(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339801
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】昇降式装置
(51)【国際特許分類】
B61B 1/02 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
B61B1/02
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-271304(P2013-271304)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-123919(P2015-123919A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094020
【弁理士】
【氏名又は名称】田宮 寛祉
(72)【発明者】
【氏名】今井 達二己
(72)【発明者】
【氏名】乙幡 大輔
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−052523(JP,A)
【文献】
特開2010−048052(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/085096(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 1/02
B61L 23/00
B61L 29/04
E01F 13/04
E06B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降式ホーム柵の昇降ロープを備える昇降式装置において、人体に接触する前記昇降ロープの周囲を囲みかつ前記昇降ロープに対して回転可能なリング状部材を設けたことを特徴とする昇降式装置。
【請求項2】
前記リング状部材は樹脂製パイプ部材であることを特徴とする請求項1記載の昇降式装置。
【請求項3】
前記リング状部材は、間隔をあけて設けられる少なくとも2個の回転部材であることを特徴とする請求項1または2記載の昇降式装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇降式装置に関し、特に、昇降ロープ等の昇降部材を備えた昇降式装置において当該昇降部材が昇降する際に人体に接触するとき当該昇降部材の人体への危害を確実に防止するのに好適な昇降式装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昇降式装置の一例として昇降式ロープ安全柵を挙げる。この昇降式ロープ安全柵は、規制手段として昇降するロープを利用したホーム安全柵である。ホーム安全柵は、乗降客等の利用者が駅ホームから線路(軌道)に転落したり、入線してきた電車(列車)と利用者が接触するのを防止するための防護柵として、駅ホームの線路側の縁部に沿ってホーム安全柵が設けられる。
【0003】
昇降式ロープ安全柵の例は特許文献1に開示される。この昇降式ロープ安全柵は、ほぼ電車の全体の長さに等しい長さを有するロープが複数の支柱によって支持されて架設され、電車がホームに入ってくるときにはロープを下方位置に移動させて防護柵として機能させ、旅客が乗降するときにはロープを上方位置に移動させて車両ドアでの乗降を可能にする。複数の支柱のうち両端の支柱の各々に、ロープにテンション(引張力)を付加する機構部と、ロープを昇降させるロープ昇降駆動部とが設けられる。両端の支柱の間に設置された複数の支柱は、上下方向にスリットを形成し、当該スリットを通して昇降自在なロープを保持する構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−526614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昇降式ロープ安全柵では、ロープが上下する際に、上昇時の上部ロープまたは下降時の下部ロープが駅ホーム利用者の身体に接触しまたは当たって、当該ロープが人体に食い込むなど、人体に危害を与えるおそれがあった。そのため、従来より、安全の観点から昇降式ロープ安全柵では改善の余地があった。
