特許第6339923号(P6339923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339923
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】建築物躯体の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/35 20060101AFI20180528BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20180528BHJP
   E04G 21/14 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   E04B1/35 K
   E04B1/30 G
   E04G21/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-231808(P2014-231808)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2016-94766(P2016-94766A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英之
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−226349(JP,A)
【文献】 特開2010−242390(JP,A)
【文献】 特開2009−013592(JP,A)
【文献】 米国特許第03374592(US,A)
【文献】 特開2000−145193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B1/00−1/61
E04G21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物躯体の一端から平面方向、立面方向の所定範囲の外周構面を構成する鉄骨ラーメン架構と、該鉄骨ラーメン架構に囲まれた内構面の一部を構成するように架設された鉄骨梁とからなる先行鉄骨ラーメン架構を構築し、
前記内構面内に架設された鉄骨梁を支持する鉄筋コンクリート柱を構築し、該鉄筋コンクリート柱と前記先行鉄骨ラーメン架構とで支持可能な範囲の上階スラブコンクリートを打設して躯体ラーメン架構を構築することを特徴とする建築物躯体の構築方法。
【請求項2】
前記先行鉄骨ラーメン架構に追って前記躯体ラーメン架構を構築する作業を建築物躯体の平面方向、立面方向に順次進行させて建築物躯体を完成させることを特徴とする請求項1に記載の建築物躯体の構築方法。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート柱は、前記鉄骨梁の平面縦横交点位置に立設される請求項1または請求項2に記載の建築物躯体の構築方法。
【請求項4】
前記躯体ラーメン架構の外周構面の柱は鉄骨コンクリート柱からなる請求項1または請求項2に記載の建築物躯体の構築方法。
【請求項5】
前記鉄筋コンクリート柱、スラブコンクリートの一部にプレキャストコンクリート部材が用いられる請求項1または請求項2に記載の建築物躯体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物躯体の構築方法に係り、比較的大きな梁スパンからなる柱梁ラーメン構造の建築物躯体の構築に際し、鉄骨構造の柱梁ラーメン架構の建方を先行させ、次いで鉄骨梁を支持する鉄筋コンクリート柱を構築することで施工作業の合理化を図り、工期短縮とコストダウンを実現する建築物躯体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物流倉庫や生産施設等のように梁スパンを大きくして広い床面積を確保した建築物の架構形式としては、柱梁ともに鉄骨を使用した鉄骨造が採用されることが多い。その理由として、比較的大きい梁スパンを構築する場合、梁を鉄骨造とすることが有利な点がある。また、柱に鉄骨を使用する場合は、鉄骨柱と鉄骨梁とで構成される架構で自立させることが可能であるため、鉄骨の建方を先行するいわゆる建て逃げ工法を採用でき、工期の短縮や揚重機の小型化が図れる。