(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面に銅が設けられた絶縁基材の銅上に、無電解めっき処理によってパラジウムめっき皮膜を成膜し続いて金めっき皮膜を成膜する無電解パラジウム/金めっきプロセスであって、
前記表面に銅が設けられた絶縁基材を、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオリンゴ酸、チオウラシル及びチオ尿素からなる群から選択される1種以上の硫黄化合物を含有する硫黄含有水溶液に浸漬することにより銅表面電位調整処理を行う工程と、
前記銅の表面電位が調整された絶縁基材に対して無電解パラジウムめっき処理を行い、前記銅上にパラジウムめっき皮膜を成膜する工程と、
前記銅上に前記パラジウムめっき皮膜が成膜された絶縁基材に対して無電解金めっき処理を行い、前記パラジウムめっき皮膜上に金めっき皮膜を成膜する工程とを備えることを特徴とする無電解パラジウム/金めっきプロセス。
【背景技術】
【0002】
従来、独立電極や独立配線を有する電子基板の銅電極、銅配線等の銅上にニッケルめっき皮膜を成膜しその上に金めっき皮膜を成膜する方法として、無電解ニッケル/金めっきプロセスが行われている。無電解ニッケル/金めっきプロセスでは、金表面への銅の拡散を防止するためにニッケルめっき皮膜を3μm以上の厚さに成膜し、安定な実装特性を得るために金めっき皮膜を0.03μm以上の厚さに成膜する。
【0003】
近年、電子回路の高密度化が進み、配線幅/配線間隔(以下、「L/S」と称す)を数十μm以下、さらには10μm以下と狭くすることが求められている。L/Sを数十μm以下、例えばL/S=30μm/30μmとする場合に、無電解ニッケルめっき処理によって3μmのニッケルめっき皮膜を成膜した際、配線間にニッケルが異常析出し、電子回路の短絡の原因となる。そのため、無電解ニッケルめっき処理によるめっき時間を短縮してニッケルめっき皮膜の厚さを1μm以下とすることにより、配線間へのニッケル析出を防止している。
【0004】
ところが、ニッケルめっき皮膜の厚さを1μm以下とした場合、後続の無電解金めっき処理を行った際に、ニッケルめっき皮膜の一部分が腐食して当該皮膜を貫通するピンホールが生じることがある(ニッケル局部腐食現象)。ピンホールの状態によっては当該ピンホールを通じて銅やニッケルが金めっき皮膜表面に拡散して銅の酸化物やニッケルの酸化物を生成し、はんだ実装やワイヤーボンディング実装時に実装不良が生じ易くなるという問題がある。
【0005】
そこで、上記ニッケル局部腐食現象の発生を防ぐために、例えば特許文献1に開示された無電解ニッケル/パラジウム/金めっきプロセスによって、厚さ1μm以下のニッケルめっき皮膜上に厚さ0.03μm以上のパラジウムめっき皮膜を成膜した後に厚さ0.03μm以上の金めっき皮膜を成膜することが考えられる。
【0006】
無電解ニッケル/パラジウム/金めっきプロセスでは、
図18に示すように、まず、表面に銅が設けられた絶縁基材に対して脱脂処理(ステップ(以下「S」と記載する)11)を行う。脱脂処理(S11)は、通常、前記絶縁基材を、無機酸、有機酸、界面活性剤を主成分とする酸性溶液に浸漬することにより行われる。次に、脱脂処理(S11)が施された前記絶縁基材に対してエッチング処理(S12)を行い、銅の酸化膜を除去する。エッチング処理(S12)は、通常、前記絶縁基材を、過硫酸塩と硫酸の混合溶液や、過酸化水素水と硫酸との混合溶液等に浸漬することにより行われる。続いて、特許文献1には記載されていないが、活性化処理(S13)及びデスマット処理(S14)を行う。
【0007】
次に、デスマット処理(S14)が施された前記絶縁基材に対して、パラジウム触媒付与処理(S15)を行い、銅の表面にパラジウム触媒を付与する。パラジウム触媒付与処理は、前記絶縁基材を、パラジウム化合物を含む溶液(以下、「パラジウム触媒含有溶液」と称す)に浸漬することによって行われる。後続の無電解ニッケルめっき処理(S16)の際、触媒として作用するパラジウムが銅の表面に付与されていないとニッケル析出が進行しないため、当該パラジウム触媒付与処理は、通常、必須とされている。
【0008】
次に、パラジウム触媒付与処理が施された絶縁基材に対して、無電解ニッケルめっき処理(S16)、無電解パラジウムめっき処理(S17)及び無電解金めっき処理(S18)を行う。以上により、絶縁基材の銅上にニッケルめっき皮膜、パラジウムめっき皮膜及び金めっき皮膜が順に成膜される。
