(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持板は、前記シールを前記スライダに固定するための固定ねじを挿通する穴を有し、この穴の周囲にも、保持板の厚みを維持する厚み維持部が形成されている請求項1に記載のリニアガイド装置。
前記穴の周囲の厚み維持部は、前記外側の縁の厚み維持部と同一の厚みを有し、且つ前記穴の周囲を部分的に取り囲む形状に形成されている請求項2に記載のリニアガイド装置。
前記サイドシールは、前記シールを複数有し、これらのシールが前記スライダの運動方向に沿って互いに接触するように配置されている請求項1記載のリニアガイド装置。
前記保持板が有する前記スライダの運動方向に直交する二面のうちの一方の面に凹部を形成することで、前記厚み維持部と前記薄肉部が形成され、他方の面は平面である請求項1または2記載のリニアガイド装置。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、案内レールとスライダと複数個の転動体を備えている。案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、転動通路を転動する転動体を介して、スライダが案内レールに対して直線運動する。
従来のリニアガイド装置では、スライダの運動方向両端に、案内レールに摺接するゴム製のリップ部を有するサイドシールが配置されている。これにより、スライダの運動方向両端から内側に異物が侵入することを防止している。
【0003】
リニアガイド装置のサイドシールの従来例としては、金属板にゴム製のシール部材が固定されたものがある。シール部材は基部とリップ部とからなり、基部が金属板に溶着により固定され、リップ部は金属板から案内レール側に突出している。サイドシールは、シール部材のリップ部を案内レールの上面および両側面に接触させて使用される。
特許文献1には、金属板にゴム製のシール部材が固定されたサイドシールを、複数枚独立に、ねじ部材によりスライダに取り付けることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、シール部材、シール部材を保持する保持板、およびカバーを構成部品として有するサイドシールが記載されている。シール部材は保持板の一面に凹凸の嵌め合いで保持され、カバーは保持板の一面を覆う。つまり、このサイドシールは、シール部材が保持板とカバーで挟まれた状態で、スライダに固定される。
カバーと保持板は同じものが複数個用意されている。シール部材は複数種(リップ部の傾き、材質、厚さ、および先端形状の少なくともいずれかが異なるもの)が用意されている。これらのシール部材から適切なものを複数個選択し、同数のカバーと保持板を組み合わせてサイドシールを組み立てる。これにより、サイドシールのシール機能を用途に応じて変化させることで、サイドシールによるシール性能を向上することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されたサイドシールのように、別々に形成されたシール部材と保持板とカバーを組み合わせて使用するサイドシールでは、通常、カバーは金属等の硬質材料からなり、保持板はポリアセタール、ナイロン等の硬質樹脂からなり、シール部材は、ゴムやポリエステル系エラストマー等の軟質樹脂からなる。通常、保持板は、硬質樹脂の射出成形により製造されるため、射出成形時の収縮変形によって保持板に反りが生じる。
【0007】
特許文献2に記載されたサイドシールを、シール部材が保持板とカバーで挟まれた状態で、保持板をスライダ側に向けてスライダに取り付けた場合、保持板が反りを有すると、スライダとサイドシールとの間に隙間ができる。また、シール部材が保持板に保持されたシールを複数枚重ね、その外側にカバーを一枚配置したサイドシールを、スライダに取り付けた場合、保持板が反りを有すると複数のシール間にも隙間ができる。
【0008】
このような隙間がサイドシールの外周面(スライダに取り付けた状態での露出面)にできると、この隙間を介して、スライダの内側に異物が侵入したり、スライダの内側の潤滑剤が外側に漏れるおそれがある。特に複数枚のシールを有するサイドシールの場合、各保持板の反りが相互に影響し合うため、保持板間に隙間が発生しやすくなって、シール機能が低下し易い。
【0009】
本発明の課題は、硬質樹脂製の保持板にシール部材(リップ部)が保持されたシールを有するサイドシールを備えたリニアガイド装置において、保持板が製造誤差に起因した反りを有する場合でも、使用状態でサイドシールのシール機能が正常に発揮できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係るリニアガイド装置は、下記の構成(1)
