特許第6340034号(P6340034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6340034非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6340034
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材
(51)【国際特許分類】
   G01B 1/00 20060101AFI20180528BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20180528BHJP
   C04B 35/195 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   G01B1/00
   G01B11/00 Z
   C04B35/195
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-98084(P2016-98084)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-207300(P2017-207300A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2017年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤
【審査官】 國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−167268(JP,A)
【文献】 特開2001−151563(JP,A)
【文献】 特開2000−169216(JP,A)
【文献】 特開2002−164273(JP,A)
【文献】 特開2014−235074(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0171288(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 1/00
G01B 11/00
C04B 35/195
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコンとジルコニアの少なくとも一種を21〜50質量%含み、残部が実質的にコーディエライトよりなり、見掛け気孔率が0.01%未満の複合焼結体であることを特徴とする非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項2】
前記複合焼結体の、明細書で定義される光の体積拡散相対係数RVS(670)が0.5以下である請求項1に記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項3】
前記複合焼結体の波長400〜800nmにおける全反射率が70%以上である請求項1又は2に記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項4】
前記複合焼結体中のコーディエライトの組成が、コーディエライトの全質量を100質量%としたとき、MgO:11〜14質量%、Al:29〜36質量%、SiO:50〜60質量%である請求項1から3のいずれかに記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項5】
前記複合焼結体が希土類元素のLa,Ce,Sm,Gd,Dy,Er,Yb,Yの一種以上を酸化物換算で1〜7質量%含む請求項1から4のいずれかに記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項6】
前記複合焼結体の20℃における熱膨張係数が1.5×10−6/K未満である請求項1から5のいずれかに記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項7】
前記複合焼結体のヤング率が155GPa以上であり、ヤング率を嵩比重で割った値(ヤング率/嵩比重)の比剛性が52GPa・cm/g以上である請求項1から6のいずれかに記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項8】
形状が、平板、直方体、球又は階段形状である請求項1から7のいずれかに記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項9】
スケールとして使用される請求項1から7のいずれかに記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【請求項10】
