【実施例1】
【0009】
以下、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。本明細書において、「良路」とは、アスファルト、コンクリート等で舗装された舗装路を指し、「悪路」とは、砂利道、栗石路等の未舗装路全般を指す。悪路の中でも、特に、大きな石、木材、縁石等の障害物や路面陥没部位が進行方向上に存在し、路面の凹凸が激しく、駆動輪から変速機に突発トルクが入力される路面を含む。「突発トルク」とは、車両が障害物に乗り上げる際や、障害物を乗り越えた後に空転する駆動輪が再び接地する際等に駆動輪から変速機に一時的に入力される突発的な大トルクを指す。
【0010】
図1は実施例1の無段変速機の制御装置の構成を表すシステム図である。ベルト式無段変速機(以下、「CVT」という。)1は、トルク伝達部材であるプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3が両者のV溝が整列するよう配設され、これらプーリ2,3のV溝にはベルト4が掛け渡されている。プライマリプーリ2と同軸にエンジン5が配置され、エンジン5とプライマリプーリ2の間には、駆動源であるエンジン5側から順に、ロックアップクラッチ6cを備えたトルクコンバータ6、前後進切換え機構7が設けられている。
【0011】
前後進切換え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤはトルクコンバータ6を介してエンジン5に結合され、キャリアはプライマリプーリ2に結合される。前後進切換え機構7は、さらに、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤおよびキャリア間を直結する前進クラッチ7b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備える。そして、前進クラッチ7bの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転がそのままプライマリプーリ2に伝達され、後進ブレーキ7cの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転が逆転され、プライマリプーリ2へと伝達される。トルクコンバータ6のポンプインペラ側には機械式オイルポンプO/Pが設けられている。この機械式オイルポンプO/Pは、エンジン5によって駆動され、後述する変速制御油圧回路11に油圧を供給する。
【0012】
プライマリプーリ2の回転はベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を経て図示しない駆動輪へと伝達される。上記の動力伝達中にプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間の変速比を変更可能にするために、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3のV溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a,3aとし、他方の円錐板2b,3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板としている。これら可動円錐板2b,3bは、ライン圧を元圧として作り出したプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecをプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a,3aに向けて付勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での動力伝達を行う。変速に際しては、目標変速比に対応させて発生させたプライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psec間の差圧により両プーリ2,3のV溝の幅を変化させ、プーリ2,3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで目標変速比を実現する。
【0013】
