特許第6341420号(P6341420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341420
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】フライホイール
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/30 20060101AFI20180604BHJP
   F16H 33/02 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   F16F15/30 B
   F16H33/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-176223(P2014-176223)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-50626(P2016-50626A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137062
【弁理士】
【氏名又は名称】五郎丸 正巳
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高畑 良一
(72)【発明者】
【氏名】西崎 勝利
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−210748(JP,A)
【文献】 特開平11−159579(JP,A)
【文献】 特開2010−159773(JP,A)
【文献】 米国特許第4413860(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
F16H 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸線を中心に回転して慣性エネルギーを蓄えるためのフライホイールであって、
大径部と、前記大径部から前記回転軸線の軸方向に突出する、前記大径部よりも小径の小径部とを有する第1のリング部材と、
前記小径部に外嵌された第2のリング部材とを含み、
前記第1のリング部材の周方向の剛性は、前記第2のリング部材の周方向の剛性よりも、低く設定されている、フライホイール。
【請求項2】
前記第1のリング部材は、周方向に垂直な分割面によって周方向に分割された複数の分割体により構成されており、
少なくともフライホイールの回転時において、前記複数の分割体は、前記第2のリング部材によって束ねられる、請求項1に記載のフライホイール。
【請求項3】
前記第1のリング部材は、繊維強化プラスチックを用いて形成されており、当該繊維強化プラスチックの強化繊維の配向方向は、当該第1のリング部材の径方向である、請求項1または2に記載のフライホイール。
【請求項4】
前記第2のリング部材は、繊維強化プラスチックを用いて形成されており、当該繊維強化プラスチックの強化繊維の配向方向は、当該第2のリング部材の周方向である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフライホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライホイールバッテリー装置等に搭載され、回転して慣性エネルギーを蓄えるためのフライホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気エネルギーをフライホイールの回転慣性エネルギーに変換し、貯蔵するフライホイールバッテリー装置が知られている。
フライホイールの高速回転時に生じる遠心力に耐用できるように、フライホイールの材質として、比強度(材料強度を密度で割った値)の高い材料が求められる、また、高い重量エネルギー密度を実現するためには、フライホイールのうちエネルギーに対する寄与度の小さい部分を除去することが望ましい。
【0003】
そのため、従来から、中空円筒体をなし、かつ炭素繊維強化プラスチック(carbon-fiber-reinforced plastic:CFRP)等の繊維強化プラスチックを用いて形成されたフライホイールが提案されている(下記特許文献1参照)。特許文献1に記載のフライホイールは、フライホイールは一体部材として構成されており、また、繊維強化プラスチックの補強繊維が周方向(すなわち、フライホイールの回転方向)に配向している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−267402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フライホイールバッテリー装置の重量エネルギー密度は、フライホイールの最外周速度に依存している。そのため、フライホイールのエネルギー密度を高めるためには、フライホイールを可能な限り高速で回転させることが望ましい。