さらに上記の課題は、ロープ以外の部材を昇降させて構成されるホーム安全柵、あるいは、昇降棒等を備える踏切装置など、昇降部材を有する一般的な昇降式装置においても解決されるべき課題である。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、昇降ロープ式ホーム柵のごとく昇降する部材を備えた昇降式装置において、昇降部材が昇降する際に人体に接触する可能性のあるとき、当該昇降部材の人体への食い込み等の危害を確実に防止することができる昇降式装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る昇降式装置は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0008】
第1の昇降式装置(請求項1に対応)は、
昇降式ホーム柵の昇降ロープを備える昇降式装置において、
人体に接触する昇降ロープの周囲を囲みかつ昇降ロープに対して回転可能なリング状部材を設けたことを特徴とする。
【0009】
上記の昇降式装置では、特に昇降式ロープ安全
柵において昇降部材であるロー
プが昇降する場合において、ロー
プが上昇するときには上部ロー
プが、ロー
プが下降するときには下部ロー
プが、利用者の人体に接触する可能性があるとき、人体に接触する可能性のあるロー
プの周囲に回転可能なリング状部材を設けたため、接触時に人体に与える負荷としての力は極めて低減され、当該人体にダメージを与えるのを防ぐことが可能となる。
さらに、ロープの表面は人体に接触はせず、当該表面が接触する前の段階で、ロープの表面が人体に接触するのを防ぎ、リング状部材の回転作用によって、ロープを人体の輪郭に沿って移動させるように構成される。この結果、ロープが人体にダメージとなる負荷力を与えるのを防止することが可能となる。
【0013】
第
2の昇降式装置(請求項
2に対応)は、上記の構成において、好ましくは、リング状部材は樹脂製パイプ部材であることを特徴とする。
【0014】
第
3の昇降式装置(請求項
3に対応)は、上記の構成において、好ましくは、リング状部材は、間隔をあけて設けられる少なくとも2個の回転部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、昇降式ロープ安全
柵のごとき昇降式装置で、昇降部材であるロー
プが昇降する場合において、ロー
プが上昇するときには上部ロー
プが、ロー
プが下降するときには下部ロー
プが、上、下、または横等の方向から利用者の人体に接触する可能性があるとき、人体に接触する可能性のあるロー
プに回転可能なリング状部
材の接触負荷力低減構造を設けたため、ロー
プが人体を押圧しまたは打撃し、あるいは、人体に食い込みまたは絡まったり等して、接触に起因して人体に対してダメージ負荷的な力を与えて危害を加える状態の発生を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る昇降式装置の代表例である昇降式ロープ安全柵の要部の構成を示す斜視図である。
【
図2】接触負荷力低減構造の第1の実施形態を示す図である。
【
図3】接触負荷力低減構造の第2の実施形態を示す図である。
【
図4】接触負荷力低減構造の第3の実施形態を示す図である。
【
図5】第3の実施形態に係る接触負荷力低減構造を備えた昇降式ロープ安全柵の構成を示す斜視図である。
【
図6】接触負荷力低減構造の第4の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1を参照して、本発明に係る昇降式装置の代表例として昇降式ロープ安全柵の例を説明する。昇降式ロープ安全柵10は、例えば、駅ホーム11のホーム縁11aに沿って複数の支柱を間隔をあけて設置し、それらの支柱を利用してロープを支持するように構成されている。ロープは、駅ホーム11に居て、電車を利用する旅客等を、駅ホーム11に入線する電車から安全に保護するための規制手段である。ロープは、図示例では、上下の位置関係にて間隔をあけて例えば3本のロープ12によって構成されている。ロープ12の長さは、駅ホーム11に入線する電車の長さとほぼ一致する長さで設定されており、駅ホーム11のホーム縁11aに沿って設置されている。ロープ12は、両端に位置する支柱の間で、引張されるような状態で架け渡され、中間の複数の支柱の各々ではそこに形成された上下方向のスリット等の箇所を挿通させるように配置されている。両端に位置する支柱、例えば