プライマリプーリ圧Ppriおよびセカンダリプーリ圧Psecは、前進走行レンジの選択時に締結する前進クラッチ7b、および後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cの締結油圧と共に変速制御油圧回路11によって制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。変速機コントローラ12には、プライマリプーリ2の回転速度Npriを検出するプライマリプーリ回転センサ13(第3の回転速度センサに相当)からの信号と、セカンダリプーリ3の回転速度Nsecを検出するセカンダリプーリ回転センサ14からの信号と、セカンダリプーリ圧Psecを検出するセカンダリプーリ圧センサ15からの信号と、アクセルペダルの操作量APOを検出するアクセル操作量センサ16からの信号と、セレクトレバー位置を検出するインヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、CVT1の作動油温TMPを検出する油温センサ18からの信号と、エンジン5を制御するエンジンコントローラ19からの入力トルクTpに関連する信号(エンジン回転速度や燃料噴時間)と、各輪の車輪速度を検出する車輪速センサ21(駆動輪である前輪の車輪速センサを21F,従動輪である後輪の車輪速センサを21Rと記載する。)からの信号と、が入力される。
【0014】
変速機コントローラ12は、駆動輪である前輪の車輪速センサ21Fの信号と、従動輪である後輪の車輪速センサ21Rの信号とから、前後の車輪速差を算出し、車輪速差の大きさから悪路走行を判定する。そして、悪路走行と判定された場合は、変速機コントローラ12は、悪路検知時制御処理を実行する。悪路検知時制御処理とは、ロックアップクラッチ6cを解除すると共に、セカンダリプーリ圧Psec(以下、挟持力とも記載する。)を悪路制御用圧力P1まで高くする指令を変速制御油圧回路11に出力してプーリ2,3のトルク容量を高め、さらに、CVT1への入力トルクがプーリのトルク容量よりも小さくなるよう、エンジン5の出力トルクを下げる指令(燃料噴射量減指令、吸入空気量減指令等)をエンジンコントローラ19に出力するものである。このように、車輪速センサ信号に基づいて悪路判定を行うため、駆動輪がスリップしたときに即座に挟持力を高めることができ、スリップ後の駆動輪のグリップ力増大に伴うベルト滑りを防止できる。これにより、突発トルクの入力があってもベルト4が滑らないだけのベルト挟持力をセカンダリプーリ3に与えそのトルク容量を増大させるとともにCVT1への入力トルクを下げることができ、CVT1を突発トルクから有効に保護することができる。
【0015】
図2,3は実施例1の悪路制御処理を表すフローチャートである。
ステップS01では、車速振動fvspが車速振動基準セカンダリ圧下限規制値(以下、fvsp_psecと記載する。:第3の所定値に相当)以上か否かを判断し、条件を満たす場合にはステップS02に進み、それ以外の場合にはステップS03に進む。
【0016】
ここで、車速振動成分の抽出について説明する。
図4は実施例1の車速振動成分抽出処理を行う制御ブロック図である。車速換算部101では、車輪速センサ21Rから入力される車輪速センサパルス周期から車速に換算する。コントローラの演算周期は決まっているため、演算周期内に入力されるパルス数から車速に換算できる。次に、ハイパスフィルタ102では、換算された車速信号のうち、高周波数側の信号のみを抽出して出力する。良路を走行しているときの車速変動は、車両のイナーシャの影響によって低周波数でしか変動しない。よって、高周波数側の信号は振動成分と考えられる。次に、ローパスフィルタ103では、高周波数側の車速信号の平滑化を行う。車輪は、車輪のイナーシャの影響によって実際に振動できる周波数領域は限られている。そこで、ローパスフィルタ103によりノイズを除去し、実際に車輪で生じている振動を抽出し、振動成分である車速振動fvspを抽出する。
【0017】
ステップS02では、セカンダリプーリ圧Psecを車速振動fvspに応じた値であるPsec(fvsp)に設定する。具体的には、車速振動fvspが大きいほど、セカンダリプーリ圧Psecが大きくなるように設定する。すなわち、車輪速差Δvfrが後述するステップS06で悪路と判定されていない状態であっても、実際に車速振動fvspが大きくなると、やはりベルト滑りが懸念されるからである。
ステップS03では、セカンダリプーリ圧Psecを通常制御に基づいて演算されるセカンダリプーリ圧Psec(n)に設定する。このとき、セカンダリプーリ圧PsecがPsec(fvsp)に設定された状態からPsec(n)に移行する場合には、セカンダリプーリ圧変化率ΔPsecを予め設定された所定変化率ΔPsec_limに制限した状態で移行する。これにより、セカンダリプーリ圧Psecの急変に伴うベルト滑り等を回避する。
【0018】
ステップS04では、車輪速センサ21Fにより検出された駆動輪の回転速度と、車輪速センサ21Rにより検出された従動輪の回転速度との差である車輪速差Δvfrが後述する悪路検知における入り判定閾値Δvfr_br(第1の所定値に相当)より小さな車輪速差基準セカンダリ圧下限規制値(以下、Δvfr_psecと記載する。:第2の所定値に相当)以上か否かを判断し、条件を満たしたときはステップS05に進み、それ以外のときはステップS06へ進む。
