水切りした原料麦に、浸漬前の原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%になるように炊飯用水を加水して炊飯することを特徴とする、麦飯の保水性および食感を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は麦飯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麦飯は、大麦のみ、または大麦と米を混ぜて炊飯した飯であり、米飯とは違った固めで粘り気の少ない食感と独特の香りを有する。麦飯は、かつては米飯より食味が劣り、臭いがあるという固定観念があったが、近年になって大麦は白米に比べて食物繊維、タンパク質、ビタミンを多く含むため栄養価の面で見直されるようになり、特に最近の健康志向の高まりや食に対するニーズの多様化を受けて、広く一般に食されるようになってきた。
【0003】
大麦も米と同様に、デンプンの構造が異なる「粳(うるち)種」と「糯(もち)種」がある。うるち種のデンプンはアミロースとアミロペクチンから構成されているのに対し、もち種のデンプンはほとんどがアミロペクチンで構成されている。もち種の大麦(もち麦)は穀類の中でも食物繊維の含有率が高く、血圧や血中コレステロールを下げる働きがあることから機能性食品として着目されている(非特許文献1、2)。
【0004】
大麦は米に比べて火が通りにくくそのままでは炊飯できないため、炊飯用に加工された「精麦」が麦飯の原料として用いられている。精麦には加工方法の違いによって様々な種類があり、原料大麦を精白し、加熱した後、ローラーで圧ぺんする工程を有するもの(押麦)と、圧ぺん工程を有しないもの(丸麦、米粒麦など)に分類される(非特許文献3、4)。
【0005】
上記のようにして加工された精麦は、いずれも加熱により胚乳が改質され、炊飯しやすくなってはいるものの、例えば、うるち種の大麦の精麦を用いて炊飯した麦飯は、いずれの精麦を使用した場合も、炊飯後一定時間が経過すると、水分が失われてパサつき、硬くボソボソとした食感になるという問題があった。一方、もち種の大麦は、もちもちした物性から押麦への加工が難しいため、入手が容易な圧ぺんしない精麦が用いられているが、もち種の大麦の精麦を用いて炊飯した麦飯もまた、うるち種の大麦の精麦ほどでないものの、炊飯後時間の経過とともにパサついて硬くなり、みずみずしい食感が損なわれる。特に、大麦100%の麦飯ではその傾向が顕著である。しかしながら、これまで炊飯後の時間経過による麦飯のパサつきや硬さの問題について検討された例はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】http://www.nichibaku.co.jp/oomugifr.html 大麦について
【非特許文献2】http://mugigohan.jp/what/index.html もち麦ごはん
【非特許文献3】http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BA%A6%E9%A3%AF 麦飯
【非特許文献4】http://www.hakubaku.co.jp/tanoshimu/planttour/hakubakumai/ 白麦米工場
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、炊飯後時間が経過しても保水性が良好でパサつかず、みずみずしい食感の麦飯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、原料麦としてもち種大麦の精麦を用い、原料麦の重量に対する炊飯後重量の比率が一定の範囲になるように加水量を調整して炊飯された麦飯は、炊飯後一定時間が経過しても保水性が良好でパサつかず、みずみずしい食感を保持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) もち種大麦の精麦を原料麦とし、その原料麦に炊飯用水を加水して炊飯する工程を含む麦飯の製造方法であって、原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%になるように炊飯用水の加水量を調整することを特徴とする、麦飯の製造方法。
(2) 炊飯用水を加水して炊飯する工程の前に、原料麦を水に浸漬する一次浸漬工程を含む、(1)に記載の麦飯の製造方法。
(3) 炊飯された麦飯を冷凍する工程をさらに含む、(1)または(2)に記載の麦飯の製造方法。
(4) 原料麦がもち種大麦の精麦のみからなる、(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により製造されたもち種大麦の麦飯または麦飯食品。
(6) もち種大麦の精麦を原料麦とし、該原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%になるように加水量を調整して炊飯することを特徴とする、麦飯の保水性および食感を改善する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が所定の範囲になるように炊飯用水の加水量を調整するという簡便な手段にて、炊飯後一定時間が経過してもパサつかず、みずみずしい食感を保持する麦飯を製造することができる。また、本発明の方法により得られた麦飯は、麦飯の特有の「干草臭」や「えぐみ」も感じられない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の麦飯の製造方法は、もち種大麦の精麦を原料麦とし、その原料麦に炊飯用水を加水して炊飯する工程を含む麦飯の製造方法であって、原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%になるように炊飯用水の加水量を調整することを特徴とする。
【0012】
本発明に用いる大麦は、「もち種」の大麦であり、「うるち種」は含まない。「もち種」の大麦であれば、品種は限定されないが、例えば、キラリボシ、イチバンボシ、マンネンボシ、トヨノカゼ、ユメサキボシ、ダイシモチ等が挙げられ、これを丸麦、米粒麦に精麦したものを使用する。
【0013】
本発明において、もち種大麦の精麦(この精麦を「原料麦」という)に炊飯用水を加水して炊飯する工程の前に、原料麦を水に浸漬し、吸水させる浸漬工程(この浸漬工程を「一次浸漬工程」という)を行ってもよい。
【0014】