【0009】
しかしながら、L/Sをさらに狭くして10μm以下、例えばL/S=8μm/8μmとした場合には、無電解ニッケルめっき処理によって1μmのニッケルめっき皮膜を成膜した際、配線間にニッケルが異常析出してしまう。その場合には、異常析出したニッケル上にもパラジウム及び金が析出し、電子回路が短絡するという問題がある。
【0010】
そこで、ニッケルめっき皮膜を成膜することなく、銅上に直接パラジウムめっき皮膜及び金めっき皮膜を成膜することが考えられる。すなわち、
図18に示す無電解ニッケル/パラジウム/金めっきプロセスのうち無電解ニッケルめっき処理(S16)を行わないプロセス、すなわち、S11〜S15及びS17〜S18を行う無電解パラジウム/金めっきプロセスが考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本件発明に係る無電解パラジウム/金めっきプロセスの実施の形態を説明する。本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスは、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の絶縁樹脂製の絶縁基材の表面に設けられた電極や配線等の銅上にパラジウムめっき皮膜を直接成膜し、さらにその上に金めっき皮膜を成膜するためのプロセスである。
【0026】
図1のフローチャートに示すように、無電解パラジウム/金めっきプロセスは、脱脂工程(ステップ(S1)
)と、銅酸化膜除去工程(S2)と、活性化工程(S3)と、銅表面電位調整工程(S4)と、無電解パラジウム(Pd)めっき工程(S5)と、無電解金(Au)めっき工程(S6)とを備える。以下、各工程について説明する。各工程の間で、必要に応じて水洗及び乾燥を行ってもよい。また、無電解パラジウムめっき工程(S5)及び無電解金めっき工程(S6)の後、必要に応じて熱処理を行ってもよい。
【0027】
1.脱脂工程(S1)
脱脂工程(S1)では、銅や絶縁基材の表面に付着する油脂分を除去する。脱脂工程(S1)は、従来の無電解パラジウム/金めっきプロセスと同様に、酸性溶液を用いて行うことも可能であるが、銅表面に荒れが生じることを抑制するために、中性脱脂溶液を用いることが好ましい。上記中性脱脂溶液は、チオジグリコール酸20〜40g/Lと、グルコン酸ナトリウム1〜5g/Lと、ノニオン系界面活性剤0.05〜0.1g/Lとを含有し、pH5.0〜7.0である水溶液である。脱脂工程(S1)は、例えば、温度30〜50℃の上記中性脱脂溶液に、前記表面に銅が設けられた絶縁基材を1〜10分間浸漬することにより行うことができる。
【0028】
図2は、脱脂工程(S1)を施す前の銅表面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)によって観察したSEM画像(倍率10000倍)であり、
図3は、従来技術のめっきプロセスに用いられる酸性溶液を用いる脱脂工程(S1)を施した後の銅表面を観察したSEM画像(倍率10000倍)であり、
図4は、上記中性脱脂溶液を用いる脱脂工程(S1)を施した後の銅表面を観察したSEM画像(倍率10000倍)である。上記酸性溶液として、チオジグリコール酸20〜40g/Lと、リン酸1〜5g/Lと、ノニオン系界面活性剤0.05〜0.1g/Lとを含有し、pH0.5〜1.0である水溶液を用いた。
【0029】
図3から、上記酸性溶液を用いる脱脂工程(S1)によれば、
図1に示される脱脂工程(S1)を施す前と比較して、銅表面に荒れが生じていることが明らかである。このことから、銅皮膜の表面において銅が不均一に溶解しているものと考えられる。銅表面にこのような荒れが生じている場合、後続の無電解パラジウムめっき工程(S5)や無電解金めっき工程(S6)における皮膜の成膜性に影響を及ぼすことがある。一方、
図4から、上記中性
脱脂溶液を用いる脱脂工程(
S1)によれば、
図1に示される脱脂工程(S1)を施す前と比較して、表面状態に大きな変化はなく銅表面に荒れが生じていないことが明らかである。従って、脱脂工程(
S1)では、上記酸性溶液よりも上記中性
脱脂溶液を用いるのが好ましいことが明らかである。
【0030】
2.銅酸化膜除去工程(S2)