ステップS05では、セカンダリプーリ圧Psecを、車輪速差Δvfrに応じた大きさに設定する。具体的には、Δvfr_psecにおける現在のプライマリプーリ圧Psec(Psec(fvsp)もしくはPsec(n))と、Δvfr_brにおける悪路制御用圧力P1とを結ぶ関数を定義し、車輪速差Δvfrが大きくなるほど、セカンダリプーリ圧Psecが悪路制御用圧力P1に向けて大きくなるようにランプ制御する。以下、このランプ制御によって決定されるセカンダリプーリ圧をPsec(fvsp,Δvfr)と記載する。
【0019】
すなわち、車輪速差Δvfrが後述する入り判定閾値Δvfr_brに近づくほど、車輪速差Δvfrが大きくなって悪路と判定される蓋然性が高い状態と言える。このとき、事前に車輪速差Δvfrに応じてセカンダリプーリ圧Psecを高めておくことで、ベルト滑りを防止しつつ、悪路と判定されたときに悪路制御用圧力P1まで急激に高める必要が無く、応答遅れや油振を回避するものである。
【0020】
ステップS06では、車輪速差Δvfrが車輪速差基準プライマリ回転数下限規制値(以下、Δvfr_npriと記載する。:第4の所定値に相当)以上か否か、もしくは、車速振動fvspが車速振動基準プライマリ回転数下限規制値(以下、fvsp_npriと記載する。:第5の所定値に相当)以上か否かを判断し、条件を満たしたときはステップS07へ進み、それ以外のときはステップS08に進む。
ステップS07では、CVT1の変速比Gを、予め設定されたプライマリプーリ最低回転数Npri_minと、現在のセカンダリプーリ回転数Nsecとに基づいて算出(G=Npri_min/Nsec)し、この変速比Gに向けてCVT1を制御する最低回転制限規制処理を実施する。このプライマリプーリ最低回転数Npri_minは、仮にセカンダリプーリ圧Psecが悪路制御で使用されるP1を要求されたとしても確実にポンプ吐出圧を確保可能な値とする。尚、悪路制御処理の開始前に最低回転制限規制を行い、その後、悪路制御処理が開始された場合には、ロックアップクラッチ6cが解放される。このときは、変速比Gの制御に加えて、エンジン5に対し、プライマリプーリ最低回転数Npri_minに相当する回転数を要求し、機械式オイルポンプO/Pの吐出圧を確保する。
ステップS08では、CVT1の変速比Gを通常の変速マップに基づいて制御する。
【0021】
基本的に、CVT1は、走行状態ではトルクコンバータ6のロックアップクラッチ6cがロックアップ状態とされ、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neとは一致している。機械式オイルポンプO/Pはエンジン5により駆動されているため、セカンダリプーリ圧PsecをfvspやΔvfrに応じて増大させているときに、エンジン回転数Neが低下してしまうと、十分なオイルポンプ吐出圧を確保できないおそれがある。そこで、機械式オイルポンプO/Pのオイルポンプ吐出圧を確保するために、プライマリプーリ最低回転数Npri_minを設定し、この回転数を達成するための変速比Gに制御する最低回転制限規制処理を実施する。これにより、プライマリ回転数Npriを確保し、ひいてはエンジン回転数Neを確保することで、機械式オイルポンプO/Pのオイルポンプ吐出圧を確保し、ベルト滑りを回避する。
【0022】
ステップS09では、車輪速差Δvfrが悪路検知用の入り判定閾値Δvfr_br以上か否かを判断し、条件を満たしたときはステップS010に進んで悪路検知フラグをONにセットする。それ以外のときはステップS011に進んで悪路検知フラグをOFFにセットする。
ステップS1では、悪路検知フラグがONか否かを判断し、悪路検知フラグがONの場合はステップS2に進み、OFFの場合、すなわち良路の場合は本制御フローを終了する。
【0023】
ステップS2では、悪路検知時制御を実施する。具体的には、ロックアップクラッチ6cを解除すると共に、セカンダリプーリ圧Psecを悪路制御用圧力P1まで高くする。
ステップS3では、車輪速差Δvfrが解除判定閾値(第6及び第8の所定値に相当)以下か否かを判定し、解除判定閾値以下の場合はステップS5に進み、解除判定閾値より大きいときはステップS4に進む。尚、車輪速センサ21の異常時は、解除判定閾値以下であると判定してステップS5に進む。車輪速センサ21の異常時に悪路検知時制御の解除ができなくなることを回避するためである。悪路検知時制御の継続は燃費の悪化を招くからである。
【0024】