〜(6)
と(11)を有することを特徴とする。
(1) 案内レールとスライダと複数個の転動体を備える。前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有する。前記転動通路を転動する前記転動体を介して、前記スライダが前記案内レールに対して直線運動する。前記スライダの運動方向両端に、前記案内レールに摺接するリップ部を有するサイドシールが配置されている。
【0011】
(2) 前記サイドシールは、1つ又は複数のシールと
カバーとを有する。
(3) 前記シールは、前記リップ部と、このリップ部を保持して前記スライダに装着される硬質樹脂製の保持板(保持部)と、を有する。
(4) 前記保持板は、板厚を維持する厚み維持部と、この厚み維持部より薄く剛性が低い薄肉部と、を有する。
【0012】
(5) 前記厚み維持部は、前記保持板の外側の縁のうち少なくとも前記リップ部のない部分に沿って形成されている。
(6) 前記薄肉部は、前記厚み維持部により外部から閉塞されている。
(11)前記カバーは、前記シールよりも前記スライダから遠い位置に配置されて、前記厚み維持部の先端面に当たり、前記保持板は、前記薄肉部によって全体の反りを矯正する方向への曲げ剛性が低くなっている。
前記構成(1) 〜(3) を有するリニアガイド装置は、スライダに装着される前にサイドシールの保持板が製造誤差に起因した反りを有すると、保持板とスライダとの間や保持板同士の間に隙間が生じて、シール機能が低下し易い。この態様のリニアガイド装置は、前記構成(4) を有することで、スライダに装着された後にその反りが矯正される。また、前記構成(5) および(6) を有することで、保持板とスライダとの間や保持板同士の間に隙間が生じにくい。
【0013】
なお、リップ部を構成する材料としては、ポリエステル系エラストマー等の軟質樹脂や、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。保持板を構成する硬質樹脂としては、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(ナイロン、PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が挙げられる。
【0014】
この態様のリニアガイド装置は、前記保持板が、前記シールを前記スライダに固定するための固定ねじを挿通する穴を有する場合は、この穴の周囲にも、保持板の厚みを維持する厚み維持部が形成されていることが好ましい。穴の周囲に厚み維持部が形成されていることで、穴の周囲でも、厚み維持部により保持板と隣接する部材(保持板やスライダ等)との間が塞がれるため、薄肉部と保持板に隣接する部材とによる空間部に仮に異物があっても、その異物が穴を経てスライダの内側に移動することを防止できる。
【0015】
前記穴の周囲の厚み維持部が、前記外側の縁の厚み維持部と同一の厚みを有し、且つ前記穴の全周を取り囲む環状に形成されていると、穴の全周で厚み維持部により保持板と隣接する部材との間が塞がれるため、前記異物の穴を経た移動を防止できる効果が高い。
また、前記穴の周囲の厚み維持部が、前記外側の縁の厚み維持部と同一の厚みを有し、且つ前記穴の周囲を部分的に取り囲む形状に形成されていると、固定ねじを強く締めつけた場合でも、前記穴の周囲に大きな変形が生じないため、固定ねじの締め付けトルクの管理が簡単になる利点がある。
【0016】
この態様のリニアガイド装置は、下記の構成(7) を有することができる。
(7) 前記保持板と前記リップ部は別々に形成されている。前記リップ部は、前記保持板の前記案内レールに近い縁に形成されたリップ取付部に保持されている。前記保持板の前記リップ取付部のある縁では、前記リップ取付部より内側に前記リップ取付部に沿って、前記厚み維持部が形成されている。
【0017】
この態様のリニアガイド装置が前記構成(7) を有すると、リップ部に沿って厚み維持部が形成されているため、リップ部が過大な圧力で潰されることがない。また、薄肉部に異物があっても、この異物の移動がリップ部に沿った厚み維持部によって阻止されるため、リップ部の損傷が抑制される。
この態様のリニアガイド装置は、下記の構成(8) を有することができる。
【0018】
(8) 前記サイドシールは、1つ又は複数のシールとカバーとを有する。前記カバーは硬質材の板からなり、前記シールよりも前記スライダから遠い位置に配置されている。前記サイドシールは、前記カバーと前記シールを貫通して前記スライダに螺合される固定ねじにより、前記スライダに固定されている。
