特許第6340904号(P6340904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6340904
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】インバータ装置、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20180604BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-101321(P2014-101321)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-220810(P2015-220810A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 雅人
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 敏之
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−040712(JP,A)
【文献】 特開平09−307366(JP,A)
【文献】 特開2009−065144(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065182(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alからなる放熱部材と、第一セラミックス部材の一面側に形成した抵抗体を備えた放電抵抗体と、第二セラミックス部材の一面側に回路層を形成した絶縁回路基板と、を有するインバータ装置であって、
前記放熱部材の一面側に、前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板が、それぞれ、ろう材によって接合されており、
前記放電抵抗体として、通常放電抵抗体と短時間放電抵抗体とが前記放熱部材の一面側に配設されていることを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板の少なくともいずれか一方が、前記放熱部材の一面側に、複数個配設されていることを特徴とする請求項1記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記絶縁回路基板の前記回路層にパワー素子が搭載されていることを特徴とする請求項1または2記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記絶縁回路基板は、第二セラミックス部材の他面側に、緩衝層を備えていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記放電抵抗体は、第一セラミックス部材の他面側に、緩衝層を備えていることを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記放熱部材の他面側には、前記放熱部材を冷却する冷媒流通部材が形成されていることを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項記載のインバータ装置。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか一項記載のインバータ装置の製造方法であって、
前記放熱部材の一面側に、前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板を一括して接合することを特徴とするインバータ装置の製造方法。
【請求項8】
前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板の接合時において、前記放電抵抗体の上面と前記絶縁回路基板の上面とが同一平面に位置していることを特徴とする請求項7記載のインバータ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高圧直流電源を備えた各種車両向けのインバータ装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリット自動車や燃料電池自動車などに代表される高圧直流電源を備えた車両が急速に普及しつつある。
こうした高圧直流電源を備えた車両では、主に安全性の観点から、モータ駆動電圧よりも低い電圧の高圧直流電源を用いている。そして、この高圧直流電源の出力電圧を昇圧コンバータ(アップコンバータ)により昇圧し、モータ駆動用のインバータに印加する昇圧コンバータ・インバータ回路方式が主に採用されている。