しかしながら、フライホイールの回転速度を大きくすると、フライホイールの回転による遠心力を受けてフライホイールが外周側に膨張し、これに伴って、フライホイールの内部に大きな歪が発生するおそれがある。その結果、フライホイールの内部に大きな応力が発生するおそれがある。
【0006】
本願発明者らは、フライホイールのより一層の高速化(たとえば、フライホイールの最外周速度を、現状の約800(m/sec)から1500(m/sec)以上に高速化)を検討している。しかし、特許文献1に示すような中空円筒体の一体部材からなるフライホイールを、このような高速で回転させると、フライホイール内に発生する応力の大きさが材料強度を超過してしまい、実際には、このような高速化を実現できない、という問題がある。したがって、本願発明者らは、フライホイールの構造を工夫することにより、フライホイールの回転時に内部に発生する応力の低減を図ることを検討している。
【0007】
そこで、本発明の目的は、フライホイールの回転時に内部に発生する応力の低減を図ることができ、これにより、より高速な回転を実現可能なフライホイールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、所定の回転軸線(2)を中心に回転して慣性エネルギーを蓄えるためのフライホイール(1;31;41)であって、大径部(5;45)と、前記大径部から前記回転軸線の軸方向(z)に突出する、前記大径部よりも小径の小径部(6;46,47)とを有する第1のリング部材(3;23;33;43)と、前記小径部に外嵌された第2のリング部材(4;44)とを含み、前記第1のリング部材の周方向(θ)の剛性は、前記第2のリング部材の周方向(θ)の剛性よりも、低く設定されている、フライホイールを提供する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記第1のリング部材は、周方向(θ)に垂直な分割面(7A;27A)によって周方向(θ)に分割された複数の分割体(7;27)により構成されており、前記複数の分割体は、前記第2のリング部材によって束ねられている、請求項1に記載のフライホイールである。
請求項3に記載の発明は、前記第1のリング部材は、繊維強化プラスチックを用いて形成されており、当該繊維強化プラスチックの強化繊維の配向方向は、当該第1のリング部材の径方向(r)である、請求項1または2に記載のフライホイールである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記第2のリング部材は、繊維強化プラスチックを用いて形成されており、当該繊維強化プラスチックの繊維の配向方向は、当該第2のリング部材の周方向(θ)である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフライホイールである。
なお、以下の説明において、「応力の周方向成分」を「周方向の応力」と言い、「応力の径方向成分」を「径方向の応力」と言う。
【0011】
また、前記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、フライホイールを、第1のリング部材と第2のリング部材とを組み立てた組立品により構成している。
フライホイールを構成する第1のリング部材の周方向の剛性が低い。そのため、フライホイールの回転時に内部に発生する周方向の応力の低減を図ることができる。半面、第1のリング部材の周方向の剛性を低下させることにより、第1のリング部材の周方向の剛性が高い場合と比較して、フライホイールの回転時に、フライホイールの回転による遠心力の影響を受け易く、それゆえ、径方向の外方に大きく膨張するおそれがある。フライホイールの膨張量が大きいと、フライホイールの内部の歪が大きくなり、回転状態にあるフライホイールの内部に発生する周方向および径方向の応力が増大するおそれがある。
【0013】