図1の支柱13の内部には、ロープ12を昇降させる昇降装置を内蔵している。昇降装置によるロープ12の昇降動作(A)は、図示しない制御装置によって制御されており、ロープ12の昇降動作は電車の運用と連動している。すなわち、駅ホーム11の番線に電車が入ってくるときまたは出るときには、旅客14の危険回避のためにロープ12は下降した位置に移動して安全柵として機能し、旅客14が電車に乗降するときにはロープ12は上昇した位置に移動して車両ドアの前面空間を開放する。
【0020】
ロープ12の昇降動作においては、ロープ12が下降するとき、あるいはロープ12が上昇するときに、旅客14の存在位置または行動によっては、旅客14の人体の一部に接触する可能性がある。特に、行動が予測できない子供、視覚や聴覚の障害がある者、または自身の特定行為のみに意識を集中し周囲状況に無関心の状態にある者等の場合には、接触可能性はより高くなる。このような接触状態が起きた場合、人体に対して軽微な接触ならば問題はない。しかしながら、ロープ12と人体との接触で高い摩擦力が作用した場合、さらには押圧的または打撃等の作用が生じた場合等には、当該接触に起因して旅客14の人体に高い負荷力を与え、人体にダメージ(危害)を与えるおそれがある。そこで、かかる接触による負荷力を低減し、人体にダメージ(危害)が与えるのを防止するため、ロープ12に対しては、次のように接触負荷力を低減する構造が設けられている。
【0021】
図2は、接触負荷力低減構造の第1の実施形態を示す。この例では、ロープ12の表面の部分が例えば全面的または部分的に低い摩擦力となるように摩擦力の低い素材によって被覆されている。
図2において(A)は外観図を示し、(B)は縦断面図を示している。
図2の(A)において、ロープ12に対して摩擦力の低い被覆素材21を誇張して示している。実際上、被覆素材21は極めて薄い膜状の素材である。
図2の(B)にその構造を示す。ロープ12は金属ワイヤで作られる芯材12aとこの芯材12aを覆う樹脂被覆部12bとで作られており、さらにロープ12の樹脂被腹部12bの表面の周囲を可撓性を有する緩衝材21aで覆って、当該緩衝材21aの表面をさらに低摩擦力素材の膜21bで被覆している。上記の摩擦力の低い被覆素材21は、可撓性の有する緩衝材21aと低摩力擦素材の被覆膜21bとによって構成されている。この構成では、ロープ12自体は既存する現製品であり、当該既存のロープ12の表面に対して外付け的に、摩擦力の低い被覆素材21が設けられている。
【0022】
上記の接触負荷力低減構造を有したロープ12によれば、ロープ12が昇降動作を行う場合において旅客14の人体に接触したとき、人体に接触したロープ12の表面の摩擦力が低いため、ロープ12は低摩擦の接触状態によって人体の輪郭に沿って移動し、人体に食い込むのを避けることができる。またロープ12が旅客の人体に押圧的、あるいは打撃的に接触する場合にも、摩擦力の低い被覆素材21によってその作用を軽減し、同様に人体の輪郭に沿って逃がすことが可能となる。
【0023】
上記の第1実施形態の例では、昇降部材であるロープ12の表面を低摩擦力の被覆素材21で被覆するようにしたが、ロープ12自体の表面を低摩擦力表面とするように構成することもできる。
【0024】
図3は、接触負荷力低減構造の第2の実施形態を示す。この例では、ロープ12に対して、ロープ表面に対して回転可能な状態で取り付けられたカバー部材31を設けている。
図3において(A)は外観図を示し、(B)は縦断面図を示している。カバー部材31は、ロープ12の周囲を囲みかつロープ12に対して回転可能なリング状部材である。リング状部材は、例えば竹輪のような、中空構造のパイプ形状を有している。その長さは任意に設定することができる。カバー部材31は、発泡材や樹脂材等を用いて作られる。カバー部材31の表面は、普通の摩擦力を有する表面にも、あるいは第1の実施形態の場合と同じように低摩擦力を有する表面にもすることができる。
図3の(B)に示すように、芯材12aと樹脂被腹部12bからなるロープ12の表面に対して隙間(遊び)32を設けてパイプ状の発泡材31aを設け、この発泡材31aの表面を通常摩擦力または低摩擦力の素材で作られた膜31bで被覆している。カバー部材31は、パイプ状発泡材31aと膜31bとで作られている。
【0025】
