特許第6340086号(P6340086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6340086超音波体組織検出装置、超音波体組織検出方法、および、超音波体組織検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6340086
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】超音波体組織検出装置、超音波体組織検出方法、および、超音波体組織検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   A61B8/14ZDM
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-566055(P2016-566055)
(86)(22)【出願日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】JP2015083155
(87)【国際公開番号】WO2016104034
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-265167(P2014-265167)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井 竜雄
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−301035(JP,A)
【文献】 特開2010−94422(JP,A)
【文献】 特開昭61−40678(JP,A)
【文献】 特開2014−33914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
G06T 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
医中誌WEB
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体の体内に超音波信号を送信して、そのエコー信号を受信する送受信部と、
前記検体の表面に沿った複数の位置で取得した前記エコー信号から、前記超音波信号の送信方向と、前記超音波信号の送信方向に略直交する走査方向の二次元データを取得する二次元データ取得部と、
前記超音波信号の送信方向から決定される深度方向と該深度方向に直交する水平方向の二次元で前記二次元データを空間周波数変換し、判定対象位置に対する空間周波数分布を算出する空間周波数分布算出部と、
前記空間周波数分布の前記深度方向に沿った周波数成分の分布と前記水平方向に沿った周波数成分の分布とに基づいて、前記判定対象位置が所望の体組織か否かの判定を行う判定部と、
を備える、超音波体組織検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波体組織検出装置であって、
前記判定部は、
前記空間周波数分布の前記深度方向に沿った空間周波数と前記水平方向に沿った空間周波数とが同じ二点の前記周波数成分の違いに基づいて前記判定を行う、
超音波体組織検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波体組織検出装置であって、
前記判定部は、
前記二点の周波数成分の差を前記深度方向および前記水平方向に沿って積算した積算値を用いて前記判定を行う、
超音波体組織検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波体組織検出装置であって、
前記判定部は、
予め設定した閾値と前記積算値との比較結果を用いて前記判定を行う、
超音波体組織検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波体組織検出装置であって、
前記所望の体組織は筋組織であり、
前記判定部は、前記積算値が前記閾値以上であれば、前記判定対象位置は前記筋組織であると判定する、
超音波体組織検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の超音波体組織検出装置であって、
前記判定部は、
前記空間周波数分布を用いて、前記超音波信号の送信方向と前記深度方向との角度差を検出し、
該角度差を用いて、前記深度方向に沿った振幅の分布と前記水平方向に沿った振幅の分布とを算出する、
超音波体組織検出装置。
【請求項7】
検体の体内に超音波信号を送信して、そのエコー信号を受信する送受信工程と、