請求項1では、第1のリング部材の小径部に、第1のリング部材よりも周方向の剛性が高い第2のリング部材が外嵌されている。これにより、第1のリング部材の径方向の外方への膨張を抑制でき、その結果、フライホイール1の回転時に内部に発生する周方向および径方向の応力の低減を図ることができる。また、第2のリング部材を小径部に外嵌することにより、第1のリング部材の周方向の剛性を低く設ける場合であっても、フライホイール全体の周方向の剛性を高めることができる。
【0014】
さらに、小径部に外嵌する第2のリング部材が大径部よりも小径であるので、フライホイールの回転時に第2のリング部材に作用する遠心力を抑制できる。これにより、第2のリング部材の膨張を抑制でき、その結果、第2のリング部材に起因して、フライホイールの内部に発生する周方向の応力が増大するのを防止できる。
以上により、フライホイールの回転時に内部に発生する応力の低減を図ることができ、これにより、より高速な回転を実現可能なフライホイールを提供できる。
【0015】
請求項2の構成によれば、第1のリング部材が、複数の分割体によって構成されている。第1のリング部材を周方向に分割することにより、第1のリング部材全体の周方向の剛性の低減をより一層図ることができる。これにより、周方向の剛性が低減された第1のリング部材を、比較的簡単な構成で実現できる。
また、複数の分割体が、第2のリング部材によって束ねられている。そのため、第1のリング部材を構成する複数の分割体が互いに離散するのを防止できる。
【0016】
請求項3の構成によれば、第1のリング部材の強化繊維の配向方向がフライホイールの径方向であるので、第1のリング部材は、径方向の剛性および強度は高いが、周方向の剛性および強度は低い。したがって、第1のリング部材の周方向の剛性の低減を図ることができる。これにより、周方向の剛性が低減された第1のリング部材を、比較的簡単な構成で実現できる。
【0017】
請求項4の構成によれば、第2のリング部材の強化繊維の配向方向がフライホイールの周方向であるので、第2のリング部材の周方向の剛性および強度が高い。そのため、フライホイールの高速回転時に、フライホイールの高速回転時における第1のリング部材の膨張を、効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係るフライホイールの構成を示す分解斜視図である。
図2】前記フライホイールの断面図である。
図3】前記フライホイールに含まれる分割体の構成を示す斜視図である。
図4】前記分割体に含まれる炭素繊維プリプレグの構成を示す図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係るホイールリングに含まれる分割体の構成を示す斜視図である。
図6】本発明の第3の実施形態に係るフライホイールの構成を示す分解斜視図である。
図7】本発明の第4の実施形態に係るフライホイールの断面図である。
図8】第1の試験の結果の要部を拡大して示すグラフである。
図9】第1の試験の結果を示すグラフである。
図10図9の要部を拡大して示すグラフである。
図11】第2の試験の結果を示すグラフである。
図12】第2の試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るフライホイール1の構成を示す分解斜視図である。図2は、フライホイール1の断面図である。図3は、フライホイール1に含まれる分割体7の構成を示す斜視図である。図4は、分割体7に含まれる炭素繊維プリプレグ8の構成を示す図である。
【0020】
フライホイール1は、中空の略円盤状をなしており、フライホイールバッテリー装置(図示しない)に搭載されている。フライホイールバッテリー装置において、フライホイール1は、水平姿勢で、たとえば鉛直な回転軸線2まわりに回転可能に設けられている。フライホイール1の中空部分には、回転軸線2に沿って延びる回転軸(図示しない)や、電装部品等の部品が収容されている。フライホイール1の中空部分に部品が収容されているので、フライホイールバッテリー装置のコンパクト化が図られている。
【0021】
以降の説明において、回転軸線2の軸方向を、軸方向zとする。また、フライホイール1の径方向を、径方向rとする。径方向rは、フライホイール1の回転半径方向と一致する。さらに、フライホイール1の周方向を、周方向θとする。周方向θは、フライホイール1の、回転軸線2まわりの回転方向と一致する。
