特許第6340955号(P6340955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6340955複合積層体の製造方法、複合積層体及びリチウム電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6340955
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】複合積層体の製造方法、複合積層体及びリチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20180604BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180604BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180604BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180604BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20180604BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20180604BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20180604BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20180604BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20180604BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0585
   H01B1/08
   H01B1/06 A
   H01M4/131
   H01M4/1391
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-135722(P2014-135722)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-15213(P2016-15213A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 真也
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 徹
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎吾
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/176808(WO,A1)
【文献】 特開2010−140725(JP,A)
【文献】 特開2010−272494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01M 4/13− 4/1399
H01M 10/05−10/0587
H01B 1/00− 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層の表面にCo、Ni及びMnのうち1以上を含む金属及び/又は化合物からなる中間層を形成する形成工程と、
前記中間層に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する複合酸化物の粒子とLiを含有する融剤とを含む第2層を前記中間層の上に形成し積層体とする積層工程と、
前記積層体を焼成する焼成工程と、をみ、
前記焼成工程では、前記積層体を焼成することにより、前記融剤中において前記第1層と前記複合酸化物粒子との間に前記融剤と異なる界面部を形成する、複合積層体の製造方法。
【請求項2】
前記形成工程では、前記中間層の形成量を50μg/cm2以上で形成する、請求項1に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項3】
前記形成工程では、前記中間層としてCo金属を形成し、
前記積層工程では、少なくともCoを含む前記複合酸化物の粒子を用いる、請求項1又は2に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項4】
前記形成工程では、スパッタ法、化学蒸着法、イオンコート法及びPLD法のうちいずれかの方法で前記中間層を形成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項5】
前記積層工程では、前記融剤としてLiとBとを含む化合物を用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項6】
前記形成工程では、基本組成Li7+X-YLa3-XXZr2-YY12(式中、元素Aは、Ba,Sr,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Tは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、0<X≦1、0≦Y≦1、X<Yを満たす)で表される前記ガーネット型酸化物を用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項7】
前記積層工程では、基本組成LiCoaNibMnc2(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1)で表される前記複合酸化物を用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項8】
LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、
Co、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する複合酸化物の粒子とLiを含有する融剤とを含む第2層と、
