(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化皮膜の厚みをT(μm)、Feの前記酸化皮膜における含有量をG(質量%)としたとき、T(μm)及びG(質量%)の積が4.0超20.0以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒担持用基材。
前記波箔はステンレス箔であり、少なくともFe,Cr,およびAlが含有されており、前記波箔及び前記波箔に形成された前記酸化皮膜には、Feが60質量%以上85質量%以下、Crが9質量%以上30質量%以下、Alが1.5質量%以上13質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の触媒担持用基材。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、軸方向から視た触媒担体の概略図である。紙面に対する法線方向が軸方向に対応し、紙面に沿った方向が径方向に対応している。
図2は波箔の一部における展開図である。白抜きの矢印は排ガスの流れる方向(上述の軸方向に相当する)に対応しており、ハッチングで示す箇所はフィンFの天面に相当する。
図3は軸方向において互いに隣り合うフィンFの斜視図である。
【0027】
触媒担体1は、ハニカム体10と、外筒20とから構成され、排ガス浄化用の触媒コンバータとして使用される。触媒担体1は、ディーゼル排ガスに含まれるNOxを無害化する浄化装置に用いることができる。より具体的には、ディーゼル排ガス処理設備に設けられる、DOC、SCRとして用いることができる。DOCとしての触媒担体1は、排ガス中に含まれる未燃焼ガスのうち炭化水素を水と二酸化炭素に酸化し、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化し、一酸化窒素を二酸化窒素に酸化する。なお、二酸化窒素は非常に酸化力の強いガスであるため、DOCの下流に配置されるDPFに堆積したPMと接触して、PMを燃焼させる。
【0028】
SCRとしての触媒担体1は、DPFから排出された排ガスに含まれる窒素酸化物とアンモニアとの化学反応を促進して、これらを窒素及び水に還元させる。アンモニアは、尿素水タンクからインジェクターを介して尿素水をSCRの上流側に吹き込み、排ガスの熱で加水分解させることにより生成される。
【0029】
ハニカム体10は、波箔30と平箔40とを重ね合わせて軸周りに巻き回すことで構成されている。ハニカム体10の径方向における断面は、円形に形成されている。波箔30及び平箔40には、触媒担持用のステンレス箔を用いることができる。このステンレス箔の成分系については後述する。
【0030】
図2の展開図を参照して、波箔30はオフセット構造に形成されている。ここで、オフセット構造とは、軸方向において隣り合うフィンFの位相が互いに異なる構造のことであり、本実施形態では軸方向に並ぶフィンFが互い違いとなるように千鳥状に配列されている。ただし、オフセット構造は、千鳥状に限定されるものではなく、他の構造であってもよい。他の構造については、後述する。また、オフセット構造は、波箔30の全体に形成されていてもよいし、波箔30の一部だけに形成されていてもよい。このように、波箔30をオフセット構造に形成することにより、波箔30に接触する排ガスが増加して、触媒担体1の浄化性能を高めることができる。
【0031】
個々のフィンFは、天面101と、天面101の両端から延びる一対の左側斜辺102,右側斜辺103とを備えており、これらの左側斜辺102,右側斜辺103は天面101から離隔するに従って末広がりとなる方向に傾斜している。つまり、フィンFは、軸方向視において台形状に形成されている。
【0032】
