【実施例】
【0115】
X.実施例
次の実施例は本発明の好ましい実施形態を示すために含まれている。当業者は、これに続く実施例において開示される技術は本発明の実施においてよく機能すると発明者により発見された技術であり、したがって、本発明の実施の好ましい形態を構成すると考えられ得ることを理解すべきである。しかしながら、当業者は本開示に照らして、多くの変更を本発明の精神と範囲から逸脱することなく開示されている特定の実施形態に実行することができ、それでも同様または類似の結果を得ることができることを理解するべきである。
【0116】
(実施例1)
本実施形態の方法
図1は未分化幹細胞よりナチュラルキラー細胞を作製するための方法の実施形態の流れ図(100)を示す。方法(100)は未分化hESCまたはiPSCなどの未分化幹細胞を使用する。その方法は、第1無血清培地の中に未分化幹細胞を配置すること(102)、遠心凝集により、第1無血清培地の中で未分化幹細胞を凝集させ(104)、且つ遠心EBを形成すること、遠心EBから前駆細胞の産生を誘導するために第1無血清培地の中で遠心EBを培養すること(106)、および前駆細胞よりナチュラルキラー細胞を作製するための第2無血清培地の中で前駆細胞を培養すること(108)を含む。
【0117】
図2は前記の方法の流れ図(100)をなぞる、流れ図(100)を2段階、すなわち、(202)と(204)に分割する概略図を示す。ステージI(202)では造血前駆細胞が遠心EB(206)とその後の培養プロセス(208)によりhESCまたはiPSCから作製される。細胞のステージ1からステージ2への直接移転(210)の後にステージ2(204)においてNK細胞が作製される(212)。
【0118】
図3は、より凝集しやすい未分化幹細胞を作製するために細胞の分化を促進する前に未分化幹細胞(hESCまたはiPSC)を調製する(302)方法(300)の実施形態を示す。それらの幹細胞は、TrypLE Select(インビトロジェン社)中の幹細胞を低密度マウス胚様体線維芽細胞(例えば、90,000細胞/ウェルのMEF)上で最少でも10継代の間継代させることにより調製され得る(302)。iPSCについてはUCB由来CD34
+造血前駆細胞から得られたUCBiP7株を使用することができる。TypLE適応hESCまたはiPSCを作製し、60%〜70%辺りの集密度の培養物を解離させ、70ミクロンの滅菌フィルターに通すことができる。どのような分化の兆候も欠く純粋なhESCの培養物だけを使用することが好ましい。それらの細胞を通常hESC培地の中で低密度MEFと1:1で、細胞増殖によって好ましくは10継代目で起きる、より希釈された比率での継代が可能になるまで継代することができる。遠心EBになるTrypLE通過hESCを樹立するために約70%の集密度の適応した細胞をTrypLEで解離させ、70μmのフィルターに通してあらゆる集塊を取り除く。調製ステップ(302)を除いて
図3に示されるステップの残りは
図2に示されるステップと実質的に同じである。よって、対応するステップは同じ参照文字を使用して特定化される。
図3はフローサイトメトリーによって実施された第11日の後の細胞分化の分析(304)を示し、前駆細胞がCD34とCD45を発現することを示す。
【0119】
前記の方法は第1無血清培地の中に未分化幹細胞を配置すること(102)を含む。第1無血清培地は、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、増殖因子、コロニー刺激因子、細胞結合タンパク質、またはそれらのあらゆる組合せを含むが、これらに限定されないナチュラルキラー細胞誘導性増殖因子を含む。第1無血清培地はSCF複合体、骨形成タンパク質4(BMP4)、および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を含み得る。例えば、幹細胞を、丸底96ウェルプレートのウェル当たり幹細胞因子(SCF、40ng/ml)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF、20ng/ml)、および骨形成タンパク質4(BMP4、20ng/ml)を含有するBPEL培地中に3000細胞の濃度(100μlの体積)で第1無血清培地の中に入れることができる(102)。BPEL培地は200mLの体積で作製され得、且つ、イスコブの改変ダルベッコ培地(IMDM、86mL、インビトロジェン社)、Glutamx I含有F12栄養混合物(86mL、インビトロジェン社)、10%の脱イオン化ウシ血清アルブミン(BSA、5mL、シグマ社)、5%ポリビニルアルコール(10mL、シグマ社)、リノール酸(1mg/mL溶液の20uL、シグマ社)、リノレン酸(1mg/mL溶液の20uL、シグマ社)、シンセコール500倍溶液(シグマ社)、α−モノチオグリセラル(シグマ社)、無タンパク質ハイブリドーマ混合物II(インビトロジェン社)、アスコルビン酸(5mg/mL、シグマ社)、Glutamax I(インビトロジェン社)、インスリン‐トランスフェリン‐セレニウム100倍溶液(インビトロジェン社)、ペニシリン/ストレプトマイシン(インビトロジェン社)を含有し得る。その後、プレートの外側のウェルを滅菌水で満たして培地の蒸発を防ぐ。
【0120】
前記の方法は遠心凝集により第1無血清培地の中で未分化幹細胞を凝集させ(104)、且つ遠心EBを形成することを含む。遠心凝集はマウス間質を使用することが無い血液細胞分化のための遠心胚様体(遠心EB)プロトコルを用いる。マウス間質を使用することなく分化を誘導するための遠心EBプロセスが類似の結果を達成すること、およびそのプロセスはマウス間質を使用するプロセスよりも効率的であることが発見されている。それらの細胞は、第1無血清培地の中で未分化細胞を凝集させ、且つ、遠心EBを形成するために凝集させられる(104)。例えば、それらの細胞と培地を含有するプレートを室温で1,500RPM、5分間遠心して凝集させ、5%CO
2を含む37℃の恒温器に設置する。
【0121】
前記の方法は遠心EBから前駆細胞の産生を誘導するために第1無血清培地の中で遠心EBを培養すること(106)をさらに含む。その方法の実施形態はM210−B4マウス間質の非存在下で実施される胚様体を培養するステップ(106)を含む。その方法の別の実施形態はあらゆるマウス間質の非存在下で実施される胚様体を培養するステップ(106)を含む。培養ステップ(106)の間にプレートの中での遠心EBの形成を確実にするためにそれらの細胞を第1無血清培地から少なくとも3日間取り出さないことが好ましい。遠心EB分化は8〜11日間、または9〜12日間、または好ましくは11日間のこれらの条件下で促進される。
【0122】
図4Aは第7日の後(402)、第9日の後(404)、および第11日の後(406)の細胞分化の結果を示す。前記の方法は、CD34を発現するCD34
+細胞、CD34とCD43を共発現するCD34
+CD43
+細胞、および/またはCD34とCD45を共発現するCD34
+CD45
+細胞を含む前駆細胞を作製する。
図4Bはフローサイトメトリーによって実施された細胞分化の分析を示す。フローサイトメトリーは次の抗体:全てベクトン・ディッキンソン社から入手することができるCD34−APC、CD45−PE、CD31−PE、CD31−APC、CD−73PE、CD43−PE、NKp46−PE、NKp44−PE、CD56−APC、CD16−PercpCy5.5、CD117−PercpCy5.5、ベックマン・コールター社より入手することができるCD158a/h−PE、CD158j−PE、CD158i−PE、CD158e1/e2、CD159a−PEおよびCD159a−APC、eBioscince社から入手することができるCD107aPercpCy5.5およびINF−γ PacBlueを使用して実施され得る。フローサイトメトリーはBD FACS CaliburまたはLSRIIで実行され得、FlowJo(ツリースター社)を使用してデータ解析され得る。
図4Bは、例えば、CD34を発現するhESC由来造血細胞(55.9±6.4%)を示し、多くがCD43(41.8±9.51%)またはCD45(26.2±6.6%)を共発現する。
