特許第6340909号(P6340909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6340909ポリ乳酸系ポリエステル樹脂、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体、及びポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6340909
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸系ポリエステル樹脂、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体、及びポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/688 20060101AFI20180604BHJP
   C08G 18/46 20060101ALI20180604BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20180604BHJP
   C09J 167/04 20060101ALI20180604BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180604BHJP
   C09J 161/28 20060101ALI20180604BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20180604BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20180604BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180604BHJP
   C09D 167/04 20060101ALI20180604BHJP
   C09D 11/023 20140101ALI20180604BHJP
   C09D 11/104 20140101ALI20180604BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20180604BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20180604BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20180604BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C08G63/688ZBP
   C08G18/46 076
   C08L101/16
   C09J167/04
   C09J11/06
   C09J161/28
   C09J175/04
   C09D5/02
   C09D7/12
   C09D167/04
   C09D11/023
   C09D11/104
   C09D161/28
   C09D175/04
   B32B27/12
   B32B27/36
【請求項の数】21
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-104233(P2014-104233)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-218298(P2015-218298A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小田 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀樹
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−147248(JP,A)
【文献】 特開2001−323052(JP,A)
【文献】 特開2003−147059(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/053065(WO,A1)
【文献】 特開2010−174170(JP,A)
【文献】 特開2012−233023(JP,A)
【文献】 特開2004−300284(JP,A)
【文献】 特開平10−176029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00− 27/42
C08G 18/00− 18/87
C08G 63/00− 63/91
C08L 101/00
C09D 5/00− 7/14
C09D 11/00− 11/54
C09D 161/00−161/34
C09D 167/00−167/08
C09D 175/00−175/16
C09J 11/00− 11/08
C09J 161/00−161/34
C09J 167/00−167/08
C09J 175/00−175/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸セグメントと、脂肪族スルホン酸塩基セグメントまたは脂環族スルホン酸塩基セグメントを分子中に有し、スルホン酸塩基の濃度が250eq/ton以上1000eq/ton以下であることを特徴とするポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記スルホン酸塩基が、スルホン酸金属塩基、スルホン酸四級アンモニウム塩基及びスルホン酸四級ホスホニウム塩基からなる群より選択されてなる少なくとも1種以上である請求項1に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
【請求項3】
ウレタン結合を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
【請求項4】
乳酸残基の含有率が40重量%以上である請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
【請求項5】
ISO14855(JISK6953)「制御されたコンポスト条件下の好気的究極生分解度および崩壊度の求め方」における生分解度が、該求め方において、180日目までに90%以上となることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のポリエステル樹脂と水とを含有するポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体。
【請求項7】
界面活性剤を含有しないことを特徴とする請求項6に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体。
【請求項8】
有機溶剤を含有しないことを特徴とする請求項6または7に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体。
【請求項9】
請求項1〜5いずれかに記載のポリエステル樹脂と水とを、混合することによってポリエステル樹脂水分散体を得る工程を有する、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5いずれかに記載のポリエステル樹脂と水酸基に対して反応性を有する硬化剤とを含有する水性樹脂組成物。
【請求項11】
前記硬化剤がメラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項10記載の水性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項10または11の水性樹脂組成物からなる水性接着剤。
【請求項13】
請求項10または11の水性樹脂組成物からなる水性塗料。
【請求項14】
請求項10または11の水性樹脂組成物と色材とからなる水性インキ。
【請求項15】
請求項1〜5いずれかに記載のポリエステル樹脂からなる層(A層)とフィルム、シート、織布、不織布および紙からなる群から選ばれる層(B層)とからなる積層体。
【請求項16】
前記B層がバイオマス由来物質及び/またはバイオマス由来物質の化学改質物質からるものであることを特徴とする請求項15に記載の積層体。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載の積層体を構成要素として有する包装材料。
【請求項18】
請求項10または11の水性樹脂組成物からなる徐放性生分解性被覆剤。
【請求項19】
請求項18に記載の生分解性被覆剤によって、被被覆成分を被覆した徐放性生分解性被覆体。
【請求項20】
前記被被覆成分が、殺虫、除草、除菌、防黴、生物誘引および生物忌避のいずれか1種以上の機能を有するものである請求項19に記載の徐放性生分解性被覆体。
【請求項21】
前記被被覆成分が、生物に対する生理活性、生長促進および栄養補給のいずれか1種以上の機能を有するものである請求項19に記載の徐放性生分解性被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化剤および有機溶剤を使用することなく安定な水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有し、植物原料由来の樹脂骨格を有し、なおかつ高い生分解性を持つポリ乳酸系ポリエステル樹脂、これを含有するポリエステル樹脂水分散体、及び水分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年揮発性有機溶剤の排出抑制の観点から塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、粘着剤、シール剤、プライマー及び繊維製品や紙製品の各種処理剤が従来の有機溶剤系から水系化、ハイソリッド化、粉体化の方向に進みつつある。とりわけ水分散体による水系化は作業性の良さと作業環境改善の面から最も汎用的で有望視されている。加えて水分散体を形成するバインダー成分が生分解性樹脂を主体として構成されていれば、廃棄後の環境汚染防止の面から、より好ましい。また、水分散体を形成するバインダー成分が動植物等のバイオマス由来成分を原料として製造されるものであれば、化石燃料を原料とするものと比べて、二酸化炭素排出削減の点でより好ましい。
【0003】