軸方向において隣り合うフィンFの天面101は、互いに部分的に接続されている。ハニカム体10の周方向において隣り合うフィンFは、連設部104を介して互いに接続されている。具体的には、隣接する一方のフィンFにおける右側斜辺103と他方のフィンFにおける左側斜辺102との下端部を繋ぐことで、周方向において隣り合うフィンFを互いに接続することができる。これにより、千鳥状に配列されたフィンFを含む波箔30が一枚の板材から形成されるため、剛性を高めることができる。
【0033】
ここで、触媒担体1をディーゼル排ガス処理設備に設けられるDOC、SCR等に適用した場合に生じる風食の問題を回避するために、本実施形態では、各フィンFのガス入側端面側、つまり、ガス入側に向かって露出する露出端面を含む所定範囲Tに厚みが0.1[μm]以上10[μm]以下の酸化皮膜を形成している。所定範囲Tは、露出端面から少なくとも2mmである。酸化皮膜の形成領域が2mmより小さくなると、風食が起こり易くなる。
図3の部分斜視図では、酸化皮膜が形成されている領域をハッチングで示している。なお、少なくとも2mmであるから、所定範囲Tは2mm超であってもよい。また、酸化皮膜は、平箔40におけるガス入側に向かって露出する露出端面を含む所定範囲Tにも形成されている。所定範囲Tについては、説明を繰り返さない。
【0034】
この酸化皮膜は、30質量%以上99.5質量%以下のα-アルミナ(第1のアルミナに相当する)と、Fe酸化物とを含む。また、酸化皮膜には、更に、第2のアルミナ及びCr酸化物のうち少なくとも1種が含まれていてもよい。第2のアルミナは、γ、θ、χ、δ、η、κアルミナのうち少なくとも1種類からなる。本実施形態の酸化皮膜は、触媒担持用のステンレス箔に特殊な熱処理(以下、特殊熱処理と称する)を施すことにより形成される。
【0035】
また、特殊熱処理によって形成された酸化皮膜には、7質量%超35質量%以下のFeが含まれる。酸化皮膜に含まれるFeのうち、一部はα-アルミナに固溶している。つまり、酸化皮膜に含まれるα-アルミナには、Feが固溶したα-アルミナと、Feが固溶していないα-アルミナとが含まれる。また、酸化皮膜に第2のアルミナ及びCr酸化物のうち少なくとも1種が含まれている場合には、これらにFeが固溶している場合もある。本発明のハニカム体のステンレス箔には少なくともFe,Cr,及びAlが含有されている。含有されたAlはステンレス箔表面にα-アルミナ等を形成するために利用される。
【0036】
ステンレス箔内、および、α-アルミナ等として酸化皮膜に含有される全Al量の望ましい範囲は質量%で1.5%以上13%以下である。1.5%未満であるとステンレス箔に含まれるAlがα-アルミナの生成に消費され、ステンレス箔内のAlが枯渇してしまうことがある。この場合には、ステンレス箔が異常酸化してボロボロになってしまうため、1.5%以上が望ましい。13%を超えると、ステンレス箔の靭性が著しく低下し、排気ガスの圧力や振動によって箔の欠けや亀裂が発生して、構造信頼性が損なわれる。したがって、酸化皮膜とステンレス箔に含有する全Al濃度の最大値は13%以下が好ましい。
【0037】
ステンレス箔内、及び、酸化皮膜に含まれる全Fe量の望ましい範囲は質量%で60%以上、85%以下である。60%未満であると酸化皮膜に含有されるFe濃度を本発明の範囲に制御しにくくなり、風食が起こり易くなる。85%を超えると酸化皮膜に対するα−アルミナの含有量が本発明の範囲に制御しにくくなり風食が起こり易くなる。したがって、酸化皮膜とステンレス箔に含有する全Fe量は60%以上、85%以下が望ましい。
【0038】
Crは、本発明においてα-アルミナを安定にして、耐酸化性を向上させる。ステンレス箔内、および、酸化皮膜に含有された全Cr量の望ましい範囲は質量%で9%以上30%以下である。9%未満ではその効果は不十分で、また、30%を超えると鋼が脆くなり、冷間圧延や加工に耐えなくなるので、その範囲は9%以上30%以下であることが好ましい。Crの一部は、酸化皮膜中にCr酸化物の状態で存在し、Crの残部は、ステンレス箔中にそのままの状態で残っている。ただし、Cr酸化物は必須ではなく、全てのCrがそのままステンレス箔に残っていてもよい。
