特許第6341017号(P6341017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6341017-Ni基耐熱合金 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341017
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】Ni基耐熱合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20180604BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20180604BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180604BHJP
【FI】
   C22C19/05 F
   !C22F1/10 H
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 630K
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-186186(P2014-186186)
(22)【出願日】2014年9月12日
(65)【公開番号】特開2016-56436(P2016-56436A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100112715
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 桂子
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】米村 光治
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−268337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C22F 1/00 − 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C :0.05%未満、
Si:1.0%以下、
Mn:1.0%以下、
Cr:15.0%以上28.0%未満、
Al:0.5%よりも高く、2.5%以下、
Nb:2.0〜5.0%、
B:0.0005〜0.01%、
Mo:0〜3.0%、
W :0〜11%、
Ti:0〜2.0%、
Co:0〜25.0%、
Zr:0〜0.2%、
Fe:0.02〜15.0%、
V :0〜1.5%、
Hf:0〜1%、
Mg:0〜0.05%、
Ca:0〜0.05%、
Nd:0〜0.5%、
Y :0〜0.5%、
La:0〜0.5%、
Ce:0〜0.5%、
Ta:0〜8%、
Re:0〜8%、
残部:50%以上のNi及び不純物であり、
前記化学組成は、下記式(1)を満たし、
母相のガンマプライム相の体積分率が10〜25vol.%であり、
初期粒界被覆率が70%以上である、Ni耐熱合金。
[Nb]>1.0+0.4×[Mo]・・・式(1)
ここで、式(1)の各元素記号には対応する元素の質量%で表した含有量が代入される。
【請求項2】
請求項1に記載のNi基耐熱合金であって、
前記化学組成が、質量%で、
Co:5.0%よりも高く25.0%以下、及び
Zr:0.005〜0.2%、
からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、Ni基耐熱合金。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のNi基耐熱合金であって、
前記化学組成が、下記の(B)から(D)までのいずれかの群から選択される1種以上の元素を含有する、Ni基耐熱合金。
(B) V :0.02〜1.5%、及びHf:0.005〜1%
(C) Mg:0.0008〜0.05%、Ca:0.0008〜0.05%、Nd:0.001〜0.5%、Y:0.001〜0.5%、La:0.001〜0.5%、及びCe:0.001〜0.5%
(D) Ta:0.01〜8%、及びRe:0.01〜8%
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のNi基耐熱合金であって、
前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.2〜3.0%、及び
W :1〜11%
からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、Ni基耐熱合金。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のNi基耐熱合金であって、
前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.5〜2.0%
を含有する、Ni基耐熱合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金に関し、さらに詳しくは、Ni基耐熱合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率化のために蒸気の温度と圧力を高めた超々臨界圧ボイラの新設が世界中で進められている。具体的には、今までは600℃前後であった蒸気温度を650℃以上、さらには700℃以上にまで高めることも計画されている。これは、省エネルギーと資源の有効活用、及び環境保全のためのCOガス排出量削減がエネルギー問題の解決課題の一つとなっており、重要な産業政策となっていることに基づく。そして、化石燃料を燃焼させる発電用ボイラ、化学工業用の反応炉等の場合には、効率の高い、超々臨界圧ボイラや反応炉が有利なためである。
【0003】
蒸気の高温高圧化は、ボイラの過熱器管及び化学工業用の反応炉管、並びに耐熱耐圧部材としての厚板及び鍛造品等の実稼働時における温度を700℃以上に上昇させる。したがって、このような過酷な環境において長時間使用される材料には、高温強度及び高温耐食性のみならず、長期にわたる金属組織の安定性、クリープ破断延性及び耐クリープ疲労特性が良好なことが要求される。
【0004】