上記の接触負荷力低減構造を有したロープ12によれば、ロープ12が昇降動作を行う場合において旅客14の人体に接触したとき、基本的に、回転可能なカバー部材31の表面が人体に接触するため、ロープ12自体は、カバー部材31の回転作用で人体の輪郭に沿って接触しながら移動し、人体に接触することはなく、ロープ12が人体に食い込む等の状態の発生を防止することができる。カバー部材31の回転作用で、ロープ12が人体にダメージ的な負荷力を与えるのを防止することができる。またロープ12が旅客の人体に押圧的、あるいは打撃的に接触する場合にも、カバー部材31の回転作用によって逃げの状態を作り、その作用を軽減し、人体の輪郭に沿って逃がすことが可能となる。
【0026】
図4は、接触負荷力低減構造の第3の実施形態を示す。この例では、ロープ12に対して、ロープ表面に対して回転可能な状態で取り付けられた複数の回転部材31を設けている。複数の回転部材41は、例えば等しい一定の間隔をあけてロープ12に取り付けられている。回転部材41の縦断面の構造は、前述したカバー部材31の構造と実質的に同じである。この接触負荷力低減構造を有したロープ12によっても、第2の実施形態の場合と同じように、接触負荷力を低減することができる。すなわち、ロープ12が昇降動作を行う場合において旅客14の人体に接触したとき、回転可能な複数の回転部材41の表面が人体に接触するため、ロープ12自体は、接触した回転部材41の回転作用で人体の輪郭に沿って接触しながら移動し、ロープ12が人体に食い込む等の状態の発生を防止することができる。こうして回転部材41の回転作用で、ロープ12が人体にダメージ的な負荷力を与えるのを防止することができる。
【0027】
図5は第3の実施形態に係る接触負荷力低減構造を備えた昇降式ロープ安全柵を示す。3本のロープ12のそれぞれに適宜な間隔で複数の回転部材41が取り付けられている。その他の構成は、
図1に示した構成と同じであるので、同一の要素には同一の符号を付し、説明を省略する。この構成によっても、回転部材41によって、ロープ12が旅客14の人体に危害を与えるのを防止することができる。
【0028】
図6は、接触負荷力低減構造の第4の実施形態を示す。この例では、ロープ12に対して、ロープ表面に対して回転可能な状態で取り付けられた複数の回転部材51であって、それぞれ全体として紡錘形の形状を有した複数の回転部材51を設けている。複数の回転部材51は、例えば等しい一定の間隔をあけてロープ12に取り付けられている。回転部材51の縦断面の構造は、上記の回転部材51の構造と実質的に同じである。この接触負荷力低減構造を有したロープ12によっても、第2の実施形態の場合と同じように、接触負荷力を低減することができる。すなわち、ロープ12が昇降動作を行う場合において旅客14の人体に接触したとき、回転可能な複数の回転部材51の表面が人体に接触するため、ロープ12自体は、接触した回転部材51の回転作用で人体の輪郭に沿って接触しながら移動し、ロープ12が人体に食い込む等の状態の発生を防止することができる。こうして回転部材51の回転作用で、ロープ12が人体にダメージ的な負荷力を与えるのを防止することができる。
【0029】
本発明に係る昇降式装置は次のように変形することもできる。
上記の各実施形態では、昇降式ロープ安全柵のロープ12に接触負荷力低減構造を設ける構成例であったが、ロープ以外の例えばバーやロッドを昇降部材として昇降させるように構成されたホーム柵の当該昇降部材にも接触負荷力低減構造を適用することができる。
またホーム柵以外の例えば踏み切り装置において、昇降する遮断棒あるいは遮断ロープ等に接触負荷力低減構造を設けるように構成することもできる。
【0030】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る昇降式装置は、昇降式ロープ安全柵等に適用され、ロープ等の昇降部材が人体に接触するときに低摩擦力である表面の作用、または回転する作用を有するカバー部材または回転部材によって人体に沿って逃がし、食い込み等のダメージ的な負荷力が人体に加わるのを防止することに利用される。
【符号の説明】
【0032】
10 昇降式ロープ安全柵
11 駅ホーム
11a ホーム縁
12 ロープ
12a 芯材
12b 樹脂被覆部
13 支柱
14 旅客
21 被覆素材
21a 緩衝材
21b 膜
31 カバー部材
31a 発泡材
31b 膜
32 隙間
41 回転部材
51 回転部材