鉄骨(鋼材)はコンクリートと比較して高価であるため、軸力を負担する柱を鉄筋コンクリート造とし、梁を鉄骨造とする構法も開発されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された建築物では、柱鉄筋の先組ユニットを用いることで鉄筋コンクリート柱の施工合理化を図った、鉄骨柱と鉄筋コンクリート柱とを併用して上側床スラブを支持する施工方法が提案されている。柱と梁では期待される構造性能が異なるため、このような組み合わせ構造は合理的であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-332642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、外周柱を鉄筋コンクリート造としているため、柱のコンクリート強度が所定強度に達するまで上階のスラブ荷重等を別の支保部材で負担する必要がある。このために、堅固で十分な耐荷重を有するサポート材を使用する必要がある。このため、建築面積の大きい建築物では工期が長くなり、また、建築物外周部から梁鉄骨やプレキャスト部材を搬入するための建方用の揚重機も大型化するという問題があった。さらに、外周柱が鉄筋コンクリート造の場合は、地震時に発生する引張軸力を処理するための工夫も必要である。
【0006】
一方、外周構面を鉄骨造、内構面を鉄筋コンクリート造とした場合、その剛性の違いにより、地震力が作用した際にねじれ変形が生じたり、剛性が高い鉄筋コンクリート柱に水平力が集中するという現象が起きる。このような問題を解決できるとともに、広い床面積を有する建築物において、建築物の健全な構造を得るため鉄骨柱と鉄筋コンクリート柱の有利な特性を考慮し、さらに施工において建て逃げ工法等の迅速化工法をとることが望まれている。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、鉄骨ラーメン架構と鉄筋コンクリート柱とを構造的に合理的に組み合わせるとともに、建築物施工の迅速化を図ることができる建築物躯体の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の建築物躯体の構築方法は、建築物躯体の一端から平面方向、立面方向の所定範囲の外周構面を構成する鉄骨ラーメン架構と、該鉄骨ラーメン架構に囲まれた内構面の一部を構成するように架設された鉄骨梁とからなる先行鉄骨ラーメン架構を構築し、前記内構面内に架設された鉄骨梁を支持する鉄筋コンクリート柱を構築することを特徴とする。
【0008】
また、該鉄筋コンクリート柱と前記先行鉄骨ラーメン架構とで支持可能な範囲の上階スラブコンクリートを打設して躯体ラーメン架構を構築し、前記先行鉄骨ラーメン架構を追って前記躯体ラーメン架構を構築する作業を建築物躯体の平面方向、立面方向に順次進行させて建築物躯体を完成させることで建築物躯体の迅速施工が図れる。
【0009】
前記鉄筋コンクリート柱を前記鉄骨梁の平面縦横交点位置に立設することで、前記躯体ラーメン架構の十分な剛性を確保される。
【0010】
前記躯体ラーメン架構の外周構面の柱を鉄骨コンクリート柱とすることで、外周構面の柱の耐力と剛性とが確保される。
【0011】
前記鉄筋コンクリート柱、スラブコンクリートの一部にプレキャストコンクリート部材を用いることで、作業の迅速化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上に述べたように、本発明によれば、鉄骨ラーメン架構と鉄筋コンクリート柱とを施工段階で合理的に組み合わせることで、建築物躯体の施工の迅速化を図ることでき、また建築物の構造的な安定性も確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の建築物躯体の構築方法の一実施形態によって構築された建築物躯体(骨組構造)を示した平面図。
図2】本発明の建築物躯体の構築方法における1階分の作業工程を示したフローチャート。
図3図1に示した建築物躯体の一断面における作業工程を模式的に示した作業説明図。
図4】本発明の建築物躯体の構築方法で実施可能な建て逃げ工法による作業進行の一例を示した模式説明図。
図5】本発明の建築物躯体の構築方法の一実施形態による建築物構築の作業工程を示した平面図、正面図(その1)。
