(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブレーキシューにおける前記ブレーキ板との摺接面と反対側の面と、前記ブレーキシュー支持板の支持面との一方に凸部を設け、他方に前記凸部に係合する係合部を設けている、請求項1に記載の摩擦ブレーキ構造。
前記ブレーキシューの軸方向の厚さが一定値以下になった場合に、前記ブレーキシュー支持板の、軸方向前記ブレーキ板側への移動を規制する当て止め部を更に備えた請求項1〜6のいずれか一項に記載の摩擦ブレーキ構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の摩擦ブレーキ構造においては、ブレーキ板の回転に伴ってブレーキシューも回転することにより、ブレーキの鳴きと呼ばれる異常音が発生する場合がある。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑み、摩擦ブレーキ構造における異常音の発生を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、回転電機の回転軸に固定されたブレーキ板と、該ブレーキ板に対向して配置されている環状のブレーキシューと、軸方向に移動可能なように前記回転電機の固定部に係合し、前記ブレーキシューを支持するとともに付勢作用を受けて前記ブレーキシューを前記ブレーキ板に摺接させているブレーキシュー支持板とを備え、前記回転電機の駆動時に
前記回転電機の回転軸に対する制動作用が得られ、前記回転電機の停止時に
前記回転電機の回転軸に対する保持トルクが得られることを特徴とする摩擦ブレーキ構造が提供される。
【0009】
前記ブレーキシューにおける前記ブレーキ板との摺接面と反対側の面と、前記ブレーキシュー支持板の支持面との一方に凸部を設け、他方に前記凸部に係合する係合部を設けることができる。
【0010】
前記ブレーキ板を、前記回転軸を支持する反出力側軸受よりも外側の位置において前記回転軸に固定することができる。
【0011】
前記ブレーキ板の外径を、前記反出力側軸受の外径より小さくすることができるとともに、前記ブレーキ板が前記反出力側軸受の内輪部に支持されているものとすることができる。
【0012】
前記ブレーキシューの外径を、前記反出力側軸受の外径より小さくすることができる。
【0013】
前記摩擦ブレーキ構造は、前記付勢作用を前記ブレーキシュー支持板に付与する機構として円錐コイルばねを更に備えていてもよい。
【0014】
前記摩擦ブレーキ構造は、前記ブレーキシューの軸方向の厚さが一定値以下になった場合に、前記ブレーキシュー支持板の、軸方向前記ブレーキ板側への移動を規制する当て止め部を更に備えていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態による摩擦ブレーキ構造は、上述の如く、回転電機の回転軸に固定されたブレーキ板と、該ブレーキ板に対向して配置されている環状のブレーキシューと、軸方向に移動可能なように前記回転電機の固定部に係合し、前記ブレーキシューを支持するとともに付勢作用を受けて前記ブレーキシューを前記ブレーキ板に摺接させているブレーキシュー支持板とを備え、前記回転電機の駆動時に
前記回転電機の回転軸に対する制動作用が得られ、前記回転電機の停止時に
前記回転電機の回転軸に対する保持トルクが得られることを特徴とする。
このように、環状のブレーキシューをブレーキ板に摺接させ、かつブレーキシューがブレーキ板とともに回転しないようにしたことにより、ブレーキシューの摩擦力による回転モーメントを抑制し、ブレーキシューとブレーキ板の連成部のばね定数を変化させないようにすることができる。その結果、ブレーキシューの自励振動を抑制し、ブレーキの鳴きと呼ばれる異常音の発生を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[異常音の発生原理]
発明者はまず、異常音の発生原理に関して検討を行った。以下に詳細を説明する。
【0018】
図6に示したモータにおけるブレーキ板104及び複数のブレーキシュー105を該モータの反出力側から見た様子を
図1に示している。同図において、周方向等間隔に設けられた4個のブレーキシュー105を示しており、それらを互いに区別するために符号105
1〜105
4を付している。また、ブレーキ板104の回転方向を矢印A1により示している。
摩擦ブレーキ構造における異常音は、連成系の自励振動に分類される現象である。ブレーキ板104の一部分とブレーキシュー105
2とコイルスプリング109とを含む連成系を、
