特許第6339919号(P6339919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カヤバ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6339919-緩衝器 図000002
  • 特許6339919-緩衝器 図000003
  • 特許6339919-緩衝器 図000004
  • 特許6339919-緩衝器 図000005
  • 特許6339919-緩衝器 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339919
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/50 20060101AFI20180528BHJP
   F16F 9/34 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   F16F9/50
   F16F9/34
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-205456(P2014-205456)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-75332(P2016-75332A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】栗田 典彦
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/051045(WO,A1)
【文献】 特開2014−156883(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/125974(WO,A1)
【文献】 特開2009−250396(JP,A)
【文献】 特開2008−012960(JP,A)
【文献】 特開2015−205646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G1/00−99/00
B62K25/00−27/16
F16F9/00−9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、リザーバと、前記シリンダ内から排出される液体を前記リザーバへ排出する減衰通路と、前記減衰通路に設けられた圧力制御電磁弁とを有する緩衝器本体と、
前記圧力制御電磁弁の上流の圧力を検知する圧力センサと、
前記圧力センサが検知する検知圧力をフィードバックして前記圧力制御電磁弁を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、目標圧力と前記検知圧力との偏差或いは前記検知圧力に基づいて微分補償し負のゲインを乗じて出力する微分パスを有し、前記圧力制御電磁弁に与える電流指令を求める
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
シリンダと、リザーバと、前記シリンダ内から排出される液体を前記リザーバへ排出する減衰通路と、前記シリンダと前記リザーバとの間に前記減衰通路に並列されるパイロット通路と、前記パイロット通路の途中に設けられた圧力制御電磁弁と、前記パイロット通路の途中であって前記圧力制御電磁弁より上流に設けられたパイロット圧力室と、前記減衰通路の途中に設けられて前記パイロット圧力室の圧力で閉弁方向に附勢されるとともに前記減衰通路の上流側の圧力で開弁方向に附勢される減衰弁とを備えた緩衝器本体と、
前記圧力制御電磁弁の上流の圧力を検知する圧力センサと、
前記圧力センサが検知する検知圧力をフィードバックして前記圧力制御電磁弁を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、目標圧力と前記検知圧力との偏差或いは前記検知圧力に基づいて微分補償して負のゲインを乗じて出力する微分パスを有し、前記圧力制御電磁弁に与える電流指令を求める
とを特徴とする緩衝器。
【請求項3】
前記コントローラは、前記目標圧力と前記検知圧力との偏差に基づいて積分補償する積分パスを有し、前記積分パスの値前記微分パスの値を加えて前記電流指令を求める
ことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記圧力制御電磁弁は、上流側の圧力で開弁方向へ附勢される弁体と、前記弁体を閉弁方向へ推す推力を発揮するソレノイドとを備えた
