(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339901
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】壁体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04H 7/20 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
E04H7/20
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-181300(P2014-181300)
(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2016-56517(P2016-56517A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正典
(72)【発明者】
【氏名】安永 正道
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−089074(JP,A)
【文献】
特開2005−306445(JP,A)
【文献】
特開昭54−081645(JP,A)
【文献】
特公平04−036951(JP,B2)
【文献】
特許第3081572(JP,B2)
【文献】
米国特許第04075801(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/18 − 7/20
E01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の壁体を底版の上に構築する構築方法であって、
前記底版から延びる線材を挿通する孔部を有する壁体底部を、せん断変形またはスライド可能な機構を有する高さ保持部材によって前記壁体底部の下面を支持しつつ、前記底版上で前記壁体の径方向に移動可能に設ける工程(a)と、
前記壁体の周方向にプレストレスを導入し、前記プレストレスによって前記壁体底部が移動した後に、前記壁体底部とその下方の前記底版との間、及び前記孔部内に充填材を充填する工程(b)と、
を含み、
前記線材は緊張材を含み、
前記工程(b)において、前記壁体底部とその下方の前記底版との間に充填材を充填した後、前記緊張材により前記壁体の鉛直方向にプレストレスを導入し、その後、前記緊張材を挿通した前記孔部に充填材を充填することを特徴とする壁体の構築方法。
【請求項2】
前記壁体底部に、前記孔部を有する管体が取付けられることを特徴とする請求項1記載の壁体の構築方法。
【請求項3】
前記緊張材を挿通した前記管体の下端部が前記底版に埋設されていることを特徴とする請求項2に記載の壁体の構築方法。
【請求項4】
前記高さ保持部材は、弾性部材であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の壁体の構築方法。
【請求項5】
前記弾性部材が硬質ゴムであることを特徴とする請求項4に記載の壁体の構築方法。
【請求項6】
前記高さ保持部材は、摺動板を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の壁体の構築方法。
【請求項7】
前記壁体底部は埋設型枠を含み、
前記工程(b)の前に、前記埋設型枠の上方でコンクリートを打設して壁体を形成することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の壁体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は壁体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)、石油、水などの液体を貯留する設備として、PC(プレストレストコンクリート)タンクがある。
図7は、PCタンクとして、LNGを貯留するLNGタンク100の例を示したものである。
図7のLNGタンク100は、地盤7中の杭4で支持された底版5上に防液堤2を設け、その内側に金属板等による内槽3aと外槽3bを設置したものである。外槽3bの屋根部は鋼製または鉄筋コンクリート製であり、側部はライナープレート(薄鉄板)を防液堤2に貼り付けた形となっている。LNGは内槽3aにて貯留し、内槽3aと外槽3bの間で保冷を行う。
【0003】
防液堤2は、内槽3aが破損等した場合にもLNGの外部への液漏れを防ぐために設けられる壁体であり、通常円筒形である。防液堤2はLNGの液圧に耐え得る構造とする必要があり、そのため鉛直方向および周方向の緊張材(不図示)によりプレストレスが導入される。周方向のプレストレス力は、液圧作用時においても防液堤2に圧縮応力が残るように設計されるのが一般的である。