図4BはCD34(12.06±5.40%)およびCD45(3.20±1.43%)を発現するiPSC由来造血細胞も示す。
図4CはCD34のみを発現する遠心EBの一例とCD45、CD43、CD31、およびCD73とのCD34の共発現のパーセンテージを示す。
【0123】
遠心EB分化を誘導するための細胞の培養(106)から8〜11日後、または9〜12日後、または好ましくは11日後にウェルプレートを別のウェルに直接移して前駆細胞からナチュラルキラー細胞を作製するための第2無血清培地の中での培養(108)を開始することができる。その方法は、遠心EBの培養ステップと前駆細胞の培養ステップの間に前駆細胞が発現する糖タンパク質に基づいて前駆細胞を選別するための細胞選別の必要性を除外する。
図4Dに示されるように、得られたNK細胞はKIR、CD16、NKG2D、NKp46、およびアポトーシス誘導リガンドTRAILを含む様々なエフェクター分子を発現することもできる。
【0124】
第2無血清培地は、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、増殖因子、コロニー刺激因子、細胞結合タンパク質、またはそれらのあらゆる組合せを含むが、これらに限定されないNK細胞惹起増殖因子を含む。例えば、第2無血清培地はSCF複合体、VEGF、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン6(IL6)、トロンボポエチン(TPO)、およびエリスロポエチン(EPO)を含み得る。例えば、第2無血清培地はIL3、インターロイキン7(IL7)、インターロイキン15(IL15)、SCF複合体、およびFms関連チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)を含み得る。未分化幹細胞よりナチュラルキラー細胞を作製するための方法の実施形態では、第2無血清培地の中で前駆細胞を培養するステップは外来性間質細胞が存在しない状態にある。未分化幹細胞よりナチュラルキラー細胞を作製するための方法の実施形態では、第2無血清培地の中で前駆細胞を培養するステップはEL08−1D2外来性間質細胞が存在しない状態にある。例えば、上記の例の遠心EB分化の96ウェルプレートの6ウェルを、サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、増殖因子、コロニー刺激因子、細胞結合タンパク質、またはそれらのあらゆる組合せを含むが、これらに限定されないNK細胞惹起増殖因子の24ウェルプレートの1つのウェルに直接移すことができる。それらの24ウェルプレートはウェル当たり100,000個の放射線照射(3000rad)EL08−1D2細胞を含有することができる。6ウェルの遠心EBを未被覆24ウェルプレートに直接移すことができる。その方法により、CD56、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)、CD16、NKp44、NKp46、およびNKG2Dを発現するナチュラルキラー細胞が作製される。
【0125】
培養ステップ(108)は約4週間かかることがあり得る。直接移転(培養ステップ(108)の開始)後から最初の2週間の内にEL08−1D2間質を用いて観察されるものと同様のレベルで遠心EBから非接着性造血細胞の増殖が存在する。なお、培養ステップ(108)は細胞にそれら自体の接着性細胞を培養下で産生させる。言い換えると、遠心EB細胞は外来性間質細胞が存在しない状態でそれら自体の遠心EB間質細胞層を培養物中に産生する。遠心EB間質細胞層はMHCクラスI分子(HLA−ABCおよびHLA−E)に加えて高レベルのCD31およびCD73を発現し、それらはNK細胞の発生とキラー免疫グロブリン様受容体10の獲得に重要である。なお、遠心EB間質細胞はUCB由来CD34
+細胞からのNK細胞の発生も支援する。これらの限定条件を用いて培養物はEL08−1D2間質細胞を利用する条件と類似するNK細胞を含有する。これらの細胞は成熟NK細胞表現型を発現し、且つ、それらの間質由来の相対物と全く同程度に細胞傷害性を有する。これらの細胞はサイトカインIFN‐γを分泌することもできる。これらのデータは、あらゆる選別またはマウス間質細胞の支援も無い状態での機能的細胞傷害性リンパ球のインビトロ誘導の成功を示す。異種フィーダー層が無いので、これはNK細胞の育成、ならびに養子免疫療法のための1つの明確なヒト供給源を研究するための遺伝子操作可能な系を提供する。
【0126】
NK細胞が発生した後にそれらのNK細胞を人工抗原提示細胞(aAPC)とさらに共培養してNK細胞をさらに増殖させることができる。
図5は未分化幹細胞よりナチュラルキラー細胞を作製するための方法の別の実施形態の流れ図(500)を示す。流れ図(500)は
図1に示されるステップ(102)、(104)、(106)、(108)と類似のステップ(502)、(504)、(506)、(508)を示す。流れ図(500)は、第1無血清培地の中に未分化幹細胞を配置すること(502)、遠心凝集により、第1無血清培地の中で未分化幹細胞を凝集させ(504)且つ遠心EBを形成すること、遠心EBから前駆細胞の産生を誘導するために第1無血清培地の中で遠心EBを培養すること(506)、前駆細胞からナチュラルキラー細胞を作製するために第2無血清培地の中で前駆細胞を培養すること(508)、放射線照射aAPCを作製するために放射線で人工抗原提示細胞(aAPC)を照射すること(510)、およびナチュラルキラー細胞を放射線照射aAPCと共培養すること(512)を示す。共培養培地はインターロイキン2(IL−2)を含むこともできる。本方法の実施形態では、共培養ステップは1:1の放射線照射aAPCに対するナチュラルキラー細胞の比率を有する。
【0127】
クローン9.mbIL−21を使用してaAPCは得られたNK細胞のさらに2〜3倍の対数増加を引き起こすことができる。それらのaAPC増殖細胞はそれらのNK細胞表現型ならびにインビトロ活性を維持する。これらのhESC由来NK細胞は2か月よりも長い期間に培養下で維持され得、断続的に増殖させられ得る。
【0128】
図6Aは人工抗原提示細胞(aAPC)を用いるNK細胞増殖を示す。aAPCと1×10
6個のhESC由来NK細胞を含有する培養物を第10日、第21日、第49日および第70日にNK細胞の増殖について評価した(第10日と第21日:n=4、第49日と第70日:n=2)。
図6BはNK細胞培養物について3週間の増殖の後の分析を示し、その分析はNK細胞が増殖前の表現型を維持し、且つ、比較対象の増殖済みPB−NK細胞に類似していることを示す。各細胞培養物はCD94
+CD117
−のままであるCD56
+NK細胞の純粋培養物を含有することができる。各細胞培養物は高レベルのKIR、CD16およびNKG2Aを発現することができ、わずかなパーセンテージな細胞しかNKG2Cを発現しない(n=3)。
図6Cは、増殖したNK細胞がK562標的に対する標準
51クロム放出細胞傷害アッセイにおいて試験されると(それぞれに対してn=3)、癌細胞を殺滅するそれらのインビトロ機能を維持していることを示す。さらに、hESC由来NK細胞およびiPSC由来NK細胞がHIV感染細胞を殺滅することが研究から示されている。
【0129】
この系の効率の改善と成分の明確化によってhESC/iPSC由来細胞の臨床応用が実現可能になる。現在のNK細胞ベースの養子免疫療法はキログラム当たり約2×10
7細胞からなるNK細胞含有製品(〜50%のNK細胞)を使用する。
図1に示される工程は約13×10
6個の未分化hESCまたはiPSCからこの数のNK細胞を提供することができる。
図5に示されるように、aAPC共培養プロセスを付け加えることにより、患者当たり10
6個未満の未分化hESC/iPSCしか現行のNK細胞用量で必要とされない。
【0130】
比較として、hESCおよびiPSCからのNK細胞の作製は造血系分化を支援するマウス間質との共培養を必要とする方法によって実施され得る。