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記圧力センサは、前記シリンダ内の圧力を検知する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用に供される緩衝器には、減衰力を可変にするものがあり、構造としてはたとえば、シリンダと、シリンダ内にピストンで区画したロッド側室とピストン側室と、リザーバと、ロッド側室をリザーバへ連通する主通路およびリリーフ通路と、リザーバをピストン側室へ連通する伸側通路と、ピストン側室をロッド側室へ連通する圧側通路と、リリーフ通路の途中に設けた背圧室と、リリーフ通路の途中に設けられて背圧室の圧力を制御する圧力制御電磁弁と、リリーフ通路の途中であって圧力制御電磁弁の下流に設けたリリーフオリフィスと、主通路の途中に設けられて背圧室の圧力をパイロット圧として閉弁方向に附勢されるとともに上流側の圧力で開弁方向に附勢される減衰力調整弁とを備えるものがある。
【0003】
この緩衝器の場合、伸側通路および圧側通路が作動油をリザーバ、ピストン側室、ロッド側室、リザーバの順に一方通行で還流するように逆止弁を備えており、緩衝器が伸縮すると必ずロッド側室から作動油が押し出されて主通路に設けた減衰力調整弁を介してリザーバへ排出されるようになっている。
【0004】
そして、圧力制御電磁弁で減衰力調整弁を閉弁方向に附勢するパイロット圧を制御すると、減衰力調整弁の開弁圧が調整されて、結果、緩衝器が発生する減衰力が制御されるようになっている。
【0005】
また、この緩衝器では、圧力制御電磁弁の下流にリリーフオリフィスを設けてリリーフ通路を通過する作動油の流量変化を抑制するので、圧力制御電磁弁の上流側の圧力が開弁圧近傍で振動的に推移した際に圧力制御電磁弁が開閉を繰り返して振動してしまうような事態の発生を抑制できる。これによって、緩衝器が発生する減衰力が振動的にならずに安定した減衰力の発揮が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−250396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記緩衝器では、リリーフオリフィスを用いているので、圧力制御電磁弁の振動を抑制するためには製品ごとのチューニングが必要であり、圧力制御電磁弁の振動周期によっては、振動を十分に低減できず、緩衝器が発生する減衰力を安定させられない可能性もある。
【0008】
そこで、本発明は、前記した問題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、減衰力調整を可能としつつも安定した減衰力の発揮が可能な緩衝器の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の課題解決手段は、減衰通路に設けられた圧力制御電磁弁を有する緩衝器本体と、圧力制御電磁弁の上流の圧力を検知する圧力センサと、前記圧力センサが検知する検知圧力をフィードバックして前記圧力制御電磁弁を制御するコントローラとを備え、コントローラが目標圧力と前記検知圧力との偏差或いは前記検知圧力に基づいて微分補償し負のゲインを乗じて出力する微分パスを有し、圧力制御電磁弁に与える電流指令を求めるようになっている。そのため、圧力制御電磁弁の上流における圧力が開弁圧近傍で変動し、目標圧力と検知圧力の偏差も振動的に変化する場合に、微分パスが圧力制御電磁弁の振動を打ち消すように操作量を出力する。よって、圧力制御電磁弁の上流における圧力変動が急峻に変動しても、圧力制御電磁弁が開閉を繰り返して振動してしまうような事態の発生を抑制できる。
【0010】
また、コントローラが目標圧力と前記検知圧力との偏差に基づいて積分補償する積分パスを備えて、積分パスの値微分パスの値を加えて電流指令を求めるようにすれば、目標圧力と検知圧力の定常偏差を除去でき、目標圧力へ追従性の良い制御が可能となって、緩衝器の減衰力を精度よく制御できる。
【0011】
さらに、圧力制御電磁弁を上流側の圧力で開弁方向へ附勢される弁体と、弁体を閉弁方向へ推す推力を発揮するソレノイドとを備えて構成すると、比例パスを設けなくとも比例パスを設けるのと同じ効果を期待でき、圧力制御電磁弁が高速に応答できる。なお、圧力センサは、シリンダ内の圧力を検知するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上より、本発明の緩衝器によれば、減衰力調整を可能としつつも安定した減衰力の発揮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第一の実施の形態における緩衝器の構成図である。