ポリ乳酸系樹脂は、トウモロコシやイモなどの植物を原料として製造することができる乳酸および/またはラクチドを原料として製造することができる植物由来成分を主体として構成されている樹脂である。ポリ乳酸系樹脂は土壌や海水中では数年内に水と二酸化炭素に分解される生分解性を持ち、環境中に放出された際に、環境に対する負荷が比較的低い。したがって、ポリ乳酸系樹脂を水分散体とすることができれば、生分解性を有し、なおかつバイオマス由来成分を原料とするバインダー成分として有用であり、塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、粘着剤、シール剤、プライマー及び繊維製品や紙製品の各種処理剤等に用いることができることが期待できる。
【0004】
ポリ乳酸セグメントを含む樹脂を水分散化してバインダー成分として用いた例としては、特許文献1〜5を挙げることができる。特許文献1、2では乳化剤により強制乳化されたポリ乳酸水分散体が用いられている。特許文献3に示される水系ポリ乳酸は、同じく乳化剤を用いて強制乳化させているが、親水性基を樹脂中に導入しても良いと示されており、中でも乳化性良好である点から、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩、または5−スルホイソフタル酸ジメチルのナトリウム塩が好ましいとされている。特許文献4ではポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタンが示されており、乳化剤を添加しなくても安定な水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有することが示されている。また特許文献5では、水酸基を有する乳酸系ポリマーを多価カルボン酸もしくはその酸無水物と反応させ乳酸系ポリマーを有機溶媒に溶解し、塩基、水を添加し転相乳化させて自己水分散性粒子を製造する製法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−13657号公報
【特許文献2】特開2008−13658号公報
【特許文献3】特開2003−277595号公報
【特許文献4】特開2010−174170号公報
【特許文献5】特開2000−7789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記背景技術について、本発明者らが検討したところ、以下のような課題があることが判明した。すなわち、特許文献1、2、3に開示されている発明においては、ポリ乳酸樹脂水分散体を作製する際に乳化剤を使用しているので、バインダー成分として使用する場合、乳化剤が樹脂と被着体の界面に残存し接着性を低減するといった課題がある。また特許文献4に開示されている発明においては、乳化剤を使用することなく安定した水分散が得られており、バインダー成分として使用した場合、高い接着性を示すものの、水分散体の製造工程で脱溶剤操作を行っており、揮発性有機溶剤排出抑制の観点では改善の余地がある。さらに、親水性基として5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩を使用しており、生分解性の低い芳香環を含むことにより、ポリ乳酸の特徴である生分解性を抑制する可能性がある。また特許文献5に開示されている発明においても、水分散体の製造工程で脱溶剤操作を行っており、揮発性有機溶剤排出抑制の観点では改善の余地がある。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、乳化剤、有機溶剤を使用することなく水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有し、なおかつバイオマス度が高く、かつ生分解性の大きいポリ乳酸系ポリエステル樹脂、これを含有する水分散体樹脂組成物、水性接着剤組成物、水性インキ、水性接着剤/水性インキによって形成される積層体、包装材料、及び水分散体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
<1>
ポリ乳酸セグメントと、脂肪族スルホン酸塩基セグメントまたは脂環族スルホン酸塩基セグメントを分子中に有し、スルホン酸塩基の濃度が250eq/ton以上1000eq/ton以下であることを特徴とするポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
<2>
前記スルホン酸塩基が、スルホン酸金属塩基、スルホン酸四級アンモニウム塩基及びスルホン酸四級ホスホニウム塩基からなる群より選択されてなる少なくとも1種以上である<1>に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
<3>
ウレタン結合を含むことを特徴とする<1>または<2>に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
<4>
乳酸残基の含有率が40重量%以上である請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
<5>
ISO14855(JISK6953)「制御されたコンポスト条件下の好気的究極生分解度および崩壊度の求め方」における生分解度が、該求め方において、180日目までに90%以上となることを特徴とする<1>〜<4>いずれかに記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂。
<6>
<1>〜<5>いずれかに記載のポリエステル樹脂と水とを含有するポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体。
<7>
界面活性剤を含有しないことを特徴とする<6>に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体。
<8>
有機溶剤を含有しないことを特徴とする<6>または<7>に記載のポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体。
<9>
<1>〜<5>いずれかに記載のポリエステル樹脂と水とを、混合することによってポリエステル樹脂水分散体を得る工程を有する、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
<10>
<1>〜<5>いずれかに記載のポリエステル樹脂と水酸基に対して反応性を有する硬化剤とを含有する水性樹脂組成物。
<11>
前記硬化剤がメラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする<10>記載の水性樹脂組成物。
<12>
<10>または<11>の水性樹脂組成物からなる水性接着剤。
<13>
<10>または<11>の水性樹脂組成物からなる水性塗料。
<14>
<10>または<11>の水性樹脂組成物と色材とからなる水性インキ。
<15>
<1>〜<5>いずれかに記載のポリエステル樹脂からなる層(A層)とフィルム、シート、織布、不織布および紙からなる群から選ばれる層(B層)とからなる積層体。
<16>
前記B層がバイオマス由来物質及び/またはバイオマス由来物質の化学改質物質からるものであることを特徴とする<15>に記載の積層体。
<17>
<15>または<16>に記載の積層体を構成要素として有する包装材料。
<18>
<10>または<11>の水性樹脂組成物からなる徐放性生分解性被覆剤。
<19>
<18>に記載の生分解性被覆剤によって、被被覆成分を被覆した徐放性生分解性被覆体。
<20>
前記被被覆成分が、殺虫、除草、除菌、防黴、生物誘引および生物忌避のいずれか1種以上の機能を有するものである<19>に記載の徐放性生分解性被覆体。
<21>
前記被被覆成分が、生物に対する生理活性、生長促進および栄養補給のいずれか1種以上の機能を有するものである<19>に記載の徐放性生分解性被覆体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂はポリ乳酸セグメントを高濃度で含むので、バイオマス度が高く、なおかつ生分解性に優れる。また、本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、分子鎖中に親水性の高いスルホン酸塩基を有するので、乳化剤および有機溶剤を使用することなしに温水と攪拌するだけで容易に水分散体を形成させることができる優れた水分散性を発揮する。さらには、顔料分散性に優れ、凝集力の強い塗膜が得られる。また、本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体は、乳化剤を使用することなく調製できるので、接着性に優れる。さらに、本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体に対して各種硬化剤を配合することにより、接着性および耐水性に優れる接着層やインキを容易に得ることができる。また各種バイオマス素材と本発明の接着剤および/またはインキを組み合わせることにより、バイオマス度の高い積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、ポリ乳酸セグメントと、脂肪族スルホン酸塩基セグメントまたは脂環族スルホン酸塩基セグメントを分子中に有することを特徴とするポリ乳酸系ポリエステル樹脂である。好ましくはD−乳酸とε−6−ヒドロキシカプロン酸のいずれか一方または双方とL−乳酸とから主としてなるランダム共重合体であり、L−乳酸残基の含有率は90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは80重量%以下である。L−乳酸含有率が高すぎると、結晶性が顕著に現われるため、生分解性が不良になる傾向にある。またL−乳酸残基含量が90重量%を超えると、接着剤として使用する場合、時間経過とともに結晶化が進み接着強度の著しい低下が見られる場合がある。また、水分散体とすることも困難になる。
【0011】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂の乳酸残基含量は40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上である。40重量%未満では、バイオマス度が低く、二酸化炭素排出削減効果の大きな環境に対する負荷の低い材料とは言い難い。