図6】本発明の建築物躯体の構築方法の一実施形態による建築物構築の作業工程を示した平面図、正面図(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の建築物躯体の構築方法の実施するための形態として、以下の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の建築物躯体の構築方法の一実施形態によって構築された建築物躯体1の基本構造を示した平面図である。図1に示したように、この建築物躯体1の骨組構造は、外周構面に位置する鉄骨コンクリート柱10(以下、SC柱10と略記す。)と、建築物内部に位置する内構面において平面縦横方向に架設された内部鉄骨梁20と、内部鉄骨梁20の平面交点を支持する鉄筋コンクリート柱30(以下、RC柱30と略記す。)とからなり、図示したようなラーメン架構からなる。なお、鉄骨柱11としてH形鋼を用いているため、その建て込み方向は、大きな曲げモーメントが作用する内構面方向が強軸方向となるように使用され、外周構面において鉄骨柱11の弱軸方向となる部分では、必要に応じてブレース部材を配置して構面を補剛することとしている。
【0016】
ここで、本発明の建築物躯体1の構築方法の作業工程について図2,図3を参照して説明する。図2は、図1の建築物躯体平面図のA−A断面における部材構築の作業工程を示したフローチャートである。図3は、図2のフローチャートの作業ブロックに対応した作業状態を示した作業説明図である。図1に示したように、A−A断面は建築物躯体1の外周構面から1スパン内側に位置した架構断面である。躯体の構築作業では、まず外周構面の鉄骨柱11を建て込む(図3(a))。このとき柱の鉛直性を確保するために、所定の支柱、ステーを用いることが好ましい。次いで、外周構面の鉄骨柱11間のX方向、Y方向(図1)を繋ぐように内部鉄骨梁20を架設して自立した鉄骨ラーメン架構を構築する。さらに外周構面の対向する内構面の鉄骨柱11間に内部鉄骨梁20を架設する(図3(b))。外周構面の外周鉄骨梁15は列設された鉄骨柱11間に架設されるためラーメン架構は自立性が高いが、内構面に架設される内部鉄骨梁20はスパンが大きく、この時点では内部鉄骨梁20の平面交点に配置される各柱(RC柱)が未施工であるため、内部鉄骨梁20が自重でたわむことがある。そのため梁の自重によるたわみを抑える程度の簡易なサポート5を設けることが望ましい。また必要に応じてワイヤーロープ、鋼材(図示せず)等を用いて斜材補強してもよい。次に、内構面に架設された内部鉄骨梁20の交点位置にRC柱30の鉄筋を組み立てる。すなわち、内構面のRC柱30位置の基礎梁(図示せず)から柱主筋31を立ちあげるように配筋する。そして柱外形に相当する型枠22を組み立て、さらに柱上端の階床にデッキプレート41を敷設する。(図3(c)、(d))。柱主筋を鉄筋ユニットとして先組みしている場合には、内部鉄骨梁20を設置する前に鉄筋ユニットを柱設置位置にセットしておくこともできる。デッキプレート41に代えてハーフプレキャストコンクリート床版を梁間に設置することで、施工の迅速化を図ることもできる。さらに、上階の柱鉄筋31を配筋した後に、当該階の柱コンクリートと、上階の床スラブコンクリート42を打設し、床スラブ40を構築する。以後同様に、建築物階数分の柱鉄筋の配筋、該当階の柱型枠の組立て、柱コンクリート打設、上階の階床のデッキプレート41の敷設、上階床スラブコンクリート42の打設と、一連の作業を繰り返し行っていく(図3(e))。
【0017】
一般に建築物の各柱は水平力を負担する以外に軸方向の力も負担する。よって、外周構面に立設した鉄骨柱11もコンクリートで被覆してSC柱10とすることで、芯材となる鉄骨の座屈を防ぐとともに圧縮力の大半を周囲の被覆コンクリートで負担することで高耐力の柱とすることができる。SC柱10は、RC柱30と同等以上の曲げ耐力、せん断耐力、軸耐力を有するが、芯材として鉄骨が配置されているため、コンクリート部分に構造鉄筋を配筋する必要がなく、鉄骨とコンクリートを一体化させる細径メッシュ筋を配筋する程度でよい。
【0018】