さらに、長時間使用後の補修等メンテナンスにおいては、長期経年変化した材料に対して切断、加工、溶接等の作業を行う必要が生じる。したがって、耐熱材料には、新材としての特性だけでなく、経年材としての健全性が強く求められる。
【0005】
上記の厳しい要求に対して、オーステナイト系ステンレス鋼等のFe基合金では、クリープ破断強度が不足する。このため、γ’相等の析出を活用したNi基耐熱合金が利用される。
【0006】
特開昭51−84726号公報、特開昭51−84727号公報、特開平7−150277号公報、特開平7−216511号公報、特開平8−127848号公報、特開平8−218140号公報、特開平9−157779号公報、及び特表2002−518599号公報には、上述のような過酷な高温環境下で使用されるNi基合金が開示されている。これらの文献では、Mo及び/又はWを含有させて固溶強化を図るとともに、Al及びTiを含有させて金属間化合物であるγ’相、具体的には、Ni(Al,Ti)の析出強化を活用している。このうち、特開平7−216511号公報、特開平8−127848号公報、及び特開平8−218140号公報に開示されたNi基合金は、28%以上のCrを含有しているため、bcc構造を有するα―Cr相も多量に析出する。
【0007】
特許第3840555号には、Ni基単結晶超合金の整合ひずみの調整によってクリープ強度を向上することが開示されている。
【0008】
特開昭61−179834号公報には、MnやCrといった添加元素を多く含有することにより、高温強度を高めたオーステナイト鋼が開示されている。
【0009】
国際公開第2010/038826号には、Mo及びWを所定量含有し、さらに、Nd及びBを所定量含有するNi基合金が開示されている。この文献にはさらに、Sb、Zn、及びAsの総含有量を制限することにより、高温での熱間加工性及びクリープ破断強度を向上させることが記載されている。
【0010】
特開2013−216939号公報には、粒内を強化するγ’相を構成するAl、Ti、及びNbのバランスを規定するとともに、粒界を炭化物又は硼化物で強化したNi基耐熱合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭51−84726号公報
【特許文献2】特開昭51−84727号公報
【特許文献3】特開平7−150277号公報
【特許文献4】特開平7−216511号公報
【特許文献5】特開平8−127848号公報
【特許文献6】特開平8−218140号公報
【特許文献7】特開平9−157779号公報
【特許文献8】特表2002−518599号公報
【特許文献9】特許第3840555号
【特許文献10】特開昭61−179834号公報
【特許文献11】国際公開第2010/038826号
【特許文献12】特開2013−216939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特開昭51−84726号公報、特開昭51−84727号公報、特開平7−150277号公報、特開平7−216511号公報、特開平8−127848号公報、特開平8−218140号公報、特開平9−157779号公報、及び特表2002−518599号公報に開示されたNi基合金では、γ’相やα―Cr相が析出する。そのため、高温下でのクリープ延性が従来のオーステナイト鋼等に比べて低く、特に、長期間使用した場合には、経年変化を生じて延性が新材と比較して大きく低下する。
【0013】
特許第3840555号に開示されたNi基合金は、単結晶合金であり、鋼管材料のような構造物において延性・加工性が求められる用途に用いることができない。特開昭61−179834号公報に開示されたオーステナイト鋼は、Ni含有量が50%以上になると高い破断強度が得られない。国際公開第2010/038826号に開示されたNi基合金は、高温で長時間使用後のクリープ強度及びクリープ延性が低い場合がある。
【0014】
特開2013−216939号公報に開示されたNi基耐熱合金は、粒界を炭化物又は硼化物で強化しているため、800℃以上の高温では強度が低下する場合がある。
【0015】
本発明の目的は、優れたクリープ強度と破断延性とを有するNi基耐熱合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によるNi基耐熱合金は、化学組成が、質量%で、C:0.05%未満、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Cr:15.0%以上28.0%未満、Al:0.5%よりも高く、2.5%以下、Nb:2.0〜5.0%、B:0.0005〜0.01%、Mo:0〜3.0%、W:0〜11%、Ti:0〜2.0%、Co:0〜25.0%、Zr:0〜0.2%、Fe:0〜15.0%、V:0〜1.5%、Hf:0〜1%、Mg:0〜0.05%、Ca:0〜0.05%、Nd:0〜0.5%、Y:0〜0.5%、La:0〜0.5%、Ce:0〜0.5%、Ta:0〜8%、Re:0〜8%、残部:50%以上のNi及び不純物であり、前記化学組成は、下記式(1)を満たし、母相のガンマプライム相の体積分率が10〜25vol.%であり、初期粒界被覆率が70%以上である。
[Nb]>1.0+0.4×[Mo]・・・式(1)
ここで、式(1)の各元素記号には対応する元素の質量%で表した含有量が代入される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れたクリープ強度と破断延性とを有するNi基耐熱合金が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、粒界被覆率を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、Ni基耐熱合金の性能を向上させるため、種々の検討を行った。その結果、次の知見を得た。
【0020】
クリープ強度と破断延性とを両立するためには、粒内及び粒界の強化のバランスを改善することが有効である。より具体的には、母相のガンマプライム(γ’)相の体積分率が10〜25vol.%であり、初期粒界被覆率が70%以上であれば、優れたクリープ強度と破断延性とが得られる。
【0021】
Ni基耐熱合金のNb含有量が増加すると、Nbは、粒内γ’相に分配されるだけでなく、粒界にも分配される。Nbの含有量、及び時効熱処理の条件を調整することによって、Ni基耐熱合金の粒内・粒界の強度バランスを制御することができる。