銅酸化膜除去工程(S2)では、銅表面を被覆する銅酸化膜を除去する。銅酸化膜除去工程(S2)は、従来の無電解パラジウム/金めっきプロセスと同様に、過硫酸塩と硫酸の混合溶液、過酸化水素水と硫酸との混合溶液を用いて行うことも可能であるが、銅酸化膜を除去するだけでなく、銅自体が溶出して銅表面に荒れが生じることがある。そこで、銅酸化膜除去工程(S2)では、銅を溶出させずに銅酸化膜を除去することができる銅酸化膜除去溶液を用いることが好ましい。上記銅酸化膜除去溶液は、チオグリコール2.5〜12.5g/Lと、ノニオン系界面活性剤1.25〜2.5g/Lとを含有し、pH5.0〜7.0である水溶液である。銅酸化膜除去工程(S2)は、例えば、室温程度の上記銅酸化膜除去溶液に、脱脂が施された前記絶縁基材を30秒間〜5分間浸漬することにより行うことができる。
【0031】
図5は、銅酸化膜除去工程(S2)を施す前の銅表面を原子間力顕微鏡(AFM)によって観察したAFM画像であり、
図6は、従来技術のめっきプロセスに用いられる硫酸混合溶液を用いる
銅酸化膜除去工程(S2)を施した後の銅表面を観察したAFM画像であり、
図7は、上記銅酸化膜除去溶液を用いる
銅酸化膜除去工程(S2)を施した後の銅表面を観察したAFM画像である。上記硫酸混合溶液として、過硫酸ナトリウム125g/Lと硫酸18.4g/Lとを含み、pHが0.5〜0.8である水溶液を用いた。
【0032】
図6から、上記硫酸混合溶液を用いる
銅酸化膜除去工程(S2)によれば、
図5に示される
銅酸化膜除去工程(S2)を施す前と比較して、銅表面の凹凸が大きくなっており、銅表面に荒れが生じていることが明らかである。これは、銅皮膜の表面において銅が不均一に溶解しているものと考えられる。これに対し、
図7から、上記銅酸化膜除去溶液を用いる
銅酸化膜除去工程(S2)によれば、
図5に示される
銅酸化膜除去工程(S2)を施す前と比較して、表面状態に大きな変化はなく銅表面に荒れが生じていないことが明らかである。従って、
銅酸化膜除去工程(S2)では、上記
硫酸混合溶液よりも上記銅酸化膜除去溶液を用いるのが好ましいことが明らかである。
【0033】
3.活性化工程(S3)
活性化工程(S3)では、銅酸化膜が除去された前記絶縁基材を5〜10重量%濃度の硫酸溶液に浸漬することにより、銅表面に付着しているスマット等を除去する。当該スマットは、上記銅酸化膜除去工程によって生じた微粉末状の黒色物質である。活性化工程(S3)は、例えば、室温の硫酸溶液に前記絶縁基材を30秒間〜5分間浸漬することにより行うことができる。
【0034】
4.銅表面電位調整工程(S4)
銅表面電位調整工程(S4)では、活性化された前記絶縁基材を硫黄含有水溶液に浸漬することにより、銅表面に硫黄化合物を付着させて、銅の表面電位を調整する。上記硫黄含有水溶液は、チオ硫酸塩、チオールからなる群から選択される1種以上の硫黄化合物を含有する。前記チオ硫酸塩は、チオ硫酸ナトリウム又はチオ硫酸カリウムである。前記チオールは、チオリンゴ酸、チオウラシル及びチオ尿素の群から選択される1種以上である。
【0035】
銅表面電位調整工程(S4)では、活性化された上記絶縁基材を、例えば温度40〜80℃の上記硫黄含有水溶液に30秒間〜10分間浸漬することにより行われる。活性化された上記絶縁基材を上記硫黄含有水溶液に浸漬すると、上記硫黄含有水溶液に含まれる硫黄化合物が銅の表面に吸着し、銅の表面電位が後続の無電解パラジウムめっき工程(S5)においてパラジウムの析出し易い電位に調整される。
【0036】
硫黄含有水溶液は、上記硫黄化合物を0.001mol/L以上0.1mol/L以下の範囲で含有することが好ましい。上記硫黄化合物の含有量を0.001mol/L以上とすることにより、小型シングル電極やL/Sの狭い配線パターンであっても銅表面に上記硫黄化合物を確実に吸着させることができる。また、上記硫黄化合物の含有量は0.1mol/Lを上回ってもそれ以上の効果を得ることができない。硫黄含有水溶液は、上記硫黄化合物の含有量が0.005mol/L以上0.05mol/L以下の範囲であることがさらに好ましく、この範囲とすることにより上記表面電位調整を確実に行うことができる。
【0037】
上記硫黄含有水溶液は、上記硫黄化合物に加えて、錯化剤、pH調整剤等の各種成分を含むことができる。
【0038】
錯化剤として、例えば、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、マロン
