特許第6339934号(P6339934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6339934
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】水系インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/104 20140101AFI20180528BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20180528BHJP
   C08G 63/52 20060101ALI20180528BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20180528BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   C09D11/104
   C09D11/30
   C08G63/52
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-266642(P2014-266642)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-124975(P2016-124975A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】奥野 貴
(72)【発明者】
【氏名】水畑 浩司
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
【審査官】 南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−088552(JP,A)
【文献】 特開2014−201622(JP,A)
【文献】 特開2014−125555(JP,A)
【文献】 特開平10−046081(JP,A)
【文献】 特開2007−219229(JP,A)
【文献】 特開2012−046727(JP,A)
【文献】 特開平10−204347(JP,A)
【文献】 特開2003−041169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41J 2/01
B41M 5/00
C08G 63/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水系インクであって、
ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂が、非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)からなるグラフトポリマーであり、
前記非晶質ポリエステル樹脂が、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合させて得られる非晶質ポリエステル樹脂であり、
前記側鎖セグメント(A2)がスチレン系化合物に由来する構成成分を含有し、
前記側鎖セグメント(A2)中のスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量をa1質量%、前記炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸と前記スチレン系化合物の合計量に対する炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量をa2質量%として、a1及びa2が下記式(1)〜(3)を満たす、水系インク。
0.4(a1)+(a2)≧60 (1)
40≦(a1)≦100 (2)
20≦(a2)≦80 (3)
【請求項2】
前記非晶質ポリエステル樹脂のアルコール成分が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を70モル%以上含有する、請求項1に記載の水系インク。
【請求項3】
前記式(3)が、
30≦(a2)≦70 (3−1)
を満たす、請求項1又は2に記載の水系インク。
【請求項4】
主鎖セグメント(A1)と側鎖セグメント(A2)の質量比[主鎖セグメント(A1)/側鎖セグメント(A2)]が50/50以上88/12以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系インク。
【請求項5】
前記非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移温度が40℃以上90℃以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水系インク。
【請求項6】
前記非晶質ポリエステル樹脂の数平均分子量が1000以上10000以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対してノズルが非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
また、水系のインクであるため環境負荷・安全性等の理由で、従来、溶剤系インクやUV硬化インク等によって印刷されてきた、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)等の樹脂製記録媒体に対しても、インクジェット記録方式の活用が求められている。
【0003】
特許文献1には、着色剤及びポリエステル系樹脂粒子を含有する水系インクであって、ポリエステル系樹脂粒子を構成するポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメントからなるグラフトポリマーであり、前記ポリエステル系樹脂粒子の体積中位粒径が特定の大きさの範囲にあるインクジェット記録用水系インクが、吐出性、記録媒体への定着性及び高温での画像保存性に優れることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、着色剤及びポリエステル系樹脂粒子を含有する水系インクであって、ポリエステル系樹脂粒子を構成するポリエステル系樹脂が、炭素数8〜14のα,ω−脂肪族ジオールを70モル%以上含むアルコール成分と炭素数2〜4のジカルボン酸を10モル%以上含むカルボン酸成分を重縮合させて得られる結晶性ポリエステル部分を含有し、100℃での損失弾性率(G’’100)が特定の値を示し、140℃における損失弾性率に対する100℃における損失弾性率の比(G’’100/G’’140)が特定の値を示すインクジェット記録用水系インクが、吐出性、記録媒体への初期定着性及び定着強度に優れることが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、インク凝集性、インク吐出安定性、及びメンテナンス性に優れた水性インク組成物として、アニオン性の構成単位及び疎水性の構成単位を含むポリマーの溶液と水とを用いて転相乳化法によりポリマーの水性分散物を調製し、前記ポリマーの水性分散物の存在下、少なくとも1種の架橋性モノマーをシード重合させて得られる複合粒子と、着色剤と、を含む水性インク組成物が開示されている。
【0006】
更に、特許文献4には、記録品位、耐水性、耐目詰まり性、耐熱性、及び保存安定性に優れる記録剤を構成し得るポリエステル系水分散体として、分散質として、シクロヘキセンジカルボン酸を含む多価カルボン酸類と多価アルコールから得られるポリエステル樹脂と、エチレン性不飽和結合を有する単量体の重合により得られる樹脂からなるポリエステル系樹脂微粒子が水系媒体中に微分散されたことを特徴とするポリエステル系樹脂水分散体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−88552号公報
【特許文献2】特開2014−125555号公報
【特許文献3】特開2011−190415号公報
【特許文献4】特開平9−157508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
樹脂製記録媒体の用途として食品包装材料があり、近年では、ここにオンデマンドで印刷を施すニーズが高まっている。このような食品包装材料の特性として、食品包装状態のままボイルさせる商品へも適用できる、すなわち、100℃又はそれ以上の温度においても印刷画像が変性しない程度に、耐熱性の向上が求められている。しかしながら、前記特許文献においても十分な技術レベルには達していなかった。
本発明は、前記の課題に対して、樹脂製記録媒体へ印刷した場合にも印刷画像が耐熱性に優れる、水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、水系インクで、上記の課題を解決するためには、インクを記録媒体表面に印刷した後に、インク中の成分が熱に対して安定な保護膜を形成することが重要であると考えて検討を行った。その結果、特定のポリエステル樹脂と特定の付加重合系樹脂からなるグラフトポリマー粒子を含有させることで、樹脂製記録媒体へ印刷した場合に印刷画像が耐熱性に優れることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の[1]を提供する。
[1]着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水系インクであって、
ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂が、非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)からなるグラフトポリマーであり、
前記非晶質ポリエステル樹脂が、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合させて得られる非晶質ポリエステル樹脂であり、
前記側鎖セグメント(A2)がスチレン系化合物に由来する構成成分を含有し、
前記側鎖セグメント(A2)中のスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量をa1質量%、前記炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸と前記スチレン系化合物の合計量に対する炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量をa2質量%として、a1及びa2が下記式(1)〜(3)を満たす、水系インク。
0.4(a1)+(a2)≧60 (1)
40≦(a1)≦100 (2)
