特許第6339820号(P6339820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6339820インホイールモータ駆動装置のサスペンション構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339820
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】インホイールモータ駆動装置のサスペンション構造
(51)【国際特許分類】
   B60G 3/20 20060101AFI20180528BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   B60G3/20
   B60K7/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-30127(P2014-30127)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155219(P2015-155219A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 四郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴則
(72)【発明者】
【氏名】石川 愛子
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−126037(JP,A)
【文献】 特開2013−144509(JP,A)
【文献】 特開2005−271909(JP,A)
【文献】 特開2008−001241(JP,A)
【文献】 特開2008−044434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 3/20
B60K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インホイールモータ駆動装置と、
インホイールモータ駆動装置の下側に配置され、遊端がボールジョイントを介してインホイールモータ駆動装置の下部に連結され、基端がピボットを介して車体側メンバに連結され、上下方向に揺動するロアアームと、
前記ボールジョイントを通過して上下方向に延びるインホイールモータ駆動装置の転舵軸とを有し、
前記ロアアームは、下方に膨らむよう湾曲して延びる形状であり、
前記インホイールモータ駆動装置は、インホイールモータ駆動装置の下部のうち前記ボールジョイントよりも前方あるいは後方箇所に設置されて、インホイールモータ駆動装置の下部からさらに下方に突出するオイルタンクを有する、インホイールモータ駆動装置のサスペンション構造。
【請求項2】
前記インホイールモータ駆動装置は、モータ部と、前記モータ部の軸線方向一方側に配置されてモータ部の回転を減速して出力する減速部と、前記減速部のさらに軸線方向一方側に配置されて減速部の出力回転を車輪へ伝達するハブ部を含み、
前記減速部のケーシングは、転舵力が入力されるアーム部と一体形成される軽金属製のダイカスト部材である、請求項に記載のインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造。
【請求項3】
前記減速部のケーシングは、前記ボールジョイントと接続するボールジョイント座部をさらに有する、請求項に記載のインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造。
【請求項4】
前記ロアアームが上方にも下方にも揺動しない前記インホイールモータ駆動装置の通常の高さ位置において、前記ボールジョイントの回転中心が前記ピボットの回転中心よりも下方に位置する、請求項1〜3のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造
【請求項5】
前記ロアアームは1部材のみであって、当該ロアアームの遊端は1個のみであり、当該ロアアームの基端は複数個である、請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵輪を駆動するインホイールモータ駆動装置のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インホイールモータ駆動装置は、電気駆動されることから環境に負荷を与えることが少ないばかりでなく、自動車の車輪内に設置されて当該車輪を駆動することから、エンジン自動車と比較して広い車室スペースを確保することができ、有利である。そこでインホイールモータ駆動装置を車体側に取り付ける技術としては従来、例えば特許文献1に記載のごときものが知られている。特許文献1に記載のインホイールモータ駆動装置は、その下部にサスペンション装置のトレーリングアームと結合するための座部を有する。
【0003】