酸の他、従来公知の種々の錯化剤を用いることができる。錯化剤としてエチレンジアミン四酢酸二カリウムを用いる場合、めっき前処理液における含有量は0.01mol/L以上1mol/Lの範囲であることが好ましい。錯化剤としてマロン酸を用いる場合、硫黄含有水溶液における含有量は0.01mol/L以上0.1mol/Lの範囲であることが好ましい。錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸二カリウム又はマロン酸を用いる場合には、後続の無電解パラジウムめっき工程(S5)においてパラジウムめっき皮膜の外観や色調を向上させることができる。
【0039】
pH調整剤として、従来公知の種々のpH剤を用いることができる。硫黄含有水溶液は、pH調整剤の添加により、pH4〜8の範囲に調整されることが好ましく、pH6.5〜7.5であることがより好ましい。硫黄含有水溶液のpHを前記範囲に調整することにより、上記表面電位調整を確実に行うことができる。
【0040】
5.無電解パラジウムめっき工程(S5)
次に、無電解パラジウムめっき工程では、銅の表面電位が調整された前記絶縁基材を無電解パラジウムめっき液に浸漬することにより無電解パラジウムめっき処理を行い、銅上にパラジウムめっき皮膜を成膜する。無電解パラジウムめっき処理は、置換めっきであると、銅が溶出して銅表面が荒れてしまうので、還元型めっき(自己触媒型めっき)によって行われることが好ましい。
【0041】
還元型無電解パラジウムめっき処理を行うに際し、例えば、水溶性パラジウム化合物と、エチレンジアミンと、還元剤としてのギ酸ナトリウムと、キレート剤としてのエチレンジアミン四酢酸二カリウムとを含む無電解パラジウムめっき液を用いることができる。
【0042】
無電解パラジウムめっき工程(S5)は、銅の表面電位が調整された上記絶縁基材を、例えば温度50〜90℃、pH4〜6の上記無電解パラジウムめっき液に浸漬することにより行われ、浸漬時間によってパラジウムめっき皮膜の膜厚を調整することができる。無電解パラジウムめっき液に浸漬された上記絶縁基材では、銅表面電位調整工程(S4)によって銅の表面電位がパラジウムの析出し易い電位に調整されているので、銅表面にのみ選択的にパラジウムを析出させパラジウムめっき皮膜を成膜することができる。
【0043】
また、銅表面電位調整工程(S4)の際に銅の溶出が抑制されたことにより、無電解パラジウムめっき工程(S5)を行った際に、銅上に成膜されるパラジウム
めっき皮膜にピンホールやボイドが生じることを抑制することができる。
【0044】
図8は、パラジウム触媒付与処理(S15)の後に無電解パラジウムめっき工程(S5)を施すことにより銅上に成膜されたパラジウム
めっき皮膜の表面をFE−SEMによって観察したSEM画像(倍率5000倍)である。
図8から、パラジウム
めっき皮膜に多くのピンホールが生じていて、ピンホールの孔径が大きいことが明らかである。これに対し、
図9は、銅表面電位調整工程(S4)の後に無電解パラジウムめっき工程(S5)を施すことにより銅上に成膜されたパラジウム
めっき皮膜の表面を観察したSEM画像(倍率5000倍)であり、
図10はその断面を観察したSEM画像(倍率3万倍)である。
図9及び
図10から、銅1に成膜されたパラジウム
めっき皮膜2に生じたピンホールは非常に少ない上に、
図8で観察されたピンホールよりも孔径が小さいことが明らかである。
【0045】
また、銅が例えば小型のシングル電極やL/Sが狭い配線のように表面積が狭い場合であっても、硫黄化合物銅表面への硫黄化合物の付着によって銅の表面電位がパラジウムの析出し易い電位に調整されているので、パラジウム析出異常が発生せず、銅上にパラジウムめっき皮膜を確実に成膜することができる。
【0046】
6.無電解金めっき工程(S6)
次に、無電解金めっき工程では、銅上にパラジウムめっき皮膜が成膜された絶縁基材を無電解金めっき液に浸漬することにより無電解金めっき処理を行い、パラジウムめっき皮膜上に金めっき皮膜を成膜する。無電解金めっき処理は、置換めっきであると、パラジウムが溶出してパラジウムめっき皮膜表面が荒れてしまうので、還元型めっき(自己触媒型めっき)によって行われることが好ましい。
【0047】
還元型無電解金めっき処理を行うに際し、例えば、水溶性金化合物と、クエン酸又はその塩と、エチレンジアミン四酢酸又はその塩と、還元剤としてのヘキサメチレンテトラミンと、炭素数3以上のアルキル基及び3つ以上のアミノ基を含む鎖状ポリアミンとを含む無電解金めっき液を用いることができる。