20≦(a2)≦80 (3)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂製記録媒体へ印刷した場合にも印刷画像が耐熱性に優れる、水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水系インクは、着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する水系インクであって、ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂が、非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)からなるグラフトポリマーであり、前記非晶質ポリエステル樹脂が、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合させて得られる非晶質ポリエステル樹脂であり、前記側鎖セグメント(A2)がスチレン系化合物に由来する構成成分を含有し、前記側鎖セグメント(A2)中のスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量をa1質量%、前記炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸と前記スチレン系化合物の合計量に対する炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量をa2質量%として、a1及びa2が下記式(1)〜(3)を満たす、水系インクである。
0.4(a1)+(a2)≧60 (1)
40≦(a1)≦100 (2)
20≦(a2)≦80 (3)
【0013】
本発明の水系インクが、印刷画像の耐熱性に優れる理由はいまだ定かではないが、次のように考えられる。
本発明の水系インクは、着色剤とポリエステル系樹脂粒子を含有する。本発明の水系インクを用いて印刷を行うと、記録媒体上でポリエステル系樹脂粒子が被膜化し、着色剤を覆いながら記録媒体上に定着する。ここで、ポリエステル系樹脂粒子を構成するポリエステル系樹脂が、非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)(以下、「非晶質ポリエステル樹脂セグメント(A1)」又はセグメント(A1)ともいう)及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)(以下、「付加重合系樹脂セグメント(A2)」又は「セグメント(A2)」ともいう)からなるグラフトポリマーであり、非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)が、コート紙やPETといった吸水性の低い記録媒体に対して親和性を示すため、定着しやすいものと考えられる。また、本発明においては、ポリエステル系樹脂におけるポリエステル樹脂セグメントを構成するポリエステル樹脂が非晶質であるため、融点以上で急激に溶融するといった特性がなく、耐熱性を向上させやすい。
【0014】
そして、前記非晶質ポリエステル樹脂が、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合させて得られる非晶質ポリエステル樹脂であり、前記付加重合系樹脂がスチレン系化合物に由来する構成成分を含有する。この付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)は、一部が非晶質ポリエステル樹脂の2箇所の炭素−炭素不飽和結合と結合した架橋構造を取っているものと推察される。このように、ポリエステル系樹脂が架橋構造とスチレン系化合物に由来する構成成分を含有することにより、ポリエステル系樹脂の耐熱性が向上しているものと考えられる。
【0015】
更に、本発明においては、前記付加重合系樹脂セグメント中のスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量をa1質量%、前記炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸とスチレン系化合物の合計量に対する炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量をa2質量%として、a1及びa2が特定の関係式を満たす。これにより各構成成分の相対量を調節することで、樹脂が記録媒体へ適度に定着性を持ちつつ、熱に対し十分な耐久性を持たせることができ、本発明の水系インクによる印刷画像の耐熱性が向上できたものと考えられる。
以下、本発明に用いられる各成分について説明する。
【0016】
[ポリエステル系樹脂粒子(A)]
ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成するポリエステル系樹脂は、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)及び付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)からなるグラフトポリマーであり、前記非晶質ポリエステル樹脂が、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合させて得られる非晶質ポリエステル樹脂であり、前記側鎖セグメント(A2)がスチレン系化合物に由来する構成成分を含有し、前記側鎖セグメント(A2)中のスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量をa1質量%、前記炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸と前記スチレン系化合物の合計量に対する炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量をa2質量%として、a1及びa2が下記式(1)〜(3)を満たす。
0.4(a1)+(a2)≧60 (1)
40≦(a1)≦100 (2)
20≦(a2)≦80 (3)
【0017】
ここで、非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)とは、主鎖セグメント(A1)が非晶質ポリエステル樹脂に由来することを意味する。また、付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2)とは、側鎖セグメント(A2)が付加重合系樹脂に由来することを意味する。更に、当該グラフトポリマーは、セグメント(A1)及びセグメント(A2)の他に、本発明の効果を阻害しない範囲内において他のセグメントを有していてもよい。しかし、当該グラフトポリマー中における、セグメント(A1)及びセグメント(A2)の合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%である。
【0018】
<グラフトポリマー(ポリエステル系樹脂)>
グラフトポリマーを構成するセグメント(A1)とセグメント(A2)との質量比[セグメント(A1)/セグメント(A2)]は、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、更に好ましくは60/40以上であり、また、好ましくは88/12以下、より好ましくは85/15以下である。
セグメント(A1)がセグメント(A2)より多く存在することで、印刷画像の耐熱性を維持しつつ、水との親和性が上がり、造膜性に優れ、記録媒体への定着性に優れるものと考えられる。
【0019】
(非晶質ポリエステル樹脂セグメント(A1))
グラフトポリマーを構成する非晶質ポリエステル樹脂セグメント(A1)は、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合させて得られる非晶質ポリエステル樹脂である。
【0020】
〔アルコール成分〕
セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分は、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含むことが好ましい。
なお、本発明において、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物とは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンにオキシアルキレン基を付加した構造全体を意味するものである。
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、具体的には下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
一般式(I)において、RO、ROはいずれもオキシアルキレン基であり、好ましくは、それぞれ独立に炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基であり、より好ましくは、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基である。
x及びyは、アルキレンオキサイドの平均付加モル数に相当する。さらに、カルボン酸成分との反応性の観点から、xとyの和の値は好ましくは2以上であり、そして、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
また、x個のROとy個のROは、各々同一であっても異なっていてもよい。ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。このビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物が好ましく、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物がより好ましい。
セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分中におけるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは100モル%である。
【0023】
セグメント(A1)の原料モノマーであるアルコール成分には、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコール成分を含有することができる。