前記複合酸化物に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有し前記融剤中において前記第1層と前記複合酸化物粒子との間に形成された前記融剤と異なる界面部と、
を備えた複合積層体。
【請求項9】
前記ガーネット型酸化物は、基本組成Li7+X-YLa3-XXZr2-YY12(式中、元素Aは、Ba,Sr,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Tは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、0<X≦1、0≦Y≦1、X<Yを満たす)で表される、請求項に記載の複合積層体。
【請求項10】
前記複合酸化物は、基本組成LiCoaNibMnc2(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1)で表される、請求項又はに記載の複合積層体。
【請求項11】
前記融剤は、LiとBとを含む化合物である、請求項10のいずれか1項に記載の複合積層体。
【請求項12】
請求項11のいずれか1項に記載の複合積層体を備えた、リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合積層体の製造方法、複合積層体及びリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、全固体リチウム二次電池としては、Li、La及びZrを含むガーネット型イオン伝導性酸化物を固体電解質とするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この固体電解質では、ZrをNbで置換することによって、化学的安定性に優れ、電位窓が広く、リチウムイオンの伝導度がより高いものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−272344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のガーネット型酸化物は、リチウム二次電池とする際には、その表面に正極活物質層を形成する。このとき、例えば、固体電解質層と活物質層との固体−固体界面におけるリチウムイオンの伝導性が十分でなく、電池性能に悪影響を及ぼすことがあった。例えば、電気自動車用の電池など、大電流で放電しなければならない場合などにおいて、この固体電解質層と活物質層との間でのリチウムイオンの伝導性などをより向上することが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、より大きな電流での放電を行うことができる複合積層体の製造方法、複合積層体及びリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Li,La,Zrを含む固体電解質層(第1層)の表面に活物質粒子(複合酸化物粒子)に含まれる金属を含む薄膜を形成したのち、活物質粒子を積層して複合積層体を作製するものとすると、より大きな電流での放電を行うことができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の複合積層体の製造方法は、
LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層の表面にCo、Ni及びMnのうち1以上を含む金属及び/又は化合物からなる中間層を形成する形成工程と、
前記中間層に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する複合酸化物の粒子とLiを含有する融剤とを含む第2層を前記中間層の上に形成し積層体とする積層工程と、
前記積層体を焼成する焼成工程と、
を含むものである。
【0008】
本発明の複合積層体は、
LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層と、
Co、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する複合酸化物の粒子とLiを含有する融剤とを含む第2層と、
前記複合酸化物に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有し前記融剤中において前記第1層と前記複合酸化物粒子との間に形成された前記融剤と異なる界面部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、より大きな電流での放電を行うことができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層は、焼成されるとその表面にLiが析出しやすい性質を有している。本発明では、複合酸化物に含有されるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する中間層を予め第1層上に形成しておくことにより、この析出するLiと反応し、リチウムイオンをより伝導しやすい界面部が形成されると推察される。この界面部により、活物質粒子と第1層との間でのリチウムイオンの伝導性がより高まるため、より大きな電流での放電を行うことができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】全固体型のリチウム電池10の構造の一例を示す説明図。
図2】複合積層体20を作製する工程の一例を示す説明図。
図3】複合積層体の断面のSEM写真。
図4】放電電流I/Cと放電容量Q/Q0との関係図。
図5】固体電解質上に形成したCo質量と放電容量Q/Q0との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合積層体は、LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物(以下、LLZとも称する)を含む第1層と、Co、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する複合酸化物の粒子とLiを含有する融剤とを含む第2層と、複合酸化物に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有し融剤中において第1層と複合酸化物粒子との間に形成された融剤と異なる界面部と、を備えている。この複合積層体は、第1層がリチウムイオン伝導性を有するガーネット型酸化物を含む固体電解質層であり、第2層がリチウムイオンを吸蔵放出する複合酸化物の粒子を含む活物質層であるものとしてもよい。