図7の流れ図(700)はM210−B4を使用する間質細胞共培養による造血系分化(702)の比較的方法を示す。未分化hESCまたはiPSCを胎児ウシ血清(FBS)中で14〜24日間、および好ましくは21日間共培養する。これらの条件下でCD34
+細胞および/またはCD34
+CD45
+細胞を含む造血前駆細胞をhESCまたはiPSCから発生させることができる(フローサイトメトリーによる分析(704)によって示される)。その後、この比較的方法において、CD34
+細胞および/またはCD34
+CD45
+細胞を他の培養細胞から陽性選別するために細胞選別(706)が実施されなければならない。細胞選別(706)は磁気選別または蛍光活性化細胞選別(FACS)によって実施され得る。その後、選別されたCD34
+細胞および/またはCD34
+CD45
+細胞を、CD34
+CD45
+細胞からのNK細胞の発生のために(サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、増殖因子、コロニー刺激因子、細胞結合タンパク質、またはそれらのあらゆる組合せを含むが、これらに限定されない)ナチュラルキラー細胞誘導性増殖因子を用いるNK細胞発生条件においてEL08−1D2細胞を用いる間質細胞共培養(708)に移す。約4〜5週間の後に成熟NK細胞が通常発生する。
【0131】
図8A〜8Cは
図7に開示される方法を使用することによりhESCおよびiPSCから生じたNK細胞の特性の例を示す。2つの異なるhESC株(H1およびH9)および3つの異なるiPSC株(BJ1−iPS12、UCBiPS7、およびDRiPS16)が示されている。
図8Aはそれらの幹細胞株のそれぞれについて各細胞株のCD34とCD45の発現を示す。
図8Bはそれらの細胞株のそれぞれの34/45発現比率のパーセントを示す。
図8Cはそれらの細胞株から得られたNK細胞(PB−NK、UCB−NK、UCB−iPS7−NK、DRiPS16−NK、H9−NK、H1−NK)の腫瘍標的に対する細胞傷害性を示す。
【0132】
癌細胞を殺滅するための方法は上で開示されたNK細胞を作製するための方法を含み、NK細胞を取り出し、且つ、NK細胞を癌細胞に送達することをさらに含む。送達ステップは、動物またはヒトの循環系へのNK細胞の静脈内注射によることがあり得る。あるいは、NK細胞は腹腔内注射されるか、癌細胞に直接、または癌細胞の近傍へ注射されることがあり得るだろう。
図9は細胞傷害性比較分析の結果を示す。細胞傷害性比較分析ではルシフェラーゼ標識白血病癌細胞株をマウスに注射した。3日後にそれらのマウスのうちの1匹を臍帯血(UCB)由来NK細胞で処置し、別のマウスをhESC−NK細胞で処置した。
図9は対照マウス(902)、UCB由来NK細胞を受領したマウス(904)、およびhESC−NK細胞を受領したマウス(906)の間の細胞傷害性比較の結果を示す。21日後には非注射対照(902)における癌細胞はマウス全体に広がった。UCB由来NK細胞はマウス(904)においてある程度まで増殖を抑制することができた。hESC−NK細胞はマウス(906)において癌細胞を排除した。これらの結果は癌細胞を急速に効率的に排除するhESC−NK細胞の能力を示す。したがって、hESC−NK細胞とiPSC−NK細胞は直接細胞介在性細胞傷害と抗体依存的細胞性細胞傷害性の両方によりヒト腫瘍細胞を溶解することができる。さらに、活性化hESC−NK細胞およびiPSC−NK細胞はサイトカイン産生を上方制御する。よって、hESC−NK細胞は新規の臨床治療法のための抗腫瘍リンパ球の「普遍的」供給源として役立つことができるだろう。さらに、iPSC−NK細胞はhESC−NK細胞と同程度に癌細胞を急速に効率的に排除する類似の能力を有する。iPSC−NK細胞は癌細胞の殺滅のために上に開示された方法を使用して患者に特有の基盤より効率的に得ることができることが期待される。
【0133】
(実施例2)
癌治療のためのヒト多能性幹細胞からのナチュラルキラー細胞の臨床規模の誘導
hESC/iPSCの維持と間質細胞介在性分化
hESC(H9およびH1)およびiPSC(UCBiPS7、NHDF−iPS、BJ1−iPS)をマウス胚性線維芽細胞(MEF)上で維持した。M210−B4細胞(アメリカ培養細胞系統保存機関、マナサス、バージニア州)上での造血前駆細胞の間質細胞介在性分化を以前に記述されたように(Hill et al., 2010、Tian et al., 2009、Woll et al., 2009)実行した。簡単に説明すると、未分化hESCまたはiPSCを、RPMI1640(インビトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)、15%の限定胎児ウシ血清(FBS)(ハイクローン社、ローガン、ユタ州)、2mMのL−グルタミン(セルグロ(Cellgro)社、マナサス、バージニア州)、1%の非必須アミノ酸(インビトロジェン社)、1%のペニシリン/ストレプトマイシン(インビトロジェン社)、および0.1mMのβ‐メルカプトエタノール(インビトロジェン社)を含有する培地中でM210−B4上に配置した。培地を週に3回交換し、18〜21日後にCD34
+CD45
+前駆細胞濃縮(Woll et al., 2009)のために細胞を回収した。100,000個のCD34
+CD45
+細胞を1mLのNK細胞惹起サイトカイン(インターロイキン[IL]−3、IL−7、IL−15、幹細胞因子[SCF]、fms様チロシンキナーゼ受容体−3リガンド[FLT3L]、全てニュージャージー州、ロッキーヒルのペプロテック社より)と共にEL08−1D2間質上に配置した。NK細胞培養物には4〜5日毎に0.5mLのサイトカイン含有培地が注がれた。成熟NK細胞をEL08−1D2上での培養から28〜35日の時点で測定した。
【0134】
遠心EBの作製
凝集しやすい遠心EBを作製するためにhESCおよびiPSCを低密度MEF(例えば、90,000細胞/ウェル)上のTrypLE Select(インビトロジェン社)中において最少でも10継代の間継代させた。遠心EB試験について、発明者らは将来のインビボ実験のために緑色蛍光タンパク質/ホタルルシフェラーゼコンストラクト(Tian et al., 2009) で改変されたH9株を使用した。iPSCについて、発明者らは臍帯血(UCB)CD34
+造血前駆細胞に由来するUCBiP7株を試験した。TypLE適応hESCまたはiPSCを作製するため、約60%〜70%集密状態の培養物を解離させ、70μmの滅菌フィルターに通した。どのような分化の兆候も欠く純粋なhESCの培養物だけを使用した。細胞を通常hESC培地の中で低密度MEFと1:1で、細胞増殖によって通常10継代目辺りで起きる、より希釈された比率での継代が可能になるまで継代した。ステージIの遠心EBになるTrypLE通過hESCを樹立するために約70%の集密度の適応した細胞をTrypLEで解離させ、70μmのフィルターに通してあらゆる集塊を取り除いた。その後、細胞を計数し、丸底96ウェルプレートのウェル当たりSCF(40ng/ml)、血管内皮細胞増殖因子(20ng/ml)、および骨形成タンパク質4(20ng/ml)を含有するBPEL(ウシ血清アルブミンポリビニルアルコール基本脂質)培地中に3000細胞の濃度(100μlの体積)で配置した。BPEL培地は200mlの体積で作製され、且つ、イスコブの改変ダルベッコ培地(86ml;インビトロジェン社)、GlutaMAX I含有F12栄養混合物(86ml;インビトロジェン社)、10%の脱イオン化ウシ血清アルブミン(5mL;シグマ・アルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)、5%ポリビニルアルコール(10ml;シグマ・アルドリッチ社)、リノール酸(1mg/ml溶液の20μL、シグマ・アルドリッチ社)、リノレン酸(1mg/ml溶液の20μL、シグマ・アルドリッチ社)、シンセコール500倍溶液(シグマ・アルドリッチ社)、α−モノチオグリセラル(シグマ・アルドリッチ社)、無タンパク質ハイブリドーマ混合物II(インビトロジェン社)、アスコルビン酸(5mg/ml、シグマ・アルドリッチ社)、GlutaMAX I(インビトロジェン社)、インスリン‐トランスフェリン‐セレニウム100倍溶液(インビトロジェン社)、ペニシリン/ストレプトマイシン(インビトロジェン社)を含有した。プレートの外側のウェルを滅菌水で満たして培地のあらゆる蒸発を防いだ。その後、プレートを室温で1,500RPM、5分間遠心して凝集させ、5%CO