【0022】
粒界には、金属間化合物を析出させることが好ましい。金属間化合物は、炭化物や硼化物と比較して、高温でも安定に存在することができる。金属間化合物はまた、長時間析出が継続するため、破断時間を延長することができる。粒界に析出させる金属間化合物は、Fe基の金属間化合物よりもNi基、Cr基の金属間化合物が好ましく、特に、Ni基、Cr基のラーベス相が好ましい。
【0023】
したがって、金属間化合物を形成するNb、Ni、及びCrの含有量を増加させ、C含有量を低減し、さらに、炭化物や硼化物を形成しやすいMoの含有量を低減させることで、金属間化合物を安定にすることができる。より具体的には、上述の各元素を適量含有し、かつ、下記の式(1)を満たす化学組成を有する合金を適切な温度で時効熱処理することによって、粒界に金属間化合物を析出させることができる。
[Nb]>1.0+0.4×[Mo]・・・式(1)
ここで、式(1)における各元素記号には対応する元素の質量%で表した含有量が代入される。
【0024】
以上の知見に基づいて、本発明によるNi基耐熱合金は完成された。以下、本発明の一実施形態によるNi基耐熱合金を詳細に説明する。
【0025】
[化学組成]
本実施形態によるNi基耐熱合金は、以下に説明する化学組成を有する。以下の説明において、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
【0026】
C:0.05%未満
炭素(C)は、炭化物を形成してクリープ強度を向上するのに有効な元素とされている。しかし本実施形態では、高温長時間において炭化物よりも安定な金属間化合物によって高温クリープ強度を実現する。そのため、C含有量が多くなると、粒界に炭化物が析出するため、粒界の金属間化合物の析出量が減少して高温長時間側での粒界安定性が保たれない。また、C含有量が多くなると、炭化物が過剰に析出して靱性等の機械的性質が劣化する。さらに、溶接性も低下する。したがって、C含有量は、0.05%未満である。C含有量は、0.02%以下とすることが好ましく、0.01%以下とすることがさらに好ましい。C含有量には下限を設けないが、極端な低減はコストの増大を招く。
【0027】
Si:1.0%以下
シリコン(Si)は、合金を脱酸する。しかしながら、Si含有量が過剰になると、溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は1.0%以下である。Si含有量は、1.0%未満であることが好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。他の元素によって脱酸作用が十分確保されている場合には、Si含有量には下限を設けなくても良い。脱酸作用、耐酸化性及び耐水蒸気酸化性等の効果を安定して得たい場合には、Si含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがさらに好ましく、0.04%以上であるのがさらに好ましい。
【0028】
Mn:1.0%以下
マンガン(Mn)は、合金を脱酸する。Mnはさらに、不純物であるSを硫化物として固着して、合金の熱間加工性を高める。一方、Mn含有量が過剰になると、スピネル型酸化被膜の形成が促進され、高温での耐酸化性が低下する。したがって、Mn含有量は1.0%以下である。Mn含有量は1.0%未満であることが好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。熱間加工性改善の作用を安定して得たい場合には、Mn含有量は0.01%以上であることが好ましく、0.02%以上であることがさらに好ましく、0.04%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
Cr:15.0%以上28.0%未満
クロム(Cr)は、合金の耐酸化性、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性等の耐食性を高める。Crはさらに、Nbと結合して金属間化合物を形成して粒界に析出し、合金のクリープ強度を向上する。一方、Cr含有量が過剰になると、α‐Cr相やσ相が過剰に析出し、粗大化して、長時間使用時に析出物界面にクリープボイドが形成されやすくなる。これによって、クリープ強度及びクリープ延性が低下し、また、熱間加工性も低下する。したがって、Cr含有量は、15.0%以上28.0%未満である。Cr含有量は、下限の観点では、15.0%よりも高いことが好ましく、16.0%以上であることがさらに好ましく、18.0%以上であることがさらに好ましい。Cr含有量は、上限の観点では、27.0%以下であることが好ましく、26.0%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
Al:0.5%よりも高く2.5%以下
アルミニウム(Al)は、γ’相(NiAl)を形成し、クリープ強度を高める。一方、Al含有量が過剰になると、γ’相の析出温度が上昇して高温におけるγ’相の体積分率が増大し、熱間加工性が低下する。したがって、Al含有量は、0.5%よりも高く2.5%以下である。Al含有量は、上限の観点では、2.5%未満であることが好ましく、2.3%以下であることがさらに好ましく、2.2%以下であることがさらに好ましい。Al含有量は、下限の観点では、0.6%以上であることが好ましく、0.7%以上であることがさらに好ましい。なお本明細書において、Al含有量は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
【0031】
Nb:2.0〜5.0%
ニオブ(Nb)は、粒内にγ’相を形成するとともに、粒界にラーベス相等の金属間化合物を形成する。これによって、粒内及び粒界を析出強化し、クリープ強度を向上させる。一方、Nb含有量が過剰になると、粗大なNb炭化物が形成され、クリープ強度及び延性が低下し、熱間加工性も低下する。したがって、Nb含有量は2.0〜5.0%である。Nb含有量は、上限の観点では、5.0%未満であることが好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましい。Nb含有量は、下限の観点では、2.0%よりも高いことが好ましく、2.5以上であることがさらに好ましく、3.0%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