前記複合焼結体が圧力焼結により焼結されたものである請求項1から9のいずれかに記載の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触式形状測定機の校正に使用されるセラミックス製の基準器用部材に関する。なお、非接触式形状測定機は、非接触式三次元測定機又は非接触式三次元座標測定機と呼ばれることもあるが、本明細書では非接触式形状測定機という。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体やMEMSの微細化技術の進歩によりCCDイメージセンサーやCMOSイメージセンサー等のカメラシステムの機能は飛躍的に高くなってきており、また、その低価格化により用途は爆発的に広がってきている。このため、これらのセンサーを利用した非接触式形状測定機が多く開発されてきている。
【0003】
また、工業製品の精密測定の分野において、自動車部品・航空機部品や家電部品などに複雑な曲面が使用されてきており、曲面測定等の複雑な測定が増えてきている。これらの曲面等の製造精度は省エネに大きく影響する場合が多いことから、これらの形状測定の高精度化と高速測定化が強く求められてきている。これらの測定に当初は接触式形状測定機が使用されていたが、測定スピードや測定の完全性の問題から、最近は非接触式形状測定機が使用されるようになってきている。
【0004】
これらの非接触式形状測定機には、そのセンシング方式から縞フリンジ投影方式、レーザースキャニング方式、レーザーポイント測定方式等があるが、いずれにしても光学的に測定されるため基準器としては光に対して正反射ではなく拡散反射する材料が必要となる。このため光を正反射してしまう金属材料はそのまま使用することが困難で、金属材料を使用する場合にはブラスト処理等のつや消し処理を実施した後に表面にTiN等のセラミックスコーティングする方法等がとられている。しかし、このようにブラスト処理やコーティングにより作製される基準器では精度の良いものが得られない。
【0005】
一方、接触式形状測定機でジルコニア等のセラミックスの高精度球が基準球として使用されていることは広く知られており、光学的測定においてもこれらのセラミックスはほとんどの入射光を拡散反射するため光学的測定の基準器としても有用と考えられてきた。しかし、実際に使用してみるとセラミックス中では図1に示されるような光の体積拡散が強く発生することがわかってきた。
【0006】
体積拡散とは入射された光がセラミックスの内部に潜り込み、内部で3次元的に拡散する現象のことで、従来のセラミックスにおいては数ミリのオーダーで潜り込みが発生する。このように入射された光が基準器たるセラミックスの内部に深く潜り込むと、距離測定が不正確になるという問題が発生する。また、前述した入射光の3次元的拡散のうち、入射光の入射ベクトルと反対方向ベクトルを持つ光はセラミックス表面にまで戻ってくる。この体積拡散して戻ってくる光のため、センシング方式として縞フリンジ投影方式を採用した場合、入射した光のパターンが広がって不鮮明なパターンになってしまい、正確な測定ができなくなるという問題もある。さらに、センシング方式によっては測定自体が不可能になる場合もあり、このセラミックスの体積拡散の現象は、非接触式形状測定機校正用の基準器として使用する場合に大きな問題である。
【0007】
なお、基準器としてセラミックスと金属以外では樹脂等も使用されているが、樹脂の場合には精度が悪く、また経時変化も心配されることから、非常に粗い測定精度の場合にのみ使用される。非接触式形状測定機の測定精度は、その開発当初は数ミリから数百ミクロンと非常にラフな測定が主流であったため、このような樹脂製のものが使用されてきた。しかし、前述のように省エネ等の問題からより高精度な測定が求められてきたことにより、基準器としても高精度・高信頼性のものが求められてきている。現在、高精度非接触式測形状定機としてはカタログ仕様として数ミクロンのものが開発されてきており、通常、基準器の精度として装置精度の1/5以下が必要とされることを考慮すると、2ミクロンからサブミクロン精度の高精度基準器が必要となってくる。
【0008】
そのほか、現在使用されている基準器としては、セラミックスや金属の高精度球・平板の表面に塗料を塗ることにより拡散反射を実現している基準器がある。しかし、これらの基準器は塗装により精度が悪くなることに加え、一度触れてしまうと塗料が剥げてしまい測定精度が極端に悪化してしまうという大きな問題があり、非常に使用が難しい基準器となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4568979公報
【特許文献2】特許4460325公報
【特許文献3】特許4476824公報
【特許文献4】特許3946132公報
【特許文献5】特開2004−140132号公報
【特許文献6】特開2004−179353号公報
【特許文献7】特開2004−182539号公報
【特許文献8】特開2004−184882号公報