図1の矢印Yの方向から見た様子を
図2に示している。同図におけるブレーキ板104の弾性をk
Bとし、ブレーキ板104の質量をm
Bとし、ブレーキ板104の位置をx
Bとする。また、ブレーキシュー105
2の弾性をkとし、ブレーキシュー105
2の質量をm
Sとし、ブレーキシュー105
2の位置をx
Sとする。さらに、コイルスプリング109の弾性をk
Sとする。同図におけるφは、ブレーキ板104が回転し、ブレーキ板104の一部分が矢印A2の方向に移動したことによるブレーキシュー105
2の倒れ角を示している。加えて、ブレーキシュー105
2の慣性モーメントをJ
Sとし、ブレーキ板104とブレーキシュー105
2の摩擦係数をμとし、ブレーキシュー105
2の重心Gから摺接面105aまでの距離をl
0とし、時間をtとする。また、ブレーキ板104とブレーキシュー105
2の接触面積をAとし、ブレーキシュー105
2の重心G周りの回転に関するばね定数をk
φとする。平衡点近傍でのこれらの量の間には次の関係が成り立つ。
【数1】
式(1)はブレーキ板位置についての運動方程式であり、式(2)はブレーキシュー位置についての運動方程式であり、式(3)はブレーキシュー回転についての運動方程式である。
【0019】
ここで、被積分関数f(l)はブレーキ板104とブレーキシュー105
2との間の圧力を表現する関数である。lは、ブレーキシュー105
2の軸線と摺接面105aとの交点Qを基準とした摺接面105aにおける座標である。f(l)は、近似的に次のように表すことができる。
【数2】
【0020】
これらをまとめると、次の連立方程式となる。
【数3】
【0021】
この連立方程式のラプラス変換による特性方程式は次式となる。
【数4】
ただし、Sはラプラス演算子である。
【0022】
一般に、上記特性方程式における行列が対称行列である場合は自励振動系とはならないが、行番号と列番号を入れ替えた要素同士が異符号となる場合には自励振動系となることが知られている。ここに示した場合では、ブレーキシューの回転に関する成分は対称ではなく、異符号となる可能性がある。すなわち、ブレーキシューの回転方向の自励振動が起こり、異常音の原因となりうる。
【0023】
上述したように、特許文献1には、各ブレーキシューが環状の支持体に固定されている点が記載されている。この場合、ブレーキシューは、ブレーキ板の回転に伴って環状の支持体との間で微小回転し、自励振動が発生する可能性がある。その結果、異常音が発生しうる。
【0024】
[実施形態]
これまでに述べた異常音の発生原理を踏まえて、本発明の一実施形態を以下に説明する。
【0025】
図3〜
図5に示しているように、モータ1は筐体としてのモータケース10を有している。モータケース10内には固定子11と回転子12が設けられている。回転子12は、出力側軸受13及び反出力側軸受14に支持された回転軸15によって支持されている。
【0026】
反出力側軸受14は、モータケース10に一体に設けられたベアリングハウジング部10aに装着されている。ベアリングハウジング部10aには、モータケース10の外部に連通するように軸方向の穴部10bが穿設されている。穴部10bは略長円形であり、外周部には、互いに向かい合うように2つの平面部10b
1及び10b
2が形成されている。このように、穴部10bはいわゆるDカット形状とされている。
【0027】
回転軸15には、反出力側軸受14よりも外側の位置において環状のブレーキ板20が固定されている。ブレーキ板20の穴部20aを回転軸15が貫通している。ブレーキ板20はまた、反出力側軸受14の内輪部14aによって支持されている。ブレーキ板20の外径は、反出力側軸受14の外径よりも小さい。このブレーキ板20は、回転軸15とともに回転する。
【0028】
このブレーキ板20に対向するようにして環状のブレーキシュー30が設けられている。ブレーキシュー30の穴部30aを回転軸15が貫通している。ブレーキシュー30の外径は、反出力側軸受14の外径よりも小さい。ブレーキシュー30において、ブレーキ板20に摺接する軸方向端面と反対の軸方向端面30bには、4個の凸部30cが周方向等間隔に設けられている。ブレーキシュー30の材質は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂などが利用できる。
【0029】
ブレーキシュー30は、軸方向に移動可能な環状のブレーキシュー支持板40に支持されている。ブレーキシュー支持板40の中心に設けられた第1穴部40aを回転軸15が貫通している。
【0030】
