(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6340131
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】熱間補修用吹付材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20180528BHJP
C04B 35/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
C04B35/66
C04B35/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-253586(P2017-253586)
(22)【出願日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年1月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】白曼 統一
(72)【発明者】
【氏名】赤井 哲
(72)【発明者】
【氏名】中道 翼
(72)【発明者】
【氏名】大野 洋輔
【審査官】
神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−160558(JP,A)
【文献】
特開2007−182337(JP,A)
【文献】
特開2007−076980(JP,A)
【文献】
特開2010−235340(JP,A)
【文献】
特開2008−151425(JP,A)
【文献】
特開2015−196177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア質原料を65質量%以上95質量%以下、フェノール樹脂を0.5質量%以上10質量%以下含有する熱間補修用吹付材であって、
この熱間補修用吹付材100質量%中に占める割合で、粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量が5質量%以上30質量%以下、粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量が0.3質量%以上9質量%以下であり、
「前記粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量/前記粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量」が0.6以上30以下である熱間補修用吹付材。
【請求項2】
前記熱間補修用吹付材100質量%中に占める割合で、ピッチを0.5質量%以上10質量%以下含有する請求項1に記載の熱間補修用吹付材。
【請求項3】
「前記粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量/前記粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量」が0.6以上20以下である請求項1又は2に記載の熱間補修用吹付材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、転炉、脱ガス炉、取鍋、その他の窯炉の内張りの熱間補修に用いられ、施工水と共に被補修面に吹き付けられる熱間補修用吹付材に関する。
なお、本発明において「熱間補修」とは、被補修面の温度が概ね600℃以上の状態における補修のことをいう。
【背景技術】
【0002】
例えば、転炉において、内張りの溶損箇所を熱間で補修することが行われている。熱間補修の方法として、耐火原料と結合剤とを含む吹付材を施工水と共に内張りの溶損箇所に吹き付ける方法が知られている。
【0003】
従来、この方法に使用される吹付材には、結合剤にリン酸塩やケイ酸塩を用いたものが多用されてきたが、リン酸塩やケイ酸塩は、スラグと共に低融点化合物を形成するため耐用性が悪いという欠点をもつ。
【0004】
そこで、近年では、吹付施工体に耐スラグ浸透性及び強度を付与する目的でリン酸塩やケイ酸塩に代えて、熱間でカーボンボンドを形成する物質、具体的にはフェノール樹脂等の炭素質樹脂が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−235340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、炭素質樹脂の軟化が遅延することを抑制するために、炭素質樹脂の一部を被造粒粉体と共に造粒物を形成した状態で配合しているが、造粒物を形成する以上、炭素質樹脂に熱が伝わりにくい。このため、炭素質樹脂の軟化遅延は避けられず、吹付材が被補修面に到達した際にリバウンドしてしまい、被補修面への付着性に劣るという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、熱間補修用吹付材において、被補修面への付着性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、被補修面への付着性(以下、単に「付着性」という。)を向上させるには、炭素質樹脂としてフェノール樹脂を用いることが有効と考えた。すなわち、フェノール樹脂は被補修面に吹き付けられた瞬間に凝集して適正な粘性(接着性)を発揮しやすいからである。また、本発明者らは耐スラグ浸透性等の耐用性を向上させる点から耐火原料としてマグネシア質原料を選択した。さらに、本発明者らは前記課題を解決するために、マグネシア質原料とフェノール樹脂の配合割合、特に超微粉域の配合割合に着目して検討を重ねた結果、本発明を想到するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一観点によれば次の熱間補修用吹付材が提供される。