これにより、シールに反りがあっても、固定ねじの締め付け力によってシールの反りが矯正されて、シール間やシールと他の部材との間が密接になる。
【0019】
前記サイドシールは、前記シールを複数有し、これらのシールが前記スライダの運動方向に沿って互いに接触するように配置されていることが好ましい。これにより、サイドシールが複数のリップ部を有するため、前記シールを一つ有する場合と比較して、サイドシールのシール性が向上する。
この態様のリニアガイド装置は、下記の構成(9) を有することが好ましい。
【0020】
(9) 前記保持板が有する前記スライダの運動方向に直交する二面のうちの一方の面に凹部を形成することで、前記厚み維持部と前記薄肉部が形成され、他方の面は平面に形成されている。 つまり、前記厚み維持部は基準面(前記二面の間の面)に対して凸状に、前記薄肉部が凹状に形成されている。
これにより、保持板の一方の面のみが凹凸面となるため、両面が凹凸面となっている保持板を有するサイドシールと比較して、保持板と隣接する他の部材との間に隙間が形成されにくくなることで、サイドシールのシール性が向上する。
この態様のリニアガイド装置は、前記構成(9) および下記の構成(10)を有することが好ましい。
【0021】
(10)前記保持板の前記平面の外側の縁に沿って
連続して形成され、前記スライダの運動方向に突出する突起を有する。
これにより、保持板と他の隣接部材との間が前記縁に沿う突起により閉塞されるため、前記構成(9) を有し前記構成(10)を有さないサイドシールと比較して、サイドシールのシール性が向上する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のリニアガイド装置によれば、スライダに装着される前にサイドシールの保持板が製造誤差に起因した反りを有する場合でも、スライダに装着された後にその反りが矯正されるため、サイドシールのシール機能が正常に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態のリニアガイド装置全体を示す斜視図である。
【
図2】
図1のリニアガイド装置において、サイドシールをスライダから外した状態を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態のサイドシールを分解した状態を示す斜視図である。
【
図4】第1実施形態のサイドシールを構成する内側シールおよび外側シールを分解した状態を示す斜視図である。
【
図5】内側シールおよび外側シールを構成する保持板の背面からの斜視図である。
【
図6】内側シールおよび外側シールを構成するリップ部を示す正面図(a)と、そのA−A断面図(b)である。
【
図7】第1実施形態でサイドシールをスライダに固定する方法を示す断面図である。
【
図8】第1実施形態でサイドシールをスライダに固定する際に、保持板に反りがある場合を示す断面図である。
【
図9】第1実施形態でサイドシールがスライダに固定された状態を示す断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態で、サイドシールをスライダに固定する方法を示す断面図である。
【
図11】本発明の第3実施形態でサイドシールをスライダに固定する際に、保持板に反りがある場合を示す断面図である。
【
図12】本発明の第4実施形態のサイドシールを構成する保持板を示す斜視図である。
【
図13】第1の比較例で、サイドシールがスライダに固定された状態を示す断面図である。
【
図14】第2の比較例で、サイドシールをスライダに固定する際に、保持板に反りがある場合を示す断面図である。
【
図15】第2の比較例で、サイドシールがスライダに固定された状態を示す断面図である。
【
図16】サイドシールを構成するリップ部の別の例を示す断面図であって、
図6(a)のA−A断面図に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜9は、本発明の第1実施形態を示している。これらの図において、リニアガイド装置の構造として周知であり且つ本発明に直接の関係をもたない部分、例えば転動体、転動体の戻り通路等については図示を一部省略している。
図1に示すように、第1実施形態のリニアガイド装置は、案内レール10とスライダ20とサイドシール30とを備えている。スライダ20は、内側に図示しない多数の転動体を保持しているスライダ本体21と、転動体の方向転換路を有するエンドキャップ22とからなる。エンドキャップ22は、スライダ本体21の軸方向(案内レールの長手方向、スライダ運動方向)両端に配置されている。サイドシール30は、エンドキャップ22の軸端部に配置されている。