前記検体の表面に沿った複数の位置で取得した前記エコー信号から、前記超音波信号の送信方向と、前記超音波信号の送信方向に略直交する走査方向の二次元データを取得する二次元データ取得工程と、
前記超音波信号の送信方向から決定される深度方向と該深度方向に直交する水平方向の二次元で前記二次元データを空間周波数変換し、判定対象位置に対する空間周波数分布を算出する空間周波数分布算出工程と、
前記空間周波数分布の前記深度方向に沿った周波数成分の分布と前記水平方向に沿った周波数成分の分布とに基づいて、前記判定対象位置が所望の体組織か否かの判定を行う判定工程と、
を備える、超音波体組織検出方法。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波体組織検出方法であって、
前記判定工程は、
前記空間周波数分布を用いて、前記超音波信号の送信方向と前記深度方向との角度差を検出し、
該角度差を用いて、前記深度方向に沿った周波数成分の分布と前記水平方向に沿った周波数成分の分布とを算出する、
超音波体組織検出方法。
【請求項9】
検体の体内に超音波信号を送信して得られるエコー信号から検出対象の体組織を判定する処理をコンピュータに実行させる超音波体組織検出プログラムであって、
前記コンピュータは、
前記検体の表面に沿った複数の位置で取得した前記エコー信号から、前記超音波信号の送信方向と、前記超音波信号の送信方向に略直交する走査方向の二次元データを取得する二次元データ取得処理と、
前記超音波信号の送信方向から決定される深度方向と該深度方向に直交する水平方向の二次元で前記二次元データを空間周波数変換し、判定対象位置に対する空間周波数分布を算出する空間周波数分布算出処理と、
前記空間周波数分布の前記深度方向に沿った周波数成分の分布と前記水平方向に沿った周波数成分の分布とに基づいて、前記判定対象位置が所望の体組織か否かの判定を行う判定処理と、
を実行する、超音波体組織検出プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波体組織検出プログラムであって、
前記コンピュータは、
前記判定処理として、
前記空間周波数分布を用いて、前記超音波信号の送信方向と前記深度方向との角度差を検出し、
該角度差を用いて、前記深度方向に沿った周波数成分の分布と前記水平方向に沿った周波数成分の分布とを算出する、
超音波体組織検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を体内に送信して、そのエコー信号から対象の体組織を検出する超音波体組織検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているような超音波診断装置が、各種考案されている。このような超音波診断装置は、身体の外部から体内に超音波信号を送信し、そのエコー信号から体内の状態を判定するための画像データを生成する。
【0003】
具体的には、超音波診断装置は、超音波送受信用のプローブを用いて、皮膚表面に直交する方向に、超音波信号を送信する。超音波診断装置は、この超音波信号が体組織で反射して得られるエコー信号を受信する。超音波診断装置は、超音波プローブの位置を皮膚表面に沿って移動させ、複数箇所でエコー信号を受信する。これにより、超音波診断装置は、超音波信号の送信方向に平行な深度方向と皮膚表面に平行な走査方向との二次元のエコー画像を形成している。例えば、超音波診断装置は、エコー信号の振幅が大きな位置の輝度を高く設定し、エコー信号の振幅が小さな位置の輝度を低く設定することで、エコー信号の振幅を輝度で表した二次元のエコー画像を形成している。
【0004】
このような二次元のエコー画像は、所望の体組織を検出する処理に利用することができる。例えば、大腿骨の表面に、筋組織、皮下組織、および皮膚が層状に存在する箇所において、筋組織を検出する処理に利用することができる。
【0005】
従来、筋組織と皮下組織とを判別する場合、ディスプレイ等に表示された二次元のエコー画像の輝度分布のパターンをオペレータが観察する。オペレータは、皮下組織の輝度分布のパターンと、筋組織の輝度分布のパターンの差を予め認識しておく。オペレータは、輝度分布のパターンから皮下組織と筋組織とを判別する。さらに、オペレータは、輝度分布のパターンが変化する位置を皮下組織と筋組織との境界(筋膜)であると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−92686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のオペレータが二次元のエコー画像を観察して筋組織と皮下組織とを判別する方法では、筋組織の検出精度がオペレータの経験に依存する。