【0004】
図8は、防液堤2の底部付近の概略を示す図である。
図8に示すように、防液堤2では、上記の緊張材として鉛直方向PC鋼材17aと周方向PC鋼材17bが設けられる。防液堤2には、補強用の鉛直方向鉄筋19aと周方向鉄筋19bも設けられる。鉛直方向PC鋼材17aと鉛直方向鉄筋19aの下端は、底版5に埋設される。
【0005】
液圧に対する耐力等の観点から、最近のPCタンクにおいては、防液堤底部を底版5に剛結合することが一般的である。一方、
図8のaは周方向PC鋼材17bによって導入するプレストレス力であるが、プレストレス導入時に防液堤底部が底版5に剛結合された状態だと、
図8のbに示すように、プレストレス力を圧縮応力に効率よく変換できない。
【0006】
そのため、最近の傾向として、周方向のプレストレス導入時には防液堤底部の中心方向への移動(変位)を可能とし、プレストレスの導入後に防液堤底部を底版5に剛結合することが多くなっている(例えば特許文献1、2等)。これにより、周方向のプレストレス導入時に、
図8のcに示すようにプレストレス力を圧縮応力に効率よく変換でき、周方向のプレストレスの量(PC鋼材の量)を低減できる。
【0007】
周方向のプレストレス導入時に防液堤底部を移動させる具体的な方法の例としては、(1)底版上に所定深さの敷砂およびビニールシートを上方へと順に配置し、その上にコンクリートを打設して防液堤を構築した後、敷砂およびビニールシートを除去し、周方向のプレストレスを導入する方法がある。ビニールシートの代わりに化粧合板を用いる場合もある。また、(2)底版に配置した桟木上に化粧合板を設置して底型枠とし、その上にコンクリートを打設して防液堤を構築した後、型枠を除去し、周方向のプレストレスを導入する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-203787号公報
【特許文献2】特開2013-217191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した(1)の方法の場合、敷砂は底版の平坦性などを考慮して一般的には50〜80mmの厚さになる。敷砂の除去は、バキュームによる吸出しや高圧ジェット水による洗出しによって行われるが、どちらとも確実に敷砂を除去することは難しく、除去できたことの確認検査も難しい。さらに、ビニールシート等からコンクリートのセメントミルクが流出し敷砂に混じった場合には、硬化してしまい敷砂を除去することは一層難しくなる。加えてビニールシート等がコンクリートに食い込み、除去できなくなることもある。さらに、鉛直方向の緊張材や鉄筋が防液堤と底版の間を貫通していることから、ビニールシート等の完全な撤去は難しい。(2)の方法も同様に、例えば防液堤2の内外の鉄筋の間に配置されている化粧合板の完全な撤去が難しいという問題がある。
【0010】
本発明は、周方向のプレストレスを効率よく導入できるとともに完成時には壁体が底版に剛結合して固定され、かつ施工も容易な壁体の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するための本発明は、筒状の壁体を底版の上に構築する構築方法であって、前記底版から延びる線材を挿通する孔部を有する壁体底部を、せん断変形またはスライド可能な機構を有する高さ保持部材によって前記壁体底部の下面を支持しつつ、前記底版上で前記壁体の径方向に移動可能に設ける工程(a)と、前記壁体の周方向にプレストレスを導入し、前記プレストレスによって前記壁体底部が移動した後に、前記壁体底部とその下方の前記底版との間、及び前記孔部内に充填材を充填する工程(b)と、を含
み、前記線材は緊張材を含み、前記工程(b)において、前記壁体底部とその下方の前記底版との間に充填材を充填した後、前記緊張材により前記壁体の鉛直方向にプレストレスを導入し、その後、前記緊張材を挿通した前記孔部に充填材を充填することを特徴とする壁体の構築方法である。
【0012】
前記壁体底部に、前記孔部を有する管体が取付けられることが望ましい。また、
前記緊張材を挿通した前記管体の下端部が前記底版に埋設されていることが望ましい
。
【0013】
前記高さ保持部材は、弾性部材であることが望ましい。前記弾性部材は、例えば硬質ゴムである。
前記高さ保持部材は、摺動板を備えることが望ましい。
【0014】
また、前記壁体底部は埋設型枠を含み、前記工程(b)の前に、前記埋設型枠の上方でコンクリートを打設して壁体を形成することが望ましい。
【0015】