【0048】
無電解金めっき工程は、銅上にパラジウムめっき皮膜が成膜された絶縁基材を、例えば温度40〜90℃、pH7.5〜9.0の上記無電解金めっき液に浸漬することにより行われ、浸漬時間によって金めっき皮膜の膜厚を調整することができる。無電解金めっき液に浸漬された上記絶縁基材では、銅上に成膜されたパラジウムめっき皮膜表面にのみ選択的に金を析出させ金めっき皮膜を成膜することができる。このとき、絶縁基材上にはパラジウムめっき皮膜が成膜されていないため、絶縁基材上には金めっき皮膜が成膜されない。
【0049】
以上のとおり、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスによれば、表面電位調整工程(S4)によって銅の表面電位がパラジウムが析出され易い電位に調整される。この結果、無電解パラジウムめっき工程(S5)において、絶縁基材上にパラジウムめっき皮膜が成膜されることなく、銅上にのみ選択的にパラジウム
めっき皮膜を成膜することができる。その後、無電解金めっき工程(S6)を行うと、結果として、銅上にのみ選択的にパラジウム/金めっき皮膜を成膜することができ、絶縁基材上にはパラジウム
めっき皮膜や金めっき皮膜が成膜されることを防ぐことができる。
【0050】
よって、例えば、絶縁基材上に設けられL/S=10μm/10μmである銅配線に対して、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスを行うことにより、絶縁基材上にパラジウム
めっき皮膜や金めっき皮膜が成膜されることなく、銅配線上のみに選択的にパラジウム/金めっき皮膜を成膜することができるため、銅配線同士の短絡を防ぐことができる。すなわち、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスによれば、小型のシングル電極やL/Sが狭い配線をめっき対象とする場合であっても、絶縁基材にめっき皮膜が成膜されることなく、銅上にのみ選択的にパラジウム/金めっき皮膜を成膜することができる。
【0051】
また、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスでは、表面電位調整工程(S4)によって銅の表面電位がパラジウムが析出され易い電位に調整されるため、小型のシングル電極やL/Sが狭い配線をめっき対象とする場合であっても、パラジウム析出異常が発生せず、パラジウム/金めっき皮膜を確実に成膜することができる。
【0052】
また、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスでは、S1〜S4の各工程で銅の溶出を抑制しているので、無電解パラジウムめっき工程(S5)でピンホールやボイドが非常に少ないパラジウムめっき皮膜を得ることができる。
【0053】
さらに、表面電位調整工程(S4)で用いられる硫黄含有水溶液は、さらに、後続の無電解パラジウムめっき工程(S5)において触媒として作用することができる物質を含んでもよく、例えば、パラジウム化合物を含んでもよい。上記パラジウム化合物として、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム等のパラジウム化合物を挙げることができる。
【0054】
表面電位調整工程でパラジウム化合物を含む硫黄含有水溶液を用いる場合、活性化された上記絶縁基材を硫黄含有水溶液に浸漬すると、上記硫黄含有水溶液に含まれるパラジウム化合物から生じたパラジウムが銅表面に選択的に付着する。これは、硫黄化合物の銅表面への吸着によって、銅の表面電位が無電解パラジウムめっき工程(S5)においてパラジウムの析出し易い電位に調整されているためである。その後、無電解パラジウムめっき工程(S5)を行うと、銅表面に付着したパラジウム触媒を核として、銅表面にのみ選択的にパラジウムを析出させパラジウムめっき皮膜を成膜することができる。このため、硫黄含有水溶液にパラジウム化合物を添加した場合には、その後のめっき処理によって、例えばL/S=30μm/30μmのような非常に微細な銅配線や、例えば0.5mm角のような極小サイズの銅製シングル電極に対しても、銅上にのみ選択的にパラジウム/金めっき皮膜を成膜することができる。
【0055】
硫黄含有水溶液が上記パラジウム化合物を含有する場合、その含有量は10mg/L以下であることが好ましい。パラジウム化合物の含有量は微量であってもその効果を得ることができるが、10mg/Lを超えると、上述したようにパラジウムの銅への付着に伴って銅が溶出することがある。