【0039】
ステンレス箔には、更に、Ti,Zr,Nb,Hf、Mg,Ca,Ba,Y及び希土類元素の少なくとも1種が含まれていてもよい。
【0040】
Ti,Zr,Nb,Hfは、上述のα-アルミナを含む酸化皮膜とステンレス箔との間に下地層として形成される別の酸化皮膜の酸素透過性を低下させ、酸化速度を著しく減少させる効果がある。しかしながら、合計で2.0%を超えると箔中に金属間化合物の析出が増えて箔を脆くするため、それらの合計は2.0%以下であることが好ましい。
【0041】
Mg,Ca,Baもアルミナに固溶し、ステンレス箔の高温耐酸化性を向上させる場合がある。合計で0.01%を超えると箔の靭性が低下するため、0.01%以下であることが好ましい。
【0042】
Y、希土類元素は、酸化皮膜の密着性を確保する元素として添加することができる。但し、合計で0.5%を超えると箔中に金属間化合物の析出が増加し、靭性が低下するので0.5%以下であることが好ましい。
【0043】
ステンレス箔には、更に、不可避的不純物として、C,Si及びMnが含まれる。
【0044】
Cは、ステンレス箔の靭性、延性、耐酸化性に悪影響するので、低いほうが望ましいが、本発明においては0.1%以下であれば実害が許容できるので、上限は0.1%であることが望ましい。
【0045】
Siは、ステンレス箔の靭性、延性を低下させ、一般には耐酸化性を向上させるが、2%を超えると効果が少なくなるばかりでなく、靱性が低下する問題を生じる。したがって2%以下が好ましい。
【0046】
Mnは2%を超えて含有すると、ステンレス箔の耐酸化性が劣化するので、その上限は2%であることが好ましい。
【0047】
酸化皮膜の成分限定理由について述べる。
α-アルミナは、Al
2O
3の分子式で表され、代表的なコランダム結晶構造(六方晶)を有しており、排ガスに含まれるパーティクルに対して優れた耐風食性を発揮する。このため、酸化皮膜に含まれるα-アルミナの下限値は30質量%とした。一方、ステンレス箔に特殊熱処理を施すと、Fe酸化物が必然的に形成され、加熱条件によってはγ、θ、χ、δ、η、κアルミナのうち少なくとも1種類以上のアルミナ及び/又はCr酸化物が形成されるため、酸化皮膜の全てをα-アルミナに形成することはできない。このため、酸化皮膜に含まれるα-アルミナの上限値は99.5質量%とした。さらに、α-アルミナが50%以上であると、酸化皮膜の硬度が増加し、より優れた耐風食性を得られる。このため、より好ましい下限値は50%である。また、上限値が99%以下であると、酸化皮膜の靭性が向上して亀裂や剥離が発生しにくくなるので、より好ましい上限値は99%とした。
【0048】
酸化皮膜に対するFe酸化物の含有量は、0.5質量%以上40質量%以下である。Fe酸化物の含有量が0.5質量%未満であるとFeが触媒へ溶出し易くなり、浄化性能が劣化しやすくなるため、0.5質量%以上とした。40質量%を超えると、α-アルミナが形成されにくくなり、耐風食性が低下するため、40質量%以下とした。本発明者は、Fe酸化物がウスタイト(FeO)、マグネタイト(Fe
3O
4)及びヘマタイト(Fe
2O
3)のうち少なくとも1種からなることを別途確認している。
【0049】
酸化皮膜に対するFeの含有量は、上述の通り、7質量%超35質量%以下である。Feの含有量が7質量%以下になると、酸化皮膜の靭性が低下して亀裂や剥離が発生しやすくなるため、Feの含有量は7質量%超とした。言い換えると、Feの含有量を7質量%超に高めることで、排ガスに含まれるパーティクルに対して優れた耐風食性が発現される。Feの含有量が35質量%超になると、触媒層へFeが溶出して、浄化性能が著しく低下する場合があるため35質量%以下にした。酸化皮膜に含まれるFeの含有量は、定量GDS(グロー放電発光分光分析装置)を使って、酸化皮膜の厚み方向へスパッタしながらFe、Cr、Al、O等の構成元素の分布を測定し、この測定結果に基づき、酸化皮膜に対するFe含有量の平均値を算出することによって、求めることができる。