本発明により、緊張材などの線材が壁体と底版の間を貫通し、プレストレスが導入等される前において、壁体底部の一部分を高さ保持部材で支持して移動可能に配置し、その拘束がほとんど無い状態で容易に周方向のプレストレスを導入できる。結果、プレストレス力を効率よく周方向の圧縮応力に変換できる。また、プレストレス導入後には、充填材によって壁体底部を下方の底版に剛結合して固定し、壁体および底版の全体を一体化でき、液圧に対する耐力等の面で好ましい。さらに、敷砂や型枠等の撤去も必要ないので施工も容易である。
【0016】
また、管体の上下を壁体底部と底版に取付けておき、緊張材をこの管体に通した状態で壁体の構築を行うことで、壁体底部と下方の底版の間に充填材を充填した後、壁体に鉛直方向のプレストレスを容易に導入でき、これにより壁体を補強できる。また、高さ保持部材としてせん断変形可能な硬質ゴムやスライド可能な摺動板を用いることで、壁体底部を好適に移動可能とできる。さらに、壁体底部に埋設型枠を用い、その上方にコンクリートを打設することで、壁体が容易に構築できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、周方向のプレストレスを効率よく導入できるとともに完成時には壁体が底版に剛結合して固定され、かつ施工も容易な壁体の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態に係る壁体の構築方法の途中を示す図
【
図8】周方向のプレストレス導入について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
[第1の実施形態]
(1.プレキャスト型枠61、硬質ゴム板62等の配置)
図1は本発明の第1の実施形態に係る壁体の構築方法の途中を示す図である。
図1(a)はプレキャスト型枠61、硬質ゴム板62等の配置を示す鉛直方向の断面図であり、
図1(b)はプレキャスト型枠61上の平面図である。
【0021】
本実施形態では、筒状の壁体として
図7に示すLNGタンク100の防液堤2を構築する際、
図1に示すように、コンクリート等による底版5上に、硬質ゴム板62(高さ保持部材)を介してプレキャスト型枠61を設ける。
【0022】
なお、
図1(a)では、左側が防液堤2の径方向の内側(中心側)に対応し、右側が防液堤2の径方向の外側に対応する。また
図1(a)の紙面法線方向は防液堤2の周方向に対応する。これは以降の
図2〜6においても同様である。
図1(b)では、上下方向が防液堤2の周方向に対応する。
【0023】
プレキャスト型枠61は、プレキャストコンクリート(PCa)部材による型枠であり、上部にコンクリートを打設することによって防液堤2を構築するために用いられる。本実施形態では、プレキャスト型枠61を埋設型枠として用いる。
【0024】
硬質ゴム板62は、防液堤2の周方向に間隔を空けて複数設けられる弾性部材である。硬質ゴム板62は、防液堤2の径方向の内外2列に配置される。硬質ゴム板62のサイズは、例えば、防液堤2の径方向の幅を70mm、防液堤2の周方向の長さを20cmとする。硬質ゴム板62の厚さは30mm程度とし、底版5とプレキャスト型枠61の間に30mm程度の空間を確保する。なお、図の硬質ゴム板62は、説明のためプロポーションを変更している。
【0025】
底版5には、線材である鉛直方向PC鋼材17a(緊張材)や鉛直方向鉄筋19a(
図8参照。以下PC鋼材17a、鉄筋19aという)の下端が埋設される。
【0026】
プレキャスト型枠61において、鉄筋19aに対応する平面位置にはシース管63aが取付けられる。シース管63aの上端には追加のシース管63bが取付けられる。鉄筋19aは、シース管63a、63bの内側の孔部を通って上方へ延びる。シース管63bの上端は閉塞している。閉塞方法は特に限定されない。例えばシース管の上端をテープ等で閉じればよい。
【0027】
底版5には、シース管64a(管体)の下部も埋設される。シース管64aの下端は閉塞している。シース管64aの上部はプレキャスト型枠61に取り付けられる。シース管64aの上端には追加のシース管64bが取付けられる。PC鋼材17aは、シース管64a、64bの内側の孔部を通って上方に延びる。シース管64bは、PC鋼材17aの上端まで連続してPC鋼材の必要本数分複数配置される。
【0028】
プレキャスト型枠61の上方では、周方向PC鋼材17bや周方向鉄筋19b(
図8参照。以下PC鋼材17b、鉄筋19bという)も配置される。PC鋼材17bは、防液堤2の周方向に配置したシース管65内に通される。
【0029】
図1(b)に示すように、プレキャスト型枠61は防液堤2の周方向に分割して設けられる。隣り合うプレキャスト型枠61間の隙間には、後述する防液堤2のコンクリート80が打設時に下へと溢れ出るのを防ぐため、弾性を有するシール材70が設けられる。