【0012】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂に含まれるスルホン酸塩基は、脂肪族系あるいは脂環族系であることが必要である。5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩を親水性基として、親水性ポリエステル樹脂を設計するのは、極めて一般的な方法で、その強い親水性より、得られる樹脂水分散体は、高い分散安定性を示すが、芳香族環は生分解性が低いため、ポリ乳酸セグメントの高い生分解性の効果を、低減する可能性がある。
【0013】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂に含まれるスルホン酸塩基の濃度は、特に規定されるものではないが、好ましくは100eq/ton以上1000eq/ton以下であり、好ましくは200eq/ton以上900eq/ton以下、より好ましくは250eq/ton以上800eq/ton以下である。樹脂の分子量との兼ね合いもあるが、スルホン酸塩基濃度が小さすぎると顔料分散性が低くなる傾向にある。また、樹脂の自己乳化性が低くなる傾向にある。一方、スルホン酸塩基濃度を高くすることにより水分散性が高くなる傾向にあるが、スルホン酸塩基濃度が1000eq/tonよりも大きくなると、樹脂の吸水性が高くなり固形樹脂の状態でも加水分解を受けやすく保存安定性が悪くなる傾向にある。またこの樹脂を用いた硬化塗膜の耐水性も悪くなる傾向にある。
【0014】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂の数平均分子量は、2,000以上50,000以下であることが好ましく、より好ましくは3,000以上45,000以下、更に好ましくは4,000以上40,000以下である。数平均分子量が低すぎると、樹脂の凝集力が小さくなり接着性が不良になる傾向にある。一方、数平均分子量が高すぎると、逆に樹脂の凝集力が大きくなり、水分散性が不良になる傾向にある。このため、一旦溶剤に溶解し水系に相転移させる方法では高濃度の水分散体の調製が可能であっても、水との混合で水分散体を調製する場合にはごく低濃度の水分散体しか得ることができないことが多い。また、水との混合で水分散体を調整すると、粒子径が粗大となる傾向にあり、製造後直ちに沈殿してしまう傾向にある。
【0015】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂の化学構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(1)で表される化学構造をとるものを好ましい例として挙げることができる。
{M3OS−Z−O−(CO−Y−O)qr−X・・・(1)
但し、Mは金属、四級アンモニウムまたは四級ホスホニウム、Zは少なくとも1個のスルホン酸塩基と少なくとも1個の水酸基を有する脂肪族あるいは脂環族化合物の残基、Yは−CH(CH3)−、または−CH(CH3)−と炭素数2〜10の直鎖または分岐アルキレン基との混合物、Xはr個のイソシアネート基を有する化合物の残基、または水素を有する化合物の残基であり、M,X,Y,Zは単一種からなるものでも複数種の混合物であってもよい。q,rは正の整数であり、1以上qの平均値は5以上、rの平均値は1以上15以下である。
【0016】
前記式(1)で表されるポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、例えば、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩を開始剤として、ラクチド等の乳酸を構成成分として有する環状化合物を開環付加重合させ、次いで末端水酸基に多価イソシアネート化合物を反応させて分子末端の少なくとも一部にウレタン結合を導入することにより、製造することができる。また、前記式(1)で表されるポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、グリコール酸等の乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を構成成分とする環状化合物およびε−カプロラクトン等のラクトン類から選ばれる1種または2種以上の混合物とラクチド等の乳酸を構成成分として有する環状化合物とをアルコールを開始剤として開環付加重合させ、次いで末端水酸基に多価イソシアネート化合物を反応させて分子末端の少なくとも一部にウレタン結合を導入することによっても、製造することができる。
【0017】
少なくとも1個のスルホン酸塩基と少なくとも1個の水酸基を持つ化合物の例としては、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩及びその誘導体を挙げることができる。その例としては、ヒドロキシメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸(イセチオン酸)、2−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、1−ヒドロキシプロパン−2−スルホン酸、3−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、4−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシヘキサン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシデカン−1−スルホン酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタン-1-スルホン酸ナトリウムなどを例示することができ、特に2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸(イセチオン酸)は汎用性の観点から、好ましい。また複数の活性水素を有する化合物と前記ヒドロキシアルキルスルホン酸塩とを反応させて得られるアルキルスルホン酸塩化合物を挙げることができる。複数の活性水素を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の多価アミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の水酸基とアミノ基を有する化合物、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類等の活性水素含有ポリマーを挙げることができる。
【0018】
前記スルホン酸塩基としては、スルホン酸金属塩基、スルホン酸四級アンモニウム塩基またはスルホン酸四級ホスホニウム塩基が好ましい。金属塩基としてはナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩が挙げられる。また、四級アンモニウム塩基としては下記一般式(2)、四級ホスホニウム塩基としては下記一般式(3)であることが特に好ましい。
【化1】

(但し、R1、R2、R3、R4は同一であっても異なっても良い炭素数1〜18の炭化水素基を示す)
【化2】
(但し、R5、R6、R7、R8は同一であっても異なっても良い炭素数1〜18の炭化水素基を示す)
【0019】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂において、前記Yは−CH(CH3)−、または−CH(CH3)−と炭素数2〜10の直鎖または分岐アルキレン基との混合物である。前記−(CO−Y−O)q−は、ラクチド類またはラクチド類とラクトン類の混合物を、ポリオールを開始剤として開環付加重合することによって、容易に得ることができる。ラクチド類としては、例えば、ラクチド(乳酸の環状二量体)、グリコリド(グリコール酸の環状二量体)等を用いることができる。また、ラクトン類としては、例えば、β−プロピオンラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等を用いることができる。またこれらの化合物は、必ずしも単独で用いる必要はなく、複数種類を共重合することができる。なかでも、生分解性に優れ、かつ重合が容易なε−カプロラクトンおよびラクチドの使用が好ましい。
【0020】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂において、前記−(CO−Y−O)q−におけるqは正の整数であり、qの平均値は5以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは10以上である。qの平均値が低すぎると、必然的に得られるポリ乳酸系ポリエステル樹脂の分子量が低いものとなり、樹脂の凝集力が小さくなり接着性が不良になる傾向にある。一方、qの平均値は50以下であることが好ましい。qの平均値が高すぎると、樹脂の数平均分子量が大きくなり、微生物による生分解速度が遅くなる可能性がある。
【0021】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂において、前記−(CO−Y−O)q−は、典型的には、D−ラクチドとε−カプロラクトンのいずれか一方または双方とL−ラクチドの開環付加重合によって得られるランダム共重合体から主としてなり、さらに他の成分が共重合されていても良い。D−ラクチドとε−カプロラクトンのいずれか一方または双方とL−ラクチドとから主としてなるランダム共重合体は、たとえば、従来公知の開環重合触媒の存在下あるいは不存在下に、ポリオールを開始剤として、D−ラクチドとε−カプロラクトンのいずれか一方または双方とL−ラクチドを加熱撹拌することにより、得ることができる。
【0022】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂において、前記Xは、s個のイソシアネート骨格を有する化合物の残基、または水素を有する化合物の残基であり、sは正の整数であり、sの平均値は1以上、より好ましくは2以上である。sの平均値が低すぎると、必然的に得られるポリ乳酸系ポリエステル樹脂の分子量が低いものとなり、樹脂の凝集力が小さくなり接着性が不良になる傾向にある。一方、sの平均値は10以下であることが好ましい。sの平均値が高すぎると、製造時にゲル化を起こす可能性がある。