マグネシア質原料を65質量%以上95質量%以下、フェノール樹脂を0.5質量%以上10質量%以下含有
する熱間補修用吹付材であって、
この熱間補修用吹付材100質量%中に占める割合で、粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量が5質量%以上30質量%以下、粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量が0.3質量%以上9質量%以下であり、
「前記粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量/前記粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量」が0.6以上30以下である熱間補修用吹付材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒径20μm未満という非常に活性の高い超微粉域におけるマグネシア質原料とフェノール樹脂の配合割合が特定の範囲内にあり、超微粉域においてマグネシア質原料とフェノール樹脂がバランス良く存在することから、吹き付けられた瞬間に適正な粘性(接着性)を有するマトリクスが形成され、さらにこのマトリクス内に均一なカーボンボンドが形成される。これにより付着性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱間補修用吹付材は、マグネシア質原料を65質量%以上95質量%以下、フェノール樹脂を0.5質量%以上10質量%以下含有する。
マグネシア質原料の含有量が65質量%未満であると耐食性(耐スラグ浸透性)等の耐用性が低下する。マグネシア質原料の含有量が95質量%を超えると、相対的にフェノール樹脂の含有量が少なくなり付着性が低下する。
また、フェノール樹脂の含有量が0.5質量%未満であるとカーボンボンドを形成する効果が弱くなり付着性が低下する。フェノール樹脂の含有量が10質量%を超えると、フェノール樹脂からの揮発が多いため吹付施工体の組織がポーラスになり、吹付施工体強度が低下する。
【0012】
本発明は前述のとおり、粒径20μm未満という超微粉域におけるマグネシア質原料とフェノール樹脂の配合割合を限定する。すなわち、粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量は5質量%以上30質量%以下、粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量は0.3質量%以上9質量%以下であり、その含有量比「前記粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量/前記粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量」(以下、この含有量比を単に「含有量比」という。)は0.6以上30以下である。このように含有量比等の配合割合を限定する理由は以下のとおりである。
【0013】
粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量が5質量%未満であると、この超微粉のマグネシア質原料が有する凝集効果(凝集による付着性保持機能)が弱くなり、付着性が低下する。粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量が30質量%を超えると、凝集効果が過大になってしまい粘性が高くなるため吹付施工時の吐出性が悪くなり、その結果付着性も低下する。
【0014】
粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量が0.3質量%未満であると、カーボンボンドを形成する反応が遅くなってしまい付着性が低下する。粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量が9質量%を超えると、吹付施工時に発塵により浮遊してしまい付着性が低下する。さらに、浮遊した超微粉のフェノール樹脂が燃焼するため、施工箇所が見えなくなる問題もある。
【0015】
含有量比が0.6未満の場合(超微粉のフェノール樹脂が多い場合)、フェノール樹脂の揮発速度が速くなり一気に吹付施工体が収縮し、接着界面で吹付施工体が浮いてしまい付着性が低下する。そして付着力低下に伴い、吹付施工体自重や吹付圧によって剥落が生じる。一方、含有量比が30を超える場合(超微粉のフェノール樹脂が少ない場合)、付着した後の強度を保つことができずに吹付施工体が脱落する。この含有量比の好ましい範囲は0.6以上20以下である。
【0016】
本発明に使用するマグネシア質原料及びフェノール樹脂としては、熱間補修用吹付材の原料として一般的に使用(市販)されているものを使用することができる。そして、これらマグネシア質原料及びフェノール樹脂の粒度構成は、粒径20μm未満のものの含有量や含有量比が前述した所定の範囲内になるように調整すればよい。ここで、本発明の熱間補修用吹付材においてマグネシア質原料の一部は骨材となり得るので、例えば粒径4mm未満の粒度域で、粒径20μm未満のものの含有量や含有量比が前述した所定の範囲内になるように粒度調整すればよい。
なお、本発明でいう「マグネシア質原料」とはMgO含有量が60質量%以上のものをいい、天然のマグネシア原料のほか、マグネシアれんがやマグネシア・カーボンれんがの屑も含むものである。
また、本発明でいう「粒径」とは篩目のことであり、例えば粒径20μm未満とは20μmの篩目を通過したものをいう。