【0050】
ここで、特許文献3では、酸化皮膜中のFeが7質量%超になると、Feが触媒層中に急激に溶出する問題が懸念される。これに対して、本実施形態では、Fe酸化物を含む酸化皮膜を形成することによって、Feの触媒層に対する移動を抑制しているため、Fe濃度を7質量%超に高めても、浄化性能が大きく低下することはない。
【0051】
酸化皮膜に含まれるCrの含有量は、好ましくは、0.01質量%以上4質量%以下である。Crの含有量が0.01%未満であると、酸化皮膜の靭性が低下して亀裂や剥離が発生しやすくなるため、Crの含有量は0.01%以上とした。Crの含有量が4%を超えると、触媒層へCrが溶出して、浄化性能が著しく低下する場合があるため4%以下にした。
【0052】
ここで、酸化皮膜の厚みをT[μm]、酸化皮膜に含まれるFeの含有量をG[質量%]としたとき、好ましくは、T[μm]及びG[質量%]の積が4.0超20.0以下である。T[μm]及びG[質量%]の積が4.0以下になると、酸化皮膜の靭性と強度が低下して剥離しやすくなるため4.0超とした。T[μm]及びG[質量%]の積が20.0超になると、酸化皮膜に亀裂が発生し易くなって耐久性が低下するため20.0以下とした。なお、酸化皮膜の厚みは、TEM(Transmission Electron Microscope)やSEM(Scanning Electron Microscope)等の電子顕微鏡を使って酸化皮膜を直接観察することによって、測定できる。また、酸化皮膜に含まれる各酸化物の種類と含有量は、X線回折法を用いて相同定と定量測定を行うことにより、特定することができる。定量測定は、標準サンプルで検量線を作成しておき、回折線強度の比較で含有量を測定することができる。詳細については、例えば、片岡邦郎・一色貞文;生産研究 第12巻 第8号に記載されている。
【0053】
次に、
図4の工程図を参照しながら、特殊熱処理を含む本実施形態の触媒担体の製造方法について説明する。工程S1において、帯状に延びるステンレス箔にプレス加工を施して凹凸を形成し、これを平箔と重ね合わせた状態で所定の軸周りに巻き回すことでハニカム体10を製造する。
【0054】
工程S2において、このハニカム体10をステンレスからなる筒状の外筒20に内挿し、ハニカム体10及び外筒20の接着予定部にロウ材を塗布する。工程S3において、ロウ材が塗布されたハニカム体10及び外筒20を真空雰囲気下で熱処理して、ロウ材を固着させる。
【0055】
工程S4において特殊熱処理を行う。この特殊熱処理は、外筒20に内挿されたハニカム体10を特定の雰囲気、温度条件下で、ハニカム体10の入側端部から出側端部に向かってガスを流すことで実施される。特定の雰囲気とは、酸素分圧が10Paから大気圧程度の雰囲気で、かつ、水蒸気露点を30℃以上60℃以下に制御した酸化性雰囲気のことであり、雰囲気温度は800℃から1300℃に制御されている。特に水蒸気露点は酸化皮膜中に含有されるFe量を本発明の範囲に制御し、さらにFe酸化物を酸化皮膜中に形成させるために重要な影響を及ぼす。30℃未満であるとFe酸化物の形成が抑制され、本発明の効果が得られなくなる。60℃を超えると酸化皮膜がFe酸化物を十分に含有できなくなる。したがって、特殊熱処理における望ましい水蒸気露点は30℃以上60℃以下とした。
【0056】