【0012】
第1層に含まれるガーネット型酸化物は、LiとLaとZrとを含有し、更にLaと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、Zrと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Tとを含有するものとしてもよい。より具体的には、ガーネット型酸化物は、基本組成Li7+X-YLa3-XXZr2-YY12(式中、元素Aは、Ba,Sr,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Tは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、0<X≦1、0≦Y≦1、X<Yを満たす)で表されるものであることがより好ましい。元素Aとしては、例えば、SrやCaであることが好ましい。Srを含むものとすると、融点が下がり、焼成温度を低下させるなど、焼成エネルギーをより低減することができる。また、Caを含むものとするとリチウムイオン伝導度をより向上することができる。元素Tは、Nbであることが好ましい。Nbを含むものとすると、リチウムイオン伝導度をより高めることができる。この基本組成式において、ガーネット型酸化物は、0.05≦X≦0.1を満たすことがより好ましい。
【0013】
ここで、ガーネット型酸化物は、主としてガーネット型の構造を有していればよく、例えば、ガーネット型以外の構造が一部含まれていたり、X線回折のピーク位置がシフトしているなどガーネットからみて歪んだ構造を含むものとしてもよい。また、組成式で示しているが、第1層には他の元素や構造などが一部含まれていてもよい。なお、「基本組成」とは、元素A,元素Tにはそれぞれ主成分の元素と1以上の副成分の元素を含んでいてもよい趣旨である。
【0014】
ガーネット型酸化物を含む第1層は、電気伝導度(リチウムイオン伝導度,25℃)が0.4×10-4(S/cm)以上であることが好ましく、1.0×10-4(S/cm)以上であることがより好ましく、1.5×10-4(S/cm)以上であることが更に好ましい。このリチウムイオン伝導度は、融剤、元素A,元素Tの添加割合(X,Y)や、焼成温度を調整することにより、適宜変更することができる。
【0015】
ガーネット型酸化物は、1100℃以下で焼成されていることが好ましく、1050℃以下で焼成されていることがより好ましく、1000℃以下で焼成されていることが更に好ましい。1100℃以下の焼成では、焼成エネルギーの低減をより図ることができる。ガーネット型構造を形成する観点から、ガーネット型酸化物は、800℃以上で焼成されていることが好ましい。
【0016】
第2層に含まれる複合酸化物は、Ni、Co及びMnのうち1以上を含有するものであるが、更にLiを含有するものとしてもよい。例えば、複合酸化物は、基本組成LiCoaNibMnc2(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1)で表されるものであることがより好ましい。この基本組成において、0.2≦a≦0.6、0.2≦b≦0.6及び0.2≦c≦0.6を満たすものとしてもよい。また、この基本組成において、0.3≦a≦0.4、0.3≦b≦0.4及び0.3≦c≦0.4を満たすものとしてもよい。例えば、複合酸化物は、基本組成式をLi(1-n)CoO2とするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-n)NiO2とするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-n)MnO2(0<n<1など、以下同じ)やLi(1-n)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-n)Ni1/3Co1/3Mn1/32とするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であるものとしてもよい。このうち、複合酸化物は、少なくともCoを含むものが好ましく、リチウムコバルト複合酸化物(以下、LCOとも称する)などが好ましい。Coを含むものでは、リチウムイオンを伝導する界面部をより形成しやすいと考えられる。
【0017】
第2層に含まれる融剤は、Liを少なくとも含有するものであれば特に限定されず、リチウムイオンの伝導性を有するものがより好ましい。この融剤は、LiとBとを含む化合物、中でも、ホウ酸リチウムであることが好ましい。ホウ酸リチウムとしては、例えば、Li3BO3、Li247、LiBO2などが挙げられ、このうち、Li3BO3(以下、LBOとも称する)がより好ましい。LBOは、複合酸化物との反応性がより低いため好ましい。このように、第2層に融剤を含むものとすると、複合酸化物をより強固に第1層上に固定することができる。なお、「融剤」とは、複合酸化物粒子を融解させる趣旨ではなく、その材料自体が融解して複合酸化物を第1層上に接合させるものをいう。
【0018】
界面部は、活物質粒子と固体電解質層とを接合する部位である。この界面部は、例えば、活物質粒子と固体電解質層との間でくびれ形状を有するものとしてもよい。この界面部は、複合酸化物に含有されるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有するものであるが、リチウムイオンの伝導性を有する化合物により形成されることがより好ましい。また、界面部は、例えば、複合酸化物に類似の化合物により構成されているものとしてもよい。この界面部の存在によって、リチウムイオンが速やかに移動できるようになる。
【0019】
本発明の複合積層体は、第1層の厚さが0.1μm以上であるものとしてもよいし、1μm以上であるものとしてもよいし、10μm以上であるものとしてもよい。また、第1層の厚さは1mm以下であるものとしてもよい。なお、第2層の厚さも同様である。
【0020】