【0025】
リニアガイド装置は、案内レール10を水平面に配置し、案内レール10の上面および両側面を囲うようにスライダ20を配置して使用される例が多い。すなわち、多くの場合、案内レール10は、その長手方向および幅方向(左右方向)を水平に沿わせて配置される。
そのため、この実施形態においても、長手方向(軸方向)と上下方向と左右方向をこの例に沿って説明する。したがって、リニアガイド装置の設置方法がこの例とは異なり、案内レール10の長手方向や上下方向や左右方向に傾斜などの変更が加えられた場合には、その姿勢に倣って各部の方向や傾きを解釈する。
【0026】
図1に示す案内レール10と、スライダ本体21及びエンドキャップ22からなるスライダ20は、いずれも慣用されているリニアガイド装置と同一である。そして、エンドキャップ22の軸方向端面に装着されるサイドシール30が本発明独自のものである。
サイドシール30は、
図2および
図3に示すように、軸方向に重なる複数(この実施形態では2つの)のシール31,32、すなわち、スライダ20側の内側シール31とスライダ20から遠い側の外側シール32を有している。さらに、サイドシール30は、外側シール32のさらに軸方向外側に配置されたカバー33を有する。カバー33は、金属板などの硬質の板からなる。
【0027】
図3および
図4に示すように、サイドシール30のシール31,32は、いずれも、案内レール10に摺接するリップ部34と、リップ部34を保持する保持板35とからなる。保持板35とリップ部34は別体である。保持板35は、リップ部34を保持してスライダ20に装着される。
リップ部34は、
図4に示すように、案内レールの上側に配置される上側リップ部34aと、案内レールの左右各側に配置される側方リップ部34bとに分けられる。
図6(a)は、
図4では見えない面から見たリップ部34の正面図である。
図6(b)は
図6(a)のA−A断面図である。
【0028】
これらの図に示すように、リップ部34は、上側リップ部34aおよび側方リップ部34bがそれぞれ案内レールと向かい合う方向で、案内レールの上面および両側面に接触させるリップ341と、保持板35に保持される基部342とに分けられる。基部342の一方の面に凹部(保持板35と凹凸の嵌め合いで係合する係合部)342aが形成されている。
【0029】
リップ部34は、ポリエステル系エラストマーなどの軟質樹脂からなる。保持板35はポリアセタール、ナイロンなどの硬質樹脂からなる。
保持板35の一面(スライダ20から遠い面)の案内レール10に近い縁に、リップ取付部35aが凹凸状に形成されている。リップ取付部35aに、リップ部34の凹凸状の基部342が嵌まることで、リップ部34が保持板35に保持されている。
【0030】
保持板35は、板厚を維持する厚み維持部3a、3bと、厚み維持部3a,3bより厚みが薄く剛性が低い薄肉部3dを有する。厚み維持部3a,3bの厚みで、各シール31,32の軸方向寸法が決まる。また、薄肉部3dを設けることで、保持板35の肉厚を部分的に薄くして剛性を低下させている。これにより、保持板35は、薄肉部3dを有さない保持板と比較して、曲げ剛性が低くなる。
【0031】
厚み維持部3aは、保持板35の一方の面に薄肉部3dとなる凹部を形成することで、外側の縁に沿って形成されている。厚み維持部3aは、薄肉部3dの外側の縁の一方の面に、枠状に一体に突設されている。サイドシール30を取り付けた状態のリニアガイド装置で、薄肉部3dは厚み維持部3aにより外部から閉塞される。
また、厚み維持部3bは、後述の固定ねじ4を挿通する穴36やグリースを供給するために開設された穴37の全周を取り囲む環状に形成されている。
【0032】
各厚み維持部3a,3bの厚み(薄肉部3dからの高さ)はいずれも同一であり、これらとの対比では薄肉部3dは凹状に形成されているとも言える。
一方、サイドシール30の両シール31,32において、厚み維持部3aと薄肉部3dを有する保持板35の面を正面とした場合、その反対の背面は、
図5に示すように、後述の突起3eを除いて平面になっている。
【0033】
保持板35のリップ取付部35aのある縁では、厚み維持部3aが、リップ取付部35aより案内レール10から遠い側、つまり、リップ取付け部35aより内側に、リップ取付部35aに沿って設けられている。このように、厚み維持部3aは、保持板35の上側の縁と左右両側の縁と下側の縁と、リップ取付け部35aの内側とに連続して設けられている。つまり、厚み維持部3aは、薄肉部3dを、保持板35のスライダ20の運動方向に直交する面内で取り囲んだ形態になっている。