B:0.0005〜0.01%
ボロン(B)は、粒界を強化し、Ni基耐熱合金のクリープ強度とクリープ延性とを高める。一方、B含有量が過剰になると、溶接性が低下し、クリープ強度及びクリープ延性も低下する。したがって、B含有量は0.0005〜0.01%である。B含有量は、上限の観点では、0.01%未満であることが好ましく、0.009%以下であることがさらに好ましく、0.008%以下であることがさらに好ましい。B含有量は、下限の観点では、0.0005%よりも高いことが好ましく、0.001%以上であることがさらに好ましく、0.002%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態によるNi基耐熱合金の残部は、50%以上のニッケル(Ni)及び不純物である。なお、ここでいう不純物とは、耐熱合金を工業的に製造する際に、原料として利用される鉱石やスクラップから混入する元素、又は製造過程の環境等から混入する元素を意味する。
【0034】
Ni含有量が50%以上であれば、他の元素を含有させてクリープ強度を高めても、延性の低下を抑制することができる。Ni含有量が低すぎると、粒内変形抵抗が著しく増大し、クリープ延性が低下する。したがって、Ni含有量は50%以上である。Ni含有量は、50%よりも高いことが好ましく、51%以上であることがさらに好ましく、52%以上であることがさらに好ましい。
【0035】
[選択元素について]
本実施形態によるNi基耐熱合金は、Niの一部に代えて、Mo及びWの1種以上を含有しても良い。これらの元素は、いずれも合金のクリープ強度を高める。これらの元素は、いずれも選択元素である。すなわち、本実施形態によるNi基耐熱合金は、Mo及びWのいずれか又は両方を含有していなくても良い。
【0036】
Mo:3.0%以下
モリブデン(Mo)は、母相に固溶して、固溶強化によって合金のクリープ強度を向上させる。一方、Mo含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。また、炭化物や窒化物を形成し、800℃以上での高温長時間強度を低下させる。したがって、Mo含有量は3.0%以下である。Mo含有量は、3.0未満であることが好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましく、2.0%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Mo含有量は、0.2%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
W :11%以下
タングステン(W)は、母相に固溶して、固溶強化によって合金のクリープ強度を向上させる。また、粒界にラーベス相を析出し、粒界強度を向上させる。一方、W含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。したがって、W含有量は11%以下である。W含有量は、11%未満であることが好ましく、9%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、W含有量は、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
本実施形態によるNi基耐熱合金はさらに、Niの一部に代えて、Tiを含有しても良い。Tiは選択元素である。すなわち、本実施形態によるNi基耐熱合金は、Tiを含有していなくても良い。
【0039】
Ti:2.0%以下
チタン(Ti)は、Alとともにγ’相を形成して、合金のクリープ強度を高める。一方、Ti含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。したがって、Ti含有量は、2.0%以下である。Ti含有量は、2.0%未満であることが好ましく、1.8%以下であることがさらに好ましく、1.7%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Ti含有量は0.5%以上であることが好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。
【0040】
本実施形態によるNi基耐熱合金はさらに、Niの一部に代えて、Co及びZrの1種以上を含有しても良い。これらの元素は、いずれもγ’相を安定化するとともに粒界を強化し、クリープ強度及びクリープ延性を高める。これらの元素は、いずれも選択元素である。すなわち、本実施形態によるNi基耐熱合金は、Co及びZrのいずれか又は両方を含有していなくても良い。
【0041】
Co:25.0%以下
コバルト(Co)は、γ相及びγ’相に分配され、主に固溶強化元素として作用する。Coはさらに、γ’に固溶することにより格子定数を大きく低下させ、整合格子ひずみを低下させる。そのため、Coはクリープ強度及びクリープ延性を向上させる。破断伸びの増加量は、Co含有による整合格子ひずみの低下量に対応する。Coはさらに、脆化相であるσ相の析出温度を低下し、粒内の強度及び延性バランスに優れたγ+γ’の二相領域を拡げる。
【0042】
しかしながら、Co含有量が過剰になると、延性の向上効果は飽和する。さらに、Coの過剰な固溶により母相が著しく強化し、熱間加工性が低下する。したがって、Co含有量は25.0%以下である。Co含有量は、25.0%未満であることが好ましく、22.0%以下であることがさらに好ましく、20.0%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Co含有量は5.0%よりも高いことが好ましく、7.0%以上であることがさらに好ましく、10.0%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
Zr:0.2%以下