一次浸漬は、具体的には、原料麦を4〜6倍重量の水に常温(10〜25℃前後)で一定時間浸漬させることにより行う。一次浸漬歩留まりは特に限定はされないが、例えば、
175%以上が好ましい。本発明において「一次浸漬歩留まり」とは、一次浸漬後の吸水した大麦の重量(「一次浸漬後重量」という)の原料麦重量に対する割合をいう。浸漬時間は、一次浸漬歩留まりが上記範囲となれば特に限定はされず、原料麦の重量、浸漬水の重量、作業工程等に応じて適宜調整すればよいが、80分〜960分、好ましくは100分〜500分、より好ましくは200分〜300分が例示できる。通常、浸漬時間が長いほど吸水量が多くなり一次浸漬歩留まりは増加するが、大麦の吸水性から判断して浸漬時間を長くしても上限は220%を超えることはない。
【0015】
続いて、一次浸漬後の吸水した大麦をいったん浸漬水から取り出して水を除去する。水の除去は、例えば、浸漬水から取り出した大麦を篩の上に載せて放置するか、又は篩を振るなどして水切りすればよい。あるいは、浸漬水から取り出した大麦に送風して乾燥させるか、遠心分離して水切りすることもできる。
【0016】
次に、水切りした大麦、あるいは一次浸漬を行わない大麦に炊飯用水を加えて炊飯する。本発明において、この炊飯用水の添加を「二次加水」という。本発明の方法では、原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%、好ましくは260%〜300%になるように、二次加水量を調整する。原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が、上記範囲であると、炊飯後一定時間が経過しても保水性が良好でパサつかず、適度な硬さとみずみずしい食感の麦飯を得ることができる。ここで、一定時間とは、炊飯後、あるいは、冷凍する場合は解凍後、喫食するまでの通常の時間である、15〜30分程度が例として挙げることができる。
【0017】
二次加水のための炊飯用水には、醤油、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、肉類、魚介類、キノコ類等のエキス類、コショウ、唐辛子、パプリカ等の香辛料を含んでいてよい。
【0018】
また、炊飯の方法は通常の方法で行えばよく、バッチ式の釜炊飯または連続式の蒸気炊飯のいずれであってもよい。
【0019】
炊飯した麦飯は冷凍してもよい。炊飯した麦飯を冷凍する場合は、一定時間蒸らした後、約30℃以下に冷却し、容器に所定量充填し、容器ごと急速凍結し、密封包装して冷凍麦飯とする。また、炊飯した麦飯に、別途炊飯した米飯を混ぜてから同様にして急速凍結してもよい。麦飯と米飯の混合割合は特に限定はされない。急速凍結は、常法に従って行うことができるが、通常、約−35℃〜約−45℃にて60〜120分間が例示できる。冷凍麦飯を収容する容器としては、凍結処理および電子レンジ、オーブントースターなどによる解凍加熱調理に対応できるように、冷凍耐性と加熱耐性の両方を兼ね備えた素材であることが好ましい。よって、容器の素材は、プラスチック、紙、アルミニウム、およびそれらの積層体などが挙げられる。容器への麦飯の充填方法は特に限定されるものではなく、公知の食品用充填装置を用いて行えばよい。
【0020】
本発明の製造方法を用いて製造される麦飯は、もち種大麦が100%である麦飯をいい、当該麦飯中にはうるち種の大麦の麦飯や米飯はまったく含まない。また、当該麦飯は、具材やスープ類を混合して麦飯食品としてもよい。本発明における麦飯食品としては、例えばリゾット、炊き込みご飯、ピラフ、おにぎりなどが挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの内容は本発明を限定するものでない。
【0022】
(実施例1〜8、比較例1〜12)
(1) 麦飯試料の調製
電子秤に家庭用電気炊飯器(メーカー:象印NP−CB18型 容量:1.8L)の内釜を載せて風袋を消去した。この電子秤を用いて、内釜に原料麦(もち種/丸麦又はうるち種/丸麦)を入れて500g計量した。この内釜に2000mlの水を入れ、常温(20℃)にて一次浸漬を960分行い、一次浸漬終了後、内釜の中身をザルに開け、水を切った。ザル上の吸水した大麦を内釜に戻し、上記の電子秤を用いて重量(一次浸漬後重量)を測定し、原料麦重量500gに対する一次浸漬後重量の比率(一次浸漬歩留まり)を求めた。次に、この一次浸漬後の大麦(実施例1〜7)、または一次浸漬を行わない大麦(実施例8)を、表1に示すように二次加水量(二次加水後重量)を変えて内釜に炊飯用水を入れ(二次加水)、炊飯を開始する直前の吸水した大麦と水の合計重量(二次加水後重量)を測定した。炊飯終了後、20〜30分蒸らした後、内釜の麦飯を軽く混ぜ、150gずつプラスチックトレーに充填し、蓋をして−35℃で凍結させ、麦飯試料を製造した。
【0023】
(2) 品質評価試験
各試験区の麦飯試料をトレーごと電子レンジにて解凍し、蓋を外して40℃以下になるまで冷却し、15分経過した後に、品質評価(評価項目:保水性、硬さ、食感、色、えぐみ、干草臭)を習熟したパネラー3人を選んで行った。評価基準を表2に示す。なお、各評価において、二次加水歩留まりが300%の試料(実施例4)をコントロール(すべて5点)とし、10段階評価した。評価は、結果を表1に合わせて示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
表1に示すように、もち種/丸麦の場合、100%麦飯であるにも関わらず、原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が230%〜340%の試験区(実施例1〜7、8)では、一次浸漬の有無に関係なく、保水性、硬さ、食感が良好で、また、色の濃さやえぐみ、干草臭が気にならない程度であった。これに対し、原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率が上記範囲外である試験区(比較例1、2)では、保水性、硬さ、食感の点において230%〜340%の試験区に比べて劣った。一方、うるち種/丸麦の場合は、原料麦の重量に対する炊飯後の麦飯の重量の比率に関係なく、保水性が不良でパサつき、硬くボソボソとした食感となり、また、色も濃くなる傾向が認められ、えぐみ、干草臭も強く感じられた(比較例3〜12)。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の方法によれば、保水性や食感に優れた麦飯を製造できる。従って、本発明は、炊飯米の製造分野において有用である。