【0008】
また、筋組織に対するエコー信号の振幅(エコー画像の輝度)は、高齢化に伴い変化してしまい、検出対象の人の年齢によって、皮下組織と筋組織との輝度分布のパターンの違いが変化してしまう。
【0009】
このように、オペレータが二次元のエコー画像を観察して、筋組織を検出する従来の方法では、手動で筋組織を検出するものであり、高精度で確実な筋組織の検出を行うことが容易ではない。同様に、皮下組織を検出する場合も、筋組織との判別が容易でない。
【0010】
したがって、本発明の目的は、検出対象の体組織を、高精度、確実且つ自動で検出する超音波体組織検出装置、超音波体組織検出方法、および、超音波体組織検出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の超音波体組織検出装置は、送受信部、二次元データ取得部、空間周波数分布算出部、および、判定部を備える。送受信部は、検体の体内に超音波信号を送信して、そのエコー信号を受信する。二次元データ取得部は、複数の位置で取得したエコー信号から、超音波信号の送信方向と超音波信号の送信方向に略直交する走査方向の二次元で構成される二次元データを取得する。空間周波数分布算出部は、超音波信号の送信方向から決定される深度方向と該深度方向に直交する水平方向の二次元において二次元データを周波数変換し、判定対象位置に対する空間周波数分布を算出する。判定部は、空間周波数分布の深度方向に沿った周波数成分の分布と水平方向に沿った周波数成分の分布とに基づいて、判定対象位置が所望の体組織か否かの判定を行う。
【0012】
この構成では、所望の体組織の空間周波数分布と当該所望の体組織に隣接する他の体組織の空間周波数分布との違いを、数値として得ることができる。したがって、この数値を評価することで、所望の体組織か否かを判定し、所望の体組織を検出することができる。
【0013】
また、この発明の超音波体組織検出装置では、判定部は、空間周波数分布の深度方向と水平方向のそれぞれについて空間周波数が同じ二点の周波数成分の違いを用いて判定を行う。
【0014】
また、この発明の超音波体組織検出装置では、判定部は、二点の周波数成分の差を深度方向および水平方向に沿って積算した積算値を用いて判定を行う。
【0015】
また、この発明の超音波体組織検出装置では、判定部は、予め設定した閾値と積算値との比較結果を用いて判定を行う。
【0016】
これらの構成では、所望の体組織を判定する具体的な態様を示しており、これらの構成を用いることで、所望の体組織を確実、高精度且つ自動で検出することができる。
【0017】
また、この発明の超音波体組織検出装置では、所望の体組織は筋組織である。判定部は、積算値が閾値以上であれば、判定対象位置が筋組織であると判定する。
【0018】
この構成では、所望の体組織として筋組織を確実、高精度且つ自動で検出することができる。
【0019】
また、この発明の超音波体組織検出装置では、判定部は、空間周波数分布を用いて、超音波信号の送信方向と深度方向との角度差を検出する。判定部は、この角度差を用いて、深度方向に沿った周波数成分の分布と水平方向に沿った周波数成分の分布とを算出する。
【0020】
この構成では、超音波送信方向と深度方向とが平行でない場合であっても、所望の体組織を確実、高精度且つ自動で検出することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、筋組織、皮下組織等の検出対象の体組織を、高精度、確実且つ自動で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置の構成図
図2】本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置が形成する二次元エコー画像の例を示す図
図3】本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置が算出する空間周波数分布の例を示す図
図4】本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置が算出する周波数成分特性の例を示す図
図5】本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出方法の処理フローを示すフローチャート
図6】深度方向と超音波信号の送信方向とが平行でない場合の二次元エコー画像を示す図、および、皮下組織の空間周波数分布を示す図
図7】本発明の第2の実施形態に係る超音波体組織検出方法の処理フローを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置、超音波体組織検出方法、および超音波体組織検出プログラムについて、図を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置の構成図である。