ジルコニウム(Zr)は、粒内γ’相と粒界とに分配され、粒内では、Tiと同様に粒内γ’相を安定化する。粒界では、Bと同様に粒界固溶元素として作用する。そのため、Ni基耐熱合金のクリープ強度及びクリープ延性を高める。しかしながら、Zr含有量が過剰になると、粒内に分配されるZrにより粒内が過剰に強化され、熱間加工性が低下する。さらに、Zrの一部が介在物として粗大な(Zr,Nb)炭化物を形成し、合金のクリープ強度が低下する。したがって、Zr含有量は0.2%以下である。Zr含有量は、0.2%未満であることが好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Zr含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましく、0.02%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
本実施形態によるNi基耐熱合金は、Niの一部に代えて、下記の(A)から(D)までのいずれかのグループから選択される1種以上の元素を含有する化学組成であっても良い。下記の(A)から(D)までのグループに属する元素は、すべて選択元素である。すなわち、下記の(A)から(D)までのグループに属する元素は、いずれも本実施形態によるNi基耐熱合金に含有されていなくても良い。また、一部だけが含有されていても良い。
【0045】
より具体的には、例えば、(A)から(D)までのグループの中から1つのグループだけを選択し、そのグループから1種以上の元素を選択しても良い。この場合、選択したグループに属するすべての元素を選択する必要はない。また、(A)から(D)の中から複数のグループを選択し、それぞれのグループから1種以上の元素を選択しても良い。この場合も、選択したグループに属するすべての元素を選択する必要はない。
【0046】
[グループ(A)]
Fe:15.0%以下
鉄(Fe)は、Ni基耐熱合金の熱間加工性を高める。また、粒界でラーベス相を析出し、粒界強化に寄与する。一方、Fe含有量が過剰になると、耐酸化性及び組織安定性が低下する。したがって、Fe含有量は15.0%以下である。Fe含有量は、15.0%未満であることが好ましく、12.0%以下であることがさらに好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましい。上記の効果を安定して得るためには、Fe含有量は0.02%以上であることが好ましく、0.04%以上であることがさらに好ましく、0.06%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
[グループ(B)]
バナジウム(V)及びハフニウム(Hf)はいずれも選択元素である。これらの元素はいずれも、クリープ強度を高める。
【0048】
V:1.5%以下
バナジウム(V)は、炭窒化物又は金属間化合物を形成してクリープ強度を高める。しかしながら、V含有量が過剰になると、高温腐食の発生と脆化相の析出に起因して、延性及び靱性が低下する。したがって、V含有量は、1.5%以下である。V含有量は、1.5%未満であることが好ましく、1.2%以下であることがさらに好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、V含有量は、0.02%以上であることが好ましく、0.04%以上であることがさらに好ましく、0.06%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
Hf:1%以下
ハフニウム(Hf)は、主として粒界強化に寄与してクリープ強度を高める。しかしながら、Hf含有量が過剰になると、熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Hf含有量は1%以下である。Hf含有量は、1%未満であることが好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Hf含有量は、0.005%以上であることが好ましく、0.008%以上であることがさらに好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。
【0050】
上記のV及びHfは、1種のみ、又は2種を複合して含有してもよい。V及びHfを含有する場合、これらの元素の好ましい合計含有量は2.8%以下である。
【0051】
[グループ(C)]
マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ネオジム(Nd)、イットリウム(Y)、ランタン(La)及びセリウム(Ce)はいずれも選択元素である。これらの元素はいずれも、不純物であるSを硫化物として固着して熱間加工性を高める。
【0052】
Mg:0.05%以下、
Ca:0.05%以下
マグネシウム(Mg)及びカルシウム(Ca)はいずれも、不純物であるSを硫化物として固着して熱間加工性を高める。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、清浄性が低下し、かえって熱間加工性及び延性が低下する。したがって、Mg含有量及びCa含有量はいずれも、0.05%以下である。Mg含有量及びCa含有量は、0.05%未満であることが好ましく、0.02%以下であることがさらに好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Mg及びCaの含有量の少なくとも一方が0.0005%以上であることが好ましく、0.0008%以上であることがさらに好ましく、0.001%以上であることがさらに好ましい。
【0053】
Nd:0.5%以下、
Y :0.5%以下、
La:0.5%以下、
Ce:0.5%以下
ネオジム(Nd)、イットリウム(Y)、ランタン(La)及びセリウム(Ce)はいずれも、Sを硫化物として固着して熱間加工性を高める。これらの元素はさらに、合金表面のCr保護皮膜の密着性を高め、特に、繰り返し酸化時の耐酸化性を高める。これらの元素はさらに、粒界を強化して、クリープ強度及び破断ひずみを高める。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、酸化物等の介在物が多くなり熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Nd、Y、La及びCeの含有量はいずれも0.5%以下である。これらの元素の含有量はいずれも、0.5%未満とすることが好ましく、0.3%以下とすることがさらに好ましく、0.15%以下とすることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、これらの元素の含有量のいずれかを0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがさらに好ましく、0.003%以上とすることがさらに好ましい。