フライホイール1は、1つのホイールリング(第1のリング部材)3と、ホイールリング3とは別体の2つのバンド(第2のリング部材)4との組立品により構成されている。ホイールリング3は、回転軸線2に対し垂直な姿勢(水平姿勢)に保持された円盤状の大径部5と、大径部5の両主面(上下面)のそれぞれに一体に設けられた合計2つの円筒状の小径部6とを含む。大径部5の外径は、たとえば約600(mm)に設定されており、小径部6の外径(たとえば約240(mm))の約2.5倍の大きさに設定されている。大径部5および2つの小径部6は同軸を有し、かつ互いに同一の内径(たとえば約150(mm))を有している。各小径部6には、バンド4が1つずつ外嵌される。
【0022】
ホイールリング3は、繊維強化プラスチックの一例であるCFRPを用いて形成されている。ホイールリング3の炭素繊維の配向方向は、主として径方向rである。すなわち、ホイールリング3の炭素繊維は、軸方向zや周方向θには配向していない。そのため、ホイールリング3は、径方向rに高剛性および高強度を有し、周方向θに低剛性および低強度を有している。
【0023】
ホイールリング3は、周方向θに複数等分(図1では、たとえば24等分)に分割されている。換言すると、ホイールリング3は、周方向θに垂直な分割面7A(図3参照)によって周方向θに分割され、その結果、複数(図1では、たとえば24つ)の分割体7によって構成されている。ホイールリング3を周方向θに分割することにより、ホイールリング3全体の周方向θの剛性の低減をより一層図ることができる。これにより、周方向θの剛性が低減されたホイールリング3を、比較的簡単な構成で実現できる。
【0024】
図3および図4に示すように、各分割体7は、プリプレグ法を用いて形成されている。具体的には、分割体7は、炭素繊維プリプレグ8を周方向θに積層することにより形成されている。各炭素繊維プリプレグ8は、炭素繊維にマトリックス樹脂(たとえば、エポキシ樹脂)が含浸されたシート状のものであり、分割体7の径方向rに沿う断面形状に整合する凸状を有している。各炭素繊維プリプレグ8の炭素繊維の配向方向は、図4に示すように、炭素繊維プリプレグ8の長手方向のみである。炭素繊維プリプレグ8を周方向θに一方向積層した後、マトリックス樹脂(たとえば、エポキシ樹脂)で硬化することにより、図3に示す分割体7が得られる。これにより、炭素繊維が径方向rのみに配向するCFRPからなる分割体7を、比較的簡単な構成で得ることができる。
【0025】
図1に示すように、各バンド4は、円筒状をなしている。バンド4の軸方向zの長さは、小径部6の軸方向zの長さと同等に設定されている。バンド4の内径は、小径部6と略同等に設定されている。
各バンド4は、CFRPを用いて形成されている。バンド4の炭素繊維の配向方向は、主として周方向θである。すなわち、バンド4の炭素繊維は、軸方向zや径方向rにはほとんど配向していない。そのため、バンド4は、周方向θに高剛性および高強度を有し、径方向rに低剛性および低強度を有している。バンド4は、樹脂を含浸させたトウ(多数のフィラメントから構成される長繊維束で撚りのないもの)を、円筒や圧力容器の型に巻きつけた後硬化させる、いわゆるフィラメントワインディング法を用いて形成されている。
【0026】
フライホイール1の作成時には、全ての分割体7を周方向θに並べてリング体を形成する。これにより、ホイールリング3の大径部5および2つの小径部6が形成される。その後、2つの小径部6にそれぞれバンド4を外嵌する。この状態において、小径部6の外周面10が、バンド4の内周面9に当接するか、あるいは内周面9と微小間隔を隔てて対向している。
【0027】
フライホイールバッテリー装置(図示しない)では、フライホイール1を回転軸線2まわりに極めて高速(たとえば、フライホイール1の最外周速度が1200(m/sec)以上(たとえば約1500(m/sec)))で回転させる。このときのフライホイール1の重量エネルギー密度は、約200(Wh/kg)である。このような高速回転状態では、フライホイール1の回転に伴う遠心力を受けて、ホイールリング3の小径部6が径方向rの外方に膨張し、小径部6の外周面10が、小径部6に外嵌されているバンド4の内周面9に圧接する。そして、ホイールリング3のそれ以上膨張の膨張が、バンド4によって抑制または阻止される。小径部6の外周面10がバンド4の内周面9に圧接されることにより、バンド4が複数の分割体7を束ねるようになる。そのため、ホイールリング3を構成する複数の分割体7が互いに離散するのが防止される。
【0028】
以上により、第1の実施形態によれば、フライホイール1を、ホイールリング3とバンド4とを組み立てた組立品により構成している。ホイールリング3は、周方向θの剛性が低く、かつ径方向rの剛性が高い。