【特許文献9】特開2004−91287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、非接触式形状測定機を精度良く校正するために、高精度な基準器が必要になっており、従来の樹脂製や表面コート品に代ってセラミックス製の基準器が候補として考えられる。しかし、セラミックスは光を体積拡散する特性があるため、距離測定が不正確になるという問題や、セラミックスに投影されたパターンを精度良く計測できないという問題がある。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、光の体積拡散が少なく、非接触式形状測定機を精度良く校正することができる高精度の非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するために、高精度の基準器として緻密で精度加工が可能であり、さらに温度による変化や経時変化の少ないコーディエライト質焼結体の適用が有効であるとの発想のもと、コーディエライト質焼結体における光の体積拡散を少なくすることを志向した。その結果、ジルコンとジルコニアの少なくとも一種とコーディエライトとの複合焼結体とすることにより光の体積拡散が少なくなって前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明によれば、「ジルコンとジルコニアの少なくとも一種を21〜50質量%含み、残部が実質的にコーディエライトよりなり、見掛け気孔率が0.01%未満の複合焼結体であることを特徴とする非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器用部材」が提供される。
【0014】
本発明の複合焼結体において体積拡散が少なくなるメカニズムは必ずしも明らかではないが、コーディエライト粒子の比重2.4とジルコン、ジルコニアの比重4.7、6.0とが大きく異なるため、コーディエライトとジルコン又はジルコニアとの粒界にて大きな屈折が発生し、光が深く潜り込まずに光の拡散が抑えられると考えられる。
【0015】
なお、特許文献1には、ジルコンとコーディエライトの複合焼結体として、「結晶が、酸化珪素(SiO)50〜53質量%、酸化アルミニウム(Al)33〜36質量%、酸化マグネシウム(MgO)13〜15質量%を組成範囲とするコーディエライト結晶と、ジルコン結晶と、から成り、コーディエライト結晶とジルコン結晶との混合割合が重量比で99/1〜82/18の範囲であり、室温における熱膨張係数が−0.1〜+0.1×10−6/℃であり、且つ、ヤング率を嵩比重で割った値(ヤング率/嵩比重)が5×10/s以上であることを特徴とするコーディエライト緻密焼結体」が開示されているが(請求項1参照)、このようにジルコンの含有量が1〜18質量%と低い場合、体積拡散が十分に少なくならず非接触式形状測定機校正用の基準器用としては不適切であり、また、この特許文献1には焼結体の体積拡散問題や基準器としての応用についても記載されていない。
【0016】
特許文献2には、「天体望遠鏡に設けられ、天体から届き集光された光を反射させる天体望遠鏡用ミラーであって、前記光を反射するための表面粗さがRaで10nm以下の反射面を備えた低熱膨張セラミックスからなる板部材と、前記板部材の反射面に設けられた所定の反射膜と、低熱膨張セラミックスからなり、前記板部材と接合されて前記板部材を保持するコア部材と、前記板部材と前記コア部材とを接合する、前記板部材および前記コア部材を構成する低熱膨張セラミックスよりも溶融温度の低い低熱膨張セラミックスからなる接合部と、を有し、前記板部材と前記コア部材の−10〜10℃における平均の熱膨張係数が、−1×10−6〜1×10−6/℃の範囲にあり、前記板部材および前記コア部材の−10〜10℃における平均の熱膨張係数と、前記接合部の−10〜10℃における平均の熱膨張係数との差が±0.1×10−6/℃の範囲内であり、前記板部材および前記コア部材を構成する低熱膨張セラミックスと前記接合部を形成する低熱膨張セラミックスは、リチウムアルミノシリケート、リン酸ジルコニウムカリウム、コーディエライトから選ばれる一種以上の第1の材料と、炭化珪素、窒化珪素、サイアロン、アルミナ、ジルコニア、ムライト、ジルコン、窒化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭化ホウ素から選ばれる一種以上の第2の材料を複合してなる複合材料であることを特徴とする天体望遠鏡用ミラー」が開示されており(請求項1参照)、この中に本発明の複合焼結体と同様のコーディエライトとジルコンの組合せも含まれているが、焼結体の体積拡散問題や基準器としての応用については記載されておらず、実施例としてはβユークリブタイトと炭化珪素の組合せの複合焼結体しか開示されていない。また特許文献3〜9にも、本発明の複合焼結体と同様のコーディエライトとジルコンの組合せが含まれるが、焼結体の体積拡散問題や基準器としての応用については全く記載されていない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、緻密で光の体積拡散の少ないセラミックス基準器用部材が提供可能となり、このセラミックス基準器用部材を使用することにより、非接触式形状測定機を精度良く校正することができる。