ステップS4では、解除判定タイマをリセットし、ステップS2に戻って悪路検知時制御を継続する。ここで、解除判定タイマとは、車輪速差が解除判定閾値以下となったときにカウントアップを行うタイマである。車輪速差が解除判定閾値以下の状態が所定時間継続しているときに解除を許可することで、判定に伴うハンチングを抑制する。
【0025】
ステップS5では、車速振動fvspが所定振動値(第7及び第9の所定値に相当)以下か否かを判定し、条件を満たした場合はステップS6に進み、それ以外の場合はステップS4に戻って解除判定タイマをリセットする。
実施例1の悪路制御処理では、悪路検知の応答性を向上するために車輪速差を用いて悪路判定を行っている。よって、仮に車輪速差のみを用いて悪路検知時制御を終了する判断を行うと、実際には悪路であっても一時的な車輪速差の収束で悪路検知時制御を終了してしまう恐れがある。この場合、再度の悪路判定が即座に行われたとしても、挟持力を高めるには油圧制御の応答性の問題があり、ベルト滑りが発生する前に挟持力を高められないおそれがある。これに対し、実施例1では、悪路検知時制御の終了判断を車輪速差Δvfrに加え、車速の振動成分である車速振動fvspによって終了判断を行うため、不用意に悪路検知時制御が終了することを回避できる。
【0026】
尚、車輪速センサ21の異常時には、プライマリプーリ回転センサ13により検出されたセンサパルス周期に基づいて振動成分を検出する。このとき、変速比が変化したとしても、その変化の周波数は極めて低いため、ローパスフィルタにより影響を排除できる。そして、プライマリプーリ2の振動が所定振動値以下か否かを判定し、振動が所定振動値以下の場合はステップS6に進み、それ以外の場合はステップS4に戻って解除判定タイマをリセットする。すなわち、車輪速センサ21に異常が生じ、路面の状態にかかわらず検出される車輪速差が大きくなると、悪路検知時制御によって挟持力が大きくなる。そうすると、挟持力を通常状態の低挟持力に戻すことができず、燃費悪化を招くおそれがある。そこで、車輪速センサ21の異常時には、車輪速差を解除判定に用いず、プライマリプーリ回転センサ13の振動成分のみを解除判定に用いるため、路面状態が良路となった場合に挟持力を通常状態の低挟持力に戻すことができ、燃費の悪化を抑制できる。
【0027】
ステップS6では、解除判定タイマをカウントアップする。
ステップS7では、解除判定タイマのカウント値が所定タイマ値以上か以下か否かを判定し、所定タイマ値以上の場合はステップS8に進み、それ以外の場合はステップS2に戻って悪路検知時制御を継続する。
ステップS8では、悪路検知フラグをOFFするとともに、悪路検知時制御を解除する。このとき、ステップS07にて設定されたプライマリプーリ最低回転数Npri_minが継続して設定されている場合には、このプライマリプーリ最低回転数Npri_minも解除する。
【0028】
図5は実施例1の悪路制御処理を表すタイムチャートである。尚、最初の走行状態は、略一定速度で走行しており、悪路検知フラグはOFFであり、解除判定タイマは所定タイマ値までカウントされている状態である。
時刻t01において、車速振動fvspがfvsp_psecを超えると、セカンダリプーリ圧Psecを車速振動fvspに応じた値であるPsec(fvsp)に設定する。また、同時に車速振動fvspがfvsp_npriを超えるため、CVT1の変速比Gを、予め設定されたプライマリプーリ最低回転数Npri_minと、現在のセカンダリプーリ回転数Nsecとに基づいて算出(G=Npri_min/Nsec)し、この変速比Gに向けてCVT1を制御する最低回転制限規制処理を実施する。
時刻t02において、車速振動fvspがfvsp_psec及びfvsp_npriを下回ると、最低回転制限規制処理が解除されると共に、Psec(fvsp)も通常制御に基づいて演算されるセカンダリプーリ圧Psec(n)に変更される。このとき、セカンダリプーリ圧Psecが急変しないよう、所定変化率ΔPsec_limに制限した状態で移行させる。
【0029】
時刻t1において、車両が悪路に入り、車輪速差が解除判定閾値を越えると、解除判定タイマがリセットされる。そして、車輪速差Δvfrの増加によりΔvfr_psecを超えるため、ランプ制御によりセカンダリプーリ圧Psecが徐々に増大する。また、車輪速差ΔvfrがΔvfr_npriを超えると、最低回転制限規制が行われる。
時刻t2において、車輪速差が入り判定閾値以上となると、悪路検知フラグがOFFからONにセットされ、悪路検知時制御が実施される。これにより、車輪速差は収束方向に向かう。このように、車輪速差に基づいて悪路検知が行われるため、素早い悪路検知が可能となり、ベルト滑りを抑制できる。
【0030】
時刻t3において、車輪速差が解除判定閾値を下回り、かつ、振動成分が所定振動値以下であるため、解除判定タイマのカウントアップが開始される。