ガスにはこの特定の雰囲気中のガスをそのまま用いることができる。ガスの流速はハニカム体当たりのSV(Space velocity)値として0.1(1/h)から12(1/h)が望ましい。SV値が0.1(1/h)未満になると、各フィンFの入り側端面に形成された酸化皮膜に含まれるα-アルミナの含有量が30質量%以下に低下したり、酸化皮膜にFe酸化物が含まれなくなるおそれがある。また、SV値が12(1/h)超になると、酸化皮膜にFe酸化物を生成する効果が飽和する。また、特殊熱処理の時間は、1(h)から4(h)が好ましい。
【0057】
ハニカム体10の各流路に流入したガスは、各フィンFの入側端面に衝突しながら、ハニカム体10の出側端面に向かって移動する。この際、ガスに接触した各フィンFの壁面は全て酸化されるが、各フィンFの入側端面を含む所定範囲には直接ガスが衝突するため、他の壁面とは異なる成分の酸化皮膜、つまり、30質量%以上のα-アルミナとFe酸化物とを少なくとも含む酸化皮膜が形成される。一方、ガス出側端面に形成される酸化皮膜は必ずしも本発明の酸化皮膜でなくてもよく、例えば、α-アルミナの含有率が10質量%以上30質量%未満であっても問題は無い。
【0058】
ここで、酸化皮膜の厚みは、前述のガスを流す時間を調節することによって変えることができる。露出端面を含む所定範囲Tに形成される酸化皮膜の厚みは、上述の通り、0.1μm以上10μm以下である。
【0059】
このように、本実施形態では、ハニカム体10を加熱雰囲気に晒すとともに、この雰囲気中のガスをハニカム体10の入側端面から吹き込むことで酸化処理を行っているため、各フィンFの入側端面に、α-アルミナを30質量%以上含む耐風食性に優れた酸化皮膜を形成することができる。なお、工程S1から工程S4を実施することによって製造されたハニカム体10及び外筒20が特許請求の範囲に記載の触媒担持用基材に相当する。
【0060】
工程5において、各フィンFの露出端面に酸化皮膜が形成されたハニカム体10及び外筒20を触媒浴に浸漬させ、触媒担体1を製造する。
【0061】
上述の実施形態では、オフセット構造を備えた波箔30について説明したが、本発明はオフセット構造を有しない波箔にも適用することができる。
図7は、オフセット構造を有しない波箔30´の展開図である。同図に示すように、天面101´、左側斜辺102´及び右側斜辺103´はそれぞれ排ガス導通方向に位相がずれることなく延びている。本発明の酸化皮膜は、波箔30´の入側端面(
図7の左端部)を含む所定範囲T´に形成することができる。所定範囲T´については、所定範囲Tと同様であるから、説明を繰り返さない。
【0062】
実施例を示して本発明についてより具体的に説明する。
(実施例1)
酸化皮膜に含まれるα-アルミナの含有量を調整して、それぞれの触媒担体について耐風食性を評価した。各種の触媒担体をディーゼル排ガス処理設備に設けられるDOCに適用し、20万(km)相当の走行試験を行った後に、触媒担体の風食性、浄化性能を評価した。風食性については、試験前後の触媒担体の重量を比較し、重量減少が1質量%以下の場合には風食性が良好であるとして○で評価し、1.0質量%超の場合には風食性が不良であるとして×で評価した。浄化性能については、初期性能に対する最終性能の劣化率で評価し、劣化率が30%以下の場合には、浄化性能の劣化が小さいとして○で評価し、劣化率が30%以上の場合には、浄化性能の劣化が大きいとして×で評価した。初期性能は、触媒温度が900℃になっている間の累積時間が1時間になった時に測定した浄化性能とした。浄化性能はCO、HC、NOxの浄化率で測定した。最終性能は、触媒温度が900℃になっている間の累積時間が500時間になった時に測定した浄化性能とした。表1は、これらの試験結果を纏めた表であり、添加元素の欄に記載した「REM」はミッシュメタルの略である。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0063】