図2】第一の実施の形態における緩衝器のコントローラおよび圧力制御電磁弁のブロック線図である。
図3】第一の実施の形態の一変形例における緩衝器のコントローラおよび圧力制御電磁弁のブロック線図である。
図4】第一の実施の形態の他の変形例における緩衝器のコントローラおよび圧力制御電磁弁のブロック線図である。
図5】第二の実施の形態における緩衝器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した各実施の形態に基づき、本発明を説明する。なお、各実施の形態の緩衝器A1,A2の説明にあたり、いくつかの実施の形態で共通する部材については同じ符号を付し、説明が重複するので、一つの実施の形態において説明した部材については他の実施の形態での説明は省略する。
【0015】
<第一の実施の形態>
第一の実施の形態における緩衝器A1は、図1および図2に示すように、この例では、図示しない車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装される緩衝器本体D1と、圧力センサSと、コントローラCとを備えて構成されている。
【0016】
以下、各部について説明する。緩衝器本体D1は、たとえば、図1に示すように、シリンダ11と、シリンダ11内に摺動自在に挿入されるピストン12と、シリンダ11内に移動自在に挿入されてピストン12に連結されるピストンロッド13と、シリンダ11内にピストン12で区画されて流体が充填される伸側室R1および圧側室R2と、リザーバRと、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路14,15と、伸側室R1をリザーバRとを連通する減衰通路16と、圧側室R2とリザーバRとを連通する通路17,18と、前記通路14に設けられて伸側室R1から圧側室R2へ向かう流体の流れに抵抗を与える伸側減衰弁19と、前記通路15に設けられて圧側室R2から伸側室R1へ向かう流体の流れのみを許容する圧側チェック弁20と、前記通路17の途中に設けられて圧側室R2からリザーバRへ向かう流体の流れに抵抗を与える圧側減衰弁21と、前記通路18に設けられてリザーバRから圧側室R2へ向かう流体の流れのみを許容する伸側チェック弁22と、前記減衰通路16に設けた圧力制御電磁弁23とを備えて構成されている。なお、流体には、作動油のほか、水、水溶液、気体を利用できる。
【0017】
圧力制御電磁弁23は、減衰通路16を開閉する弁体23aと、供給される電流量に応じて弁体23aを閉弁方向に推す推力を可変にするソレノイド23bとを備えている。また、圧力制御電磁弁23は、弁体23aに上流側の圧力で開弁させる方向に附勢されるようにしてあって、ソレノイド23bの弁体23aを閉弁方向に推す推力に対して前記圧力による開弁方向の力が打ち勝つと開弁して減衰通路16を開放するようになっている。よって、この圧力制御電磁弁23の開弁圧は、ソレノイド23bへ供給する電流量によって決定され、この場合、電流量の増加に対して開弁圧もそれに応じて大きくなるようになっている。圧力制御電磁弁23は、伸側室R1をリザーバRへ連通する減衰通路16に設けられており、上流の圧力を開弁圧に制御するので、伸側室R1内の圧力を開弁圧に制御できる。
【0018】
そして、このように構成された緩衝器本体D1の伸長行程時には、ピストン12によって圧縮される伸側室R1の圧力が上昇して、流体は、伸側室R1から伸側減衰弁19を通じて圧側室R2へ移動し、また、減衰通路16を通じてリザーバRへ排出される。圧側室R2はピストン12の移動によって容積拡大し、圧側室R2内には、伸側室R1から流体が流入するとともに、伸側チェック弁22が開いてリザーバRから不足する流体が供給される。よって、圧側室R2内の圧力はリザーバ圧となり、緩衝器本体D1は、伸側室R1と圧側室R2の差圧に見合った伸側減衰力を発揮して自身の伸長を抑制する。そして、減衰通路16の途中に設けた圧力制御電磁弁23の開弁圧を調節すると、伸側室R1内の圧力を調節できるので、緩衝器本体D1の伸側減衰力を制御できる。
【0019】
他方、緩衝器本体D1の収縮行程時には、ピストン12によって圧縮される圧側室R2の圧力が上昇して、流体は、圧側室R2から圧側減衰弁21を通じてリザーバRへ移動し、また、圧側チェック弁20を通じて伸側室R1へも移動する。また、ピストンロッド13がシリンダ11内に侵入するとともに、流体が伸側室R1から減衰通路16を通じてリザーバRへも排出される。圧側室R2は、ピストン12の移動によって容積が減少して昇圧される。対して、圧側室R2から伸側室R1を経由して圧力制御電磁弁23を通じて流体がリザーバRへ排出されるので、圧力制御電磁弁23の開弁圧を調節して、伸側室R1内および圧側室R2内の圧力を調節できる。よって、圧力制御電磁弁23の開弁圧を調節して、緩衝器本体D1の圧側減衰力を制御できる。