具体的には、セグメント(A1)の構成単位の由来する原料モノマー(以下、単に「セグメント(A1)の原料モノマー」ともいう)のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、又はそれらのアルキレン(炭素数2以上4以下)オキサイド付加物(平均付加モル数1以上16以下)等が挙げられる。前記アルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
〔カルボン酸成分〕
セグメント(A1)の原料モノマーであるカルボン酸成分は、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含む。
該炭素−炭素不飽和結合の部分は、グラフトポリマー中でセグメント(A2)との結合部分となることができ、その場合、該不飽和結合は、飽和結合となる。
炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸及びマレイン酸等が挙げられ、フマル酸がより好ましい。
【0025】
カルボン酸成分中炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量は、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは32モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下、より好ましくは100モル%である。
【0026】
カルボン酸成分は、上記の炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸以外のカルボン酸を含んでいても良い。
他のカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、コハク酸、アルキル基及び/又はアルケニル基を有するコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸類、デカリンジカルボン酸類等の脂環族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸、並びにそれらの酸の無水物及びそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が挙げられる。
【0027】
カルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸を含有する場合、カルボン酸成分中における当該芳香族ジカルボン酸の含有量は、例えば15モル%以上であり、また60モル%以下である。
カルボン酸成分がアルケニル基を有するコハク酸を含有する場合、カルボン酸成分中における当該アルケニル基を有するコハク酸の含有量は、例えば10モル%以上であり、また30モル%以下である。アルキル基及び/又はアルケニル基を有するコハク酸としては、オクテニルコハク酸、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸等が挙げられる。
【0028】
セグメント(A1)において、樹脂粒子の粒径を適切に調整し、定着性及び高温での画像保存性を向上させる観点から、アルコール成分の水酸基に対するカルボン酸成分のカルボキシ基のモル比(カルボキシ基/水酸基)は、好ましくは90/100以上、より好ましくは95/100以上であり、また、好ましくは110/100以下、より好ましくは105/100以下である。
なお、セグメント(A1)を構成する非晶質ポリエステルの物性に関しては、後述のグラフトポリマー(ポリエステル系樹脂)の製造に関する記載の中で説明する。
【0029】
(付加重合系樹脂からなる側鎖セグメント(A2))
グラフトポリマーを構成するセグメント(A2)は、付加重合性モノマーに由来する構成単位からなる付加重合系樹脂からなるセグメントである。セグメント(A2)は、グラフトポリマーにおける側鎖である。
本発明に用いられる付加重合性モノマーは、スチレン系化合物を含有する。
付加重合性モノマーは、スチレン系化合物のみであってもよいが、スチレン系化合物以外の付加重合性モノマーを含んでいてもよい。
スチレン系化合物としては、スチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン等が挙げられ、入手性及び反応性の観点から、スチレンが好ましい。
【0030】
スチレン系化合物以外の付加重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のハロゲン化ビニリデン;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの中で、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルは、好ましくは炭素数1以上22以下、より好ましくは炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリルアクリレート等が挙げられ、好ましくは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びラウリルアクリレートの1種又は2種、より好ましくは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0031】
付加重合性モノマーは、前述した非晶質ポリエステルのカルボン酸成分中における炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸における炭素−炭素不飽和結合と結合することにより、分岐構造又は架橋構造を形成して耐熱性を向上させる。
ここで、この炭素−炭素不飽和結合が少ない場合には、スチレン系化合物含有量を多くすることにより、印刷画像の耐熱性が向上する。また、この炭素−炭素不飽和結合が多い場合には、スチレン系化合物含有量が少なくても、印刷画像の耐熱性が向上する。
【0032】
(a1及びa2)
前記付加重合系樹脂セグメント(A2)中のスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量をa1質量%、前記炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸と前記スチレン系化合物の合計量に対する炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量をa2質量%とした場合、a1及びa2は、下記式(1)〜(3)を満たす。
0.4(a1)+(a2)≧60 (1)
40≦(a1)≦100 (2)
20≦(a2)≦80 (3)
【0033】
式(2)において、セグメント(A2)中におけるスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量(a1)が40質量%以上であると、印刷画像の耐熱性が向上する。
当該観点から、当該含有量(a1)は、好ましくは45質量%以上、より好ましくは48質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。
【0034】
式(3)において、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸と前記スチレン系化合物の合計量に対する炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量(a2)が20質量%以上であれば、炭素−炭素不飽和結合の数が十分となり、印刷画像の耐熱性が向上する。また、当該含有量(a2)が80質量%以下であれば、スチレン系化合物の量が十分となり、印刷画像の耐熱性が向上する。
当該観点から、当該含有量(a2)は、好ましくは22質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは35質量%以上である。
また、同様の観点から、当該含有量(a2)は、好ましくは78質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは73質量%以下、より更に好ましくは70質量%以下である。
【0035】
式(1)において、「0.4(a1)+(a2)」が60以上であれば、セグメント(A2)の総量、セグメント(A2)中におけるスチレン系化合物に由来する構成成分の含有量、及び、炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸の含有量の間のバランスが良好となり、炭素−炭素不飽和結合数が不足して十分な分岐又は架橋構造が取れなくなったり、スチレン系化合物の量が不足したりすることがなく、印刷画像の耐熱性が向上する。
当該観点から、「0.4(a1)+(a2)」の値は、好ましくは61以上、より好ましくは62以上、更に好ましくは63以上である。
同様の観点から、「0.4(a1)+(a2)」の値は、好ましくは100以下、より好ましくは95以下、更に好ましくは92以下である。
【0036】
<グラフトポリマー(ポリエステル系樹脂)の製造>
グラフトポリマーの製造方法としては、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合して、非晶質ポリエステル樹脂を調製し、該非晶質ポリエステル樹脂の存在下、付加重合性モノマーを付加重合する方法が好ましい。
【0037】
(非晶質ポリエステル樹脂)
非晶質ポリエステル樹脂は、アルコール成分と、炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸を30モル%以上含むカルボン酸成分とを重縮合して得られる、炭素−炭素不飽和結合を有する非晶質ポリエステル樹脂であり、前記非晶質ポリエステル樹脂からなる主鎖セグメント(A1)を構成するのに好ましいものである。なお、「炭素−炭素不飽和結合」は、前記した炭素−炭素不飽和結合を有する炭素数4以上6以下の脂肪族ジカルボン酸に由来するものである。
非晶質ポリエステル樹脂のアルコール成分とカルボン酸成分の好適な構造及び好適な含有量は前記セグメント(A1)の場合と同じである。
【0038】
非晶質ポリエステル樹脂は、例えば、前記アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じエステル化触媒を用いて、180℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、二酸化ゲルマニウム等の金属化合物等が挙げられる。ポリエステルの合成におけるエステル化反応の反応効率の観点から、スズ触媒が好ましい。スズ触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズ、これらの塩等が好ましく用いられ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズがより好ましく用いられる。