フライホイール1を構成するホイールリング3の周方向の剛性が低い。そのため、フライホイール1の回転時に内部に発生する周方向θの応力の低減を図ることができる。半面、ホイールリング3の周方向θの剛性を低下させることにより、ホイールリング3の周方向θの剛性が高い場合と比較して、フライホイール1の回転時に、フライホイール1の回転による遠心力の影響を受け易く、それゆえ、径方向rの外方に大きく膨張するおそれがある。フライホイール1の膨張量が大きいと、フライホイール1の内部の歪が大きくなり、回転状態にあるフライホイール1の内部に発生する周方向θおよび径方向rの応力が増大するおそれがある。
【0029】
この実施形態では、ホイールリング3の小径部6に、ホイールリング3よりも周方向θの剛性が高いバンド4が外嵌されている。これにより、ホイールリング3の径方向rの外方への膨張を抑制でき、その結果、回転状態にあるフライホイール1の内部に発生する周方向θおよび径方向rの応力の低減を図ることができる。また、バンド4を小径部6に外嵌することにより、ホイールリング3の周方向θの剛性を低く設ける場合であっても、フライホイール1全体の周方向θの剛性を高めることができる。
【0030】
さらに、小径部6に外嵌するバンド4が大径部5よりも小径であるので、フライホイール1の回転時にバンド4に作用する遠心力を抑制できる。これにより、バンド4の膨張を抑制でき、その結果、バンド4に起因して、フライホイール1の内部に発生する周方向θの応力が増大するのを防止できる。
また、ホイールリング3が、周方向θに分割された複数の分割体7によって構成されているので、ホイールリング3全体の周方向θの剛性の低減を図ることができる。これにより、ホイールリング3全体の周方向θの剛性の低減を図ることができる。
【0031】
以上により、フライホイール1の回転時に内部に発生する応力の低減を図ることができ、これにより、より高速な回転を実現可能なフライホイール1を提供できる。
また、バンド4の炭素繊維の配向方向が周方向θであるために、バンド4の周方向θの剛性および強度が高いので、フライホイール1の高速回転時におけるホイールリング3の膨張を、バンド4によって効果的に抑制できる。
【0032】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るホイールリング(第1のリング部材)23に含まれる分割体27の構成を示す斜視図である。
ホイールリング23は、周方向θに複数等分(たとえば24等分)に分割されている。換言すると、ホイールリング23は、周方向θに垂直な分割面27Aによって周方向θに分割され、その結果、複数(たとえば24つ)の分割体27によって構成されている。
【0033】
第2の実施形態に係る分割体27が、第1の実施形態に係る分割体7(図1等参照)と相違する点は、プリプレグ法により分割体が形成されているのではなく、他の手法を用いて分割体が形成されている点である。
分割体27は、三次元炭素繊維織物より構成されている。具体的には、分割体27は、炭素繊維を収束加工(カバリング加工)し、その糸で製織した炭素繊維織物を複数枚積層し、画像処理縫合方法により面内糸により縫合した後、精練加工することにより得られる。
【0034】
三次元炭素繊維織物により形成された分割体27は、分割体7と同様、炭素繊維の配向方向が径方向rになるように設けられている。分割体27は、炭素繊維を収束加工(カバリング加工)し、その糸で製織した炭素繊維織物を複数枚積層し、画像処理縫合方法により面内糸により縫合した後、精練加工することにより得られる。
第2の実施形態によれば、第1の実施形態に関連して記載した作用効果と同等の作用効果を奏する。
【0035】
また、第1および第2の実施形態において、分割体7,27が、リング体を周方向θに24等分した構成を例に挙げたが、等分の数は「24」に限られず、たとえば「2」、「3」、「4」、「6」、「12」等の他の数であってもよい。また、等分するものでなく、リング体を不等分に分割することにより、分割体が形成されてもよい。
図6は、本発明の第3の実施形態に係るフライホイール31の構成を示す分解斜視図である。第3の実施形態において、第1の実施形態と共通する部分には図1の場合と同一の参照符号を付し説明を省略する。
【0036】