【0020】
なお、緩衝器本体D1の回路構成は、一例であって前記に限定されるものではなく、本実施の形態では、圧力制御電磁弁23によって伸側室R1の圧力を制御して伸圧両側の減衰力を制御するようになっているが、前記回路構成に限定されるものではなく、他の回路構成を採用可能である。たとえば、圧力制御電磁弁23によって圧側室R2の圧力のみを制御するようにしてもよいし、伸側室R1の圧力を制御する圧力制御電磁弁と圧側室R2の圧力を制御する圧力制御電磁弁を別個に設けてもよい。さらに、緩衝器本体D1を伸縮すると全流量の流体がシリンダ11内からリザーバRへ排出されるユニフロー構造にして、シリンダ11内から排出される全流量の流体が通過する減衰通路16の途中に圧力制御電磁弁23を設けるようにしてもよい。
【0021】
圧力センサSは、この場合、減衰通路16の途中であって圧力制御電磁弁23の上流の圧力を検知するようになっていて、検知圧力をコントローラCへ入力するようになっている。なお、圧力センサSの設置箇所は、前記に限られるものでなく、シリンダ11に取り付けて直接に伸側室R1内の圧力を検知するようにしてもよい。
【0022】
コントローラCは、図2に示すように、車両の姿勢制御を司る図示しない上位の制御装置から入力される圧力制御電磁弁23の開弁圧の目標圧力Prefと、圧力センサSが出力する検知圧力Prの入力を受けて、目標圧力Prefと検知圧力Prとの偏差eを演算する偏差演算部31と、偏差eに基づいて積分補償する積分パス32と、検知圧力Prに基づいて微分補償して負のゲインKdを乗じて出力する微分パス33と、フィードフォワードパス34と、各パスの出力する値を加算する加算部35とを備えて構成されている。なお、図2では、ソレノイド23bと弁体23aをブロック線図で示している。
【0023】
偏差演算部31は、目標圧力Prefから検知圧力Prを差し引きして偏差eを求める。積分パス32は、偏差eを積分する積分部32aと、積分部32aが出力する値に積分ゲインKiを乗じるゲイン乗算部32bとを備えて、ゲイン乗算部32bが求めた値を積分補償による操作量として出力する。なお、積分部32aは、偏差eが求められると過去に得られた偏差eの総和に新たに求められた偏差eを加算して出力するようになっている。積分部32aは、ローパスフィルタとされてもよく、フィルタ処理を行って偏差eの積分値を求めてもよい。
【0024】
微分パス33は、検知圧力Prを微分する微分部33aと、微分部33aが出力する値にマイナスの値の微分ゲインKdを乗じるゲイン乗算部33bとを備えて、ゲイン乗算部33bが求めた値を微分補償による操作量として出力する。なお、微分部33aは、検知圧力Prが入力されると、今回入力された検知圧力Prと前回に入力された過去の検知圧力Prとの偏差を求めて出力するようになっている。微分部33aは、ハイパスフィルタとされてもよく、フィルタ処理を行って検知圧力Prの微分値を求めてもよい。
【0025】
フィードフォワードパス34は、目標圧力PrefにフィードフォワードゲインKfを乗じて出力するようになっている。コントローラCがフィードフォワードパス34を備えると、目標圧力Prefに追従性の良い制御を行える利点があるが、省略してもよい。
【0026】
加算部35は、積分パス32が出力する値と、微分パス33が出力する値と、フィードフォワードパス34が出力する値を加算して、圧力制御電磁弁23のソレノイド23bへ与える電流量を指示する電流指令Iを生成する。微分パス33は、ゲイン乗算部33bが負の値を持つゲインKdを乗じて加算部35で加算される値を出力するようになっているが、ゲインKdを負の値に設定するのは、ゲインKdを正の値に設定し加算部35で符号を反転して加算するのと等価であるので、そのような設計変更は、負の値を持つゲインKdを乗じて出力することの範疇に含まれる。
【0027】