【0003】
こうした昇圧コンバータ・インバータ回路では、高圧直流電源の電圧を昇圧する昇圧コンバータと、この昇圧直流電圧を交流電圧して交流回転電機に印加するインバータとを接続したものから構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
昇圧コンバータ・インバータ回路では、昇圧コンバータの一対の入力端子間にコンバータ用の平滑コンデンサを接続し、また、インバータの一対の入力端子間にインバータ用の平滑コンデンサを接続している。これら平滑コンデンサは交直変換によって生じる直流波形中の脈流(リップル)を低減するためのコンデンサであって、スイッチングサージ電圧低減のためにコンバータ用の平滑コンデンサは昇圧コンバータのスイッチング素子に近接して、またインバータ用の平滑コンデンサはインバータのスイッチング素子に近接して配置されている。
【0005】
そして、昇圧コンバータ・インバータ回路では、インバータ用の平滑コンデンサと並列に放電抵抗素子が接続されている。放電抵抗素子は、モータの運転停止時にインバータの一対の入力端子間を放電させる常用の放電抵抗素子(以下、通常放電抵抗素子と称する)と、車両に何らかの異常、例えば衝突などが生じた場合に、安全確保のためにインバータの一対の入力端子間を短時間で放電させる非常用の放電抵抗素子(以下、短時間放電抵抗素子と称する)とが並列に接続されている。
【0006】
短時間放電抵抗素子は、高圧直流電源と昇圧コンバータとの間の電力ケーブルが断線するなどして、高圧直流電源から昇圧コンバータ・インバータ回路への給電が途絶えた場合に、コンバータ用の平滑コンデンサ及びインバータ用の平滑コンデンサを短時間(たとえば数分以内)に放電させ、電気的安全性を向上させる。即ち、短時間放電抵抗素子はインバータ用の平滑コンデンサを直接放電するとともに、コンバータ用の平滑コンデンサを昇圧コンバータ内蔵のダイオードを通じて放電する。
こうした目的のため、短時間放電抵抗素子には、例えば、車両の衝突衝撃を検出するセンサからの信号によって開閉されるスイッチ素子等が直列に接続される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−253276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、インバータに組み込まれる通常放電抵抗素子や、短時間放電抵抗素子としては、比較的設置スペースの大きいセメント抵抗体が用いられ、放熱のために個々に離間して配置されていた。このため、インバータ装置の設置スペースが大きくなり、省スペース化が困難であった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、放電抵抗素子を備えたインバータ装置の省スペース化を可能にし、かつ、放電抵抗体の確実な冷却が可能なインバータ装置、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のインバータ装置は、Alからなる放熱部材と、第一セラミックス部材の一面側に形成した抵抗体を備えた放電抵抗体と、第二セラミックス部材の一面側に回路層を形成した絶縁回路基板と、を有するインバータ装置であって、前記放熱部材の一面側に、前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板が、それぞれ、ろう材によって接合されており、前記放電抵抗体として、通常放電抵抗体と短時間放電抵抗体とが前記放熱部材の一面側に配設されていることを特徴とする。
【0011】
本発明のインバータ装置によれば、インバータ回路を構成する絶縁回路基板と、放電抵抗素子とを、1つの放熱部材の一面側にろう材を介して直接接合した。これによって、これら絶縁回路基板や放電抵抗体に生じる熱を、1つの放熱部材によって効率的に放熱することが可能になる。個々の絶縁回路基板や放電抵抗体ごとに放熱部材を設ける場合と比較して、簡易な構成にすることができ、低コストなインバータ装置を実現できる。また、インバータ装置を小型、軽量化することが可能になる。
また、放電抵抗素子を放熱部材の一面側にろう材を介して直接接合することで、例えば、短時間放電動作時に急激な温度上昇を伴う放電抵抗素子を確実に冷却し、放電抵抗素子の熱破損を防止することができる。
さらに、放電抵抗体として通常放電抵抗体および短時間放電抵抗体とを備えることによって、例えば、電気自動車の車載用に最適な、インバータ回路と通常放電抵抗体および短時間放電抵抗体とを1つの放熱部材に搭載した省スペースなインバータ装置を実現できる。
【0012】