【0023】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂において、s個のイソシアネート骨格を有する化合物の残基、または水素を有する化合物の残基としては、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。低分子化合物としては、たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネートを挙げることができる。また、これらのイソシアネート化合物の3量体等を挙げることができる。また高分子化合物としては、複数の活性水素を有する化合物と前記低分子ポリイソシアネート化合物の過剰量とを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物を挙げることができる。複数の活性水素を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の多価アミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の水酸基とアミノ基を有する化合物、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類等の活性水素含有ポリマーを挙げることができる。 これらのうち、ヘキサメチレンジイソシアネートは反応性が良好であることから好ましい。
【0024】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂において、ISO14855(JISK6953)「制御されたコンポスト条件下の好気的究極生分解度および崩壊度の求め方」における生分解度が、該求め方において、180日目までに90%以上、より好ましくは95%以上である。生分解度が低すぎるとそれらが生分解性を示すためには高温等の特殊な条件を必要とし、実際に生分解を進行させるためにはヒーター等の大掛かりな加熱設備等が必要であり、生分解性素材の利用拡大の観点からは改善の余地がある。
【0025】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、グリコール酸等の乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を構成成分とする環状化合物およびε−カプロラクトン等のラクトン類から選ばれる1種または2種以上の混合物とラクチド等の乳酸を構成成分として有する環状化合物とを、水酸基を1個以上有するアルコール及びその誘導体、水酸基を1個以上有するポリマーポリオールを開始剤として開環付加重合させ、次いで末端水酸基に多塩基酸を反応させて分子末端に酸価を導入することによっても、製造することができる。より具体的には、水酸基を3個以上含むポリオール、ラクチド、ε−カプロンラクトン、触媒を一括して仕込み、150℃以上に昇温させ1時間〜3時間重合させ、さらに多塩基酸無水物を加えて1時間〜2時間反応させることにより、本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂を得ることができる。多塩基酸無水物が重合系中に含まれる水との反応によって開環しないように、各原料はあらかじめ真空乾燥等を行なって含水率を下げてから使用することが好ましい。また重合中の水分の影響を避けるため、真空中、または不活性ガス雰囲気下で重合を行うことが好ましい。重合温度はポリ乳酸の熱安定性を勘案すると180℃以下で行うのが好ましい。また、酸無水物を水酸基に付加反応させる場合、従来公知の酸付加触媒を使用することにより、重合速度を上げることができる。このような効果を期待できる触媒の例としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等のアミン類;テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩;2−エチル−4−イミダゾール等のイミダゾール類;4−ジメチルアミノピリジン等のピリジン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩;p−トルエンスルホン酸ナトリウム等のスルホニウム塩;p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;オクチル酸亜鉛等の有機金属塩等が挙げることができる。これらのうち、アミン類、ピリジン類、ホスフィン類が開環重合反応の触媒としてより好ましく、特に4−ジメチルアミノピリジンを用いると重合反応速度を高くすることができる。
【0026】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂を重合する際には、各種の酸化防止剤を添加することが有効である。重合温度が高い場合や重合時間が長い場合には、ポリ乳酸セグメントは耐熱性が低いため酸化劣化を受け、着色することがある。また、ポリエーテル等耐熱性の低いセグメントが共重合されているとさらに酸化劣化を受けやすくなる場合があり、このような場合、酸化防止剤の添加が特に有効である。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ニトロ化合物系酸化防止剤、無機化合物系酸化防止剤など公知のものが例示できる。比較的耐熱性の高いフェノール系酸化防止剤が好ましく、樹脂に対して0.05重量%以上0.5重量%以下の添加が好ましい。
【0027】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂と水を混合することにより、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体を製造することができる。本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂は水分散性が良好なため温水中で容易に水分散することができる。水分散体製造時の液温は40℃以上95℃以下が好ましく、より好ましくは45℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上85℃以下である。水温が低くても分散は進行するが、時間が掛かってしまう。水温の高い方が分散は早くなるが、水温が高すぎると、水の蒸発速度が高くなるので配合比率の制御が困難となる。
【0028】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂の水分散体を製造するためには、乳化剤や有機溶剤、塩基化合物を使用する必要はないが、必ずしも使用を排除するものでもない。各種ノニオン性乳化剤やアニオン性乳化剤の使用により、水分散体のさらなる安定化を図ることが可能となる場合がある。また、あらかじめ本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂を適当な有機溶剤に溶解したのち相転移させることにより、より安定な水分散体を得ることができる場合がある。また、本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂が有するカルボキシル基の少なくとも一部を塩基化合物で中和させることにより、より安定な水分散体を得ることができる場合がある。
【0029】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂、水分散体を接着剤として使用することができる。この際、水酸基やカルボキシル基と反応する硬化剤を加えると、より接着力の高い接着剤を得ることができる。前記硬化剤としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系等のアミノ樹脂、多価イソシアネート化合物、多価オキサゾリン化合物、多価エポキシ化合物、フェノール樹脂などの各種の硬化剤を使用することができる。特に、メラミン系、多価イソシアネート化合物は反応性が高く、低温での硬化が可能となり、また高い接着力を得ることができ、好ましい。また多価金属塩も硬化剤として使用することができる。
【0030】
これらの硬化剤を使用する場合、その含有量は本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂100質量部に対し、5〜50質量部であることが好ましい。硬化剤の配合量が5質量部を下回ると硬化性が不足する傾向にあり、50質量部を超えると塗膜が硬くなりすぎる傾向にある。
【0031】
本発明の接着剤の硬化剤として適切なエポキシ化合物としては、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、共重合型エポキシ樹脂等を挙げることができる。ノボラック型エポキシ樹脂の例としては、フェノール、クレゾール、アルキルフェノールなどのフェノール類とホルムアルデヒドとを酸性触媒下で反応させて得られるノボラック類に、エピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものを挙げることができる。ビスフェノール型エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類にエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものや、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと前記ビスフェノール類の縮合物にエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものを挙げることができる。トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂の例としては、トリスフェノールメタン、トリスクレゾールメタン等とエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるものを挙げることができる。アミノ基含有エポキシ樹脂の例としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン等のグリシジルアミン系を挙げることができる。共重合型エポキシ樹脂の例としては、グリシジルメタクリレートとスチレンの共重合体、グリシジルメタクリレートとスチレンとメチルメタクリレートの共重合体、あるいは、グリシジルメタクリレートとシクロヘキシルマレイミドなどとの共重合体等を挙げることができる。
【0032】