【0056】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0057】
本実施例では、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスのうち、脱脂工程(S1)、銅酸化膜除去工程(S2)、活性化工程(S3)、銅表面電位調整工程(S4)及び無電解パラジウムめっき工程(S5)を、0.5〜4mm角の種々のサイズの銅電極(シングル電極)が設けられた絶縁基材に対して行うことにより、銅電極上にパラジウムめっき皮膜を成膜した。脱脂工程(S1)では、上述の中性
脱脂溶液を用いた。銅酸化膜除去工程(S2)では、上述の上記銅酸化膜除去溶液を用いた。表面電位調整工程(S4)では、パラジウム化合物を含有しない上述の硫黄含有水溶液を用いた。無電解パラジウムめっき工程(S5)では厚さ0.1μmのパラジウムめっき皮膜を成膜し、その後、温度175℃で4時間熱処理を施した。
【実施例2】
【0058】
本実施例では、表面電位調整工程(S4)で、10mg/Lのパラジウム化合物を含有する硫黄含有水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同様に、上記S1〜S5の各工程を行った。
【0059】
〔比較例1〕
本比較例では、従来技術の無電解パラジウム/金めっきプロセスのうち、S11〜S15及びS17の各処理を順に行った。脱脂処理(S11)では、上述の酸性溶液を用いた。エッチング処理(S12)では、上述の3,3’−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸ナトリウム)と
硫酸との混合溶液を用いた。パラジウム触媒付与処理(S15)では、パラジウム化合物30mg/Lと硫酸イオンとを含むパラジウム触媒含有溶液を用いた。無電解パラジウムめっき処理(S17)は、実施例1の無電解パラジウムめっき工程(S5)と同様に行った。
【0060】
<評価>
実施例1〜2及び比較例1の無電解パラジウム/金めっきプロセスによって得られた各パラジウムめっき皮膜の皮膜性を金属顕微鏡による目視によって観察することにより、パラジウムめっき皮膜の良否を判定した。結果を表1に示す。表1における判定基準は次のとおりである。
良好…電極全体が完全に被覆されている。
不良…被覆されていない部分が存在する。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すとおり、実施例1〜2のプロセスによれば、銅電極のサイズが0.5mm角〜4mm角のいずれの場合であっても、良好なパラジウム
めっき皮膜を成膜することができたことが明らかである。一方、比較例1のプロセスによれば、0.5mm角の銅電極に対してパラジウムめっき皮膜を良好に成膜できなかったことが明らかである。
【0063】
次に、実施例1のプロセスで得られたパラジウム
めっき皮膜に対して温度175℃で4時間熱処理を施した後、パラジウムめっき皮膜をオージェ電子分光分析装置によって測定した。
図11に表面元素分析の結果を示し、
図12に深さ方向分析の結果を示す。
【0064】
図11に示すとおり、表面元素分析によって、パラジウムめっき皮膜の表面でパラジウム(Pd)が検出されたが、銅(Cu)は検出されなかった。通常、めっき皮膜の表面に銅が存在すれば、700eV付近に銅のピークが出現する。よって、
図11からパラジウムめっき皮膜中に銅が拡散していないことが明らかである。
【0065】
また、
図12に示すとおり、深さ方向分析によって、パラジウムめっき皮膜/大気との界面から0.1μmまでの領域(
図12中のスパッタ回数が約20回までの領域)で、銅は全く検出されなかった。よって、
図12からも、厚さ0.1μmのパラジウムめっき皮膜に銅が拡散していないことが明らかである。そして、
図11及び
図12の結果から、実施例1のS1〜S5の工程を行うプロセスによって得られたパラジウム
めっき皮膜は、ピンホールの形成が抑制され、且つ、結晶が細かく緻密であるために、銅の拡散を防ぐことができたと考えられる。
【実施例3】
【0066】