【0024】
超音波体組織検出装置10は、送受信部11、二次元データ取得部14、空間周波数分布算出部15、および、判定部16を備える。送受信部11は、送信制御部12、エコー信号受信部13、および、プローブ100を備える。
【0025】
送信制御部12は、超音波領域の周波数からなる搬送波をパルス波形に成形した送信制御信号を生成する。送信制御部12は、送信制御信号をプローブ100へ出力する。
【0026】
プローブ100は、例えば複数のエレメントからなるリニアアレイ型の超音波振動子を備える。超音波振動子は、送信制御信号によって励振され、超音波信号を外部(検体の体内)へ送信する。この際、超音波振動子は、プローブ100の送受波面に直交する方向(超音波信号の送信方向)に軸を有し、所定の送信ビーム角からなる超音波信号を送信する。
【0027】
プローブ100の送受波面は、検体の皮膚表面と平行になるように、皮膚表面に当接している。したがって、超音波振動子から送信された超音波信号は、検体内において、皮膚表面に略直交する方向(深度方向)に伝搬する。すなわち、超音波信号の送信方向は深度方向に一致する。
【0028】
超音波信号は、検体内の各体組織で反射する。具体的には、筋組織、皮下組織、および皮膚がこの順で大腿骨の表面を覆っている箇所では、皮膚、皮下組織、筋組織、および大腿骨の表面で超音波信号が反射する。この反射による生じるエコー信号は、検体内において、超音波信号の送信方向に平行に伝搬し、超音波振動子で受信される。
【0029】
プローブ100は、検体の皮膚表面に平行な方向に沿って走査可能に配置されている。プローブ100は、走査方向に沿った複数の箇所において、超音波振動子から超音波信号を送信し、そのエコー信号を受信する。プローブ100は、超音波振動子で受信したエコー信号を、二次元データ取得部14に出力する。
【0030】
二次元データ取得部14は、プローブ100が皮膚上の複数の位置から取得した上記エコー信号に基づいて二次元データを取得する。また、二次元データ取得部14は、二次元データを用いて二次元エコー画像を形成する。具体的には、二次元データ取得部14は、各エコー信号に対して、所定の時間間隔で設定されたサンプリングタイミング毎に振幅値を検出する。これにより、二次元データ取得部14は、それぞれのエコー信号に対して、超音波信号の送信方向に沿って配列された複数のサンプリング点毎に振幅値を算出する。
【0031】
二次元データ取得部14は、それぞれに複数の振幅値を有する複数のエコー信号を走査方向に沿って配列することで、超音波信号の送信方向と走査方向の二次元領域からなる振幅値の分布を得る。ここで、本実施形態に示すように、超音波信号の送信方向が皮膚表面に直交していれば、超音波信号の送信方向は深度方向となり、走査方向は皮膚に平行な方向である水平方向となる。二次元データ取得部14は、振幅値に応じて輝度を設定することで、二次元エコー画像を形成する。
【0032】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置が形成する二次元エコー画像の例を示す図である。なお、図2では、振幅が大きいほど輝度が高く(白く)なり、振幅が小さいほど輝度が低く(黒く)なるように図示している。
【0033】
図2の二次元エコー画像データが示すように、皮膚表面および大腿骨表面では、輝度が高くなる(エコー信号の振幅が高くなる)。また、皮膚表面および大腿骨表面では、走査方向すなわち皮膚表面に平行な方向に沿って延びる高輝度の線状部がそれぞれ一本ずつ現れる。この皮膚表面および大腿骨表面に起因する各線状部は、走査方向に沿って途中で切れることなく、且つ、太く(超音波信号の送信方向に沿った長さが長く)現れる。
【0034】
図2の二次元エコー画像データが示すように、皮下組織では、走査方向に沿って延びる高輝度の線状部が複数現れる。これらの線状部は、走査方向に沿って比較的長く現れるが、上述の皮膚表面および大腿骨表面に起因する線状部よりは短い。また、これらの線状部は、超音波信号の送信方向(深度方向)に沿って或程度の範囲の間隔をおいて連続で現れる。
【0035】
図2の二次元エコー画像データが示すように、筋組織では、短い線状部が現れ、若年者では低輝度であるが高齢化と共に高輝度となる傾向がある。このため各部位の全体的な輝度だけで見ると皮下組織の平均輝度と筋内の平均輝度の大小関係は、若年者と高齢者で逆転してしまい、輝度の平均では皮下組織と筋組織を区別することが出来ない。なお、これらの線状部は、皮下組織に起因する線状部よりも短い。また、これらの線状部は、超音波信号の送信方向(深度方向)に沿って、略同じ間隔で現れるとは限らず、概ね一定しない間隔で現れる。