本発明の複合積層体は、リチウム電池に利用することができる。リチウムイオン伝導度がより高いからである。このとき、ガーネット型酸化物は、例えば、リチウム電池の固体電解質として利用するものとしてもよいし、リチウム電池のセパレータとして利用するものとしてもよい。こうしたリチウム電池は、固体電解質である第1層と正極活物質である第2層とを備える複合積層体と、リチウムを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、を備えるものである。負極に用いる負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、リチウムチタン複合酸化物及び導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。
【0021】
本発明のリチウム電池は、上述した複合積層体を備えている。このリチウム電池は、二次電池としてもよいし、全固体型リチウム電池としてもよい。このリチウム電池の構造は、特に限定されないが、例えば図1に示す構造が挙げられる。図1は、全固体型のリチウム電池10の構造の一例を示す説明図である。このリチウム電池10は、第1層である固体電解質層11と、この固体電解質層11の片面に形成された第2層である正極活物質層13と、この固体電解質層11のもう片面に形成された負極活物質層16とを有する。ガーネット型酸化物を含む固体電解質層11及び複合酸化物である活物質粒子21を含む正極活物質層13が、本発明の複合積層体20である。正極活物質層13の表面には、集電体14が形成されており、負極活物質層16の表面には、集電体17が形成されている。正極活物質層13には、Co、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する複合酸化物の活物質粒子21と、Liを含有する融剤22とを含む。また、正極活物質層13には、活物質粒子21に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有し融剤22の中において固体電解質層11と活物質粒子21との間に形成された、融剤22と異なる界面部24が形成されている。この界面部24は、活物質粒子21と固体電解質層11とを接合する部位であり、くびれ形状を有するものとしてもよい。
【0022】
次に、本発明の複合積層体の製造方法について説明する。本発明の複合積層体の製造方法は、中間層を形成する形成工程と、第2層を積層する積層工程と、積層した積層体を焼成する焼成工程とを含む。図2は、複合積層体20を作製する工程の一例を示す説明図である。
【0023】
形成工程では、LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層の表面に、Co、Ni及びMnのうち1以上を含む金属及び/又は化合物からなる中間層を形成する(図2(a)参照)。なお、「中間層」は、被覆が完全な薄膜としてもよいし、被覆が不完全なものであってもよい。この工程では、上記複合積層体で説明したガーネット型酸化物、例えば、基本組成Li7+X-YLa3-XXZr2-YY12(式中、元素Aは、Ba,Sr,Ca,MgおよびYからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、元素Tは、Sc,Ti,V,Y,Nb,Hf,Ta,Al,Si,GaおよびGeからなる群より選ばれた1種類以上の元素であり、0<X≦1、0≦Y≦1、X<Yを満たす)で表されるガーネット型酸化物を用いるものとしてもよい。ガーネット型酸化物は、例えば、LiやLa、Zr、更には元素A、元素Tなどを含む原料成分を混合して1100℃以下の温度で焼成することにより得ることができる。原料成分は、酸化物よりも、炭酸塩や水酸化物とすることが好ましい。このとき、Liを過剰量入れることが好ましい。この第1層は、厚さを0.1μm以上としてもよいし、1μm以上としてもよいし、10μm以上としてもよい。また、第1層の厚さは1mm以下であるものとしてもよい。中間層は、複合酸化物に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の金属及び/又は化合物を原料とする。このうち、複合酸化物には少なくともCoを含み、中間層の原料には少なくともCoを含むことが好ましい。Coを含む化合物は、リチウムイオンを伝導しやすく好ましい。この中間層は、金属、合金、酸化物及びこれらの混合物などを原料にすることができ、なかでも金属が好ましい。中間層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、スパッタ法、化学蒸着法、イオンコート法及びPLD法のうちいずれかの方法で行うことが好ましい。また、中間層の原料粒子をペースト状にしてスクリーン印刷してもよいし、ドクターブレード法を採用してもよい。この中間層は、例えば、塗布面積に対する形成量を50μg/cm2以上で形成することが好ましく、80μg/cm2以上で形成することがより好ましく、150μg/cm2以上で形成することが更に好ましい。形成量が50μg/cm2以上では、界面部が形成されやすく、大電流(例えば、1Cレート以上など)での放電を行いやすい。この形成量は、材料消費の観点から、500μg/cm2以下が好ましい。また、中間層の厚さは、例えば、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましい。この厚さは、1μm以下であることが好ましい。このように、第1層の上に中間層(薄膜)を形成しておくと、のちの焼成工程において、複合酸化物粒子と第1層との間に界面部を形成することができる。
【0024】
積層工程では、中間層に含まれるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する複合酸化物の粒子と、Liを含有する融剤と、を含む第2層を中間層の上に形成し、積層体とする(図2(b)参照)。この工程では、上記複合積層体で説明した複合酸化物、例えば、基本組成LiCoaNibMnc2(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、a+b+c=1)で表される複合酸化物を用いるものとしてもよい。このうち、複合酸化物は、少なくともCoを含むものが好ましく、リチウムコバルト複合酸化物などが好ましい。融剤としては、上記複合積層体で説明した化合物などが挙げられ、特に、LiとBとを含む化合物を用いることが好ましく、ホウ酸リチウムであることが好ましい。融剤としては、Li3BO3(以下、LBOとも称する)がより好ましい。この第2層は、厚さを0.1μm以上としてもよいし、1μm以上としてもよいし、10μm以上としてもよい。また、第2層の厚さは1mm以下であるものとしてもよい。