【0018】
また、通常、非接触式形状測定機校正用の基準器は表面がつや消し状であることが求められるが、本発明のセラミックス基準器用部材によれば光の体積拡散が小さいことからセンシング方式によっては表面が光沢面でも測定が可能となる。したがって、精度が1ミクロン以下、例えば真球度0.2ミクロン、平面度0.1ミクロンといった超高精度な基準器も提供可能である。
【0019】
さらに本発明によれば、コーディエライトが有する優れた特性を活かして、温度や時間に対する形状安定性にも優れた非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】光の体積拡散の簡易的な説明図。
図2】光の体積拡散評価のための、体積拡散相対係数RVS測定方法のイメージ図。
図3】光の体積拡散相対係数RVSの測定例。
図4】単独基準球の例。
図5】球2個の長さバー基準球の例。
図6】基準球複数個のボールバーの例。
図7】多球3次元形状基準器の例。
図8】段差ゲージの例。
図9】実施例1の焼結体の粉末X線回折パターン。
図10】実施例1の焼結体の全反射率。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において非接触式形状測定機校正用の基準器用部材として使用される複合焼結体(以下、単に「本発明の複合焼結体」という。)は、光の体積拡散を少なくするために、ジルコンとジルコニアの少なくとも一種を21〜50質量%含み残部が実質的にコーディエライトよりなる。ジルコンとジルコニアの少なくとも一種の含有量が21質量%未満ではこれらの粒子が少なくなってしまい、逆に50質量%超ではコーディエライト粒子が少なくなってしまうので、いずれの場合も光の体積拡散が十分に少なくならない。なお、ジルコンとジルコニアの少なくとも一種の含有量は21〜30質量%であることが好ましい。また、コーディエライトの含有量は43〜78質量%であることが好ましい。
【0022】
ところでこれまで、セラミックスの体積拡散を評価する方法はなかったため、本発明にあたり本発明者は図2のような評価方法を開発した。すなわち、ライン状のレーザー光をセラミックス表面に一定の角度で入射し、光入射部の真上に設置した2次元輝度計(CCDカメラ)により光の輝度分布を測定する。これにより、入射したレーザー光の幅に対してセラミックス表面にてどのように幅が拡がっているかを輝度分布としてライン分析する。
【0023】
具体的には、波長λのレーザー光を使用したそれぞれの測定において測定される輝度分布は図3のようにほぼガウシアン分布となるので、このガウシアン分布の半値全幅をFWHM(λ)とする。そして、セラミックスの基準材料(99.5%アルミナ)の前記半値全幅をFWHM(λ)とし、測定したサンプルの半値全幅をFWHMi(λ)として、光の体積拡散相対係数(RVS)を下記のように定義する。ここで、FWHMr(λ)は波長λにおけるレーザー光の入射時の輝度分布の半値全幅であり、全反射率が7〜8%であるセラミックス黒色基準板にレーザー光を照射して測定される。
RVS(λ)=(FWHMi(λ)−FWHMr(λ))/(FWHM(λ)−FWHMr(λ))
λ:レーザー光の波長(nm)
【0024】
これにより、サンプルへの入射光に対するサンプル表面における入射光の幅の広がりが相対的に評価できる。本発明においては従来のセラミックスに対して光の体積拡散が小さいため、入射光に対する幅の広がりが小さく、RVS(670)を0.5以下に抑えることができる。なお、レーザー光の波長λとして670nmを基準としたのは、非接触式形状測定機で最も一般的に使用される赤色レーザー光の中間的な波長に相当するからである。
【0025】
続いて本発明の複合焼結体の特徴について説明すると、本発明の複合焼結体は、その見掛け気孔率が0.01%未満と緻密である。見掛け気孔率が0.01%以上であると、気孔部に入り込んだ汚れが取れなくなり部分的に着色するため、光学的な測定基準としては適当でない。また、精密仕上げ時に気孔部の周りは粒子の脱落等のミクロな破損が起きやすく、破片によるキズが発生する場合もあるから、この点からも適当でない。
【0026】
本発明の複合焼結体は、焼結性の向上のため希土類元素のLa,Ce,Sm,Gd,Dy,Er,Yb,Yの一種以上を酸化物換算で1〜7質量%含むことが好ましい。特に、Laを酸化物換算で2〜5質量%含むことが好ましい。これらの希土類酸化物が1質量%未満であると焼結性が悪くなり緻密な焼結体が得られなくなるので好ましくない。 一方、7質量%超では比重が大きくなり過ぎて、比剛性が低くなってしまうとともに、焼結中に低融点の液相が多量に発生するために表面近傍の液相が気化して幅の広い表層を形成してしまうため好ましくない。なお、焼結性の向上のためには、希土類元素を含まない焼結助剤を使用することもできるが、焼結温度が高くなりコーディエライトの融点直下での非常に狭い温度領域での焼結となり製造安定性の面から、前記希土類元素の使用が好ましい。