また、ターシャリーブチルカテコールのようなラジカル重合禁止剤を併用してもよい。
【0039】
非晶質ポリエステル樹脂の軟化点は、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは88℃以上であり、また、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは120℃以下である。
非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、同様の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは48℃以上であり、また、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0040】
ここで、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち、「軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃)」で定義される結晶性指数によって表され、一般にこの結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6より小さいときは結晶性が低く非晶質部分が多い。
本実施の形態において、「非晶質ポリエステル樹脂」とは、結晶性指数が1.4より大きいか、0.6未満、好ましくは1.4より大きく4以下、より好ましくは1.5以上3以下であるポリエステルをいう。また、「結晶性ポリエステル樹脂」とは、結晶性指数が0.6以上1.4以下、好ましくは0.8以下1.2以下、更に好ましくは0.9以上1.1以下であるポリエステル樹脂をいう。
上記の吸熱の最大ピーク温度とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度のことを指す。吸熱の最大ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、その吸熱の最大ピーク温度を結晶性樹脂(結晶性ポリエステル樹脂)の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移に起因するピークとする。
前記樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率により調整することができる。
非晶質ポリエステル樹脂の数平均分子量は、樹脂の定着性を確保し印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,500以上、更に好ましくは2,000以上、より更に好ましくは2,300以上であり、また、好ましくは10,000以下、より好ましくは8,000以下、更に好ましくは5,000以下、より更に好ましくは4,000以下である。
【0041】
非晶質ポリエステル樹脂の酸価は、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、また、好ましくは35mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
ガラス転移温度、軟化点、分子量及び酸価はいずれも用いるモノマーの種類、配合比率、重縮合の温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。
【0042】
(付加重合性モノマー)
本発明に用いられる付加重合性モノマーの詳細は、前記の通りである。
(グラフトポリマーの製造)
グラフトポリマーの製造方法に制限はなく、非晶質ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとを直接混合して重合する方法、非晶質ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとを有機溶媒に溶解して重合する方法等が挙げられるが、下記工程(1)及び(2)を有する方法によって得ることが好ましい。
工程(1):前記非晶質ポリエステル樹脂を水性媒体と混合して、前記非晶質ポリエステル樹脂の水性分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた水性分散液に付加重合性モノマーを添加して重合してグラフトポリマーを得、グラフトポリマーを含有する水性分散液を得る工程
【0043】
〔工程(1)〕
工程(1)は、非晶質ポリエステル樹脂を水性媒体と混合して、非晶質ポリエステル樹脂の水性分散液を得る工程である。
前記水性媒体とは、水を主成分とするもの、すなわち、水の含有量が50質量%以上の媒体である。環境安全性の観点から、水性媒体中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは実質的に100質量%である。水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等の、水に溶解する有機溶媒が挙げられる。
【0044】
水性媒体中に非晶質ポリエステル樹脂を分散させる方法としては、非晶質ポリエステル樹脂をケトン系溶媒に溶解させ、後述する中和剤を加えて非晶質ポリエステル樹脂のカルボキシ基をイオン化し、次いで水を加えて水系に転相する方法、好ましくは、水を加えた後にケトン系溶媒を留去して水系に転相する方法が挙げられる。
【0045】
より具体的には、例えば、撹拌機、還流冷却管、温度計、滴下ロート及び窒素ガス導入管を備えた反応器を準備し、ケトン系溶媒に溶解した非晶質ポリエステル樹脂に、中和剤等を添加し、カルボキシ基をイオン化し(すでにイオン化されている場合は不要)、次いで水を加えて水系に転相する、好ましくは、水を加えて転相した後にケトン系溶媒を留去して水性分散液とする。
非晶質ポリエステル樹脂のケトン系溶媒への溶解操作、及びその後の中和剤の添加は、通常、ケトン系溶媒の沸点以下の温度で行う。用いられる水としては、例えば脱イオン水等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン等が挙げられる。非晶質ポリエステル樹脂の溶解性及び溶媒の留去容易性の観点から、好ましくはメチルエチルケトンである。
【0046】
また、中和剤としては、例えばアンモニア水、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等のアミン類等が挙げられ、好ましくはアルカリ水溶液、より好ましくは水酸化ナトリウムである。中和剤の使用量は、少なくとも非晶質ポリエステル樹脂の酸価を中和できる量であればよい。
【0047】
工程(1)で得られた水性分散液中における非晶質ポリエステル樹脂の体積平均粒径は、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上、より更に好ましくは30nm以上である。また、初期定着性及び吐出安定性を向上させる観点からは、好ましくは200nm以下、より好ましくは180nm以下、更に好ましくは150nm以下、より更に好ましくは120nm以下である。
また、この水性分散液中における固形分濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0048】
〔工程(2)〕
工程(2)は、工程(1)で得られた水性分散液に前記付加重合性モノマーを添加し重合してグラフトポリマー(ポリエステル系樹脂)を得、グラフトポリマーを含有する水性分散液(以下「水性分散液(A)」ともいう)を得る工程である。
まず、付加重合性モノマーを非晶質ポリエステル樹脂の水性分散液に添加する。添加量は、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、非晶質ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとの質量比[非晶質ポリエステル樹脂/付加重合性モノマー]で、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、更に好ましくは60/40以上であり、また、好ましくは88/12以下、より好ましくは85/15以下である。
非晶質ポリエステル樹脂が付加重合性モノマーより多く存在することで、印刷画像の耐熱性を維持しつつ、水との親和性が上がり、造膜性に優れ、記録媒体への定着性に優れるものと考えられる。
また、撹拌効率の観点から、更に水等を加えてもよい。
【0049】
次に、非晶質ポリエステル樹脂の存在下、付加重合性モノマーを重合する。
重合には、公知のラジカル重合開始剤、架橋剤等を必要に応じて添加する。ラジカル重合開始剤としては、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、過硫酸塩を用いることがより好ましく、過硫酸ナトリウムを用いることが更に好ましい。
前記の非晶質ポリエステル樹脂と付加重合性モノマーとを含有する混合液を加熱することで重合反応を進行させる。重合温度は、用いられる重合開始剤の種類にもよるが、例えば、過硫酸ナトリウムを用いる場合には、重合反応を効率的に行う観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。反応時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、更に好ましくは5時間以上であり、また、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、更に好ましくは7時間以下である。
【0050】
前記水性分散液(A)の固形分濃度は、樹脂粒子の分散性及び生産性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0051】
<ポリエステル系樹脂粒子(A)の物性、配合比等>
本発明に用いられるポリエステル系樹脂粒子(A)の体積平均粒径は、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは25nm以上、より更に好ましくは30nm以上である。また、初期定着性及び吐出安定性を向上させる観点からは、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは150nm以下であり、更に好ましくは120nm以下である。
体積平均粒径の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0052】