加算部35が生成した電流指令Iは、ソレノイド23bを駆動する図示しないドライバへ入力され、ドライバは、電流指令Iが指示する電流量の電流をソレノイド23bへ供給する。ソレノイド23bは、図2に示すように、電流指令Iによって供給される電流iに比例ソレノイド特性Kvを乗じた推力を発揮する。弁体23aは、電流の供給と圧力制御電磁弁23の上流の圧力Pr(検知圧力に等しい)と弁体23aの受圧面積Avを乗じた力とソレノイド23bが発揮する推力とがバランスする位置に位置決められて、減衰通路16を開閉する。これによって、圧力制御電磁弁23は、上流側の伸側室R1の圧力を制御する。圧力制御電磁弁23によって制御された伸側室R1の圧力は、圧力センサSによって検知されて、検知圧力Prとしてフィードバックループに入力される。なお、目標圧力Prefは、コントローラCで生成するようにしてもよい。
【0028】
コントローラCは、前述のように、圧力センサSが検知した検知圧力Prと目標圧力Prefから電流指令Iを求め、この電流指令Iをソレノイド23bを駆動するドライバへ出力するようになっており、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、圧力センサSが出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、前記した制御に必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、CPUが前記プログラムを実行することで前記コントローラCの各部が実現される。
【0029】
以上のように、第一の実施の形態における緩衝器A1は、構成されている。コントローラCでは、電流指令Iを得る過程で、微分パス33が圧力センサSで検知した検知圧力Prを微分して負の値を持つゲインKdを乗じて出力するようになっている。ここで、圧力制御電磁弁23が開閉すると、流体の圧縮性に起因して、開弁と同時に圧力が低下し、この圧力の低下によって、今度は圧力制御電磁弁23が閉弁して圧力が上昇し、再度、圧力制御電磁弁23が開弁するといった動作を繰り返そうとするために、圧力制御電磁弁23の開弁時に圧力が振動的に変動する。すると、目標圧力Prefと検知圧力Prの偏差eも振動的に変化するが、微分パス33は圧力の急激な変化を打ち消すように操作量を出力する。つまり、微分パス33が圧力制御電磁弁23の振動を打ち消すように操作量を出力する。よって、圧力制御電磁弁23の上流における圧力が急峻に変動しても電流指令Iの変化は緩慢となり、圧力制御電磁弁23が開閉を繰り返して振動してしまうような事態の発生を抑制できる。
【0030】
また、リリーフオリフィスを用いていないので、圧力制御電磁弁23の振動の抑制のためには製品ごとのオリフィスのチューニングが必要とならず、振動周期によらず圧力制御電磁弁23の振動を十分に低減でき、緩衝器A1が発生する減衰力も安定させられる。よって、本発明の緩衝器A1によれば、減衰力調整を可能としつつも安定した減衰力の発揮が可能である。
【0031】
なお、圧力制御電磁弁23の上流における圧力が開弁圧近傍以外で急変しても、電流指令Iの変化は緩慢となるから、圧力制御電磁弁23の開度変化が緩慢となる。よって、緩衝器A1の発生減衰力の急変も緩和されて、車両における乗り心地が向上される。また、圧力制御電磁弁23の開度変化が緩慢となるために、圧力制御電磁弁23の上流における圧力変動も抑制されることになり、緩衝器A1の発生減衰力が安定する。
【0032】
さらに、圧力制御電磁弁23の下流にリリーフオリフィスを設ける必要がないので、減衰通路16を圧力制御電磁弁23が最大開放した場合に、伸側室R1の圧力に、リリーフオリフィスの流量圧力特性による圧力オーバーライドが重畳されないので、緩衝器A1の減衰力調整幅を大きくできる。
【0033】
なお、圧力制御電磁弁23は、弁体23aが上流側の圧力を受けて開弁するようになっているため、ソレノイド23bに供給される電流iと、弁体23aに作用している検知圧力に等しい圧力Prとは、比例関係にある。したがって、このような圧力制御電磁弁23を使用するには、圧力をフィードバックして比例補償を行う制御を行っているのと等価である。そのため、圧力制御電磁弁23を微分積分制御するのは、比例微分積分制御を実施しているのと等価となる。よって、上流側の圧力に無関係に開弁度合を変更するスプールなどを使用した絞り弁を用いる場合、比例補償を行うためには、比例パスを設ける必要があるが、この緩衝器A1にあっては、比例パスを設ける必要がないので、圧力制御電磁弁23が圧力Prに対して高速に応答可能となる。
【0034】