本発明においては、前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板の少なくともいずれか一方が、前記放熱部材の一面側に、複数個配設されていてもよい。
1つの放熱部材に、複数個の放電抵抗体および絶縁回路基板の少なくともいずれか一方を配設することによって、複数の放電抵抗体および絶縁回路基板を、1つの放熱部材で一括して効率よく冷却することができる。
【0013】
本発明においては、前記絶縁回路基板の前記回路層にパワー素子が搭載されていてもよい。
絶縁回路基板にパワー素子を形成することによって、このパワー素子の種類に応じて、任意の電気回路を構成することができる。例えば、このパワー素子によって、インバータ回路を形成することができる。
【0014】
本発明においては、前記絶縁回路基板は、第二セラミックス部材の他面側に、緩衝層を備えていてもよい。
第二セラミックス部材の他面側に、緩衝層を形成することによって、放熱部材と第二セラミックス部材との熱膨張係数の差によって生じる熱応力を吸収することができ、第二セラミックス部材の破損を防止できる。
【0015】
本発明においては、前記放電抵抗体は、第一セラミックス部材の他面側に、緩衝層を備えていてもよい。
第一セラミックス部材の他面側に、緩衝層を形成することによって、放熱部材と第一セラミックス部材との熱膨張係数の差によって生じる熱応力を吸収することができ、第一セラミックス部材の破損を防止できる。
【0016】
本発明においては、前記放熱部材の他面側には、前記放熱部材を冷却する冷媒流通部材が形成されていてもよい。
放熱部材の他面側に、更に冷媒流通部材を設けて、冷媒を流通させることにより、放熱部材からの放熱をより効率的に行い、インバータ装置の冷却能力を一層高めることができる。
【0018】
本発明のインバータ装置の製造方法は、前記インバータ装置の製造方法であって、前記放熱部材の一面側に、前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板を一括して接合することを特徴とする。
【0019】
本発明のインバータ装置の製造方法によれば、放熱部材の一面側に放電抵抗体および絶縁回路基板を一括して接合することによって、例えば、複数の放電抵抗体および絶縁回路基板をもつインバータ装置の接合工程を、これら放電抵抗体および絶縁回路基板を個々に接合する場合と比較して大幅に簡略化することができる。よって、低コストにインバータ装置を製造することが可能になる。また、1つの絶縁回路基板に複数の放電抵抗体および絶縁回路基板を接合すれば、インバータ装置の小型、軽量化を達成することが可能になる。
【0020】
前記放電抵抗体および前記絶縁回路基板の接合時において、前記放電抵抗体の上面と前記絶縁回路基板の上面が同一平面に位置していてもよい。
これにより、例えば、放電抵抗体および絶縁回路基板に接する加圧面が平坦な加圧治具を用いて、放電抵抗体および絶縁回路基板に対して均等な加圧力で荷重を印加し、これら放電抵抗体と絶縁回路基板との間で歪応力を生じさせることなく各構成部材を接合することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インバータ装置に組み込まれる放電抵抗体の実装を簡素化し、かつ、放電抵抗体への通電時に確実に冷却が可能なインバータ装置、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のインバータ装置の平面図である。
図2】本発明のインバータ装置の断面図である。
図3】本発明のインバータ装置の電気的構成を示す説明図である。
図4】本発明のインバータ装置における冷媒流通部材の別な実施形態を示す断面図である。
図5】本発明のインバータ装置の製造方法を示す断面図である。
図6】本発明のインバータ装置の製造方法を示す断面図である。
図7】本発明のインバータ装置の製造方法の別な実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明のインバータ装置について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0024】
(インバータ装置)
本発明のインバータ装置について、添付した図1〜3を参照して説明する。
図1は、インバータ装置を上面から見た時の平面図、図2(a)は図1のインバータ装置におけるA−A線に沿った断面図、図2(b)は図1のインバータ装置におけるB−B線に沿った断面図である。また、図3は、インバータ装置の電気的な構成を示した説明図である。
【0025】