時刻t4において、車輪速差が再度解除判定閾値を上回ると、解除判定タイマのカウントアップはリセットされるため、悪路検知フラグはONのまま維持され、悪路検知時制御が継続される。このように、解除判定タイマを用いて悪路検知フラグをセットするため、悪路検知制御の作動・非作動に伴う挟持力の変動を抑制できる。
時刻t5において、悪路から良路へと移行し、振動成分が所定振動値以下となり、かつ、車輪速差も解除判定閾値を下回っているため、解除判定タイマのカウントアップが開始される。そして、時刻t6において、解除判定タイマのカウント値が所定タイマ値までカウントされると、悪路検知フラグがONからOFFに設定され、悪路検知時制御が終了すると共に、セカンダリプーリ圧Psecも予め設定された所定変化率ΔPsec_limにより通常制御のセカンダリプーリ圧Psec(n)に向かって低下を開始すると共に、最低回転制限規制も解除される。このように、悪路検知制御の解除時には、車輪速差だけでなく、振動成分の低下を併せて判断することで、より安定的に解除判定を達成できる。
【0031】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
【0032】
(1)駆動輪の回転速度を検出する車輪速センサ21F(第1の回転速度センサ)と、
従動輪の回転速度を検出する車輪速センサ21R(第2の回転速度センサ)と、
車輪速センサ21Fの検出値と車輪速センサ21Rの検出値から駆動輪と従動輪との車輪速差を検出するステップS04(車輪速差検出部)と、
車輪速差が入り判定閾値Δvfr_br(第1の所定値)以上になった場合、走行中の路面が悪路であると判定するステップS09(悪路判定部)と、
悪路と判定した場合、悪路と判定しない場合に比べて、無段変速機のベルトを油圧制御されたプーリによって挟み込むときのベルト挟持力を高くするステップS2(第1ベルト挟持力上昇部)と、
車輪速センサ21R(第1の回転速度センサと第2の回転速度センサの少なくとも一方)の検出値に基づいて車速の振動を検出するステップS01(振動検出部)と、
悪路と判定されていない場合であって、ステップS04において車輪速差ΔvfrがΔvfr_brより小さなΔvfr_psec(第2の所定値)以上、又は、ステップS01において車速振動fvspがfvsp_psec(第3の所定値)以上のときは、車輪速差ΔvfrがΔvfr_psec未満、かつ、車速振動fvspがfvsp_psec未満の場合に比べて、ベルト挟持力を高くするステップS02もしくはS05(第2ベルト挟持力上昇部)と、
を備えた。
【0033】
すなわち、駆動輪と従動輪との回転速度の車輪速差Δvfrに基づいて悪路判定を行うため、駆動輪がスリップしたときに即座に挟持力を高めることができる。よって、スリップ後の駆動輪のグリップ力増大に伴うベルト滑りを防止できる。また、悪路が検知される前であっても、車輪速差ΔvfrがΔvfr_psec以上、又は、車速振動fvspがfvsp_psec以上のときは、ベルト滑りが生じる可能性が高いこと、もしくは、その後、悪路と判定される可能性が高いことから、このときはベルト挟持力を高くすることで、ベルト滑りを抑制できる。
【0034】
(2)CVT1(無段変速機)は、エンジン5により駆動される機械式オイルポンプO/Pの吐出圧に基づいてプーリの油圧制御を行う変速機であり、
悪路と判定されていない場合であって、ステップS06において車輪速差Δvfrが入り判定閾値よりも小さなΔvfr_npri(第4の所定値)以上、又は車速振動fvspがfvsp_npri(第5の所定値)以上のときは、エンジン5の回転数を、Npri_min(所定の最低回転数)以上となるように規制するステップS07(最低回転規制部)を設けた。
基本的に、CVT1は、走行状態ではトルクコンバータ6のロックアップクラッチ6cがロックアップ状態とされ、プライマリ回転数Npriとエンジン回転数Neとは一致している。機械式オイルポンプO/Pはエンジン5により駆動されているため、セカンダリプーリ圧PsecをfvspやΔvfrに応じて増大させているときに、エンジン回転数Neが低下してしまうと、十分なオイルポンプ吐出圧を確保できないおそれがある。そこで、機械式オイルポンプO/Pのオイルポンプ吐出圧を確保するために、プライマリプーリ最低回転数Npri_minを設定し、この回転数を達成するための変速比Gに制御する最低回転制限規制処理を実施する。これにより、プライマリ回転数Npriを確保し、ひいてはエンジン回転数Neを確保することで、機械式オイルポンプO/Pのオイルポンプ吐出圧を確保し、ベルト滑りを回避できる。
【0035】
(3)Npri_minは、予め設定された一定値である。よって、最低回転制限規制を行ったとしても、エンジン回転数が変動せず、運転者に与える違和感を抑制できる。
【0036】