ここで、本発明の建築物躯体の構築方法による「建て逃げ工法」への一適用例について、図4を参照して説明する。図4は一例として4階建ての建築物において、鉄骨の建方を先行する建て逃げ工法を採用した場合の鉄骨建方とコンクリート工との作業の進行状態(施工範囲)をブロックで模式的に示した説明図である。図4(a)に示したように、まず、外周構面の長辺となる建築物方向(X方向)の一方の妻面側から鉄骨柱11(S柱11)を建て込むとともに、外周構面のS柱11間のX、Y方向(図1)を繋ぐ外周鉄骨梁15(S梁15)間、および内構面のY方向(図1)に内部鉄骨梁20(S梁20)を架設する。以後、順次X、Y方向にS柱11、15、S梁20を組み立てていくとともに、1階、2階の平面的な鉄骨構造の構築に合わせて上階に向けてS柱11、15を積層して最上階までの鉄骨ラーメン構造を構築する。さらに、鉄骨ラーメン構造として自立している下階の所定範囲におけるS梁20の平面縦横交点位置、外周構面の柱位置に、上述したように、鉄筋工、型枠工を経てSC柱10、RC柱30を構築する。さらに、RC柱30の支持強度を確認して柱上階の床スラブ30を施工する(図4(b))。この一連の作業を効率的に進めるために、鉄骨の先行建方の進行に応じて揚重機を移動させて各資材の揚重を行うことが好ましい。これにより、以後の鉄骨構築作業、コンクリート工事の迅速化を図ることができる。以後、建築物X方向への鉄骨の先行建方を進行させるとともに、所定階数分のSC柱10、RC柱30の構築、柱、スラブコンクリート打設を繰り返し行い、最終的に外周構面SC柱10、RC柱30、S梁20からなる建築物躯体ラーメン架構を迅速施工することができる(図4(c)、(d))。なお、図4各図に示した、鉄骨先行建方の範囲、それを追って行われるコンクリート工の施工範囲は、構造物の規模(床面積、階数)、コンクリート打設量等に応じて適宜設定することができる。また、作業階の上方に仮設の屋根架構を先行して設置すれば、作業範囲で雨や雪を防ぐことができるので、悪天候による作業中止等がなくなり、作業効率が上がる。
【0019】
次に、上述した建て逃げ工法による具体的な建築物躯体の構築作業にっいて、図5各図、図6各図を参照して説明する。この例では、まず外周構面のS柱11(1、2階分)を建て込む(図5(a))。同図に示したように、建築物の妻面側の外周構面ではS柱11は弱軸方向に建て込まれ、各S柱11間にS梁15が架設される。この外周構面の自立性を確保するために、隅角柱11Cに隣接するスパンのS柱11も同時に立設され、外周構面のS柱11間のX方向、Y方向を繋ぐようにS梁20が架設され、初期段階で自立した鉄骨ラーメン架構が構築される。さらに対向する外周構面のS柱11間の内構面に内部S梁20を架設する(図5(b))。内構面に架設される内部S梁20は両端のS柱に支持された状態にあり、梁スパンが大きい。そこで梁自重によるたわみを防止するために、S梁20を数本のパイプサポート5で下方から支持する。その際、RC柱30が施工される梁交点をはずした位置にパイプサポート5を立設することが好ましい。この建て逃げ工法では、S梁20の建方が1〜2スパン程度先行したら、追従してスラブコンクリート42を打設することとしているため、図5(c)に示したように、1階の内構面のRC柱30、外周構面のSC柱10の型枠組立後に2階のデッキプレート41を敷設した後に、鉄筋工、型枠工がすでに完了している1階のRC柱30のコンクリートを打設し、柱コンクリートの支持強度確認後に2階のスラブコンクリート42を打設する。さらに上階(2階)の柱鉄筋を配筋した後に、当該階の柱コンクリートと、3階の床スラブコンクリートを打設する(図6(d))。以後同様に、建築物階数分の柱鉄筋の配筋、該当階の柱型枠の組立て、上階の階床のデッキプレート敷設上階床スラブコンクリート、柱コンクリート打設の作業を繰り返し、最終的に各階のSC柱10、RC柱30、スラブコンクリートを構築し、建築物躯体全体を完成させることができる(図6(e))。
【0020】
このように建て逃げ工法では、鉄骨ラーメン架構の建方を先行して行い、それを追って内構面のRC柱、床スラブの構築が行われるが、先行して施工される範囲、後続して施工される範囲は、建築物の床面積、階数等の規模、各部の構造形式に応じて適宜設定することが好ましい。
【0021】
また、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0022】
1 建築物躯体
5 サポート
10 鉄骨コンクリート柱(SC柱)
11 鉄骨柱(S柱)
15 外周鉄骨梁(外周S梁)
20 内部鉄骨梁(S梁)
30 鉄筋コンクリート柱(RC柱)
40 床スラブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6