【0027】
本発明の複合焼結体は非接触式形状測定機校正用の基準器として使用されることから、入射光に対する反射率がある程度高くないと測定が困難になる場合があるので、白色系の反射率の高いものが好ましい。具体的には、非接触式形状測定機には、赤色レーザー、緑色レーザー、青色レーザー又は白色光が使用されるので、可視光領域、すなわち400〜800nmの波長領域に対して全反射率が70%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましい。ここでいう全反射率とは積分球による反射率測定でサンプルの全面半球方向に反射する光量合計の入射光量に対する割合である。
【0028】
なお、黒色や灰色のセラミックスにおいては、体積拡散する光の多くがセラミックス内部で吸収されるため、光の体積拡散はあまり問題とならないが、全反射率が黒色の場合で10%以下、灰色の場合で20%以下と非常に低いため、測定に必要な光量が不足して測定ができない場合や、正確な測定ができない場合が多く発生するので好ましくない。ただし、僅かな着色剤は反射率を大きく損なわないので、添加が許容される。これらの着色剤としては酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化クロム、酸化鉄の一種又は二種以上が挙げられ、全体として0.3質量%以下であれば許容される。
【0029】
本発明の複合焼結体は、温度や時間に対する形状安定性を確保する点から、20℃における熱膨張係数が1.5×10−6/K以下であることが好ましい。特に、1次元又は2次元のスケールをセラミックスの表面に形成した基準器の場合、セラミックスの熱膨張係数が大きいと測定時の温度変化によりスケールの長さが変化してしまい、基準器の精度が低下するため、熱膨張係数は20℃で1.5×10−6/K未満であることが好ましい。また、本発明の複合焼結体中のコーディエライトの組成は、コーディエライトの全質量を100質量%としたとき、MgO:11〜14質量%、Al:29〜36質量%、SiO:50〜60質量%であることが好ましい。この組成範囲外では、コーディエライトの熱膨張係数が大きくなってしまい、複合焼結体全体の熱膨張係数が20℃で1.5×10−6/K以上になってしまうので好ましくない。
【0030】
本発明の複合焼結体は、ヤング率が155GPa以上、ヤング率を嵩比重で割った値(ヤング率/嵩比重)の比剛性が52GPa・cm/g以上であることが好ましい。非接触式形状測定機校正用の基準器は平面基準として平板状で使用する場合もあり、このような場合、ヤング率や比剛性が低いと自重変形が大きくなって測定毎の自重変形の違いが誤差となりやすいので好ましくない。
【0031】
このようにヤング率や比剛性を高くし、また見掛け気孔率を小さくする点から、本発明の複合焼結体は、HIP(熱間静水圧プレス法)等の圧力焼結による焼結品であることが好ましい。
【0032】
本発明の複合焼結体を使用する非接触式形状測定機校正用の基準器の形状としては、平板、直方体、球又は階段形状が挙げられる。このうち、球形状基準器としては図4のような単独基準球、図5のような球2個の長さバー基準球、図6のような基準球が複数個のボールバー、図7のような多球3次元形状基準器が挙げられる。
【0033】
このような基準球については、図4のような単独基準球が広く使用されている。図5のような2個の基準球は球間の長さ基準として使用される。また、図6のような多球を一直線上に取り付けたボールバーでは3次元形状測定機上で水平、垂直、対角にセットして校正することにより3次元的な校正が可能となる。図7には3次元的な校正をするためのその他形状の多球3次元形状基準器を示している。
【0034】
基準球の精度はつや消し品の場合、真球度1〜5μmに仕上げられるが、最近の高精度の非接触式形状測定機校正用としては真球度1〜3μmであることが好ましい。つや消しの必要ない基準球の場合には真球度0.08〜1μmに仕上げることが好ましく、コストと性能面から真球度0.25〜1μmがより好ましい。
【0035】
平面基準器としては、平板状で3〜20mm程度の厚みのものが一般的である。また、図8に示す階段形状の基準器は段差ゲージと呼ばれ、垂直方向の高さの校正に使用される。
【0036】
このような基準器において仕上げ加工される基準面の平面度は測定機の要求により異なるが、精度範囲において0.1〜5μmに仕上げるのが好ましく、2μm以下がより好ましい。基準面につや消しが必要な場合には、基準面は平均表面粗さとしてRa0.2〜0.5μmになるようにつや消し加工を実施する。つや消しが不要の場合にはRaは0.15〜0.001μmに研磨する。大型の平面基準器の場合には自重変形の再現性を良くするために、下面に島出し形状を加工したり、脚を取り付ける等で支持点を固定したりすることにより、自重変形を一定とすることが好ましい。