もちろん、図3に示す第一の実施の形態の一変形例における緩衝器A11のように、偏差eに比例ゲインKpを乗じるゲイン乗算部で構成される比例パス36を設けて、加算部35で積分パス32の出力値、微分パス33の出力値およびフィードフォワードパス34の出力値から比例パス36の出力値を減算するようにしてもよい。比例ゲインKpの設定について、比例パス36の操作量をΔiとすると、Pr・Av=Δi・Kvを考慮して、Kp=Av/Kvと設定した場合には、弁体23aに働く流体力の影響を完全に相殺できる。このとき、フィードフォワードパス34におけるフィードフォワードゲインについては、フィードフォワードパス34の操作量を比例ゲインKp分だけ差し引きするため、Kf+Kpとする必要がある。このようにしても、圧力制御電磁弁23の上流における圧力変動が急峻に変動しても電流指令Iによって、弁体23aへ作用する圧力の打ち消しが可能となるため、緩衝器A1では、圧力制御電磁弁23が開閉を繰り返して振動してしまうような事態の発生を抑制できる。また、比例ゲインKpの設定は、圧力制御電磁弁23の構造を基にして設定することができるので、設定が容易となる。
【0035】
また、本実施の形態では、積分パス32を設けて偏差eに基づく積分補償を行っているので、目標圧力Prefと検知圧力Prの定常偏差を除去でき、目標圧力Prefへ追従性の良い制御が可能となって、緩衝器A1の減衰力を精度よく制御できる。積分パス32を省略して微分パス33のみを設けても、本発明の効果は失われず、また、比例パス36と微分パス33を採用して積分パス32の省略も可能である。
【0036】
さらに、本実施の形態の緩衝器A1では、微分パス33が検知圧力Prの微分補償を行うようになっているので、目標圧力Prefの急激な変化については、微分補償を行わないため目標値への応答が反応しやすく、逆に圧力制御電磁弁23の動作安定性は高いが、図4に示す第一の実施の形態の他の変形例における緩衝器A12のように、微分パス33が検知圧力Prの微分補償を行うのではなく、目標圧力Prefと検知圧力Prの偏差eの微分補償を行うようにしてもよい。このようにしても、緩衝器A1と同様に、圧力制御電磁弁23の上流における圧力変動が急峻に変動しても電流指令Iの変化は緩慢となるので、圧力制御電磁弁23が開閉を繰り返して振動してしまうような事態の発生を抑制できる。
【0037】
<第二の実施の形態>
つづいて、第二の実施の形態の緩衝器A2について説明する。 第二の実施の形態における緩衝器A2は、図5に示すように、図示しない車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装される緩衝器本体D2と、圧力センサSと、コントローラCとを備えて構成されている。したがって、第二の実施の形態の緩衝器A2は、第一の実施の形態の緩衝器A1に対して、緩衝器本体D2の構成が異なるが、他の構成については、同じ構成を採用している。
【0038】
以下、第一の実施の形態の緩衝器A1とは異なる点である緩衝器本体D2について詳細に説明する。緩衝器本体D2は、図5に示すように、シリンダ11と、シリンダ11内に摺動自在に挿入されるピストン12と、シリンダ11内に移動自在に挿入されてピストン12に連結されるピストンロッド13と、シリンダ11内にピストン12で区画されて流体が充填される伸側室R1および圧側室R2と、リザーバRと、伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路14,15と、伸側室R1をリザーバRとを連通する減衰通路16と、伸側室R1とリザーバRとを減衰通路16に並列されて連通するパイロット通路40と、圧側室R2とリザーバRとを連通する通路17,18と、前記通路14に設けられて伸側室R1から圧側室R2へ向かう流体の流れに抵抗を与える伸側減衰弁19と、前記通路15に設けられて圧側室R2から伸側室R1へ向かう流体の流れのみを許容する圧側チェック弁20と、前記通路17の途中に設けられて圧側室R2からリザーバRへ向かう流体の流れに抵抗を与える圧側減衰弁21と、前記通路18に設けられてリザーバRから圧側室R2へ向かう流体の流れのみを許容する伸側チェック弁22と、前記パイロット通路40に設けた圧力制御電磁弁23と、パイロット通路40の途中であって圧力制御電磁弁23より上流に設けられたパイロット圧力室41と、減衰通路16の途中に設けられてパイロット圧力室41の圧力で閉弁方向に附勢されるとともに減衰通路16の上流側の圧力で開弁方向に附勢される減衰弁42とを備えて構成されている。なお、流体には、作動油のほか、水、水溶液、気体を利用できる。
【0039】
パイロット通路40の途中であって、圧力制御電磁弁23の上流には、パイロット圧力室41が設けられるとともに、さらに、パイロット通路40の途中であってパイロット圧力室41の上流には、オリフィス43が設けられている。よって、圧力制御電磁弁23の開弁圧を調整すると、その上流側に配置されているパイロット圧力室41内の圧力を調節できる。また、オリフィス43が設けられているので、パイロット圧力室41内の圧力は、伸側室R1よりオリフィス43の圧力損失分だけ低い圧力となる。