ポリエステル系樹脂粒子(A)を構成する樹脂のガラス転移温度は、記録媒体への定着性及び印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下である。
【0053】
[着色剤]
本発明において着色剤とは、顔料又は染料をいう。また、後述するとおり、着色剤は、界面活性剤やポリマーを用いてインク中で安定な微粒子にしてもよい。本発明に用いる着色剤としては、特に制限はなく、顔料、疎水性染料、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等を用いることができるが、インクの耐水性、分散安定性及び耐擦過性の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料を用いることが好ましい。
【0054】
<顔料>
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。
有機顔料の具体例としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0055】
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。これらの中でもインクの発色性の観点から、キナクリドン顔料が好ましい。
また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料も好適に用いることができる。キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド122)、又はβ型、γ型等の無置換キナクリドンと2,9−ジクロロキナクリドン、3,10−ジクロロキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド122)との組み合わせからなる固溶体顔料が好ましい。
【0056】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水性媒体に分散可能である無機顔料や有機顔料を意味する。ここで、他の原子団としては、炭素数1以上12以下のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。
自己分散型顔料の市販品としては、例えば、キャボット社製のCab−O−Jet 260M(2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド122)の誘導体)、200、300、400、270Y、470Y、740Y、554B、480V、352B、260M、265M、465M、250C、450C、1027R;オリヱント化学工業株式会社製のBONJET BLACK CW−1、CW−2、M−800;東海カーボン株式会社製のAqua−Black 001、162等が挙げられる。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0057】
<顔料以外の着色剤>
疎水性染料は、ポリマー粒子中に含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。疎水性染料は、ポリマー中に効率よく染料を含有させる観点から、ポリマーの製造時に使用する有機溶媒(好ましくはメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上、好ましくは20g/L以上500g/L以下(25℃)溶解するものが望ましい。ここで、疎水性染料とは、100gの水中(20℃)、溶解度が、好ましくは6質量%未満の染料のことをいう。
疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。
油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、及びC.I.ソルベント・オレンジからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられ、オリヱント化学工業株式会社、BASF社等から市販されている。
当該顔料以外の着色剤は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0058】
<着色剤を含有するポリマー粒子>
着色剤は、水系インクに使用する場合には、界面活性剤、ポリマーを用いて、インク中で安定な微粒子にすることが好ましい。特に、インクの耐滲み性、耐水性、印刷画像の耐熱性等に優れる水系インクを得る観点から、ポリマーの粒子中に着色剤を含有させることがより好ましく、ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることが更に好ましく、水不溶性ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることがより更に好ましい。
以下に、着色剤を含有するポリマー粒子について説明する。
【0059】
着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径は、インクの画像濃度を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。
着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径は、動的光散乱法で測定されるものであり、具体的には実施例の方法によって測定される。
【0060】
(水不溶性ポリマー)
着色剤を含有するポリマー粒子には、インク中でのポリマー粒子の水分散性及びインクの画像濃度を向上させる観点から、水不溶性ポリマーを用いることが好ましい。ここで、本発明の「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、溶解量とは、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
水不溶性ポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0061】
ビニル系ポリマーとしては、(a)イオン性モノマー(以下、単に「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性モノマー(以下、単に「(b)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。なかでも、更に(c)マクロマー(以下、単に「(c)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0062】
〔(a)イオン性モノマー〕
(a)イオン性モノマーは、着色剤を含有するポリマー粒子をインク中で安定に分散させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記アニオン性モノマーの中では、水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0063】
〔(b)疎水性モノマー〕
(b)疎水性モノマーは、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1以上22以下、好ましくは炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを示す。
【0064】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b)疎水性モノマーは、前記のモノマー2種類以上を使用することができるが、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリレートを併用することができ、ベンジル(メタ)アクリレートとスチレンを併用することができるが、ベンジル(メタ)アクリレートを単独で用いることがより好ましい。
【0065】
〔(c)マクロマー〕
(c)マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下がより好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒としてクロロホルム等を用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレン等を用いて測定される。
(c)マクロマーとしては、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(いずれも商品名、東亞合成株式会社製)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0066】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマーには、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、更に、(d)ノニオン性モノマー(以下、単に「(d)成分」ともいう)をモノマー成分として用いることが好ましい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(n=2〜30)等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でもアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0067】
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
前記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
ビニル系ポリマー製造時における、前記(a)〜(d)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
(b)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは98質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
(c)成分を含有する場合の(c)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
(d)成分を含有する場合の(d)成分の含有量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