2を含む37℃の恒温器内で平静に設置した。プレートの中での遠心EBの形成を確実にするために細胞を少なくとも3日間取り出さなかった。
【0135】
遠心EBからのNK細胞分化
遠心EB分化の11日目に96ウェルプレートの6ウェルを上記のNK細胞惹起増殖因子の24ウェルプレートの1つのウェルに直接移した。最初、それらの24ウェルプレートはウェル当たり100,000個の放射線照射(3000rad)EL08−1D2細胞を含有した。完全限定条件について、6ウェルの遠心EBを未被覆24ウェルプレートに直接移した。分析日に各ウェルを回収、濾過、および洗浄した。
【0136】
フローサイトメトリー
次の抗体を使用した:全てベクトン・ディッキンソン社(フランクリンレイクス、ニュージャージー州)からのCD34−APC、CD45−PE、CD31−PE、CD31−APC、CD−73PE、CD43−PE、NKp46−PE、NKp44−PE、CD56−APC、NKG2D−PE、TRAIL−PE、FASリガンド−PE、CD16−PercpCy5.5、およびCD117−PercpCy5.5、ベックマン・コールター社(フラートン、カリフォルニア州)から得たCD158a/h−PE、CD158j−PE、CD158i−PE、CD158e1/e2、およびCD159a−PEおよびCD159a−APC、eBioscience社(サンディエゴ、カリフォルニア州)から得たCD107aPercpCy5.5およびINF−γPacBlue。フローサイトメトリーはBD FACS CaliburまたはLSRII(BDバイオサイエンス社、サンディエゴ、カリフォルニア州)で実行され、データはFlowJo(ツリースター社、アシュランド、オレゴン州)を使用して解析された。
【0137】
遺伝子発現
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)のために全RNAがRNeasyミニキット(キアゲン社、バレンシア、カリフォルニア州)を使用して細胞から調製された。全RNAの単離に続いて相補性DNAがSuperscript III逆転写酵素(ライフテクノロジーズ社、グランドアイランド、ニューヨーク州)を使用して作製された。その後、RT−PCRがペルティア・サーマルサイクラー200を使用して表1に記載されるプライマーとサイクル数で生じたcDNAに対して実施された。アニーリング温度はOCT4を除く全てのプライマーについては55℃に設定され、OCT4は60℃のアニーリング温度を有した。その後、PCRの産物を電気泳動により0.9%アガロースゲルで分離した。
【表1】
【0138】
インビトロ細胞傷害
腫瘍標的(K562、SVP10、S2013、OPM2、RPMI8226、U266)をクロム51(
51Cr)と共に37℃で2時間保温し、3回洗浄し、表示されているエフェクター対標的(E:T)比率でNK細胞と共培養した。4時間の期間の後に細胞を回収し、分析した。特異的な
51Cr溶解が次の等式を使用して計算された:特異的溶解のパーセンテージ=100×(試験放出−自然放出)/(最大放出−自然放出)。リダイレクト抗体依存的細胞性細胞傷害(ADCC)アッセイについてP815標的を上記のように保温した。標的細胞へのNK細胞の添加の30分前にエフェクターをアイソタイプ対照(カタログ番号400153;バイオレジェンド社、サンディエゴ、カリフォルニア州)またはNKp46抗体(カタログ番号331904;バイオレジェンド社)のどちらかと保温した。5時間の保温の後に細胞を回収し、上記のように分析した。
【0139】
CD107aアッセイとIFNγアッセイ
NK細胞を1:1のエフェクター対標的比率でK562標的と共に、またはK562標的を含まずに保温した。CD107a−PerCPCy5.5抗体を各ウェルに添加し、1時間保温した。その後、GolgiStopとGolgiPlug(BDバイオサイエンス社)を各ウェルに添加し、さらに4時間保温した。保温の完了時に細胞を洗浄し、CD56APCで染色し、氷上において2%のパラホルムアルデヒドで10分間固定した。その後、細胞は1%のサポニンを4℃で20分間用いて透過処理され、洗浄され、IFNγについて染色された。
【0140】
間質細胞機能性アッセイ
NK細胞培養物の中で得られた間質に特徴的な内皮細胞と間葉系間質細胞(MSC)を評価するため、非接着性細胞を最初に洗い流し、その後、接着層をトリプシン処理し、洗浄した。細胞を内皮マーカー(CD31)およびMSCマーカー(CD73)、ならびに造血系マーカー(CD45)、単球/マクロファージマーカー(CD14、CD15)、および樹状細胞マーカー(CD11c)で染色した。NK細胞発生を支援する間質細胞層(EL08−1D2、ヒト臍静脈内皮細胞[HUVEC]、無フィーダー間質)のそれぞれの能力を評価するため、それぞれを24ウェルプレートのウェル当たり100,000細胞の割合で配置し、放射線照射した(3,000rad)。HUVECを以前に記載されたように培養した(Hill et al., 2010)。その後、各ウェルに臍帯血に由来する500個のCD34
+細胞を播種した。間質無しの条件はUCB由来CD34
+細胞と培地のみを含有した。その後、細胞を上記の標準NK細胞条件下で培養した。
【0141】
人工抗原提示細胞増殖
EL08−1D2またはフィーダー不使用条件からhESC由来NK細胞を増殖させるため、それぞれをクローン9.mbIL−21人工抗原提示細胞(aAPC) (Denman et al., 2012)との培養下に置いた。培養第1週の間にaAPCを10,000radで放射線照射し、2:1の比率でNK細胞に添加した(第0日)。その後のaAPCを用いる刺激(7日毎)では1:1の比率であった。培養物に週に3回栄養補給し(RPMI1640、15%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、50U/mlのインターロイキン−2)、最適な増殖のために細胞数を250,000細胞/mLに維持した。
【0142】
統計分析
群間の差異はPrism4(グラフパッド・ソフトウェア社、サンディエゴ、カリフォルニア州)を使用するスチューデントのt検定ポストホック分析またはANOVAを用いて比較された。結果は0.05以下のP値で有意であると見なされた。
【0143】
hESC由来造血前駆細胞およびiPSC由来造血前駆細胞はNK細胞に発生することができる。
初期の研究は2つの異なるhESC株(H1およびH9)および3つの異なるiPSC株(BJ1−iPS12、UCBiPS7、およびDRiPS16)の造血細胞とNK細胞の発生能を比較するために間質細胞共培養モデル (Ni et al., 2011、Woll et al., 2009、Woll et al., 2005) を使用した。UCBiPS7とDRiPS16を発明者らの研究室で得て、特徴解析した。この方法では、hESCまたはiPSCはFBSのみを含有する培地の中でM210−B4間質細胞上で培養される。3週間の期間にわたって全てのhESC株およびiPSC株はCD34とCD45を共発現する造血前駆細胞を産生した(
図8A、8B、および10)。H9細胞は最も高いパーセンテージのCD34とCD45を発現する造血前駆細胞(6.46±1.75%)を生じさせたが、他のhESC株およびiPSC株は一貫してより少ない数の造血前駆細胞を産出した:H1hESC株について1.45±0.18%、UCBiPS7株について2.46±1.71%、DRiPS16株について0.92±0.14%、およびBJ1−iPS株について1.43±0.35%(
図8B)。これらの数は、間質細胞ベースの系を使用する造血系発生の効率が比較的制限される(Choi et al., 2009、Ledran et al., 2008) 、発明者らおよび他の者が以前に示したものと類似している。様々なiPSC株が様々な数の造血前駆細胞を生じさせることを示した後で、我々はhESC/iPSC由来CD34