【0054】
上記のMg、Ca、Nd、Y、La及びCeは、いずれか1種のみ、又は2種以上を複合して含有することができる。これらの元素の好ましい合計含有量は0.94%以下である。
【0055】
[グループ(D)]
タンタル(Ta)及びレニウム(Re)はいずれも選択元素である。これらの元素はいずれも、固溶強化によりクリープ強度を高める。
【0056】
Ta:8%以下
Re:8%以下
タンタル(Ta)及びレニウム(Re)はいずれも、炭窒化物を形成するとともに母相に固溶して、クリープ強度を高める。これらの元素はさらに、γ’相に固溶し高温強度を高める。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、加工性及び機械的性質が低下する。したがって、Ta含有量及びRe含有量はそれぞれ、8%以下である。Ta含有量及びRe含有量はそれぞれ、8%未満であることが好ましく、7%以下であることがさらに好ましく、6%以下であることがさらに好ましい。上記した効果を安定して得るためには、Ta及びReの含有量の少なくとも一方が0.01%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがさらに好ましく、0.5%以上であることがさらに好ましい。
【0057】
上記のTa及びReは、1種のみ、又は2種を複合して含有することができる。これらの元素の好ましい合計含有量は14%以下である。
【0058】
[式(1)について]
本実施形態によるNi基耐熱合金の化学組成はさらに、下記の式(1)を満たす。
[Nb]>1.0+0.4×[Mo]・・・式(1)
ここで、式(1)における各元素記号には対応する元素の質量%で表した含有量が代入される。
【0059】
化学組成が上述した範囲内であり、かつ、上記の式(1)を満たせば、炭化物や硼化物よりも金属間化合物の方が安定になる。そのため、後述する時効熱処理において、粒界に主として金属間化合物が析出する。より具体的には、NiNb、CrNb、若しくはFeW等のラーベス相、又はσ相等の金属間化合物が、(Cr,Mo)23等の炭化物よりも安定になる。金属間化合物は800℃以上の高温でも安定に存在できるため、金属間化合物によって粒界強化された合金は、800℃以上の高温でも高強度を維持できる。また、金属間化合物は長時間析出が継続し、粒界被覆率をより高めることができる。そのため、長時間経過後の強度を高めることができる。
【0060】
一方、化学組成が式(1)を満たさなければ、(Cr,Mo)23等の炭化物、(Mo,Cr)等の硼素物が、金属間化合物よりも安定になる。炭化物や硼化物はクリープ強度の向上に寄与するものの、800℃以上の高温では粗大化そして体積分率の減少により粒界被覆率が低下し、粒界強化能が著しく低下する。
【0061】
[組織]
本実施形態によるNi基耐熱合金では、粒内をγ’相、粒界を主として金属間化合物によって強化する。以下、これらを具体的に説明する。
【0062】
[γ’相の体積分率]
本実施形態によるNi基耐熱合金は、γ’相の体積分率が10〜25vol.%である。「γ’相の体積分率」(vol.%)とは、母相(γ相)中のNi粒内におけるγ’相の体積分率を意味する。プロセスによっては粒界にもγ’相が析出する場合があるが、本実施形態においては、粒内に析出したγ’相のみを対象とする。
【0063】
γ’相の体積分率が低すぎれば、必要なクリープ強度が得られない。一方、γ’相の体積分率が高すぎれば、整合格子ひずみが増大し、粒内延性が低下する。さらに、γ’相の析出温度が上昇するため、熱間加工性が低下する。γ’相の体積分率が10〜25vol.%であれば、強度と延性のバランスが保たれ、優れた高温強度(クリープ強度)及び延性、熱間加工性(破断伸び)が得られる。
【0064】
「γ’相の体積分率」は次の方法で測定される。Ni基耐熱合金に対してX線回折測定を実施し、母相(γ相)及びγ’相のニ相モデルでX線Rietveld法による構造最適化によって相分率解析する。ここで、粒界に析出したγ’相は薄いフィルム状で、かつ疎であるため、X線回折測定では検出されない。つまり、X線回折測定において検出されるγ’相は、γ粒内に析出したγ’相である。したがって、上述のX線回折法により相分率を解析することにより、γ’相の体積分率を求める。
【0065】
なお、γ’相の体積分率は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた画像解析でも測定が可能である。この場合、画像解析により、γ粒内に析出したγ’相の面積率を求め、求めた面積率をもって、γ’相の体積分率と定義する。
【0066】
[粒界被覆率]
本実施形態によるNi基耐熱合金は、初期粒界被覆率が70%以上である。「粒界被覆率」とは、結晶粒(γ相)の粒界の全長さに対する、析出物によって覆われた粒界の長さの比(%)である。「初期粒界被覆率」とは、Ni基耐熱合金が使用に供される前の状態、すなわち、新材の時に測定した粒界被覆率を意味する。
【0067】
合金が変形する際、粒界に応力が集中する。粒界が析出物で覆われていれば、この応力を分散させることができる。そのため、粒界被覆率が高いほど、合金の強度を高くすることができる。初期粒界被覆率を70%以上であれば、優れたクリープ強度が得られる。初期粒界被覆率は、80%以上であることが好ましい。一方、粒界被覆率が高すぎると変形のためのサイトがなくなり、粒内γ’相の体積分率にもよるが延性が低下する場合がある。そのため、初期粒界被覆率は90%以下であることが好ましい。
【0068】
粒界被覆率は、以下の方法で算出される。Ni基耐熱合金の任意の場所からサンプルを採取する。採取されたサンプルから、60×50μm程度の領域を5視野観察する。観察には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる。図1は、観察された領域の模式図である。領域中の結晶粒界の全長Lを測定する。そして、析出物に覆われた各粒界部分(総計n個)の長さA1〜Anを測定する。得られたL及びA1〜Anに基づいて、各領域(合計5つ)における粒界被覆率(%)を、以下の式(A)に基づいて求める。得られた5つの粒界被覆率の平均を、粒界被覆率(%)と定義する。