【0017】
本発明の熱間補修用吹付材は、マグネシア質原料及びフェノール樹脂に加え、ピッチを0.5質量%以上10質量%以下含有することができる。ピッチを0.5質量%以上10質量%以下含有することで、吹付施工体強度が向上し耐用性を向上させることができる。
【0018】
なお、本発明の熱間補修用吹付材は、マグネシア質原料、フェノール樹脂及びピッチのほかにも、ドロマイト原料や炭素原料などの他の耐火原料、金属粉、有機繊維等、熱間補修用吹付材の原料として一般的に使用されているものを適宜含有することができる。
【0019】
本発明の熱間補修用吹付材は、従来の熱間補修用吹付材と同様に施工水と共に被補修面に吹き付けられるが、施工水の添加量などの吹付条件や吹付方法は従来と同様でよい。
【実施例】
【0020】
表1に本発明の実施例及び比較例の原料配合と評価結果を示している。実施例及び比較例における評価項目と評価方法は以下のとおりである。なお、表1中、「その他原料」とはドロマイト原料、炭素原料及び金属粉である。
【0021】
<付着性>
各例の吹付材を、慣用の乾式吹付機を用い、約1000℃に熱したマグネシア・カーボンれんがの垂直面(被補修面)に吹き付け、吹付施工体を形成した。施工水の添加量は、吹付材100質量%に対する外掛けで20〜40質量%とした。
付着性は、被補修面への吹付材の付着割合で評価し、吹付材の使用量に対する被補修面への付着量の割合が80質量%以上の場合を〇(良)、60質量%以上80質量%未満の場合を△(可)、60質量%未満の場合を×(不可)とした。
【0022】
<耐食性>
吹付施工体から切り出した所定寸法の試料を、回転侵食試験機を用い、C/S=3.4の転炉スラグと鋼片とを侵食剤として、1650〜1700℃で5時間侵食させた。各例の最大溶損量を測定しかつその逆数を求め、実施例1のその逆数を100とした相対値を求めた。この相対値が大きいほど耐食性に優れるということである。耐食性の評価では、この相対値が80以上の場合を〇(良)、70以上80未満の場合を△(可)、70未満を×(不可)とした。
【0023】
<吹付施工体強度>
吹付施工体から切り出した所定寸法の試料について、JISR2575に従い常温での圧縮強度を測定し、実施例1の圧縮強度を100とした相対値を求めた。この相対値が大きいほど吹付施工体強度が高いということである。吹付施工体強度の評価では、この相対値が80以上の場合を〇(良)、70以上80未満の場合を△(可)、70未満を×(不可)とした。
【0024】
<吐出性>
吹付時に乾式吹付機のノズル先端を目視観察し、脈動なく吐出している場合を〇(良)、脈動がある場合を×(不可)とした。
【0025】
<総合評価>
前記各評価項目の評価が全て○の場合を○(良)、△が1〜3つであってその他が〇の場合を△(可)、いずれか1つが×の場合を×(不可)とした。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示しているように本発明の範囲内にある実施例1〜6は、付着性の評価が○(良)又は△(可)で良好であり、総合評価も良好であった。
【0028】
比較例1はマグネシア質原料の含有量が少ない例である。耐食性(耐スラグ浸透性)向上に寄与するマグネシア質原料が少ないため、十分な耐食性が得られなかった。
比較例2はマグネシア質原料の含有量が多い例である。相対的にフェノール樹脂の含有量が少なくなり、十分な吹付施工体が得られないほどに付着性が低下した。そのため耐食性及び吹付施工体強度を評価するための試料が取れなかった。
【0029】
比較例3は粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量が少ない例である。粒径20μm未満のマグネシア質原料が有する凝集効果が弱くなり、付着性が低下した。
比較例4は粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量が多い例である。凝集効果が過大になってしまい、吹付施工時の吐出性が悪化し、その結果、十分な吹付施工体が得られないほどに付着性が低下した。そのため耐食性及び吹付施工体強度を評価するための試料が取れなかった。
【0030】
比較例5はフェノール樹脂の含有量が少なく、含有量比が高い(粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量が少ない)例である。付着性向上に寄与するフェノール樹脂が少ないため、十分な吹付施工体が得られないほどに付着性が低下した。そのため耐食性及び吹付施工体強度を評価するための試料が取れなかった。
比較例6はフェノール樹脂の含有量が多く、含有量比が低い(粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量が多い)例である。フェノール樹脂の揮発速度が速くなり、また粒径20μm未満のフェノール樹脂が吹付施工時に発塵により浮遊してしまい、結果として付着性が低下した。
【要約】
【課題】熱間補修用吹付材において、吹き付けられた瞬間の被補修面への付着性を向上させる。
【解決手段】マグネシア質原料を65質量%以上95質量%以下、フェノール樹脂を0.5質量%以上10質量%以下含有し、かつ、粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量が5質量%以上30質量%以下、粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量が0.3質量%以上9質量%以下であり、「前記粒径20μm未満のマグネシア質原料の含有量/前記粒径20μm未満のフェノール樹脂の含有量」が0.6以上30以下である熱間補修用吹付材。
【選択図】なし