本発明に使用するエポキシ化合物の硬化反応に、硬化触媒を使用することができる。例えば2−メチルイミダゾールや1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールや2−フェニル−4−メチルイミダゾールや1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物やトリエチルアミンやトリエチレンジアミンやN'−メチル−N−(2−ジメチルアミノエチル)ピペラジンや1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7や1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)−ノネン−5や6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7等の3級アミン類及びこれらの3級アミン類をフェノールやオクチル酸や4級化テトラフェニルボレート塩等でアミン塩にした化合物、トリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネートやジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモナート等のカチオン触媒、トリフェニルフォスフィン等が挙げられる。これらのうちが1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7や1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)−ノネン−5や6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7等の3級アミン類及びこれらの3級アミン類をフェノールやオクチル酸等や4級化テトラフェニルボレート塩でアミン塩にした化合物が熱硬化性及び耐熱性、金属への接着性、配合後の保存安定性の点で好ましい。その際の配合量はポリエステル100重量部に対して0.01〜1.0重量部の配合量であることが好ましい。この範囲であればポリエステルとエポキシ化合物の反応に対する効果が一段と増し、強固な接着性能を得ることができる。
【0033】
本発明の接着剤の硬化剤として適切なフェノール樹脂としては、たとえばアルキル化フェノール類および/またはクレゾール類とホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基でアルキル化されたアルキル化フェノール、p-tert-アミルフェノール、4、4'-sec-ブチリデンフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-クレゾール、,m-クレゾール、,p-クレゾール、p-シクロヘキシルフェノール、4,4'-イソプロピリデンフェノール、p-ノニルフェノール、p-オクチルフェノール、3-ペンタデシルフェノール、フェノール、フェニルo-クレゾール、p-フェニルフェノール、キシレノールなどとホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。
【0034】
本発明の接着剤の硬化剤として適切なアミノ樹脂としては、例えば尿素、メラミン、ベンゾグアナミンなどのホルムアルデヒド付加物、さらにこれらの化合物を炭素原子数が1〜6のアルコールによりアルコキシ化したアルキルエーテル化合物を挙げることができる。具体的にはメトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロール−N,N−エチレン尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミンなどが挙げられるが、好ましくはメトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールメラミンおよびメチロール化ベンゾグアナミンであり、それぞれ単独または併用して使用することができる。
【0035】
本発明の接着剤の硬化剤として適切なイソシアネート化合物としては、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。低分子化合物としては、たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネートを挙げることができる。また、これらのイソシアネート化合物の3量体等を挙げることができる。また高分子化合物としては、複数の活性水素を有する化合物と前記低分子ポリイソシアネート化合物の過剰量とを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物を挙げることができる。複数の活性水素を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の多価アミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の水酸基とアミノ基を有する化合物、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類等の活性水素含有ポリマーを挙げることができる。
【0036】
前記イソシアネート化合物はブロック化イソシアネートであってもよい。イソシアネートブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノール等のフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレンクロルヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類、t-ブタノール、t-ペンタノールなどの第3級アルコール類、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピルラクタムなどのラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、尿素類、ジアリール化合物類重亜硫酸ソーダなども挙げられる。ブロック化イソシアネートは上記イソシアネート化合物とイソシアネート化合物とイソシアネートブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて得られる。
【0037】
本発明の接着剤の適切な硬化剤としては、市販の硬化剤を使用することができ、旭化成製デュラネート24A−100、TPA−100、TLA−100等のポリイソシアネート化合物、ナガセケミッテックス(株)製のデナコールEX−411、EX−321等のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0038】
本発明の水性接着剤の適切な硬化剤としては、市販の硬化剤を使用することができ、日本触媒製エポクロスWS−500、WS−700、エポクロスK−2010E、エポクロスK−2020E等のオキサゾリン化合物、阪本薬品工業(株)製のSR−EGM、SR−8EG、SR−GLG、SR−SEP、ナガセケミッテックス(株)製のデナコールEX−614、EX−512、EX−412等の水溶性エポキシ樹脂、日清紡製カルボジライトV−02、V−04、V−10等のカルボジイミド化合物、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等の多価金属塩を使用することができる。
【0039】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂に、色材を配合することによりインキを得ることができ、さらにカルボキシル基、あるいは水酸基に対して反応性を有する硬化剤を配合することによりインキの耐水性を向上させることができる。色材としては、公知の顔料、染料を配合することができる。本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の酸価が大きいので各種顔料の分散性が大きく、高濃度の水性インキの作製が可能である。硬化剤としては、接着剤用途で例示したしたものを使用することができる。
【0040】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂に、各種顔料、塗料に一般的に使用される添加剤を配合することにより塗料を得ることができ、さらにカルボキシル基、あるいは水酸基に対して反応性を有する硬化剤を配合することにより塗装膜の耐水性を向上させることができる。顔料としては、公知の有機/無機の着色顔料、炭酸カルシウム、タルク等の体質顔料、鉛丹、亜酸化鉛等の防錆顔料、アルミニウム粉、硫化亜鉛(蛍光顔料)等の各種機能性顔料を配合することができる。また。添加剤としては、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、乳化剤、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、防腐剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、つや消し剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤等を配合することができる。本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の酸価が大きいので各種顔料の分散性が大きく、高濃度の塗料の作製が可能である。硬化剤としては、接着剤用途で例示したしたものを使用することができる。
【0041】
本発明の水分散体、接着剤、塗料、及びインキは、各種増粘剤を配合することにより、作業性に適した粘性、粘度に調整することができる。増粘剤添加による系の安定性から、メチルセルロース、ポリアルキレングリコール誘導体などのノニオン性のもの、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩などのアニオン性のものが好ましい。
【0042】
本発明の水分散体、接着剤、塗料、及びインキは、各種表面張力調整剤を使用することにより、塗布性をさらに向上することができる。表面張力調整剤としては、たとえば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系の表面張力調整剤などが例示され、特に制限されるものではないが、接着性を損ないにくいことから、上記中でもアクリル系、ビニル系の表面張力調整剤が好ましい。表面張力調整剤の添加量が過剰であると接着強度を損なう傾向にあるので、樹脂に対して、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下に添加量を制限すべきである。