一方で、インホイールモータ駆動装置とは無関係に、転舵輪を懸架するサスペンション装置としては従来、例えば特許文献2に記載のごときハイマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置が知られている。特許文献2のサスペンション装置は、車幅方向に延びるアッパアームおよびロアアームと、下端がロアアームに連結され、上端が車体側部材に連結される油圧ダンパとを備える。
【0004】
また、インホイールモータ駆動装置で転舵輪を駆動するため、インホイールモータ駆動装置をハイマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置で懸架する技術も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−116017号公報
【特許文献2】特開2005−178410号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】村田智史、「139-20105175 インホイールモータ駆動ユニットの開発」、学術講演会前刷集 No.28-10、社団法人自動車技術会、2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1のようにインホイールモータ駆動装置を転舵輪のロードホイール内空領域に設けてサスペンション装置で懸架する場合、以下に説明するような問題を生ずる。つまり非特許文献1の技術では、インホイールモータ駆動装置の車幅方向内側端部とサスペンション装置のロアアームの遊端とを連結することから、車重および旋回時の横荷重がインホイールモータ駆動装置に入力してしまい、インホイールモータ駆動装置が不所望な変形を起こしてしまう。
【0008】
改善策として、インホイールモータ駆動装置のケーシングを鋼材等の高強度な材質で肉厚に形成すると、インホイールモータ駆動装置の重量が大きなものとなってしまい、サスペンション装置のばね下重量が大きくなる。
【0009】
あるいは別な改善策として、サスペンション装置のロアアームの遊端を、インホイールモータ駆動装置の車幅方向外側端部に連結することも考えられるが、そうするとロアアー
ムが上下方向に揺動してインホイールモータ駆動装置が上下方向に動く際にインホイールモータ駆動装置の車幅方向内側端部とロアアームとが干渉してしまう。
【0010】
本発明は、上述の実情に鑑み、インホイールモータ駆動装置が不所望な変形を起こすことがなく、インホイールモータ駆動装置の重量が大きなものとならず、インホイールモータ駆動装置とロアアームとが干渉しないサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のため本発明によるインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造は、インホイールモータ駆動装置と、インホイールモータ駆動装置の下側に配置され、遊端がボールジョイントを介してインホイールモータ駆動装置の下部に連結され、基端がピボットを介して車体側メンバに連結され、上下方向に揺動するロアアームと、ボールジョイントを通過して上下方向に延びるインホイールモータ駆動装置の転舵軸とを有し、ロアアームは下方に膨らむよう湾曲して延びる形状であり、インホイールモータ駆動装置は該インホイールモータ駆動装置の下部のうちボールジョイントよりも前方あるいは後方箇所に設置されて、インホイールモータ駆動装置の下部からさらに下方に突出するオイルタンクを有する。
【0012】
かかる本発明によれば、ロアアームの中央部がロアアームの遊端および基端を結ぶ仮想直線よりも下方に位置することから、ロアアームが下方に揺動してインホイールモータ駆動装置に接近しても、ロアアームの中央部とインホイールモータ駆動装置の下部との間にクリアランスを確保することができる。したがってロアアームが上下方向に揺動してもインホイールモータ駆動装置と干渉することがない。またロアアームの遊端をインホイールモータ駆動装置の車幅方向外側部分に連結することが可能となり、インホイールモータ駆動装置の車幅方向内側部分に車重および旋回時の横荷重が作用することがない。したがって本発明によればインホイールモータ駆動装置が不所望な変形を起こすことを防止できる。またインホイールモータ駆動装置のケーシングの薄肉化および軽量化を図ることができる。
【0013】
また本発明によれば、オイルタンクをインホイールモータ駆動装置の最も下部に配置することができることから、インホイールモータ駆動装置内を流れるオイルをオイルタンクに集めることができる。しかもオイルタンクがロアアームと干渉しない。なおオイルタンクを前方に設ける場合には、走行風によってオイルタンクを効率よく冷却することができる。なお前方とは車両前進方向をいい、後方とは車両後退方向をいう。
【0014】
なお本発明のボールジョイントとは、ロアアームの上下方向の揺動の有無にかかわらずロアアームに対するインホイールモータ駆動装置の転舵を許容するものであればよく、代表的な構造としてボールおよびソケットの組み合わせが挙げられるが、任意の方向に回動可能な他の構造であってもよい。また本発明のピボットは、少なくとも略水平に延びる回転軸を有するものであればよく、例えば円筒形状のゴムブッシュであってもよいし、ボールジョイントであってもよいし、他の構造であってもよい。