【0036】
図2の二次元エコー画像データが示すように、筋膜、すなわち、筋組織の表面では、皮膚表面および大腿骨表面と類似する特徴を有する線状部が現れる。しかしながら、筋膜に起因する線状部は、皮下組織や筋組織に現れる線状部と同程度の太さで現れる。
【0037】
以上のように、二次元エコー画像(二次元データ)において、皮下組織と筋組織とは、皮膚表面および大腿骨表面と異なる特徴を有する。また、二次元エコー画像において、皮下組織と筋組織とは、異なる特徴を有する。
【0038】
空間周波数分布算出部15は、判定対象位置を中心にした二次元データから空間周波数分布を算出する。具体的には、空間周波数分布算出部15は、二次元データ、すなわち複数のエコー信号による振幅値の二次元分布に対して、走査方向(水平方向)の周波数成分uと超音波信号の送信方向(深度方向)の周波数成分vとによって定義される二次元の空間周波数変換処理を実行する。
【0039】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置が算出する空間周波数分布の例を示す図である。図3(A)は、皮下組織の空間周波数分布を示し、図3(B)は、筋組織の空間周波数分布を示す。
【0040】
図3(A)の空間周波数分布に示すように、皮下組織では、超音波信号の送信方向(深度方向)において、DC成分から高周波数成分まで幅広い周波数帯域において、各周波数成分の強度値(値)(以下、これを周波数成分という)が高くなる。これは、上述のように、皮下組織では、超音波信号の送信方向に沿って或程度の間隔をおいて連続で、線状部(エコー信号の振幅値が高い部分)が現れることによる。
【0041】
また、図3(A)の空間周波数分布に示すように、皮下組織では、走査方向(水平方向)において、DC成分は高いものの、他の周波数、特に高周波数成分は低くなる。これは、上述のように、皮下組織では、走査方向に沿って線状部が延びており、且つ、走査方向に沿って線状部が繰り返される構成を有していないことによる。一方で、深度方向に対し明瞭な線状部が繰り返されるため、超音波信号の送信方向(深度方向)の高周波成分は大きくなる。
【0042】
図3(B)の空間周波数分布に示すように、筋組織では、超音波信号の送信方向(深度方向)および走査方向(水平方向)の両方において、DC成分は高いものの、他の周波数、特に高周波数成分は低くなる。
【0043】
これは、上述のように、筋組織では、走査方向に沿って線状部が延びている長さが短いこと、超音波信号の送信方向に沿って複数の線状部が連続的に繰り返し現れる構成を有していないことによる。
【0044】
以上のように、空間周波数分布において、皮下組織と筋組織とは、異なる特徴を有する。
【0045】
空間周波数分布算出部15は、判定対象位置毎に空間周波数分布を算出して、判定部16に出力する。
【0046】
判定部16は、空間周波数分布における超音波送信方向(深度方向)に沿った周波数成分特性(v方向周波数成分特性)と、空間周波数分布における走査方向(水平方向)に沿った周波数成分特性(u方向周波数成分特性)を取得する。v方向周波数成分特性は、DC成分を表す点を基準点として、当該基準点を中心に超音波送信方向に沿った各周波数成分の配列によって表される。u方向周波数成分特性は、前記基準点を中心に走査方向に沿った各周波数成分の配列によって表される。
【0047】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置が算出する周波数成分特性の例を示す図である。図4(A)は、皮下組織の周波数成分特性を示し、図4(B)は、筋組織の周波数成分特性を示す。
【0048】
図4(A)の周波数成分特性に示すように、皮下組織では、v方向に沿った各周波数成分が定常的に高い。また、皮下組織では、u方向に沿ったDC成分は高いが、周波数が高くなるにしたがって周波数成分が低下していく。このため、基準点からv方向およびu方向に同じ周波数距離Df(図3図4参照)離れた周波数成分では、v方向周波数成分特性の周波数成分は、u方向周波数成分特性の周波数成分よりも大きくなる。これは、基準点近傍を除けば、殆ど全ての周波数成分で同じである。したがって、v方向周波数成分特性とu方向周波数成分特性との差は、DC成分付近の周波数成分を除き、略全体の周波数帯域に亘って、大きくなる。
【0049】