ブレーキシュー支持板40の外周部40bには、第1穴部40aを挟んで互いに向かい合うように2つの平面部40b
1及び40b
2が形成されている。この2つの平面部40b
1及び40b
2はそれぞれ、前記2つの平面部10b
1及び10b
2と係合するように設けられている。このように、ブレーキシュー支持板40は、略長円形のいわゆるDカット形状とされている。ブレーキシュー支持板40の2つの平面部40b
1及び40b
2と前記2つの平面部10b
1及び10b
2とがそれぞれ係合していることにより、ブレーキシュー支持板40は軸方向に移動可能かつ軸周りに回転不可能とされている。
【0031】
さらに、ブレーキシュー支持板40には、4個の前記凸部30cにそれぞれ係合する4個の第2穴部40cが周方向等間隔に設けられている。4個の凸部30cの各々に4個の第2穴部40cの各々が係合していることにより、ブレーキシュー30はブレーキシュー支持板40に固定されている。
【0032】
ブレーキシュー支持板40の外側の軸方向端面、すなわちブレーキシュー30の支持面と反対側の面には、円錐コイルばね50が配設されている。この円錐コイルばね50は、ねじ61によりモータケース10に取り付けられた円錐コイルばね支持板60に支持されている。ブレーキシュー支持板40は、円錐コイルばね50の付勢作用を受けて、ブレーキシュー30をブレーキ板20に摺接させている。
【0033】
さらに、ブレーキシュー支持板40において第2穴部40cの径方向外側の外周縁部40dと反出力側軸受14との間には、ベアリングハウジング部10aの穴部10bの内壁から径方向内側に突出するように当て止め部10cが設けられている。当て止め部10cは、ブレーキ板20との摺接に起因した磨耗によりブレーキシュー30の軸方向の厚さが一定値以下になった場合に、軸方向ブレーキ板20側へのブレーキシュー支持板40の移動を規制するために設けられている。
【0034】
[作用及び効果]
上述したように、ブレーキシュー30はブレーキシュー支持板40に固定されており、該ブレーキシュー支持板40は軸方向に移動可能かつ軸周りに回転不可能とされている。そのため、モータ1の駆動時は、回転軸15及びブレーキ板20の回転に伴ってブレーキシュー30が回転してしまうことなく、回転軸15の回転を制動することができる。モータ1の駆動を停止させると、ブレーキシュー30による制動力により、迅速に回転軸15の回転を止めることができる。この停止時においては回転軸15に関し一定の保持力が得られる。このように、駆動時における制動作用及び停止時における保持トルクが得られる。
【0035】
摺接面積の確保が可能な環状のブレーキシュー30をブレーキ板20に摺接させることにより、ブレーキシュー30がブレーキ板20とともに回転しないようにしている。そのため、ブレーキシュー30の摩擦力による回転モーメントを抑制し、ブレーキシュー30とブレーキ板20の連成部のばね定数を変化させないようにすることができる。
ここで、連成振動を表す式(4)〜(6)の各々において、右辺第1項は単振動を発生させる復元力を表現しており、この係数が一般に言われるばね定数である。第2項より後の項に倒れ角φが含まれていることにより、
図6に示した従来技術によれば、ばね定数が変化したことと同じ効果が発生する。
上記実施形態によれば、ブレーキシュー30とブレーキ板20の連成部のばね定数を変化させないようにすることで、ブレーキシュー30の自励振動を抑制し、ブレーキの鳴きと呼ばれる異常音の発生を低減することができる。
【0036】
この異常音発生の低減効果を式(7)との関係で説明する。3変数の式(7)をこのまま扱うのは困難なため、要素を減らした2変数で安定性の判別を考える。方程式が以下のように表現できるとする。
【数5】
この方程式において非対角要素の積が負となると自励振動系となることが知られている。
【0037】
上記実施形態によれば、ブレーキシュー30が環状であることにより、摺接面積の確保が可能なため、ブレーキシュー30がブレーキ板20とともに回転してしまうことを抑えることができる。つまり、
図6に示した従来技術とは異なり、倒れ角φがゼロであるか又は限りなくゼロに近い。式(7)において、ブレーキシュー回転についての運動方程式を除いた部分で考えると、以下のようになる
【数6】
式(9)において、2つの非対角要素の積は正となり、自励振動系とはならない。そのため、上記実施形態によればブレーキの異常音の発生を低減することができる。
【0038】
これに対し、
図6に示したような従来技術によれば、式(7)においてX
Bを除いた部分で考えると、以下のようになる。
【数7】
従来技術によれば倒れ角φが生じるため、非対角要素に含まれる