また、(c)成分を含有する場合の〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の質量比は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性及びインクの画像濃度を向上させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.05以上であり、また、好ましくは1以下、より好ましくは0.67以下、更に好ましくは0.50以下である。
【0069】
(水不溶性ポリマーの製造)
前記水不溶性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、例えば、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上5以下のケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
【0070】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下であり、重合時間は好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは20時間以下である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、そして、好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下、更に好ましくは200,000以下である。なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0071】
<着色剤を含有するポリマー粒子の製造>
着色剤を含有するポリマー粒子は、水性分散液として次の工程1及び2を有する方法により、製造することができる。
工程1:水不溶性ポリマー、有機溶媒、着色剤、及び水を含有する混合物を分散処理して、着色剤を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程2:工程1で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液を得る工程
また、更に工程3を行ってもよい。
工程3:工程2で得られた水性分散液と架橋剤を混合し、着色剤を含有するポリマー粒子を架橋する工程
【0072】
(工程1)
工程1では、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させて水不溶性ポリマーの溶液を得、次に着色剤、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた溶液に加えて混合し、水中油型の着色剤を含有するポリマー粒子の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの溶液に加える順序は、例えば、水、中和剤、着色剤の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーを溶解させる有機溶媒としては、例えば、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上5以下のケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、炭素数3以上5以下のケトン類がより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、該水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
水不溶性ポリマーのアニオン性基の中和度は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中及び水性媒体中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除して得られる値を意味する。
【0073】
前記着色剤を含有するポリマー粒子の分散体中、着色剤は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。有機溶媒は、好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。水不溶性ポリマーは、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。水は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下である。
前記水不溶性ポリマーの量に対する着色剤の量の質量比〔着色剤/水不溶性ポリマー〕は、着色剤を含有するポリマー粒子のインク中及び水性媒体中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは60/40以上、更に好ましくは70/30以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下である。
【0074】
工程1における分散体の分散方法は、例えば、本分散だけで着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、着色剤を含有するポリマー粒子の体積平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは25℃以下である。分散時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは30時間以下、より好ましくは25時間以下である。
分散体を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、なかでも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(淺田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子を小粒径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0075】
(工程2)
工程2では、工程1で得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液を得ることができる。得られた着色剤を含有するポリマー粒子を含む水性分散液中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液は、着色剤を含有する固体の水不溶性ポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、当該ポリマー粒子の形態は、少なくとも着色剤と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該水不溶性ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、該水不溶性ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、該水不溶性ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が挙げられ、これらの混合物であってもよい。
【0076】
また、水性分散液及び水系インクの保存安定性を向上させる観点から、上記の工程1及び工程2に続けて、更に、工程3を行ってもよい。
(工程3)
工程3は、任意の工程であるが、工程2で得られた水性分散液と架橋剤とを混合し、着色剤を含有するポリマー粒子を架橋する工程である。
ここで、架橋剤は、水不溶性ポリマーがアニオン性基を有するアニオン性水不溶性ポリマーである場合、該アニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2以上6以下有する化合物がより好ましい。
架橋剤としては、好ましくは分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物がより好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが更に好ましい。
【0077】
架橋剤の使用量は、水性分散液及びインクの保存安定性を向上させる観点から、〔架橋剤/アニオン性水不溶性ポリマー〕の質量比で好ましくは0.3/100以上、より好ましくは1/100以上、更に好ましくは5/100以上であり、そして、好ましくは50/100以下、より好ましくは40/100以下、更に好ましくは25/100以下である。
得られた着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液は、金網等で濾過し、粗大粒子等を除去するのが好ましい。また、水性分散液の生産性及び保存安定性を向上させる観点から、後述の水系インク中に任意に添加される、有機溶媒、防腐剤、防黴剤等の各種添加剤を、着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液に添加してもよい。
着色剤を含有するポリマー粒子の水性分散液の固形分濃度は、水性分散液の生産性及び保存安定性を向上させる観点、並びに、印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である。
【0078】
[水系インクの組成等]
本発明の水系インクは、前述のとおり、着色剤及びポリエステル系樹脂粒子(A)を含有する。
この水系インクは、インクジェット記録用水系インクとして好適に用いられる。
本発明の水系インクに含まれる着色剤の含有量は、水系インクの画像濃度を向上させる観点から、水系インク中で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
本発明の水系インクに含まれるポリエステル系樹脂粒子(A)の含有量は、水系インクの吐出性、記録媒体への定着性及び印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、水系インク中で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
本発明の水系インクに含まれる水の含有量は、水系インクの吐出性を良好にする観点から、水系インク中で、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
本発明の水系インクに含まれるポリエステル系樹脂粒子(A)に対する着色剤の質量比〔着色剤/ポリエステル系樹脂粒子(A)〕は、水系インクの吐出性を良好にする観点、及び印刷画像の耐熱性を向上させる観点から、水系インク中で、好ましくは20/80〜70/30、より好ましくは30/70〜60/40、更に好ましくは40/60〜50/50、より更に好ましくは40/60〜48/52である。