本実施例では、L/S=30μm/30μmである銅配線に対して、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセス、すなわち、実施例1で行ったプロセス(S1〜S5の工程)に続いて無電解金めっき工程(S6)を行うことにより、パラジウム/金めっき皮膜を成膜した。無電解パラジウムめっき工程(S5)では厚さ0.05〜0.1μmのパラジウムめっき皮膜を成膜した。無電解金めっき工程(S6)では厚さ0.05〜0.1μmのパラジウムめっき皮膜を成膜した。その後、温度175℃で4時間熱処理を施した。
【0067】
〔比較例2〕
本比較例では、実施例3と同一の銅配線に対して、従来技術の無電解パラジウム/金めっきプロセス、すなわち、比較例1で行ったプロセス(S11〜S15及びS17)に続いて無電解金めっき処理(S18)を行うことにより、パラジウム/金めっき皮膜を成膜した。無電解金めっき処理(S18)は、実施例3の無電解金めっき工程(S6)と同様に行った。
【0068】
〔参考例1〕
本参考例では、実施例3と同一の銅配線に対して、従来技術の無電解ニッケル/金めっきプロセス、すなわち、比較例1で行ったS11〜S15を行った後に、無電解ニッケルめっき処理(S16)及び無電解金めっき処理(S18)を行うことにより、銅配線上にニッケル/金めっき皮膜を成膜した。無電解金めっき処理(S18)は、実施例3の無電解金めっき処理(S6)と同様に行った。無電解ニッケルめっき処理によって厚さ5μmのニッケルめっき皮膜を成膜し、無電解金めっき処理によって厚さ0.2μmの金めっき皮膜を成膜した。
【0069】
〔参考例2〕
本参考例では、実施例3と同一の銅配線に対して、従来技術の無電解ニッケル/パラジウム/金めっきプロセス、すなわち、比較例1で行ったS11〜S15を行った後に、無電解ニッケルめっき処理(S16)、無電解パラジウムめっき処理(S17)及び無電解金めっき処理(S18)を行うことにより、銅配線上にニッケル/パラジウム/金めっき皮膜を成膜した。無電解パラジウムめっき処理(S17)及び無電解金めっき処理(S18)は、実施例3の無電解パラジウムめっき処理(S5)及び無電解金めっき処理(S6)と同様に行った。無電解ニッケルめっき処理によって厚さ5μmのニッケルめっき皮膜を成膜し、無電解パラジウムめっき処理によって厚さ0.1μmのパラジウムめっき皮膜を成膜し、無電解金めっき処理によって厚さ0.1μmの金めっき皮膜を成膜した。
【0070】
<評価>
実施例3のプロセスで得られたパラジウム/金めっき皮膜(パラジウム0.1μm/金0.1μm)に対して温度175℃で4時間熱処理を施した後、パラジウムめっき皮膜をオージェ電子分光分析装置によって測定したところ、
図11及び
図12と同様の傾向が見られた。すなわち、表面元素分析及び深さ方向分析の両方において、金めっき皮膜中に銅は全く検出されなかった。このことから、本実施形態の無電解パラジウム/金めっきプロセスによって得られたパラジウム/金めっき皮膜では、パラジウムめっき皮膜はピンホール形成が抑制されていて、且つ、緻密であるために、銅の拡散を防ぐことができ、その結果、金めっき皮膜への銅の拡散を防ぐことができたことが明らかである。
【0071】
次に、実施例3のプロセスで得られたパラジウム/金めっき皮膜及び参考例2のプロセスで得られたニッケル/パラジウム/金めっき皮膜の表面を、FE−SEMによって観察した。
図13に実施例3のプロセスで得られたパラジウム/金めっき皮膜(パラジウム0.1μm/金0.1μm)のSEM画像(倍率1000倍)を示し、
図14に参考例2のプロセスで得られたニッケル/パラジウム/金めっき皮膜(ニッケル5μm/パラジウム0.1μm/金0.1μm)のSEM画像(倍率1000倍)を示す。また、表2に実施例3のプロセスで得られたパラジウム/金めっき皮膜における、金の絶縁基材上へのはみ出しの有無を示す。
【0072】
図13から、実施例3のプロセスによれば、銅配線1を被覆するパラジウム
めっき皮膜2上に成膜された金
めっき皮膜3は、銅配線1から横方向(図の左右方向)へのはみ出しが殆どないことが確認された。この結果から、実施例3のプロセスによれば、銅配線1上にのみ選択的にパラジウム
めっき皮膜2及び金
めっき皮膜3が成膜されたことが明らかである。また、実施例3のプロセスによれば、銅配線1間の絶縁基材4上に金
めっき皮膜3が成膜されないので、銅配線1同士の短絡を防ぐことができることが明らかである。さらに、表2に示すように、実施例3のプロセスで得られ、パラジウムめっき皮膜厚さ及び金めっき皮膜厚さが異なる各パラジウム/金めっき皮膜においても、同様の結果が得られた。