インバータ装置10は、Alからなる放熱部材11と、互いに放電特性が異なる2種類の放電抵抗体21、22と、複数のパワーモジュール31,31…と、放熱部材11を冷却するための冷媒流通部材41と、を備えている。なお、放熱部材11と冷媒流通部材41とは、一体に形成された部材であってもよい。
【0026】
放熱部材11は、Al又はAlを含むAl合金から構成されている。例えば、A1000系Al合金、A3000系Al合金、A6000系Al合金などを用いることができる。本実施形態では、A1000系Al合金(A1050)が用いられている。
【0027】
放電抵抗体21は、第一セラミックス部材23aと、この第一セラミックス部材23aの一面上に形成された抵抗体24aと、この抵抗体24aの電極25a,25aとを備えている。また、それぞれの電極25a,25aには、例えば、はんだ層26a,26aとを介して接続端子27a,27aが接続されている。
【0028】
放電抵抗体21は、放熱部材11の一面11a側に接合されている。即ち、放電抵抗体21を構成する第一セラミックス部材23aと、放熱部材11の一面11aとが、ろう材、例えばAl−Si系ろう材によって接合されている。
【0029】
放電抵抗体22は、例えば、第一セラミックス部材23bと、この第一セラミックス部材23bの一面上に形成された抵抗体24bと、この抵抗体24bの電極25b,25bとを備えている。また、それぞれの電極25b,25bには、例えば、はんだ層26b,26bとを介して接続端子27b,27bが接続されている。
【0030】
放電抵抗体22は、放熱部材11の一面11a側に接合されている。即ち、放電抵抗体21を構成する第一セラミックス部材23bと、放熱部材11の一面11aとが、ろう材、例えばAl−Cu系ろう材によって接合されている。
【0031】
第一セラミックス部材23a,23bは、例えば、絶縁性および放熱性に優れたSi(窒化ケイ素)、AlN(窒化アルミニウム)、Al(アルミナ)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、第一セラミックス部材23a,23bは、Al(アルミナ)で構成されている。また、第一セラミックス部材23a,23bの厚さは、例えば、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0032】
抵抗体24a,24bは、放電抵抗体21,22に電流が流れた際の電気抵抗として機能させるためのものであり、構成材料の一例として、Ta−Si系薄膜抵抗体やRuO厚膜抵抗体が挙げられる。抵抗体12は、本実施形態においては、Ta−Si系薄膜抵抗体によって構成され、厚さが例えば0.5μmとされている。
【0033】
電極25a,25bは、抵抗体24a,24bにそれぞれ電圧を印加するための電気的な接続部であり、導電体、例えば、Cu、Cu合金、或いはAl,Ag,銀−パラジウム合金などにより構成されている。本実施形態においては、銀−パラジウム合金によって構成されている。厚さが例えば0.5μmとされている
【0034】
接続端子27a,27bは、電極25a,25bに接続される引出端子であり、導電体、例えば、Cu、Cu合金より構成されている。本実施形態においては、Cuによって構成されている。接続端子27a,27bの厚さは、例えば2μm以上3μm以下とされており、本実施形態においては、1.6μmとされている。なお、接続端子27a,27bとして、Cu以外にも、例えば、Al,Agなど、高導電率の各種金属を採用することもできる。
【0035】
はんだ層26a,26bは、それぞれの放電抵抗体21,22の電極25a,25bと接続端子27a,27bとを電気的に相互に接続するものである。はんだ層26a,26bを構成するはんだとしては、例えば、Sn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだが挙げられる。
【0036】
なお、放電抵抗体21,22と放熱部材11との間には、更に緩衝層が形成されていることも好ましい。こうした緩衝層は、例えば、純度が99.98mass%以上の高純度Alからなる板状の部材でから構成される。この緩衝層の厚みは、例えば、0.4mm以上、2.5mm以下であればよい。こうした緩衝層を放電抵抗体21,22と放熱部材11との間に更に形成することによって、放熱部材11と第一セラミックス部材23aとの熱膨張係数の差によって生じる熱応力を吸収することができ、第一セラミックス部材23aの破損を防止することができる。
【0037】
また、緩衝層を純度99.98mass%以上の高純度Alで形成することによって、変形抵抗が小さくなり、冷熱サイクルが負荷された際に第一セラミックス部材23a,23bに発生する熱応力をこの緩衝層によって吸収でき、第一セラミックス部材23a,23bに熱応力が加わって割れが発生することを抑制できる。