【0030】
(2.防液堤2の構築手順)
次に、防液堤2の構築手順について説明する。防液堤2を構築するには、杭4(
図7参照)および底版5を構築した後、まず
図2(a)に示すように、底版5に、鉛直方向のPC鋼材17aおよび鉄筋19aの下端を埋設する。底版5にはシース管64aの下部も埋設する。PC鋼材17aはシース管64aに挿通されて上方に延びる。
【0031】
次に、
図2(b)に示すように、プレキャスト型枠61を前記の硬質ゴム板62で支持して底版5上に配置する。プレキャスト型枠61にはシース管63aが取り付けられており、このシース管63aの内側の孔部に鉛直方向の鉄筋19aが挿通される。また、シース管64aの上部をプレキャスト型枠61の孔部に通して取り付ける。あるいは、予めプレキャスト型枠61に取り付けておいたシース管に、シース管64aを接続するのでもよい。
【0032】
次に、
図3(a)に示すように、シース管63a、64aの上端に前記のシース管63b、64bを追加設置する。シース管63b、64bはPC鋼材17aや鉄筋19aを挿通して配置される。シース管63bの上端は閉塞される。なお、鉛直方向のPC鋼材17aや鉄筋19aは、各シース管の孔部の軸心より防液堤2の内側にずらして配置しておく。
【0033】
プレキャスト型枠61の上方では、周方向のPC鋼材17bと鉄筋19b、並びにその他の必要な鉄筋等も配置される。PC鋼材17bは周方向のシース管65に通される。その後、コンクリート打設のための型枠設置を行う。
【0034】
そして、
図3(b)に示すように、防液堤2のコンクリート80を打設する。本実施形態では防液堤2の全高さ分のコンクリート80を打設する。
図3(b)では、このうち防液堤底部に当たる部分が示されている。防液堤底部では、シース管63a、63b、64a、64b等がコンクリート80に埋設されるかプレキャスト型枠61に取付けられており、防液堤底部の下面(プレキャスト型枠61の下面)の一部分が硬質ゴム板62で支持されている。
【0035】
続いて
図4(a)に示すように、周方向のPC鋼材17bを緊張して周方向のプレストレスを導入する。すると、硬質ゴム板62はせん断変形し、底部を含む防液堤全体が、防液堤2の径方向の内側(中心方向)へ向かって移動する。
【0036】
本実施形態では、プレストレス導入時の上記の移動によって鉛直方向のPC鋼材17aや鉄筋19aがシース管内面に当たり、移動を拘束しないようにしておく。前記したようにPC鋼材17aや鉄筋19aをシース管の孔部の軸心から内側にずらして配置したのはこのためである。
【0037】
防液堤2の移動量はプレストレス量、タンクの半径、壁厚、コンクリートの強度等によって異なるが、例えば1〜2cm程度であり、PC鋼材17aや鉄筋19aのシース管内での配置は、これに1cm程度の余裕を持たせて防液堤2の3cm程度の移動が許容できるように定める。即ち、防液堤2が3cm程度移動してもPC鋼材17aや鉄筋19aがシース管の内面に当たらないように定める。
【0038】
なお、鉛直方向の鉄筋19aは、底版5への埋設部分とコンクリート80への埋設部分の間で傾斜するが、傾斜の程度は小さく、強度の点で問題になることはない。また、シース管64aは可とう性を有しており、底版5への埋設部分とプレキャスト型枠61との間で若干傾斜する。
【0039】
以上のように周方向のプレストレスを導入した後、
図4(b)に示すように、防液堤底部とその下方の底版5との間、および鉛直方向の鉄筋19aを通したシース管63a、63b内に充填材であるモルタル71を充填する。
【0040】
モルタル71の充填時には、例えば、図示しないホースの先端をプレキャスト型枠61と底版5との間の隙間に挿入し、当該ホースを用いてモルタル71を注入する。これにより、隙間の下部からシース管63bの上端までモルタル71の充填が上方へと順に行われる。シース管63bの上端には図示しないホースを(コンクリート80の打設前に)予め接続しておき、これにより空気抜きや充填状況の確認を行うとよい。
【0041】
モルタル71の硬化後、
図5(a)の矢印に示すように鉛直方向のPC鋼材17aを緊張し、防液堤2に鉛直方向のプレストレスを導入する。
【0042】
その後、
図5(b)に示すように、PC鋼材17aとシース管64a、64bの間の隙間に充填材であるセメントミルク73を充填する。
【0043】
セメントミルク73の充填については、例えば、底版5の構築時に図示しないホースをシース管64aの下端に予め接続しておき、これを用いてセメントミルク73を注入し、シース管64aの下端から上方へとセメントミルク73の充填を行うことができる。
【0044】