(4)ステップS07は、最低回転規制を開始し、かつ、悪路と判定されたときは、車輪速差ΔvfrがΔvfr_npriより小さな解除判定閾値(第6の所定値)以下であって、かつ、車速振動fvspがfvsp_npriより小さな所定振動値(第7の所定値)以下となるまで規制を継続する。
よって、悪路制御処理が実施されている間は、機械式オイルポンプO/Pの吐出圧を十分に確保できる。
【0037】
(5)悪路制御処理(第1ベルト挟持力上昇部)によりベルト挟持力を高くしているときに、前記車輪速差が入り判定閾値Δvfr_brより小さな解除判定閾値(第8の所定値)以下であって、かつ、車速振動fvspがfvsp_psecより小さな所定振動値(第9の所定値)以下となった場合には、ステップS2において高くしたベルト挟持力を低下させるステップS8(上昇解除部)を設けた。
車輪速差Δvfrと車速振動fvspとがそれぞれ所定値以下となってから、高めた挟持力を低下させるため、悪路を脱したことを正確に判定することができ、急激に入力トルクが増大するような悪路を走行している状態にもかかわらず挟持力を低下させることを回避でき、ベルト滑りを防止できる。更に、車輪速差と車速の振動が収束すれば挟持力が良路に応じた挟持力に低下するため、良路に戻っても無駄に挟持力が高い状態で走行する時間を短縮でき、燃費の悪化を抑制できる。
【0038】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
実施例1では、ステップS07の最低回転制限規制を行う際、予め設定された所定の最低回転数Npri_minを設定した。これに対し、実施例2では、車速振動fvspや車輪速差Δvfrに応じたセカンダリプーリ圧Psec(fvsp,Δvfr)に基づいて最低回転数Npri_minを設定するものである。具体的には、セカンダリプーリ圧Psecは、Δvfr_psec未満のときは車速振動fvspに応じたセカンダリプーリ圧Psec(fvsp)であり、Δvfr_psec以上のときはステップS05のランプ制御によって決定されるセカンダリプーリ圧Psec(fvsp,Δvfr)である。このように、セカンダリプーリ圧Psecが決定されると、この油圧を確保するのに必要な最低回転数Npri_min(fvsp,Δvfr)が機械式オイルポンプO/Pの固有吐出量から算出できる。この最低回転数Npri_min(fvsp,Δvfr)を用いてCVT1の変速比Gを算出(G=Npri_min(fvsp,Δvfr)/Nsec)し、この変速比Gに向けてCVT1を制御する。これにより、走行状態に応じた必要最小限のエンジン回転数を確保することができるため、燃費を改善できる。
【0039】
実施例2では、実施例1の(1),(2),(4),(5)の作用効果に加えて下記の作用効果が得られる。
(6)Npri_min(fvsp,Δvfr)(所定の最低回転数)は、車輪速差Δvfrが大きいほど、又は、車速振動fvspが大きいほど高い回転数に設定する。
よって、走行状態に応じた必要最小限のエンジン回転数Neを確保することができるため、不要にエンジン回転数Neを高めに設定する必要が無く、燃費を改善できる。
【0040】
以上、本発明を実施例1に基づいて説明したが、上記構成に限らず本発明を適用できる。
例えば、実施例1では、悪路制御処理の解除条件である所定振動値(第7の所定値)や解除判定閾値(第8の所定値)と、最低回転制限規制の解除条件である所定振動値(第7の所定値)や解除判定閾値(第6の所定値)とを同じ値に設定したが、悪路制御処理の解除条件と最低回転制限規制の解除条件とを異なる値に設定してもよい。例えば、最低回転制限規制の解除条件を悪路制御処理の解除条件よりも高めの値に設定し、早めに最低回転制限規制を解除してもよい。
【0041】
実施例1では、前輪駆動車両に適用した例を示したが、4輪駆動車に適用することもできる。この場合、全てが駆動輪であるため、十分な車輪速差が生じないおそれがある。そこで、ステップS09の悪路判定において、
(a)各輪の加速度を算出し、加速度がスリップにより上昇したと考えられる加速度上昇側入り判定閾値より大きい状態が所定時間継続した場合
(b)各輪の加速度を算出し、加速度が障害物により低下したと考えられる加速度加工側入り判定閾値より小さい状態が所定時間継続した場合
の二つの条件を導入すればよい。
この場合、前後輪の車輪速差が入り判定閾値以上となった場合も含めた3つの条件のうち、いずれかが成立すれば悪路と判定することで、効果的に悪路検知を行える。尚、4輪駆動車で上記条件により悪路判定した後、悪路検知制御を解除するにあたっては、車輪速差と車速振動の条件によって悪路検知制御を解除すればよい。これにより、良路に復帰した場合や、悪路であると誤判定した場合に素早く挟持力を低下できるため、燃費の悪化を抑制できる。