【0015】
本発明になるインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造は上述したオイルタンクを有するものであればよく、インホイールモータ駆動装置は一実施形態に限定されるものではないが、インホイールモータ駆動装置は、モータ部と、モータ部の軸線方向一方側に配置されてモータ部の回転を減速して出力する減速部と、減速部のさらに軸線方向一方側に配置されて減速部の出力回転を車輪へ伝達するハブ部とを含み、減速部のケーシングは、転舵力が入力されるアーム部と一体形成される軽金属製のダイカスト部材であってもよい。かかる実施形態によれば、ケーシングと転舵アーム部がダイカストによって継ぎ目なく一体に結合する。したがってケーシングと転舵アーム部との一体結合により強度が大きくなって、別体のケーシングおよび転舵アーム部を締結する場合よりもインホイールモータ駆動装置の軽量化を図ることができる。なお軽金属は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、またはチタン等である。
【0016】
ロアアームの遊端はインホイールモータ駆動装置の下部に連結されればよく、ボールジョイントの前後方向位置および車幅方向位置は特に限定されない。好ましい実施形態として、減速部のケーシングはボールジョイントと接続するボールジョイント座部をさらに有する。かかる実施形態によれば、ケーシングにボールジョイント座部が設けられることから、旋回時の横荷重がロアアームから減速部のケーシングに伝達され、モータ部全体および減速部の内部には伝達されない。したがって、モータ部全体および減速部の内部が不所望な変形を起こすことがない。
【0017】
本発明の一実施形態として、ロアアームが上方にも下方にも揺動していないインホイールモータ駆動装置の通常の高さ位置において、ボールジョイントの回転中心がピボットの回転中心よりも下方に位置する。かかる実施形態によれば、ロアアームを遊端から車幅方向内側に向かって水平に延出させることが可能となり、インホイールモータ駆動装置を設置するスペースを広くすることができる。他の実施形態として、遊端と基端の高さ位置が略等しくてもよい。
【0018】
ロアアームの形状および本数は特に限定されず、ロアアームは2本のリンク部材であってもよいが、本発明の好ましい実施形態として、ロアアームは1部材のみであって、当該ロアアームの遊端は1個のみであり、当該ロアアームの基端は複数個である。かかる実施形態によればロアアームと車体側メンバとが複数点で連結されるから、ロアアームが車体側メンバに対して上下方向以外の方向に揺動することがなくなる。またロアアームとインホイールモータ駆動装置とが1点で連結されるから、車両が横荷重を受けながら旋回する場合において、複数のロアアームと複数点で連結される場合と比較して、転舵軸が前後左右に動き難くなる。したがって車両が安定して旋回することができる。なおロアアームと車体側メンバとを複数点で連結するピボットは、真っ直ぐに延びる連続的な1本の円筒部材および当該円筒部材を貫通する軸で代用可能である。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明は、サスペンション装置の作用によってロアアームが上下方向に揺動しても、ロアアームとインホイールモータ駆動装置とが互いに干渉することがない。したがってインホイールモータ駆動装置を好適に懸架することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態になるインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造を示す正面図である。
図2】同構造を示す側面図である。
図3】同構造を示す背面図である。
図4】同構造を示す平面図である。
図5】同構造を示す底面図である。
図6】同構造の最大転舵角を示す底面図である。
図7】本発明の変形例になるインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になるインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造を示す正面図であり、車両前方から観察した状態を表す。図2はこの構造を示す側面図であり、車幅方向内側から観察した状態を表す。図3はこの構造を示す背面図であり、車両後方から観察した状態を表す。図4はこの構造を示す平面図であり、車両上方から観察した状態を表す。図5はこの構造を示す底面図であり、車両下方から観察した状態を表す。図6はこの構造の最大転舵角を示す底面図であり、左右方向の最大転舵角をそれぞれ表す。なお図1図6では、インホイールモータ駆動装置が上方にも下方にもバウンド/リバウンドしておらず、通常の高さ位置にあると理解されたい。通常の高さ位置とは、車両が停止した状態で、車体に積載された荷重が所定の上限値以下にされているときの高さ位置をいう。
【0022】