図4(B)の周波数成分特性に示すように、筋組織では、v方向、u方向によらず、DC成分は高いが、周波数が高くなるにしたがって周波数成分が低下していく。このため、基準点からv方向およびu方向に同じ周波数距離Df(図3図4参照)離れた周波数成分では、v方向周波数成分特性の周波数成分とu方向周波数成分特性の周波数成分とが略同じになる。これは、基準点近傍も含めて殆ど全ての周波数成分で同じである。したがって、v方向周波数成分特性とu方向周波数成分特性との差は、略全体の周波数帯域に亘って、小さくなる。
【0050】
判定部16は、このような皮下組織の周波数成分特性と筋組織の周波数成分特性との差を用いて、判定対象位置が皮下組織であるか、筋組織であるかを判定する。または、判定部16は、判定対象位置が、検出対象とする体組織、例えば筋組織であるか否かを判定する。
【0051】
具体的には、判定部16は、上述のように空間周波数分布の深度方向に沿った空間周波数と水平方向に沿った空間周波数とが同じ二点の周波数成分の差分値、すなわち、基準点から周波数距離が同じ位置のv方向周波数成分特性の周波数成分とu方向周波数成分特性の周波数成分の差分値を算出する。判定部16は、空間周波数分布から得られる各周波数成分に対してこの差分値の算出を行う。判定部16は、周波数成分に対する差分値を深度方向および水平方向に沿って積算し、この積算値を指標Sとして算出する。
【0052】
判定部16は、指標Sに対する閾値Thを予め記憶している。閾値Thは、予め実験等により、皮下組織の指標Sの平均値や最小値、筋組織の指標Sの平均値や最大値を取得しておき、これらの算術値から適宜設定されている。例えば、皮下組織の指標Sの平均値と筋組織の指標Sの平均値の中間値が閾値Thに設定される。
【0053】
判定部16は、指標Sと閾値Thを比較し、指標Sが閾値Th以上であれば、判定対象位置は皮下組織であると判定する。一方、判定部16は、指標Sが閾値Th未満であれば、判定対象位置は筋組織であると判定する。
【0054】
判定部16は、超音波信号の送信方向(深度方向)に沿って判定対象位置を移動させていき、判定対象位置毎に皮下組織であるか筋組織であるかを判定する。これにより、超音波信号の1送信毎(1スイープ毎)に皮下組織と筋組織との境界(筋膜)を検出することもでき、皮下組織の範囲(厚み)、および、筋組織の範囲(厚み)を検出することもできる。
【0055】
以上のように、本実施形態の構成を用いることにより、筋組織や皮下組織を、自動で確実、且つ高精度に検出することができる。なお、上述の実施形態では、筋組織および皮下組織の検出を例に説明したが、空間周波数分布が異なる体組織が存在する場合であれば、本実施形態の構成を用いることにより、検出対象とする体組織を、自動で確実、且つ高精度に検出することができる。
【0056】
なお、上述の説明では、各処理を個別の機能ブロックで実現する態様を示したが、上述の超音波信号による体組織の検出処理をプログラム化して記憶しておき、コンピュータ等の演算処理装置で読み出して実行するようにしてもよい。この場合、次に示すフローを用いればよい。図5は、本発明の第1の実施形態に係る超音波体組織検出方法の処理フローを示すフローチャートである。
【0057】
演算処理装置は、それぞれに異なる位置で超音波信号を送信し、そのエコー信号を取得する。すなわち、演算処理装置は、複数のスイープに対してエコー信号を取得する(S101)。
【0058】
演算処理装置は、複数のスイープのエコー信号を用いて、判定対象位置を含む二次元データを取得する(S102)。
【0059】
演算処理装置は、二次元データを用いて判定対象位置における空間周波数分布を算出する(S103)。
【0060】
演算処理装置は、空間周波数分布における超音波送信方向(v方向)の周波数成分と、走査方向(u方向)の周波数成分との差から指標Sを算出する(S104)。
【0061】
演算処理装置は、指標Sが閾値Th以上であれば(S105:YES)、判定対象位置を皮下組織であると判定する(S106)。演算処理装置は、指標Sが閾値Th未満であれば(S105:NO)、判定対象位置を筋組織であると判定する(S107)。
【0062】
次に、本発明の第2の実施形態に係る超音波体組織検出装置について、図を参照して説明する。本実施形態に係る超音波体組織検出装置は、基本的な構成および処理については第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置と同じであり、第1の実施形態に係る超音波体組織検出装置と比較して、深度方向に対する超音波送信方向の傾き(角度差)を補正する機能を追加したものである。
【0063】
プローブ100を皮膚表面に当接した際、プローブ100の送受波面が傾き、体内の深度方向と超音波信号の送信方向とが平行にならない(深度方向と送信方向の角度差が生じる)場合がある。
【0064】