【数8】
は、正負両方の値をとり得る。そのため、2つの非対角要素の積が負となる場合がある。すなわち、従来技術によれば自励振動が生じ、ブレーキの異常音が発生する可能性がある。
【0039】
ブレーキ板20との摩擦により、ブレーキシュー30は徐々に摩耗し、ブレーキシュー30の軸方向の厚さが減少する。この減少に伴い、円錐コイルばね50の付勢力を受けているブレーキシュー支持板40は、ブレーキ板20側に移動する。ブレーキシュー支持板40はいずれ当て止め部10cに当たり、それ以上のブレーキ板20側への移動は当て止め部10cにより規制される。ブレーキシュー30の摩耗がさらに進むと、ブレーキシュー30はブレーキ板20に摺接しなくなる。そのため、摩耗がある程度進んだ状態での摺接に起因した火花の発生を抑えることができる。
【0040】
これに対し、上記当て止め部10cを設けない
図6においては、ブレーキシュー105が摩耗した状態でもコイルスプリング109が圧縮されないよう、コイルスプリング109の自由高さに制約を設けることで、火花の発生を抑えることができる。しかし、この場合、ブレーキシュー105が摩耗するに従い、コイルスプリング109の圧縮高さが高くなることでコイルスプリング109の付勢力が低下し、制動力も低下する恐れがある。
【0041】
当て止め部10cを設ける上記実施形態によれば、上記制約は不要であり、ブレーキシュー支持板40が当て止め部10cに当たるまでは付勢力が十分に得られるような自由高さを有する円錐コイルばね50を選定することができる。そのため、ブレーキシュー支持板40が当て止め部10cに当たるまでは安定した制動力を得ることができる。
【0042】
また、
図6においては、ブレーキ板104は、反出力側軸受106bから見て軸方向内側に設けられている。そして、ブレーキシュー105は、反出力側軸受106bと干渉しないようにするために、反出力側軸受106bの径方向外側に配置されている。それに伴って、ブレーキ板104の外径は比較的大きくなる。つまり、回転軸103の軸心から比較的離れた位置において、ブレーキシュー105がブレーキ板104に摺接することになる。必然的に、摺接部分の周速は比較的速いものとなる。
【0043】
ブレーキシューの摩耗量は、ばねの付勢力Fによって発生する接触圧P[MPa]とブレーキシューの摺接面における周速V[m/s]との積PVの値に比例するが、これとは別に周速Vがある値以上の場合にはPによらずに大きな摩耗量となる。結果として、
図6において制動力の長寿命化は困難なものとなる。
【0044】
上記実施形態によれば、ブレーキ板20の外径及びブレーキシュー30の外径はいずれも反出力側軸受14の外径よりも小さい。そのため、摺接部分が回転軸15の軸心に比較的近くなり、摺接部分における周速Vの増加を抑えることができる。摺接部分が軸心に近い場合に所望の制動力を得るためにはばねの付勢力Fを大きくする必要があるものの、上記実施形態ではブレーキシュー30を環状として摺接面積を確保したことにより、Pの値も抑えることができる。結果として、積PVの値を低下させ制動力の寿命を長くすることができる。
【0045】
ブレーキシューを複数設けるのではなく一体化させ、これに対応して付勢機構としての円錐コイルばねを1個のみとすることで、組み立ての作業性を向上させることができる。
【0046】
円錐コイルばねを使用することで、反出力側軸受の軸方向外側にブレーキ構造を設けたことによるモータの軸方向の大きさの増加を抑えることができる。
【0047】
[他の形態]
円錐コイルばね50に代えて、通常のコイルばねなどの任意の付勢機構あるいは弾撥機構を設けてもよい。
【0048】
凸部30cが4個の例を示したが、その個数は任意に設定することができる。そして、凸部30cの個数と同じ個数だけ第2穴部40cを設ければよい。第2穴部40cは、凸部30cと係合する係合部であればよく、ブレーキシュー支持板40の支持面から反対側の面にまで突き抜けた形状及び突き抜けずに窪んだ形状のいずれでもよい。さらに、凸部30cをブレーキシュー支持板40に設け、第2穴部40cをブレーキシュー30に設けてもよい。
【0049】
ブレーキシュー支持板40は、モータ1を駆動させても動くことのないモータ1内の固定部であるベアリングハウジング部10aに限らず、別の固定部に係合していてもよい。
【0050】
上記摩擦ブレーキ構造は、モータ1以外の回転電機に設けることもできる。
【0051】
上記において、摩擦ブレーキ構造の特定の実施形態について具体的に説明した。しかし、本発明は、このような実施形態に限定されず、当業者にとって明らかな変更、修正は、全て本発明の技術的範囲に含まれる。