【0025】
焼成工程では、積層体を焼成する。この工程では、例えば、積層体を1100℃以下の焼成温度で焼成する。この焼成工程では、圧力をかけて積層体の焼成処理を行うものとしても問題ないが、常圧の大気雰囲気で積層体の焼成処理を行うことが好ましい。こうすれば、簡便な処理で複合積層体を焼成することができる。焼成温度は、1050℃以下がより好ましく、1000℃以下が更に好ましい。焼成エネルギーをより低減することができるからである。なお、第1層及び第2層の焼結性を考慮すると、焼成温度は、800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましく、950℃以上であることが更に好ましい。焼結性を高めることが可能であれば、750℃以上としてもよい。こうして界面部24を有する複合積層体20を作製することができる(図2(c)参照)。
【0026】
以上詳述した複合積層体及びその製造方法では、より大きな電流での放電を行うことができる複合積層体を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む第1層は、焼成されるとその表面にLiが析出しやすい性質を有している。ここでは、複合酸化物に含有されるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する中間層を、予め第1層上に形成しておくことにより、この析出するLiと反応し、リチウムイオンをより伝導しやすい界面部が形成されると推察される。この界面部により、活物質粒子と第1層との間でのリチウムイオンの伝導性がより高まるため、より大きな電流での放電を行うことができるものと推察される。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0028】
例えば上述した実施形態では、複合積層体の製造方法としたが、更に第1層の反対側の面に負極活物質層を形成する負極形成工程を含む、リチウム電池の製造方法としてもよい。負極形成工程では、例えば、Li金属を用い、スパッタ法、化学蒸着法、イオンコート法及びPLD法のうちいずれかの方法で負極活物質層を形成するものとしてもよい。あるいは、Li金属やLi合金を第1層の表面に圧着するものとしてもよい。
【実施例】
【0029】
以下には、本発明の複合積層体を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0030】
[ガーネット型酸化物の作製]
ガーネット型酸化物として、Li6.75La3Zr1.75Nb0.2512(LLZ)を合成した。出発原料は、Li2CO3、La(OH)3、ZrO2およびNb25とした。出発原料を化学量論比になるように秤量した。ただし本焼結でのLiの欠損を補う目的で、組成中のLi量に対して10at.%になるようにLi2CO3を過剰添加した。ジルコニアボールを用い、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm)で1時間、混合・粉砕を行った。出発原料の混合粉末をボールとエタノールから分離したのち、Al23るつぼ中にて、LLZNbを950℃、10時間、大気雰囲気で仮焼した。その後、この混合粉末を、ジルコニアボールを用い、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm)で1時間混合粉砕した。得られた粉末を再び上記条件下(950℃、10時間、大気雰囲気)で仮焼し、その後、直径13mmのペレット状に成形した。このペレットを1150℃、36時間、大気雰囲気下で本焼結し、試料(固体電解質層)を得た。
【0031】
[複合酸化物]
LiCoO2(LCO)は、日本化学製セルシード10Nを用いた。
【0032】
[融剤合成]
Li3BO3(LBO)は、Li2CO3、B23を出発原料とし、化学量論比になるよう秤量し、ボールミルで混合したのち、600℃、10時間焼成して得た。
【0033】
(電気伝導度)
固体電解質層の電気伝導度を測定した。恒温槽中にてACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、周波数40Hz〜110MHz、振幅電圧100mVの条件で、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から電気伝導度を算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを850℃、30分の条件で焼き付けることで形成した。その測定結果では、固体電解質層は、電気伝導度が5×10-4Scm-1であった。
【0034】
[複合積層体の作製]
固体電解質層(第1層)の表面にCoの金属層(中間層)を形成した(形成工程)。上記ガーネット型酸化物の固体電解質層の表面を研磨したのち、この表面に直径6mmの開口を有するマスクを載せ、Co金属をターゲットとしてイオンコーター内にセットした。ロータリーポンプで10Paまで減圧した後、400〜600Vを印加してCoを固体電解質層の表面にイオンコートした。処理後の固体電解質層の質量増加を測定し、コートしたCo量を求めた。次に、Co金属層の上に複合酸化物を含む活物質層(第2層)を積層した(積層工程)。融剤(LBO)を2.7g、複合酸化物(LCO)を7.3g、及び結着剤(ECビヒクル、日新化成製EC−200FTD)を10g、秤量し混練して活物質合材ペーストとした。固体電解質層のCoをイオンコートとした領域に、直径6mmの開口を有するマスクを載せ、上記ペーストをスクリーン印刷し、積層体とした。続いて、積層体を焼成した(焼成工程)。焼成炉に上記積層体を入れ、750℃で1時間保持し、その後、炉冷して複合積層体を得た。これを実施例1の複合積層体とした。焼成処理後の複合積層体の質量増加を測定し、測定した質量及び原料組成から、含まれる活物質量を求めた。また、上記中間層を形成しない以外は上記各工程を経て得られたものを比較例1の複合積層体とした。
