【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、アルミニウム合金塑性加工材及びその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、分散相としてAl
4Ca相を用い、当該Al
4Ca相の結晶構造を適当に制御すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
5.0〜10.0wt%のCaを含み、
残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、
分散相であるAl
4Ca相の体積率が25%以上であり、
前記Al
4Ca相は正方晶のAl
4Ca相と単斜晶のAl
4Ca相からなり、
X線回折測定によって得られる前記正方晶に起因する最大回折ピーク(I
1)と、前記単斜晶に起因する最大回折ピーク(I
2)と、の強度比(I
1/I
2)が1以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金塑性加工材を提供する。
【0011】
Caを添加することでAl
4Caの化合物が形成し、アルミニウム合金のヤング率を低下させる作用を有する。当該効果はCaの含有量が5.0%以上で顕著となり、逆に10.0%を超えて添加されると鋳造性が低下し、特にDC鋳造等の連続鋳造による鋳造が困難となることから、粉末冶金法等の製造コストの高い方法で製造する必要性が生じる。粉末冶金方法で製造する場合、合金粉末表面に形成された酸化物が製品の中に混入してしまい、耐力を低下させる虞がある。
【0012】
本発明のアルミニウム合金塑性加工物においては、分散相として用いるAl
4Ca相の結晶構造は基本的に正方晶であるが、本願発明者が鋭意研究を行ったところ、Al
4Ca相に結晶構造が単斜晶であるものが存在すると耐力があまり低下せず、一方でヤング率は大きく低下することが明らかとなった。ここで、Al
4Ca相の体積率を25%以上とし、X線回折測定によって得られる前記正方晶に起因する最大回折ピーク(I
1)と、前記単斜晶に起因する最大回折ピーク(I
2)と、の強度比(I
1/I
2)が1以下である場合に、耐力を維持しつつヤング率を大きく低下させることができる。
【0013】
また、本発明のアルミニウム合金塑性加工材においては、更に、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、が好ましい。
【0014】
アルミニウム合金にFeを含有させることにより、凝固温度範囲(固液共存領域)が広がることで鋳造性が向上し、鋳塊の鋳肌が改善される。また、Feの分散晶出物により共晶組織を均一にさせる作用もある。当該効果は、Feの含有量が0.05wt%以上で顕著となり、逆に1.0wt%を超えて含有されると共晶組織が粗くなり、耐力を低下させる虞がある。
【0015】
Tiは、鋳造組織の微細化材として作用し、鋳造性、押出性、圧延性を向上させる作用を呈する。当該効果は、Tiの含有量が0.005wt%以上で顕著となり、逆に0.05wt%を超えて添加しても鋳造組織の微細化の効果の増加は期待できず、逆に破壊の起点となる粗大な金属間化合物が生成される虞がある。Tiは鋳造の際に、ロッドハードナー(Al−Ti−B合金)を用いて添加することが好ましい。なお、この際にロッドハードナーとしてTiとともに添加されるBは許容される。
【0016】
更に、本発明のアルミニウム合金塑性加工物においては、前記Al
4Ca相の平均結晶粒径が1.5μm以下であること、が好ましい。Al
4Ca相の平均粒径が大きくなり過ぎるとアルミニウム合金の耐力が低下してしまうが、平均粒径を1.5μm以下とすることで、当該耐力の低下を抑制することができる。
【0017】
また、本発明は、
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl
4Ca相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程と、
100〜300℃の温度範囲で熱処理を施す第二工程と、を有すること、
を特徴とするアルミニウム合金塑性加工材の製造方法も提供する。
【0018】
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl
4Ca相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程の後に100〜300℃の温度範囲で熱処理(第二工程)を施すことで、結晶構造が正方晶であるAl
4Ca相の一部を単斜晶に変化させることができる。
【0019】
第二工程における保持温度を100℃未満とすると正方晶から単斜晶への変化が生じ難く、保持温度を300℃以上とするとアルミニウム母材の再結晶が生じ、耐力が低下する虞がある。なお、熱処理のより好ましい温度範囲は160〜240℃である。また、適切な熱処理時間はアルミニウム合金材の大きさ及び形状等によって異なるが、少なくともアルミニウム合金材自体の温度が保持温度に1時間以上保持されることが好ましい。
【0020】
また、本発明のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法においては、前記アルミニウム合金鋳塊が、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、が好ましい。
【0021】
アルミニウム合金にFeを含有させることにより、凝固温度範囲(固液共存領域)が広がることで鋳造性が向上し、鋳塊の鋳肌が改善される。また、Feの分散晶出物により共晶組織を均一にさせる作用もある。当該効果は、Feの含有量が0.05wt%以上で顕著となり、逆に1.0wt%を超えて含有されると共晶組織が粗くなり、耐力を低下させる虞がある。
【0022】
Tiは、鋳造組織の微細化材として作用し、鋳造性、押出性、圧延性を向上させる作用を呈する。当該効果は、Tiの含有量が0.005wt%以上で顕著となり、逆に0.05wt%を超えて添加しても鋳造組織の微細化の効果の増加は期待できず、逆に破壊の起点となる粗大な金属間化合物が生成される虞がある。Tiは鋳造の際に、ロッドハードナー(Al−Ti−B合金)を用いて添加することが好ましい。なお、この際にロッドハードナーとしてTiとともに添加されるBは許容される。
【0023】
更に、本発明のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法においては、前記第一工程の前に、400℃以上の温度に保持する熱処理を行わないこと、が好ましい。
【0024】
一般的に、アルミニウム合金を製造する場合、鋳塊を塑性加工する前に400〜600℃の間に保持する均質化処理を行うが、当該均質化処理を行うとアルミニウム合金に含まれるAl
4Ca相が大きくになりやすく、平均粒径が1.5μmより大きくなってしまう。当該平均粒径の増大により耐力が低下するため、保持温度が400℃以上となる均質化処理は行わないことが好ましい。