比較例1、9、17、25、33、41では、熱処理が全く行われなかったため、酸化皮膜が形成されなかった。比較例2、10、18、26、34、42では、酸化皮膜に含まれるα-アルミナの含有量が少ないため、耐風食性の評価が×になった。また、比較例2、10、18、26、34、42では、酸化皮膜に含まれるFeの濃度が高いが、Fe酸化物が検出されなかったため、浄化性能の評価が×になった。
【0064】
比較例3〜5、11〜13、19〜21、27〜29、35〜37、43〜45では、酸化皮膜に含まれるFeの濃度が低いため、耐風食性の評価が×になった。比較例6〜8、14〜16、22〜24、30〜32、38〜40、46〜48では、酸化皮膜に含まれるFe酸化物が多すぎて、α-アルミナの含有量が少なくなったため、耐風食性の評価が×になった。また、比較例6〜8、14〜16、22〜24、30〜32、38〜40、46〜48では、酸化皮膜に含まれるFeの含有量が多いため、浄化性能の評価が×になった。
【0065】
(変形例1)
上述の実施形態では、工程S3のロウ付け処理の後に工程S4の特殊熱処理を実施したが、本発明はこれに限るものではなく、工程S4の前に、酸素分圧10
−2Pa程度の真空中や、水素、一酸化炭素等の還元雰囲気中で焼成して、ステンレス箔の表面状態を特殊熱処理の前に整えておいてもよい。これにより、上述の酸化皮膜の付与を効率的に実施できる場合がある。
【0066】
(変形例2)
上述の実施形態では、各フィンFを千鳥状に配置したが、本発明はこれに限るものではなく、軸方向の前後で波の位相が異なるオフセット構造を備えていれば他の構成であってもよい。例えば、
図5に図示するように、軸方向に対して傾斜する傾斜方向にフィンFを並設したオフセット構造を有する波箔にも本願発明は適用することができる。この場合、各フィンFのガス入り側の端面(露出端面に相当する)に耐風食性に優れた酸化皮膜を形成することができる。また、
図6に図示する波箔にも本願発明は適用することができる。すなわち、波箔に一対のスリットSを形成し、これらの一対のスリットSに挟まれた領域を下方に押し下げることにより、上に凸のフィンF1及び下に凸のフィンF2を形成したオフセット構造にも本願発明は適用することができる。この場合、フィンF1のガス入り側端面と、フィンF2のガス入り側端面とに耐風食性に優れた酸化皮膜を形成することができる。
【0067】
(変形例3)
上述の実施形態では、触媒担体1をディーゼル排ガスを浄化する浄化装置に用いる例について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、ガソリンの燃焼排ガスを浄化する浄化装置にも適用することができる。
【0068】
(変形例4)
平箔40には間欠的に複数の開口部が形成されていてもよい。ハニカム体10の各流路に流入した排ガスは各開口部を通過して径方向に隣接する別の流路に分岐流入するため、乱流が発生し易くなり、排ガスの浄化性能を高めることができる。また、特殊熱処理を実施した際に各開口部をガスが通過して、これらの開口部における主として下流側の縁の部分に本願発明の酸化皮膜を形成することができる。
【解決手段】金属製の平箔と波箔とを積層したハニカム体を含む排ガス浄化用の触媒担持用基材において、ガス入側に向かって露出する露出端面を含む所定範囲には厚みが0.1μm以上10μm以下の酸化皮膜が形成されており、この酸化皮膜は、α-アルミナからなる第1のアルミナと、Fe酸化物とを少なくとも含み、前記α-アルミナには、Feが固溶したα-アルミナとFeが固溶していないα-アルミナとが含まれており、前記酸化皮膜において、前記第1のアルミナの含有量は30質量%以上99.5質量%以下であり、前記Fe酸化物の含有量は0.5質量%以上40質量%以下であり、Feの含有量は7質量%超35質量%以下であり、前記所定範囲は、前記露出端面からガスの流れる方向に向かって少なくとも2mmの範囲であることを特徴とする触媒担持用基材。