【0035】
[全固体リチウム二次電池の作製]
実施例1の複合積層体の活物質層の表面にAuを100nmイオンコートし、Al薄板を正極集電体として配設した。また、固体電解質層の裏面に負極活物質としてのLi金属を蒸着し、Cu薄板を負極集電体として配設し、実施例1の全固体リチウム二次電池を得た。また、比較例1の複合積層体を用いて、実施例1と同様の工程を経て比較例1の全固体リチウム二次電池を得た。
【0036】
(SEM観察)
作製した実施例1の積層複合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。SEM観察は、日立ハイテクノロジーズ社製S−3600Nを用いて2000〜5000倍の条件で行った。図3は、複合積層体の断面のSEM写真である。図3に示すように、実施例1の複合積層体では、形成工程で形成した中間層は明確に残っていなかった。また、中間層の代わりに、活物質粒子と固体電解質層との間に、これらを接合する、融剤とは異なるくびれ形状の界面部が形成されていた。この界面部は、具体的な組成は不明であるが、例えば、焼成工程において、固体電解質層から放出されたLiと中間層のCo金属とが反応し、活物質と同様のLCOのような化合物が生成して形成されたのではないかと推察された。
【0037】
(電池評価)
電池評価として、サイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。CV測定は、電気化学測定システム(北斗電工社製、HZ−3000)を用いて行った。開回路電圧(OCV)を計測したのち、0.1V/sの掃引速度で、負極(Li金属)に対して、OCVから4.05V、2.50V、4.05Vのサイクルで測定した。この結果、実施例1及び比較例1共に電池として作動することを確認した。次に、得られた電気量から仮のCレートを設定し、その1/10の値で、負極に対して、2.50Vから4.05Vまで充電させ、4.05Vから2.50Vまで放電させ、より正確な充放電量を求め、Cレートを算出した。次に、0.1Cで負極に対して4.05Vまで充電後、4.05Vで1時間保持して充電した。1時間の休止後、放電電流値500μAで終止電圧2.50V(対負極)まで放電した。更に、1時間の休止を間に挟み、電流値を200μA、100μA、50μAと順に小さくして放電容量を測定した。測定した電流値では、それよりも大きな電流値で測定された放電容量も得られるものとし、これらの放電容量の和を放電容量Q(mAh/g)とした。また、複合積層体に含まれる活物質がすべて放電した場合の放電容量Q0により放電容量Qを規格化し(Q/Q0)、このQ/Q0と、Cレート換算した放電電流I(I/C)との関係を検討した。また、中間層の形成量(Co量)を変えた複合積層体を作製し、この放電容量を測定した。
【0038】
(結果と考察)
実施例1及び比較例1の測定結果を表1に示す。図4は、実施例1及び比較例1の全固体リチウム二次電池の放電電流I/Cと放電容量Q/Q0との関係図である。図4及び表1に示すように、比較例1では、低い電流値での放電容量は比較的あるものの、Cレートの増加に伴い放電容量は大きく減少し、1Cでは放電容量がほとんどなかった。これに対し、固体電解質層の表面に中間層を形成して作製した実施例1では、0.1C以上、特に、1Cでの放電容量が著しく向上することがわかった。この結果より、実施例1では、固体電解質層と複合酸化物(活物質粒子)との間のリチウムイオンの移動が速やかになったものと推察された。この理由は、以下のように推察された。例えば、LiとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を含む固体電解質層(第1層)は、焼成されるとその表面にLiが析出しやすい性質を有している。この析出したLiは、リチウムイオンを伝導しにくいアルカリ金属化合物層(抵抗層)を形成することがある。比較例1の複合積層体では、固体電解質層の上に直接又は抵抗層を介して複合酸化物が接合される。このため、点接触に近い状態、あるいは抵抗層を介するから、固体電解質と複合酸化物との間のリチウムイオンの移動量が少ないと推察された。これに対して、実施例1の複合積層体では、複合酸化物に含有されるCo、Ni及びMnのうち1以上の元素を含有する中間層を予め第1層上に形成しておくことにより、この析出するLiと反応し、リチウムイオンをより伝導しやすい界面部が形成されるものと推察された。この界面部は、例えば、LiとCoとを含むことが容易に推察されるから、リチウムイオンを移動しやすい、複合酸化物(LCO)と同様の化合物であると推察された。この界面部により、活物質粒子と第1層との間でのリチウムイオンの伝導性がより高まるため、より大きな電流での放電を行うことができるものと推察された。
【0039】
【表1】
【0040】
図5は、固体電解質上に形成した中間層のCo質量と、1C放電時における放電容量Q/Q0との関係図である。また、その測定結果を表2に示す。図5及び表2に示すように、Coの形成量は、50μg/cm2以上であれば、より高レートでの放電ができることがわかった。この中間層の形成量は500μg/cm2以下がより好ましいものと推察された。
【0041】
【表2】
【0042】
なお、実施例1では、中間層としてCo金属を固体電解質層の表面に形成するものとしたが、Co金属粒子の表面にはその酸化物も含まれているから、中間層をCo酸化物を含む材料により形成しても、上記実施例と同等の効果が得られるものと推察される。また、実施例では、正極活物質層及び中間層にCoを含むものを用いたが、NiやMnにおいても、同様の効果を得ることができると推察された。
【0043】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、電池産業の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 リチウム電池、11 固体電解質層、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、20 複合積層体、21 活物質粒子、22 融剤、23 中間層、24 界面部。
図1
図2
図3
図4
図5