ここでは、周方向のPC鋼材17bとシース管65の間の隙間にも同じくセメントミルク73が充填される。なお、PC鋼材17a、17bにアンボンドケーブルを使用している場合は、シース管64b、65は不要であり、シース管64aのみにセメントミルク73を注入する。
【0045】
以上説明したように、本実施形態では、鉛直方向のPC鋼材17aや鉄筋19aなどの線材が防液堤2と底版5の間を貫通し、プレストレスが導入等される前において、防液堤底部の一部分を硬質ゴム板62で支持して移動可能に配置し、その拘束がほとんど無い状態で容易に周方向のプレストレスを導入できる。結果、プレストレス力を防液堤2の周方向の圧縮応力にほぼ100%変えることができる。このようにプレストレス力を効率よく周方向の圧縮応力に変換することで、周方向のPC鋼材17bの量を減らすことができる。また敷砂や型枠の撤去も必要ないので施工も容易である。
【0046】
プレストレス導入後には、充填材によって防液堤底部を下方の底版5に剛結合して固定し、防液堤2および底版5の全体を一体化できるので、供用後に作用する液圧の一部が底版5で負担され、液圧による防液堤2の周方向の引張応力が小さくなるので耐力面で好ましい。また、タンク内部からの漏液防止およびタンク内部への水分侵入防止の点でも好適である。
【0047】
また、シース管64aの上下を防液堤底部と底版5に取付けておき、鉛直方向のPC鋼材17aをシース管64a等に通した状態で防液堤2の構築を行うことで、防液堤底部と下方の底版5の間にモルタル71を充填した後、防液堤2に鉛直方向のプレストレスを容易に導入でき、これにより防液堤2の補強ができる。また、本実施形態では、高さ保持部材としてせん断変形可能な硬質ゴム板62を用いることで、防液堤底部を好適に移動可能とできる。加えて、硬質ゴム板62によって底版5上の不陸を吸収できる効果もある。なお、硬質ゴム板62の代わりに、せん断変形可能な他の弾性部材を用いることも可能である。
【0048】
さらに、防液堤底部にてプレキャスト型枠61を埋設型枠として用い、その上方にコンクリート80を打設することで、防液堤2が容易に構築できる。
【0049】
しかしながら、本発明はこれに限らない。例えば、本実施形態では、防液堤2のコンクリート80を全ロット(防液堤2の全高さ分)打設した後に周方向のプレストレスを導入したが、防液堤2の途中の高さまで数ロットのコンクリート80を打設した後、対応する分のPC鋼材17bによって周方向のプレストレスを導入してもよい。
【0050】
また、本実施形態では、プレキャスト型枠61を置いての場所打ちコンクリートにより防液堤2を構築したが、プレキャスト型枠61の代わりに鋼製型枠等を用いてもよい。あるいは、防液堤2自体をプレキャスト部材で構築することも可能である。この場合は、必要に応じてプレキャスト部材にPC鋼材17a等を通すためのシース管を埋め込む。
【0051】
また、本実施形態では壁体として防液堤2を構築する例を示したが、筒状の壁体であれば特に限定されない。例えば防液堤2以外のタンク側壁等の壁体にも適用可能である。
【0052】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と異なる点について主に説明し、同様の点については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。
【0053】
図6(a)は第2の実施形態について説明する図である。第2の実施形態は、硬質ゴム板62の上面に、プレキャスト型枠61側と硬質ゴム板62側の上下2枚の摺動板66を重ねて配置し、これによりプレキャスト型枠61の下面を支持するものである。摺動板66は特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂板等を用いることができる。
【0054】
前記した周方向のプレストレス導入時には、
図6(b)に示すように、上側の摺動板66が下側の摺動板66に対しスライドすることにより、前記と同様、底部を含む防液堤全体が内側に向かって移動し、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0055】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0056】
2;防液堤
3a;内槽
3b;外槽
4;杭
5;底版
7;地盤
17a;鉛直方向PC鋼材
17b;周方向PC鋼材
19a;鉛直方向鉄筋
19b;周方向鉄筋
61;プレキャスト型枠
62;硬質ゴム板
63a、63b、64a、64b、65;シース管
66;摺動板
70;シール材
71;モルタル
73;セメントミルク
80;コンクリート
100;LNGタンク