【0079】
本発明の水系インクには、有機溶媒、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。
有機溶媒としては、前記の炭素数1以上3以下のアルキル基を有するジアルキルケトンの他に、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、アセチレングリコール等の多価アルコール、2−ピロリドン等のピロリドン、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のグリコールエーテルが好ましく、これらを2つ以上併用することがより好ましい。
本発明で用いることができる有機溶媒の含有量は、水系インクの吐出性を良好にする観点から、水系インク中で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0080】
本発明で用いることができる界面活性剤の含有量は、水系インクの吐出性を良好にする観点から、水系インク中で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
前述した本発明の水系インクは、印刷画像の耐熱性に優れるため、例えば、後述するインクジェット記録方法に用いることで、印刷画像の耐熱性をより向上させることができる。
【0081】
[水系インクの製造方法]
本発明の水系インクは、下記工程(1)〜(3)を経ることによって好適に製造することができる。
工程(1):前記非晶質ポリエステル樹脂を調製し、該非晶質ポリエステル樹脂を水性媒体と混合して、非晶質ポリエステル樹脂の水性分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた非晶質ポリエステル樹脂の水性分散液に、付加重合性モノマーを添加し、重合してグラフトポリマーを得ることにより、ポリエステル系樹脂粒子(A)の水性分散液を得る工程
工程(3):工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)の水性分散液と、着色剤を含有する水性分散液とを混合し、水系インクを得る工程
【0082】
<工程(1)及び工程(2)>
工程(1)及び工程(2)は、前述したとおりである。
【0083】
<工程(3)>
工程(3)では、工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)の水性分散液と、着色剤を含有する水性分散液と、必要に応じて前述した任意成分とを混合する。次に、工程(3)の好適例を説明する。
先ず、イオン交換水等の水と、必要に応じて任意成分である有機溶媒及び各種添加剤の少なくとも1種とを混合し、必要に応じて撹拌して、混合溶液を得る。
次いで、この混合液を、着色剤を含有する水性分散液に混合し、更に工程(2)で得られたポリエステル系樹脂粒子(A)の水性分散液を滴下しながら撹拌混合し、その後、必要に応じてフィルター等で濾過することにより、水系インクを好適に得ることができる。
【0084】
[インクジェット記録方法]
本発明の水系インクは、以下のインクジェット記録方法によって好適に印刷される。
すなわち、実施の形態に係るインクジェット記録方法は、前述の水系インクをインクジェット記録方式で樹脂製記録媒体に付着させた後、該樹脂製記録媒体を好ましくは40℃以上120℃以下で加熱する、インクジェット記録方法である。
なお、水系インクの詳細は、前述したとおりであるため、省略する。
【実施例】
【0085】
以下に実施例等により、本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例等においては、各物性は次の方法により測定した。なお、「部」及び「%」は特記しない限り、「質量部」及び「質量%」である。
【0086】
[ポリエステル樹脂の酸価]
JIS K0070に従って測定した。但し、測定溶媒をアセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))とした。
【0087】
[ポリエステル樹脂の軟化点]
フローテスター「CFT−500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0088】
[ポリエステル樹脂のガラス転移温度、吸熱の最大ピーク温度、及び結晶性指数]
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、測定用サンプルを調製した。その後、昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最大ピーク温度を測定した。また、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
また、〔軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃)〕により、結晶性指数を求めた。
【0089】
[ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)]
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、数平均分子量を求めた。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに、25℃で溶解させ、次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター「DISMIC−25JP」(ADVANTEC社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)測定
以下の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、1mL/minの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させ、そこに試料溶液100μLを注入して分子量を測定した。試料の分子量(Mw、Mn)は、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製、製品名:「TSKgel標準ポリスチレン」;タイプ名(Mw):A-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として、あらかじめ作成した検量線に基づき算出した。
測定装置:HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー株式会社製)
【0090】
[水性分散液中の樹脂粒子の体積平均粒径(D)]
動的光散乱型粒径測定機「ZETASIZER NANO ZS」(マルバーン社製)を用いて、以下の条件で体積平均粒径(D)を測定した。
固形分濃度:0.1質量%
測定温度:25℃
媒質:水
測定用セル:Glass Cuvette
レーザー仕様:He−Ne、4mW,633nm
検出光学系:NIBS、173℃
測定回数:10回
等温化時間:5分
解析ソフト:Zeta Sizer Software 6.2
解析方法:General Purpose Mode(キュムラント法)
【0091】
[水性分散液中の樹脂粒子のガラス転移温度]
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、水性分散液(固形分30質量%)0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、10℃から95℃まで昇温速度1℃/分でモジュレーティッドモードにて測定した。リバースヒートフローの吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0092】
[樹脂粒子の水性分散液の固形分濃度]
赤外線水分計「FD−230」(ケツト科学研究所社製)を用いて、水性分散液5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、水性分散液の水分(質量%)を測定した。固形分濃度は次の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100−水分(質量%)
【0093】
[水不溶性ポリマー(アニオン性ポリマー)の重量平均分子量]
以下の測定装置と分析カラムを用い、N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定した。標準物質としては、ポリスチレン「A−500」「A−2500」「F−1」「F−10」(以上、いずれも東ソー株式会社製)を用いた。試料はN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し固形分0.3質量%の溶液とした。
(測定条件)
測定装置:HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)
分析カラム:「TSK−GEL α−M」×2本(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
流速:1mL/min
【0094】
[着色剤(顔料)を含有するポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の水性分散液の固形分濃度]
30mLのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0095】
[着色剤(顔料)を含有するポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の体積平均粒径(D)]
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定する粒子の濃度を、約5×10−3質量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0096】
[耐熱性の評価]
ポリエステル系樹脂粒子の水性分散液又は水系インク1.0gをPETフィルム「ルミラー75T60」(東レ株式会社製)に卓上コーター「ModelTC−1」(三井電気精機株式会社製)のNo.20のワイヤーバーにて塗工し、100℃の乾燥機にて20分乾燥し、25℃50%の環境室にて1日静置した後、2cm×5cmの大きさ2枚を切り取った。この2枚を、塗工面同士を合わせた状態でガラスプレートに挟み、20gの荷重をかけ、100℃の恒温槽内に1時間静置した。その後、室温(20℃)にて1日静置した。貼り合せた面を剥がし、その塗工面の剥離面積を目視により次の4段階で評価した。剥離面積が小さいほど耐熱性に優れる。