+CD45
+細胞集団のそれぞれからNK細胞を作製した。ここで、CD34
+CD45
+細胞を選別し、マウス間質細胞株EL08−1D2およびサイトカイン(SCF、FLT3L、IL−15、IL−7、IL−3) (Woll et al., 2009)を含むヒトNK細胞発生を支援することが知られている条件で4週間培養した。hESCまたはiPSCの別個の株が様々な頻度で造血前駆細胞を生じさせたが、各細胞株は表現型が成熟した機能性NK細胞を産生することができた。hESC由来NK細胞とiPSC由来NK細胞の両方はCD56、キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)、CD16、NKp44、NKp46、およびNKG2Dを発現する細胞の均一な集団からなる(
図10)。また、5種全てのhESC/iPSC集団に由来するNK細胞が、末梢血から単離されたNK細胞(PB−NK)と同様に腫瘍細胞を殺滅することができた(
図8C)。これらの結果は、個々のhESCおよびiPSCは造血前駆細胞を派生するそれらの能力に再現性がある差異を有するが、それぞれが成熟した細胞傷害性について活性があるNK細胞を作製することができることを示した。
【0144】
前駆細胞の作製強化はhPSC由来NK細胞の誘導において細胞選別を除外する。
hESCまたはiPSCからのNK細胞の誘導を仲介するために、および培養効率を改善するために必要とされる特定の刺激をより良く理解するための努力の中で、発明者らはこれらの方法を完全無フィーダーおよび無血清培養系に翻訳するための段階的アプローチをとった。まず、「遠心EB」方法 (Ng et al., 2008、Ng et al., 2005) を使用して造血前駆細胞を作製するために未分化hESCおよびiPSCを支援した。ここで、限定された数(3,000細胞)の未分化hESC(H9)またはiPSC(UCBiPS7)を96ウェル形式で無血清培地の中で遠心して凝集させた(
図2)。11日の期間にわたってこれらの培養物は造血細胞発生と増殖を示した(
図4A)。この方法はM210−B4マウス間質の必要性を取り除いただけではなく、発明者らはこの方法がhESCとiPSCの両方からの造血前駆細胞のより高頻度でより一貫した作製を可能にすることを見出した。hESCについて、発明者らは大部分の造血細胞がCD34を発現し(55.9±6.4%)、多くがCD43(41.8±9.51%)またはCD45(26.2±6.6%)を共発現することを見出した(
図4Bおよび4C)。iPSCはCD34
+細胞(12.06±5.40%)およびCD45
+細胞(3.20±1.43%)も産生したが、通常hESCよりも少なかった。この方法はhESCとiPSCの両方についてM210−B4間質ベースの系に対する著しい改善をもたらす(
図8A、8B、および10)。
【0145】
発明者らは次に遠心EB系において作製された造血前駆細胞のNK細胞を派生する能力を試験した。これを行うため、発明者らは解離または選別を行うことなくサイトカインおよびEL08−1D2間質を含有するNK細胞惹起条件に遠心EBを直接移した。以前に示されたように、このステージII培養系は4週間の期間にわたって信頼できるNK細胞の発生を提供する (Ni et al., 2011、Woll et al., 2009)。間質細胞共培養由来前駆細胞と同様に、遠心EB由来造血前駆細胞はついには成熟NK細胞表現型に至るNK細胞表面マーカーを獲得した(
図4D)。実際に、発明者らは遠心EB由来細胞が、CD117が存在しない状態でCD94を発現するCD56
+NK細胞の均一な集団に分化することを見出した(Woll et al., 2009)。なお、これらの細胞は高レベルのKIR、CD16、NKG2D、NKp46、およびTRAILを発現した。それらの細胞はNK細胞系列と一致する遺伝子発現プロファイルも有する。それらの細胞はID2、E2A、およびE4BP4を発現した(
図14)。それらの細胞はB細胞系列特異的転写因子PAX5を発現しなかった。また、親株と対照的にhESC由来NK細胞およびiPSC由来NK細胞は多能性因子OCT4を発現しなかった。遠心EB由来NK細胞(hESCとiPSCの両方に由来する)は正しい表現型と遺伝型を有するだけではなく、PB−NK細胞と同様のレベルでK562腫瘍細胞を殺滅し、且つ、UCB由来NK細胞よりも高い細胞傷害性を有した(
図11)。なお、発明者らはhESC由来NK細胞およびiPSC由来NK細胞に発現された活性化受容体であるNKp46により仲介される特異的な殺滅を示した。PB−NK細胞と同様に、hESC由来NK細胞およびiPSC由来NK細胞は逆ADCCアッセイによりP815標的を殺滅するように誘導され得た(
図15)。これらのデータは、遠心EBアプローチが多数の造血前駆細胞を作製するための無フィーダー系を提供するだけではなく、これらの前駆細胞が活性化PB−NK細胞と類似する細胞傷害性機能を有する表現型が成熟したNK細胞に分化するために選別を必要としないことを示す。
【0146】
hPSC由来間質は造血前駆細胞からのNK細胞発生を支援する。
hESCおよびiPSCからのNK細胞発生に必要とされる条件をより完全に明確化するため、発明者らは次にNK細胞促進サイトカイン(IL−3、IL−7、IL−15、SCF、FLT3L)を含有し、EL08−1D2または他の外来性間質細胞を含まない無フィーダーおよび無血清ステージII系における遠心EB由来細胞を試験した(
図2)。移転後の最初の2週間以内にEL08−1D2間質を用いて見られるものと同様のレベルで遠心EBに由来する非接着性造血細胞の増殖があった(
図12A)。なお、発明者らはこれらの細胞がそれら自体の接着性細胞を培養下で産生し始めることを見出した(
図12B)。発明者らはhESCからの内皮細胞(EC)と間葉系間質細胞(MSC)の発生を以前に示している(Hill et al., 2010、Kopher et al., 2010)。ここで、発明者らはこれらの細胞種(CD34
+CD31
+ECとCD34
+CD73
+MSC)の両方(
図16)が遠心EB培養物の中で日常的に産生されることを示した。骨髄に存在するECおよびMSCなどの非造血細胞はインビボでNK細胞を支援することが知られているので、発明者らはこれらの接着性細胞はインビトロでhESCからのNK細胞の成長を効率的に支援することができると仮説を立てた (Carson et al., 1997、Mrozek et al., 1996)。顕著なことに、発明者らは遠心EB間質細胞層がNK細胞発生とKIRの獲得に重要であることが知られているMHCクラスI分子(HLA−A、B、CおよびHLA−E)(Kim et al., 2005)に加えて高レベルのCD31およびCD73を発現することを見出した(
図12C)。なお、これらの遠心EB由来間質細胞はEL08−1D2間質と同様に、且つ、ヒト臍静脈内皮細胞またはサイトカイン単独よりも効率的にUCB由来CD34
+細胞からのNK細胞の発生を支援する(
図12D)。
【0147】
外来性間質細胞を使用せずにこれらの限定条件を用いてNK細胞はEL08−1D2間質細胞を使用するステージII条件と比べて同様の数と表現型に発生した(
図10および4D)。これらの細胞は成熟NK細胞表現型を発現し、且つ、細胞傷害アッセイにおいてそれらの間質由来相対物と同等であり、適切なNK細胞育成とエフェクター機能の獲得を示した。遠心EB由来NK細胞は脱顆粒化し、IFN‐γを産生し、且つ、膵臓癌および多発性骨髄腫を含む多様な腫瘍標的に対する活性も有した(
図13)。これらのデータはどのような選別またはマウス間質細胞支援も無い状態での機能的細胞傷害性リンパ球のインビトロ誘導の成功を初めて示す。異種フィーダー層の回避は、ヒトNK細胞の育成ならびに養子免疫療法のための明確なヒト供給源を研究するための新しい遺伝子操作可能な系を提供する。
【0148】
抗腫瘍免疫療法用のhESC由来NK細胞の臨床規模の増殖