【0037】
また、本発明の複合焼結体はスケールとして使用することもできる。スケールを作製する場合、樹脂等のスケールパターンを本発明の複合焼結体に印刷する方法と、金属コートした本発明の複合焼結体に露光・現像・エッチングのリソグラフィー法によりスケールパターンを形成する方法の両方が使用できる。
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0039】
コーディエライト68質量%、ジルコン29.4質量%、ジルコニア0.6質量%、酸化ランタン2質量%からなる複合焼結体を焼成、HIP処理により作製した。コーディエライトの組成はMgO:13質量%、Al:34質量%、SiO:53質量%であった。得られた複合焼結体の密度は2.95g/cm、見掛け気孔率は0.00%、ヤング率は160GPaで比剛性は54.2GPa・cm/gであった。
【0040】
この複合焼結体のCuKα線によるX線回折の結果を図9に示している。同図より本複合焼結体はコーディエライト、ジルコンと僅かのジルコニア結晶からなることがわかる。
【0041】
また、本複合焼結体の400〜800nmの入射光に対する全反射率のグラフを図10に示している。同図からわかるように、前記波長領域における平均の全反射率は96.9%で最低値は90.1%であった。
【0042】
本複合焼結体より50×50×15mm、平面度0.5μm、平均表面粗さRa0.2μmの平面基準器を作製し、前述の光の体積拡散相対係数(RVS)を測定した。その結果、RVS(670)=0.18であった。
【0043】
また、本複合焼結体をベアリング球の加工方法にて研削・研磨して直径25mm、真球度0.25μmの光沢球と真球度1.4μmのつや消し球を作製した。これらの基準球の精密校正後の径の不確かさは、光沢球が0.28μm、つや消し球が1.65μmで、良好であった。さらに、これらの基準球を縞フリンジ投影方式、レーザースキャニング方式及びレーザーポイント測定方式の3方式の門型3次元形状測定にセットして基準球として測定を実施し、全ての方式において測定が可能であることを確認した。
【実施例2】
【0044】
コーディエライト71.1質量%、ジルコン25質量%、ジルコニア0.4質量%、酸化ランタン3.5質量%からなる複合焼結体を焼成、HIP処理により作製した。コーディエライトの組成はMgO:12.8質量%、Al:32.5質量%、SiO:54.7質量%であった。得られた複合焼結体の密度は2.93g/cm、見掛け気孔率は0.00%、ヤング率は157GPaで比剛性は53.5GPa・cm/gであった。また、本複合焼結体の400〜800nmの入射光に対する全反射率の平均は97.2%で最低値は91.5%であった。
【0045】
本複合焼結体より40×40×8mm、段差2mm、平面度0.5μm、平均表面粗さRa0.2μmの段差基準器を作製し、光の体積拡散相対係数(RVS)を測定した。その結果、RVS(670)=0.27であった。また、この段差基準器をレーザースキャン型の非接触CMMにおいてZ軸方向の段差を測定して、接触型測定機との差を確認したところ、段差の誤差は0.2μm以下と良好であった。
【実施例3】
【0046】
下記表1の成分の複合焼結体を作製して、各複合焼結体から50×70×12mmのつや消しの平面基準器を作製した。そして、各基準器の波長400〜800nmにおける全反射率と光の体積拡散相対係数RVS(670)を測定した。また、各複合焼結体の嵩密度、見掛け気孔率、ヤング率、比剛性、及び20℃での熱膨張係数の物性値を測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
表1中、No.1〜15の複合焼結体は、ジルコンとジルコニアの少なくとも一種を21〜50質量%含み、残部が実質的にコーディエライトよりなる本発明例であり、いずれも光の体積拡散相対係数RVS(670)が0.5以下で光の体積拡散が少なくなっていた。
【0049】
一方、No.16はジルコンとジルコニアの含有量が20質量%と少ない比較例、No.16はジルコンとジルコニアの含有量が52質量%と多い比較例で、いずれも光の体積拡散相対係数RVS(670)が0.5を超えていた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による体積拡散の少ない非接触式形状測定機校正用のセラミックス基準器は、門型、スタンド型、アーム型等の色々な構造型の非接触形状測定機の校正用に使用される。また、製造ラインにおけるインライン非接触式形状測定ユニットや形状測定機能付きの監視カメラシステム等、その他の非接触形状測定機(光学測定機器)の校正用に使用することもできる。
図1
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図10