図6(A)は、深度方向と超音波送信方向とが平行でない場合の二次元エコー画像を示す図であり、図6(B)は、深度方向と超音波送信方向とが平行でない場合の皮下組織の空間周波数分布を示す図である。
【0065】
このような場合、図6(A)に示すように、皮下組織における複数の線状部の延びる方向と走査方向とが平行でなく、複数の線状部が間隔をおいて配列される方向と超音波信号の送信方向とが平行でなくなる。
【0066】
このため、図6(B)に示すように、皮下組織の空間周波数分布における周波数成分が高い周波数成分が列ぶ方向と、超音波送信方向とが平行でなくなる。
【0067】
本実施形態の超音波体組織検出装置は、図6(B)に示すように、値(強度)が高い周波数成分が列ぶ方向をv'方向とし、当該v'方向に直交する方向をu'方向に設定する。これにより、v'方向が深度方向となり、u'方向が水平方向となる。超音波体組織検出装置は、v'方向の周波数成分特性とu'方向の周波数成分特性との差から、判定対象位置が皮下組織か筋組織かを判定する。
【0068】
例えば、次に示すフローを用いて判定処理を行う。図7は、本発明の第2の実施形態に係る超音波体組織検出方法の処理フローを示すフローチャートである。
【0069】
演算処理装置は、複数のスイープに対してエコー信号を取得する(S201)。
【0070】
演算処理装置は、複数のスイープのエコー信号を用いて、判定対象位置を含む二次元データ(超音波送信方向と走査方向で二次元を定義)を取得する(S202)。なお、演算処理装置は、さらに、二次元データに基づいて二次元エコー画像データを形成してもよい。
【0071】
演算処理装置は、二次元データを用いて判定対象位置における空間周波数分布を算出する(S203)。
【0072】
演算処理装置は、空間周波数分布を用いて、広い周波数帯域で周波数成分が連続して高い方向を検出し、当該方向を深度方向(v'方向)に設定する。この処理に利用する空間周波数分布は、皮膚表面に近い位置のものを用いる。例えば、超音波信号の送信タイミングからの時間経過が短いものエコー信号を選択する。演算処理装置は、深度方向(v'方向)に直交する方向を、水平方向(u'方向)に設定する(S204)。
【0073】
演算処理装置は、空間周波数分布における深度方向(v'方向)の周波数成分と、水平方向(u'方向)の周波数成分との差から指標Sを算出する(S205)。
【0074】
演算処理装置は、指標Sが閾値Th以上であれば(S206:YES)、判定対象位置を皮下組織であると判定する(S207)。演算処理装置は、指標Sが閾値Th未満であれば(S206:NO)、判定対象位置を筋組織であると判定する(S208)。
【0075】
このような構成を用いることにより、超音波信号の送信方向が深度方向に対して平行でなくても、判定対象位置が皮下組織であるか筋組織であるかを、自動で確実、且つ高精度に検出することができる。また、本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、検出対象とする体組織を、自動で確実、且つ高精度に検出することができる。
【0076】
なお、上述の各実施形態では示していないが、皮膚表面および大腿骨表面を、皮下組織および筋組織から分離して判別する具体的な方法は、例えば、次にように設定すればよい。
【0077】
皮膚表面および大腿骨表面は、皮下組織および筋組織と全く異なる輝度分布の特性(周波数成分の分布の特性)を有し、且つ超音波信号の送信方向における位置が特徴的である。したがって、これらの特徴に基づいて、皮膚表面および大腿骨表面を、皮下組織および筋組織から分離することができる。
【0078】
例えば、走査方向に沿った線状部の連続性を数値化して閾値と比較する。また、例えば、超音波送信方向における最もプローブ100に近い線状部を皮膚表面とし、最も遠い線状部を大腿骨表面として検出する。
【0079】
また、上述の実施形態では、v方向周波数成分特性とu方向周波数成分特性の差分値もしくはv'方向周波数成分特性とu'方向周波数成分特性の差分値の積算値を用いて判定を行う態様を示したが、基準点から所定の周波数距離だけ離れた位置のv方向周波数成分特性とu方向周波数成分特性の差分値もしくはv'方向周波数成分特性とu'方向周波数成分特性の差分値のみを用いて判定を行ってもよい。この場合できる限り高周波数側の周波数位置を設定するとよい。
【符号の説明】
【0080】
10:超音波体組織検出装置
11:送受信部
12:送信制御部
13:エコー信号受信部
14:二次元データ取得部
15:空間周波数分布算出部
16:判定部
100:プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7