【0043】
本発明により得られる水分散体は、それらの製造の際に、あるいは製造されたものに対して、表面平滑剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、潤滑剤等の公知の添加剤を配合しても良い。
【0044】
本発明の水分散体、接着剤、塗料、及びインキは、各種紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤を添加することにより、さらに耐光性、耐酸化性を向上させることができる。紫外線吸収効果、光安定効果をもつ化合物をポリエステル骨格に導入することで、耐光性は大幅に向上するが、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤のエマルジョン、及び水溶液を、ポリエステル樹脂水分散体に添加することによっても耐候性は向上する。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等各種有機系のもの、酸化亜鉛等無機系のもののいずれも使用可能である。また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、フェノチアジン、ニッケル化合物等一般的にポリマー用のもの各種が使用可能である。光安定剤もポリマー用のもの各種が使用可能であるが、ヒンダードアミン系のものが有効である。
【0045】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂からなる層(A層)とフィルム、シート、織布、不織布および紙からなる群から選ばれる層(B層)とを積層し、積層体とすることができる。前記積層体は、例えば、フィルム、シート、織布、不織布および紙からなる群から選ばれる層(B層)に、本発明の接着剤および/またはインキを塗布し乾燥させることにより容易に得ることができる。本発明の接着剤およびインキは、各種原料からなるフィルム、シート、織布、不織布および紙と強い接着性を示すが、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、デンプン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン及びこれらの化学改質物質から作製されるフィルム、シートに対して特に高い接着力を示す。これらのうち、ポリ乳酸、セルロース、デンプン等のバイオマス原料からなるフィルム、シート及び紙と組み合わせれば、積層体全体のバイオマス度を極めて高くすることができる。また、本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂水性接着剤および水性インキは、各種金属蒸着フィルムにも高い接着力を示すので、前記A層/金属蒸着層/B層の3層構造の積層体として用いることも有用である。金属蒸着層に使用する金属およびB層は特に限定されないが、特にアルミ蒸着フィルムと本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂接着剤およびインキとの接着力が大きい。本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂接着剤およびインキが、各種金属蒸着フィルムに対して高い接着力を示すのは、本発明のポリエステル樹脂の酸価が高いことの効果であると思われる。これらの積層体は、バイオマス度が高く生分解性が高いので比較的短期間で使い捨てにされる材料、例えば包装材料としての使用に好適であり、特に食品包装材料として最適である。
【0046】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂、及び水分散体を徐放性生分解性被覆剤として使用することができる。本発明のポリ乳酸樹脂は、適度な生分解速度を有するので、自然環境中に放置されると長期間にわたって徐々に生分解され、それに伴って被被覆成分を環境中に徐々に放出することができる。そのため、肥料、農薬、防黴剤、殺菌剤、生物忌避剤等の被被覆剤を本発明の生分解性被覆剤で被覆して形成した被覆体は、被被覆剤の持続放出性に優れる。また、本発明の生分解性被覆剤は、その好ましい実施態様において造膜性に優れる水分散体を形成することができ、塗膜の形態で用いることができる。
【0047】
<徐放性生分解性被覆体>
本発明における徐放性生分解性被覆体は、被被覆成分を本発明における徐放性生分解性被覆剤によって被覆したものである。本発明の徐放性生分解性被覆体には、被被覆成分および本発明の徐放性生分解性被覆剤以外の成分が配合されていても良く、例えば、他の生分解性樹脂、非生分解性樹脂、加水分解促進剤、加水分解抑制剤、等が配合されていてもよい。また、徐放性生分解性被覆体とは、被被覆成分が徐放性生分解性被覆剤で被覆されているものを指すが、被被覆成分と同じ成分が被覆体の内部に存在するのみならず外表面にも付着しているものをも含む。
【0048】
本発明における徐放性生分解性被覆体は、土壌、河川湖沼および海洋等の表面及び内部等の自然環境中において、微生物等の生物により徐々に分解され、その過程で被被覆成分を長期間にわたって持続的に放出し続ける作用を示す。このため、適切な被被覆成分を選択することによって、徐放性農薬、緩効性肥料、持続性防汚塗料等として用いることができる。
【0049】
<被被覆成分>
本発明における被被覆成分は、自然環境中で徐放させることが望まれる成分であれば、とくに限定されない。本発明における被被覆成分の具体例としては、殺虫、除草、除菌、防黴、生物誘引および生物忌避等の生物の駆除作用が期待できる成分、生理活性物質や肥料等の生物に対する生長促進作用および/または栄養補給作用が期待できる成分等を挙げることができる。また、被被覆成分は、単一成分に限定されず複数成分からなるものであっても良い。
【0050】
<徐放性生分解性被覆体の製造方法>
本発明の徐放性生分解性被覆体の製造方法は特に限定されないが、本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂の水分散体を経由して製造されることが好ましい。被被覆成分を水分散体に溶解または分散させ、ついで水分散体自体を噴霧し水分を蒸散させて粒子状としたり、何らかの担体の共存下に噴霧し担体表面および/または担体内部に付着させたり、何らかの被着体に塗布し塗膜を形成させたりすることによって、容易に生分解性被覆体を得ることができ、好都合だからである。しかも、ポリ乳酸系生分解性樹脂が界面活性剤の添加なしに水分散体を形成することができる自己乳化性のものであると、生分解の過程で界面活性剤を環境中に放出することがなく、より環境負荷が少なくなり、より好ましい。また、有機溶剤を含有しないまたは有機溶剤の使用量が少ない水分散体であれば、被覆体の製造工程および被覆体の使用の両方の場面において、有機溶剤を環境中に放出することがないまたは少なく、より環境負荷が少なくなり、より好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
なお、以下、特記のない場合、部は重量部を表す。また、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
【0053】
<樹脂組成>
樹脂試料を、重クロロホルムまたは重ジメチルスルホキシドに溶解し、VARIAN社製 NMR装置400−MRを用いて、1H−NMR分析、必要に応じて13C−NMR分析を行ってその積分比より、樹脂組成を求め、重量%で表示した。また、左記樹脂組成を元に、乳酸含有率(重量%)を算出した。
また、乳酸のL/D比率は以下のとおりの方法で求めた。
試料の5g/100mLクロロホルム溶液を調製し、測定温度25℃、測定光源波長589nmにおいて比旋光度を測定し、[α]obsとした。また、上述の方法で求めた試料組成において、乳酸成分をすべてL−乳酸成分に置換した組成の樹脂を重合し、[α]obsと同様の方法により比旋光度を測定し、[α]100とした。
OP[%]= ABS([α]obs/[α]100)×100
OP=100%の時、試料に含まれる乳酸はすべてL体であり、OP=0%の時は、L体とD体の含有率は等しく各々50%であり、L乳酸/(L乳酸+D乳酸)=50+[OP]/2、との関係が成立する。左記により、L−乳酸とD−乳酸の比率を算出した。
【0054】
<数平均分子量>
樹脂試料を、樹脂濃度が0.5重量%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF−802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0055】
<スルホン酸金属塩基濃度の定量>
ポリ乳酸系ポリエステル樹脂中のスルホン酸金属塩基濃度を見積もるための手段としてナトリウム濃度の定量を行った。ナトリウムの定量は共重合ポリウレタン樹脂を加熱炭化、灰化させ、残留灰分を塩酸酸性溶液とした後、原子吸光法により定量した。検出されたナトリウムが全て共重合ポリウレタン樹脂に含有されているスルホン酸ナトリウム塩基に由来するものとみなして、スルホン酸金属塩基濃度を算出した。濃度の単位は樹脂試料106g(すなわち1ton)あたりの当量数(eq/ton)とした。
【0056】
<スルホン酸四級ホスホニウム塩基濃度の定量>
試料のリン濃度を測定し、検出されたリンが全てポリ乳酸系ポリエステル樹脂に含有されているスルホン酸四級ホスホニウム塩基に由来するものとみなしてスルホン酸四級ホスホニウム塩基濃度を算出した。リン濃度の測定は以下のようにして行った;試料を真空乾燥器(110℃)で恒量になるまで乾燥させた後、デシケーター中で室温まで放冷した。試料の一部を50mL三角フラスコに秤量し、硫酸(97%、精密分析用)3mL、硝酸(60%、精密分析用)3.5mL、過塩素酸(60%、精密分析用)0.5mLを加えて、ホットプレート上で除々に昇温し、酸分解した。硫酸白煙が確認されるまで加熱を続け、硝酸、過塩素酸を除去した。アンモニア水を用いて中和処理を行い、モリブデン酸と分解液中のリン酸を反応させ、リンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元して生じるヘテロポリ青の830nmにおける吸光度を測定して定量した。定量に際しては、別途、リン標準溶液を用いて求めた検量線を用いて行った。濃度の単位は樹脂試料106g(すなわち1ton)あたりの当量数(eq/ton)とした。