第3の実施形態に係るフライホイール31が、第1および第2の実施形態に係るフライホイール1と相違する点は、ホイールリング3,23(図1および図5等参照)に代えて、ホイールリング33を備えた点である。ホイールリング33は、複数の分割体により構成されてはおらず、一体部材により構成されている。ホイールリング33も、ホイールリング3,23と同様、炭素繊維の配向方向が径方向rになるように設けられている。ホイールリング33は、ホイールリング23に含まれる分割体27と同様、三次元炭素繊維織物により構成されている。具体的には、ホイールリング33は、炭素繊維を収束加工(カバリング加工)し、その糸で製織した炭素繊維織物を複数枚積層し、画像処理縫合方法により面内糸により縫合した後、精練加工することにより得られる。
【0037】
第3の実施形態によれば、分割体7に関連する作用効果を除き、第1の実施形態に関連して記載した作用効果と同等の作用効果を奏する。
図7は、本発明の第4の実施形態に係るフライホイール41の断面図である。
第4の実施形態に係るフライホイール41が、第1〜第3の実施形態に係るフライホイール1(図1等参照)と相違する点は、複数(この実施形態では、2つ)の大径部を備える点である。
【0038】
フライホイール41は、フライホイール1(図1参照)を2つ、軸方向zに並置し互いに接合したものと同等の構成である。具体的には、フライホイール41は、1つのホイールリング(第1のリング部材)43と、ホイールリング43とは別体の3つのバンド(第2のリング部材)44との組立品により構成されている。
ホイールリング43は、軸方向zに所定間隔を隔てて配置された2つの円盤状の大径部45と、2つの大径部45の間に、当該大径部45と一体に設けられた円筒状の第1の小径部46と、上側の大径部45の上側および下側の大径部45の下側に、当該大径部45と一体に設けられた、円筒状の2つの第2の小径部47とを含む。2つの大径部45は、回転軸線2に対し垂直な姿勢(水平姿勢)に保持されており、同一の諸元を有している。2つの第2の小径部46は、同一の諸元を有している。第1および第2の小径部46,47は、互いに同一の外径を有している。各大径部45の外径は、たとえば約600(mm)に設定されており、小径部46,47の外径(約240(mm))の約2.5倍の大きさに設定されている。大径部45および各小径部46,47は同軸を有し、かつ互いに略同一の内径(約150(mm))を有している。なお、図7では、第1の小径部46の軸方向zの寸法は、第2の小径部47の軸方向zの寸法の約2倍に設定されている。
【0039】
バンド44は、第1の小径部46に外嵌される中間バンド51と、各第2の小径部47に1つずつ外嵌される合計2つの端部バンド52とを含む。中間バンド51および端部バンド52の軸方向zの長さは、それぞれ、第1および第2の小径部46,47の長さと同等に設定されている。中間バンド51および端部バンド52の内径は、それぞれ、第1および第2の小径部46,47の外径と同等に設定されている。そのため、中間バンド51および端部バンド52をそれぞれ第1および第2の小径部46,47に外嵌した状態では、小径部46,47の外周面が、それぞれ、中間バンド51および端部バンド52の内周面に接するか、あるいはこれら内周面と微小間隔を隔てて対向している。
【0040】
この場合、バンド51,52(中間バンド51および端部バンド52)は、CFRPを用いて形成されている。バンド51,52は、バンド4(図1等参照)と同様、その炭素繊維の配向方向が、主として、周方向θのみであり、そのため、バンド4は、周方向θに高剛性および高強度有し、径方向rに周方向θに低剛性および低強度を有している。バンド51,52は、いわゆるフィラメントワインディング法を用いて形成されているが、このうち中間バンド51は、第1の小径部46の外周面に、樹脂を含浸させたトウを直接巻き付けることにより形成されている。
【0041】
第4の実施形態によれば、第1の実施形態に関連して記載した作用効果と同等の作用効果を奏する。
次に第1および第2の試験について説明する。
<第1の試験>
第1の試験では、第1の実施形態のフライホイール1を、回転軸線2まわりに高速回転させた場合における、内部に発生する応力を、有限要素法(FEM)による解析にて求めた。第1の試験では、「2」、「3」、「4」、「6」、「12」、「24」に等分分割されたホイールリング3を有するフライホイール1を演算対象とした。また、分割されていないホイールリング(すなわち、ホイールリング33)を有するフライホイール31も演算対象とした。また、第1の試験では、各ホイールリング3,33の内径寸法を150(mm)とし、その外径寸法を500(mm)とし、その軸方向zの寸法を200(mm)とした。各フライホイール1,31の回転速度を60000(rpm)(この場合の最外周速度は、1570(m/sec))に設定した。