このEBベースのアプローチは顕著な増殖および臨床的実用可能性を示すが、発明者らは次に別の臨床的に操作可能な方法を介して作製されるNK細胞の数をさらに増加させることを目標とした。近年、幾つかのグループが養子免疫療法用のT細胞またはNK細胞の増殖にaAPCを使用している (Fujisaki et al., 2009、Denman et al., 2012)。このアプローチの1つの主要な障害は高レベルのインビトロ増殖がテロメアの短縮化と細胞老化を引き起こすことである。DenmanらはPB−NK細胞の顕著な増殖を引き起こすが、テロメアの長さとインビトロ活性を維持する膜結合型IL−21(クローン9.mbIL−21)を発現するaAPC株を作製した (Denman et al., 2012)。発明者らはこれらのaAPCがhESC由来NK細胞のさらなる増殖を引き起こし得るか試験し、クローン9.mbIL−21発現aAPCがEL08−1D2由来NK細胞と無フィーダー由来NK細胞の両方でさらに2〜3倍の対数増加を仲介することを見出した。aAPC増殖性細胞はそれらのNK細胞表現型ならびにインビトロ活性を維持した(
図6Bおよび6C)。なお、これらのhESC由来NK細胞は2か月よりも長い間に培養状態で維持され得、断続的に増殖させられ得た。まとめると、遠心EB法とaAPC増殖は癌免疫療法のためにhPSCから充分なヒトNK細胞を作製するための直接的で応用可能なアプローチを提供する。
【0149】
(実施例3)
インビボ輸送と免疫療法を研究するための操作されたヒト胚性幹細胞由来リンパ球
hESC維持および造血系分化
hESCを低密度(90,000細胞/6ウェルプレートのウェル)のマウス胚性線維芽細胞(MEF)上に維持した。hESCからの造血前駆細胞の作製は確立された方法(Ng et al., 2008)を用いて達成された。凝集しやすい遠心胚様体(EB)を作製するためにhESCおよびiPSCを低密度MEF(90,000細胞/ウェル)上のTrypLE Select(インビトロジェン社)中において継代させた。hESC由来NK細胞をインビボで追跡するために我々はGFP/ホタルルシフェラーゼコンストラクトで改変されたH9株を使用した (Tian et al., 2009)。60%〜70%辺りの集密状態のTrypLE適応hESCを解離させ、70ミクロンの滅菌フィルターに通した。その後、細胞を計数し、丸底96ウェルプレートのウェル当たり幹細胞因子(SCF、40ng/mL)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF、20ng/mL)、および骨形成タンパク質4(BMP4、20ng/mL)を含有するBPEL培地(Ng et al., 2008)の中に3000細胞の濃度(100mLの体積)で配置した。プレートの外側のウェルを滅菌水で満たして培地のあらゆる蒸発を防いだ。その後、プレートを室温で1,500RPM、5分間遠心して凝集させ、5%CO
2を含む37℃の恒温器内で平静に設置した。
【0150】
遠心EBからのNK細胞分化
分化第11日に96ウェルプレートの6ウェルを、NK細胞惹起サイトカイン(IL−3、IL−7、IL−15、SCF、fms様チロシンキナーゼ受容体−3リガンド(FLT3L)、全てペプロテック社より)の24ウェルプレートの1つのウェルに直接移した(Woll et al., 2009)。NK細胞培養物には4〜5日毎に0.5mLのサイトカイン含有培地が注がれた。成熟NK細胞を培養から28〜35日の時点で測定した。NK細胞培養の4週間後に人工抗原提示細胞(aAPC)を使用して細胞をさらに増殖した(Denman et al., 2012).
【0151】
細胞株
K562細胞をアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手した。mbGLucを発現するK562細胞は次のように作製された。まず、膜結合型ガウシア(Gaussia)ルシフェラーゼ(mbGluc)を、次のプライマーを使用してPCR増幅した:5’−CATACA
GAATTCATGGCTCTCCCAGTGACTGCCCTACTGCTT−3’(配列番号15)および5’−CATACA
GAATTCGGATCCCTATTATTGAATCCGCCTGTGGTT−3’(配列番号16)。EcoRI部位に下線が引いてある。次にmbGluc断片を消化し、EcoR1消化したmCAGsプロモーターと内部リボソーム侵入部位(IRES)の間にEcoRIスプライス部位を含有するpKT2−mCAGs−IRES−GFP:zeoコンストラクトにサブクローン化した。方向はサブクローン化されたmbGluc配列の遠位末端内部の部位における制限酵素消化により確認された。K562細胞を発現するturboFP650を作製するために我々はプライマー5’−CATACA
ATCGATATGGGAGAGGATAGCGA−3’(配列番号17)および5’−CATACA
AGATCTATCAGTTATCTAGATCCGGT−3’(配列番号18)を使用してturboFP650(エブロジェン(Evrogen)社)を含有する配列を上記のようにPCR増幅した。ClaI部位とBglII部位に下線をそれぞれ引いてある。次にPCR断片をClaIとBglIIで消化し、pKT2−mbGluc−IRES−GFP:zeoコンストラクトへGFP:zeo融合タンパク質の代わりにライゲートした。その後、確認されたコンストラクトはLonza4Dヌクレオフェクター装置を使用してK562細胞に形質移入された。Turbo−FP650発現K562細胞をFACsAria細胞選別機(BDバイオサイエンス社)で選別した。
【0152】
hESC由来NK細胞の輸送を追跡するためのインビボ蛍光および生物発光画像撮影
腫瘍接種の24時間前に6〜8週齢の非肥満糖尿病/γ鎖ノックアウト型重症複合免疫不全(NOD/SCID/gC
−/−)マウス(ジャクソン・ラボラトリーズ社)に致死未満線量(225〜250cGy)の放射線照射を施した。総計で1×10
6個のmbGluc
+ K562細胞またはmbGluc
+/turboFP650
+ K562細胞を20%のFBS(ライフテクノロジーズ社)が添加された200mLのイスコブの改変ダルベッコ培地(IMDM)(ハイクローン・ラボラトリーズ社)に再懸濁した。その後、細胞をマウスの左上胸部に皮下注射した。腫瘍を4日間(mbGluc
+)または7日間(turboFP650
+)生着させた。その後、20%のFBSが添加された300mLのIMDMに再懸濁された10×10
6個のhESC−NK細胞のIP注射をマウスに施した。全ての実験について、NK細胞点滴を受領しないマウスが陰性対照として含まれ、腫瘍のみのマウスが腫瘍移植の陽性対照として含まれた。全てのマウスがNK細胞注射後の最初の7日の間に毎日IL−2(1×10
4U/マウス)とIL−15(10ng/マウス)のIP注射を受け、続いてマウスが殺処理されるまで2〜3日毎にIL−2のみのIP注射を受けた。全てのマウスがミネソタ大学の動物実験委員会により表明されたガイドラインと米国国立衛生研究所の動物実験ガイドに従って飼育され、処置され、取り扱われた。腫瘍進行とNK細胞輸送を同時に追跡するために我々は二元画像法計画を活用した。mbGluc
+ K562細胞とFluc
+ hESC−NK細胞を追跡するために生物発光画像撮影がXenogen IVIS Spectrum画像撮影システム(カリパー(Caliper)ライフサイエンス社)を使用して実施された。画像撮影の前にマウスをイソフルランにより麻酔した。生物発光画像は、セレンテラジン(320mg;ナノライト・テクノロジー社)のIV注射から10〜15秒後に、またはD−ルシフェリン(150mg/kg;GOLDバイオテクノロジー社)のIP注射から10分後に1分の露光を用いて獲得された。マウスをセレンテラジンの注射後に個体ごとに画像撮影し、D−ルシフェリンの注射前に回復させた。光学画像はLiving Imageソフトウェア第4.2版(カリパー・ライフサイエンス社)を使用して解析された。
【0153】
turboFP650
+ K562細胞とFluc