まずインホイールモータ駆動装置11から説明すると、図1に示すように、インホイールモータ駆動装置11は、モータ部11A、減速部11B、およびハブ部11Cを備える。これらモータ部11A、減速部11B、およびハブ部11Cは、ハブ部11Cの回転部材であるハブ輪の軸線O方向に順次直列に配置され、かつ同軸に配置される。インホイールモータ駆動装置11は、車両の車幅方向外側に配置される転舵輪を駆動するものであり、転舵輪のロードホイールWの内空領域に設けられる。このときハブ部11Cは車幅方向外側に配置され、モータ部11Aは車幅方向内側に配置される。転舵輪の転舵角が0°のとき、インホイールモータ駆動装置11の軸線Oは図1に示すように車幅方向に延びる。これにより車両は直進走行する。またインホイールモータ駆動装置11は、転舵輪とともに、後述のように転舵する。モータ部11Aは車幅方向内側で相対的に大きな外径のケーシングを有し、減速部11Bは車幅方向外側で相対的に小さな外径のケーシングを有し、ハブ部11Cは減速部11Bよりもさらに車幅方向外側で相対的にさらに小さな外径の外輪部材12Lを有する。これらケーシングおよび外輪部材12Lはインホイールモータ駆動装置の外郭をなす非回転部材である。これに対しハブ部11Cは、外輪部材12Lから車幅方向外側に突出する回転部材としてのハブ輪12Mを有する。ハブ輪12Mは外輪部材12Lの中央孔を貫通し、複数の転動体を介して外輪部材12Lに回転自在に支持される。ハブ輪12Mには、複数のボルト19で、仮想線で示す転舵輪のロードホイールWが連結固定される。
【0023】
モータ部11Aはケーシング内に回転電機を内蔵し、ハブ部11Cのハブ輪12Mを駆動し、あるいはハブ輪12Mの回転を利用して電力回生を行う。減速部11Bはケーシング内に例えばサイクロイド減速機などの減速機構を内蔵し、モータ部11Aの回転を減速してハブ輪12Mに伝達する。なおモータ部11Aおよび減速部11Bの下部は、モータ部11Aおよび減速部11Bのケーシングよりもさらに外径側に張り出し、オイルを貯留するためのオイルタンク11Rを有する(図2図3参照)。
【0024】
相対的に車幅方向外側に位置するハブ部11Cおよび減速部11Bは、円筒形状のロードホイールWの内空領域に配置される。これに対し相対的に車幅方向内側に位置するモータ部11Aは、ロードホイールWの内空領域から車幅方向内側へ一部はみ出し、当該はみ出し部分の上部には複数本の電力ケーブル26および信号ケーブル27が接続される。減速部11Bの下部には下側ボールジョイント座部17が設けられる。下側ボールジョイント座部17は減速部11Bのケーシングよりもさらに外径側に張り出す。
【0025】
また減速部11Bの上部には、減速部11Bのケーシングから上方へ弧を描くように延びる上下アーム13が設けられている。詳細には、図2に示すように上下アーム13の根元部が軸線Oよりも後側に配置され、当該根元部は減速部11Bのケーシングと一体結合する。図3を参照して上下アーム13は、その根元部から中間部分13mまで一旦車幅方向内側へ向かって延び、次に中間部分13mから上端部まで車幅方向外側へ向かって延び、ロードホイールWとの干渉を回避する。そして上下アーム13の上端部には上側ボールジョイント座部14が設けられている。このように上下アーム13はロードホイールWの内空領域からロードホイールWの周縁を跨ぐようにして上下方向に延びる。そして上側ボールジョイント座部14を含む上下アーム13の上端部はロードホイールWよりも上方に位置する。また図2を参照して上下アーム13は、その根元部から中間部分13mまで一旦後側へ向かって延び、次に中間部分13mから上端部まで前側へ向かって延びる。
【0026】
なお、図3および図4に示すように、上下アーム13の上端部の上側ボールジョイント座部14から、前後アーム部15が前方へさらに延びる。前後アーム部15の前端16には図示しないステアリング装置のタイロッドが連結される。ステアリング装置から前後アーム部15に転舵力を入力すると、インホイールモータ駆動装置11が後述するキングピンKを中心として左右方向に転舵する。
【0027】
次にインホイールモータ駆動装置11を懸架するサスペンション装置につき説明する。
【0028】
図1図6に示すサスペンション装置は、ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置であり、インホイールモータ駆動装置11の上部に連結されるアッパアーム22と、インホイールモータ駆動装置11の下部に連結されるロアアーム23と、インホイールモータ駆動装置11のバウンド量およびリバウンド量を減衰させるダンパ31とを備える。アッパアーム22およびロアアーム23は上下方向に揺動する。ダンパ31は、インホイールモータ駆動装置11よりも車幅方向内側を上下方向に延び、その上端は図示しない車体側メンバ、例えば車体フレーム、に取り付けられる。またダンパ31の下端はロアアーム23の中央部23Cに取り付けられる。
【0029】