【0073】
【表2】
【0074】
一方、
図14から、参考例2のプロセスによれば、銅配線1を被覆するパラジウム
めっき皮膜2上に成膜された金
めっき皮膜3の一部が、銅配線1から横方向にはみ出していることが確認された。この結果から、参考例2のプロセスによれば、銅配線1上だけでなく銅配線1間の絶縁基材4上にも金
めっき皮膜3が成膜され、銅配線1同士が短絡するおそれがあることが明らかである。
【0075】
次に、実施例3及び比較例2のプロセスによって得られた種々の膜厚のパラジウム/金めっき皮膜に対して温度175℃で4時間熱処理を施した後、各めっき皮膜の金めっき皮膜の表面に、線径25μmの金ワイヤーをワイヤーボンディング装置によって接合した。続いて、プルテスターにて各金属ワイヤーを引っ張ったときの接合強度、すなわちワイヤーボンディング強度を測定した。結果を表3に示す。表3における判定基準は次のとおりである。
良好…ボンディング接合が良好であり、且つ、プル強度が良好である。
不良…ボンディング接合が不可能であるか、又は、プル強度が測定不能である。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示すとおり、実施例3のプロセスによって得られたパラジウム/金めっき皮膜では、
パラジウムめっき皮膜及び金めっき皮膜の膜厚に関係なく、いずれも良好な結果が得られた。一方、比較例2のプロセスによって得られたパラジウム/金めっき皮膜では、
パラジウムめっき皮膜及び金めっき皮膜の両方が0.05μmであるときには良好な結果が得られなかった。
【0078】
次に、実施例3のプロセスによって得られたパラジウム/金めっき皮膜(パラジウム膜厚0.1μm、金膜厚0.1μm、合計膜厚0.2μm)、参考例1のプロセスによって得られたニッケル/金めっき皮膜(ニッケル膜厚0.5μm、金膜厚0.3μm、合計膜厚0.8μm)及び、参考例2のプロセスによって得られたニッケル/パラジウム/金めっき皮膜(ニッケル膜厚0.5μm、パラジウム膜厚0.1μm、金膜厚0.1μm、合計膜厚0.7μm)に対して、上述の熱処理を施した後、各めっき皮膜の金めっき皮膜の表面に金属ワイヤーを接合し、ワイヤーボンディング強度を測定した。サンプル数は25とした。金属ワイヤーとして、線径25μmの金ワイヤー、線径25μmの銀ワイヤー、線径25μmの銅ワイヤーを用いた。
図15に金ワイヤーを用いたときのワイヤーボンディング強度を示し、
図16に銀ワイヤーを用いたときのワイヤーボンディング強度を示し、
図17に銅ワイヤーを用いたときのワイヤーボンディング強度を示す。
【0079】
図15から、実施例3のプロセスによって得られたパラジウム/金めっき皮膜は、参考例1のプロセスによって得られたニッケル/金めっき皮膜と比較して、合計膜厚が1/4であるにもかかわらず、金ワイヤーを用いたときのワイヤーボンディング強度の平均値が同程度であることが明らかである。また、実施例3のプロセスによって得られたパラジウム/金めっき皮膜は、参考例2のプロセスによって得られたニッケル/パラジウム/金めっき皮膜と比較して、ニッケルめっき皮膜が存在しないにもかかわらず、金ワイヤーを用いたときのワイヤーボンディング強度の平均値が優れることが明らかである。
【0080】
図16及び
図17から、実施例3のプロセスによって得られたパラジウム/金めっき皮膜は、参考例1のプロセスによって得られたニッケル/金めっき皮膜及び参考例2のプロセスによって得られたニッケル/パラジウム/金めっき皮膜と比較して、銀ワイヤーを用いたときのワイヤーボンディング強度及び銅ワイヤーを用いたときのワイヤーボンディング強度の平均値が優れることが明らかである。
【0081】
以上から、実施例3の無電解パラジウム/金めっきプロセスによれば、ニッケル/金めっき皮膜及びニッケル/パラジウム/金めっき皮膜と同等以上の接合強度を有するパラジウム/金めっき皮膜を成膜することができることが明らかである。また、実施例3の無電解パラジウム/金めっきプロセスによれば、めっき膜厚が小さくても接合強度を確保できるパラジウム/金めっき皮膜を成膜することができることが明らかである。
【0082】
さらに、これらの結果から、従来技術のニッケル/金めっき皮膜又はニッケル/パラジウム/金めっき皮膜が用いられる技術分野において、本実施形態の電解パラジウム/金めっきプロセスによって成膜されるパラジウム/金めっき皮膜への置き換えが可能であると考えられる。