【0057】
<水分散性の評価>
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコに、樹脂、塩基性化合物、水を所定量添加した後、温度を80℃に保ち、400rpmで1時間撹拌した後、目視で水分散性を判定した。
(判定)○:未分散物が全くなく樹脂が完全に分散する。
△:未分散物が存在する。
×:樹脂が全く分散しない。
【0058】
<水分散体の平均粒子径>
水分散体試料の体積粒子径基準の算術平均径を、HORIBA LB−500を用いて測定し、水分散体の平均粒子径として採用した。但し、水分散性が△または×のものについては、平均粒子径の測定を行わず、「−」と表示した。
【0059】
<水性接着剤の調製>
水分散体に対して、硬化剤として水溶性イソシアネート樹脂WT20(旭化成ケミカルズ(株)製)を表3に記載の比率で配合し、水性接着剤を調製した。
【0060】
<接着性評価用サンプルの調製>
厚さ25μmのPETフィルム(東洋紡績(株)製)のコロナ処理面に、乾燥後の厚みが5μmとなるように水性接着剤を塗布し、80℃×5分間乾燥した。その接着面に、別の厚さ25μmのPETフィルムのコロナ処理面を貼り合わせ、80℃で3kgf/cm2の加圧下に30秒間プレスし、40℃で8時間熱処理して硬化させて、剥離強度評価用サンプルを得た(初期評価用)。
また、上記サンプルを25℃の水中に5時間浸漬後、表面の水を十分に拭き取り、耐水性評価用サンプルとした。
【0061】
<接着性の評価>
剥離強度を測定し、接着性の評価とした。25℃において、引張速度300mm/minで180°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。実用的性能から考慮すると2N/cm以上が良好である。但し、水分散性が△または×のものについて、上澄み液部分を用いて水性接着剤を作製し、接着性評価用サンプル作製を試みたが、有効成分が少ないため、乾燥後厚みが5μmとなるように塗布することが不可能であったが、塗布面にPETフィルムを上述の方法で貼り合わせ剥離強度評価用サンプルを作成し、剥離強度測定を行ったところ、剥離強度は0.1/cm以下であり、正確な測定ができないと判断し、「−」と表示した。
【0062】
<耐水性の評価>
前記接着性評価用サンプルを25℃の水中に5時間浸漬後、表面の水を十分に拭き取り、25℃において、引張速度300mm/minで180°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。但し、水分散性が×のものについては、ほとんど接着性を示さなかったため、耐水性の測定を行わず、「−」と表示した。
【0063】
<生分解性の評価>
樹脂試料を用い、ISO14855(JISK6953)「制御されたコンポスト条件下の好気的究極生分解度および崩壊度の求め方」記載の条件下にて行なった。なお、該求め方における180日目の結果を表3、表4に表示した。
【0064】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。
L−LD:L−ラクチド
D−LD:D−ラクチド
CL:ε−カプロラクトン
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート
TPA100:多官能イソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製)
MFA100:多官能ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製)
EO−GCM:3,5−ジ(2−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム
HPN−GCM:3,5−ジ(3−ヒドロキシ―2,2−ジメチルプロポキシカルボニル―2−メチルプロピル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム
【0065】
実施例A−1
ポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1の製造
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにイセチオン酸ナトリウム5.3部、L−ラクチド64.4部、ε−カプロラクトン27.6部及び触媒としてオクチル酸錫0.03部を仕込み、60℃で30分窒素ガスを流通した。次いで60℃下に30分間減圧し、内容物を更に乾燥させた。再び窒素ガスを流通しつつ重合系を180℃に昇温し、180℃到達後3時間撹拌した。次いでリン酸0.14部を添加し、20分撹拌後、系を減圧し、未反応のラクチドおよびカプロラクトンを留去した。約20分後、未反応物の留出が収まった後、HDI2.7部を仕込み、150℃で2時間攪拌した後、内容物を取り出し冷却した。得られたポリ乳酸系ポリオールAの組成、数平均分子量、乳酸含有率等を表1に示した。
【0066】
実施例A−1〜A−7、比較例B−1〜B−4
ポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.2〜11の製造
ポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.2〜11を合成し、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1と同様の評価を行った。評価結果を表1〜表2に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
ポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.8は、脂肪族スルホン酸塩基セグメントまたは脂環族スルホン酸塩基セグメントを分子中に有しないため、本発明の範囲外である。ポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.9は、ポリ乳酸セグメントを有さないため、本発明の範囲外である。ポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.10は、脂肪族スルホン酸塩基セグメントまたは脂環族スルホン酸塩基セグメントを分子中に有しないため、本発明の範囲外である。
【0070】
実施例C−1
ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体、水性接着剤の製造および評価
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1を30部、水70部を仕込み、90℃に昇温し30分攪拌した後、内容物を取り出し冷却し、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体1を製造した。得られた水分散体の粒子径を測定した。さらに、上述の方法で硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表3に示した。
【0071】
実施例C−2〜C−7
実施例1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体の製造を行ない、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体2〜7を製造した。さらに、実施例1と同様に、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体2〜7に硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表3に示した。いずれも高い水分散性を示し、また硬化塗膜は高い接着性及び耐水性を示した。
【0072】
比較例C−8〜C−10
実施例1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリ乳酸系ポリエステル樹脂水分散体の製造を試み、水分散体が得られたものについてはさらに、実施例1と同様に硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表4に示した。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
比較例C−8はポリ乳酸系ポリエステル樹脂の水分散性は良好であったものの、比較例C−8は180日目の生分解度が低かった。比較例C−8に使用したポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.8は、生分解性の遅い芳香族セグメントを有するため、生分解の速度が遅かったと推定される。
【0076】
比較例C−9は1時間攪拌後も未分散樹脂が大量に存在し、さらに1時間攪拌を続けてもなお大量の未分散樹脂が残存していた。比較例C−9に使用したポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.9は、ポリ乳酸セグメントを有しないため、本発明の範囲外である。カプロラクトン由来の樹脂の結晶化が起こるため、ポリエステル樹脂の分散が殆ど進まなかったものと推定される。また、結晶性を有するため、生分解速度も遅かったと推定される。
【0077】
比較例C−10において、ポリ乳酸系ポリエステル樹脂の水分散性は良好であったものの、比較例C−10は180日目の生分解度が低かった。比較例C−10に使用したポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.10は、脂肪族スルホン酸塩基セグメントまたは脂環族スルホン酸塩基セグメントを分子中に有しないため、生分解性の遅い芳香族セグメントを有するため、本発明の範囲外である。生分解性の遅い芳香族セグメントを有するため、生分解の速度が遅かったと推定される。
【0078】
<塗料>
水性塗料(D−1)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し20分撹拌した後、内容物を取り出し冷却し、100メッシュの濾布で濾過した濾液に、硬化剤(住友化学(株)製M−40W)を20部、イオン交換水167部、酸化チタン(石原産業(株)製CR−93)50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%ベンジルアルコール1.0部を添加し、ガラスビーズ型高速振とう機を用いて3時間振とうすることにより均一に分散し水性塗料(D−1)を得た。