【0042】
以上の条件で、ホイールリング3,33内の軸方向zの中央位置における、応力の面内分布を演算により求めた。ホイールリング3,33内の径方向rの応力の面内分布を図8および図9に示し、ホイールリング3,33内の周方向θの応力の面内分布を図10に示す。図8図10では、径方向位置の基準(すなわち「零」)を、回転軸線2としている。なお、フライホイール31についての演算結果は、図8図10において「分割なし」で表している。
【0043】
図8に示す結果からは、ホイールリング3,33の分割数の如何に拘らず、ホイールリング33内に発生する径方向rの応力が、全ての径方向位置において強度上限値を下回っていることがわかる。
一方、図9に示す結果からは、ホイールリング3,33の分割数の増加に従って、ホイールリング3,33内に発生する周方向θの応力が低減していることがわかった。これは、分割数の増大に従って、ホイールリング3,33内に発生する周方向θの応力が低減していることが原因であることが考えられる。とくに、分割数が「12」および「24」である場合に、低い周方向θの応力を実現でき、全ての径方向位置において強度上限値を下回っていることがわかった。なお、バンド4に周方向θの応力が発生するために、分割数を「24」より増大させても、更なる周方向θの応力の低減は図れないものと思料する。
<第2の試験>
第2の試験では、第3の実施形態のフライホイール31を、回転軸線2まわりに高速回転させた場合における、フライホイール31内に発生する応力を、有限要素法(FEM)による解析にて求めた。第1の試験では、ホイールリング33の内径寸法を150(mm)とし、その外径寸法を600(mm)とし、その軸方向zの寸法を200(mm)とした。フライホイール31の回転速度を50000(rpm)(この場合の最外周速度は、約1570(m/sec))に設定した。
【0044】
以上の条件で、ホイールリング33内の軸方向zの中央位置の、応力の面内分布を演算により求めた。ホイールリング33内の径方向rの応力の面内分布を図11に示し、ホイールリング33内の周方向θの応力の面内分布を図12に示す。図11および図12では、径方向位置の基準(すなわち「零」)を、回転軸線2としている。
図11に示す結果からは、ホイールリング33の分割数の如何に拘らず、ホイールリング33内に発生する径方向rの応力が、全ての径方向位置において強度上限値を下回っていることがわかる。
【0045】
一方、図12に示す結果からは、低い周方向θの応力を実現できるものの、径方向位置によっては、周方向θの応力の値が高くなる箇所があることもわかった。
以上、この発明の4つの実施形態について説明したが、この発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、第4の実施形態において、2つの大径部45を備える構成を例に挙げて説明したが、大径部45を3個以上備える構成であってもよい。
【0046】
また、繊維強化プラスチックとして、CFRPが好適である。しかし、炭素繊維以外の繊維、たとえばガラス繊維、ボロン繊維、アラミド繊維等を強化繊維として含む繊維強化プラスチックを、本願のホイールリング3,23,33,43および/またはバンド4,44の母材として用いてもよい。
繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として、エポキシ樹脂を例に挙げたが、その他、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、マレイミド樹脂、アクリル樹脂等を、マトリックス樹脂として用いることができる。
【0047】
その他、特許請求の範囲内で種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…フライホイール、2…回転軸線、3…ホイールリング(第1のリング部材)、4…バンド(第2のリング部材)、5…大径部、6…小径部、7…分割体、23…ホイールリング(第1のリング部材)、27…分割体、31…フライホイール、33…ホイールリング(第1のリング部材)、41…フライホイール、43…ホイールリング(第1のリング部材)、44…バンド(第2のリング部材)、45…大径部、46…第1の小径部(小径部)、47…第2の小径部(小径部)、r…径方向、z…軸方向、θ…周方向
図1
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図12