+ hESC−NK細胞を追跡するために蛍光および生物発光画像撮影を、Xenogen IVIS Spectrum画像撮影システムを使用して実施した。画像撮影の前にマウスを記載通りに麻酔した。生物発光画像はD−ルシフェリンのIP注射から10分後に総計で1分の露光で獲得された。直後に蛍光画像シーケンスを、自動露出設定を使用してturboFP650(励起:605、発光:660〜720)とバックグランドシグナル(励起:570、発光:640〜720)の放射スキャンを実施することにより獲得した。腫瘍とバックグランドシグナルを分離させるために蛍光画像シーケンスをスペクトル分解し、Living Imageソフトウェア第4.2版(カリパー・ライフサイエンス社)を使用して標準尺度に合わせた。
【0154】
免疫組織化学
殺処理時に収集された腫瘍組織を10%ホルマリン中で24〜36時間固定し、パラフィンに包埋した。標準的なプロトコルに従って4ミクロンの切片がミクロトームを使用して切り出され、非帯電スライドグラスに貼り付けられ、再水和された。スライドはOsterスチーマー中で30分間pH6.0のクエン酸緩衝液を用いて前処理され、そして、15分間冷却させられた。一次抗体を次の濃度で使用した:ヒトNKp46(R&Dシステムズ社;AF1850、1:100)、IgG1κアイソタイプ対照(eBioscience社;カタログ番号14−4714−82、1:50)。抗体検出はホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンとDABクロマジェン(chromagen)(コーヴァンス社)によるものであった。組織切片をヘマトキシリン中で対比染色した。実験毎にヒト扁桃組織を陽性対照として染色し、且つ、NK細胞注射を受けていないマウスの腫瘍組織を陰性対照として染色した。画像は10倍、40倍、および63倍の対物レンズの倍率で撮影された。
【0155】
インビボ追跡のためのルシフェラーゼ発現hESCからのNK細胞の作製
マウス異種移植モデルにおけるリンパ球輸送を試験するために発明者らはhESCからNK細胞を誘導するよく特徴解析されている分化プロトコルを用いた (Woll et al., 2005、Ni et al., 2011、Woll et al., 2009)。hESC由来NK細胞はインビトロとインビボの両方で強力な抗腫瘍活性を有するが、腫瘍の消失はNK細胞輸送の直接的な結果であることが示されていた。ホタルルシフェラーゼとGFPを発現するように改変されたhESC(Tian et al., 2009) を使用して、発明者らは最初に造血前駆細胞に分化し、後にNK細胞に分化する能力を示した(
図17)。hESC由来NK細胞の機能をインビボでさらに探索するために発明者らはNK細胞の存続性および輸送、ならびに腫瘍組織量をモニターするためのモデルを開発した。発明者らはIV経路またはIP経路を介して免疫不全マウスに移転されたときのhESC由来NK細胞の生存を比較した。通常、養子免疫療法のエフェクター細胞はIV投与されてきた。養子移入されたNK細胞を用いる白血病の治療にとって、これらのエフェクターが脾臓および骨髄を含む腫瘍病変部位に移動し得ることが重要である。しかしながら、これは卵巣癌などの全ての悪性腫瘍に最適な送達系ではあり得ない。なお、IPアプローチを使用する非造血系区画または非リンパ系区画へのNK細胞の注射はより厳密な輸送試験を提供し得る。マウスは最初の7日の間にIL−2(10,000単位/マウス)とIL−15(10ng/マウス)の注射も受け、続いて試験の終了まで1日おきにIL−2(10,000単位/マウス)の注射も受けた。NK細胞のIP送達を受けているマウスはIV注射されたマウスと比べて長くなった存続性を有した(
図18)。NK細胞のIV送達は最初にマウスの肺に細胞を輸送したが、第4日までに無くなった。一方、NK細胞のIP送達は4週間よりも長い存続性を引き起こす。第19日にマウスを殺処理し、末梢血、脾臓、骨髄、および腹膜の中での生着を調査した。NK細胞送達の両方の経路が、GFP
+とCD56
+CD45
+細胞表面抗原によって測定されると末梢血、骨髄、および脾臓の中で低レベルの生着を有した。しかしながら、IV注射したマウスまたは対照と比べてIP注射したマウスの腹膜において高レベルのNK細胞が存在した(
図18)。これは生物発光画像法データと一致し、且つ、NK細胞のIP送達がインビボでNK細胞の改善された存続性を可能とし、輸送の研究に最適であろうという結論になった。
【0156】
NK細胞はインビボで存続し、腫瘍と共局在する。
次に発明者らは、リンパ球存続性のよく特徴解析されているレポーターとして我々のhESC由来NK細胞によって安定して発現されるホタルルシフェラーゼ(Na et al., 2012、Negrin and Contag, 2006)をインビボで利用した。hESC由来NK細胞の強力な抗腫瘍活性をインビボで示す以前の研究はルシフェラーゼ陽性腫瘍細胞を使用した。しかしながら、発明者らはNK細胞を同時に追跡することができなかった。NK細胞と腫瘍の両方を同じマウスで撮影するために発明者らはガウシアルシフェラーゼファミリーの別のルシフェラーゼレポーターを採用した。膜につながれるように改変された組み換え型のそのガウシアタンパク質(膜結合型ガウシアルシフェラーゼ、mbGluc)(Santos et al., 2009)を使用して、発明者らは2つの異なる基質を利用して腫瘍とNK細胞の両方を同じマウスで撮影することができた。発明者らはmCAGSプロモーターによって駆動されるスリーピング・ビューティー(Sleeping Beauty)骨格にmbGluc遺伝子を最初にサブクローン化した。発明者らはK562腫瘍細胞を安定的に形質導入し、ルシフェリン(ホタルルシフェラーゼによって活性化される)には応答しないが、基質であるセレンテラジン(ガウシアルシフェラーゼによって活性化される)に応答するルシフェラーゼ活性を有する細胞を選択することができた。
【0157】
両方のレポーターをインビボで使用するために発明者らはmbGLucの基質であるセレンテラジンはインビボで急速に分解される (Santos et al., 2009)という事実を利用した。ホタルルシフェラーゼ(hESC由来NK細胞において発現する)は相互にインビボで安定しており(Santos et al., 2009、Kim et al., 2010) 、2番目に送達された。これらの2つのレポーターを使用することで、発明者らはmbGluc
+腫瘍細胞を最初に撮影し、次に同じマウスにおいてホタルluc発現hESC由来NK細胞を撮影することができた。発明者らは致死未満線量で放射線照射したマウスの中でK562腫瘍細胞をNK細胞注射前の4日間に生着させることにより我々の最初のモデル (Woll et al., 2009) を再現した。この試験の目的はNK細胞輸送を試験することであったので、発明者らは腫瘍をよりよく増殖させるために腫瘍用量を100万細胞に増加させた。発明者らの以前の研究は完全な腫瘍の消失を示しており、マウス当たり200,000細胞の用量を使用した。第0日にNK細胞をIP投与し、マウスをサイトカインで処置した。マウスを第0日、第4日、第7日、第9日から第12日に腫瘍サイズとNK細胞輸送の両方について評価した。ここで、NK細胞は腫瘍部位に移動することができた(
図19)。これは第9日と第12日の間に起きるのが典型的であったが、マウスの中で様々であった。なお、全てのマウスが生物発光によって輸送を示したわけではなかった(6匹のマウスのうちの4匹が輸送を示した)。このように、hESC由来NK細胞はこの二元生物発光系において輸送について追跡され得る。全てのマウスが輸送を示したわけではないが、これは生物発光シグナルを示すのに必要なルシフェラーゼ
+細胞の絶対数と陰性マウスが検出限界未満であり得ることが原因であり得た。なお、マウスの腫瘍組織量の増加(1×10
6細胞対200,000細胞)は充分なNK細胞が蓄積し、バックグランドよりも強い生物発光シグナルを発するために必要であった。
【0158】
ホタルルシフェラーゼと蛍光タンパク質turboFP650を用いる改善型二元レポーター画像法