アッパアーム22は図4に示すように略V字状であり、V字の両端になる車幅方向内側端部221,222を基端として図示しない車体側メンバ、例えば車体フレーム、に揺動可能に連結される。これに対しV字の中央部になる車幅方向外側端部223は遊端をなし、上側ボールジョイント24を介して、上下アーム13の上端部の上側ボールジョイント座部14と回動可能に連結する。上側ボールジョイント24は図3に示すようにロードホイールWよりも上方に位置し、アッパアーム22の上下方向位置はローマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置のアッパアームよりも高いことから、このサスペンション装置はハイマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置である。なお車体側メンバとは、説明される部材からみて車体側にある部材をいうと理解されたい。車両前後方向に離隔する車幅方向内側端部221,222の間には、上述したダンパ31が通される(図1図2参照)。
【0030】
ロアアーム23は図5に示すように車幅方向に延びる前側アームと、この前側アームの途中から分岐して後方かつ車幅方向内側へ斜めに延びる後側アームからなり、前側の車幅方向内側端部231および後側の車幅方向内側端部232を基端として図示しない車体側メンバ、例えば車体フレーム、に揺動可能に連結される。これに対しロアアーム23の車幅方向外側端部233は遊端をなし、下側ボールジョイント25を介して、インホイールモータ駆動装置11の下部の下側ボールジョイント座部17と回動可能に連結される。ロアアーム23のうち前側アームと後側アームの分岐箇所にはダンパブラケット32が形成される。ダンパブラケット32は、上方から延びてくるダンパ31の下端に連結固定される。なおダンパブラケット32はロアアーム23の車幅方向中央部に設けられる。
【0031】
このようにロアアーム23の車幅方向外側端部233と、下側ボールジョイント25と、インホイールモータ駆動装置11の下部に設けられた下側ボールジョイント座部17は、ロードホイールWの内空領域に配置される。なお図には示さなかったが、アッパアーム22およびロアアーム23は上述したV字形状あるいは分岐形状以外のアームであってもよいこと勿論である。
【0032】
上側ボールジョイント24および下側ボールジョイント25は、インホイールモータ駆動装置11の転舵を可能にする。すなわち上側ボールジョイント24および下側ボールジョイント25を通る仮想直線はキングピン(転舵軸ともいう)Kを構成する。そして、ロードホイールWを含む転舵輪は、インホイールモータ駆動装置11とともに、キングピンKを中心として左右方向に転舵可能にされる。図6は、右方向および左方向に最大転舵角まで転舵する場合のロアアーム23およびインホイールモータ駆動装置11の位置関係を示す。本実施形態は、例えば車両の左右の前輪に使用される。
【0033】
ロアアーム23につき詳細に説明すると、ロアアーム23は前側アームおよび後側アームが一体結合した1部材のみであって、インホイールモータ駆動装置11の下側に配置される。ロアアーム23の遊端になる車幅方向外側端部233は、下側ボールジョイント25の1個のみを介してインホイールモータ駆動装置11の下部に連結される。これにより、キングピンKが前後左右に動き難くすることができ、車両が安定して旋回することができる。換言すると、ロアアーム23を2本のリンク部材に置き換える場合、リンク部材とインホイールモータ駆動装置11とが2点で連結される。そうすると、2本のリンク部材からインホイールモータ駆動装置11に別々な方向の力が入力されて、キングピンKが前後左右に動いてしまうのである。
【0034】
ロアアーム23の基端である車幅方向内側端部231,232には、円筒状のラバーブッシシングが設けられる。車幅方向内側端部231,232のラバーブッシシングは略水平に延びる回転軸線を有するピボットであり、ロアアーム23の上下方向の揺動を可能にする。そして、ロアアーム23は、図3に示すようにその中央部23Cが下側ボールジョイント25および車幅方向内側端部231,232のピボットよりも下方に位置するよう湾曲して延びる形状である。
【0035】
本実施形態によればロアアーム23が下方に膨らむよう湾曲する形状であるから、図3に示すように、ロアアーム23とインホイールモータ駆動装置11との間にクリアランスC1を確保することができる。したがってロアアーム23が下方に揺動してインホイールモータ駆動装置11に接近しても、ロアアーム23とインホイールモータ駆動装置11の下部との間にクリアランスを確保することができる。特に外径が大きなモータ部11Aが上下方向にバウンド/リバウンドしても、モータ部11Aとロアアーム23の干渉を回避することができる。また本実施形態によれば、ロアアーム23とロードホイールWとの間にクリアランスC2を確保することができる。したがってロアアーム23が上方に揺動してロードホイールWに接近しても、ロアアーム23とロードホイールWの内周面との間にクリアランスを確保することができる。
【0036】