【0034】
保持板35には、厚み維持部3a,3bが形成された面とは反対側の面に、外側の縁に沿って、板面から突出する突起3eが形成されている。この突起3eは先端に向けて厚みが薄く形成され、先端に可撓性が与えられている。
また、サイドシール30の両シール31,32の薄肉部3dには、突起3cが形成されている。これに対して、外側シール32の厚み維持部3a,3bが形成された面とは反対側の面(内側シール31側の面)には、内側シール31の突起3cが係合する凹部3fが形成されている。また、カバー33には、外側シール32の突起3cが係合する穴33aが開口している。
【0035】
突起3cと凹部3fの係合、突起3cと穴33aの係合により、両シール31,32とカバー33の位置決めがなされ、保持板35の板厚が維持されている。よって、突起3cは厚み維持部3a,3bと共通する機能も備えている。また、カバー33は、固定ねじ4を挿通する穴33bと、グリースを供給するためにグリースニップルを装着する穴33cを有する。
【0036】
図7に示すように、カバー33の穴33bと両シール31,32の穴36とに、固定ねじ4が挿通され、その先端部が、スライダ2のエンドキャップ22のボルト挿通穴22aに挿通され、スライダ本体21の雌ねじ21aに螺合される。これにより、サイドシール30が固定ねじ4でスライダ20の軸方向端部に固定される。
図9はこの状態を示す。
このとき、内側シール31は、平面からなる背面がスライダ20の端面に面接触し、内側シール31の凹凸のある正面に外側シール32が接している。この状態で、外側シール32の背面は、内側シール31の厚み維持部3aの先端面に当たっていて、両シール31,32は密着されている。また、外側シール32の背面の縁にある突起3eが、内側シール31の厚み維持部3aに接触し、両シール31,32の外周部で両シール31,32の接触面と外部との間を閉塞している。
【0037】
また、外側シール32の凹凸のある正面には平らなカバー33が接している。このカバー33も外側シール32の前記厚み維持部3aの先端面に当たっていて、カバー33と外側シール32の間も密着されている。
このように、両シール31,32の薄肉部3dにより形成された凹状の空間部は、厚み維持部3aとこれに当たっている外側シール32又はカバー33によって閉塞されているから、ここに異物が侵入することはない。
【0038】
また、仮にここに異物が入り込むことがあっても、固定ねじ4が通る穴36の周囲には厚み維持部3bがあって、これが外側シール32又はカバー33の背面に当たって密着しているから、薄肉部3dの空間部に入った異物がさらに固定ねじ4の通る穴36を介してスライダ20の内側に入り込むことは防止される。
さらに、薄肉部3dで形成された空間部に仮に異物が入り込むことがあっても、その空間部とリップ部34との間にも厚み維持部3aがあって、その内外間を遮断しているから、前記空間部の異物がリップ部34に至ってリップ部34を損傷させることを防止できる。
【0039】
また、サイドシール30において、両シール31,32の保持板35に成型後の収縮変形により、
図8に示すように反りが発生した場合は、次のように反りが矯正される。すなわち、保持板35は、薄肉部3dによって全体の反りを矯正する方向への曲げ剛性が低くなっている。このため、両シール31,32とカバー33を重ねてこれらに固定ねじ4を通し締め付けると、その締め付け力によって保持板35の反りが矯正される。そして、
図7、9に示すように、両シール31,32は、剛性の高いスライダ20の端面とカバー33との間に挟まれてこれらの間に密着する。
【0040】
したがって、サイドシール30におけるシール31,32の保持板35に反りがあるときでも、その反りが効果的に矯正されて、反りがないときと同様にシール機能を充分に発揮することができる。
特に、この実施形態においては、両シール31,32で、リップ取り付け部35aの内側にも厚み維持部3aを設けている。この厚み維持部3aはリップ部34よりも硬質の樹脂により形成されているため、固定ねじ4の締め付け力が過大になったとしても、厚み維持部3aが抵抗になってリップ部34が損傷したり潰れるのを防止することができる。よって、保持板35の反り矯正を目的として、固定ねじ4による充分に強い締め付け力を付与することが可能となる。
【0041】
図10は、本発明の第2実施形態を示す。第1実施形態と異なり、内側シール31には厚み維持部3bが形成されていない。このため、固定ねじ4を挿通する穴の周囲も薄肉部3dとなっている。つまり、内側シール31に厚み維持部3bがない分、外側シール32が内側シール31側に反りやすくなっている。そのため、固定ねじ4の締め付けを必要以上に強く行うことを避ける。