【0038】
パワーモジュール31は、第二セラミックス部材32とこの第二セラミックス部材32の一面側および他面側にそれぞれ形成された金属部材33,34とからなる絶縁回路基板35、絶縁回路基板35の一面側の金属部材33に搭載されたパワー素子36からなる。 第二セラミックス部材32の一面側に形成された金属部材(回路層)33は、インバータ回路の回路層を構成している。また、パワー素子36には、接続端子37が接続されている。
【0039】
第二セラミックス部材32は、例えば、絶縁性、および放熱性に優れたSi(窒化ケイ素)、AlN(窒化アルミニウム)、Al(アルミナ)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、第二セラミックス部材32は、特に放熱性の優れたAlN(窒化アルミニウム)で構成されている。また、第二セラミックス部材32の厚さは、例えば、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0040】
金属部材33,34は、例えば、Al、Cuなど、導電性、熱伝導性に優れた金属から構成される。本実施形態では、金属部材33,34として、純度が99.99mass%以上のAl(いわゆる4N−Al)が用いられている。また、金属部材33,34の厚さは0.1mm〜5.0mmとされ、本実施形態では0.4mmとされている。
【0041】
金属部材(回路層)33と第二セラミックス部材32、および金属部材34と第二セラミックス部材32とは、それぞれろう材を用いて直接接合されている。ろう材としては、Al−Cu系ろう材、Al−Si系ろう材などが挙げられる。本実施形態で、Al−Si系ろう材が用いられている。
また、金属部材34と放熱部材11の一面11a側も、同様にろう材、例えばAl−Si系ろう材によって直接接合されている。
【0042】
パワー素子36は、インバータ回路を構成するパワー電子部品であり、例えば、抵抗、サイリスタ、トランジスタなどである。こうしたパワー素子36は、金属部材(回路層)33に対して、はんだ層38を介して接続されている。
はんだ層38を構成するはんだとしては、例えば、Sn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだが挙げられる。
【0043】
接続端子37は、パワー素子36の一方の電極に接続される引出端子であり、導電体、例えば、Cu、Cu合金より構成されている。本実施形態においては、Cuによって構成されている。接続端子37の厚さは、例えば2μm以上3μm以下とされており、本実施形態においては、1.6μmとされている。なお、接続端子37として、Cu以外にも、例えば、Al,Agなど、高導電率の各種金属を採用することもできる。
【0044】
なお、パワーモジュール31を構成する絶縁回路基板35の他面側の金属部材34と、放熱部材11との間には、更に緩衝層が形成されていることも好ましい。こうした緩衝層は、例えば、純度が99.98mass%以上の高純度Alからなる薄板状の部材から構成される。この緩衝層の厚みは、例えば、0.4mm以上、2.5mm以下であればよい。こうした緩衝層を金属部材34と放熱部材11との間に更に形成することによって、放熱部材11と第二セラミックス部材32との熱膨張係数の差によって生じる熱応力を吸収することができ、第二セラミックス部材32の破損を防止することができる。
【0045】
また、緩衝層を純度99.98mass%以上の高純度Alで形成することによって、変形抵抗が小さくなり、冷熱サイクルが負荷された際に第二セラミックス部材32に発生する熱応力をこの緩衝層によって吸収でき、第二セラミックス部材32に熱応力が加わって割れが発生することを抑制できる。
【0046】
冷媒流通部材41は、放熱部材11の他面11b側に形成されている。この冷媒流通部材41は、例えば、放熱部材11を冷却するための冷媒を流通させる流路41aを備えた部材である。放熱部材11を冷却させる冷媒としては、例えば、水、空気、有機ガスなどが挙げられる。本実施形態では、流路41aを流通させる冷媒として水を用いた、いわゆる水冷方式としている。
【0047】
こうした冷媒流通部材41は、放熱部材11と同様の材料、例えばAlより形成されている。また、冷媒流通部材41は、放熱部材11と一体に形成されていることも好ましい。本実施形態では、放熱部材11と冷媒流通部材41とを一体のAl部材で形成している。
【0048】
なお、冷媒流通部材の別な実施形態として、例えば、図4に示すように、冷媒として空気を用い、この空気が流通するように、互いに間隔をあけて配置した多数のフィン45,45…を備えた冷媒流通部材46を、放熱部材11の他面11b側に形成した構成とすることもできる。