オイルタンク11Rにつき詳細に説明すると、オイルタンク11Rは、減速部11Bのケーシングに付設されたタンクであり、図1に示すようにインホイールモータ駆動装置11の下部に設置される。そして、オイルタンク11Rの底部11Sがモータ部11Aの下部および減速部11Bのケーシングよりもさらに下方に突出する。このようにオイルタンク11Rはインホイールモータ駆動装置11の最も下部に位置する。これによりインホイールモータ駆動装置11内を流れるオイルをオイルタンク11Rに集めることができる。オイルタンク11Rに溜まったオイルは、インホイールモータ駆動装置11に内蔵されたオイルポンプによって汲み上げられ、再びインホイールモータ駆動装置11の内部を潤滑する。
【0037】
またオイルタンク11Rは、図5および図6に示すように下側ボールジョイント25よりも前方に配置される。これによりインホイールモータ駆動装置11が最大角まで転舵する場合であっても、図6に示すようにオイルタンク11Rとロアアーム23との間にクリアランスC3を確保することができる。
【0038】
減速部11Bのケーシングはアルミニウム等の軽金属製の部材であり、円筒部分11Gおよび端面部分11Wを含む。端面部分11Wは、外輪部材12Lの外周を包囲する中心孔を有し、この中心孔を中心として図3に示すように椀状に形成され、円筒部分11Gの車幅方向端と一体に結合する。円筒部分11Gおよび端面部分11Wは、図3に示すように上下アーム13および下側ボールジョイント座部17と一体に結合する。このためダイカストによってケーシングの端面部分11Wおよび円筒部分11G、上下アーム13、上側ボールジョイント座部14、前後アーム部15、前端16、および下側ボールジョイント座部17が一体に形成されるとよい。これによりインホイールモータ駆動装置11の小型化および軽量化に資する。
【0039】
上述したように減速部11Bのケーシングは円筒部分11Gおよび端面部分11Wを含む。図3に示すように端面部分11Wは、軸線O方向において減速部11Bとハブ部11Cとの境界領域に配置される。つまり端面部分11Wの中心孔は、円筒部分11Gからみて軸線O方向一方(ハブ部11C側)にされる。かかる端面部分11Wの中心孔には、ハブ部11Cのハブ輪12Mを回動自在に支持する転がり軸受の外輪部材12Lが固定される。かくして減速部11Bのケーシングは軸線O方向一方端で転がり軸受を介してハブ輪12Mを回転自在に支持する。また減速部11Bのケーシングは軸線O方向他方端で減速部11Bの全周を包囲し、モータ部11Aの外周を包囲する円筒状のケーシングとボルト等で結合される。
【0040】
ここで付言すると、減速部11Bのケーシングの円筒部分11Gおよび端面部分11Wは、下側ボールジョイント25と連結する下側ボールジョイント座部17と結合する。これにより旋回時の横荷重がロアアーム23と、円筒部分11Gと、端面部分11Wと、外輪部材12Lと、ハブ輪12Mと、ロードホイールWとをつなぐ経路で伝達され、モータ部11A全体および減速部11Bの内部には伝達されない。したがって、モータ部11A全体および減速部11Bの内部が不所望な変形を起こすことがない。
【0041】
次に本発明の変形例を説明する。図7は本発明の変形例を示す背面図である。この変形例につき、上述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この変形例では、ロアアーム23が下向きに膨らむよう湾曲して延びる点で上述した実施形態と共通する。ただしロアアーム23が上方にも下方にも揺動しないインホイールモータ駆動装置11の通常の高さ位置において、下側ボールジョイント25の回転中心が車幅方向内側端部231,232のピボットの回転中心よりも距離Lだけ下方に位置する。そしてロアアーム23とインホイールモータ駆動装置11との間にクリアランスC4を確保する。またロアアーム23とロードホイールWとの間にクリアランスC5を確保する。
【0042】
図7に示す変形例によれば、図3に示す元の実施形態と比較して、ロアアーム23とインホイールモータ駆動装置11との間に大きなクリアランスC4を確保することができる。したがって、インホイールモータ駆動装置11を設置するスペースを広くすることが可能となり、インホイールモータ駆動装置11の外径を大きくしてインホイールモータ駆動装置11の出力を増大させることができる。
【0043】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明になるインホイールモータ駆動装置のサスペンション構造は、電気自動車およびハイブリッド車両において有利に利用される。
【符号の説明】
【0045】
11 インホイールモータ駆動装置、 11Aモータ部、 11B 減速部、
11C ハブ部、 11R オイルタンク、 11S オイルタンク底部、
11G 減速部ケーシング円筒部分、 11W 減速部ケーシング端面部分、
13 上下アーム、 14 上側ボールジョイント座部、
17 下側ボールジョイント座部、 22 アッパアーム、 23 ロアアーム
24 上側ボールジョイント、 25 下側ボールジョイント、
31 ダンパ、 32 ダンパブラケット、 K キングピン、
O インホイールモータ駆動装置の軸線、 W ロードホイール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7