【0079】
塗料(D−2)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.2を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し20分撹拌した後、内容物を取り出し冷却し、100メッシュの濾布で濾過した濾液に、硬化剤(住友化学(株)製M−40W)を20部、イオン交換水167部、酸化チタン(石原産業(株)製CR−93)50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%ベンジルアルコール1.0部を添加し、ガラスビーズ型高速振とう機を用いて3時間振とうすることにより均一に分散し塗料(D−2)を得た。上記塗料(D−1)、(D−2)を用いて塗膜性能試験を行った。なお塗板の作製、評価は以下の方法に従った。この結果を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
塗板の作製
溶融亜鉛メッキ鋼板に前記水性塗料(D−1)、(D−2)を塗装後、80℃、10分乾燥後、次いで140℃で30分間焼き付けを行った。膜厚は5μmとした。
【0082】
評価方法
1.光沢
GLOSS METER(東京電飾社製)を用いて、60度での反射を測定した。
◎:90以上 ○:80〜90 △:50〜80 ×:50以下
【0083】
2.沸水試験
塗装鋼板を沸水中に2時間浸漬したあとの塗膜外観(ブリスター発生状況)を評価した。
◎:ブリスターなし
○:ブリスター発生面積10%以内
△:ブリスター発生面積10〜50%
×:ブリスター発生面積50%以上
【0084】
3.耐溶剤性
20℃の室内において、メチルエチルケトンをしみ込ませたガーゼにて塗面に1kg/cm2の荷重をかけ、5cmの長さの間を往復させた。下地が見えるまでの往復回数を記録した。50回の往復で下地が見えないものは>50と表示した。回数の大きいほど塗膜の硬化性が良好である。
【0085】
4.密着性
JISK-5400碁盤目−テープ法に準じて、試験板の塗膜表面にカッターナイフで素地に達するように、直行する縦横11本ずつの平行な直線を1mm間隔で引いて、1mm×1mmのマス目を100個作成した。その表面にセロハン粘着テープを密着させ、テープを急激に剥離した際のマス目の剥がれ程度を観察し下記基準で評価した。
◎:塗膜剥離が全く見られない。
○:塗膜がわずかに剥離したが、マス目は90個以上残存。
△:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個以上で90個未満。
×:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個未満。
【0086】
<インキ>
水性インキ(E−1)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した2,000mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し20分攪拌した後、30℃まで冷却した後、酸化鉄イエロー水分散体(大日精化工業(株)製MF−5050Yellow)19.6部、水781.0部、2−プロパノール55部を加え、さらに1時間攪拌した後、内容物を取り出し、100メッシュの濾布で濾過して水性インキ(E−1)を得た。
【0087】
インキ(E−2)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した2,000mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.2を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し20分攪拌した後、30℃まで冷却した後、酸化鉄イエロー水分散体(大日精化工業(株)製MF−5050Yellow)19.6部、水781.0部、2−プロパノール55部を加え、さらに1時間攪拌した後、内容物を取り出し、100メッシュの濾布で濾過して水性インキ(E−2)を得た。
上記水性インキ(E−1)、(E−2)を用いてインキ塗膜性能試験を行った。なお評価サンプルの作製、評価は以下の方法に従った。この結果を表6に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
<インキの分散安定性評価>
上記インキ(E−1)、(E−2)を、20℃、−5℃で2週間保存し、インキの外観変化を評価した。
◎:外観変化全くなし
○:外観変化殆どなし(攪拌で再分散できる沈降物が発生)
△:わずかに沈降物が発生(攪拌で再分散できないもの若干残る)
×:沈降物発生
【0090】
<耐水性評価用サンプルの調製>
厚さ25μmのPETフィルム(東洋紡績(株)製)のコロナ処理面に、インキ(E−1)、(E−2)を各々乾燥後の厚みが2μmとなるように塗布し、80℃×30分間乾燥し、耐水性評価用サンプルとした。
【0091】
<耐水性の評価>
前記耐水性評価用サンプルを25℃の水中に5時間浸漬後、表面の水を十分に拭き取り、外観変化を確認した。
◎:外観変化全くなし
○:外観変化殆どなし(塗膜と基材の界面のごく一部に水の浸入の形跡がみられる)
△:塗膜の一部に水による膨潤がみられる。
×:全面剥離/溶解が起こった。
【0092】
<積層体>
積層体(F−1)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し30分撹拌した後、30℃以下に冷却し、コロイダルシリカ(日産化学(株)製スノーテックC)を100部加え、さらに1時間攪拌した後、100メッシュの濾布で濾過した濾液を、厚さ25μmのPLAフィルム(Innovia Films社製)のコロナ処理面に、乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、80℃×30分間乾燥し、積層体(F−1)を得た。
【0093】
積層体(F−2)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.2を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し30分撹拌した後、30℃以下に冷却し、コロイダルシリカ(日産化学(株)製スノーテックC)を100部加え、さらに1時間攪拌した後、100メッシュの濾布で濾過した濾液を、厚さ25μmのPLAフィルム(Innovia Films社製)のコロナ処理面に、乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、80℃×30分間乾燥し、積層体(F−2)を得た。
上記積層体(F−1)、(F−2)を用いて性能試験を行った。評価は以下の方法に従った。この結果を表7に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
<バイオマス度>
積層体全重量に含まれる、バイオマス由来成分の重量%を算出した。
【0096】
<生分解性試験>
積層体1 0 c m × 1 0 c m をコンポスター( 生ゴミ処理機、三井ホーム社製( M A M ) )中に入れ、7 日後にサンプル形態を目視にて観察し、生分解性の程度を下記の基準に従って4 段階で評価した。
◎ : サンプルの形態が完全になし
○ : サンプルの形態がほとんどなし
△ : サンプルの断片あり
× : サンプルの形態がほとんど残っている
【0097】
<徐放性生分解性被覆剤>
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.1を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し20分撹拌した後、30℃以下に冷却し、コロイダルシリカ(日産化学(株)製スノーテックC)を100部加え、さらに1時間攪拌した後、100メッシュの濾布で濾過した。その濾液を、平均粒径4mmの窒素系粒状肥料成分に、噴流被覆装置を用いて噴霧被覆し、高温の熱風により水分を蒸発乾燥して被覆粒状の徐放性生分解性被覆体G1を得た。
また濾液をポリプロピレンフィルムに塗工し60℃の熱風乾燥機中で乾燥し、ついでポリプロピレンシートから剥離させ、乾燥厚み約20μmのポリ乳酸系ポリエステル樹脂H1からなるシートを作成した。このシートを用いて、好気性暗所下での生分解性を評価した。具体的な評価方法はASTM−D5338に準拠した。評価結果を表8に示した。
このシートの分解速度は、後述するポリ乳酸系ポリエステル樹脂H2からなるシートと比較すれば速いものの、セルロースよりは遅いことが判明した。ポリ乳酸系ポリエステル樹脂H1は、徐放性を示し、かつ、比較的短期間で被被覆成分の放出を終了させたい場合の被覆剤および被覆体に適する。
【0098】
【表8】
【0099】
<徐放性生分解性被覆剤>
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリ乳酸系ポリエステル樹脂No.2を100部、水233部を仕込み、80℃に昇温し20分撹拌した後、30℃以下に冷却し、コロイダルシリカ(日産化学(株)製スノーテックC)を100部加え、さらに1時間攪拌した後、100メッシュの濾布で濾過した。その濾液を、平均粒径4mmの窒素系粒状肥料成分に、噴流被覆装置を用いて噴霧被覆し、高温の熱風により水分を蒸発乾燥して被覆粒状の徐放性生分解性被覆体G2を得た。
また濾液をポリプロピレンフィルムに塗工し60℃の熱風乾燥機中で乾燥し、ついでポリプロピレンシートから剥離させ、乾燥厚み約20μmのポリ乳酸系ポリエステル樹脂H2からなるシートを作成した。このシートを用いて、好気性暗所下での生分解性を評価した。具体的な評価方法はASTM−D5338に準拠した。評価結果を表8に示した。
このシートの分解速度は比較的遅く、比較的長期間にわたる被被覆成分の放出が必要な場合の被覆剤および被覆体に適する。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のポリ乳酸系ポリエステル樹脂は、バイオマス度が高く、良好な生分解性を示す環境にやさしい樹脂、樹脂ワニス、および水分散体を提供することができる。また硬化剤を配合することにより、耐水性の高い塗膜を提供することができる。