【0049】
図1に示すように、本実施形態のインバータ装置10は、6個のパワーモジュール31,31…と、互いに特性の異なる放電抵抗体21および放電抵抗体22とが、1つの放熱部材11の一面11a上に配列実装されている。
【0050】
これら6個のパワーモジュール31,31…と、放電抵抗体21および放電抵抗体22は、1つの1つの放熱部材11およびこれを冷却する冷媒流通部材41(図2参照)によって、全体が一括して冷却される。
【0051】
本実施形態のインバータ装置10は、例えば、電気自動車の駆動系に組み込まれ、図3に示すように、一方の接続側が昇圧コンバータ(アップコンバータ)回路2を介して高圧直流電源3に接続されている。また、一方の接続側がモータ4に接続されている。
【0052】
高圧直流電源3は、例えば燃料電池やリチウムイオン電池など高圧直流電流を供給可能なバッテリからなる。昇圧コンバータ回路2は、高圧直流電源3の電圧を、モータ4を駆動可能な電圧、例えば600V程度まで昇圧させる。インバータ装置10は、この昇圧コンバータ回路2とモータ4との間にあって、高圧直流電流を交流電流に変換する、いわゆる交直変換を行う。
【0053】
インバータ装置10は、パワーモジュール31,31…(図1、2参照)からなるインバータ回路15を備える。そして、放電抵抗体21は通常放電抵抗素子16を構成し、また、放電抵抗体22は、短時間放電抵抗素子17を構成する。
また、インバータ装置10は、一対の入力端子間に平滑コンデンサ18を備えている。この平滑コンデンサ18は、交直変換によって生じる直流波形中の脈流(リップル)を低減する。
【0054】
通常放電抵抗素子16(放電抵抗体21)は、モータ4の運転停止時にインバータ装置10の一対の入力端子間を放電させる。
【0055】
一方、短時間放電抵抗素子17(放電抵抗体22)は、電気自動車に何らかの異常、例えば衝突などが生じた場合に、安全確保のためにインバータ装置10の一対の入力端子間を短時間で放電させ、電気的な安全を確保する。短時間放電抵抗素子17は、通電時には平滑コンデンサ18を直接放電させるとともに、昇圧コンバータ装置2の平滑コンデンサ19を昇圧コンバータ回路2に内蔵されたダイオードを通じて放電させる。
【0056】
こうした目的のため、短時間放電抵抗素子17には、例えば、車両の衝突衝撃を検出する衝突センサ51からの信号によって開閉されるスイッチ素子52が直列に接続されている。このスイッチ素子52が閉じることによって、短時間放電抵抗素子17の通電が行われる。
【0057】
以上のように本発明のインバータ装置10は、インバータ回路15を構成する複数のパワーモジュール31,31…と、通常放電抵抗素子16(放電抵抗体21)と、短時間放電抵抗素子17(放電抵抗体22)とを、1つの放熱部材11の一面11a上にろう材を介して直接接合した。これによって、これらパワーモジュール31,31…、放電抵抗体21、放電抵抗体22の動作時に生じる熱を、1つの放熱部材11によって効率的に放熱することが可能になる。個々の素子ごとに放熱部材を設ける場合と比較して、簡易な構成にすることができ、低コストなインバータ装置10を実現できる。また、インバータ装置10を小型、軽量化することも可能になる。
【0058】
また、通常放電抵抗素子16(放電抵抗体21)が放熱部材11の一面11a上にろう材を介して直接接合されることで、通常放電抵抗素子16(放電抵抗体21)を確実に冷却し、放電動作時の温度上昇を防ぎ、通常放電抵抗素子16(放電抵抗体21)の熱破損を防止することができる。
さらに、短時間放電抵抗素子17(放電抵抗体22)が放熱部材11の一面11a上にろう材を介して直接接合されることで、非常時に急激な温度上昇が発生したとしても短時間放電抵抗素子17(放電抵抗体22)を確実に冷却し、短時間放電抵抗素子17(放電抵抗体22)の熱破損を防止することができる。
【0059】
以上、本発明のインバータ装置の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、放電抵抗体として、電気自動車に適用する通常放電抵抗素子と、短時間放電抵抗素子とを例示したが、これ以外にも、例えば、電気特性の同じ放電抵抗体を複数配置したり、3種類以上の電気特性の異なる放電抵抗体を配置する構成などであってもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、通常放電抵抗素子と、短時間放電抵抗素子とを並列に配置した構成となっているが、これら通常放電抵抗素子と短時間放電抵抗素子とを一体化した1つの放電抵抗素子として放熱部材上に形成するような構成であってもよい。
【0061】