【0042】
つまり、カバー33が外側シール32の厚み維持部3a,3bに当たり、外側シール32の背面が内側シール31の厚み維持部3aに当たり、内側シール31の背面がスライダ20の端面に当たった状態とし、これにより両シール31,32の反りが矯正されている段階で締め付けを終了させる。
これにより、外側シール32の厚み維持部3b付近が固定ねじ4の締め付けで内側シール31側に反るのを防止することができる。この実施形態では、外側シール32が反りやすく、内側シール31は厚み維持部3bがない分だけ剛性が低くなっているから、いずれのシール31,32においても反りの矯正が容易になっている。
【0043】
図11は、本発明の第3実施形態を示す。第3実施形態のサイドシール30を構成する内側シール31の保持板35は、リップ部34およびリップ取り付け部35aより内側に厚み維持部3aを有さない。つまり、内側シール31の保持板35においては、リップ取り付け部35aにまで薄肉部3dが連続している。これにより、内側シール31の剛性が低下するため、内側シール31が反ったときの矯正が容易になる。
【0044】
図12は、本発明の第4実施形態を示す。第4実施形態のサイドシールを構成する保持板35は、第1実施形態のサイドシールを構成する保持板35と、厚み維持部3a,3bの形状が異なる。すなわち、第1実施形態の保持板35では、リップ取り付け部35aの内側に、リップ取り付け部35aに沿って連続して形成されていた厚み維持部3aが、第4実施形態の保持板35では分断されている。また、分断したリップ取り付け部35a間に薄肉部3dを延長させている。
【0045】
また、第1実施形態の保持板35では、固定ねじ4を挿通する穴36やグリースを供給する穴37の周囲の厚み維持部3bは、穴36、37を囲んで環状に形成していたが、この第4実施形態の保持板35では、環状の厚み維持部3bの中途を分断して不連続状態とし、その間に薄肉部3dを連続させている。
この実施形態の保持板35によれば、分断された厚み維持部3a,3bであっても、固定ねじ4による締め付けに充分に耐えることができるとともに、分断により増加した薄肉部3dの分だけシール31,32の剛性が低下するから、シール31,32の保持板35の反りの矯正が容易になる。
【0046】
図13に示す第1の比較例のサイドシールでは、外側シール32の保持板35は外縁部とリップ取付部35aより内側の両方に厚み維持部3aを有するが、内側シール31の保持板35は外縁部に厚み維持部を有さない。つまり、内側シール31の保持板35では、薄肉部3dが外縁まで至っている。このため、内側シール31の保持板35の外縁から、両シール31,32間に異物が入り込む。
【0047】
特に、この比較例のように、複数のシールを備えるサイドシールの場合には、各シールの反りが相互に影響し合うので、各シール間に隙間が発生しやすくなる。これに対して、本発明の各実施形態のサイドシールでは、上記の異物の侵入がない。
図14および
図15に示す第2の比較例のサイドシールでは、両シール31,32の保持板35が薄肉部を有さず、保持板35の全体が厚み維持部になっている。このため、硬質の合成樹脂からなる保持板35の剛性はそのまま維持されるから、保持板35に反りが発生すると、固定ねじ4による締め付けでは容易に反りを矯正することができない。
【0048】
つまり、
図15に示すように、このサイドシールを固定ねじ4で締め付けた後に、スライダ20と内側シール31との間、両シール31,32間、およびカバー33と外側シール32との間に隙間が発生する。これにより、シール機能が低下する。これに対して、本発明の各実施形態では、複数のシールを備える場合でも、保持板35の反りが容易に矯正されてシール機能が確保される。
【0049】
以上、本発明を実施形態と比較例を用いて説明したが、本発明のサイドシールを構成するシールは必ずしも2枚である必要はなく、1枚であってもよいし、3枚以上であってもよい。
また、シールを構成するリップ部は、
図16に示すリップ部34Aのように、リップ343と基部344が別々の材料で形成されていてもよい。例えば、リップ部34Aのリップ343をゴムまたは軟質樹脂製とし、基部344を硬質樹脂または金属製とすることができる。
【0050】
図16では、硬質樹脂製の基部344とゴム製のリップ343とからなり、インサート成形法により得られたリップ部34Aを例示している。リップ343と基部344は両結合部343a,344aにより結合されている。凹部(保持板35と凹凸の嵌め合いで係合する係合部)345は、基部344とリップ343との間に形成される。