粒界被覆率=(A1+A2+A3+・・・+An)/L・・・(A)
【0069】
本実施形態において粒界に析出する析出物は、主として金属間化合物である。ただし、粒界被覆率を算出するにあたっては、金属間化合物に加え、炭化物、硼化物等、何等かの析出物によって覆われていれば、上記の式(A)において、析出物によって覆われた粒界部分として計算する。
【0070】
[製造方法]
本実施形態によるNi基耐熱合金の製造方法の一例を説明する。以下では、Ni基耐熱合金管の製造方法を説明する。
【0071】
初めに、上記化学組成を有する素材を準備する。素材は中空ビレットである。中空ビレットは例えば、機械加工又は竪型穿孔により製造される。中空ビレットに対して熱間押出加工を実施する。
【0072】
熱間押出加工の一例として、ユジーン・セジュルネ法による熱間押出加工について説明する。初めに、中空ビレットを加熱する。加熱された中空ビレットを熱間押出装置のコンテナ内に収容する。コンテナに収容された中空ビレットの心孔にマンドレルを挿入し、中空ビレットをステムにより前方に押し出す。コンテナの前方にはダイが配置される。ステムにより前方に押し出された中空ビレットは、ダイとマンドレルとの間から管状に押し出される。以上の熱間押出加工により、Ni基耐熱合金の合金管が製造される。熱間押出加工後の合金管に対してさらに、冷間圧延及び/又は冷間抽伸といった冷間加工を実施してもよい。
【0073】
製造した合金管を、溶体化熱処理する。溶体化熱処理は、具体的には、合金管を1000〜1200℃に均熱することによって実施する。保持時間は特に限定されないが、例えば、1〜2時間である。
【0074】
溶体化処理された合金管に対し、第1時効熱処理を実施する。第1時効熱処理は、具体的には、合金管を750〜950℃で均熱することによって実施する。保持時間は、合金管の化学組成及び均熱温度に依存するが、例えば2〜400時間である。Ni基合金の各元素の含有量が上述の範囲であり、かつ、Nb含有量とMo含有量が式(1)を満たしていれば、第1時効熱処理によって粒界に主として金属間化合物が析出する。このとき、粒界被覆率が70%以上となるように、均熱温度及び保持時間を調整する。
【0075】
第1時効熱処理によって、γ’相も同時に形成される。ただし、第1時効熱処理の条件、及びNi基合金の化学組成によっては、γ’相が析出しなかったり、析出量が不十分であったりする場合がある。その場合、上記の第1時効熱処理を実施した後、γ’相を析出させるために第2時効熱処理を実施しても良い。第2時効熱処理は、任意の工程である。すなわち、第1時効熱処理によって粒内にγ’相が十分に析出している場合には、第2時効熱処理を実施しなくても良い。
【0076】
第2時効熱処理は、具体的には、第1時効熱処理された合金管を、650〜850℃で均熱することによって実施する。第2時効熱処理は、γ’相の体積分率が10〜25vol.%となるように、均熱温度及び保持時間を調整する。
【0077】
上記ではNi基耐熱合金として、合金管の製造方法を説明した。しかしながら、Ni基耐熱合金は、管以外の形状に製造されてもよい。例えば、Ni基耐熱合金は、板であっても良い。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0079】
表1及び表2に示す化学組成を有する合金1〜30及び合金A〜Sを製造した。合金1〜30及び合金A〜SのC含有量は、いずれも0.05%未満であった。また、元素の欄の「−」は、その元素が不純物レベルであったことを示す。表1及び表2の「式(1)」の欄には、式(1)の正否を記載した。具体的には、化学組成が式(1)を満たす場合には「○」と記載し、式(1)を満たさない場合には「×」と記載した。なお、表2において、数値の横の「*」は、その値が規定外であることを示している。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
上記の化学組成を有する各合金を高周波真空溶解炉で溶解し、25kgのインゴットを製造した。各インゴットを1160℃に加熱した。加熱されたインゴットを熱間鍛造して、厚さ25mmの板材を製造した。熱間鍛造終了後、板材を空冷した。空冷した板材をさらに熱間鍛造して、厚さ15mmの板材を製造した。
【0083】
厚さ15mmの各板材に対して、表3に示す条件で、溶体化処理及び時効熱処理(第1時効熱処理、又は、第1及び第2時効熱処理)を実施した。表3における「溶体化熱処理温度」の欄には、溶体化熱処理の温度を記載した。「第1時効熱処理温度」の欄には第1時効熱処理の温度を、「第1時効熱処理時間」の欄には第1時効熱処理の保持時間を記載した。「第2時効熱処理温度」の欄には、第2時効熱処理の温度を記載した。同欄の「−」は、第2時効熱処理を実施しなかったことを示す。なお、表3において、数値の横の「*」は、その値が規定外であることを示している。
【0084】
【表3】
【0085】
[クリープ破断試験]
時効熱処理(第1時効熱処理、又は、第1及び第2時効熱処理)を実施した各板材の厚さ方向中心部から、長手方向に平行に、直径が6mmで標点距離が30mmの丸棒引張試験片を機械加工により作製した。作製された丸棒引張試験片を用いて、クリープ破断試験を実施した。
【0086】
クリープ破断試験により、各合金のクリープ強度及びクリープ延性を次のとおり評価した。具体的には、クリープ破断試験を、750℃又は850℃の大気中において、130MPaの荷重で実施し、破断時間及び破断伸びを求めた。さらに、得られた破断時間をLarson−Millerパラメータ(LMP)法で回帰し、得られた値をクリープ強度の指標とした。また、破断伸びをクリープ延性の指標とした。
【0087】
LMPは、次の式(B)で定義される。本試験では、式(B)の係数Cを20とした。
LMP=(273+T)×(log10(t)+C)・・・(B)
ここで、Tは温度(℃)であり、tは破断時間(h)である。
【0088】
既存のNi基合金の中で最も強度及び延性のバランスに優れた合金をAlloy263(Nimonic263)と仮定した。この合金のCreep−rupture sheetに基づいて、850℃、130MPaのLMPを求めたところ、Alloy263のLMPは24700であった。そこで、本試験では、LMP=24700をクリープ強度のしきい値に設定した。