また、放電条件によっては、短時間放電抵抗素子の方が発熱量が少ない場合があり、そのような場合には、放熱部材上であれば短時間放電抵抗素子の配置に制限はない。例えば、放熱部材の端部や流路直上以外の部分など、冷却効率の悪い箇所に短時間放電抵抗素子を配置することも可能である。また、空冷の場合は、短時間放電抵抗素子の直下には、フィンがない構成であってもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、パワーモジュール31,31…によってインバータ回路を構成しているが、パワーモジュール31,31…は、これ以外の電子部品、例えば、コンデンサなと、インバータ回路を構成する以外の電子部品を含んでいてもよい。
【0063】
(インバータ装置の製造方法)
本発明のインバータ装置の製造方法について、添付した図5図6を参照して説明する。
図5図6は、本発明のインバータ装置の製造方法を段階的に示した断面図である。なお、本実施形態においては、説明を簡潔にするために、図5図6に示すように、放電抵抗素子とパワーモジュールとをそれぞれ1つずつ隣接して形成する例を示す。
【0064】
まず、図5(a)に示すように、冷媒流通部材41が一体に形成された放熱部材11の一面11a上に、放電抵抗体21を構成する緩衝層61、第一セラミックス部材23を順に載置する。第一セラミックス部材23は、例えば、Alが用いられる。また、緩衝層61は、例えば、純度が99.98mass%以上の高純度Alからなる薄板状の部材が用いられる。
【0065】
なお、第一セラミックス部材23には、予め、抵抗体24、および電極25が印刷焼成によって形成されている。また、放熱部材11と緩衝層61との間、緩衝層61と第一セラミックス部材23との間に、それぞれAl−Siからなるろう材箔62,62を配置する。
【0066】
また、放熱部材11の一面11a上に、絶縁回路基板35を構成する金属部材34、第二セラミックス部材32、金属部材33を順に載置する。第二セラミックス部材32は、例えば、AlNが用いられる。金属部材33,34は、例えば、純度が99.99mass%以上のAl(いわゆる4N−Al)が用いられる。
【0067】
また、放熱部材11と金属部材34との間、金属部材34と第二セラミックス部材32との間、および第二セラミックス部材32と金属部材33との間に、それぞれAl−Siからなるろう材箔62,62…を配置する。
なお、これら第二セラミックス部材32の一面及び他面に、金属部材33,34が予めろう材によって接合された絶縁回路基板35を、ろう材箔62を介して放熱部材11の一面11a上に載置する方法であってもよい。
【0068】
次に、図5(b)に示すように、これらの積層物Sを2つの加圧治具71,72の間に挟む。加圧治具71,72は、例えば、カーボンより構成され、互いに対向する加圧面71a,71bは平坦面を成している。そして、例えば、加圧治具71側から、バネ等によって荷重を印加する。印加する荷重は、例えば、1kgf/cm〜5kgf/cmの範囲が適切である。
【0069】
こうした加圧治具71,72を用いて荷重を印加する際に、放電抵抗体21の上面、即ち抵抗体24の表面又は電極25の表面と、絶縁回路基板35の上面、即ち、金属部材33の表面とが、同一平面に位置するように、各部材の厚み等を設定することが好ましい。
これによって、例えば、放電抵抗体21および絶縁回路基板35に接する加圧面72aが平坦な加圧治具72を用いて、放電抵抗体21および絶縁回路基板35に対して均等な加圧力で荷重を印加することができる。
【0070】
そして、図6(a)に示すように、2つの加圧治具71,72の間で挟み込んで荷重を印加した積層物S1を、例えば、真空加熱炉Hに導入し、ろう材箔62,62…(図5(a)参照)の溶融温度まで加熱する。例えば、積層物Sを610℃程度まで加熱する。なお、この時の加熱温度は、第一セラミックス部材23に抵抗体24が印刷焼成される際の焼成温度よりも低い温度に設定される。これにより、積層物Sの加熱時に、抵抗体24が第一セラミックス部材23から剥離するなどの不具合を防止する。
【0071】
こうした加熱処理によって、ろう材箔62,62…が溶融し、第一セラミックス部材23の放熱部材11と緩衝層61との間、および緩衝層61と第一セラミックス部材23との間がそれぞれAl−Si系ろう材によって接合される。また、放熱部材11と金属部材34との間、金属部材34と第二セラミックス部材32との間、および第二セラミックス部材32と金属部材33との間が、それぞれAl−Si系ろう材によって接合される。
これにより、冷媒流通部材41が一体に形成された放熱部材11の一面11a上に、放電抵抗体21と絶縁回路基板35とが形成される。