【0040】
減衰弁42は、圧力制御弁であって、減衰通路16を開閉する弁体42aと、弁体42aを閉弁方向へ附勢するばね42bと、弁体42aに閉弁方向へ推すようにパイロット圧力室41の圧力を作用させるパイロット圧導入路42cとを備えて構成されている。
【0041】
よって、減衰弁42の弁体42aには、上流の伸側室R1の圧力が開弁方向に作用し、伸側室R1より減圧されているパイロット圧力室41の圧力とばね42bの附勢力が閉弁方向に作用している。そして、弁体42aを開弁方向への推す力が、閉弁方向へ推す力を上回ると、減衰弁42は開弁して減衰通路16を開放する。他方、前述したように、パイロット圧力室41内の圧力は、圧力制御電磁弁23によって制御されるので、減衰弁42の開弁圧も同様に制御される。
【0042】
圧力センサSは、圧力制御電磁弁23の上流側の圧力を検知するようになっており、検知した検知圧力PrをコントローラCへ入力する。圧力センサSは、この場合、パイロット圧力室41の圧力を検知するようになっているが、圧力制御電磁弁23の振動を抑制する制御を行うには、上流の圧力変動を検知できればよい。したがって、圧力制御電磁弁23の上流であれば、圧力センサSの設置個所は、どこでもよく、伸側室R1の圧力を検知してもよい。
【0043】
コントローラCは、第二の実施の形態の緩衝器A2においても、第一の実施の形態の緩衝器A1と同様の構成とされている。したがって、第二の実施の形態の緩衝器A2においても、コントローラCは、電流指令Iを得る過程で、微分パス33が圧力センサSで検知した検知圧力Prに基づいて微分補償して負の値を持つゲインKdを乗じて出力する。そのため、圧力制御電磁弁23の上流における圧力が開弁圧近傍で変動し、目標圧力Prefと検知圧力Prの偏差eも振動的に変化する場合に、微分パス33は急激な圧力変化を打ち消すように操作量を出力する。つまり、微分パス33が圧力制御電磁弁の振動を打ち消すように操作量を出力する。よって、圧力制御電磁弁23の上流における圧力変動が急峻に変動しても電流指令Iの変化は緩慢となり、圧力制御電磁弁23が開閉を繰り返して振動してしまうような事態の発生を抑制できる。
【0044】
また、圧力制御電磁弁23の下流にリリーフオリフィスを用いていないので、圧力制御電磁弁23の振動の抑制のためには製品ごとのリリーフオリフィスのチューニングが必要とならず、振動周期によらず圧力制御電磁弁23の振動を十分に低減でき、緩衝器A2が発生する減衰力も安定させられる。よって、本発明の緩衝器A2によれば、減衰力調整を可能としつつも安定した減衰力の発揮が可能である。
【0045】
なお、圧力制御電磁弁23の上流における圧力が開弁圧近傍以外で急変しても、電流指令Iの変化は緩慢となるから、圧力制御電磁弁23の開度変化が緩慢となる。よって、緩衝器A2の発生減衰力の急変も緩和されて、車両における乗り心地が向上される。また、圧力制御電磁弁23の開度変化が緩慢となるために、圧力制御電磁弁23の上流における圧力変動も抑制されることになり、緩衝器A2の発生減衰力が安定する。
【0046】
また、圧力制御電磁弁23の下流にリリーフオリフィスを設ける必要がないので、パイロット通路40を圧力制御電磁弁23が最大開放した場合に、パイロット圧力室41の圧力に、リリーフオリフィスの流量圧力特性による圧力オーバーライドが重畳されないので、緩衝器A2の減衰力調整幅を大きくできる。
【0047】
さらに、第二の実施の形態の緩衝器A2にあっても、コントローラCに、比例パス36を設けてもよく、積分パス32については省略することも可能であり、微分パス33が検知圧力Prの微分補償を行うのではなく、目標圧力Prefと検知圧力Prの偏差eの微分補償を行うようにしてもよいのは、第一の実施の形態の緩衝器A1と同様である。
【0048】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
11・・・シリンダ、16・・・減衰通路、23・・・圧力制御電磁弁、23a・・・弁体、23b・・・ソレノイド、32・・・積分パス、33・・・微分パス、36・・・比例パス、40・・・パイロット圧力室、42・・・減衰弁、A1,A11,A12,A2・・・緩衝器、C・・・コントローラ、D1,D2・・・緩衝器本体、I・・・電流指令、Pr・・・検知圧力、Pref・・・目標圧力、R・・・リザーバ、S・・・圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5