ホタルルシフェラーゼと併せてmbGlucを使用することにより、信頼できるが、技術的には困難であるNK細胞輸送を研究するためのモデルが提供された。これは主にガウシアルシフェラーゼの基質であるセレンテラジンが静脈内送達される必要があるからである。これは幾つかの理由のために困難であった。まず、基質の消失動態のため、限られた数のマウスしか同時に画像撮影することができなかった(Santos et al., 2009)。また、セレンテラジン基質を繰り返し注射することにより時間と共に尾静脈の損傷が引き起こされる。このことを打開するために発明者らは、インビボで画像撮影され得るつい最近記載された蛍光レポーター (Scherbo et al., 2010、Lin et al., 2009)を利用した。TurboFP650は赤色側に偏移した蛍光レポーター(励起592nm、発光650nm)であり、最適なインビボ画像撮影のための組織浸透性を有する。それは2つ目の基質の送達を必要することもない。発明者らはスリーピング・ビューティーを使用してK562細胞中でturboFP650タンパク質を発現させるために同様のクローニングアプローチを用いた。TurboFP650の安定な発現はフローサイトメトリーにより測定された。1週間よりも長い期間の安定的な形質導入を確認した後に上と同じパラメーターを用いて細胞を選別した。選別された細胞はTurboFP650タンパク質の発現を維持し、さらなるインビボ試験に使用した(
図20)。
【0159】
上と同じインビボモデルを使用してマウスに100万個のTurboFP650
+ K562腫瘍細胞を移植し、7日間生着させた。その後、第0日にマウスにホタルルシフェラーゼ発現NK細胞を腹腔内投与し、輸送について追跡した。二元ルシフェラーゼ試験と同様に、NK細胞は5匹のマウスのうちの4匹でturboFP650
+腫瘍細胞を追跡することができ、これはNK細胞注射後9〜12日の間に起きた(
図20)。腫瘍組織量とNK細胞の量を同時に測定することができることが重要である。まず、turboFP650は腫瘍進行の信頼できるインビボマーカーを提供する。発明者らは腫瘍組織量の有意な増加を全てのマウスにおいて第9日(P=0.0027)と第12日(P=0.0022)の両方で観察した。次に発明者らはそれらのマウスのそれぞれにおける全NK細胞シグナルのレベルを測定し、前のようにレベルが第0日から第9日(0.0001)まで、または第12日(P=0.0001)までに有意に低下することを観察した。交換的に、発明者らは腫瘍部位におけるNK細胞シグナルの上昇を第9日(P=0.0246)と第12日(P=0.0043)に観察しており、これはhESC由来NK細胞の腫瘍部位への輸送の成功を示した。これらのデータはmbGlucと比べたレポーターとしてのturboFP650の使用を支援する。セレンテラジンベースのレポーターを使用することの技術的制約を打開することにより、これらの研究は時間と共に2つの細胞集団をモニターするための改良されたインビボ系を提供する。
【0160】
免疫組織化学により確認された腫瘍へのhESC由来NK細胞の輸送
腫瘍部位におけるNK細胞を決定的に示すために発明者らはマウスから取り出された腫瘍をより詳しく調べた。腫瘍部位におけるヒトNK細胞の存在を確認するために発明者らは腫瘍を取り出し、それらをパラフィン包埋し、免疫組織化学をNK細胞輸送の定性的な確認手段として用いた。腫瘍のみ(NK細胞注射無し)の群およびアイソタイプ対照と比べて、生物発光画像法により示されたNK細胞輸送を有するマウスはIHCでNKp46により示されるように存在するヒトNK細胞を有した(
図21)。ヒト扁桃組織を陽性対照として用いた。NKp46は、CD56が他の種類の組織も標識することができるので、ヒトNK細胞のより特異的なマーカーである。IHC染色で陽性のNK細胞は染色された各腫瘍組織切片全体に均一に散在しており、切片当たり15〜20個のhESC由来NK細胞が存在した。これらのデータはNK細胞の腫瘍部位への輸送、およびホタルルシフェラーゼを使用する生物発光画像法がリンパ球のインビボ輸送を研究するための有効なモデルであることをさらに支持する。
【0161】
考察
これらの研究により、hESC由来NK細胞の腫瘍部位への輸送を示し、且つ、hESC/iPSC由来NK細胞が腫瘍細胞をインビボで直接殺滅するという仮説を強力に支持することができたことが重要である。二元生物発光画像撮影モデルを活用しなかったら、輸送は識別するのがもっと困難であったろう。なお、生物発光画像法を用いることによりIHCよりも簡単で迅速な定量が可能となった。全てのマウスが生物発光画像法により輸送を大いに示したわけではなく、輸送の兆候は9〜12日にわたる範囲であった。しかしながら、生物発光定量は腫瘍領域においてNK細胞シグナルの蓄積に著しい差異を示す(
図20)。いくらかのNK細胞の輸送は我々の検出限界未満である可能性がある。すなわち、NK細胞は実際に腫瘍に移動することができるが、腫瘍環境内に留まるための正確なシグナルを受け取らない。この場合では、腫瘍内存続性と活性を改善するために腫瘍特異的受容体を有するNK細胞を改変することができるだろう(Moon et al., 2011)。これは、ヒトT細胞においてキメラ抗原受容体を使用して近年達成された (Porter et al., 2011、Carpenito et al., 2009)。hESCおよびiPSCはそのような改変のために最適なプラットフォームを提供する。それらの研究は、非改変hESC由来NK細胞が疾患を消失させるために腫瘍部位に移動するという我々の最初の発見も確認する。
【0162】
まとめると、これらのデータはマウスにおいてヒト細胞の2つの異なる集団を追跡するためのモデル系を提供し、それは抗腫瘍治療に限定されるべきではない。hESC/iPSC由来細胞と組み合わされた2つの多様なレポーター系を使用することは、多数の生物学システムへの広範な適用可能性を有する。治療目的にとって、hESCからほとんどあらゆる血液細胞を派生させる能力のため、新しい治療法のための細胞バンクを提供することができるだろう(Kaufman, 2009)。あるいは、iPSC作製が比較的に簡単であること、およびこのプロセスの技術的進歩を考えると、治療のために患者の自家細胞を使用するという考えも合理的である(Daley, 2007)。hPSCはリンパ球の発生と輸送の研究における機能獲得型アプローチと機能喪失型アプローチを取り入れるためのプラットフォームも提供する。これらのプロセスに影響する特定の分子の構成的ノックダウンまたは条件的ノックダウンは有益であり、本来は遺伝的改変に抵抗的を示す一次供給源から単離された細胞(HSCまたは末梢血)を使用することに優る大きな利点であろう。
【0163】
本明細書において開示および請求された方法の全ては本開示を踏まえると過度の実験を行うことなく実施および履行され得る。本発明の組成物と方法は好ましい実施形態との関係で記載されているが、本発明の構想、精神、および範囲から逸脱することなくそれらの方法、および本明細書に記載される方法のステップまたは一連のステップに変更を行うことができることは当業者に明らかである。より具体的には、本明細書に記載される薬剤を化学的にも生理学的にも関連するある特定の薬剤で置換することができ、同一または類似の結果が達成されるだろうことは明らかである。当業者にとって明らかである全てのそのような置換物および改変は添付されている特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、および構想の範囲内にあるとみなされる。
【0164】
参照文献
次の参照文献は、それらが本明細書において記載される細目を補完する例となる処置または他のことについての細目を提供する限り、特異的に参照により本明細書に組み込まれる。
米国特許第6,225,042号明細書
米国特許第6,355,476号明細書
米国特許第6,362,001号明細書
米国特許第6,790,662号明細書
米国特許第6,815,450号明細書
米国特許第6,943,172号明細書
米国特許第7,348,339号明細書
米国特許第7,459,424号明細書
米国特許出願公開第2009/0017000号明細書
米国特許出願公開第2009/0004142号明細書
欧州特許出願公開第00187371号明細書
国際公開第98/30679号
国際公開第00/057913号
国際公開第00/078351号
国際公開第2007/103009号
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