【0072】
この後、図6(b)に示すように、回路層を成す金属部材33に対して、はんだ層38を介してパワー素子36を接合する。はんだ層38を構成するはんだとしては、例えば、Sn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだを用いることが好ましい。また、このパワー素子36に、接続端子37を接合する。接続端子37は、例えば、Cu、Cu合金より構成されている。
【0073】
一方、抵抗体24の電極25に対して、はんだ層26を介して接続端子27を接続する。接続端子27は、導電体、例えば、Cu、Cu合金より構成されている。はんだ層26を構成するはんだとしては、例えば、Sn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだを用いることが好ましい。
【0074】
これら金属部材33に対してはんだ層38を介してパワー素子36を接合する際の接合温度や、抵抗体24の電極25に対してはんだ層26を介して接続端子27を接続する際の接合温度は、第一セラミックス部材23に抵抗体24が印刷焼成される際の焼成温度、および積層物Sを加熱して各部材間をAl−Si系ろう材によって接合する接合温度よりも低い温度に設定する。すなわち、200℃〜400℃の範囲とすることが好ましい。
これによって、パワー素子36や接続端子27の接合時に、印刷焼成された抵抗体24や、Al−Si系ろう材によって接合された各部材が剥離するなどの不具合を防止する。
【0075】
以上のような工程を経て、本発明のインバータ装置10が製造される。製造されたインバータ装置10は、例えば、図に示す電気自動車の駆動系の昇圧コンバータ(アップコンバータ)2とモータ4との間に組み込まれ、交直変換用いることができる。
【0076】
なお、上述したインバータ装置の製造方法において、パワー素子に更に緩衝層を形成することも好ましい。
図7に示すインバータ装置の製造方法では、第二セラミックス部材32の他面側に形成された金属部材34と、放熱部材11の一面11aとの間に、更に緩衝層63を形成している。この緩衝層63は、例えば、純度が99.98mass%以上の高純度Alからなる薄板状の部材が用いられる。緩衝層63と放熱部材11の一面11a、および緩衝層63と金属部材34は、それぞれAl−Siからなるろう材によって接合される。
【0077】
また、上記実施形態では、第一セラミックス部材23の放熱部材11と緩衝層61との間、緩衝層61と第一セラミックス部材23との間、放熱部材11と金属部材34との間、金属部材34と第二セラミックス部材32との間および第二セラミックス部材32と金属部材33との間を同時にろう付けしたが、これに限らず、放電抵抗体21(放電抵抗体22)と絶縁回路基板35をそれぞれ別に作製し、それらを同時に放熱部材11にろう付けすることも可能である。
【0078】
このような積層物S2の加圧時に、上面側の高さが均一でない、例えば、放電抵抗体21の高さが絶縁回路基板35の高さよりも低い場合、この積層物S2を挟持する加圧治具71,73のうち、上面側に接する加圧治具73の加圧面73aに段差を形成する。
例えば、加圧面73aのうち、放電抵抗体21に接する部分を、絶縁回路基板35に接する部分よりも突出させることによって、放電抵抗体21と絶縁回路基板35とを均一な加圧力で加圧することができる。
【0079】
なお、この加圧治具73の加圧面73aの突出部分の突出量は、放電抵抗体21と絶縁回路基板35の高さの差と同じであればよい。また、図5に示した加圧面72aが平坦な加圧治具72を用いて、上述した突出部分に相当する厚みをもつ、高さ調整部材を挟み込むこともできる。
【0080】
以上、本発明のインバータ装置の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、放電抵抗体21と絶縁回路基板35の上面側を1つの加圧治具72で一括して加圧しているが、放電抵抗体21と絶縁回路基板35とを個別の加圧治具で、それぞれの高さに合わせて加圧することもできる。
【0081】
また、上述したインバータ装置10を製造する際の各部材どうしの接合温度やその高低関係は一例であり、インバータ装置10を構成する各部材の材料、接合に用いるろう材、はんだなどの材料に応じて、適宜選択されるものである。
【符号の説明】
【0082】
10 インバータ装置
11 放熱部材
21,22 放電抵抗体
23a,23b 第一セラミックス部材
24a,24b 抵抗体
32 第二セラミックス部材
33,34 金属部材
36 パワー素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7