(評価基準)
剥離面積0%:◎
剥離面積0%より大きく10%以下:○
剥離面積10%より大きく30%未満:△
剥離面積30%以上:×
【0097】
製造例1〜5
(非晶質ポリエステル樹脂P1〜P5の製造)
表1に示す原料モノマー、エステル化触媒としてジ(2−エチルヘキサン酸)スズ、及び重合禁止剤としてターシャリーブチルカテコールを、窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、185℃まで昇温した。次いで、210℃まで5時間かけて昇温した後、8.0kPaにて、所望の軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステル樹脂P1〜P5を得た。
得られた非晶質ポリエステル樹脂の物性等を表1に示す。
【0098】
製造例6
(結晶性ポリエステル樹脂P6の製造)
表1に示す原料モノマー、エステル化触媒としてジ(2−エチルヘキサン酸)スズを、窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、150℃まで昇温し、12時間反応させた。次に180℃まで昇温し、8.3kPaにて1時間反応させて結晶性ポリエステル樹脂P6を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂P6の物性等を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
製造例7〜11
(非晶質ポリエステル樹脂粒子の水性分散液a〜eの製造)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌機(「スリーワンモーターBL300」(新東科学株式会社製))、及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、表2に示す種類の非晶質ポリエステル樹脂200gを入れ、30℃でメチルエチルケトン200gと混合し溶解させた。次いで、表2に示す量の5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して30分撹拌後、30℃で撹拌下、20mL/minの速度で脱イオン水を滴下し、60℃に昇温した。次いで60℃にて、80kPa〜30kPaに段階的に減圧していきながらメチルエチルケトンを留去した。25℃まで冷却後、150メッシュの金網で濾過し、非晶質ポリエステル樹脂粒子の水性分散液を得た。
得られた水性分散液の物性を表2に示す。
【0101】
製造例12
(結晶性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液fの製造)
製造例7において、非晶質ポリエステル樹脂200gを結晶性ポリエステル樹脂P6 200gに、メチルエチルケトンをテトラヒドロフランに変更した以外は、製造例7と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂粒子の水性分散液を得た。
得られた水性分散液の物性を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
製造例13〜36
(ポリエステル系樹脂粒子を含む水性分散液G1〜G24の製造)
窒素導入管、還流冷却管、滴下ロート、撹拌器及び熱電対を装備した内容積2リットルの四つ口フラスコに、表3に示す種類及び量のポリエステル樹脂粒子の水性分散液と付加重合性モノマーを入れ、30分間撹拌を行った。次に、窒素気流下、表3に示す量の過硫酸ナトリウムを加え、80℃で6時間反応させた。その後、減圧して残留した付加重合性モノマーを水とともに取り除いた。室温まで冷却し、200メッシュの金網で濾過し、イオン交換水にて固形分30質量%に調整し、ポリエステル系樹脂粒子を含む水性分散液を得た。
ただし、製造例13、17、21、25、33及び35では、ポリエステル樹脂粒子の水性分散液a、b、c、d、e、及びfを、そのままポリエステル系樹脂粒子を含む水性分散液G1、G5、G9、G13、G21、及びG23として用いた。得られたポリエステル系樹脂粒子の物性の測定結果を表3に示す。
【0104】
製造例37
(着色剤(顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子の水性分散液の製造)
(1)水不溶性ポリマー(アニオン性ポリマー)の合成
ベンジルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製)399部、メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)91部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート「M−230G」(新中村化学工業株式会社製、オキシエチレン基の平均付加モル数23)140部、スチレンマクロマー「AS−6S」(東亞合成株式会社製、固形分50%)140部を混合し、モノマー混合液(770部)を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン15.75部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.350部、前記モノマー混合液の10%(77部)を入れて混合し、窒素ガス置換を行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の80%(616部)と前記重合連鎖移動剤2.45部とメチルエチルケトン173.25部及び重合開始剤「V−65」(和光純薬工業株式会社製、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))5.6部を混合したものを入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を撹拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を4.5時間かけて滴下した。その後モノマー混合液の残り10%(77部)と前記重合連鎖移動剤0.7部とメチルエチルケトン126部及び前記重合開始剤1.4部を混合したものを2段目滴下として75℃、1.7時間かけて滴下した。
滴下終了後、前記開始剤2.1部を混合し80℃まで昇温し、1.5時間撹拌した。この開始剤の混合、昇温及び撹拌操作を更に2回行なうことでポリマー溶液(ポリマー重量平均分子量:26000)を得た。
【0105】
(2)着色剤(顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の水性分散液の製造
前記(1)で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー20部をメチルエチルケトン62.8部に溶解し、その中に、5N水酸化ナトリウム水溶液5.01部、25%アンモニア水1.13部、及びイオン交換水236.5部を加え、10〜15℃でディスパー翼を用いて2000rpmで15分間撹拌混合を行なった。続いてマゼンタ顔料:PV19「Inkjet Magenta E5B02」(クラリアントジャパン株式会社製)45部及びPR122「6111T」(大日精化工業株式会社製)25部を加え、10〜15℃でディスパー翼を用いて7000rpmで3時間撹拌混合した。得られた分散液を200メッシュの金網で濾過し、マイクロフルイダイザー「M−110K」(Microfluidics社製、高圧ホモジナイザー)を用いて、150MPaの圧力で20パス分散処理した。
得られた分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分を孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製)で濾過して粗大粒子を除いた。さらにこの分散液80部にプロキセルXL2(アビシア社製)0.2部、及びイオン交換水19.8部を混合し、70℃で1時間の滅菌処理を行なったのち、25℃まで冷却し、前記孔径5μmのフィルターで濾過することで、着色剤(顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有アニオン性ポリマー粒子)の水性分散液〔固形分濃度20質量%、体積平均粒径133nm〕を得た。
【0106】
実施例1〜13及び比較例1〜11
(水系インクの製造)
100mLスクリュー管にプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)20.0部、1,2−ブタンジオール(和光純薬工業株式会社製)10.0部、濡れ剤(製品名:「オルフィンE1010」(オルフィンは登録商標)、有効成分:アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業株式会社製)1.0部、及びイオン交換水26.6部を混合し、マグネチック・スターラーを用いて室温で15分間撹拌して、混合溶液を得た。
次に製造例37で得られた顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水性分散液25.7部(顔料分換算4.0部(水系インク100部中))をマグネチック・スターラーで撹拌しながら、前記混合溶液を混合し、さらに表3に示すポリエステル系樹脂粒子の水性分散液16.7部(固形分換算5.0部(水系インク100部中))をスポイトで滴下しながら撹拌混合した。最後に孔径1.2μmのフィルターで濾過し、水系インクを得た。得られた水系インクの評価結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3の結果から、実施例のポリエステル系樹脂粒子及び水系インクは、比較例のポリエステル系樹脂粒子及び水系インクに比べて、印刷画像(塗工物)の耐熱性に優れることがわかる。
【0109】
実施例14
インクジェットプリンター「IPSiO GX 2500」(株式会社リコー製、ピエゾ方式)に実施例3の水系インクを充填し、A4サイズにカットしたPETフィルム「ルミラー75T60」(東レ株式会社製)に「光沢紙、きれい、カラーマッチングしない」の条件にて、A4ベタ画像を印刷した。100℃の乾燥機にて20分乾燥し、室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置した後、耐熱性を評価したところ、前記実施例3の評価同様の性能を発現することが確認された。