【0089】
[γ’相の体積分率測定試験]
クリープ破断試験前の各試験片に対して、X線回折を実施した。X線の出力電圧・電流は40kV、40mA、ターゲットはCuを使用した。得られたX線回折パターンから、Rietveld法によって構造を最適化し、γ’相の体積分率を求めた。
【0090】
[初期粒界被覆率測定]
クリープ破断試験前の各試験片から、粒界被覆率を求めた。
【0091】
[試験結果]
クリープ破断試験、γ’相の体積分率測定試験、及び初期粒界被覆率測定の結果を前掲の表3に示す。
【0092】
表1及び表3に示すように、合金1〜30の各元素の含有量は適切であり、式(1)を満たし、かつ熱処理条件も適切であった。合金1〜30のγ’相の体積分率はいずれも10〜25vol.%であり、合金1〜30の初期粒界被覆率はいずれも70%以上であった。合金1〜30の破断伸びはいずれも10%以上であり、合金1〜30のLMPはいずれも24700以上であった。
【0093】
合金Aは、破断伸びが10%未満であった。これは、Mo含有量が多すぎたため、あるいはγ’相の体積分率が高すぎたためと考えられる。
【0094】
合金Bは、破断伸びが10%未満であった。これは、Mo含有量が多すぎたためと考えられる。合金Bはまた、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、Nb含有量が少なすぎたためと考えられる。
【0095】
合金Cは、破断伸びが10%未満であった。これは、Mo含有量が多すぎたため、Ti含有量が多すぎたため、あるいはγ’相の体積分率が高すぎたためと考えられる。
【0096】
合金Dは、破断伸びが10%未満であった。これは、Nb含有量が多すぎたため、あるいはγ’相の体積分率が高すぎたためと考えられる。
【0097】
合金Eは、破断伸びが10%未満であった。これは、B含有量が少なすぎたためと考えられる。合金Eはまた、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、Nb含有量が少なすぎたため、あるいは化学組成が式(1)を満たさなかったためと考えられる。
【0098】
合金Fは、破断伸びが10%未満であった。これは、Cr含有量が多すぎたためと考えられる。合金Fはまた、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、化学組成が式(1)を満たさなかったためと考えられる。
【0099】
合金Gは、破断伸びが10%未満であった。これは、Al含有量が多すぎたため、あるいは、γ’相の体積分率が高すぎたためと考えられる。合金Gはまた、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、Al含入量が多すぎたため粒内にγ’相が形成されやすかったためと考えられる。
【0100】
合金Hは、破断伸びが10%未満であった。これは、Cr含有量が少なすぎたため粒界ラーベス相の析出量が少ない一方、粒内γ’相の析出量が多く、粒内変形が困難になったためと考えられる。合金Hはまた、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、Cr含有量が少なすぎたためと考えられる。
【0101】
合金Iは、破断伸びが10%未満であった。これは、Ni含有量が少なすぎたため、すなわち、添加された合金元素の合計量が多く、著しく母相が強化されたためと考えられる。合金Iはまた、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、Ni含有量が少なすぎたためと考えられる。
【0102】
合金Jは、破断伸びが10%未満であった。これは、Co含有量が多すぎたためと考えられる。合金Jはさらに、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、化学組成が式(1)を満たさなかったためと考えられる。
【0103】
合金Kは、LMPが24700未満であった。これは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、化学組成が式(1)を満たさなかったためと考えられる。
【0104】
合金Lは、LMPが24700未満であった。これは、γ’相の体積分率が低すぎたため、あるいは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。γ’相の体積分率が低かったのは、Al含有量が少なすぎたためと考えられる。また、初期粒界被覆率が70%未満であったのは、化学組成が式(1)を満たさなかったためと考えられる。
【0105】
合金Mは、LMPが24700未満であった。これは、Zr含有量が多すぎたため、あるいは、初期粒界被覆率が70%未満であったためと考えられる。初期粒界被覆率が70%未満であったのは、化学組成が式(1)を満たさなかったためと考えられる。
【0106】
合金Nは、破断伸びが10%未満であった。これは、溶体化熱処理温度が高すぎたためと考えられる。
【0107】
合金Oは、破断伸びが10%未満であった。合金Oはまた、LMPが24700未満であった。これらは、溶体化熱処理温度が低すぎたためと考えられる。
【0108】
合金Pは、破断伸びが10%未満であった。合金Pはまた、初期粒界被覆率が70%未満であり、LMPが27000未満であった。これらは、第1時効熱処理温度が高すぎたためと考えられる。
【0109】
合金Qは、破断伸びが10%未満であった。合金Qはまた、初期粒界被覆率が70%未満であり、LMPが24700未満であった。これらは、第1時効熱処理温度が低すぎたためと考えられる。
【0110】
合金Rは、LMPが24700未満であった。これは、γ’相の体積分率が10%未満であったためと考えられる。γ’相の体積分率が低かったのは、第2時効熱処理の温度が高すぎたためと考えられる。
【0111】
合金Sは、破断伸びが10%未満であった。これは、粒内のγ’相の体積分率が10%未満であるのに対し、粒界がラーベス相によって著しく強化されているため、変形困難になったためと考えられる。γ’相の体積分率が低かったのは、第2時効熱処理の温度が低すぎたためと考えられる。
図1